「T-0 14」(2008/04/06 (日) 19:18:43) の最新版変更点
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#navi(T-0)
「ふう……。『情熱』が激しいのも、少し考えものね」
燃えるような紅い髪を上品な動作で掻き揚げ、石畳式の長い廊下をキュルケは歩いていた。
ばつの悪そうにはぁと熱もった息を吐くも、その足取りは軽く、体の調子はいつも通り上々としている。
キュルケは今しがた、傾いた『情熱』によってお付き合いしている男たちを、軽くあしらって来た所だ。
朝っぱらからペリッソン、続いてスティックス。
その後もマニカン、エイジャックス、ギムリ――みな『情熱』もとい、キュルケに絡めとられ、
魅了されていた者たち――と、
絶え間なく迫る男たちをキュルケは闘牛士のようにひらりひらりとかわしてきていた。
キュルケに対して高まった好意と方向性の違いゆえに、物言いにしろ態度にしろしつこい奴もいて
なかなかあしらうのに苦労した。結果、久しぶり――と言うほどでもないけれど、気分的には結構疲れていた。
部屋に戻って一息つけると気持ちを建て直し、探し物を見つけに学院内をぶらぶらと歩き回った。
せっかくの虚無の曜日。自分の好きなことに時間を潰さねばもったいないのは自明の理。
男たちにとっては残念無念だろうが、男たちは今のキュルケにとって、どうでもいい存在なのだった。
さて――そんなキュルケが探しているものとは、あの小生意気で可愛げある『ゼロのルイズ』だった。
理由はごく単純。今日のキュルケは男たちと戯れるよりも、あの小生意気なライバルで遊ぶことが楽しいと思ったからだ。
正直、付き合っている男達には誰も彼も『情熱』が醒め始めていた。暇そうにする自分を見て、
彼らが口々にするのは「どうしたんだい、キュルケ? 悩ましげな顔をする君も素敵さ」と青臭いセリフ全般。
誰も彼も言うことが同じで――厳密に言えばそれぞれ少しずつ違うのだが、
キュルケには全てそう聞こえている――、誰一人としてこちらの本心的な気分や気持ちを理解しようとしてくれないのだ。
つまらないわ、同じ種類の『情熱』なんていくつもいらない。
……しかし、男達を考えから省くと、どうしても消去法で浮かぶのがあの小生意気なライバルだった。
勤勉で、努力家で、口減らずで、
コトあるごとに突っかかってきてあたしと競い合おうとする。
……なんと可愛いことだろうか。
ルイズは本当に鼻につくようなセリフも吐かないし、見栄は張るけど下手にかっこつけたりしない。
どんなことにも真っ直ぐな心で一生懸命に挑み、そして失敗す(敗れ)る。
そんなルイズの様が、キュルケには『対等と思っているつもりだけど、
どう見ても憧れの存在に近づきたいから一生懸命背伸びしてる子供』にしか見えなかった。
喜怒哀楽がコロコロ激しく入れ替わり、いつも違った状況を生み出してくれるから見ていて飽きない。
それに、それがまた、なにより可愛いかったりする。
涙目で悔しがる顔は母性本能というものを刺激し、『情熱』とは違う胸のときめきを教えてくれるのだ。
それに……、キュルケの気掛かりとなっている唯一の男は、今彼女のそばにいるはずなのだ。
考えをまとめた彼女が真っ先に向かったところは、隣にあるルイズの部屋だった。
呼んでも返事が無く、閉じられた扉をアンロックで開けると朝日の差し込む静かな部屋だけがキュルケを迎えた。
一目でルイズも『あの男』も部屋にいないと悟った。財布が置き去りにされてるから出かけたわけではないようだけど、
まぁ、すぐに見つかるでしょう。
「のう、ホントのホントのホントーにっ! 覚えとらんのか?」
「…………」
オスマンが何度促しても、ターミネーターは何の反応も示さない。
戸惑った様子も無く、首を捻る事もせず、一切の感情をどこかに置き忘れた廃人のように
無関心で濁りのない目をオスマンに向けている。
――だが、仮に彼が人間である――もしくは、人と同様の感情を持っていた――としたら、
執拗に疑問を投げかける目の前の老人に対し、一種の呆れとある種の不安を心の奥に抱いているところだった。
しかし、そんなターミネーターの内面までは読み取れず、
オスマンはたっぷり三十秒は何らかの反応を待っていたのだが、
外見上何時までたっても変化の無い状況に飽きたのか呆れたのか、
腕を組んでむーっと唸ると椅子の背にもたれかかった。
「聞いとるかね? 私のこと――」
「答えていいと、許可が出ていない」
「?」
ターミネーターが短く言い、言葉を遮った。
オスマンははじめ言葉の意味がわからずしばらくの間頭をかしげていたが、
思い当たる節を頭に浮かべると息をつき、部屋の扉へと視線を移した。
「……なるほど、わかった。そこにいるんじゃろ? 出てきなさいミス・ヴァリエール」
扉が開いた先に、してやったり! とでも言いたそうな、満足感溢れる顔のルイズが立っていた。
彼女は扉の向こうで先ほどのやりとりを聞いたときから、きっとこんな顔をしていたんだろう。
『彼はミス・ヴァリエールの言うことしか聞かない』。かつての経験から分かっていたことだが、
まさかここまで素直に従うとは考えが及ばなかった。
ミス・ヴァリエールは、この部屋を出たときからこうやって堂々と話を聞くことが狙いだったのだろう。
いたずらっぽく微笑むルイズを見て、オスマンは思った。
ルイズはターミネーターの隣に並ぶと、オスマンを意識してやはり堂々と胸を張った。
「では、改めて聞こう。君は私と――会ったことがあるかな?」
ターミネーターは一回ルイズを見て、彼女が頷いたのを確認してからオスマンへ向きなおした。
「ない。会うのは初めてだ」
と短く、機械的に言った。
オスマンは何が感慨深いのか、浅く目を閉じて体を横に回すと2、3回うん、うんと頷いた。
彼が一体何を考えているのか見当がつかず、ルイズはもちろん、ターミネーターまで軽く首をかしげた。
「突然じゃが――」
それまでの飄々とした態度からは考えられないほどまじめな口調で、
オスマンはゆっくりと口を開いた。
「今から約30年ほど前、私はとある森を散策中にワイバーンに襲われたことがある。
しかも一般的に考えられとる平均よりかなりでかくて凶暴な奴に、じゃ」
「? それがターミネーターと何の関係……」
「まぁ、黙って聞いとりなさい。 そのとき、わしは死を覚悟した。もう助からない、との。
そのときじゃった。わしの前に、いくつかの黒い箱を肩に下げた、黒い服を着た男が現われたのは……」
「黒い服……?」
ルイズはつぶやくと、横目でターミネーターの方を見た。
まだ話は終わっていないけれど、ここまで聞けば『それ』が誰なのか簡単に予想できる。
だが、オスマンは赤子に話しかけるように優しげな声色で、まったくずれた話をルイズに問いかけた。
「ところでミス・ヴァリエール。『銃』というものはご存知かな?」
「そのくらい知っています、オールド・オスマン。
現在銃士隊の基本装備でもある、あの杖みたいに長い、変な筒のコトです」
胸を張ったわけではないが、ルイズは滑らかに言ってのけた。
銃のことは授業じゃあまり習わないけど、ルイズは教科書の内容全てを見ずに言えるほどの勉強をこなしている。
(あたりまえだが)実際の銃は見たこと無いけど、この程度のことならば予備知識として脳の片隅に納めていた。
オスマンが感心したように、小さな拍手を送る。
「そのとーり、そのとーり。ちなみに現段階のハルケギニアの技術では
『銃』はどれも単発式で近距離専門。メイジからしてみても大した脅威ではないわけじゃ」
無邪気に言うと、いつの間にか手に持っていた杖を一振りする。
机の下、ルイズたちの見えない角度から真っ白い布に包み込まれた長い『何か』が現われ、
オスマンが同じように杖を振るとゴトリと鈍い音を一つだけたて、机に降りた。
いきなり出てきたなぞの物体に、ルイズは首をかしげた。
「なんですか、これ?」
好奇心から思わず近寄って、全体をなめるように見まわす。
見た感じ、杖の類を思い出す形状だが、布越しに見える凹凸の多さや
机に降りたときの鈍い音を考えれば、おそらく金属か岩かの硬いものだと思えた。
「マジックアイテムの一種だろうけど……はじめて見るわ。なんだろう、これ……?」
ルイズはオスマンの話の続きも気になっていたが、
目の前の物体はそれ以上に好奇心を刺激してきた。
恐る恐る手を伸ばし、包んである布をとってみようとそれに触れる寸前、
それまでただ突っ立っていただけのターミネーターが急に動き出し、
小さな両手は大きな片手に包まれると、あっけなく止められてしまった。
そして、ルイズが「放して」と命令するよりも速く、
ターミネーターは手を握ったままルイズを押しのけると、物を包んでいる布をもう一方の手で乱暴に剥ぎ取った。
自身を覆うもの失い、あらわになった『物』がルイズの目に飛び込んだ。
『物』は全身真っ黒で、凹凸の多いシルエットは
箱のようなものをいくつか繋ぎ合わせてあるような胴体のせいだとわかった。
箱の先端と思わしき部分から、長さの違う二本の筒が伸びていた。
逆の一番端には、一本の短い棒が延びており、付け根の部分に輪がある。
『物』は若干杖に似てはいるものの――――案の定、見たことも無いものだった。
ターミネーターが『物』の短い棒を握り、私の手を放すとそのまま胴体の出っ張っている部分を掴んだ。
手を持ち上げ、『物』を目線と水平になるように構えると、輪に掛けている人差し指を曲げる。
私は何が起こるのかと一瞬身構えたけど、かちっ、と乾いた音がしただけで、何も起こることは無かった。
ターミネーターにしては珍しく、怒りの篭ったような強い声で言った。
彼は『物』を水平に構えたまま、今度はオスマンに向かってかちりと音を鳴らした。
「それは黒服の男が持っとった、『銃』じゃよ。
彼がワイバーンと格闘した際に落としたものを、私がそのまま持って帰ったんじゃ!」
それまで落ち着いていたオスマンの口調が、
興奮の影響でわずかに高ぶったのをターミネーターは冷静に捕らえた。
……そう、自身のCPUは何時も通りだ。冷静に働き、常に新しい情報を取り入れることで
人間で言うところの『進化』を起こしている。
今回のこの『感情』も、そうやって得た一つの進化であろう。
――彼はロボットが可能な限りの、おそらくは『驚き』を感じていた。
目の前に差し出されたものは、名称を【フランキ・スパス12】という。
疑いようも無く、自分のいた世界の武器。
紛うことなく、『最初のターミネーター』が使用していたショットガンだった。
#navi(T-0)
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「ふう……。『情熱』が激しいのも、少し考えものね」
燃えるような紅い髪を上品な動作で掻き揚げ、石畳式の長い廊下をキュルケは歩いていた。
ばつの悪そうにはぁと熱もった息を吐くも、その足取りは軽く、体の調子はいつも通り上々としている。
キュルケは今しがた、傾いた『情熱』によってお付き合いしている男たちを、軽くあしらって来た所だ。
朝っぱらからペリッソン、続いてスティックス。
その後もマニカン、エイジャックス、ギムリ――みな『情熱』もとい、キュルケに絡めとられ、
魅了されていた者たち――と、
絶え間なく迫る男たちをキュルケは闘牛士のようにひらりひらりとかわしてきていた。
キュルケに対して高まった好意と方向性の違いゆえに、物言いにしろ態度にしろしつこい奴もいて
なかなかあしらうのに苦労した。結果、久しぶり――と言うほどでもないけれど、気分的には結構疲れていた。
部屋に戻って一息つけると気持ちを建て直し、探し物を見つけに学院内をぶらぶらと歩き回った。
せっかくの虚無の曜日。自分の好きなことに時間を潰さねばもったいないのは自明の理。
男たちにとっては残念無念だろうが、男たちは今のキュルケにとって、どうでもいい存在なのだった。
さて――そんなキュルケが探しているものとは、あの小生意気で可愛げある『ゼロのルイズ』だった。
理由はごく単純。今日のキュルケは男たちと戯れるよりも、あの小生意気なライバルで遊ぶことが楽しいと思ったからだ。
正直、付き合っている男達には誰も彼も『情熱』が醒め始めていた。暇そうにする自分を見て、
彼らが口々にするのは「どうしたんだい、キュルケ? 悩ましげな顔をする君も素敵さ」と青臭いセリフ全般。
誰も彼も言うことが同じで――厳密に言えばそれぞれ少しずつ違うのだが、
キュルケには全てそう聞こえている――、誰一人としてこちらの本心的な気分や気持ちを理解しようとしてくれないのだ。
つまらないわ、同じ種類の『情熱』なんていくつもいらない。
……しかし、男達を考えから省くと、どうしても消去法で浮かぶのがあの小生意気なライバルだった。
勤勉で、努力家で、口減らずで、
コトあるごとに突っかかってきてあたしと競い合おうとする。
……なんと可愛いことだろうか。
ルイズは本当に鼻につくようなセリフも吐かないし、見栄は張るけど下手にかっこつけたりしない。
どんなことにも真っ直ぐな心で一生懸命に挑み、そして失敗す(敗れ)る。
そんなルイズの様が、キュルケには『対等と思っているつもりだけど、
どう見ても憧れの存在に近づきたいから一生懸命背伸びしてる子供』にしか見えなかった。
喜怒哀楽がコロコロ激しく入れ替わり、いつも違った状況を生み出してくれるから見ていて飽きない。
それに、それがまた、なにより可愛いかったりする。
涙目で悔しがる顔は母性本能というものを刺激し、『情熱』とは違う胸のときめきを教えてくれるのだ。
それに……、キュルケの気掛かりとなっている唯一の男は、今彼女のそばにいるはずなのだ。
考えをまとめた彼女が真っ先に向かったところは、隣にあるルイズの部屋だった。
呼んでも返事が無く、閉じられた扉をアンロックで開けると朝日の差し込む静かな部屋だけがキュルケを迎えた。
一目でルイズも『あの男』も部屋にいないと悟った。財布が置き去りにされてるから出かけたわけではないようだけど、
まぁ、すぐに見つかるでしょう。
「のう、ホントのホントのホントーにっ! 覚えとらんのか?」
「…………」
オスマンが何度促しても、ターミネーターは何の反応も示さない。
戸惑った様子も無く、首を捻る事もせず、一切の感情をどこかに置き忘れた廃人のように
無関心で濁りのない目をオスマンに向けている。
――だが、仮に彼が人間である――もしくは、人と同様の感情を持っていた――としたら、
執拗に疑問を投げかける目の前の老人に対し、一種の呆れとある種の不安を心の奥に抱いているところだった。
しかし、そんなターミネーターの内面までは読み取れず、
オスマンはたっぷり三十秒は何らかの反応を待っていたのだが、
外見上何時までたっても変化の無い状況に飽きたのか呆れたのか、
腕を組んでむーっと唸ると椅子の背にもたれかかった。
「聞いとるかね? 私のこと――」
「答えていいと、許可が出ていない」
「?」
ターミネーターが短く言い、言葉を遮った。
オスマンははじめ言葉の意味がわからずしばらくの間頭をかしげていたが、
思い当たる節を頭に浮かべると息をつき、部屋の扉へと視線を移した。
「……なるほど、わかった。そこにいるんじゃろ? 出てきなさいミス・ヴァリエール」
扉が開いた先に、してやったり! とでも言いたそうな、満足感溢れる顔のルイズが立っていた。
彼女は扉の向こうで先ほどのやりとりを聞いたときから、きっとこんな顔をしていたんだろう。
『彼はミス・ヴァリエールの言うことしか聞かない』。かつての経験から分かっていたことだが、
まさかここまで素直に従うとは考えが及ばなかった。
ミス・ヴァリエールは、この部屋を出たときからこうやって堂々と話を聞くことが狙いだったのだろう。
いたずらっぽく微笑むルイズを見て、オスマンは思った。
ルイズはターミネーターの隣に並ぶと、オスマンを意識してやはり堂々と胸を張った。
「では、改めて聞こう。君は私と――会ったことがあるかな?」
ターミネーターは一回ルイズを見て、彼女が頷いたのを確認してからオスマンへ向きなおした。
「ない。会うのは初めてだ」
と短く、機械的に言った。
オスマンは何が感慨深いのか、浅く目を閉じて体を横に回すと2、3回うん、うんと頷いた。
彼が一体何を考えているのか見当がつかず、ルイズはもちろん、ターミネーターまで軽く首をかしげた。
「突然じゃが――」
それまでの飄々とした態度からは考えられないほどまじめな口調で、
オスマンはゆっくりと口を開いた。
「今から約30年ほど前、私はとある森を散策中にワイバーンに襲われたことがある。
しかも一般的に考えられとる平均よりかなりでかくて凶暴な奴に、じゃ」
「? それがターミネーターと何の関係……」
「まぁ、黙って聞いとりなさい。 そのとき、わしは死を覚悟した。もう助からない、との。
そのときじゃった。わしの前に、いくつかの黒い箱を肩に下げた、黒い服を着た男が現われたのは……」
「黒い服……?」
ルイズはつぶやくと、横目でターミネーターの方を見た。
まだ話は終わっていないけれど、ここまで聞けば『それ』が誰なのか簡単に予想できる。
だが、オスマンは赤子に話しかけるように優しげな声色で、まったくずれた話をルイズに問いかけた。
「ところでミス・ヴァリエール。『銃』というものはご存知かな?」
「そのくらい知っています、オールド・オスマン。
現在銃士隊の基本装備でもある、あの杖みたいに長い、変な筒のコトです」
胸を張ったわけではないが、ルイズは滑らかに言ってのけた。
銃のことは授業じゃあまり習わないけど、ルイズは教科書の内容全てを見ずに言えるほどの勉強をこなしている。
(あたりまえだが)実際の銃は見たこと無いけど、この程度のことならば予備知識として脳の片隅に納めていた。
オスマンが感心したように、小さな拍手を送る。
「そのとーり、そのとーり。ちなみに現段階のハルケギニアの技術では
『銃』はどれも単発式で近距離専門。メイジからしてみても大した脅威ではないわけじゃ」
無邪気に言うと、いつの間にか手に持っていた杖を一振りする。
机の下、ルイズたちの見えない角度から真っ白い布に包み込まれた長い『何か』が現われ、
オスマンが同じように杖を振るとゴトリと鈍い音を一つだけたて、机に降りた。
いきなり出てきたなぞの物体に、ルイズは首をかしげた。
「なんですか、これ?」
好奇心から思わず近寄って、全体をなめるように見まわす。
見た感じ、杖の類を思い出す形状だが、布越しに見える凹凸の多さや
机に降りたときの鈍い音を考えれば、おそらく金属か岩かの硬いものだと思えた。
「マジックアイテムの一種だろうけど……はじめて見るわ。なんだろう、これ……?」
ルイズはオスマンの話の続きも気になっていたが、
目の前の物体はそれ以上に好奇心を刺激してきた。
恐る恐る手を伸ばし、包んである布をとってみようとそれに触れる寸前、
それまでただ突っ立っていただけのターミネーターが急に動き出し、
小さな両手は大きな片手に包まれると、あっけなく止められてしまった。
そして、ルイズが「放して」と命令するよりも速く、
ターミネーターは手を握ったままルイズを押しのけると、物を包んでいる布をもう一方の手で乱暴に剥ぎ取った。
自身を覆うもの失い、あらわになった『物』がルイズの目に飛び込んだ。
『物』は全身真っ黒で、凹凸の多いシルエットは
箱のようなものをいくつか繋ぎ合わせてあるような胴体のせいだとわかった。
箱の先端と思わしき部分から、長さの違う二本の筒が伸びていた。
逆の一番端には、一本の短い棒が延びており、付け根の部分に輪がある。
『物』は若干杖に似てはいるものの――――案の定、見たことも無いものだった。
ターミネーターが『物』の短い棒を握り、私の手を放すとそのまま胴体の出っ張っている部分を掴んだ。
手を持ち上げ、『物』を目線と水平になるように構えると、輪に掛けている人差し指を曲げる。
私は何が起こるのかと一瞬身構えたけど、かちっ、と乾いた音がしただけで、何も起こることは無かった。
「どこで手に入れた?」
ターミネーターにしては珍しく、怒りの篭ったような強い声で言った。
彼は『物』を水平に構えたまま、今度はオスマンに向かってかちりと音を鳴らした。
「それは黒服の男が持っとった、『銃』じゃよ。
彼がワイバーンと格闘した際に落としたものを、私がそのまま持って帰ったんじゃ!」
それまで落ち着いていたオスマンの口調が、
興奮の影響でわずかに高ぶったのをターミネーターは冷静に捕らえた。
……そう、自身のCPUは何時も通りだ。冷静に働き、常に新しい情報を取り入れることで
人間で言うところの『進化』を起こしている。
今回のこの『感情』も、そうやって得た一つの進化であろう。
――彼はロボットが可能な限りの、おそらくは『驚き』を感じていた。
目の前に差し出されたものは、名称を【フランキ・スパス12】という。
疑いようも無く、自分のいた世界の武器。
紛うことなく、『最初のターミネーター』が使用していたショットガンだった。
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