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ファイアーエムブレム外伝 ~双月の女神~
第一部 『ゼロの夜明け』
第六章 『神の頭脳(ルイズの章)』
ギーシュは恐怖の表情を浮かべていた。
今、起こっている現象は自身の知識に無い。
ミカヤを中心に、意思を持つかの如く乱舞する光。探知出来た魔力は『スクウェア』に届くか、凌駕する。
ああ、僕はなんと命知らずなことを、とルイズを愚弄し、ミカヤを挑発したことを後悔した。
だが、グラモンの家訓に、「命を取らず、名を取れ」とある。
貴族の誇りを明け渡さないことを謳った、不退転の心。
「いざ・・・・・!」
その家訓に従い、覚悟を決めた。
「かかれぇぇぇっ!!」
振り絞った気迫と共に杖をミカヤに向けて振り、『ワルキューレ』を嗾けた。
盾と槍を持つ3体を自身の壁にしつつ、残る4体が前へと駆ける。
剣を持つ2体、斧を持つ2体が、金属音を鳴らしながら襲い来る。
それを冷静に長杖を構え、迎え撃つミカヤ。
「ふっ!」
先の1体からの唐竹に振り下ろす一撃を左に体を捻りつつ、長杖で受け流す。
青銅の剣が滑り、火花が散る。
立て続けに、左右に回り込んだ2体のゴーレムが斧を、細腰めがけて十文字に払い抜けようとする。
「っ!・・・―――・・、―――――・・・・・。」
バックステップを踏み、斧の間合いから離れ、『古代語』で詠唱を開始。
魔法を唱えさせまいと斧を持つ2体の後方から、剣を持つ残る1体が間を抜け、間髪いれずに切り込んでくる。
更にはミカヤの背後に受け流された1体が挟み撃ちを掛ける。
それを見越し、右に横飛び。
そして、契約の呪文が完成。
杖を後方の『ワルキューレ』に向け、引金の呪文を唱えた。
「『ライト』!」
光点が眼前に出現し、それが弾ける。
数条の光線となって『ワルキューレ』の全身に突き刺さり、粉々に破砕した。
「ぐっ!」
一撃だった。
未知の魔法により、発現した光線の威力を目の当たりにし、ギーシュはうめいた。
自身が受ければ一たまりもない。
テリウスにおいては初級の光の精霊魔法だったが、『ミョズニトニルン』のルーンに増幅された一撃は、同じ属性の中級魔法
である『エルライト』の増幅詠唱時よりも威力を発揮した。
(初級魔法でも殺傷力が高すぎる・・・!)
元々魔法の鍛錬は怠らず、精霊に呼びかけていた為、魔法を行使する力は身体能力に比べて衰えていない。
更には魔導書を手にしていることにより、ルーンの影響で魔力は増大していた。
ほんの手違いで、ギーシュを殺めかねない。
さらに運の悪い事に、力を抑える『手加減』の戦技を習得していなかった。
尚の事、ギーシュを傷つけるわけにはいかなくなった。
優勢な戦況とは裏腹に、ミカヤは苦い表情を浮かべつつ、次の詠唱にかかる。
「わお・・・。」
「・・・・・。」
「嘘・・・・・。」
一方、離れて見守っていたキュルケとタバサ、そしてルイズは驚愕していた。
未知の魔法をもって、ゴーレム1体が葬られる様を見せ付けられたからである。
「あれが・・・・・、精霊魔法・・・・・。」
「!?」
「ええ!?」
呆然と呟いた、ルイズの台詞を聞き逃さなかった二人は更に絶句する。
精霊魔法は、このハルケギニアにおいて、人間の間では失伝して久しく、それを行使できるのは人間の天敵とされている、
『エルフ』を含む先住種のものだった。
「じゃあ、ミス・ミカヤはエルフなの?」
「あ・・・・・!」
キュルケの質問に、口が滑ったことに気がついたルイズは顔を青くした。
「・・・・・ミス・ミカヤはエルフじゃないわ。私、ミスから直接聞いたから。」
観念したように、うつむきつつ、そう答える。
気まずくなりかけた雰囲気を打ち切るように、一つの影が飛来すると、タバサの後に控える。
ルイズとキュルケも気づき、振り返る。
「・・・シルフィード?」
タバサの髪と同じ、空色の鱗に身を包んだ、体躯は立派ではあるが、顔立ちには幼さを感じさせる翼竜の名を呼んだ彼女。
彼女の使い魔である、対外的には厄介事を避ける為に風竜としている、太古の韻竜の、雌の幼体。
真名を「そよ風」を指すイルククゥ、与えられた名をシルフィードと言った。
きゅいきゅい、と強く鳴き、タバサにはその「言葉」の意味を伝える。
先住種である彼女は、風の精霊と契約出来る。精霊が活性化していた為、飛んできたのだと言う。
「・・・そう。」
シルフィードの「言葉」に頷くと、視線を再び決闘に戻す。
「あの子は何て?」
「・・・様子を見に来た。」
「あら、そうなの?」
キュルケの問いにただ、軽く返すタバサ。
後は3人は意識を、ミカヤの姿を追うことに向ける。
いなした流れを利用して回り込み、長杖で1体のゴーレムの膝後を払い上げ、転倒させ、もう1体が振るう剣の背を
打ち据えて、攻撃を止める。
「危ないッ!!」
まだ体裁きにブレがあるのか、上段から振るわれた斧が左頬を掠め、ルイズが悲鳴を上げる。
それでも一つ捌く度に体のキレは増し、光の魔法で着実に1体ずつ破壊していく。
「くそ・・・・・!」
光が再度、網膜を焼く感覚にうめくギーシュ。
完全に追い詰められた。
たった今前衛全てが消し飛ばされ、残るは槍を持つ直衛の3体のみ。
対してミカヤは、やはり感覚が追いつかなかった為か不覚を取り、メイド服の肩口やエプロンが裂け、身体に数箇所の掠り傷を
作っているものの、決闘には何ら支障はないように見受けた。
もはや手詰まりと言える。
「・・・・・、ふぅ・・・・・。」
ミカヤにしても、実の所、かなり疲弊していた。目立たぬようにしてはいるが、大きく息をしている。
戦時に比べると、明らかに持久力が落ち、これでは戦を潜り抜ける事は困難だった。
これ以上時間を懸ければ、互いに怪我では済まない。
ミカヤは決着をつける為、詠唱を開始する。
「―――――っ、させるものか!
かかれ、『ワルキューレ』!」
唱えさせては最後。
そう判断したギーシュは、残る『ワルキューレ』を杖を振るい、向かわせた。
しかし、これこそがミカヤの狙いだった。
ギーシュの傍についていたゴーレムを引き剥がすことにより、彼を怪我させること無く、破壊するために。
「・・・・・――――・・・。」
魔道士が敵に囲まれた際に唱える、複数の相手を攻撃可能にする、多目標詠唱から、契約の呪文の詠唱へ移行。
「・・・―――・・・。」
迫り来る3体が到達するよりも早く、呪文が完成し、長杖を掲げ、振りぬいた。
「『ライト』!」
―――――瞬間、閃光。
今までとは比較にならない量の光線を放ち、3体同時に撃ち抜いた。
その余波に、ギーシュは思わずもんどりうち、杖を落としてしまった。
「如何なる者にも等しく、女神の導きがあらんことを・・・。」
ミカヤはテリウス大陸の創造神のあるべき姿の時の名―――――アスタテューヌに祈りを捧げた。
その祈りの言葉を聞きながら、自身が杖を落としたことに気づくと、ギーシュは俯きながら諸手を上げ、敗北を宣言した。
「参った・・・、いえ、参りました・・・・・。」
その言葉を聞き、『ライト』の書を収納すると、彼女に纏っていた精霊達が自然へと戻っていき、霧散した。
すると、両膝をつき、地面にぶつけるかと思う勢いで頭を下げ、平伏するギーシュ。
「申し訳ありませんでした!
ミス・ミカヤとは露知らず、ミス・ヴァリエールも含めた無礼の数々、どうか、平にご容赦の程を!
命で贖えと仰られるなら、その裁きの光、甘んじて、甘んじて・・・・・!」
心からの謝罪をするギーシュの元へ歩み寄ると、彼の高さまで屈み、慈愛の笑みをもって声をかける。
「ミスタ・グラモン、どうかお顔を上げて下さい。」
その言葉に顔を上げるギーシュ。
「その心からの謝罪だけで、私は充分です。」
「で、では・・・・・?」
仮にも乙女を大切にするグラモンの血族、女性への無礼に償いをせねばならないと強く思っているギーシュ。
太陽のように暖かな笑みを向けられ、心が洗われていくのを感じる。
「まずは彼女達に、申し開きと謝罪を。今のミスタならば、分かりますね。」
ミカヤの見る方を確認すると、後ろからは、此方を心配しながら駆け寄って来たモンモランシーとケティ。
「・・・・・はい・・・・っ、・・・・・はいっ!」
申し訳無さと自らの行いを悔い、涙を流し、何度も頷く。
「では、失礼いたします。」
それを見て微笑み、立ち上がると、生徒達から喝采の声が上がった。
その間を縫うように、ルイズが飛び出し、ミカヤに抱きついて、この勝利を我が事のように喜び、はしゃいだのだった。
人の目につかない、それでいて中庭の中央に近い木陰。
そこにシエスタはいた。
彼女の身の丈には不釣合いな、身長より一回り長い両刃の大剣を握り締めていた両手から力を緩めた。
中庭の中央の様子に安堵すると、背中に背負った固定器に収める。
「よかった・・・。」
彼女の後頭部には、無理矢理リボンのように蝶結びした、赤い鉢巻き。
シエスタが剣を取る時、覚悟の証に結わえるそれは、大剣と同じく、亡き祖父の形見。
彼女の祖父は、このハルケギニアにおいても、傭兵業でならし、メイジには恐れられ、平民からは英雄と慕われ、その蒼い髪と
瞳から『蒼炎の狼』と呼ばれた男。
奇しくも、テリウス大陸で『蒼炎の勇者』と謳われている、『暁の巫女』と肩を連ねる救世の英雄―――――アイクだった。
始終を見届けたシエスタは、誰にも気づかれないよう踵を返し、気配を絶ちつつその場を後にした。
「見事、でしたな。」
「うむ」
『遠見の鏡』から、全てを見ていたコルベールとオスマンもまた、生徒が傷つく事無く終わったのに対して、安堵の息を
漏らしていた。
しかし、同時に表情が暗くなる。
「どうやら、わしらの推測は当たってしまったようじゃな。」
「はい、オールド・オスマン。あの力は間違いなく、神の頭脳『ミョズニトニルン』のもの。」
叶うならば当たっては欲しく無かった。
二人の気持ちを表すならば、その一言に尽きる。
もし、この事実が外に漏れることがあれば、虚無の担い手である事が確定したルイズと、その使い魔であるミカヤは
王宮の貴族らに利用され、戦争の道具になるか、アカデミーに身柄が渡れば人体実験の標本にされかねない。
「この件はわしが預かる。他言は無用じゃ、ミスタ・コルベール。」
「はい、仰せのままに。」
鏡から映像を消し、窓際へと向かうオスマン。
コルベールに聞き取られない程の呟きで、過去に思いを馳せた。
「・・・・・テリウスからの来訪者。わしが確認できただけで二人目じゃな。
貴女は瞬きの間にあちらへ帰られたが、我々の二つの世界は限りなく近いかもしれませんなぁ、ミス・サナキ・・・・・。」
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