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「白き使い魔への子守唄 第12話 禁忌」(2007/11/14 (水) 21:29:10) の最新版変更点
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徐々に、戻りつつある記憶。
それは自分と、自分ではない誰かの記憶だった。
「ハクオロ様」
トゥスクルという美女が彼の名を呼ぶ。
「ハクオロ」
トゥスクルという老婆が彼の名を呼ぶ。
「ハクオロさん」
エルルゥという少女が彼の名を呼ぶ。
「おと~さん」
アルルゥという少女が彼の名を呼ぶ。
だから彼は、自分がハクオロなのだろうと思った。
しかし。
「汝はこれより、ラルマニオヌの皇を名乗るがいい」
これは。
「力が欲しいか。ならばくれてやろう、エヴェンクルガのもののふよ」
これは。
「アヴ・カムゥ。これが、汝等に与える力の名だ」
これは。
「ハクオロ……今はそう名乗っているのだったな」
誰だ?
第12話 禁忌
タルブの村から帰って数日後、事件は起こった。
誰が悪いのか、と言えばみんな悪いとも言えるし悪くないとも言える。
一番悪いのは間かもしれない。
まず、自分の出生の秘密を知ってしまったシエスタは、
正体を他人に知られる事を恐れて普段以上にハクオロの側にいるようになった。
「仮に切断された耳を見られたとしても、最初私に説明したように話せば問題はない。
聞けばハルケギニアの亜人は先住魔法とやらを使うらしいが、君はそんな力ないだろう?
それに万が一、正体が知られたとて、マルトーさんや他のみんなが君を迫害するだろうか。
しない方に、私は自分の首をかけてもいい。みんな君の友人であり仲間であり家族だ。
それに……だな、オールド・オスマンに話せば力になってくれるだろう。
詳しい事は話せないが、彼は私や君の母君の故郷と縁あるからな」
と、ハクオロが励ましたおかげでだいぶ元気になるシエスタだが、
不安が励まされた喜びに代わっただけで結局ハクオロに寄り添っていた。
ルイズがちょっと不機嫌になる。
タルブの村で得た知識をキュルケはさっそく手紙にまとめ実家に送った。
すると実家からご褒美とばかりにキュルケに宝石やドレスや香水などが送られてきた。
その値段、実にキュルケのお小遣い一年分を越えるほど。
今まで以上にオシャレして色気を振りまいてハクオロに迫るキュルケ。
ルイズがちょっと不機嫌になる。
そのキュルケが急に顔を見せなくなるや、ハクオロはキュルケを探し始めた。
「タルブの村への足を用意してくれた件で、改めて礼をしようと思ってな。
だがタバサもキュルケも見当たらない。何か知らないか?」
「私が知る訳ないでしょ!」
ルイズがちょっと不機嫌になる。
そして運命の夜。
厨房の皿洗いを手伝いに行ったハクオロの帰りが遅いのでルイズが様子を見に行ってみたら、
双月の下でハクオロとシエスタが仲睦まじく語り合っていた。
「ハクオロさんと、お母さんの故郷……遠いですね」
「……ここに来て、ある程度の記憶を思い出した私だが……いい記憶ばかりともいえない。
重税をしいられ、あるいは奴隷として扱われる民もあった。
種族の違い、領土の拡大、様々な理由で戦乱の絶えぬ世でもあった。
私も、平和のためと称して戦に身を投じ、多くの命を奪った……そんな記憶すらある」
「……でも、トリステインは平和ですから、大丈夫ですよ。
ここで、ずーっと平和に暮らしていけたら……いいですよね……」
「……しかし、自分は……」
「……ごめんなさい。ハクオロさんには、待ってる人もいるんですよね」
「おぼろげだが、友と、家族と……。そして子守唄が私の胸を掻き乱す……」
「ハクオロさん……」
何か、いい雰囲気だし。
ルイズはちょっと不機嫌になる。
ちょっとの四乗、すなわちスクウェア不機嫌となったルイズはその発散元を探していた。
ギーシュとモンモランシーが外で月見をしながらワインを飲もうとしていた。
スクウェア不機嫌のルイズは喉の渇きを感じたため、ギーシュのワインを一杯もらう。
モンモランシーが何か慌ててたけど気にしない。
ワインを一気に飲み干したルイズは、軽いめまいを起こしフラついた。
そこに。
「おーい、こんな所で何をしているんだ?」
シエスタと話し終えたハクオロがやって来て、ルイズが振り向いて。
「ルイズ? 顔が赤いぞ、熱でもあ……」
「好き、抱いて」
その場で押し倒される好色犬。こうなった時のハクオロは滅法弱い。
されるがまま、ルイズに服を脱がされていき胸のルーンもあらわになり、
このままでは朝チュンで誤魔化すしかないという勢いにまでなったところで、
モンモランシーが大慌てでルイズを止めてくれた。
さて、ワインを飲んだ途端という事でルイズ変貌の理由の第一候補はワインだ。
ハクオロはギーシュに頼んでワインを調べてもらう。
探知の魔法をかけてみたら、ルイズの飲んだワインから、
つまりギーシュのワイングラスから微量ながら魔法の反応があった。
そして、モンモランシーの懐の中からも。
「……惚れ薬よ」
観念したモンモランシーはすぐ白状した。
ギーシュの浮気癖を何とかしたくて作ったというモンモランシーであったが、
なぜかハクオロはギーシュの浮気癖を強く責める事ができなかった。
(失われた記憶が言っている……好色、逆レイプ、早漏、3クリックと……)
ともかく惚れ薬のせいでハクオロを逆レイプしようとするルイズを放ってはおけない。
何とかしようと三人で相談する。モンモランシーが解除薬を作るという流れで解散となった。
そして自室に戻ったルイズとハクオロ。
(ルイズの)貞操の危機再びである。
その時ハクオロの脳裏に稲妻が走った。これだ。
「ルイズ。私の國に伝わるとっておきの子守唄を歌ってやろう。聴いてくれるかい?」
「聴く」
「子守唄なのだから、ちゃんとベッドに入って、静かにして聴いてくれ」
「うん」
こうしてハクオロはルイズのみをベッドに寝かせる事に成功し、
静かに子守唄を歌い始めた。それはとても懐かしい、心の琴線を震わせる唄。
静かに訪れる 色なき世界
すべての時を止め 眠りにつく
悲しみ喜びを 集めて人は
流れし時の中 安らぎ見る――
最後まで歌い切った頃には、ルイズは静かな寝息を立てていた。
それに安堵しながらも、ハクオロはもう一度、子守唄を口ずさむ。
自然と思い出す事ができたこの唄、とても、大切な唄だった気がする。
大切な誰かが歌ってくれていた、そんな優しい唄。
朝になって、ハクオロはルイズの泣き声で目を覚ました。
どうしたのか訊いてみると、怖い夢を見たらしい。
黒い霧に覆われて、一人ぼっちで、さみしくて、ハクオロの名前を呼んだ。
そうしたら、化物が出てきて自分を追いかけてきたのだと。
「ルイズ、それはただの夢だ。大丈夫、そんな化物ここにはいない」
「……いる。いると思う。どこか深く暗い場所から、私を見つめてる」
「……大丈夫だ。そんな化物がいたとしたら、私が君を守る。絶対に」
こんな状態のルイズを授業に出すと彼女が恥をかきそうなので、
ハクオロは解除薬ができるまで二人でのんびりすごす事にした。
何度か襲われそうになったが「君を大切にしたい」「そういう事は結婚してから」と、
何とか乗り切るハクオロだった。そして日が暮れて、ようやくモンモランシーがやって来た。
「作れない?」
「ええ。材料不足なの。水の精霊の涙が手に入らなくて……。
ガリアとの国境にあるラドクリアン湖の水の精霊となぜか連絡がつかなくなったそうなの」
材料が無ければどうしようもないとモンモランシーは言った。
「仕方ない。こうなったら……」
「あきらめるのね?」
「水の精霊とやらに直接交渉を試みよう」
翌日、馬を使ってラドクリアン湖に行くハクオロ、ルイズ、モンモランシーと、ギーシュ。
なぜか水位の上がっているラドクリアン湖を不審に思いつつ、
モンモランシーの使い魔、カエルのロビンを使って水の精霊を呼び出す。
モンモランシーはもちろんハクオロさえ交渉がすんなりいくとは思っていない。
なぜ水位が上がっているのか、人に涙を分けなくなったのか、疑問点は多々ある。
それでもハクオロはまず、自分の願いを精霊に告げた。
「水の精霊よ。できるなら、あなたの涙を分けて欲しい」
「……いいだろう」
あっさりと水の精霊の涙を手に入れるハクオロ。これにはみんなビックリだ。
「……いいのか? こんなあっさり」
「構わぬ」
「しかし、人間に涙を分けなくなったと聞いた。なぜ我々にはこうもあっさり……」
「我には、汝がなぜ疑問を持つのかが解らぬ」
「なぜだ。あなたは私が忘れている私の何かを知っているというのか」
ちんぷんかんぷんの物言いに、ハクオロの中で不安がふくれ上がる。
「我は誓約を守らねばならぬ、『うたわれるもの』を口にする事ははばかれる」
「……では、私に関係の無い問いになら答えてくれると受け取って構わないな?」
「うむ」
「道中、ラドクリアン湖の水害を受けた民に出会った。
できるなら上げた水位を戻して欲しい。できぬなら理由を話して欲しい」
「……よかろう、水は元に戻す。それから汝等になら理由を話しても構うまい。
だがそこの賊にまで聞かせる話ではない」
賊という言葉にいち早く反応したハクオロはデルフリンガーを抜いた。
「いやー、久し振りだね相棒。全然出番が無くて、空気と一体化してた気分だよ。
まあ抜かれたからには、俺もやる事やらねーとな。張り切って行こうか」
と、デルフリンガーが喋ってる最中、茂みの中から人影が現れた。
「ちょっとちょっと、賊って言い方はないんじゃない?」
聞き覚えのあるその声はキュルケのもので、
彼女の後に続いて出てきた小柄な人影はタバサのものだった。
キュルケとタバサは水の精霊の退治に来て、
先に来ていたハクオロ達の成り行きをこっそり見ていたらしい。
退治に来た事を正直に話していいのかという疑問はすぐに解決される。
ラドクリアン湖の水位が上がったため、タバサの実家の領地に被害が出た。
そのため水の精霊を退治に来たのだが、
水を元に戻してもらえるようなのでもう精霊を退治する理由は無くなったのだ。
事情を聞き終えた水の精霊は、二人にも水を増やした理由を聞かせる事にした。
湖底より盗まれた秘宝、アンドバリの指輪。
死者に偽りの生命を与えるそれを探すため、世界を水で満たそうとした。
手がかりは、賊のうちの一人の名がクロムウェルというのみ。
水位を元に戻してはアンドバリの指輪を探せなくなってしまうが、
なぜかハクオロの言葉には従うつもりらしい。
さすがにそれでは悪いと、ハクオロはアンドバリの指輪を探す協力を申し出た。
水の精霊は指輪の件をすべてハクオロ達に任せ、精霊の涙を分け与えると湖底へ消えた。
お目当ての涙を手に入れたモンモランシーはさっそく解除薬を調合しルイズを元に戻す。
ルイズはハクオロに迫った自分を恥じ、悶絶する。
目的を果たした一行は近場に宿がないか探そうとしたが、
タバサ曰くこの周辺に宿泊施設は無いらしい。
どうしようかと悩んでいると、タバサはルイズ達を自分の家に泊めてもいいと言い出した。
小声でキュルケが「いいの?」と訊ねたが、タバサは無言で肯定を示す。
家に泊めると、タバサの秘密を明かす事になってしまうが、
自分の代わりにラドクリアン湖の件を解決してくれたハクオロ達への感謝の気持ちがあった。
ただ、親友のキュルケ以外に『母』の秘密を知られないようにしようとタバサは考える。
屋敷の門に刻まれた王家の紋章も、この闇夜の中では見えないだろうし、
明日屋敷を出る時には馬車を用意させて、
門を出る時に紋章を見られないよう注意すればいい。
それだけの事。
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徐々に、戻りつつある記憶。
それは自分と、自分ではない誰かの記憶だった。
「ハクオロ様」
トゥスクルという美女が彼の名を呼ぶ。
「ハクオロ」
トゥスクルという老婆が彼の名を呼ぶ。
「ハクオロさん」
エルルゥという少女が彼の名を呼ぶ。
「おと~さん」
アルルゥという少女が彼の名を呼ぶ。
だから彼は、自分がハクオロなのだろうと思った。
しかし。
「汝はこれより、ラルマニオヌの皇を名乗るがいい」
これは。
「力が欲しいか。ならばくれてやろう、エヴェンクルガのもののふよ」
これは。
「アヴ・カムゥ。これが、汝等に与える力の名だ」
これは。
「ハクオロ……今はそう名乗っているのだったな」
誰だ?
第12話 禁忌
タルブの村から帰って数日後、事件は起こった。
誰が悪いのか、と言えばみんな悪いとも言えるし悪くないとも言える。
一番悪いのは間かもしれない。
まず、自分の出生の秘密を知ってしまったシエスタは、
正体を他人に知られる事を恐れて普段以上にハクオロの側にいるようになった。
「仮に切断された耳を見られたとしても、最初私に説明したように話せば問題はない。
聞けばハルケギニアの亜人は先住魔法とやらを使うらしいが、君はそんな力ないだろう?
それに万が一、正体が知られたとて、マルトーさんや他のみんなが君を迫害するだろうか。
しない方に、私は自分の首をかけてもいい。みんな君の友人であり仲間であり家族だ。
それに……だな、オールド・オスマンに話せば力になってくれるだろう。
詳しい事は話せないが、彼は私や君の母君の故郷と縁あるからな」
と、ハクオロが励ましたおかげでだいぶ元気になるシエスタだが、
不安が励まされた喜びに代わっただけで結局ハクオロに寄り添っていた。
ルイズがちょっと不機嫌になる。
タルブの村で得た知識をキュルケはさっそく手紙にまとめ実家に送った。
すると実家からご褒美とばかりにキュルケに宝石やドレスや香水などが送られてきた。
その値段、実にキュルケのお小遣い一年分を越えるほど。
今まで以上にオシャレして色気を振りまいてハクオロに迫るキュルケ。
ルイズがちょっと不機嫌になる。
そのキュルケが急に顔を見せなくなるや、ハクオロはキュルケを探し始めた。
「タルブの村への足を用意してくれた件で、改めて礼をしようと思ってな。
だがタバサもキュルケも見当たらない。何か知らないか?」
「私が知る訳ないでしょ!」
ルイズがちょっと不機嫌になる。
そして運命の夜。
厨房の皿洗いを手伝いに行ったハクオロの帰りが遅いのでルイズが様子を見に行ってみたら、
双月の下でハクオロとシエスタが仲睦まじく語り合っていた。
「ハクオロさんと、お母さんの故郷……遠いですね」
「……ここに来て、ある程度の記憶を思い出した私だが……いい記憶ばかりともいえない。
重税をしいられ、あるいは奴隷として扱われる民もあった。
種族の違い、領土の拡大、様々な理由で戦乱の絶えぬ世でもあった。
私も、平和のためと称して戦に身を投じ、多くの命を奪った……そんな記憶すらある」
「……でも、トリステインは平和ですから、大丈夫ですよ。
ここで、ずーっと平和に暮らしていけたら……いいですよね……」
「……しかし、自分は……」
「……ごめんなさい。ハクオロさんには、待ってる人もいるんですよね」
「おぼろげだが、友と、家族と……。そして子守唄が私の胸を掻き乱す……」
「ハクオロさん……」
何か、いい雰囲気だし。
ルイズはちょっと不機嫌になる。
ちょっとの四乗、すなわちスクウェア不機嫌となったルイズはその発散元を探していた。
ギーシュとモンモランシーが外で月見をしながらワインを飲もうとしていた。
スクウェア不機嫌のルイズは喉の渇きを感じたため、ギーシュのワインを一杯もらう。
モンモランシーが何か慌ててたけど気にしない。
ワインを一気に飲み干したルイズは、軽いめまいを起こしフラついた。
そこに。
「おーい、こんな所で何をしているんだ?」
シエスタと話し終えたハクオロがやって来て、ルイズが振り向いて。
「ルイズ? 顔が赤いぞ、熱でもあ……」
「好き、抱いて」
その場で押し倒される好色犬。こうなった時のハクオロは滅法弱い。
されるがまま、ルイズに服を脱がされていき胸のルーンもあらわになり、
このままでは朝チュンで誤魔化すしかないという勢いにまでなったところで、
モンモランシーが大慌てでルイズを止めてくれた。
さて、ワインを飲んだ途端という事でルイズ変貌の理由の第一候補はワインだ。
ハクオロはギーシュに頼んでワインを調べてもらう。
探知の魔法をかけてみたら、ルイズの飲んだワインから、
つまりギーシュのワイングラスから微量ながら魔法の反応があった。
そして、モンモランシーの懐の中からも。
「……惚れ薬よ」
観念したモンモランシーはすぐ白状した。
ギーシュの浮気癖を何とかしたくて作ったというモンモランシーであったが、
なぜかハクオロはギーシュの浮気癖を強く責める事ができなかった。
(失われた記憶が言っている……好色、逆レイプ、早漏、3クリックと……)
ともかく惚れ薬のせいでハクオロを逆レイプしようとするルイズを放ってはおけない。
何とかしようと三人で相談する。モンモランシーが解除薬を作るという流れで解散となった。
そして自室に戻ったルイズとハクオロ。
(ルイズの)貞操の危機再びである。
その時ハクオロの脳裏に稲妻が走った。これだ。
「ルイズ。私の國に伝わるとっておきの子守唄を歌ってやろう。聴いてくれるかい?」
「聴く」
「子守唄なのだから、ちゃんとベッドに入って、静かにして聴いてくれ」
「うん」
こうしてハクオロはルイズのみをベッドに寝かせる事に成功し、
静かに子守唄を歌い始めた。それはとても懐かしい、心の琴線を震わせる唄。
静かに訪れる 色なき世界
すべての時を止め 眠りにつく
悲しみ喜びを 集めて人は
流れし時の中 安らぎ見る――
最後まで歌い切った頃には、ルイズは静かな寝息を立てていた。
それに安堵しながらも、ハクオロはもう一度、子守唄を口ずさむ。
自然と思い出す事ができたこの唄、とても、大切な唄だった気がする。
大切な誰かが歌ってくれていた、そんな優しい唄。
朝になって、ハクオロはルイズの泣き声で目を覚ました。
どうしたのか訊いてみると、怖い夢を見たらしい。
黒い霧に覆われて、一人ぼっちで、さみしくて、ハクオロの名前を呼んだ。
そうしたら、化物が出てきて自分を追いかけてきたのだと。
「ルイズ、それはただの夢だ。大丈夫、そんな化物ここにはいない」
「……いる。いると思う。どこか深く暗い場所から、私を見つめてる」
「……大丈夫だ。そんな化物がいたとしたら、私が君を守る。絶対に」
こんな状態のルイズを授業に出すと彼女が恥をかきそうなので、
ハクオロは解除薬ができるまで二人でのんびりすごす事にした。
何度か襲われそうになったが「君を大切にしたい」「そういう事は結婚してから」と、
何とか乗り切るハクオロだった。そして日が暮れて、ようやくモンモランシーがやって来た。
「作れない?」
「ええ。材料不足なの。水の精霊の涙が手に入らなくて……。
ガリアとの国境にあるラドクリアン湖の水の精霊となぜか連絡がつかなくなったそうなの」
材料が無ければどうしようもないとモンモランシーは言った。
「仕方ない。こうなったら……」
「あきらめるのね?」
「水の精霊とやらに直接交渉を試みよう」
翌日、馬を使ってラドクリアン湖に行くハクオロ、ルイズ、モンモランシーと、ギーシュ。
なぜか水位の上がっているラドクリアン湖を不審に思いつつ、
モンモランシーの使い魔、カエルのロビンを使って水の精霊を呼び出す。
モンモランシーはもちろんハクオロさえ交渉がすんなりいくとは思っていない。
なぜ水位が上がっているのか、人に涙を分けなくなったのか、疑問点は多々ある。
それでもハクオロはまず、自分の願いを精霊に告げた。
「水の精霊よ。できるなら、あなたの涙を分けて欲しい」
「……いいだろう」
あっさりと水の精霊の涙を手に入れるハクオロ。これにはみんなビックリだ。
「……いいのか? こんなあっさり」
「構わぬ」
「しかし、人間に涙を分けなくなったと聞いた。なぜ我々にはこうもあっさり……」
「我には、汝がなぜ疑問を持つのかが解らぬ」
「なぜだ。あなたは私が忘れている私の何かを知っているというのか」
ちんぷんかんぷんの物言いに、ハクオロの中で不安がふくれ上がる。
「我は誓約を守らねばならぬ、『うたわれるもの』を口にする事ははばかれる」
「……では、私に関係の無い問いになら答えてくれると受け取って構わないな?」
「うむ」
「道中、ラドクリアン湖の水害を受けた民に出会った。
できるなら上げた水位を戻して欲しい。できぬなら理由を話して欲しい」
「……よかろう、水は元に戻す。それから汝等になら理由を話しても構うまい。
だがそこの賊にまで聞かせる話ではない」
賊という言葉にいち早く反応したハクオロはデルフリンガーを抜いた。
「いやー、久し振りだね相棒。全然出番が無くて、空気と一体化してた気分だよ。
まあ抜かれたからには、俺もやる事やらねーとな。張り切って行こうか」
と、デルフリンガーが喋ってる最中、茂みの中から人影が現れた。
「ちょっとちょっと、賊って言い方はないんじゃない?」
聞き覚えのあるその声はキュルケのもので、
彼女の後に続いて出てきた小柄な人影はタバサのものだった。
キュルケとタバサは水の精霊の退治に来て、
先に来ていたハクオロ達の成り行きをこっそり見ていたらしい。
退治に来た事を正直に話していいのかという疑問はすぐに解決される。
ラドクリアン湖の水位が上がったため、タバサの実家の領地に被害が出た。
そのため水の精霊を退治に来たのだが、
水を元に戻してもらえるようなのでもう精霊を退治する理由は無くなったのだ。
事情を聞き終えた水の精霊は、二人にも水を増やした理由を聞かせる事にした。
湖底より盗まれた秘宝、アンドバリの指輪。
死者に偽りの生命を与えるそれを探すため、世界を水で満たそうとした。
手がかりは、賊のうちの一人の名がクロムウェルというのみ。
水位を元に戻してはアンドバリの指輪を探せなくなってしまうが、
なぜかハクオロの言葉には従うつもりらしい。
さすがにそれでは悪いと、ハクオロはアンドバリの指輪を探す協力を申し出た。
水の精霊は指輪の件をすべてハクオロ達に任せ、精霊の涙を分け与えると湖底へ消えた。
お目当ての涙を手に入れたモンモランシーはさっそく解除薬を調合しルイズを元に戻す。
ルイズはハクオロに迫った自分を恥じ、悶絶する。
目的を果たした一行は近場に宿がないか探そうとしたが、
タバサ曰くこの周辺に宿泊施設は無いらしい。
どうしようかと悩んでいると、タバサはルイズ達を自分の家に泊めてもいいと言い出した。
小声でキュルケが「いいの?」と訊ねたが、タバサは無言で肯定を示す。
家に泊めると、タバサの秘密を明かす事になってしまうが、
自分の代わりにラドクリアン湖の件を解決してくれたハクオロ達への感謝の気持ちがあった。
ただ、親友のキュルケ以外に『母』の秘密を知られないようにしようとタバサは考える。
屋敷の門に刻まれた王家の紋章も、この闇夜の中では見えないだろうし、
明日屋敷を出る時には馬車を用意させて、
門を出る時に紋章を見られないよう注意すればいい。
それだけの事。
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