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#navi(KNIGHT-ZERO)
妬くなよ、相手は54馬力だ、かないっこない
片岡義男 著 「彼のオートバイ、彼女の島」より
朝
KITTがねぐらにしている学院の門の脇、来客の馬車が停まる広い石畳の端、雨ざらしの馬車溜まり
ルイズは朝の登校前にKITTの所を訪れ、早朝ジョギングのような短いドライブをするのが日課だった
その朝もいつも通りKITTの停まる馬車溜まりを訪れたルイズは、無言でKITTに蹴りをくれた
KITTの周りをぐるぐる回りながら、フロントノーズもリアバンパーもドアもタイヤも蹴りまくる
蹴り疲れて肩を上下させていたルイズは、荒い息のままKITTを睨み、搾り出すような声を出す
「あの馬鹿メイドにプレゼントをあげたそうじゃないの、主人であるわたしを差し置いて何の積もり?」
ルイズは昨晩、『KITTが寂しがっていたら話相手になってあげる』つもりでKITTの元を訪れ
そして見てしまった、KITTが、その、いかがわしい格好のメイドに異世界の洋服を贈っている所を
ルイズの謂れなき暴虐を黙って受け止めていたKITTは、鼻につく平板な口調のまま珍しく反論をした
「ルイズ…シエスタ嬢は私を親切丁寧に洗ってくれました、そんな義務などないのに、眠る時間を削って
マイケルのジャケットはマイケルのように高潔な精神の人間が着るべき物です、彼女の正当な報酬です」
KITTが初めて聞くルイズのヒステリックな声、彼女自身にとっても初めての制御できない感情だった
「『まいける』が何だっていうのよ!下僕のくせに、ウマ無し馬車が貴族のわたしに偉そうじゃない!」
ルイズはハっとして口を押さえた、KITTが一言も発しないまま、赤い光が往復する音だけが響いた
この黒い不思議な使い魔が「ウマ無し馬車」という呼び方をとても嫌うことをルイズは思い出した
謝りたかったが謝るには意地っ張りすぎるルイズは、言葉とは裏腹にKITTのフェンダーを撫でると
「い・・・いつまでも外に放り出してたわたしにも落ち度はあったわ・・・認めてあげる・・・ついてきなさい」
猫のように機嫌の変わる彼女の真意を計りかねたKITTは言われた通り、前を歩くルイズの後に従った
ルイズは女子寮塔に正門から入っていく、人家への進入は緊急事態の時のみとプログラムされたKITTは
困惑して立ち尽くすかのようにブレーキをかけた、ルイズは少し顔を赤らめながらKITTに命令する
「いいから早く入ってきなさいって言ってるでしょ、ばか」
逆らわない事が賢明と判断したKITTはプログラムを少し自己修正し、女子寮にその車体を乗り入れた
幸い、貴族の子女を預かる寮塔の石造りの廊下はKITTが2台すれ違えるだけの広さを有していた
ルイズは寮の一階、廊下の突き当たり近くにある自分の部屋のドアを開け、KITTを招き入れた
「ルイズ、入れません」
「遠慮するなっていってるじゃない!あんまりくどいこと言うとまた蹴っとばすわよ、ぐず」
KITTは蹴られる事など文字通り痛くも痒くもなかったが、公衆の面前で騒がれても困ると思った
「それが・・・広さとドアの幅は充分なのですが……部屋の中にある家具や書籍・・・あと下着なども・・・」
散らかったルイズの部屋は入学時にヴァリエール家が持たせてくれた高価な家具で埋め尽くされていた
ルイズは腕組みをしながら部屋の調度品と、廊下で所在なげに停車しているKITTを見比べていたが
やがて自分の部屋の中に小走りに入っていき、目についた物を次々と外の廊下に運び出し始めた
脱ぎっ放しの下着を拾い、KITTを見て頬を染め、引出しを開けて洗濯済みの下着の中に詰め込む
続いて馬鹿力を発揮して豪奢な天蓋つきベッドやライティングデスク、安楽椅子を廊下に放り出した
「さぁ、これでいいでしょ?さっさと入ってらっしゃい、のろま」
断る名目を失ったKITTは諦めて廊下で車体を切り返し、バックでルイズの部屋に入ってきた
壁に作りつけの大きな衣装箪笥と本棚以外に何も無い部屋の中心に、KITTは黒い車体を鎮座させた
左右には何とかドアを開閉できるスペースがあるが、KITT以外に何も家具を置けそうになかった
KITTは背後の壁を調べ、その石壁は建物を崩さずに壊せる強度であることを知り、少し安心する
「今日からあんたはここで寝なさい、せいぜいわたしの慈悲に感謝して、あの馬鹿乳メイドは忘れる事ね」
「ルイズ、ひとつお伺いしてもよろしいでしょうか、私はあなたの事を心から案じて問うんですが」
「あによ」
「あなたはどこで寝るんですか?」
ルイズが怒りと独占欲に駆られ、力任せに外の廊下に投げ捨てたベッドは既にバラバラになっていた
その晩、ルイズはKITTの横の狭い床に毛布で包まって寝たり、KITTのルーフやボンネットで
寝たりしたが、KITTのドアを開けて中に入り、そのシートを倒して寝るのが一番マシだと知った
数日後、ほぼ満月に近い二つの月が中空に昇ろうとする頃
ルイズが壁際のランプに杖を振って消し、KITTの暖色LEDの室内灯のスイッチを切った少し後
平坦にリクライニングさせていたKITTのドライヴァーズシートから、ルイズはそっと身を起こした
使い魔のKITTを夜も手元に置くべく自分の部屋に入れたところ、それで部屋が一杯になってしまい
ベッドも机も置けなくなったので仕方なくそうしてるんだが、狭苦しくなった部屋は嫌いじゃなかった
倒したKITTのドライヴァーズシートは、ルイズが今まで知るどんなベッドより安らかに眠れた
窓からの月光だけに照らされた車室、KITTはエンジンを停止し、インジケーターを消灯させている
「・・・・・・寝てるし・・・・・・」
このウマ無し馬車と呼ばれるのを拒む、『自動車』とかいう機械はわたしのことをどう思ってるのかしら
魔法の出来ない、意地っ張りでわがままで女らしくない、運転のヘタな女だと思ってるのかしら
とりあえず、せっかくわたしがKITTの中で寝ているのに何でなんにもしてこないのよ、と思った
胸に手を当てる、KITTは胸のちいちゃい女のコはきらいかしら・・・わたし、なんでこんなこと思うの?
掌に伝わってくるトクントクンという感触、微かな温もり、この不思議な熱を冷ますには、どうしたら・・・
ルイズはKITTのコントロールパネルに顔を寄せ、消灯したボイスインジケーターにそっと唇をつけた
『自動車』にこんなことするなんて・・・ルイズは「いやだわ」と呟いて、倒したシートの上で眠りについた
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