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#navi(KNIGHT-ZERO)
彼女にはスーパーマンが必要だ、何でもできるスーパーマンが必要だ
H・Bハリッキー監督、主演「バニシングin60」より
ルイズとKITTはいつもの草地に居た、学院近隣にあるKITTの操縦訓練の場、遊び場でもあった
基本的に車道というものの存在しないこの異世界、馬車の踏み跡程度の貧弱な道しか無いこの場所も
KITTの持つこの世界の基準を超越した動力性能には、さほどの行動制限を与えるものではなく
その車高を超えない程度の段差なら、内部のエアサスによって車体を跳ねさせて乗り越えることが出来た
岩場や荒地では進路監視スキャナーによって即座に通行可能な走路、迂回路がナヴィゲーションされ
KITT自身に緊急時以外は禁じられていたが、森の中では木々をなぎ倒しながらの走行が可能だった
それはKITTが居た異世界に置いて、装輪の駆動によって移動する自動車の最も進化したもので
ウニモグやハンヴィー、無限軌道車を含むいかなる自動車の不整地走破性をも凌駕するものだった
その車高の17倍近い高さまで飛翔することを可能にする赤いターボブースト・ボタンも存在したが
KITTは乗り手や周辺物が強い負荷を受けるその装備をルイズに使用させるのはまだ早いと判断した
学院の近辺、王都トリスタニア郊外の高原地帯にはKITTの性能を存分に発揮できる平地が多かった
通常走行のノーマルクルーズでKITTは平坦な草地ならいかなる速度からも1.8秒で240kmに達し
ルイズが基本操作に習熟した頃に教わった緊急走行パースートクルーズでは560kmの速度を絞り出した
地を這う物体でありながら、風竜を遥か上回る速さを与えてくれるKITTの操縦にルイズは夢中になった
ほどなくしてターボブーストでのジャンプをルイズは習得したが、KITTの悪い予感は当たった
ルイズは大喜びで廃城の石砦や崖と崖の間を飛びまくり、その衝撃がもたらす興奮を存分に味わった
マイケルとは違うKITTの使い手、少なくともバックでターボジャンプをさせられるのは初めてだった
"ルイズのKITT"は山猫のように大地を駆けた、空と地の間で、その両方を統べようとするかのように
この異世界の大陸ハルケギニアで、ルイズとKITTはどこまでも自由だった
学院周辺の平原を疾走し、山を登り谷を降り、その水上クルーズ機能で湖を突っ切って遊んだルイズは
人の踏み入らぬ静かな湖畔にKITTを停めた、生まれ育ったヴァリエール邸の裏庭を思い出させる場所
ルイズにとってKITTとの遠乗りと同じくらい好きな時間は、KITTとの語らいの時間だった
異世界の事を話すのに慎重なKITTが少しづつ教えてくれる、ルイズの知らない不思議な世界の話
「この世界で魔法と呼ばれる物について、私は私自身に出来うる限りの情報を収集し分析しました」
結局、何もわからないという答えしか出ませんでした、しかし私が推論したいくつかの仮説があります」
ルイズはKITTの言葉を理解しようと努めた、落ちこぼれと呼ばれていた彼女は、誰よりも真摯だった
魔法というものへの強い疑問と好奇心を持っていたルイズはKITTの話に耳を傾け、黙って先を促す
「四系統に分かれた魔法を、この世界にも私の居た世界にも存在する気象や自然の一形態と仮定するならば
水の魔法は水害や雹、土の錬金術は金属の酸化や有機変化、炎の魔法もまた酸化の一種である自然発火
召喚獣やゴーレムと呼ばれるものは、既存の生物に起きる突然変異や意識誘導のようなものでしょう」
幼い頃のルイズは猛吹雪や山火事、獣の襲撃を、どこかに居る凄い力を持ったメイジの仕業だと思っていた
今となってはそれが自然の現象だということを知っていたが、凄い魔法の存在を心のどこかで信じていた
「雨や雪が降り、鉄が錆び、自然発火で火災が起き、突然変異の獣が暴れたりメイジに使役されるのは
その地域の自然環境や周辺の状況が起こしたものであるという説とは別に、それよりもっと広い範囲
私の居た地球や、このハルケギニアなる大陸を有する惑星、あるいはそれらの世界を広く内包するもの
それの意思と必然、あるいは生物的な反応によって起こされたものである、という説があります」
KITTはメインモニターの映像を交えて説明してくれた、ルイズはそれを聞きながら羽根ペンを走らせる
日本の藁半紙に似たザラ紙にルイズが纏めた手製のノートは、以後の彼女にとって大切なものとなった
ルイズは自分が子供の頃から抱いていた疑問を見透かされた気持ちになり、KITTの言葉に引き込まれた
「人間の脳が風邪を引いた体を発熱させ、傷ついた部位に痛みを発生させ、血液を凝固させ傷を塞ぐように
この世界を司る脳のようなものが天災を起こし、動物の暴走や人間の活動を起こさせてるという説です」
この地が丸いことも宇宙が存在することもまだ系統立てた実証はされていないこの世界、ルイズの頭の中に
神様という単語が浮かんだ、宗教的な教育に疎かった両親の影響で、彼女のそれは困った時の頼み先だった
自然の森羅万象を神とする、地球ではいささか陳腐なものとなったスピノザ的思想やガイア理論に似たもの
「よくわかんないけど、神様が天災や戦乱を起こしてるってのは、あやしい宗教屋の決まり文句よ」
ルイズは杖をいじくりながら答えた、神について云々するのは、当時トリスティンでは冒涜行為だった
「私達の世界での『神』は多くの先人が自らの環境に合わせた生活処方を神の言葉として伝承したものです
始祖ブリミルなるこの世界の神もまた、メイジやそれ以外の者の蓄積経験が人格の形を成したものでしょう」
ルイズは知らなかったが、この世界のエルフが持っていた地の精霊を崇める思想はそれに少し近かった
後にそれを学んだ時、すんなり受け入れられたのもKITTを通じて地球の感覚に触れていたせいもあった
「あなたがたの魔法は、その大きな脳がこの地に存在するものに下すべき命令を人工的に擬似発生させ、
その命令に従った自然現象を起こすものなのかもしれません、特異な天災を起こす特殊な記号です」
KITTはここに来てから多く見学した魔法を数式にあてはめてみた事があったが、解析は出来なかった
それは魔法が数学や物理学の範囲外なのではなく、単に現状の計算容量が不足してるだけだと思っていた
ルイズはいつもKITTとのドライブ中にセンターコンソールのドリンクホルダーに放り込んでいる
自分の杖に指で触れた、何だかこのタクト・タイプの杖がただのちっぽけなオモチャのように思えてくる
「土や水、火や風はそういう考えもあるわ、とても信じられないけどね、でも虚無はどうなの?」
「虚無と呼ばれるものについては、その大きな意思を直接、土や水を構成する原子や量子の動きに
直接働きかけるものではないでしょうか、気象や動物の行動の範囲外で起きる何かの『変化』です
恐らく他の多くの宗教にあるように、偶然起きたそのような現象を崇拝の対象とした物でしょう」
ロマリアの老人連中が聞けば激怒する内容、ルイズは法皇庁よりもKITTのほうが信じられる気がした
「私の居た世界では『科学』と呼ばれるものがコモンマジックや四系統の魔法に似た現象を引き起こします」
「カガク?あぁ、あんたがこないだ話してくれた異世界の魔法ね、あんたを作った原始的な魔法」
KITTが少しづつ話してくれる地球の話、「水道」という水魔法や「ライター」とかいう火の魔法
そして空からゴロゴロ鳴る雷の同属とかいう電気を使った魔法、「コンピューター」なる思考する魔法
それはKITTを動かし、生かしめる魔法の源と聞いたが、どうもルイズには理解出来ない力だった
少なくともKITTは日差しのきつい日には「エアコン」とかいう風魔法で室内を涼しくしてくれる
それは「体の代謝機能によくない」という理由でたまにしか使ってくれないケチくさい魔法だったが
何となくわかっていた頭がこんがらがってきた、このKITTの中身を想像するといつもわからなくなる
それは授業で難しい問題に当たった時よりも、女のコが男のコの事を考える時の不思議な感覚に似ていた
「わかんない、あんたわかんないわよ・・・多分それはわかんないままのほうがいい物なのかもしれないわ・・・」
「私が最初に話した『なにもわからないことがわかった』という言葉の意味をご理解頂けたでしょうか」
真夜中
学院の裏手でKITTは泡まみれになりながら、この世界に来て以来初めての至福の時間を過ごしていた
「ミス・ヴァリエールもひどいお方です、これだけ尽くしているKITTさんを汚れたままにするなんて」
学院付きメイドのシエスタはその短い背を伸ばしながら、泥とルイズの蹴り跡で汚れていたKITTを
隅々まで洗車しようと頑張っていたが、一張羅のメイド服が気になって、なかなか手が回らないらしい
シエスタは思い切ってメイド服を脱ぎ始めた、暗闇に一糸纏わぬ姿を晒し、自分の体に石鹸を塗りたくると
全身に泡をまぶした自らの肌を黒い表面に優しくこすりつけ、KITTのボディを隅々まで洗い始めた
KITTはそのメイドの、若い女性には相応しくない行動を諌めようとしたが、なぜか言葉を発せない
シエスタは時折切ない息を漏らしながら裸体でKITTのボディ、その漆黒の肌を愛おしむように洗う
「・・・・・・シエスタさん、なぜ貴女はそんなに大変な思いをしてまで、私に優しくしてくれるんですか?」
「あら、こんな月の美しい夜に、夜風の気持ちいい中で一緒に綺麗になれるなんて素敵だと思いますよ」
この世界に浮かぶ二つの月、KITTに備えられた天体観測による測位機能がエラーを表示する空
光増幅暗視装置による索探システムを備えたKITTは光源が多ければより高精度な情報収集が出来る
それ以外の、KITTは自らのプログラムで解析不能な理由でこの世界の月夜が好きになりつつあった
「・・・・・でも・・・・・・一番素敵なのは・・・あなたかも・・・・・・」
二つの月明かりに照らされ、その素肌から泡を滴らせたシエスタは美を司る神のような高貴さを湛えていた
その後シエスタはKITTを水洗いし、学院の床磨きにつかう蜜蝋のワックスを塗り、丁寧に拭き取った
ミス・ヴァリエールが召喚したと聞く異形の馬車、学院の片隅のKITTにシエスタはなぜか興味を持った
自分の回りを歩きながらボディをつついたり窓を覗き込んだりしていたメイドにKITTは声をかけた
「シエスタさん、でよろしかったでしょうか?そろそろ夕食の片付けを始めなくてはいけない時間では?」
シエスタは突然喋りだした馬車に悲鳴を上げ逃げ出したが、夜が更けた頃に水桶と石鹸を持って戻って来た
「生きてる馬車なんて怖いです、でも、荷車でも使い魔でも化物でも、汚れたままの姿では可哀想」
乗りっぱなしのルイズによって土埃にまみれたKITTのボディを、シエスタは優しく洗ってくれた
KITTはギーシュと決闘した時の話をした、多くの生徒が驚嘆した快挙、しかしシエスタは真っ先に
その無茶な行動を叱り、それから「怪我しなくてよかったです」と黒い肌を撫でた、それが嬉しかった
KITTはこの心優しくどこか懐かしい娘、まるで自分の故郷の女性のような豊満な体型を持つメイドに
洗車とワックスの礼を述べたかったが、自分のボストン訛りのボイスでは気の利いた事も言えないと思った
「シエスタさん、後ろのゲートを開けてください」
無頓着なルイズが開けたこのとないテールゲート、それを開けると、同時に車内のトノカバーが開く
中のラゲッジ・スペースには黒革の衣服が丸まっていた、広げるとそれはこの世界では見慣れぬ短い上着
「私のかつてのパートナー、マイケルの着ていたジャケットです、あなたにあげます・・・着て欲しいんです」
着古した軍放出品の革ジャケット、シエスタはそれを胸に抱くと素肌の上に羽織った、白い肌と黒い牛革
丈の短いタイトなシルエットを好んだマイケルの革ジャンはシエスタの体と胸にゆったりとフィットした
兵隊が着るような革服、しかしこの世界の技術を超越した方法で鞣された仔牛革は信じられないほど軽い
この国のあらゆる高級肌着より上質な触り心地の内張りは、難燃性と透湿性に優れたデュポン・ダクロン
「・・・・・・似合い・・・ます・・・・・・?・・・・・・」
「・・・・・・綺麗です・・・・・・シエスタさん・・・……あなたは本当に綺麗です…・・・・・・」
二つの月が照らす中で、それっきり黙りこむKITTとシエスタ、一人と一台にはそれだけで充分だった
そして裏庭の茂みで息を殺し、暗闇からその様子を睨んでいた鳶色の瞳があったことには気づかなかった
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