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「ルイズ・キングダム!!-5」(2009/04/05 (日) 09:55:12) の最新版変更点
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私の名はルイズ・フランソワーズ・ド・ラ・ヴァリエール。
つい数日前まで『ゼロ』のルイズと蔑称されていたわ。
でも今はもう違う。
3日前の授業での事、前回の授業をサボった私に『赤土』のシュヴルーズ先生が復習のためにと『錬金』を行うように言ってきた。
クラスメイトは私が「また」爆発を起こすんじゃないかと顔を青くして見守っていたが、その時既に私はそれまでの私では無かったのだ。
颯爽とエプロンを身に付けて教壇へと歩く。
この『エプロン』は百万迷宮で使われる一般的なアイテムだが、マジックアイテムとしか思えない不思議な能力があった。
すなわち「どんな素材でも肉に変えて食べられるようにする」という効果だ。
木でも牙でも機械でも、果ては魔力や情報のようなカタチの無いようなモノまで肉に変える、百万迷宮脅威のクオリティ!
基本的に迷宮探索中に倒したモンスターを料理するのに使われるという事実は意図的に忘却した。
ともかく杖の代わりに包丁を振り、私は教壇に置かれた石コロをお肉に変える。
「うそっ!? ゼロのルイズが魔法を成功したわよ!?」
「すげぇ! 肉だ……」
「ああ、それも美味そうな肉だ……」
誰もが驚いて、教室がどよめいた。
いやしかしと生徒達は思いなおす。肉を『錬金』で生み出すことは、決して不可能では無いのだから。
彼等に挑戦的な視線を向けて、私はその肉を素早く捌いてサシミにしてショウガ醤油を付けて先生とクラスの皆に振舞ったのである。
「まぁっ! このお味は最高級のアルビオン牛の霜降りですわね!」
「これはっ……生姜醤油が霜降り脂のクドさを消して、見事に旨味だけをしっかりと伝えてくる。絶品だ」
「うーまーいーぞー!!」
「ってゆーか牛刺しとか醤油は無いだろう、ファンタジー的に考えて」
誰もがその絶品の味に舌鼓を打って喜んだ。
私はルイズ。職業は『料理人』。
そして新たに付けられた二つ名は『お肉のルイズ』
……うん。正直『ゼロ』のまんま方が良かった気がヒシヒシとしてるわよ。
<ルイズ・キングダム!!>
「むにゃむにゃ……早く魔導師になりたーい」
某妖怪人間のような寝言を呟いて、『お肉』のルイズは目を覚ました。
ちなみに一部食通の生徒の間では『最高級霜降り肉のルイズ』と呼ばれて、尊敬の念を向けられている事を本人は知らない。
もし知っても絶対喜ばないだろうけど。
目を覚ましたルイズは自分が腕の中にヌイグルミを抱いているのに気が付く。
茶色くて柔らかくて暖かい子犬みたいな……クロビスが居た。
一瞬ギョッとなるルイズだったが、そう言えば昨夜宮廷メンバーが自分の部屋に泊まりに来ていた事を思い出す。
「宮廷は雨が降ってきて大変なんだ」
そう言ってお休みセットを持って部屋まで押しかけてきたクロビス。
まぁ普通使い魔はよほど大型の物や水生の生き物を除いて主人の部屋に住むのが普通だから、クロビスのように自分で国を作って勝手に暮らす方がおかしい。
なので、ルイズは快く部屋に泊めてやる事にした。
そしたらダッパ君とオババと輿担ぎ四人とモークまで一緒に来たと言うワケだ。
「迷宮ではこんな、天井一面から降り注ぐ雨なんてめったに無いからねぇ。
有るとしても『雨の部屋』のように決まった場所か、雲神が気まぐれにやって来た時か、あるいは上の階で貯水池の底が抜けた時ぐらいのモノじゃしなぁ」
とはオババこと『話の長い』バゼバゼの弁。
空の無い百万迷宮では迷宮の壁に結露した露を集めたり、井戸を掘ったり水路を引いたりするのが普通で、ハルケギニアのような『雨』はあまり無いから宮廷の建物も雨対策がしていないと言う。
最初は珍しさに大騒ぎしていたクロビス達も、雨漏りする中で寝るのは流石に嫌だったので、ルイズの部屋を訪ねてきたのだ。
その結果、クロビスはルイズと一緒にベッドの中。
ダッパ君とモークは部屋の隅で毛布を敷いて。
オババは自分の輿に布団を敷いて眠ることになったのが昨夜。
気が付けば雨が上って良い天気になっていた。
――あ、おはようございます――
「おはようダッパ君。良い天気ね」
昨日この部屋で夕食として食べていた鍋物を温めなおしながら、ルイズの起床に気が付いたダッパ君が挨拶してくる。
「二度と同じ味わい無し」と言われるほどテキトーに作られた小鬼汁を部屋の中で調理しているが煙は出ない。
迷宮で貴重な光熱元として使用される『星』のカケラを使って温めているからだ。
世界が迷宮に沈むより前、『天空』と呼ばれる場所で輝いていたと伝えられる『星』は、
迷宮に住む人々の間で無くてはならない物として採集されたり収穫されたり採掘されたりしている。
それが本当にハルケギニアの夜空に浮かぶ星と同じものかは、ルイズにもダッパ君にも判らない事だった。
グツグツと煮え始める小鬼汁を横目に、手早く洗顔の仕度と着替えの世話とピンクブロンドの髪のブラッシングをしてくれるダッパ君は、やはり従者としてとても優秀だ。
「うーんムニャムニャ。もう食べられ……たくないぃ」
ルイズの身支度が終わる頃、クロビスがちょっとグロい寝言を最後にムクリと起きてきた。
小鬼汁の匂いにつられてか、オババ達も起きてくる。
「いただきまーす!」「母神様に感謝じゃ」「…………」――おかわりありますよ――
何処から出したのか折りたたみ式の短い脚が付いたテーブル「ちゃぶ台」を置いて、小鬼達の朝食が始まった。
それを横目に食堂に向かうルイズ。
以前に使い魔との親交を深めるために食事を共にする事も考えたルイズだったが、その考えはもう改めた。
召喚の翌日にごちそうになった小鬼汁はなんとも表現できない怪奇な味だったから。
それにゴキブリとか食うらしいし。毒々しい太った赤い魚とかも食べていたし。
そんな事もあって、使い魔の食生活にはなるべく手も口も出さない事にしたルイズだった。
ただ、ゴキブリを食べるのだけは禁止しておこうと注意はしたが。
そしたら「学院内のはもうほとんど食べつくしたからなぁ」とか答えられて戦慄したものだ。
「食事の前に嫌なこと思い出しちゃった……」
少し食欲をなくしながら、食堂へと向かうルイズであった。
「親方! お肉のルイズ様がいらっしゃいましたー!」
「おおっ! ようこそ、ラ・ヴァリエール公爵令嬢!!
存分に食って……じゃねぇ、お召し上がりくださいませ」
食堂に入ると、料理長であるマルトー親方の手厚い歓迎を受けるルイズ。
彼女のテーブルの前にだけ、それはそれは豪華な、とても朝食とは思えない食事が用意されていた。
一昨日、『お肉』のメイジとして学院に一躍名を轟かせたルイズはマルトー親父から挑戦を受けた。
尾鰭がついたウワサの中に「食堂の料理よりウマイ」というのが有ったのがそもそもの原因。
そのせいで、たとえ貴族様が相手だろうと、学生に料理の事で引けをとるとは思えない。
料理人のプライドをかけて勝負すると、親方が決闘を申し込んできたのだ。
そうして、二人の熱い料理バトルは繰り広げられた。
具体的に書くと単行本数十冊の大作になるであろう壮絶な戦いは、小鬼が持ち込んだ謎の調味料によって決着する。
白いドロッとした粘液。
ピュアセレクトマヨネーズと呼ばれるらしい、ある百万迷宮のモンスターを倒すと手に入るというその調味料は、甘辛くコク深く、誰もを魅了する天上の美味をルイズの料理にもたらしたのだった。
勝負に敗れ学院を去ると言い出した親方を、ルイズは必死に説得して留めた。
そんな理由で去られては本気で困るからだ。
これからはお前が料理を作れとか言われたら迷惑だし、厨房の人々に恨まれてギーシュの二の舞はゴメンである。
だいたい『料理人』である自分はルイズにとって最高に不本意なので、勝ったからと言って嬉しくなど無い。
だから色々ともっともらしくて立派そうな理由を並べ立てて親方を止めたのだが、そのせいでルイズはマルトー以下厨房の人々から素晴らしい貴族だと尊敬される事となった。
「おうシエスタ! ヴァリエール様のために秘蔵のワインを開けてくれ!」
「はい! よろこんで!」
どこの居酒屋だメイド。
そんな感じで、今朝も早朝からカロリー過多なルイズであった。
「うらやましいよ『お肉』のルイズ。僕なんていまだに『血塗れ』のギーシュなのに……」
教室で、まだ彼女や友達からも微妙に避けられているギーシュが恨み言を言ってきた。
「……私だって『お肉』なんて二つ名は不本意よ」
憮然として言い返すルイズ。
そのまま二人でハァーっと溜め息をつく。
勝つとか負けるとか、名誉とか、本当の強さとかって何だろう。
そんな、ある意味貴族らしい悩みを思う二人の若者でありました。
その日の午後、ルイズは『王国』の視察に出かけた。
もちろん彼女が所属するトリステイン王国ではなくて、小鬼王国こと『新・古代魔神路地裏連合マジカル小鬼同盟横丁』に、だ。
先日新しく作ったという『農場』と『牧場』は王宮の裏手にある。
大臣コルベール先生の研究室の裏手で耕されている田んぼの上に、キラキラと輝く『星』が浮かぶ。
世界が迷宮に覆われた彼等の世界では、このような『星』を使うのが農業の基本。
熱と光を放つ星を管理しているのは、『逸材』と呼ばれる他の小鬼よりちょっとだけ優秀な小鬼だった。
星と対話し、その力を借りる星術に特化した職業『星術師』の小鬼『口から先に生まれた』ピピン。
ピンクのリボンをつけたその小鬼は、小鬼のクセにルイズも使えない魔術を使うのだった。
「泣かないわよ! こんな事で泣くもんですか!」orz<ルイズ
そんな感じで劣等感を刺激されながら農場を見回る。
とは言っても、まだ出来たばかりの農場には耕されてタネをまかれたむき出しの土しか無いのだが。
開墾作業で更に農地を広げようと頑張る小鬼や、水撒きの作業を続ける小鬼。
遅めの昼食に小鬼汁の鍋を囲んで和気藹々と過ごす、傍らに鋤を立てかけた小鬼達。
そこには小さいながらも平和な田園風景が広がっていた。
おもいっきり学院の敷地内なのだけど。
向こうではメイドさんが洗濯物とか干してる。そしてレンタル小鬼が手伝ってる。
ちょっとシュールだった。
「いーのかしら、コレ……まぁ誰も文句言ってないから良いか」
考えるのは怒られてからで良いと、最近すっかりC調になったルイズは諦める。
明るい農村を横目に、次は牧場を見に行く。
牛とか馬とかって小鬼より大きいわよねー、どうしてんのかしらーとか考えていたら、そこには予想もしていなかったモノが飼われていたり。
「……ナニコレ?」
ルイズの目の前を悠々と泳ぐキンギョ。
毒々しいぐらい赤くて丸々と太った、ヒラヒラした大きなヒレが印象的なアレである。
アレが、子牛や羊ぐらいのサイズで空中をふよふよと泳いでいる姿を想像してもらいたい。
ギョロリとした巨大な目のどこに向いてるのかワカンナイ視線が正直キモイ。
百万迷宮で一般的な乗騎や農耕魚、また食料などとしても利用されるキンギョは、深階から昇階して来る超越種族『深人』の一種だが、大人しくて知能も低く酪農に向く、家畜化された『渡り魚』の一種だと言う。
渡り魚には他にも肉食のピラニアや口から銃口を生やしたテッポウウオなども居るとの事。
まぁそんなのと比べたら、キンギョなんてカワイイものだろう。
「って言うか、何時の間にこんなにたくさん連れて来たのよ?」
小鬼農場には10匹を超えるキンギョがふよふよと泳いでいる。
農地と比べて意外に数が多い事に疑問を感じたルイズが尋ねると、ダッパ君がヒドイ答えをくれる。
――『牧場』の『施設』はこくみんになったモンスターをふやすこうかがあるんです――
「え? 農場ってそーゆー施設なの? 1匹からでも増えるの? 一日で?」
――はい。そうですがなにか?――
「なんの魔法よそれは。物理法則がおかしいにも程があるわよ百万迷宮。
それに、この前アンタ達が食べてた赤い魚って……」
ここに泳いでるキンギョは名目上国民。
そして国民とか小魚のうちに焼いて食べちゃったりするのだ。
百万迷宮はホント地獄だぜファハーハー!(AA略)
――ちなみに、クサみがつよいのでミンチにしたりマヨネーズやきにしたりするとタンパクなアジワイでおいしいです――
「いやーっ! 聞きたくない聞きたくないっ!」
桃色の髪をブンブン振り乱して、両耳をふさいで叫ぶルイズ。
いくらヤサグレていても良心ってモノがあるのだ。ちょっとだけ。
「そんな事よりクロビスは何処に居るのよ? 私に牧場と農地を見に来いって呼びつけたのはあの子なのよ?」
「おう、来たかルイズ! こっちだこっち!」
元気一杯で主人を呼び捨てにする使い魔。
とは言え、ルイズも国王を呼び捨てにする神官だからお互い様と言えるだろう。
むしろ傍目には仲の良い姉妹にも見えるぐらいだった。
そんなルイズの妹みたいなクロビス国王の声に、そちらへと行ってみると、すっかり旅装束を調えた小鬼王。
ぴかぴかに研ぎ上げたナイフと使い古した鎧、マントは普段のものではなくて毛皮の裏打ちされた暖かそうな物。
水筒や食料を腰に結び付けて、側らのキンギョにも荷物を括り付けている。
周囲に居る配下の小鬼達『国王親衛隊』も、粗末な布やおべんとうを身に付けて準備万端の様子だった。
「ナニやってんのよクロビス?」
「ナニって、これから野犬討伐に行くんだぞ。国民が安心して暮らせる環境をつくらんとな!」
勇気凛々で言い切るクロビス。
野犬に数回滅ぼされた国の国王のクセに、ちっともメゲてない。
「大丈夫なの、そんな事してて? まぁアンタは逃げ足だけは早いから平気とは思うけど。
とりあえず怪我には気をつけて、夕飯までには帰って来なさいよ」
「うーん、やつらは夜行性だから徹夜になると思うぞ。さあ、ルイズも早く仕度をするのだ!」
「――――――えっ?」
与えられたのは武器と鎧。
跨らされたのは専用の桃色キンギョ。
何がなんだか理解もしないうちに、野犬討伐に付き合わされるルイズであったとさ。
おまけの用語解説コーナー『百万迷宮の歩き方』
【エプロン】
コモン生活アイテム。つまり百万迷宮的には別にマジックアイテムでもなんでもない。
料理人は最初から持っている。でも3メガゴールドもする超高級品。
倒したモンスターから得た『素材』を全て『肉』に変えるという効果を持ち、
本文中にあるように機械だろうが情報だろうが肉に変えて食べられるように出来る。
更に職業『料理人』のキャラクターが使用して料理を作ると、食べた者の中からランダムで一人、
しばらくの間だけ元になったモンスターの能力を一つ習得できる効果が追加される。
結果、国王が火を吹いたり従者が飛行したり大臣が毒の胞子を撒いたりするように……
繰り返すがマジックアイテムでもなんでもない、ただのエプロンである。
【農地と牧場】
両方とも生産施設。
生活レベルが上昇する農地はともかく、国民になったモンスターを複製できる牧場は凶悪。
条件次第では白衣の天使とか淫魔とか養殖できます。エローイ。
どうやって増やしているのかはワリと謎。ツガイじゃなくても増やせるからなぁ……
ちなみに初版ルールブックでは『農地』の効果が生活レベルの上昇ではなくて、
軍事レベルを上昇させると誤字られていたと言うオマケな話がある。
一面に広がる農地によって最強の軍事国家を作り出す。
それはそれでシュールで良いかもしれない。
【『口から先に生まれた』ピピン】
星術師にして小鬼の『逸材』。小柄なメスの小鬼で瞳にキラキラ星が浮いている。
趣味は白馬の王子様が来てくれる日を夢見る事。好きな物は平穏な生活。
雨や寒さから身を守ったり、人の心根を外見に映し出すおまじないを使える。
とか決めたところで、ひょっこり死ぬのが小鬼だが。
逸材とは、国に様々な効果をもたらす職業を持った優秀な国民の事で、
ランドメーカー程では無いが並みの民よりは優れていると言う存在の事。
ちなみに星術師の効果は『農地が有ると国家予算が1MG増える』というもの。
【キンギョ】
りっぱな深人系1レベルモンスター。『飛行』と『かばう』というスキルを持つ。
深人は下級のものこそ単なる飛ぶ魚だが、
上級のものになると「ふんぐるいむ」とか「いあいあ」とか言い出す巨大な海産物になる。
そりゃもう一部の人が大好きな海の邪神様とか居ますよもう大好き。
でもコイツは単なる魚。百万迷宮では主要な動物性タンパク質。
迷宮化に適応できずほぼ絶滅した牛や馬に替わる貴重な家畜として運搬乗騎食料と大活躍。
なお同じく下級天使であるハトなどの鶏肉も百万迷宮の民達のごちそうである。
バチ当たりなハナシだと思いますよ実際。
【野犬の討伐】
わざわざこんな事するクロビスは良い王様だなぁ―――
とか思うかもしれないが、百万迷宮における小王国の宮廷の任務は大抵こんなモン。
民から要求される諸問題の解決こそが宮廷の存在意義と言っても良い。
でも野犬倒して凱旋帰国したら喝采で迎えられてパーティーとかあるから良いやん。
パーティーのメインになる「ごちそう」は倒した野犬の肉料理に違いないだろうけど。
#navi(ルイズ・キングダム!!)
私の名はルイズ・フランソワーズ・ド・ラ・ヴァリエール。
つい数日前まで『ゼロ』のルイズと蔑称されていたわ。
でも今はもう違う。
3日前の授業での事、前回の授業をサボった私に『赤土』のシュヴルーズ先生が復習のためにと『錬金』を行うように言ってきた。
クラスメイトは私が「また」爆発を起こすんじゃないかと顔を青くして見守っていたが、その時既に私はそれまでの私では無かったのだ。
颯爽とエプロンを身に付けて教壇へと歩く。
この『エプロン』は百万迷宮で使われる一般的なアイテムだが、マジックアイテムとしか思えない不思議な能力があった。
すなわち「どんな素材でも肉に変えて食べられるようにする」という効果だ。
木でも牙でも機械でも、果ては魔力や情報のようなカタチの無いようなモノまで肉に変える、百万迷宮脅威のクオリティ!
基本的に迷宮探索中に倒したモンスターを料理するのに使われるという事実は意図的に忘却した。
ともかく杖の代わりに包丁を振り、私は教壇に置かれた石コロをお肉に変える。
「うそっ!? ゼロのルイズが魔法を成功したわよ!?」
「すげぇ! 肉だ……」
「ああ、それも美味そうな肉だ……」
誰もが驚いて、教室がどよめいた。
いやしかしと生徒達は思いなおす。肉を『錬金』で生み出すことは、決して不可能では無いのだから。
彼等に挑戦的な視線を向けて、私はその肉を素早く捌いてサシミにしてショウガ醤油を付けて先生とクラスの皆に振舞ったのである。
「まぁっ! このお味は最高級のアルビオン牛の霜降りですわね!」
「これはっ……生姜醤油が霜降り脂のクドさを消して、見事に旨味だけをしっかりと伝えてくる。絶品だ」
「うーまーいーぞー!!」
「ってゆーか牛刺しとか醤油は無いだろう、ファンタジー的に考えて」
誰もがその絶品の味に舌鼓を打って喜んだ。
私はルイズ。職業は『料理人』。
そして新たに付けられた二つ名は『お肉のルイズ』
……うん。正直『ゼロ』のまんま方が良かった気がヒシヒシとしてるわよ。
<ルイズ・キングダム!!>
「むにゃむにゃ……早く魔導師になりたーい」
某妖怪人間のような寝言を呟いて、『お肉』のルイズは目を覚ました。
ちなみに一部食通の生徒の間では『最高級霜降り肉のルイズ』と呼ばれて、尊敬の念を向けられている事を本人は知らない。
もし知っても絶対喜ばないだろうけど。
目を覚ましたルイズは自分が腕の中にヌイグルミを抱いているのに気が付く。
茶色くて柔らかくて暖かい子犬みたいな……クロビスが居た。
一瞬ギョッとなるルイズだったが、そう言えば昨夜宮廷メンバーが自分の部屋に泊まりに来ていた事を思い出す。
「宮廷は雨が降ってきて大変なんだ」
そう言ってお休みセットを持って部屋まで押しかけてきたクロビス。
まぁ普通使い魔はよほど大型の物や水生の生き物を除いて主人の部屋に住むのが普通だから、クロビスのように自分で国を作って勝手に暮らす方がおかしい。
なので、ルイズは快く部屋に泊めてやる事にした。
そしたらダッパ君とオババと輿担ぎ四人とモークまで一緒に来たと言うワケだ。
「迷宮ではこんな、天井一面から降り注ぐ雨なんてめったに無いからねぇ。
有るとしても『雨の部屋』のように決まった場所か、雲神が気まぐれにやって来た時か、あるいは上の階で貯水池の底が抜けた時ぐらいのモノじゃしなぁ」
とはオババこと『話の長い』バゼバゼの弁。
空の無い百万迷宮では迷宮の壁に結露した露を集めたり、井戸を掘ったり水路を引いたりするのが普通で、ハルケギニアのような『雨』はあまり無いから宮廷の建物も雨対策がしていないと言う。
最初は珍しさに大騒ぎしていたクロビス達も、雨漏りする中で寝るのは流石に嫌だったので、ルイズの部屋を訪ねてきたのだ。
その結果、クロビスはルイズと一緒にベッドの中。
ダッパ君とモークは部屋の隅で毛布を敷いて。
オババは自分の輿に布団を敷いて眠ることになったのが昨夜。
気が付けば雨が上って良い天気になっていた。
――あ、おはようございます――
「おはようダッパ君。良い天気ね」
昨日この部屋で夕食として食べていた鍋物を温めなおしながら、ルイズの起床に気が付いたダッパ君が挨拶してくる。
「二度と同じ味わい無し」と言われるほどテキトーに作られた小鬼汁を部屋の中で調理しているが煙は出ない。
迷宮で貴重な光熱元として使用される『星』のカケラを使って温めているからだ。
世界が迷宮に沈むより前、『天空』と呼ばれる場所で輝いていたと伝えられる『星』は、
迷宮に住む人々の間で無くてはならない物として採集されたり収穫されたり採掘されたりしている。
それが本当にハルケギニアの夜空に浮かぶ星と同じものかは、ルイズにもダッパ君にも判らない事だった。
グツグツと煮え始める小鬼汁を横目に、手早く洗顔の仕度と着替えの世話とピンクブロンドの髪のブラッシングをしてくれるダッパ君は、やはり従者としてとても優秀だ。
「うーんムニャムニャ。もう食べられ……たくないぃ」
ルイズの身支度が終わる頃、クロビスがちょっとグロい寝言を最後にムクリと起きてきた。
小鬼汁の匂いにつられてか、オババ達も起きてくる。
「いただきまーす!」「母神様に感謝じゃ」「…………」――おかわりありますよ――
何処から出したのか折りたたみ式の短い脚が付いたテーブル「ちゃぶ台」を置いて、小鬼達の朝食が始まった。
それを横目に食堂に向かうルイズ。
以前に使い魔との親交を深めるために食事を共にする事も考えたルイズだったが、その考えはもう改めた。
召喚の翌日にごちそうになった小鬼汁はなんとも表現できない怪奇な味だったから。
それにゴキブリとか食うらしいし。毒々しい太った赤い魚とかも食べていたし。
そんな事もあって、使い魔の食生活にはなるべく手も口も出さない事にしたルイズだった。
ただ、ゴキブリを食べるのだけは禁止しておこうと注意はしたが。
そしたら「学院内のはもうほとんど食べつくしたからなぁ」とか答えられて戦慄したものだ。
「食事の前に嫌なこと思い出しちゃった……」
少し食欲をなくしながら、食堂へと向かうルイズであった。
「親方! お肉のルイズ様がいらっしゃいましたー!」
「おおっ! ようこそ、ラ・ヴァリエール公爵令嬢!!
存分に食って……じゃねぇ、お召し上がりくださいませ」
食堂に入ると、料理長であるマルトー親方の手厚い歓迎を受けるルイズ。
彼女のテーブルの前にだけ、それはそれは豪華な、とても朝食とは思えない食事が用意されていた。
一昨日、『お肉』のメイジとして学院に一躍名を轟かせたルイズはマルトー親父から挑戦を受けた。
尾鰭がついたウワサの中に「食堂の料理よりウマイ」というのが有ったのがそもそもの原因。
そのせいで、たとえ貴族様が相手だろうと、学生に料理の事で引けをとるとは思えない。
料理人のプライドをかけて勝負すると、親方が決闘を申し込んできたのだ。
そうして、二人の熱い料理バトルは繰り広げられた。
具体的に書くと単行本数十冊の大作になるであろう壮絶な戦いは、小鬼が持ち込んだ謎の調味料によって決着する。
白いドロッとした粘液。
ピュアセレクトマヨネーズと呼ばれるらしい、ある百万迷宮のモンスターを倒すと手に入るというその調味料は、甘辛くコク深く、誰もを魅了する天上の美味をルイズの料理にもたらしたのだった。
勝負に敗れ学院を去ると言い出した親方を、ルイズは必死に説得して留めた。
そんな理由で去られては本気で困るからだ。
これからはお前が料理を作れとか言われたら迷惑だし、厨房の人々に恨まれてギーシュの二の舞はゴメンである。
だいたい『料理人』である自分はルイズにとって最高に不本意なので、勝ったからと言って嬉しくなど無い。
だから色々ともっともらしくて立派そうな理由を並べ立てて親方を止めたのだが、そのせいでルイズはマルトー以下厨房の人々から素晴らしい貴族だと尊敬される事となった。
「おうシエスタ! ヴァリエール様のために秘蔵のワインを開けてくれ!」
「はい! よろこんで!」
どこの居酒屋だメイド。
そんな感じで、今朝も早朝からカロリー過多なルイズであった。
「うらやましいよ『お肉』のルイズ。僕なんていまだに『血塗れ』のギーシュなのに……」
教室で、まだ彼女や友達からも微妙に避けられているギーシュが恨み言を言ってきた。
「……私だって『お肉』なんて二つ名は不本意よ」
憮然として言い返すルイズ。
そのまま二人でハァーっと溜め息をつく。
勝つとか負けるとか、名誉とか、本当の強さとかって何だろう。
そんな、ある意味貴族らしい悩みを思う二人の若者でありました。
その日の午後、ルイズは『王国』の視察に出かけた。
もちろん彼女が所属するトリステイン王国ではなくて、小鬼王国こと『新・古代魔神路地裏連合マジカル小鬼同盟横丁』に、だ。
先日新しく作ったという『農場』と『牧場』は王宮の裏手にある。
大臣コルベール先生の研究室の裏手で耕されている田んぼの上に、キラキラと輝く『星』が浮かぶ。
世界が迷宮に覆われた彼等の世界では、このような『星』を使うのが農業の基本。
熱と光を放つ星を管理しているのは、『逸材』と呼ばれる他の小鬼よりちょっとだけ優秀な小鬼だった。
星と対話し、その力を借りる星術に特化した職業『星術師』の小鬼『口から先に生まれた』ピピン。
ピンクのリボンをつけたその小鬼は、小鬼のクセにルイズも使えない魔術を使うのだった。
「泣かないわよ! こんな事で泣くもんですか!」orz<ルイズ
そんな感じで劣等感を刺激されながら農場を見回る。
とは言っても、まだ出来たばかりの農場には耕されてタネをまかれたむき出しの土しか無いのだが。
開墾作業で更に農地を広げようと頑張る小鬼や、水撒きの作業を続ける小鬼。
遅めの昼食に小鬼汁の鍋を囲んで和気藹々と過ごす、傍らに鋤を立てかけた小鬼達。
そこには小さいながらも平和な田園風景が広がっていた。
おもいっきり学院の敷地内なのだけど。
向こうではメイドさんが洗濯物とか干してる。そしてレンタル小鬼が手伝ってる。
ちょっとシュールだった。
「いーのかしら、コレ……まぁ誰も文句言ってないから良いか」
考えるのは怒られてからで良いと、最近すっかりC調になったルイズは諦める。
明るい農村を横目に、次は牧場を見に行く。
牛とか馬とかって小鬼より大きいわよねー、どうしてんのかしらーとか考えていたら、そこには予想もしていなかったモノが飼われていたり。
「……ナニコレ?」
ルイズの目の前を悠々と泳ぐキンギョ。
毒々しいぐらい赤くて丸々と太った、ヒラヒラした大きなヒレが印象的なアレである。
アレが、子牛や羊ぐらいのサイズで空中をふよふよと泳いでいる姿を想像してもらいたい。
ギョロリとした巨大な目のどこに向いてるのかワカンナイ視線が正直キモイ。
百万迷宮で一般的な乗騎や農耕魚、また食料などとしても利用されるキンギョは、深階から昇階して来る超越種族『深人』の一種だが、大人しくて知能も低く酪農に向く、家畜化された『渡り魚』の一種だと言う。
渡り魚には他にも肉食のピラニアや口から銃口を生やしたテッポウウオなども居るとの事。
まぁそんなのと比べたら、キンギョなんてカワイイものだろう。
「って言うか、何時の間にこんなにたくさん連れて来たのよ?」
小鬼農場には10匹を超えるキンギョがふよふよと泳いでいる。
農地と比べて意外に数が多い事に疑問を感じたルイズが尋ねると、ダッパ君がヒドイ答えをくれる。
――『牧場』の『施設』はこくみんになったモンスターをふやすこうかがあるんです――
「え? 農場ってそーゆー施設なの? 1匹からでも増えるの? 一日で?」
――はい。そうですがなにか?――
「なんの魔法よそれは。物理法則がおかしいにも程があるわよ百万迷宮。
それに、この前アンタ達が食べてた赤い魚って……」
ここに泳いでるキンギョは名目上国民。
そして国民とか小魚のうちに焼いて食べちゃったりするのだ。
百万迷宮はホント地獄だぜファハーハー!(AA略)
――ちなみに、クサみがつよいのでミンチにしたりマヨネーズやきにしたりするとタンパクなアジワイでおいしいです――
「いやーっ! 聞きたくない聞きたくないっ!」
桃色の髪をブンブン振り乱して、両耳をふさいで叫ぶルイズ。
いくらヤサグレていても良心ってモノがあるのだ。ちょっとだけ。
「そんな事よりクロビスは何処に居るのよ? 私に牧場と農地を見に来いって呼びつけたのはあの子なのよ?」
「おう、来たかルイズ! こっちだこっち!」
元気一杯で主人を呼び捨てにする使い魔。
とは言え、ルイズも国王を呼び捨てにする神官だからお互い様と言えるだろう。
むしろ傍目には仲の良い姉妹にも見えるぐらいだった。
そんなルイズの妹みたいなクロビス国王の声に、そちらへと行ってみると、すっかり旅装束を調えた小鬼王。
ぴかぴかに研ぎ上げたナイフと使い古した鎧、マントは普段のものではなくて毛皮の裏打ちされた暖かそうな物。
水筒や食料を腰に結び付けて、側らのキンギョにも荷物を括り付けている。
周囲に居る配下の小鬼達『国王親衛隊』も、粗末な布やおべんとうを身に付けて準備万端の様子だった。
「ナニやってんのよクロビス?」
「ナニって、これから野犬討伐に行くんだぞ。国民が安心して暮らせる環境をつくらんとな!」
勇気凛々で言い切るクロビス。
野犬に数回滅ぼされた国の国王のクセに、ちっともメゲてない。
「大丈夫なの、そんな事してて? まぁアンタは逃げ足だけは早いから平気とは思うけど。
とりあえず怪我には気をつけて、夕飯までには帰って来なさいよ」
「うーん、やつらは夜行性だから徹夜になると思うぞ。さあ、ルイズも早く仕度をするのだ!」
「――――――えっ?」
与えられたのは武器と鎧。
跨らされたのは専用の桃色キンギョ。
何がなんだか理解もしないうちに、野犬討伐に付き合わされるルイズであったとさ。
おまけの用語解説コーナー『百万迷宮の歩き方』
【エプロン】
コモン生活アイテム。つまり百万迷宮的には別にマジックアイテムでもなんでもない。
料理人は最初から持っている。でも3メガゴールドもする超高級品。
倒したモンスターから得た『素材』を全て『肉』に変えるという効果を持ち、
本文中にあるように機械だろうが情報だろうが肉に変えて食べられるように出来る。
更に職業『料理人』のキャラクターが使用して料理を作ると、食べた者の中からランダムで一人、
しばらくの間だけ元になったモンスターの能力を一つ習得できる効果が追加される。
結果、国王が火を吹いたり従者が飛行したり大臣が毒の胞子を撒いたりするように……
繰り返すがマジックアイテムでもなんでもない、ただのエプロンである。
【農地と牧場】
両方とも生産施設。
生活レベルが上昇する農地はともかく、国民になったモンスターを複製できる牧場は凶悪。
条件次第では白衣の天使とか淫魔とか養殖できます。エローイ。
どうやって増やしているのかはワリと謎。ツガイじゃなくても増やせるからなぁ……
ちなみに初版ルールブックでは『農地』の効果が生活レベルの上昇ではなくて、
軍事レベルを上昇させると誤字られていたと言うオマケな話がある。
一面に広がる農地によって最強の軍事国家を作り出す。
それはそれでシュールで良いかもしれない。
【『口から先に生まれた』ピピン】
星術師にして小鬼の『逸材』。小柄なメスの小鬼で瞳にキラキラ星が浮いている。
趣味は白馬の王子様が来てくれる日を夢見る事。好きな物は平穏な生活。
雨や寒さから身を守ったり、人の心根を外見に映し出すおまじないを使える。
とか決めたところで、ひょっこり死ぬのが小鬼だが。
逸材とは、国に様々な効果をもたらす職業を持った優秀な国民の事で、
ランドメーカー程では無いが並みの民よりは優れていると言う存在の事。
ちなみに星術師の効果は『農地が有ると国家予算が1MG増える』というもの。
【キンギョ】
りっぱな深人系1レベルモンスター。『飛行』と『かばう』というスキルを持つ。
深人は下級のものこそ単なる飛ぶ魚だが、
上級のものになると「ふんぐるいむ」とか「いあいあ」とか言い出す巨大な海産物になる。
そりゃもう一部の人が大好きな海の邪神様とか居ますよもう大好き。
でもコイツは単なる魚。百万迷宮では主要な動物性タンパク質。
迷宮化に適応できずほぼ絶滅した牛や馬に替わる貴重な家畜として運搬乗騎食料と大活躍。
なお同じく下級天使であるハトなどの鶏肉も百万迷宮の民達のごちそうである。
バチ当たりなハナシだと思いますよ実際。
【野犬の討伐】
わざわざこんな事するクロビスは良い王様だなぁ―――
とか思うかもしれないが、百万迷宮における小王国の宮廷の任務は大抵こんなモン。
民から要求される諸問題の解決こそが宮廷の存在意義と言っても良い。
でも野犬倒して凱旋帰国したら喝采で迎えられてパーティーとかあるから良いやん。
パーティーのメインになる「ごちそう」は倒した野犬の肉料理に違いないだろうけど。
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