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「エンジェリック・ゼロ-3」(2008/02/28 (木) 17:47:04) の最新版変更点
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学院で働く使用人達の朝は早い。
ここで学ぶ生徒達や、その生徒を教える教師達――即ち貴族――の身の回りの世話を行う
為、彼等の一日は夜明け前より始まる。
ある者は貴族達に出す朝食の準備に取り掛かり、ある者は前日に出された洗濯物を洗い始
める。
使用人の一人、シエスタも洗濯物が詰め込まれた籠を両手に抱えながら、水場へと向かっ
ていた。
季節は春を迎えたとはいえ、朝の空気はまだ少し冷たい。
だが、その冷たさが肌を通して、寝起きの体に心地好く伝わってくる。
シエスタはこの季節の朝の空気が好きだった。
そんな心地好さに浸っていると、何処からか歌声が聴こえて来た。
優しく、綺麗な声で奏でられる不思議な旋律。
街で流行っている歌や、シエスタが幼い頃に聴かされた故郷に伝わる古い歌とも違う、知
らない歌。
だけど、その音色は心に安らぎを与えてくれる。そんな歌だった。
「誰が歌ってるのかしら…」
シエスタが歌声の主を探す様に視線を向けると、遠くで一人の少女が歌っていた。
両手を胸の辺りで組み、祈るように歌っている。時折吹く風の冷たさも気にせずに。
「素敵な歌ね。」
「うぅ…?」
行き成り声を掛けたのがいけなかったのか、少女は少し驚いた顔で此方を振り向いた。
「あっ、邪魔しちゃってごめんね。あなたの歌声が素敵だったから、つい…」
少女は首を横に振る。歌を中断された事は気にしていない様だ。
(どこの子かしら…)
仕事柄、シエスタも毎日、生徒達に接しているが、この少女の顔は見覚えが無い。
迷子かとも考えてみたが、近くに人家は無いし、最寄の街までは馬を使っても、2時間は
掛かる。
迷子なったとしても少女の足だけで、ここにたどり着く事は到底無理だろう。
他にも考えを巡らせていると、ある事を思い出した。
それは昨日の使い魔召喚の儀式で、ミス・ヴァリエールが平民の少女を呼び出したという
同僚と世間話をしていた時に出た話題だった。
ひょっとしたらと思い、少女に尋ねてみる。
「あなた、もしかしてミス・ヴァリエールの使い魔さん?」
少女は頷く。先程から一言も喋らないが、きっと恥ずかしがり屋なのだろうと思いつつ
言葉を続ける。
「私はシエスタって言うの。あなたのお名前は?」
ルイズは森の中を彷徨っていた。辺りは深い霧に包まれ、遠くが良く見えない。
「もう! 霧が濃くて全然前が見えないじゃない! だいたい、ここ何処よ!」
独り言とは思えない程の大声を出しながら歩いていると、目の前の霧が晴れて小さな泉が
現れた。
清水を湛えて煌いており、幻想的な空間を作り出している。
ルイズは首を傾げながらも、周囲の様子を伺う。
「さっきまで寝てたはずなのに……ってことは、ここは夢の中?」
「そう、ここは夢の中。あなたは夢を見てるのよ。」
「だ、誰?」
不意に優しい声がしたので、驚いて視線を向けると、そこには一人の少女だ立っていた。
赤い瞳に、腰まで伸びた柔らかな赤い髪。その表情は嬉しそうで、そしてほんの少しだけ
哀しみを浮かべていた。
「あの子に…近寄っちゃ駄目だよ?」
「あの子? あの子って誰よ!」
「あなたが召喚した女の子の事よ。」
「どうしてラスティの事、知ってるのよ! そもそもここは何処!? あんたは誰よ!」
苛立つルイズを余所に、少女は語り続ける。
「私はステファ。そしてここは力の回廊。あなたが見ている夢の中なんだけど
ただの夢じゃないんだよ。」
「ここが夢の中なのは、いいとして…ラスティに近づくなって、どういうこと?」
「ごめん……言えないの…」
ステファは酷く悲しそうな顔をしている。
ルイズは彼女の表情を見て、これ以上の質問をする事が出来なくなっていた。
「言えない事情があるんなら、別に言わなくてもいいわよ…」
「ふふ…ありがと。あなたって優しいんだね。」
「そ、そんな事無いわよ!」
気恥ずかしさから、顔を真っ赤にして怒るルイズ。
「じゃあ、これだけは教えて。どうしてラスティは喋る事が出来ないの?」
「それも……言えないの…」
「だから何でっ!」
理由が判らないのでは、いくら何でも納得が行かない。少しでもあの子の事が知りたいのに。
「もう駄目……これ以上、ここには居られない…」
彼女は少しだけ顔を歪め、苦しそうに言った。
「どういうこと?」
「とにかく、駄目ったら駄目だからね。」
「ちょっと待ってよ!」
「これ以上近づいたら、ダメイジ受けるからね。」
「え?」
「えーっと、今のはダメとメイジとダメージを引っ掛けたギャグなんだけど……あなた
メイジだから特別に作ってみたの。」
寒い。トライアングルクラスの氷魔法を受けたみたいな寒さだ。
「くだらないギャグ言うんだったら、質問に答えろーっ!」
「駄目ったら駄目なんだからねーっ!」
ステファの声が届くと同時に、辺りが白い霧に包まれる。
次第に遠ざかる彼女の姿を見ながら、ルイズは言いようの無い脱力感に襲われた。
「うーん……ダメイジって何なのよぉ……まるで私がダメなメイジみたいじゃない……
はっ、ここは?」
何時も見慣れた自分の部屋。そして、ベッド。
目の前ではラスティが心配そうに此方を覗き込んでいた。
夢を見ていたのだろうか。夢にしてはとても鮮明だった。
あのステファという少女は何者だろう。ラスティの事を知っているみたいだけど。
唯一判ることは、キャグが途轍もなく寒い事くらいだ。
ベッドの傍らの置時計を見ると朝食の時間が迫っていたので、起きることにした。
「これから朝食の時間なの。今、着替えるから待ってて。」
「あぅ」
ラスティが頷くのを見てから、着替え始める。
彼女にも着替えを手伝わせようと思ったが、だらしないと思われるのも嫌なので、自分で
着替える事にした。
洗濯物は後で使用人に頼もう。
洗顔の為の水はラスティが汲んで置いてくれた。随分と手際が良い。
「お待たせ。行きましょ、ラスティ。」
身支度が終わった所でラスティを伴って、扉を開けて廊下に出る。
「おはよう、ルイズ。」
毎日、顔を合わせる嫌な奴と出くわした。
燃える様な赤い髪に、褐色の肌。はだけた胸元からは、零れ落ちそうな程の豊かな胸を覗
かせている。
「…おはよう、キュルケ。」
「何よ、随分と嫌そうね…まあ、いいわ。それより、ほんとに人間なのね。それにこんな
小さい女の子を呼び出しちゃうなんて。」
「うるさいわね。」
ルイズはキュルケの嫌味にムッとする。
ラスティも少し怒った顔をしている。『小さい』と言われた事を気にしているのだろう。
「でも、使い魔にするなら、こうゆうのが常識よねー。フレイムー。」
彼女の部屋から、赤く、巨大なトカゲが現れる。尻尾は燃える炎で出来ており、口からは
時折小さな火を吐き出していた。その迫力にラスティは思わず後ずさった。
「あら、怖いの? でも大丈夫よ。あたしの命令無しじゃ、襲ったりしないから。」
「それ、サラマンダーじゃない?」
「そうよー。間違いなく火竜山脈のサラマンダーよー。好事家に見せたら、値段なんか付
かないプレミア物よー。」
「はいはい、それはおめでたいわね。」
ルイズは悔しそうに言った。ラスティはルイズの背後からフレイムの様子を伺っている。
「でも、あんたには勿体無いわよねー。こんなに可愛いのに。」
キュルケはラスティの腕を掴むと、自分の胸元に抱き寄せ、彼女の頭を軽く撫で始めた。
キュルケの胸が顔に当たる。柔らかな感触に、ラスティは顔を赤らめた。
「ち、ちょっと。人の使い魔を勝手に取らないでよ!」
「いいじゃない。だって、可愛いんだもの。それより、あなた、お名前は?」
ラスティは顔を赤らめたまま、何も答えない。代わりにルイズが答える。
「ラスティ。ラスティ・ファースンよ。」
「あんたに聞いてるんじゃないの。あたしはこの子に聞いてるのよ。」
「ラスティは小さい時に患った病気のせいで、喋れないのよ。」
「なに言ってるのよ。今朝、歌ってたじゃない。」
「へ? 歌?」
ルイズは素っ頓狂な声で聞き返してしまった。歌えるなんて初めて聞いた。喋れない筈な
のに。
「朝起きたら、ラスティが外で歌ってるのが窓から見えたのよ。使い魔の能力に真っ先に
気付かないなんて、主として失格ねー。」
「う、うるさいわね! その時はまだ寝てたから、気付かなかっただけよ!」
ルイズはそう叫ぶと、ラスティをキュルケから無理矢理引き剥がした。
「あらそう。でも、素敵だったわぁ。あの歌声……あたしの燃え上がりすぎて渇いた心に
潤いを与えてくれるの。まるで天使の様に……そう、天使よ。あたしが『微熱』なら
ラスティは『天使』よ。」
「キュルケ…自分の世界に入ってるところ悪いんだけど、早くしないと朝食の時間終わっ
ちゃうわよ。」
「あら、そうだったわね。じゃあね、ラスティ。今度また、あなたの歌をゆっくり聴かせ
てねー。」
キュルケはそう言う残すと、フレイムと共に去っていった。
「ラスティ。あのツェルプストーの女には付いて行っちゃ駄目よ。何されるか判らないん
だから。」
「あぅ?」
ラスティは判った様な、判らない様な顔で首を傾げる。
「私のヴァリエール家はね、先祖代々、キュルケのツェルプストー家に様々な物を取られ
ているのよ! 恋人や婚約者、果てはスプーンの一本もね! だから、あなたまであの女
に取られたくないの!」
彼女のあまりの迫力に、ラスティは納得した。この話題にはあまり触れない方が良いと。
「まあ、ここで怒ってもしょうがないけどね。じゃ、行きましょ。ラスティ。」
二人は食堂へと向かった。
#navi(エンジェリック・ゼロ)
学院で働く使用人達の朝は早い。
ここで学ぶ生徒達や、その生徒を教える教師達――即ち貴族――の身の回りの世話を行う
為、彼等の一日は夜明け前より始まる。
ある者は貴族達に出す朝食の準備に取り掛かり、ある者は前日に出された洗濯物を洗い始
める。
使用人の一人、シエスタも洗濯物が詰め込まれた籠を両手に抱えながら、水場へと向かっ
ていた。
季節は春を迎えたとはいえ、朝の空気はまだ少し冷たい。
だが、その冷たさが肌を通して、寝起きの体に心地好く伝わってくる。
シエスタはこの季節の朝の空気が好きだった。
そんな心地好さに浸っていると、何処からか歌声が聴こえて来た。
優しく、綺麗な声で奏でられる不思議な旋律。
街で流行っている歌や、シエスタが幼い頃に聴かされた故郷に伝わる古い歌とも違う、知
らない歌。
だけど、その音色は心に安らぎを与えてくれる。そんな歌だった。
「誰が歌ってるのかしら…」
シエスタが歌声の主を探す様に視線を向けると、遠くで一人の少女が歌っていた。
両手を胸の辺りで組み、祈るように歌っている。時折吹く風の冷たさも気にせずに。
「素敵な歌ね。」
「うぅ…?」
行き成り声を掛けたのがいけなかったのか、少女は少し驚いた顔で此方を振り向いた。
「あっ、邪魔しちゃってごめんね。あなたの歌声が素敵だったから、つい…」
少女は首を横に振る。歌を中断された事は気にしていない様だ。
(どこの子かしら…)
仕事柄、シエスタも毎日、生徒達に接しているが、この少女の顔は見覚えが無い。
迷子かとも考えてみたが、近くに人家は無いし、最寄の街までは馬を使っても、2時間は
掛かる。
迷子なったとしても少女の足だけで、ここにたどり着く事は到底無理だろう。
他にも考えを巡らせていると、ある事を思い出した。
それは昨日の使い魔召喚の儀式で、ミス・ヴァリエールが平民の少女を呼び出したという
同僚と世間話をしていた時に出た話題だった。
ひょっとしたらと思い、少女に尋ねてみる。
「あなた、もしかしてミス・ヴァリエールの使い魔さん?」
少女は頷く。先程から一言も喋らないが、きっと恥ずかしがり屋なのだろうと思いつつ
言葉を続ける。
「私はシエスタって言うの。あなたのお名前は?」
ルイズは森の中を彷徨っていた。辺りは深い霧に包まれ、遠くが良く見えない。
「もう! 霧が濃くて全然前が見えないじゃない! だいたい、ここ何処よ!」
独り言とは思えない程の大声を出しながら歩いていると、目の前の霧が晴れて小さな泉が
現れた。
清水を湛えて煌いており、幻想的な空間を作り出している。
ルイズは首を傾げながらも、周囲の様子を伺う。
「さっきまで寝てたはずなのに……ってことは、ここは夢の中?」
「そう、ここは夢の中。あなたは夢を見てるのよ。」
「だ、誰?」
不意に優しい声がしたので、驚いて視線を向けると、そこには一人の少女だ立っていた。
赤い瞳に、腰まで伸びた柔らかな赤い髪。その表情は嬉しそうで、そしてほんの少しだけ
哀しみを浮かべていた。
「あの子に…近寄っちゃ駄目だよ?」
「あの子? あの子って誰よ!」
「あなたが召喚した女の子の事よ。」
「どうしてラスティの事、知ってるのよ! そもそもここは何処!? あんたは誰よ!」
苛立つルイズを余所に、少女は語り続ける。
「私はステファ。そしてここは力の回廊。あなたが見ている夢の中なんだけど
ただの夢じゃないんだよ。」
「ここが夢の中なのは、いいとして…ラスティに近づくなって、どういうこと?」
「ごめん……言えないの…」
ステファは酷く悲しそうな顔をしている。
ルイズは彼女の表情を見て、これ以上の質問をする事が出来なくなっていた。
「言えない事情があるんなら、別に言わなくてもいいわよ…」
「ふふ…ありがと。あなたって優しいんだね。」
「そ、そんな事無いわよ!」
気恥ずかしさから、顔を真っ赤にして怒るルイズ。
「じゃあ、これだけは教えて。どうしてラスティは喋る事が出来ないの?」
「それも……言えないの…」
「だから何でっ!」
理由が判らないのでは、いくら何でも納得が行かない。少しでもあの子の事が知りたいのに。
「もう駄目……これ以上、ここには居られない…」
彼女は少しだけ顔を歪め、苦しそうに言った。
「どういうこと?」
「とにかく、駄目ったら駄目だからね。」
「ちょっと待ってよ!」
「これ以上近づいたら、ダメイジ受けるからね。」
「え?」
「えーっと、今のはダメとメイジとダメージを引っ掛けたギャグなんだけど……あなた
メイジだから特別に作ってみたの。」
寒い。トライアングルクラスの氷魔法を受けたみたいな寒さだ。
「くだらないギャグ言うんだったら、質問に答えろーっ!」
「駄目ったら駄目なんだからねーっ!」
ステファの声が届くと同時に、辺りが白い霧に包まれる。
次第に遠ざかる彼女の姿を見ながら、ルイズは言いようの無い脱力感に襲われた。
「うーん……ダメイジって何なのよぉ……まるで私がダメなメイジみたいじゃない……
はっ、ここは?」
何時も見慣れた自分の部屋。そして、ベッド。
目の前ではラスティが心配そうに此方を覗き込んでいた。
夢を見ていたのだろうか。夢にしてはとても鮮明だった。
あのステファという少女は何者だろう。ラスティの事を知っているみたいだけど。
唯一判ることは、キャグが途轍もなく寒い事くらいだ。
ベッドの傍らの置時計を見ると朝食の時間が迫っていたので、起きることにした。
「これから朝食の時間なの。今、着替えるから待ってて。」
「あぅ」
ラスティが頷くのを見てから、着替え始める。
彼女にも着替えを手伝わせようと思ったが、だらしないと思われるのも嫌なので、自分で
着替える事にした。
洗濯物は後で使用人に頼もう。
洗顔の為の水はラスティが汲んで置いてくれた。随分と手際が良い。
「お待たせ。行きましょ、ラスティ。」
身支度が終わった所でラスティを伴って、扉を開けて廊下に出る。
「おはよう、ルイズ。」
毎日、顔を合わせる嫌な奴と出くわした。
燃える様な赤い髪に、褐色の肌。はだけた胸元からは、零れ落ちそうな程の豊かな胸を覗
かせている。
「…おはよう、キュルケ。」
「何よ、随分と嫌そうね…まあ、いいわ。それより、ほんとに人間なのね。それにこんな
小さい女の子を呼び出しちゃうなんて。」
「うるさいわね。」
ルイズはキュルケの嫌味にムッとする。
ラスティも少し怒った顔をしている。『小さい』と言われた事を気にしているのだろう。
「でも、使い魔にするなら、こうゆうのが常識よねー。フレイムー。」
彼女の部屋から、赤く、巨大なトカゲが現れる。尻尾は燃える炎で出来ており、口からは
時折小さな火を吐き出していた。その迫力にラスティは思わず後ずさった。
「あら、怖いの? でも大丈夫よ。あたしの命令無しじゃ、襲ったりしないから。」
「それ、サラマンダーじゃない?」
「そうよー。間違いなく火竜山脈のサラマンダーよー。好事家に見せたら、値段なんか付
かないプレミア物よー。」
「はいはい、それはおめでたいわね。」
ルイズは悔しそうに言った。ラスティはルイズの背後からフレイムの様子を伺っている。
「でも、あんたには勿体無いわよねー。こんなに可愛いのに。」
キュルケはラスティの腕を掴むと、自分の胸元に抱き寄せ、彼女の頭を軽く撫で始めた。
キュルケの胸が顔に当たる。柔らかな感触に、ラスティは顔を赤らめた。
「ち、ちょっと。人の使い魔を勝手に取らないでよ!」
「いいじゃない。だって、可愛いんだもの。それより、あなた、お名前は?」
ラスティは顔を赤らめたまま、何も答えない。代わりにルイズが答える。
「ラスティ。ラスティ・ファースンよ。」
「あんたに聞いてるんじゃないの。あたしはこの子に聞いてるのよ。」
「ラスティは小さい時に患った病気のせいで、喋れないのよ。」
「なに言ってるのよ。今朝、歌ってたじゃない。」
「へ? 歌?」
ルイズは素っ頓狂な声で聞き返してしまった。歌えるなんて初めて聞いた。喋れない筈な
のに。
「朝起きたら、ラスティが外で歌ってるのが窓から見えたのよ。使い魔の能力に真っ先に
気付かないなんて、主として失格ねー。」
「う、うるさいわね! その時はまだ寝てたから、気付かなかっただけよ!」
ルイズはそう叫ぶと、ラスティをキュルケから無理矢理引き剥がした。
「あらそう。でも、素敵だったわぁ。あの歌声……あたしの燃え上がりすぎて渇いた心に
潤いを与えてくれるの。まるで天使の様に……そう、天使よ。あたしが『微熱』なら
ラスティは『天使』よ。」
「キュルケ…自分の世界に入ってるところ悪いんだけど、早くしないと朝食の時間終わっ
ちゃうわよ。」
「あら、そうだったわね。じゃあね、ラスティ。今度また、あなたの歌をゆっくり聴かせ
てねー。」
キュルケはそう言う残すと、フレイムと共に去っていった。
「ラスティ。あのツェルプストーの女には付いて行っちゃ駄目よ。何されるか判らないん
だから。」
「あぅ?」
ラスティは判った様な、判らない様な顔で首を傾げる。
「私のヴァリエール家はね、先祖代々、キュルケのツェルプストー家に様々な物を取られ
ているのよ! 恋人や婚約者、果てはスプーンの一本もね! だから、あなたまであの女
に取られたくないの!」
彼女のあまりの迫力に、ラスティは納得した。この話題にはあまり触れない方が良いと。
「まあ、ここで怒ってもしょうがないけどね。じゃ、行きましょ。ラスティ。」
二人は食堂へと向かった。
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