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#navi(ゼロの少女と紅い獅子)
「成るほど、大体のことは分かったわい」
オールド・オスマンが眠そうに目をこすりながら応答する。無理も無い、彼はつい先程熟睡していたところを
緊急だと言う理由でたたき起こされ、寝巻きの上にローブを羽織ったまま学院長室の椅子に腰掛けていた。
彼の目の前には騒ぎを起こし、また盗賊の目撃者であるゲンとギーシュ、賊を目撃しているシエスタ、ゲンの主である
ルイズが立っている。四人とも直立不動だ、特にシエスタは心なしか震えているようにも見える。
「それにしても土系のメイジの盗賊とは例の土くれですかな?」
机の脇に控えていたコレベールが口を開く。彼はこの時間までゲンの左手に現れたルーンの調査を行っていたのだ、
成果があったらしく脇には栞をいくつか挟んだ大きな本を一冊抱えている。
「まあ、そうじゃろうな。大方何処ぞで怪物騒ぎを聞きつけてきたんじゃろうて。それにしても警備はどうなっとるのかの?」
もっとも、オールド・オスマン自身まさか盗賊に目をつけられるとは思っていなかったので、それ以上はぼやかない。
彼は改めて目の前の四人を眺め回すて再び口を開く。
「まあ、ええわい。こんな時間に君らが何をしてたのかは聞かんとこう。そんな事をしても無駄じゃい。第一わしゃ眠い」
話は終わりとばかりに退室を促すオールド・オスマン。四人はそれぞれに一礼して出て行った。部屋には彼とコルベール
のみが残った。
「引き分け……のう」
先程までの眠気眼が嘘のように鋭い目つきになる。
「ドットとは言え、そうそう平民には遅れは取るまいて。お前さんの与太話があたっとるかもな」
「与太とは失礼ですな」
苦笑しながらコルベールが脇の本を開く。本の題名は『始祖ブリミルの使い魔たち』図書館の奥でほこりを被っていた
古い本である、そのあるページを開いてみせる。
そこにはゲンの左手に現れたルーンが記されていた。
「始祖ブリミルの使い魔ガンダールヴ、主が呪文を唱える時間を身を挺して稼ぐ盾の使い魔、か」
「その戦力は一騎当千、メイジでも相当の使い手でなければ歯が立たないとか」
二人はそこで言葉を切って暫らく沈黙した、そして双方目が会うとどちらともなくニヤリと笑った。
「伝説の上では、な」
「伝説の上では、ですな」
オールド・オスマンはドッと椅子に身を預けて肩を鳴らす。
「ま、しかし注意深く観察するに越した事はあるまい。任せてよいな?」
「はい、お任せください。」
学院長室を出ると同時にシエスタは三人にペコリと頭を下げると慌てて階下に降りていった。彼女はまだ
仕事が残っている。理由はどうあれ貴族とつるんで仕事が遅れたとなれば、コック長のマルトーに何を言われるか分からなかった。
そのシエスタの姿が消えると同時にゲンの尻をルイズが蹴り上げた。
「……いい蹴りだ」
「ったく、何やってんのよ召喚早々! いきなり問題を起こすなんてどう言うつもり?」
ルイズが激しい剣幕で怒るがそれも無理もない。昼間の怪物騒ぎからトラブル続きでやっと眠れたと思ったら
この通りである。彼女でなくとも怒りたくもなるだろう。
「しかも、盗賊は取り逃がすし。せめて捕まえてればカッコもついたのに」
「出会い頭に何者か分からないのを捕まえろとは無茶だな、まあ確かに不審だったけどな。それに」
ゲンは一旦言葉を切ってギーシュの方を見る。
「勇敢な魔法使い殿に足止めを喰らったんでね。君は中々強いな」
「フッ、君も平民にしてはやる方だと言っておこう」
髪を掻き揚げて満更でもなさそうにギーシュが応じた。
二人の間に漂う妙な連帯感にやや眉をしかめるルイズ。
「てゆーかギーシュ、アンタもこんな時間にナンパって暇ねえ」
「言葉使いに気をつけてくれたまえ、ボクはただ……」
そこで言葉が途絶える。視線はルイズやゲンの後方に向けられ微動だにしない。
不審に思って二人が振り返ると、そこには金髪の少女が仁王立ちしていた。
「や、やあ、いい夜だねモンモランシー……」
消え入りそうな声がギーシュの口から漏れる。
モンモランシーはつかつかとギーシュの眼前に迫ってにっこりと笑った。
「どの編から聞いてた?」
「全部よ」
無言で立ち去ろうとするギーシュの首根っこを鷲づかみにするモンモランシー。ルイズ達に、お休みなさい、
と不気味なほど穏やかに挨拶するとそのままギーシュを引きずって立ち去った。
その様子を無言で見送った二人だったがやがてルイズが、
「……も、もどるわよ」
と促したので、ゲンもそれに続いた。
かくして夜は再び静けさを取り戻した。
もっともゲンが眠っていられたのは数時間である。朝日がまだ顔を出し切らぬうちに目を覚ました彼は、洗濯物を纏めると
ルイズを起こさぬようにそっと部屋を出て行った。
洗濯を終えて戻ってきたがルイズは相変わらずね眠っていたのでガバッと毛布を剥ぐゲン。
「ルイズ、朝だぞ」
「ん~……まだ眠い」
目をごしごし擦りながら不服を洩らすルイズ。ゲンは水の入った桶を差し出した。
「ホラ、顔を洗えば目も醒めるさ」
「誰かさんのせーで、寝不足なのよ」
等と洩らしつつも洗顔を終えるとさすがに目が覚めたか、ゲンが寄越した服をテキパキと身に着ける。
「着せてとか言ったらどうしようかと思ったたが、流石にそんな事はないな」
「ん、自分で着た方が早いわ。もう少しで言うところだったけど」
ゲンが振り向くともう着終わっていた。
二人が部屋を出るとほぼ同時に別の部屋から赤毛の少女が出てきた。キュルケである。二人に気づいて
こちらに寄って来た。
「おはよう、ルイズ。昨夜は大変だったみたいね」
どうも昨夜の一件は既に知れ渡っているらしい。ルイズは顔をしかめてゲンを肘でつつく。
「大変なのはコイツのせいよ」
「だから悪かったと言ってるだろう」
ふうん、とキュルケがゲンの方に向き直る。
「昨日、空から飛んできた方ね。エルフ……でもなさそうよね。ギーシュと引き分けたそうね、何か特別な事した?」
「いや、特に何も。青銅の像が動くとは思わなかったし、あのまま続いていたら負けていただろうが」
「普通の平民はワルキューレに殴られて終わりよ」
そう言って、ゲンの方に一歩踏み出す。
「強い男って素敵ね。嫌いじゃないわ」
「ツェルプストー!」
「嫌ねえ、冗談じゃない。人の使い魔に色目使うほどじゃないわよ。でも……」
そこで言葉を切るとキュルケはゲンの首に腕を回す。
「貴方が私に興味があるなら主は関係ないわよねぇ」
「ご好意は嬉しいが、世話になってる主が怖い顔で睨んでるんでね」
と、やんわりと腕を外させるゲン。キュルケもそれ以上はくっつかず素直に離れたのでルイズも何もしなかった。その時になって
キュルケの部屋から赤い巨大なトカゲが姿を現した。
「そう言えばサラマンダーだったわね、アンタの使い魔」
「そうよ、これほど立派なのはそういないわね。間違いなく火竜山脈のサラマンダーだわ。フレイムご挨拶なさい」
キュルケの言葉にサラマンダーのフレイムは、きゅるきゅると巨体に似合わぬ声を出し軽く口から火を吐いてみせる。
しかしその視線がゲンを捕らえると、突然キュルケとの間に割って入りのどの奥を低く鳴らし始めた。突然の使い魔の行動に
キュルケが訝しむ。
「あら、この子がいきなり警戒するなんて珍しいわね。珍獣狩りでもしてた?」
「そんな事はしていないが、火を吐く動物には少し嫌われてるかもしれないな。どれ誤解を解いておくか」
そう言ってフレイムに手を伸ばすゲン、フレイムは初め警戒を解かなかったが暫らく顎の下をなでられると納得したかのように
首を振りのっそりとキュルケの後ろに回った。
「……何かした?」
「昔飼ってたペットと同じ機嫌のとり方をしただけさ」
もっとも、そのペットは五〇メイル近くにまで成長するのだが。
その後朝食をとりに食堂に向かったが入り口でピタリと止まるルイズ。
「使い魔はここで待機よ」
召喚した当初こそゲンの底知れぬ力に恐れにも似た感情を抱いていたルイズであったが、ゲンの実直さは彼女に
何時のもペースを取り戻させていた。もっとも、ゲンはいちいち気にしなかったが。
無言で頷いて彼女と別れたゲンだったが、ふと中を覗いてみえた豪華な料理に眉をしかめた。だが気を取り直して
パンでも頂戴しようと厨房の裏手に回った。
「すみません」
裏の扉から入るとメイドの一人が気づいて寄って来たシエスタである。
「あ、昨日の泥棒……ごめんなさい、じゃなかったんですよね。どうしたんですか」
「余っていたら、パンか何か分けて欲しいんだが」
「いいですよ、こちらに座って待っていてください」
そう言ってパタパタと奥に引っ込むシエスタ、ゲンが言われたとおりに待っているとシチューが盛られた
皿を持ってきた。
「余り物で作った賄い物ですけど、よかったらどうぞ。まだありますから」
「すまないな、ありがたく頂くよ」
「いい食いっぷりだな、兄ちゃん」
何度かのお代わりの後、コック長のマルトーが奥から現れた。恰幅の良い中年の男だ。
「旨い料理だ、これは貴方が?」
「俺だけじゃねえ、厨房の皆で作るんだ。そうだなお前達!」
おう! と威勢のいい返事が返ってくる。それからゲンに向き直り、
「腹減ってるならここに来ると良い。残さず食べるてくれるなら料理人として嬉しいもんさ。
貴族のガキどもはチョット気にいらねえと簡単に料理を残しやがる」
先程見えた豪華な料理を思い出し、再びゲンは渋い顔になる。
「あれほどの料理を残すなんてな……。貴族の癖に躾が成ってないな」
「貴族だから甘やかされてるのさ」
ゲンは首を振って、
「そう言うのは貴族とは呼ばない」
ほう、と感心したような表情のマルトーにそう言って、ゲンは立ち上がった。
「御代は皿洗いでいいかな」
「よせやい、そんなつもりで飯を出したんじゃねえ」
「働かざるもの食うべからずってね」
「へへっ分かったよ。シエスタ、洗い場に案内してやんな」
シエスタに案内され彼は皿を洗い始めた。
「成るほど、君はシエスタって言うのか」
「そう言えば自己紹介してませんでしたね」
「俺はおおとりゲンだ、よろしく」
「はい、おおとりさんですね。よろしくお願いします」
そう言って彼女はにっこり笑った。
皿洗いを終えたゲンはルイズと合流して教室に向かった。
それなりに広い教室に二人が入ると入り口を基点に波紋が広がるように、一瞬教室中が静まり返った。
「昨日の事、結構噂になってるみたいよ」
「まいったな、注目されても嬉しくはないな」
不躾な視線に晒される事になった二人だったが、気にしたそぶりを見せずにルイズは席に座った。
「後ろで見学してればいいか?」
ルイズが頷くのを確認して彼は後ろに下がった。
やがて教員が入ってくると授業が始まった。
シュヴルーズと名乗る教員が授業を始めると流石に教室も静かになる。ゲンも暇だった事もあり、何気なく授業を聞いてみる。
今回は物質変換の授業であるようだった。ゲンの知る限り、特殊な技術を使わずに物質を変換する事が出来る人類を知らない。
教壇の女性は机の石ころを真鍮に変えて見せた。これが昨日の青銅像の正体かと彼はおぼろげに考えた。
実演を終えたシュヴルーズは次にルイズを指名しやって見せろと言った。たちまち教室中から非難と不満の声が巻き上がるが、
それが逆にルイズのプライドを刺激したらしい。教壇に向かうルイズを見て何人かが避難を始めた。
「一体何が起こるんだ?」
後ろに避難してきたキュルケにゲンが尋ねる。
「見てれば分かるわ、貴方のご主人様のお力よ」
その言葉が終わった直後、教壇の方で爆発が起こった。
「ルイズ!」
ゲンが慌てて駆け寄る、混乱した使い魔たちが邪魔で中々たどり着けない。やっとで到着し助け起こそうとすると、大丈夫、とだけ
言ってむくりと彼女は起き上がった。
「ちょっと失敗したわね」
教室中から非難の声が上がったのは言うまでもない。
その後二人は罰として荒れ果てた教室の掃除に追われていた。ルイズが了承したのでゲンも付き合っていたが彼は
終始不満顔であった。
流石にルイズが口を開く。
「不満なの?」
「当たり前だ」
あまりの即答にルイズはカッとなった。幾らなんでも使い魔にまで非難されるいわれはないと思ったからだ。
「アンタは私の使い魔でしょうが! 主のために働くのは当然でしょう」
「そうじゃない」
ゲンは作業を止めてルイズの方をむいた。
「授業中の失敗で何故罰せられねばならん」
「そ、それは先生をふっ飛ばしたから……」
「物質変換、いや錬金だったか。とにかくそれはあの先生がやれと言った事だ、その結果どうなろうと責任を取るのは
本来あの人のはずだ。もし失敗したのが理由なら益々話にならん、成功を前提にするなら授業は必要ない」
「だいたい失敗だというが、普通失敗したらあんな爆発が起こるわけがないだろう。錬金は失敗したか知らんがそれと君の能力は
別の問題だ、それを自分の把握できる枠に収めようとするのはもっと気に入らんな」
「無理よ……先生達だって人間よ。それに爆発するのなんて私だけだもの」
目線を落として語るルイズの目の前に屈んでゲンは更に続ける。
「卑屈になるな、ルイズ。君は俺を立派に召喚したじゃないか。それじゃあ不満か?」
「そう言うことを自分で言うんじゃないわよ、バカ」
違いない、そう言ってゲンは笑った。そして再び向き直る。
「他人にできて君にない事があったとしてもそれを恥じる事はない。もしそれが悔しいと思うのなら、それを晴らす
努力をする事だ。君にしかできない事が必ずある。人間はそう言う風にできているものだ」
「うっさいわねえ」
俯いていたルイズが顔を上げる、その顔は朱に染まっていた。
「使い魔ごときに言われるまでもないわ! いつかトリステインに、いいえ、ハルケギニア全体に知れ渡るような
メイジになって見せるわよ! その時になって大恥をかくといいわ、私に説教まがいの事をした事をね!」
「ハハッ、期待させてもらうよ」
そう言うとゲンは再び復旧作業に戻った。
「とは言えコモン・マジック位はまともに使いたいわよね」
復旧作業を終えて食堂に向かう途中ルイズが呟いた。
「コモン・マジック?」
「比較的簡単な魔法の事よ、貴方を呼び出したのもコモン・マジックの一種。鍵を開けたり、明かりをつけたり」
ルイズが説明してみせる。
「どれくらい簡単なのか、いまいち分からん」
「貴族の場合は読み書きが出来ないのと同じくらい、まあ程度によるけど」
「なるほど。鍵を開けたり、か……」
ゲンは呟くと暫らく黙り込んだ。
あんまりに沈黙が長いのでルイズが堪らず、
「どうしたのよ、考え込んで」
「ルイズ、本当に使える様になりたいなら手段が無い訳ではない」
「何か当てがあるの?」
「どんな手を使ってもいいなら考えが無いわけでもない」
「ど、どうしようっていうのよ」
ルイズが不安げに聞いてくる。だが使う機会があまりなくてもロック、アンロックくらいは使いこなしたかった。
「まだ決まったわけじゃない、少し用事が出来た。放課後にさっきの教室で待っていてくれ」
「何とな……そう言うことで倉庫の鍵を借りに来たのは君が初めてだな」
教員室でコルベールが苦い顔で応じる。
「彼女が望む事です、できれば力になってやりたい」
「しかし、一生徒に肩入れすると言うのは……」
「お言葉だが、コモン・マジックと言うのはそれ程難しい魔法では無いそうですね。それを知っていたはずでしょう。
なのに何故ほうって置いたたのです?」
ゲンが身を乗り出して詰め寄る。
「その結果、彼女が無意味な誹謗中傷にあっていた事も知っていたはずだ。それともついてこれない生徒は
ふるいにかけますか。それはあなた方が全力を尽くしてからでしょう」
コルベールはため息をつく。
「理想と現実は違うよ」
「貴方がしないのなら、私がするまでだ。幸いルイズにはやる気がある」
コルベールは額を押さえて押し黙っていたがやがて奥に消えると鍵を一つ寄越した。
「魔法の才能は生まれつきだ。そうそう変わるもんじゃない」
ゲンは受け取りながら真剣な顔で、
「やって見なければわかりませんよ」
「何処に行くの?」
放課後、ゲンにつれられて校舎の端の方に向かうルイズは尋ねた。
「特訓の場所さ」
そういったゲンはある部屋の前で止まると手にしたメモを確認し鍵を開けた。
そこは普段使われていない物を置いておくための倉庫だった。
「何よここ、ここで何かするの?」
そう言って覗くルイズの背中をゲンは軽く押した。たたらを踏んで倉庫の中ほどまで入ってしまうルイズ。
「何する……って、ちょっと!」
ルイズが出ようとするその数瞬先にゲンが扉を閉めて鍵をかける。ルイズは閉じ込められた。
「ちょっと、何するのよ! 開けなさいよ! ねえ、聞いてるの!?」
扉が叩かれるのも意に介さずゲンはルイズに告げる。
「アンロックを使って出てくるんだ。ここは特別な魔法はかかってないそうだ」
「出来るはず無いでしょう!」
「誰がそんな事を決めた? 諦めるなら出してやってもいいがな」
その言葉に扉の向こうが沈黙する。やがて、何か扉に硬いものを投げつけたような鈍い音がして、
「出てきたら、ただじゃ済まさないわよ!」
かくして、ルイズの特訓が始まった。
第三話 終わり
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