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「男達の使い魔 第十六話」(2009/06/15 (月) 21:42:23) の最新版変更点
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「皆さん!ここがわたしの故郷のタルブ村です。」
シエスタが満面の笑みを浮かべて情景を眺めていた。
金色に光り輝く農村の風景は、それはそれは美しかった。
「へえー。凄いじゃないの!」
お気に入りの飛燕の近くによったキュルケもまんざらではなさそうだ。
「これが邪鬼先輩の守った景色ですか。」
飛燕が塾生達を代表するかのように発言する。
塾生達は、みな一様に目を細めてその風景を眺めていた。
「そうだ!おじいさまの墓参りの前に一度家に寄っていきませんか?歓迎しますよ。」
シエスタが振り返って皆を見つめる。
誰も異存の声など上がろうはずがなかった。
「かあー!こりゃうまいのう。」
一号生達の中でも極めつけの酒好きである、松尾が率先して村の名物のワインを飲む。
「行儀良くしなさい!ここはシエスタの家よ。」
そこへルイズの鋭い声が飛ぶ。
「構いませんよ。いい呑みっぷりですね。
きっと父も喜んでいますよ。」
ニコニコと擬音が出そうな笑顔を貼り付けたシエスタの父が言う。
この男、風貌こそ邪鬼そっくりであるが、その性格は温厚そのものである。
最初こそその風貌に戸惑った一号生たちではあるが、もはや慣れたようだ。
「まあ、そういうことだからお言葉に甘えましょうよルイズ?」
「……この料理も美味しい。」
そんなキュルケとタバサを、ルイズは恨めしそうに見る。
誰かがストップ役にならないと、騒ぎが止まらないことをよく知っているがために、騒ぐ側に回れないのだ。
そこへこっそりと忍び寄ったシエスタがルイズに耳打ちをする。
(いざとなったら私が止めますのでルイズ様も楽しんでくださいね。)
思わずシエスタの方を向くルイズ。だが、即座に納得した。
シエスタがこっそりと視線を向けている先には、富樫に虎丸、田沢に松尾のお祭り男カルテットが立っていた。
確かに、酔っ払ったあいつらなら真空殲風衝で簡単に止めることができそうだ。
そのことに納得したルイズは、自分も言葉に甘えて楽しむことにした。
夜はまだ長い。
「押忍!一番松尾、マイケルジャクソンのスリラーを歌います!」
「下手くそ!少しは面白くしなさいよ。」
「……(無言で首を縦に振っている)」「確かにあれじゃイマイチね。」
「ぬぬ!それでは塾歌をピンクレディーの振りつきで歌います。」
「ちょっと!なにいきなり脱ぐのよって、何よそれーーー」
いきなり脱ぎだす松尾。
その下には女物の下着が着想されていた。
「エクスプロージョン!」
一番騒いでいるのがルイズのため、注意しきれないシエスタがいたような気がするが、それは気のせいである。
そして翌朝。
「うーーーー。頭いたーい。」
ルイズが頭を押さえながら起きてきた。
どうやら二日酔いらしい。
「ルイズ様。二日酔いにはこの薬がよく効きますよ。」
即座にシエスタが緑色の飲み薬を手渡す。
良く見ると、その左手には、お盆の上に飲み薬を入れたコップが立体的に積まれていた。
類まれなバランス感覚をようするシエスタだからできるわざである。
受け取ったルイズは、小さな声でシエスタに感謝の言葉を捧げると、一息で飲み干した。
「ッッッッッ!にっがーい!これなんなの?」
その味に思わず涙目になったルイズがシエスタに問いかける。
「これはハシバミ草から作った特製のお薬です。苦いのは当然ですよ。
そうでないと二日酔いを後悔しないから、とおばあ様が良く言ってましたし。」
思わずルイズは納得した。これ程苦いならば、そういう効果もあるだろう。
「それでは、他の方にもお薬を配ってきますね。」
ルイズは、そうして立ち去ろうとするシエスタの後ろを、タバサが付いていっているのに気がついた。
「余ったら全部もらう約束。」
ルイズの隣を通り過ぎる瞬間、聞いてもいないルイズに、タバサが呟いた。
一瞬絶句して、思わず振り返ったルイズであるが、その時には二人はすでに外に出ていた。
「まさか、アレを全部飲むつもりなの?」
ルイズの疑問である。
時は昼過ぎ。
小さなタルブの村にはあまりにも不釣合いなほど大きい墓の前に、塾生達が集合していた。
ルイズ達は気を利かせて墓の外にいる。
まずはシエスタが簡単な報告をしていた。
「おじいさま。私はおかげさまで元気に過ごしています。
ようやく真空殲風衝も使いこなせるようになりました。
おじいさまから見れば、未熟もいいところではあると思いますが、
大豪院流の系譜を絶やさないように努力をしていくつもりです。」
シエスタの近況報告が続く。
学院に入ってからのこと。知り合いができたこと。真空殲風衝が使えるようになった決闘のこと。
次々と話が続いていく。
そうして、最後に一号生達の方を振り返って祖父に紹介した。
「それにおじいさま。今日は珍しいお客様が来ていますよ。」
そう言ってシエスタは、墓の前から退いた。
学ランを着用した塾生達が、無言で前へと歩み寄る。
秀麻呂は、幻の大塾旗を挙げていた。
ピタリと邪鬼の墓の前で全員が歩みを止める。
そんな中、桃が一人前へと進み出た。
邪鬼の墓をじっくりと見つめる桃。
ここに邪鬼の遺骨などは何もないことは知っている。
しかし、この墓地に漂う雰囲気は、まさしく邪鬼のそれであった。
故に、
塾生達はここに邪鬼の魂が眠っていることを確信していた。
「押忍!邪鬼先輩、報告します!」
そうして桃もまた報告をしようとした。
ようやく念願かない、宿敵藤堂兵衛を打ち倒したことなど、報告すべきことは山ほどあった。
(だが、)
桃は思う。
その全てを報告することに何の意味があろうかと。
彼は、邪鬼先輩は、俺達を信じて男塾を託したのだ。
ならば、
「俺達は日々男を磨いています。
近い内に必ずや男塾に戻り、後輩達にも男塾の魂を伝えていく所存です。
以上、失礼します!」
短い言葉ではあったが、桃は全ての想いを載せたつもりであった。
ふと桃は、否一号生達は不思議な声を聞いた気がした。
(大義であったな。これからも男塾を頼んだぞ。)
短い台詞ではあったが、それは紛れもなく邪鬼の声であった。
ふと、全員の目に熱いものがはしる。しかし、誰もそれを放とうとはしない。
今ここで涙を見せれば、邪鬼先輩に怒られるのは火を見るよりも明らかなのだ。
だからこそ桃は
「全員、邪鬼先輩に敬礼!」
声を張り上げることにした。
あらかじめ打ち合わせをしていたかのように、全員の敬礼が綺麗にそろう。
それはそれは色気のある敬礼であった。
男達の使い魔 第十六話 完
NGシーン
雷電「むう、あ、あれは!」
虎丸「知っているのか雷電!?」
雷電「あれぞまさしく古代中国において伝わる環韻(わ・いん)!」
最近のワインブームにおいてワインを楽しむようになったかたも多いだろう。
一般にワインの起源は、古代ギリシアやメソポタミアのあたりと言われているが、これは事実とは異なる。
かつて古代中国は殷の時代、蒲党主(ふ・とうしゅ)と言われる武道家がいた。
彼は晩年ある技をひたすらに練っていたことで知られる。
その技は、果物の蔓を使って敵を拘束する技であるが、鍛錬に鍛錬を重ねた彼の技は格が違った。
彼が一度蔓を手に持つと、それは一瞬にして大きな円環を描き、敵が言葉を発するまもなく縛り上げたという。
故に人々はその技を環韻と呼ぶようになった。
彼がこの技を練習する仮定で、たまたま落ちた葡萄が発酵し、今で言うワインとなったという。
なお、この際に彼の技名が西洋やハルケギニアに伝わりワインとなり、人名が日本に伝わり、音を変え葡萄酒と呼ばれるようになったのは、諸君等もご存知の通り、実に有名な話である。
余談ではあるが、中国の東北地方において、いつまでも泣き止まない子供に
「環韻にするぞ」
と言って怒鳴りつけるのはこの故事から来ていることは言うまでもないであろう。
民明書房刊 「お酒と武術の歴史」(平賀才人著)
「皆さん!ここがわたしの故郷のタルブ村です。」
シエスタが満面の笑みを浮かべて情景を眺めていた。
金色に光り輝く農村の風景は、それはそれは美しかった。
「へえー。凄いじゃないの!」
お気に入りの飛燕の近くによったキュルケもまんざらではなさそうだ。
「これが邪鬼先輩の守った景色ですか。」
飛燕が塾生達を代表するかのように発言する。
塾生達は、みな一様に目を細めてその風景を眺めていた。
「そうだ!おじいさまの墓参りの前に一度家に寄っていきませんか?歓迎しますよ。」
シエスタが振り返って皆を見つめる。
誰も異存の声など上がろうはずがなかった。
「かあー!こりゃうまいのう。」
一号生達の中でも極めつけの酒好きである、松尾が率先して村の名物のワインを飲む。
「行儀良くしなさい!ここはシエスタの家よ。」
そこへルイズの鋭い声が飛ぶ。
「構いませんよ。いい呑みっぷりですね。
きっと父も喜んでいますよ。」
ニコニコと擬音が出そうな笑顔を貼り付けたシエスタの父が言う。
この男、風貌こそ邪鬼そっくりであるが、その性格は温厚そのものである。
最初こそその風貌に戸惑った一号生たちではあるが、もはや慣れたようだ。
「まあ、そういうことだからお言葉に甘えましょうよルイズ?」
「……この料理も美味しい。」
そんなキュルケとタバサを、ルイズは恨めしそうに見る。
誰かがストップ役にならないと、騒ぎが止まらないことをよく知っているがために、騒ぐ側に回れないのだ。
そこへこっそりと忍び寄ったシエスタがルイズに耳打ちをする。
(いざとなったら私が止めますのでルイズ様も楽しんでくださいね。)
思わずシエスタの方を向くルイズ。だが、即座に納得した。
シエスタがこっそりと視線を向けている先には、富樫に虎丸、田沢に松尾のお祭り男カルテットが立っていた。
確かに、酔っ払ったあいつらなら真空殲風衝で簡単に止めることができそうだ。
そのことに納得したルイズは、自分も言葉に甘えて楽しむことにした。
夜はまだ長い。
「押忍!一番松尾、マイケルジャクソンのスリラーを歌います!」
「下手くそ!少しは面白くしなさいよ。」
「……(無言で首を縦に振っている)」「確かにあれじゃイマイチね。」
「ぬぬ!それでは塾歌をピンクレディーの振りつきで歌います。」
「ちょっと!なにいきなり脱ぐのよって、何よそれーーー」
いきなり脱ぎだす松尾。
その下には女物の下着が着想されていた。
「エクスプロージョン!」
一番騒いでいるのがルイズのため、注意しきれないシエスタがいたような気がするが、それは気のせいである。
そして翌朝。
「うーーーー。頭いたーい。」
ルイズが頭を押さえながら起きてきた。
どうやら二日酔いらしい。
「ルイズ様。二日酔いにはこの薬がよく効きますよ。」
即座にシエスタが緑色の飲み薬を手渡す。
良く見ると、その左手には、お盆の上に飲み薬を入れたコップが立体的に積まれていた。
類まれなバランス感覚をようするシエスタだからできるわざである。
受け取ったルイズは、小さな声でシエスタに感謝の言葉を捧げると、一息で飲み干した。
「ッッッッッ!にっがーい!これなんなの?」
その味に思わず涙目になったルイズがシエスタに問いかける。
「これはハシバミ草から作った特製のお薬です。苦いのは当然ですよ。
そうでないと二日酔いを後悔しないから、とおばあ様が良く言ってましたし。」
思わずルイズは納得した。これ程苦いならば、そういう効果もあるだろう。
「それでは、他の方にもお薬を配ってきますね。」
ルイズは、そうして立ち去ろうとするシエスタの後ろを、タバサが付いていっているのに気がついた。
「余ったら全部もらう約束。」
ルイズの隣を通り過ぎる瞬間、聞いてもいないルイズに、タバサが呟いた。
一瞬絶句して、思わず振り返ったルイズであるが、その時には二人はすでに外に出ていた。
「まさか、アレを全部飲むつもりなの?」
ルイズの疑問である。
時は昼過ぎ。
小さなタルブの村にはあまりにも不釣合いなほど大きい墓の前に、塾生達が集合していた。
ルイズ達は気を利かせて墓の外にいる。
まずはシエスタが簡単な報告をしていた。
「おじいさま。私はおかげさまで元気に過ごしています。
ようやく真空殲風衝も使いこなせるようになりました。
おじいさまから見れば、未熟もいいところではあると思いますが、
大豪院流の系譜を絶やさないように努力をしていくつもりです。」
シエスタの近況報告が続く。
学院に入ってからのこと。知り合いができたこと。真空殲風衝が使えるようになった決闘のこと。
次々と話が続いていく。
そうして、最後に一号生達の方を振り返って祖父に紹介した。
「それにおじいさま。今日は珍しいお客様が来ていますよ。」
そう言ってシエスタは、墓の前から退いた。
学ランを着用した塾生達が、無言で前へと歩み寄る。
秀麻呂は、幻の大塾旗を挙げていた。
ピタリと邪鬼の墓の前で全員が歩みを止める。
そんな中、桃が一人前へと進み出た。
邪鬼の墓をじっくりと見つめる桃。
ここに邪鬼の遺骨などは何もないことは知っている。
しかし、この墓地に漂う雰囲気は、まさしく邪鬼のそれであった。
故に、
塾生達はここに邪鬼の魂が眠っていることを確信していた。
「押忍!邪鬼先輩、報告します!」
そうして桃もまた報告をしようとした。
ようやく念願かない、宿敵藤堂兵衛を打ち倒したことなど、報告すべきことは山ほどあった。
(だが、)
桃は思う。
その全てを報告することに何の意味があろうかと。
彼は、邪鬼先輩は、俺達を信じて男塾を託したのだ。
ならば、
「俺達は日々男を磨いています。
近い内に必ずや男塾に戻り、後輩達にも男塾の魂を伝えていく所存です。
以上、失礼します!」
短い言葉ではあったが、桃は全ての想いを載せたつもりであった。
ふと桃は、否一号生達は不思議な声を聞いた気がした。
(大義であったな。これからも男塾を頼んだぞ。)
短い台詞ではあったが、それは紛れもなく邪鬼の声であった。
ふと、全員の目に熱いものがはしる。しかし、誰もそれを放とうとはしない。
今ここで涙を見せれば、邪鬼先輩に怒られるのは火を見るよりも明らかなのだ。
だからこそ桃は
「全員、邪鬼先輩に敬礼!」
声を張り上げることにした。
あらかじめ打ち合わせをしていたかのように、全員の敬礼が綺麗にそろう。
それはそれは色気のある敬礼であった。
男達の使い魔 第十六話 完
NGシーン
雷電「むう、あ、あれは!」
虎丸「知っているのか雷電!?」
雷電「あれぞまさしく古代中国において伝わる環韻(わ・いん)!」
最近のワインブームにおいてワインを楽しむようになったかたも多いだろう。
一般にワインの起源は、古代ギリシアやメソポタミアのあたりと言われているが、これは事実とは異なる。
かつて古代中国は殷の時代、蒲党主(ふ・とうしゅ)と言われる武道家がいた。
彼は晩年ある技をひたすらに練っていたことで知られる。
その技は、果物の蔓を使って敵を拘束する技であるが、鍛錬に鍛錬を重ねた彼の技は格が違った。
彼が一度蔓を手に持つと、それは一瞬にして大きな円環を描き、敵が言葉を発するまもなく縛り上げたという。
故に人々はその技を環韻と呼ぶようになった。
彼がこの技を練習する仮定で、たまたま落ちた葡萄が発酵し、今で言うワインとなったという。
なお、この際に彼の技名が西洋やハルケギニアに伝わりワインとなり、人名が日本に伝わり、音を変え葡萄酒と呼ばれるようになったのは、諸君等もご存知の通り、実に有名な話である。
余談ではあるが、中国の東北地方において、いつまでも泣き止まない子供に
「環韻にするぞ」
と言って怒鳴りつけるのはこの故事から来ていることは言うまでもないであろう。
民明書房刊 「お酒と武術の歴史」(平賀才人著)
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