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「ルイズ・キングダム!!-4」(2009/04/05 (日) 09:46:11) の最新版変更点
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「おい、『血塗れ』ギーシュがまた決闘するらしいぞ」
「今日は何匹殺すつもりだろうな」
「ああ嫌だ嫌だ。無益な戦いは嫌だねぇ」
学院に嫌戦気分が蔓延していた。
すっかり放課後の風物詩になったギーシュと小鬼の決闘。
いや、決闘と言うより相変わらずの虐殺で、ヴェスタリの広場は毎日のように血にまみれている。
夜風向きが悪ければ寮の中までも流された血の臭いが漂ってきて、窓を開けていられないほどだ。
そりゃあ誰だって嫌になるってものである。
<ルイズ・キングダム!!>
あの決闘からはや五日。
すでに百匹近い小鬼がギーシュの杖の雫となって果てただろう。
「なのに何で……」
なんでこんなに増えてるのよ、とルイズは思った。
学院のあちこちに小鬼小鬼小鬼。
こうして昼食をとっている最中も、配膳の手伝いとして其処此処に目に付く小鬼達。
クロビスに連れられて決闘で死んでゆく数より多数の小鬼が学園中に増殖していた。
掃除する小鬼。
洗濯を手伝う小鬼。
使い魔や馬の世話をする小鬼。
女子生徒のペット兼召使になっている小鬼。
教師の専属で下働きをする小鬼。
塀の外でなにやら土木作業を進める小鬼。
ひょっとしたら生徒の数を超えているんじゃ無いかという小鬼が学院内を闊歩している。
「増えすぎじゃない? あと馴染みすぎ」
――こんなもんでしょう。小鬼ですから――
いつもの「ぽやん」とした口調で、デザートのケーキを運んできたダッパ君が答える。
手伝いのお礼に余ったケーキをもらって帰って、クロビスにあげるのだと言う。
それから手伝いの代価としてもらえる残飯なども、彼等の大事な食料源らしい。
そう言えば昨日もメイドからエサをもらっている小鬼なんかも居た。
まるっきり近所のノラ犬が庭ネコみたいな扱いである。
やはり馴染みすぎている気がした。
しかし、そんな変化に戸惑っているのはルイズぐらいで、学院の住人達はダッパ君と同じぐらい気にしていない。
むしろ便利な道具が出来た程度に思っている様子だった。
確かに小鬼は文句も言わずによく働くし、基本的に自給自足だ。
見た目も愛嬌があってカワイイし。
ただし有料。
国民を奉公に出したお金で「新・古代魔神路地裏連合マジカル小鬼同盟横丁」は農地や牧場を作ったという。
ちなみにあれから既に三回ほど滅亡しているので名前がまた伸びた。
「でも随分儲けたのね」
――『農地』と『牧場』で6メガゴールドかかりました――
「ちょ、まっ、だったら転職所を作りなさいよー!!」
――『転職所』じゃあ、ごはんたべられません――
「ぐっ……そりゃあそうだけど」
これだけ増えた国民を食べさせるには、やはり生産施設は必要不可欠。
ダッパ君の正論に黙り込むルイズ。
この数日で気が付いた事だが、宮廷メンバーは小鬼の中ではかなり知能が高い。
他の小鬼は人語を解するものの人の言葉は喋れないのでキィキィ言ってるだけだし、
言われた事を素直に実行する程度の知恵しか持っていないようなのだ。
尤も雑用に使うだけならその程度が理想的なのだけれど。
また、(モークを除いて)言語を操る小鬼宮廷の中でもダッパはかなり知恵が回るようで、
召使という官職にありながら宮廷の参謀的な役割をこなしていた。
基本ひらがな喋りのクセに。
だからルイズの、そしてクロビスの要求でも理屈に合わなければ平然と正論で拒否する。
むしろ長年クロビスと付き合っていて手馴れた対応なのである。
気が強くて素直じゃない。打たれ弱いくせに立ち直りは早い。
実はキャラが被っているルイズとクロビスなのだった。
「それにしても……これだけの数でかかれば、流石にギーシュのゴーレムにだって勝てるんじゃないの?
なんで全国民動員しないのよ?」
――かてるか、っていうのはビミョウですけどね――
数百匹いても勝てると言い切れないらしい。凄まじいまでの弱さだった。
――いちどにつれていける『配下』のかずは、そのひとの『器』できまるんです――
「器って何よ?」
――『魅力』とか『才覚』のたかさです。クロビスさまだと36人ですね――
ギーシュのゴーレムは7体まで操れるので、一体あたりで約5匹が襲い掛かる計算。
戦力実に5対1だが、小鬼の戦いっぷりを思い出してルイズは冷静に判断する。
「無理っぽいわね。今日も無駄死にしちゃうのかしら?」
――まぁ、しんぱいしなくても、もうすぐネをあげるころですよ――
「音を上げるって? クロビスが?」
あの立ち直りの早い使い魔国王が音を上げるというのはあまり想像できないルイズ。
首を捻りながらデザートのチョコレートケーキを食べ終えた頃、食堂の入り口からざわめきが聞こえてきた。
「お、おい、『血塗れ』ギーシュだぞ」
「嫌ぁ……『血塗れ』ギーシュ先輩よ」
「うわぁ。こっち来た」
「くわばらくわばら」
潮が引くように人がそそくさと去ってゆく。
現われたのは他でもない、クロビスが連日決闘を挑んでいる相手・ギーシュである。
「僕は『青銅』のギーシュだ。血塗れなんて二つ名じゃない!」
「ひっ、ひいぃぃぃ、おゆるしぃー!」
ギーシュがキッと睨むと小太りのクラスメイトが這うように逃げ出す。
いまや学院でギーシュの名は死と残虐の象徴となっているのだった。
「ミス・ヴァリエール、話がある。少々時間を割いて欲しいのだが」
「お、おい、『血塗れ』ギーシュが今度はゼロのルイズを血塗れにする気だぞ」
「やっぱり恐ろしい人ね……ヴァリエールみたいな大貴族に平気で手を出すなんて」
「そこは『血塗れ』だからな。ヤツにとって人の命なんて誰だろうとゴミ同然なのさ」
こそこそと話す生徒達。
教師までもが青ざめた顔で様子を窺っているが、誰もギーシュを止めようとはしなかった。
だが、そこで恐れて引くようなルイズではない。
立ち上がって真っ向からギーシュのブルーアイを見据え、答える。
「良いわよ、何処で話しましょうか?」
「……こっちだ」
ギーシュに先導されて食堂から出てゆくルイズ。
生徒達は怯えつつも興味深そうに見ていたが、ギーシュが振り返ってそちらを見ると誰もが首をひっこめた。
これなら誰も追っては来ないだろう。
ついて来ているのはダッパ君1匹。
だが学院内には無数の小鬼が住み着いているのだ。
いざとなれば彼等の力を借りて立派に戦おうとルイズは決意していた。
「頼むミス・ルイズ! あの小鬼に決闘をふっかけるのを止めさせてくれ! このとーりだ!」
そして人気の無い場所に来た途端、土下座されてしまった。
「はい?」
「もう嫌だ! 僕は『青銅』のギーシュだぞ! それなのに『血塗れ』なんて名で呼ばれて!」
「良いじゃない。強そうで」
「良いもんか! 女の娘達には恐がられて、友人達にも避けられて!
しかも小鬼を愛玩動物にしている娘達からは悪逆非道のオーク鬼かトロール鬼みたいに見られて!!
ってゆーかそっちが鬼じゃないか! 僕が何をしたってゆーんだい!!」
そりゃあどっちが鬼かと聞かれたら小鬼の方が鬼に間違いない。
地面にうずくまったままヨヨと泣き伏すギーシュ。
確かに、食堂でのあの周囲の反応は嫌だろう。
毎日の食事も周りの視線が痛いので部屋にもっていって食べているぐらいだ。
そしてギーシュも知らない事だが、実は小鬼に同情的なコック達によって彼の食事にはゾウキンの絞り汁が入れられていた。
どこのOLの嫌がらせだか。
「強いとか恐いとか思われても何も良い事なんて無い。
平穏な学園生活と温かな友人達がとんなに大切なのか、僕はあらためてわかった。
小鬼を秘薬調合の助手に使っているモンモランシーは僕を見て睨んでくるし、
ケティは僕を見て逃げ出すし……昨日は靴の中にゴキブリが入れられてたし……」
「あ、あの、よく判らないけど、小鬼がやったワケじゃないと思うわよ、そのゴキブリ」
「判ってるよ。彼等は平和的で穏健な生き物だ。同族をたくさん殺したこんなボクにもワケ隔てなく接してくれる。
あとゴキブリとか美味しく食べるし。彼等」
「―――それは知らないでいたかった事実だわ」
小鬼は何でも食べる。でもよくお腹をこわす。そんなイキモノ。
戦いは貴族の本分だが、ギーシュと小鬼が戦っているのは子犬をゴーレムで蹴散らしているようにしか見えない。
そのくせクロビス達はちゃんとナイフや木の棒で武装しているので、もし無抵抗になればギーシュの方が危ない。
その結果、彼は望まぬ殺戮に身を染めて、他人から『血塗れ』と恐れられる境遇になってしまったのであった。
哀れ。
「頼むよミス・ヴァリエール。あの小鬼はキミの使い魔なんだろう?
このとおり、小鬼達を殺した事も決闘をしかけた事も謝る。後生だからあの小鬼を止めてくれ!」
額を地面にすりつけて懇願するギーシュに、ルイズは戸惑いながら手を伸ばして言った。
「顔を上げて、ギーシュ」
「ミス・ヴァリエール……」
「大丈夫―――努力だけはしてみるわ」
「へっ?」
「ぶっちゃけると、アイツ私の言う事なんてあんまり聞かないから。
もし止められなかったらゴメンねギーシュ。
大丈夫よ。別に死ぬわけでも無いんだから。ファイト!」
「ミッ、ミス・ヴァリエェェェェェェルウゥゥゥゥゥゥゥ!」
ギーシュ・ド・グラモンの悲痛な叫びがコダマする。
ルイズはそそくさとその場を後にして教室へ向かった。
だってホントに自信なかったのだ。クロビスに言う事を聞かせる自信が。
それに午後の授業も始まりそうだったし。
後に残されるのはorzな『血塗れ』のギーシュ。
――まぁまぁ。クロビス様はボクがせっとくしますから――
ポンポンと、地に伏した男の肩を優しく叩いてダッパ君が言った。
で、その日の決闘からおこなわれなくなったという。
ギーシュがダッパ君に心から感謝したのは言うまでも無い。
かなりマッチポンプっぽいのだが。
おまけの用語解説コーナー『百万迷宮の歩き方』
【平和的で穏健な生き物】
小鬼にも色々な性格の者が居るし、中には極悪非道の誘拐犯『黒襟巻』なる犯罪集団も居る。
そもそも百万迷宮の小鬼は鬼族の奉仕種族として人類圏と敵対している。
人間と仲良く暮らしている連中も居るには居るが、ホントはあまり平和的な種族ではない。
とは言え基本的にはそれほど悪意のある種族では無いし、比較的温厚。
単にボーっとしてて何も考えてないダケとも言うが。
【同族をたくさん殺した】
小鬼を支配している種族である巨鬼(オーガ)の主食と好物は小鬼。
人食い鬼とか呼ばれるクセに人間より小鬼の味が好きだと言うのだから困ったモンである。
仲間を食われたぐらいの事を気にしてたら小鬼人生はやってられないらしい。
よくよく考えると、小鬼と言うのは実に神経太い種族だと云う事がわかる。
【ゴキブリとか美味しく食べる】
生命力と繁殖力、そしてなによりその外見と動きによって嫌われているゴキブリだが、
自然界では栄養豊富で美味しい餌食として各種動物さん達から大人気とゆー事実。
そもそも現代のようにゴキブリが全盛期を迎えているのは、
彼等を捕食せず、他の動物から身を守れる『家』と言う物を作った人類との片利共生に原因がある。
百万迷宮の話では無い。これはキミ達の前に厳然と存在するリアルの話なのだ。
ただしよく噛んで食べないと胃液の中でも生き残るって都市伝説があるんだゼ、やつら。
#navi(ルイズ・キングダム!!)
「おい、『血塗れ』ギーシュがまた決闘するらしいぞ」
「今日は何匹殺すつもりだろうな」
「ああ嫌だ嫌だ。無益な戦いは嫌だねぇ」
学院に嫌戦気分が蔓延していた。
すっかり放課後の風物詩になったギーシュと小鬼の決闘。
いや、決闘と言うより相変わらずの虐殺で、ヴェストリの広場は毎日のように血にまみれている。
夜風向きが悪ければ寮の中までも流された血の臭いが漂ってきて、窓を開けていられないほどだ。
そりゃあ誰だって嫌になるってものである。
<ルイズ・キングダム!!>
あの決闘からはや五日。
すでに百匹近い小鬼がギーシュの杖の雫となって果てただろう。
「なのに何で……」
なんでこんなに増えてるのよ、とルイズは思った。
学院のあちこちに小鬼小鬼小鬼。
こうして昼食をとっている最中も、配膳の手伝いとして其処此処に目に付く小鬼達。
クロビスに連れられて決闘で死んでゆく数より多数の小鬼が学園中に増殖していた。
掃除する小鬼。
洗濯を手伝う小鬼。
使い魔や馬の世話をする小鬼。
女子生徒のペット兼召使になっている小鬼。
教師の専属で下働きをする小鬼。
塀の外でなにやら土木作業を進める小鬼。
ひょっとしたら生徒の数を超えているんじゃ無いかという小鬼が学院内を闊歩している。
「増えすぎじゃない? あと馴染みすぎ」
――こんなもんでしょう。小鬼ですから――
いつもの「ぽやん」とした口調で、デザートのケーキを運んできたダッパ君が答える。
手伝いのお礼に余ったケーキをもらって帰って、クロビスにあげるのだと言う。
それから手伝いの代価としてもらえる残飯なども、彼等の大事な食料源らしい。
そう言えば昨日もメイドからエサをもらっている小鬼なんかも居た。
まるっきり近所のノラ犬が庭ネコみたいな扱いである。
やはり馴染みすぎている気がした。
しかし、そんな変化に戸惑っているのはルイズぐらいで、学院の住人達はダッパ君と同じぐらい気にしていない。
むしろ便利な道具が出来た程度に思っている様子だった。
確かに小鬼は文句も言わずによく働くし、基本的に自給自足だ。
見た目も愛嬌があってカワイイし。
ただし有料。
国民を奉公に出したお金で「新・古代魔神路地裏連合マジカル小鬼同盟横丁」は農地や牧場を作ったという。
ちなみにあれから既に三回ほど滅亡しているので名前がまた伸びた。
「でも随分儲けたのね」
――『農地』と『牧場』で6メガゴールドかかりました――
「ちょ、まっ、だったら転職所を作りなさいよー!!」
――『転職所』じゃあ、ごはんたべられません――
「ぐっ……そりゃあそうだけど」
これだけ増えた国民を食べさせるには、やはり生産施設は必要不可欠。
ダッパ君の正論に黙り込むルイズ。
この数日で気が付いた事だが、宮廷メンバーは小鬼の中ではかなり知能が高い。
他の小鬼は人語を解するものの人の言葉は喋れないのでキィキィ言ってるだけだし、
言われた事を素直に実行する程度の知恵しか持っていないようなのだ。
尤も雑用に使うだけならその程度が理想的なのだけれど。
また、(モークを除いて)言語を操る小鬼宮廷の中でもダッパはかなり知恵が回るようで、
召使という官職にありながら宮廷の参謀的な役割をこなしていた。
基本ひらがな喋りのクセに。
だからルイズの、そしてクロビスの要求でも理屈に合わなければ平然と正論で拒否する。
むしろ長年クロビスと付き合っていて手馴れた対応なのである。
気が強くて素直じゃない。打たれ弱いくせに立ち直りは早い。
実はキャラが被っているルイズとクロビスなのだった。
「それにしても……これだけの数でかかれば、流石にギーシュのゴーレムにだって勝てるんじゃないの?
なんで全国民動員しないのよ?」
――かてるか、っていうのはビミョウですけどね――
数百匹いても勝てると言い切れないらしい。凄まじいまでの弱さだった。
――いちどにつれていける『配下』のかずは、そのひとの『器』できまるんです――
「器って何よ?」
――『魅力』とか『才覚』のたかさです。クロビスさまだと36人ですね――
ギーシュのゴーレムは7体まで操れるので、一体あたりで約5匹が襲い掛かる計算。
戦力実に5対1だが、小鬼の戦いっぷりを思い出してルイズは冷静に判断する。
「無理っぽいわね。今日も無駄死にしちゃうのかしら?」
――まぁ、しんぱいしなくても、もうすぐネをあげるころですよ――
「音を上げるって? クロビスが?」
あの立ち直りの早い使い魔国王が音を上げるというのはあまり想像できないルイズ。
首を捻りながらデザートのチョコレートケーキを食べ終えた頃、食堂の入り口からざわめきが聞こえてきた。
「お、おい、『血塗れ』ギーシュだぞ」
「嫌ぁ……『血塗れ』ギーシュ先輩よ」
「うわぁ。こっち来た」
「くわばらくわばら」
潮が引くように人がそそくさと去ってゆく。
現われたのは他でもない、クロビスが連日決闘を挑んでいる相手・ギーシュである。
「僕は『青銅』のギーシュだ。血塗れなんて二つ名じゃない!」
「ひっ、ひいぃぃぃ、おゆるしぃー!」
ギーシュがキッと睨むと小太りのクラスメイトが這うように逃げ出す。
いまや学院でギーシュの名は死と残虐の象徴となっているのだった。
「ミス・ヴァリエール、話がある。少々時間を割いて欲しいのだが」
「お、おい、『血塗れ』ギーシュが今度はゼロのルイズを血塗れにする気だぞ」
「やっぱり恐ろしい人ね……ヴァリエールみたいな大貴族に平気で手を出すなんて」
「そこは『血塗れ』だからな。ヤツにとって人の命なんて誰だろうとゴミ同然なのさ」
こそこそと話す生徒達。
教師までもが青ざめた顔で様子を窺っているが、誰もギーシュを止めようとはしなかった。
だが、そこで恐れて引くようなルイズではない。
立ち上がって真っ向からギーシュのブルーアイを見据え、答える。
「良いわよ、何処で話しましょうか?」
「……こっちだ」
ギーシュに先導されて食堂から出てゆくルイズ。
生徒達は怯えつつも興味深そうに見ていたが、ギーシュが振り返ってそちらを見ると誰もが首をひっこめた。
これなら誰も追っては来ないだろう。
ついて来ているのはダッパ君1匹。
だが学院内には無数の小鬼が住み着いているのだ。
いざとなれば彼等の力を借りて立派に戦おうとルイズは決意していた。
「頼むミス・ヴァリエール! あの小鬼に決闘をふっかけるのを止めさせてくれ! このとーりだ!」
そして人気の無い場所に来た途端、土下座されてしまった。
「はい?」
「もう嫌だ! 僕は『青銅』のギーシュだぞ! それなのに『血塗れ』なんて名で呼ばれて!」
「良いじゃない。強そうで」
「良いもんか! 女の娘達には恐がられて、友人達にも避けられて!
しかも小鬼を愛玩動物にしている娘達からは悪逆非道のオーク鬼かトロール鬼みたいに見られて!!
ってゆーかそっちが鬼じゃないか! 僕が何をしたってゆーんだい!!」
そりゃあどっちが鬼かと聞かれたら小鬼の方が鬼に間違いない。
地面にうずくまったままヨヨと泣き伏すギーシュ。
確かに、食堂でのあの周囲の反応は嫌だろう。
毎日の食事も周りの視線が痛いので部屋にもっていって食べているぐらいだ。
そしてギーシュも知らない事だが、実は小鬼に同情的なコック達によって彼の食事にはゾウキンの絞り汁が入れられていた。
どこのOLの嫌がらせだか。
「強いとか恐いとか思われても何も良い事なんて無い。
平穏な学園生活と温かな友人達がとんなに大切なのか、僕はあらためてわかった。
小鬼を秘薬調合の助手に使っているモンモランシーは僕を見て睨んでくるし、
ケティは僕を見て逃げ出すし……昨日は靴の中にゴキブリが入れられてたし……」
「あ、あの、よく判らないけど、小鬼がやったワケじゃないと思うわよ、そのゴキブリ」
「判ってるよ。彼等は平和的で穏健な生き物だ。同族をたくさん殺したこんなボクにもワケ隔てなく接してくれる。
あとゴキブリとか美味しく食べるし。彼等」
「―――それは知らないでいたかった事実だわ」
小鬼は何でも食べる。でもよくお腹をこわす。そんなイキモノ。
戦いは貴族の本分だが、ギーシュと小鬼が戦っているのは子犬をゴーレムで蹴散らしているようにしか見えない。
そのくせクロビス達はちゃんとナイフや木の棒で武装しているので、もし無抵抗になればギーシュの方が危ない。
その結果、彼は望まぬ殺戮に身を染めて、他人から『血塗れ』と恐れられる境遇になってしまったのであった。
哀れ。
「頼むよミス・ヴァリエール。あの小鬼はキミの使い魔なんだろう?
このとおり、小鬼達を殺した事も決闘をしかけた事も謝る。後生だからあの小鬼を止めてくれ!」
額を地面にすりつけて懇願するギーシュに、ルイズは戸惑いながら手を伸ばして言った。
「顔を上げて、ギーシュ」
「ミス・ヴァリエール……」
「大丈夫―――努力だけはしてみるわ」
「へっ?」
「ぶっちゃけると、アイツ私の言う事なんてあんまり聞かないから。
もし止められなかったらゴメンねギーシュ。
大丈夫よ。別に死ぬわけでも無いんだから。ファイト!」
「ミッ、ミス・ヴァリエェェェェェェルウゥゥゥゥゥゥゥ!」
ギーシュ・ド・グラモンの悲痛な叫びがコダマする。
ルイズはそそくさとその場を後にして教室へ向かった。
だってホントに自信なかったのだ。クロビスに言う事を聞かせる自信が。
それに午後の授業も始まりそうだったし。
後に残されるのはorzな『血塗れ』のギーシュ。
――まぁまぁ。クロビス様はボクがせっとくしますから――
ポンポンと、地に伏した男の肩を優しく叩いてダッパ君が言った。
で、その日の決闘からおこなわれなくなったという。
ギーシュがダッパ君に心から感謝したのは言うまでも無い。
かなりマッチポンプっぽいのだが。
おまけの用語解説コーナー『百万迷宮の歩き方』
【平和的で穏健な生き物】
小鬼にも色々な性格の者が居るし、中には極悪非道の誘拐犯『黒襟巻』なる犯罪集団も居る。
そもそも百万迷宮の小鬼は鬼族の奉仕種族として人類圏と敵対している。
人間と仲良く暮らしている連中も居るには居るが、ホントはあまり平和的な種族ではない。
とは言え基本的にはそれほど悪意のある種族では無いし、比較的温厚。
単にボーっとしてて何も考えてないダケとも言うが。
【同族をたくさん殺した】
小鬼を支配している種族である巨鬼(オーガ)の主食と好物は小鬼。
人食い鬼とか呼ばれるクセに人間より小鬼の味が好きだと言うのだから困ったモンである。
仲間を食われたぐらいの事を気にしてたら小鬼人生はやってられないらしい。
よくよく考えると、小鬼と言うのは実に神経太い種族だと云う事がわかる。
【ゴキブリとか美味しく食べる】
生命力と繁殖力、そしてなによりその外見と動きによって嫌われているゴキブリだが、
自然界では栄養豊富で美味しい餌食として各種動物さん達から大人気とゆー事実。
そもそも現代のようにゴキブリが全盛期を迎えているのは、
彼等を捕食せず、他の動物から身を守れる『家』と言う物を作った人類との片利共生に原因がある。
百万迷宮の話では無い。これはキミ達の前に厳然と存在するリアルの話なのだ。
ただしよく噛んで食べないと胃液の中でも生き残るって都市伝説があるんだゼ、やつら。
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