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「それで、結論を言ってくれんかの。ミスタ・コルベール」
所変わって、ここは本塔最上階の学院長室。ミスタ・コルベールが泡を飛ばしながら図
書館での調査結果を報告していた。
「あの少年はガンダールヴです!これが大事じゃなくて、なんなんですか!オールド・オスマン!」
「ふむ、確かにルーンが同じじゃ。だが、これだけでガンダールヴと決めつけるのは早計かもしれん。
それと、人形の方はどうじゃった?」
コルベールはいくつかの分厚い書物を開いて、調べた結果を示した。
「ご覧の通り、ゴーレムやガーゴイルを専門とするメイジについて様々な名簿や記録を調
べました。しかし、どこにもローゼンメイデンの名はありません。高名な土のメイジも調
べましたが、同じです。
加えて、あのような精巧な、生きているかのような人形の目撃例自体ありません。とい
いますか、ご飯を食べる人形なんて初めて見ました」
「う~む、まったく興味深い。ガンダールヴのルーンだけでも一大事だというのに。あれ
ほどの人形を練成出来る人物が、全くの無名だというのか?」
「信じがたいことです」
ドアがコツコツとノックされた。
「ミス・ロングビルかの?」
「はい。急ぎ報告したい事がございます」
中に入ってきたのは、凛々しい顔立ちがまぶしい秘書のミス・ロングビル。
「ヴェストリの広場で決闘をしている生徒がいるようです。一人はギーシュ・ド・グラモン。もう
一人はミス・ヴァリエールの使い魔の少年のようです」
オスマン氏とコルベールは顔を見合わせた。
「・・・平民の坊や。一つ聞いて良いかな?」
「・・・なんですか?」
「なぜこんな無駄な事をするんだい?素直に謝ればいいのに」
「う~ん、とね・・・」
ジュンは考えていた
どうしてこうなったんだろう、自分はなんでこんなことしてるんだろう
彼は既にボロボロで、片膝をつきながらゼィゼィと肩で息をしていた
「言い忘れていたけど僕の二つ名は『青銅』。だから青銅のゴーレム『ワルキューレ』が
お相手しているんだ」
ギーシュとジュンの間には、右手に剣を持った青銅のワルキューレが立っていた。しかし、
ワルキューレはまだ剣を使っていなかった。左手と蹴りしか使っていない。
ギーシュはワルキューレを1体練成し、まず左腕で殴りかからせた。
それをかわしたジュンがワルキューレに体当たりをかましたが、青銅製の彫像は重く、
ジュンの体重も軽いので、彫像をグラリとさせる事も出来なかった。逆に蹴りを食らって
吹っ飛ばされた。起きあがろうとした所に更に蹴りを腹に食らい、食べたばかりの昼食を
ゲロゲロ吐いた。
吐き終えたジュンは、片膝をついて、さらに立ち上がろうとしていた。
「・・・あのですね、ほんと、自分勝手な理由だと、思うんです、けどね」
苦しげに息をつきながら、ゆっくりとジュンは話し始めた。
「僕、今までずっとイヤな事、恥ずかしい事、辛い事から逃げてたんですよ」
「ふ~ん、それで」
さして興味なさそうに、ギーシュは適当な相づちをうった
「でも、やっぱ恥ずかしいからって、辛いからって、逃げてちゃダメだと思うんです」
「だから、そうやってはいつくばりに来たって言うのかい?」
ギーシュは、フラフラになりながら立ち上がったジュンに、呆れていた。
「別にはいつくばりに来たワケじゃないです」
大きく息を吸い、呼吸を整えた。
「ただ、どんなに恥ずかしくても、どんなに怖くても、どんなに下らなくても、そんな自
分から目をそらさないようにしたいんです。どこかに逃げたり、誰かの後ろに隠れたりし
ないようになりたいんです」
そう言ってジュンはワルキューレをキッと見据え、ファイティングポーズをとった。
ギーシュはきざったらしくポーズを決めながら、頭を振った。
「だからって、勝ち目のない戦いをするのは愚か者のやることだよ。きみ、死ぬよ」
「愚かでいいです。優等生ぶって、かっこつけて、もっともらしい言い訳ばかりしてた頃
より、ずっとましです」
「死んでもいいのかい?」
「死ぬのはイヤです。でも、ぶるぶる震えて逃げ出すのはもっとイヤです」
ジュンは、ワルキューレを見据えたまま、戦闘態勢を崩そうとはしない。
「ハッ!ばからしい」
ギーシュはくるりと背を向けた
「どんな平民が召喚されたかと思って期待してたんだけどね。ただの意地っ張りでバカな
子供だったのか。相手にして損したよ」
「でも、僕がどんな人間か、ここに居る人たちに少しでも分かってもらえたと思います。
それだけでも、僕にとっては十分です」
そう言ってジュンは周囲の野次馬を見回した。呆れる者、バカにする者、様々な表情が
あった。ジュンはその全てを、目を逸らさずに見渡した。
「フフッ、どうやらこのギーシュ・ド・グラモンともあろう者が、君の悪趣味な自己紹介
に利用されてしまったようだね」
「あ、いえ、そんなつもりはなかったんです。すいません」
素直に頭を下げたジュンに、ギーシュも満足げに微笑んだ。
「まぁいいさ。これからは貴族に対する礼儀について、君の主からでも教えてもらうんだ
ね」
そう言ってギーシュはワルキューレを消そうとした。だが、ジュンの前に小さな人影が
二つ立った。
右手にステッキを持った真紅
「まだ、私たちの自己紹介が済んでいませんの。お付き合い頂けますか?お若いジェント
ルマン」
自分の体ほどの大きさもある、見事な装飾がついた金色の如雨露を持った翠星石
「次は私たちの出番で~す♪ヘナチョコのチビ人間は引っ込んでるですぅ」
言われたギーシュは、あんぐりと口を開けたまま、たっぷり10秒思考が停止した。
「相手をするって、君たちがかい?」
「ええ」「もちろんですぅ」
「念のため聞くけど、僕のワルキューレと戦いたいっていう意味でかい?」
「そうよ」「相手にとって不足無しですよー」
「…で、その小さな体で、オモチャのステッキと如雨露で戦うっていうのかい?」
「もちろんですわ」「これはオモチャじゃないですぅ。本物の如雨露ですよぉ」
しばしの沈黙の後
「ブぁアハハハハハッッ!!ハッハハハハハッ!!ギャハハはひハハ!!!」
ギーシュは笑い転げていた。涙を流して腹を抱えて。
周囲の観衆も爆笑に包まれていた
翠星石は、ひひひぃ~っと笑いながら、ワルキューレの足下に如雨露の水をまいた。
「健やかにぃ~、のびやかにぃ~、緑の葉っぱをキラキラ広げて…!!」
爆笑の渦の中、翠星石は水をまき続けた。
ぼんっ!
木があった
何かが破裂するような音と共に、ワルキューレが大木になった
一瞬前まで青銅の戦乙女が立ってた場所に、見事な大木が突然現れた
ひゅるるるるるるるるる…
ぐわっしゃん
いきなり青銅の塊が降ってきて、地面にぶつかりバラバラになった
ざくっ
さっきまでワルキューレが持っていた剣が、続いて降ってきて地面にささった
『目に見えないほど高速で生えた木が、上にいたワルキューレを宙へ吹っ飛ばした』
その事に人々が気付くまで、たっぷり30秒はかかった。
「んな、なななな、なんですかーーーーっっっ!!」
ギーシュはアゴが外れそうなほど絶叫してしまった。
「私は真紅。ローゼンメイデン第五ドールの真紅。お相手願うわ、ジェントルマン!」
真紅の左手から薔薇の花びらが雲のように舞い上がる!
「同じくローゼンメイデン!第三ドールの翠星石です!さぁいくですよ!!」
翠星石が如雨露を構えて宙に浮く!
真紅も薔薇の花びらをまとい急上昇した!
--なっ!『フライ』か!!
--まさか!あの人形、魔法が使える!?
一瞬にして騒然となった観衆の声にハッとしたギーシュが、慌てて薔薇の花びらをまい
た。6体のワルキューレが現れた。剣と盾を持つモノが2体、ボウガンを構えたモノが2
体、そして投げナイフを持ったモノが2体。
高速飛行する人形達に対応した武器を練成したのだろう。盾を持つ2体がギーシュを守
り、残り4体が飛び回る真紅達に狙いを定めようとしていた。
ヒュヒュンッ
2本の投げナイフが翠星石へ投げられた!
カキキィンッ
翠星石が2本とも軽々と如雨露で撃ちおとした!
バシュシュッ
急降下する真紅に向け、ボウガンの矢が2本放たれた!
真紅はクルクルと体をひねり、たやすく矢をかわしていく
まるで燕のように軽やかに飛び回り、如雨露とステッキで矢とナイフを見事に跳ね返す
人形達。ワルキューレは振り回されていた。
「お受けなさい、薔薇の戒めを!」
真紅を包む薔薇の花びらが、疾風となってギーシュを襲う!
「ひぃぃ!」
ギーシュはワルキューレに隠れ、薔薇の花びらの大半はワルキューレに阻まれた。しか
し小さく大量の花びらは、何枚かがワルキューレをすり抜けてギーシュの頬をかすめた。
つぅっと一筋の血が、ギーシュの頬から流れた。
「な、なな!花びらなのにぃ!」
「そうれぇ!薔薇にばっか気を取られていいんですかー!?」
翠星石がボウガンの矢を軽快に避けつつ、ワルキューレ達の足下にサッと水をまいた。
ブォオオオオオオッ!
水がまかれた所から、ものすごい勢いでツタらしきモノが伸び出した!
ボウガンを構えていたワルキューレが、ツタに絡まり身動きを取れなくなった。なんとか逃れようとジタバタするが、ほとんど身動きが取れない。
「くっくそ!」
ギーシュは投げナイフのワルキューレに、ナイフでツタを切らせた。しかし
「そーれ!もういっちょですーーー!!」
翠星石がさらに水をまき、飛び出してきたツタに2体ともからまって動けなくなった。
「そっ!そんなバカなぁ!!」
想像もしていない事態に絶叫してしまったギーシュだが、彼は既に大量の薔薇の花びら
に包囲され、ワルキューレの影から出る事も出来ない。
残り2体のワルキューレも、あっという間にツタがからまり動けなくなった。
「さぁ、これで終わりよ!」
真紅が操る薔薇の竜巻が、ギーシュへの包囲を一気に狭めていく!
「やめろっ!おまえらいい加減にしろ!!」
突如、絶叫が広場に響き渡った。
ワルキューレの剣を構えたジュンが、ギーシュを背にして人形達へ吠えていた。
「な!?ちょっとジュン、何やってるですか?なんで邪魔するですか!」
翠星石は、ジュンの剣幕にタジタジだ。
「そうよ、ジュン。ミーディアムが戦う時は、あたし達ローゼンメイデンも戦う時よ」
舞い降りてきた真紅も、困った顔だ。
「だからって!誰がこんな事しろって言ったよ!?ギーシュさんだって、もう何もする気
無かったの、お前らだって分かってたろ!?」
「でも!ジュンがバカにされるのは、私達だって我慢ならないわ」
「そ~ですよぉ、いくらなんでも人としてあれは」
「うるさ----------いっっっ!」
思いっきり怒鳴られた真紅も翠星石、それ以上何も言えなかった。
二人ともうつむいてしまう。
「二人とも分かってるだろ?僕らはここにケンカをするためにいるんじゃないんだ。わざ
わざ敵なんか作らなくていいんだよ」
ジュンに諭されて、二人ともさらにしょんぼりしてしまった。視線を落とし、イジイジと
両手を絡ませている。
「・・・わかったわ、ジュン。あたし達が間違ってた」
「…ゴメンです、ジュン」
「ん、分かってくれればいいんだ」
ジュンは剣を捨て、二人を抱きかかえ、未だにワルキューレに隠れていたギーシュに頭
を下げた。
「すいませんギーシュさん。こいつらには僕からよく叱っておきます。ご迷惑をおかけし
ました」
頭を下げられたギーシュだが、既に腰が抜けて口もきけず、動けなかった。
「そこまでっ!」
突然上空から声が響いた。
コルベールが舞い降りてきた。
「この決闘は、そこの少年が己の非を認めて謝罪したので、ギーシュ君の勝利です。さぁ
余興はここまで!皆さん授業に戻って下さい」
周囲の学生達は、慌てて教室に戻っていった。ギーシュもコルベールに助け起こされ、
ハンカチで頬の血をを拭きながら、立ち去っていった。去り際にちらっとジュン達の方を
見たが、ジュン達にはその表情は遠くてよく見えなかった。
ルイズだけは教室へ向かわず、ジュン達の方へ来た。
「まったく、ホント無茶苦茶ねぇあんたたちは」
「ハハ…自分でもホントそう思うよ。ッつぅ!いててて…」
ジュンは痛む腹を押さえた。
「ほら、怪我したんでしょ?医務室へ行くわよ」
「それには及びません。皆、学院長室へ来て下さい。オールド・オスマンが話を伺いたい
そうです。傷は向こうで『治癒』の魔法をかけてあげますよ」
学院長室と言う言葉を聞いて、ルイズとジュンは不安げに目を合わせ、コルベールを見
上げた。だがコルベールは黙ってジュンを見つめていた。正確には、ジュンの左手のルー
ンを。
ジュンが剣を握っていた時、ルーンが光を帯びていた事を見逃していなかった。
「まったく、信じられん子達じゃな」
オールド・オスマンはヒゲをなでながら、目の前のソファーに座るルイズ達4人(正確
には二人と2体)を見回した。机を挟んでソファーに座るコルベールとオスマンは、さて
何から聞いたものかと思案していた。
オスマンがゆっくりと口を開いた。
「大体の事は鏡から見ておった。メイド達からも事情は聞いておる。まったく、今目の前
にしても信じられん。なんというゴーレムじゃ」
「失礼ながら、私たちはゴーレムなどと言う存在ではありません」
「そうですぅ。私たちはれっきとした人形ですよぉ」
真紅と翠星石が抗議した。
「そうか、すまんかった。ところで、桜田ジュンというたかな?」
「は、はい」
ジュンは急に話を振られて、緊張で固まってしまった。
「君は、何者だね?」
「何者って言われても・・・魔法が使えない、ただの平民です」
「その人形達は、きみのかね?」
「はぁ、その、まぁそうです」
「誰が作ったんだね」
「ローゼンという人です」
オスマンは横のコルベールをみたが、コルベールも首を横に振った。
「誰だね、そのローゼンというのは」
「僕の国では伝説級の人形師です」
「君の国?そういえば君はどこの出身かね」
「えーっと、どこと言われても・・・」
「ロバ・アル・カリイエですわ、オールド・オスマン」
ルイズが助け船を出した。
「なんと!聖地より遙か東方からかね!なるほどなるほど、ならば我々がまったく知らな
いのも当然じゃな。
そうかそうか…その、君の国では、こういう人形が沢山あるのかね?」
「うーんと…別に沢山いるワケじゃないんですけど…」
ジュンは困ってしまった。この込み入った状況を、どこまで話したものだろう?異世界
から来たとか、そういう事を説明しても、あんまり良い事は無い気がする。
「ふむ、なかなか言いにくい事もあるようじゃな。まぁ話せる範囲で構わんよ。それに、
急ぐわけでもないし」
「はぁ、すいません」
ジュンはポリポリと頭をかいて謝った。
「とりあえず、他の人形ですけど、僕が知る限りでは多分、6体」
「知ってるだけで6体、か…全部ローゼンという人の作品かね?」
「いえ、ローゼンの弟子、とか言ってたヤツも作ってました。いくつ作ったかは知らない
ですけど」
「あーんなヤツをお父様を一緒にするなです!」
「そうね、あんな男とお父様を並べられると不愉快だわ」
翠星石と真紅がプリプリ怒って文句を言う
「ほ、ほう、そうかねそうかね、うんうん」
オスマンは毛が抜けそうなほど、しつこくヒゲをなで続けた。
「で!では、私からも質問をして良いかな?ああ、私はこの学院で教師をしているコルベ
ールです。昨日会ったね。君の国ではそのゴーレ、いや、人形だけど、みんな魔法が使え
たり」
「うおっほんっ!ミスタ・コルベール。彼らも疲れているじゃろうから、今日はこの辺にしておきたまえ」
「え!?いや、しかし私も聞きたい事が山ほど」
「まぁまぁ、今日の大喧嘩で彼はフラフラになっとるんじゃから。そろそろ休ませてあげ
たまえ」
「あ…う、そう、ですね。分かりました」
「では、長話に付き合わせて悪かったな諸君。決闘騒ぎの事は、悪いのはギーシュ君のほ
うじゃから、君たちの責任は問わんよ。
ともかく今夜はゆっくり休みたまえよ」
急に話を切り上げられて納得のいかないものを感じつつも、ルイズ一行は部屋を後にした。
残った部屋ではオスマンが窓から空を眺めていた。コルベールはオスマンを不満げに見つめていた。
「オールド・オスマン」
オスマンは何も言わず、空を見上げていた
「王室に報告しないでよいのですか?」
「何をだね」
「ガンダールヴ出現、それも、超技術で作られた人形達を従えての降臨…で、す…」
コルベールの声が、どんどん小さくなっていった。
オスマンは、ゆっくりとコルベールに振り向いた
「伝えたら、どうなると思うね?」
「そ、それは…」
「アカデミーによる人形強奪、量産される魔法兵器、おまけにガンダールヴじゃと!?王
室連中が神様気取りでハルケギニアを火の海にするのが、目に浮かぶわい!」
オスマンは吐き捨てるように怒鳴った。コルベールも苦々しく唇を噛む。だが、それで
も口を開いた。
「おっしゃる事は分かります。私もその通りだと思います。ですが、状況は…」
「そうじゃ、彼らは自分たちの存在を、能力を堂々とさらけ出した。ギーシュ君を、ドッ
トクラスの土メイジなぞ歯牙にもかけない、彼らの能力をな。人の口に戸は立てられぬ。
アカデミーの耳に入るのも、そう遠くはないぞ」
「せめてもの救いは、あの少年はガンダールヴの能力を使わなかった事です。それだけで
も秘匿しましょう」
「うむ…むしろ、彼のルーンがガンダールヴのそれと似ているだけで、全然別ものだった
と言う事を期待したいのぉ」
オスマンとコルベールは、空を見上げた。この青空のように澄み渡った明るい未来、そ
んなものは期待できないと思い知らされながら。
「それで、今夜はどうするの?」
「うーん、それなんだけど…」
夜
ルイズの部屋で、今夜はどこで寝るかでジュンは困っていた。
「その~…この世界に来るのはスッゴイ力を使うんで、出来ればあんまり行き来したくな
いんですけど…」
「んじゃ、ここに泊まるしかないわね」
ルイズは既にネグリジェに着替えていた。
「でも、その~…やっぱり外で寝ますよ」
と言って出ようとしたジュンの首をルイズが、わっしと捕まえた。
「待ちなさいよ。あんた、まがりなりにも使い魔なんだからね。使い魔を部屋からほっぽ
り出すメイジなんて、聞いた事無いわ」
「でも、ベッドは一つだけなんですが…」
「毛布貸すから、床で寝なさい」
「はぁ…う~、その、そぅ言われても…」
「ウダウダうるさいっ!あたしがいいといってんだからいいのよっ!!」
「は!ハイ…」
ジュンはルイズから毛布を受け取り、床に敷きながら、ルイズをチラッと見た。薄手の
ネグリジェに、細身のラインが浮き出ている。だがルイズは、ジュンの前でも全っ然恥ず
かしがろうとしない。ただの子供と思われてるのか、腕力で勝ってると思っているのか。
…おそらく両方だろう。
ピシィ!
いきなり横っ面を、真紅の髪にはたかれた。
「レディの寝姿をジロジロ見るモノではなくてよ」
「うわゎ~ジュンったらエッチですぅ~♪」
「そ、そんなんじゃないよ!」
翠星石にもツンツンつつかれて、ジュンは真っ赤になった。
「だいじょーぶよ、ジュンにそんな度胸無いなんて分かってるモン♪そ・れ・と・も、
おねーさんが子守歌を歌ってあげないと寝れないかのかしら~?」
「そ!そんな分けないだろ!?お…おやすみ!」
ジュンはガバッと布団をかぶって横になった。
「ふふ♪むりしちゃって~。
ところで、真紅と翠星石は、ほんとにその鞄で寝るの?」
ルイズは鞄に入ろうとする真紅と翠星石を不思議そうに眺めていた。
「ええ、私たちローゼンメイデンにはこの鞄で寝るのは神聖な行為なの」
「それに私たち、この鞄以外ではねれないですよ~。それじゃ、おやすみなさいです」
「そうなの?まぁ、それならそれでいいわ。それじゃ、お休みなさい」
「ええ、お休みなさい」
皆、それぞれの寝床に入り、すぐに夢の世界へと旅だった。
見上げれば満天の星空。
せめて彼らの明日に希望の星があらんことを
第2話 END
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&setpagename(薔薇乙女も使い魔 第2話 下)
「それで、結論を言ってくれんかの。ミスタ・コルベール」
所変わって、ここは本塔最上階の学院長室。ミスタ・コルベールが泡を飛ばしながら図
書館での調査結果を報告していた。
「あの少年はガンダールヴです!これが大事じゃなくて、なんなんですか!オールド・オスマン!」
「ふむ、確かにルーンが同じじゃ。だが、これだけでガンダールヴと決めつけるのは早計かもしれん。
それと、人形の方はどうじゃった?」
コルベールはいくつかの分厚い書物を開いて、調べた結果を示した。
「ご覧の通り、ゴーレムやガーゴイルを専門とするメイジについて様々な名簿や記録を調
べました。しかし、どこにもローゼンメイデンの名はありません。高名な土のメイジも調
べましたが、同じです。
加えて、あのような精巧な、生きているかのような人形の目撃例自体ありません。とい
いますか、ご飯を食べる人形なんて初めて見ました」
「う~む、まったく興味深い。ガンダールヴのルーンだけでも一大事だというのに。あれ
ほどの人形を練成出来る人物が、全くの無名だというのか?」
「信じがたいことです」
ドアがコツコツとノックされた。
「ミス・ロングビルかの?」
「はい。急ぎ報告したい事がございます」
中に入ってきたのは、凛々しい顔立ちがまぶしい秘書のミス・ロングビル。
「ヴェストリの広場で決闘をしている生徒がいるようです。一人はギーシュ・ド・グラモン。もう
一人はミス・ヴァリエールの使い魔の少年のようです」
オスマン氏とコルベールは顔を見合わせた。
「・・・平民の坊や。一つ聞いて良いかな?」
「・・・なんですか?」
「なぜこんな無駄な事をするんだい?素直に謝ればいいのに」
「う~ん、とね・・・」
ジュンは考えていた
どうしてこうなったんだろう、自分はなんでこんなことしてるんだろう
彼は既にボロボロで、片膝をつきながらゼィゼィと肩で息をしていた
「言い忘れていたけど僕の二つ名は『青銅』。だから青銅のゴーレム『ワルキューレ』が
お相手しているんだ」
ギーシュとジュンの間には、右手に剣を持った青銅のワルキューレが立っていた。しかし、
ワルキューレはまだ剣を使っていなかった。左手と蹴りしか使っていない。
ギーシュはワルキューレを1体練成し、まず左腕で殴りかからせた。
それをかわしたジュンがワルキューレに体当たりをかましたが、青銅製の彫像は重く、
ジュンの体重も軽いので、彫像をグラリとさせる事も出来なかった。逆に蹴りを食らって
吹っ飛ばされた。起きあがろうとした所に更に蹴りを腹に食らい、食べたばかりの昼食を
ゲロゲロ吐いた。
吐き終えたジュンは、片膝をついて、さらに立ち上がろうとしていた。
「・・・あのですね、ほんと、自分勝手な理由だと、思うんです、けどね」
苦しげに息をつきながら、ゆっくりとジュンは話し始めた。
「僕、今までずっとイヤな事、恥ずかしい事、辛い事から逃げてたんですよ」
「ふ~ん、それで」
さして興味なさそうに、ギーシュは適当な相づちをうった
「でも、やっぱ恥ずかしいからって、辛いからって、逃げてちゃダメだと思うんです」
「だから、そうやってはいつくばりに来たって言うのかい?」
ギーシュは、フラフラになりながら立ち上がったジュンに、呆れていた。
「別にはいつくばりに来たワケじゃないです」
大きく息を吸い、呼吸を整えた。
「ただ、どんなに恥ずかしくても、どんなに怖くても、どんなに下らなくても、そんな自
分から目をそらさないようにしたいんです。どこかに逃げたり、誰かの後ろに隠れたりし
ないようになりたいんです」
そう言ってジュンはワルキューレをキッと見据え、ファイティングポーズをとった。
ギーシュはきざったらしくポーズを決めながら、頭を振った。
「だからって、勝ち目のない戦いをするのは愚か者のやることだよ。きみ、死ぬよ」
「愚かでいいです。優等生ぶって、かっこつけて、もっともらしい言い訳ばかりしてた頃
より、ずっとましです」
「死んでもいいのかい?」
「死ぬのはイヤです。でも、ぶるぶる震えて逃げ出すのはもっとイヤです」
ジュンは、ワルキューレを見据えたまま、戦闘態勢を崩そうとはしない。
「ハッ!ばからしい」
ギーシュはくるりと背を向けた
「どんな平民が召喚されたかと思って期待してたんだけどね。ただの意地っ張りでバカな
子供だったのか。相手にして損したよ」
「でも、僕がどんな人間か、ここに居る人たちに少しでも分かってもらえたと思います。
それだけでも、僕にとっては十分です」
そう言ってジュンは周囲の野次馬を見回した。呆れる者、バカにする者、様々な表情が
あった。ジュンはその全てを、目を逸らさずに見渡した。
「フフッ、どうやらこのギーシュ・ド・グラモンともあろう者が、君の悪趣味な自己紹介
に利用されてしまったようだね」
「あ、いえ、そんなつもりはなかったんです。すいません」
素直に頭を下げたジュンに、ギーシュも満足げに微笑んだ。
「まぁいいさ。これからは貴族に対する礼儀について、君の主からでも教えてもらうんだ
ね」
そう言ってギーシュはワルキューレを消そうとした。だが、ジュンの前に小さな人影が
二つ立った。
右手にステッキを持った真紅
「まだ、私たちの自己紹介が済んでいませんの。お付き合い頂けますか?お若いジェント
ルマン」
自分の体ほどの大きさもある、見事な装飾がついた金色の如雨露を持った翠星石
「次は私たちの出番で~す♪ヘナチョコのチビ人間は引っ込んでるですぅ」
言われたギーシュは、あんぐりと口を開けたまま、たっぷり10秒思考が停止した。
「相手をするって、君たちがかい?」
「ええ」「もちろんですぅ」
「念のため聞くけど、僕のワルキューレと戦いたいっていう意味でかい?」
「そうよ」「相手にとって不足無しですよー」
「…で、その小さな体で、オモチャのステッキと如雨露で戦うっていうのかい?」
「もちろんですわ」「これはオモチャじゃないですぅ。本物の如雨露ですよぉ」
しばしの沈黙の後
「ブぁアハハハハハッッ!!ハッハハハハハッ!!ギャハハはひハハ!!!」
ギーシュは笑い転げていた。涙を流して腹を抱えて。
周囲の観衆も爆笑に包まれていた
翠星石は、ひひひぃ~っと笑いながら、ワルキューレの足下に如雨露の水をまいた。
「健やかにぃ~、のびやかにぃ~、緑の葉っぱをキラキラ広げて…!!」
爆笑の渦の中、翠星石は水をまき続けた。
ぼんっ!
木があった
何かが破裂するような音と共に、ワルキューレが大木になった
一瞬前まで青銅の戦乙女が立ってた場所に、見事な大木が突然現れた
ひゅるるるるるるるるる…
ぐわっしゃん
いきなり青銅の塊が降ってきて、地面にぶつかりバラバラになった
ざくっ
さっきまでワルキューレが持っていた剣が、続いて降ってきて地面にささった
『目に見えないほど高速で生えた木が、上にいたワルキューレを宙へ吹っ飛ばした』
その事に人々が気付くまで、たっぷり30秒はかかった。
「んな、なななな、なんですかーーーーっっっ!!」
ギーシュはアゴが外れそうなほど絶叫してしまった。
「私は真紅。ローゼンメイデン第五ドールの真紅。お相手願うわ、ジェントルマン!」
真紅の左手から薔薇の花びらが雲のように舞い上がる!
「同じくローゼンメイデン!第三ドールの翠星石です!さぁいくですよ!!」
翠星石が如雨露を構えて宙に浮く!
真紅も薔薇の花びらをまとい急上昇した!
--なっ!『フライ』か!!
--まさか!あの人形、魔法が使える!?
一瞬にして騒然となった観衆の声にハッとしたギーシュが、慌てて薔薇の花びらをまい
た。6体のワルキューレが現れた。剣と盾を持つモノが2体、ボウガンを構えたモノが2
体、そして投げナイフを持ったモノが2体。
高速飛行する人形達に対応した武器を練成したのだろう。盾を持つ2体がギーシュを守
り、残り4体が飛び回る真紅達に狙いを定めようとしていた。
ヒュヒュンッ
2本の投げナイフが翠星石へ投げられた!
カキキィンッ
翠星石が2本とも軽々と如雨露で撃ちおとした!
バシュシュッ
急降下する真紅に向け、ボウガンの矢が2本放たれた!
真紅はクルクルと体をひねり、たやすく矢をかわしていく
まるで燕のように軽やかに飛び回り、如雨露とステッキで矢とナイフを見事に跳ね返す
人形達。ワルキューレは振り回されていた。
「お受けなさい、薔薇の戒めを!」
真紅を包む薔薇の花びらが、疾風となってギーシュを襲う!
「ひぃぃ!」
ギーシュはワルキューレに隠れ、薔薇の花びらの大半はワルキューレに阻まれた。しか
し小さく大量の花びらは、何枚かがワルキューレをすり抜けてギーシュの頬をかすめた。
つぅっと一筋の血が、ギーシュの頬から流れた。
「な、なな!花びらなのにぃ!」
「そうれぇ!薔薇にばっか気を取られていいんですかー!?」
翠星石がボウガンの矢を軽快に避けつつ、ワルキューレ達の足下にサッと水をまいた。
ブォオオオオオオッ!
水がまかれた所から、ものすごい勢いでツタらしきモノが伸び出した!
ボウガンを構えていたワルキューレが、ツタに絡まり身動きを取れなくなった。なんとか逃れようとジタバタするが、ほとんど身動きが取れない。
「くっくそ!」
ギーシュは投げナイフのワルキューレに、ナイフでツタを切らせた。しかし
「そーれ!もういっちょですーーー!!」
翠星石がさらに水をまき、飛び出してきたツタに2体ともからまって動けなくなった。
「そっ!そんなバカなぁ!!」
想像もしていない事態に絶叫してしまったギーシュだが、彼は既に大量の薔薇の花びら
に包囲され、ワルキューレの影から出る事も出来ない。
残り2体のワルキューレも、あっという間にツタがからまり動けなくなった。
「さぁ、これで終わりよ!」
真紅が操る薔薇の竜巻が、ギーシュへの包囲を一気に狭めていく!
「やめろっ!おまえらいい加減にしろ!!」
突如、絶叫が広場に響き渡った。
ワルキューレの剣を構えたジュンが、ギーシュを背にして人形達へ吠えていた。
「な!?ちょっとジュン、何やってるですか?なんで邪魔するですか!」
翠星石は、ジュンの剣幕にタジタジだ。
「そうよ、ジュン。ミーディアムが戦う時は、あたし達ローゼンメイデンも戦う時よ」
舞い降りてきた真紅も、困った顔だ。
「だからって!誰がこんな事しろって言ったよ!?ギーシュさんだって、もう何もする気
無かったの、お前らだって分かってたろ!?」
「でも!ジュンがバカにされるのは、私達だって我慢ならないわ」
「そ~ですよぉ、いくらなんでも人としてあれは」
「うるさ----------いっっっ!」
思いっきり怒鳴られた真紅も翠星石、それ以上何も言えなかった。
二人ともうつむいてしまう。
「二人とも分かってるだろ?僕らはここにケンカをするためにいるんじゃないんだ。わざ
わざ敵なんか作らなくていいんだよ」
ジュンに諭されて、二人ともさらにしょんぼりしてしまった。視線を落とし、イジイジと
両手を絡ませている。
「・・・わかったわ、ジュン。あたし達が間違ってた」
「…ゴメンです、ジュン」
「ん、分かってくれればいいんだ」
ジュンは剣を捨て、二人を抱きかかえ、未だにワルキューレに隠れていたギーシュに頭
を下げた。
「すいませんギーシュさん。こいつらには僕からよく叱っておきます。ご迷惑をおかけし
ました」
頭を下げられたギーシュだが、既に腰が抜けて口もきけず、動けなかった。
「そこまでっ!」
突然上空から声が響いた。
コルベールが舞い降りてきた。
「この決闘は、そこの少年が己の非を認めて謝罪したので、ギーシュ君の勝利です。さぁ
余興はここまで!皆さん授業に戻って下さい」
周囲の学生達は、慌てて教室に戻っていった。ギーシュもコルベールに助け起こされ、
ハンカチで頬の血をを拭きながら、立ち去っていった。去り際にちらっとジュン達の方を
見たが、ジュン達にはその表情は遠くてよく見えなかった。
ルイズだけは教室へ向かわず、ジュン達の方へ来た。
「まったく、ホント無茶苦茶ねぇあんたたちは」
「ハハ…自分でもホントそう思うよ。ッつぅ!いててて…」
ジュンは痛む腹を押さえた。
「ほら、怪我したんでしょ?医務室へ行くわよ」
「それには及びません。皆、学院長室へ来て下さい。オールド・オスマンが話を伺いたい
そうです。傷は向こうで『治癒』の魔法をかけてあげますよ」
学院長室と言う言葉を聞いて、ルイズとジュンは不安げに目を合わせ、コルベールを見
上げた。だがコルベールは黙ってジュンを見つめていた。正確には、ジュンの左手のルー
ンを。
ジュンが剣を握っていた時、ルーンが光を帯びていた事を見逃していなかった。
「まったく、信じられん子達じゃな」
オールド・オスマンはヒゲをなでながら、目の前のソファーに座るルイズ達4人(正確
には二人と2体)を見回した。机を挟んでソファーに座るコルベールとオスマンは、さて
何から聞いたものかと思案していた。
オスマンがゆっくりと口を開いた。
「大体の事は鏡から見ておった。メイド達からも事情は聞いておる。まったく、今目の前
にしても信じられん。なんというゴーレムじゃ」
「失礼ながら、私たちはゴーレムなどと言う存在ではありません」
「そうですぅ。私たちはれっきとした人形ですよぉ」
真紅と翠星石が抗議した。
「そうか、すまんかった。ところで、桜田ジュンというたかな?」
「は、はい」
ジュンは急に話を振られて、緊張で固まってしまった。
「君は、何者だね?」
「何者って言われても・・・魔法が使えない、ただの平民です」
「その人形達は、きみのかね?」
「はぁ、その、まぁそうです」
「誰が作ったんだね」
「ローゼンという人です」
オスマンは横のコルベールをみたが、コルベールも首を横に振った。
「誰だね、そのローゼンというのは」
「僕の国では伝説級の人形師です」
「君の国?そういえば君はどこの出身かね」
「えーっと、どこと言われても・・・」
「ロバ・アル・カリイエですわ、オールド・オスマン」
ルイズが助け船を出した。
「なんと!聖地より遙か東方からかね!なるほどなるほど、ならば我々がまったく知らな
いのも当然じゃな。
そうかそうか…その、君の国では、こういう人形が沢山あるのかね?」
「うーんと…別に沢山いるワケじゃないんですけど…」
ジュンは困ってしまった。この込み入った状況を、どこまで話したものだろう?異世界
から来たとか、そういう事を説明しても、あんまり良い事は無い気がする。
「ふむ、なかなか言いにくい事もあるようじゃな。まぁ話せる範囲で構わんよ。それに、
急ぐわけでもないし」
「はぁ、すいません」
ジュンはポリポリと頭をかいて謝った。
「とりあえず、他の人形ですけど、僕が知る限りでは多分、6体」
「知ってるだけで6体、か…全部ローゼンという人の作品かね?」
「いえ、ローゼンの弟子、とか言ってたヤツも作ってました。いくつ作ったかは知らない
ですけど」
「あーんなヤツをお父様を一緒にするなです!」
「そうね、あんな男とお父様を並べられると不愉快だわ」
翠星石と真紅がプリプリ怒って文句を言う
「ほ、ほう、そうかねそうかね、うんうん」
オスマンは毛が抜けそうなほど、しつこくヒゲをなで続けた。
「で!では、私からも質問をして良いかな?ああ、私はこの学院で教師をしているコルベ
ールです。昨日会ったね。君の国ではそのゴーレ、いや、人形だけど、みんな魔法が使え
たり」
「うおっほんっ!ミスタ・コルベール。彼らも疲れているじゃろうから、今日はこの辺にしておきたまえ」
「え!?いや、しかし私も聞きたい事が山ほど」
「まぁまぁ、今日の大喧嘩で彼はフラフラになっとるんじゃから。そろそろ休ませてあげ
たまえ」
「あ…う、そう、ですね。分かりました」
「では、長話に付き合わせて悪かったな諸君。決闘騒ぎの事は、悪いのはギーシュ君のほ
うじゃから、君たちの責任は問わんよ。
ともかく今夜はゆっくり休みたまえよ」
急に話を切り上げられて納得のいかないものを感じつつも、ルイズ一行は部屋を後にした。
残った部屋ではオスマンが窓から空を眺めていた。コルベールはオスマンを不満げに見つめていた。
「オールド・オスマン」
オスマンは何も言わず、空を見上げていた
「王室に報告しないでよいのですか?」
「何をだね」
「ガンダールヴ出現、それも、超技術で作られた人形達を従えての降臨…で、す…」
コルベールの声が、どんどん小さくなっていった。
オスマンは、ゆっくりとコルベールに振り向いた
「伝えたら、どうなると思うね?」
「そ、それは…」
「アカデミーによる人形強奪、量産される魔法兵器、おまけにガンダールヴじゃと!?王
室連中が神様気取りでハルケギニアを火の海にするのが、目に浮かぶわい!」
オスマンは吐き捨てるように怒鳴った。コルベールも苦々しく唇を噛む。だが、それで
も口を開いた。
「おっしゃる事は分かります。私もその通りだと思います。ですが、状況は…」
「そうじゃ、彼らは自分たちの存在を、能力を堂々とさらけ出した。ギーシュ君を、ドッ
トクラスの土メイジなぞ歯牙にもかけない、彼らの能力をな。人の口に戸は立てられぬ。
アカデミーの耳に入るのも、そう遠くはないぞ」
「せめてもの救いは、あの少年はガンダールヴの能力を使わなかった事です。それだけで
も秘匿しましょう」
「うむ…むしろ、彼のルーンがガンダールヴのそれと似ているだけで、全然別ものだった
と言う事を期待したいのぉ」
オスマンとコルベールは、空を見上げた。この青空のように澄み渡った明るい未来、そ
んなものは期待できないと思い知らされながら。
「それで、今夜はどうするの?」
「うーん、それなんだけど…」
夜
ルイズの部屋で、今夜はどこで寝るかでジュンは困っていた。
「その~…この世界に来るのはスッゴイ力を使うんで、出来ればあんまり行き来したくな
いんですけど…」
「んじゃ、ここに泊まるしかないわね」
ルイズは既にネグリジェに着替えていた。
「でも、その~…やっぱり外で寝ますよ」
と言って出ようとしたジュンの首をルイズが、わっしと捕まえた。
「待ちなさいよ。あんた、まがりなりにも使い魔なんだからね。使い魔を部屋からほっぽ
り出すメイジなんて、聞いた事無いわ」
「でも、ベッドは一つだけなんですが…」
「毛布貸すから、床で寝なさい」
「はぁ…う~、その、そぅ言われても…」
「ウダウダうるさいっ!あたしがいいといってんだからいいのよっ!!」
「は!ハイ…」
ジュンはルイズから毛布を受け取り、床に敷きながら、ルイズをチラッと見た。薄手の
ネグリジェに、細身のラインが浮き出ている。だがルイズは、ジュンの前でも全っ然恥ず
かしがろうとしない。ただの子供と思われてるのか、腕力で勝ってると思っているのか。
…おそらく両方だろう。
ピシィ!
いきなり横っ面を、真紅の髪にはたかれた。
「レディの寝姿をジロジロ見るモノではなくてよ」
「うわゎ~ジュンったらエッチですぅ~♪」
「そ、そんなんじゃないよ!」
翠星石にもツンツンつつかれて、ジュンは真っ赤になった。
「だいじょーぶよ、ジュンにそんな度胸無いなんて分かってるモン♪そ・れ・と・も、
おねーさんが子守歌を歌ってあげないと寝れないかのかしら~?」
「そ!そんな分けないだろ!?お…おやすみ!」
ジュンはガバッと布団をかぶって横になった。
「ふふ♪むりしちゃって~。
ところで、真紅と翠星石は、ほんとにその鞄で寝るの?」
ルイズは鞄に入ろうとする真紅と翠星石を不思議そうに眺めていた。
「ええ、私たちローゼンメイデンにはこの鞄で寝るのは神聖な行為なの」
「それに私たち、この鞄以外ではねれないですよ~。それじゃ、おやすみなさいです」
「そうなの?まぁ、それならそれでいいわ。それじゃ、お休みなさい」
「ええ、お休みなさい」
皆、それぞれの寝床に入り、すぐに夢の世界へと旅だった。
見上げれば満天の星空。
せめて彼らの明日に希望の星があらんことを
第2話 『決闘』 END
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