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「サイヤの使い魔-07」(2010/01/04 (月) 19:33:02) の最新版変更点
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#navi(サイヤの使い魔)
「あんた、武器は扱える?」
食堂への移動中、ルイズが悟空に尋ねた。
「ガキの頃に如意棒って武器使ってたけど、成長してからは使ってねえなあ」
「明日、街に出てあんたの武器買うから、一緒に来なさい」
「オラ別に武器なんて無くても戦えるぞ」
「そうじゃなくて、コルベール先生に頼まれたのよ。何か思うところがあるみたい」
「コルベールって…あのクリリンみてえな頭のヤツか?」
「誰それ」
「オラの友達でよ、背はこれくれえで、鼻と髪の毛が無えんだ」
悟空が手で示した身長は、大体ルイズの顎の下、タバサよりちょっと小さいくらいだった。
「どんなバケモノよそれ……」
思わずタバサの鼻と髪が無いところを創造して、ルイズは呻いた。
「あ、そうだ。オラ武器なんかよりも他に欲しいものがあるんだけど、いいか?」
「なに?」
「フトンもう一枚貰えねえか? 毛布だけだと身体痛くなっちまってよ」
「だったら、下に藁でも敷いた方がいいんじゃないの?」
「あ、そっか。おめえの世界だと床にフトン敷かねえんだ」
「だって汚いじゃない」
「じゃあおめえはオラをそんな汚えとこで寝かせてたってのか?」
思わず悟空がジト目でルイズを見る。
「う…その、ごめん」
反射的にルイズが謝る。どうもこの使い魔に対して高圧的に出られない。
「ま、オラが掃除してるから、最近はそんなに汚くはねえと思うけどな」
「どういう意味よそれ……。…まあいいわ。そんなに言うならマットかなんかも買ってあげるわよ」
「ホントか? サンキュー!」
「その『39』ってどういう意味?」
「『ありがとう』っつう意味なんだけど、おめえの星じゃあまり使わないのか?」
「初めて聞く表現ね。…でも何か気に入ったわ」
ルイズと悟空が食堂に入ると、ギーシュが待ち構えていた。
「おはよう」
「オッス」
「何の用? まさかまた喧嘩売ろうってんじゃないでしょうね」
ルイズに警戒され、ギーシュが大げさな身振りで肩をすくめる。
「まさか。彼と僕とは友人だ。争う気なんて全く無いよ。ただ挨拶に来ただけさ」
「ふーん…。あんたらいつの間に仲良くなったの」
「ギーシュ。おめえに聞きてえ事があんだけど」
「何だい?」
「おめえの魔法で作る青銅は、決まった形のものしか作れねえんか?」
「いや、材料さえあればある程度は自由に作れるよ」
「それじゃ、昼休みになったらちょっとオラの修行に付き合ってくれねえか」
「僕で役に立てる事があるのかい?」
「多分な。やってみなきゃわかんねえけど。場所は昨日と同じ所でやろうと思う」
「快く引き受けよう。ではまた、昼休みに」
ギーシュが去った後、ルイズが悟空に尋ねる。
「何を始めるつもり?」
「あいつの青銅で、ちょっと作って欲しいもんがあるんだ」
昼食後、昨日同様ヴェストリの広場にやってきたルイズは、そこにギーシュと悟空の姿を認めた。
悟空は両腕に巻いた布とブーツを脱ぎ、代わりに青銅製の巨大な枷を嵌めている。
だからギーシュが必要だったのか、とルイズは納得した。
「これくらいでいいかい?」
「今着いてるやつの3倍は要るなあ」
呆れ顔のギーシュが薔薇の造花を振るい、花びらで新たな枷を上乗せする。
それはもはや枷どころか、四肢に巻き付いた青銅製の「何か」だった。
何層にも巻かれ、寸胴鍋をくっ付けているようにも見える。
「そんなに着けてよく平気な顔してられるな君は。驚きを通り越して呆れるよ」
「いったい何をしようっての?」
「よう、ルイズ」
「来たのか。見ての通りだ。彼に頼まれて『重し』を着けてるところさ」
悟空が二、三度空中に突きを繰り出す。
「ギーシュ、両腕にあと1回分くれ」
「しょ、承知した」
満足できる重さに達したのを認め、悟空が架空の敵を相手に幾つもの突きや蹴りを繰り出し始めた。
一突き毎に鞭がしなるような風切り音が鳴り、風圧で周囲に土埃が立つ。
ルイズはギーシュを見た。引きつった顔に冷や汗を浮かべている。
「ギーシュ、あれどのくらいの重さなの?」
「両腕にそれぞれ500キロ、両足にそれぞれ700キロくらいかな」
「はあ? 何それ馬鹿じゃないの!?」
「全く、僕のワルキューレが歯が立たない訳だよ……」
二人は呆れ顔で悟空の修行を眺めた。
コツを掴んだのか、突きを繰り出すだけではなく、一定の法則の元に移動をしながら攻撃を繰り出している。
ギーシュはそれが「型」だと判った。
貴族の剣術同様、悟空の武術にも「型」があるらしい。
初めて見るが、無駄の無い流れるような動きは剣術とはまた違い、ある種芸術的ですらある。
ルイズとギーシュは、しばし時間を忘れてこの美しい「型」に見入った。
「ルイズ、使い魔って必ず授業に出てなきゃなんねえのか?」
「え? 基本的には主人に付き従う事になってるけど、どうして?」
午後の授業に向かう途中、悟空がルイズに尋ねた。
授業中、悟空は授業を聞きながら生徒と使い魔の数を数えていたのだが、どうも数が合わない。
「授業に出てるヤツと使い魔の数も合わねえんだ。いねえヤツは何処に行ってるんだ?」
「身体の大きさが合わないとか、主人に用事を言い付かってる最中とかかしらね、大体は」
中には主人ともどもどっか行っちゃってるようなのもいるけどね、とルイズは眼鏡を掛けた小柄な青髪の少女を思い出した。
「まあ、基本的にはそんな感じだけど、何処か行きたいの?」
「オラ、ここを移動する時は瞬間移動かおめえの後ついてくだけだったから、まだ何処をどう行けば何処に出るかってのがよく判んねえんだ」
「つまり、探検してみたいわけね。それくらいならいいわ、使い魔に学院内の間取りを覚えさせる生徒も結構いるし。先生には私から言っといてあげる」
「サンキュー」
「夕食までには戻ってきなさいよ。あと、宝物庫とかには近づかないように」
「何処にあるんだ?」
「本棟の最上階一つ下、ちなみにその上は学院長室よ」
「わかった」
夕方、学院内を探検していた悟空は、タバサの気が膨れ上がるのを感じた。
ギーシュとの戦いで、系統呪文を唱える際に術者の気が上がる事を知った悟空は興味を覚えた。
更に気の発生源を探る。学院内ではない。タバサの気は、学院から遠く離れた所にあった。
タバサの近くにも、もう一つ、断続的に上下している気の存在を感じる。
そこから導き出される結論はひとつ。タバサは今、誰かと戦っている。
相手は誰だろう。ギーシュより強いヤツだったら、ちょっと戦ってみたい。
悟空は瞬間移動でタバサの元へと向かった。
元ガリア王国北花壇騎士、セレスタン・オリビエ・ド・ラ・コマンジュは笑みを浮かべた。
「温室育ちの花壇騎士さまにしちゃ、やるじゃねえか」
構える杖に力を込める。
その視線の先にいるのは、やはり同じように構えた杖を彼に向けているタバサ。
「昨今の花壇騎士さまときたら、どいつもこいつも親の七光りで叙された、能無しばかりだからなあ」
そのセレスタンを光の刃が襲う。
体術とレビテーションを駆使した動きで、セレスタンはタバサの刃をかわした。
「でもな、北花壇騎士はちがうぜ? 名誉とは縁がねえ分、その実力は折り紙つきだ。それにこんな事もできる!」
セレスタンは呪文を唱えた。倒れている少年、オリヴァン・ド・ロナルに向けて炎の球が飛ぶ。
タバサはそちらにウィンディ・アイシクルを放った。
――ピシュン
タバサが呪文を放った直後、耳慣れたあの音がタバサの耳に届いた。
発生源は、オリヴァンのすぐ隣。つまり、今タバサが放ったウィンディ・アイシクルとセレスタンが放った炎の球の延長線上。
あの使い魔が、立っていた。
炎の球と氷の矢がぶつかり、ジュッと音を立てて両方とも消える。
一瞬、オリヴァンと悟空に気を取られたタバサの隙をセレスタンは見逃さない。彼はオリヴァンに呪文を放った後、ずっとタバサの動向を伺っていた。
すぐさま二撃目の炎の球を生成し、タバサに向けて放つ。
だが、完璧にタバサの隙を突いたと思ったそれは、直撃する寸前にボン、と破裂音を立てて跡形も無く消えた。
「何だとっ!?」
タバサが呪文を詠唱した様子は無い。
明らかに地面の方に気を取られ、その証拠に、炎の球が消えた音で初めて二撃目に気付いた様子だった。
セレスタンはタバサの視線の先を追った。
あのオリヴァンとかいうガキ――ではない。
その傍らに、男が立っている。奇妙な格好と髪型をして、頭の上に輪を浮かべた平民だ。
杖は持たず、開いた右手をタバサの方に向けている。
「タバサー、何だかわかんねえけど大丈夫かー?」
あの小娘の知り合いのようだ。
タバサは悟空の傍らに駆け寄った。信じられないといった顔で呟く。
「どうして、ここに」
「おめえが戦ってるみてえだったからさ、様子を見に来たんだ」
「そう…。詳しくは後で話す。貴方はその子の安全を確保」
「わかった。任せとけ」
「任せる訳にはいかねえなあ」
あの小娘の味方という事は、自分にとって敵だ。
セレスタンは二人に向けて、再び炎の球を放った。
だが、あの男が手のひらを球に向けただけで、やはり破裂音を立てて消し飛ぶ。
「またか! 何なんだあいつは?」
「おめえ、ちょっとしつけえぞ」
水系統の魔法か? だが、杖も詠唱も無しに自分の炎を消し飛ばす魔法などあっただろうか?
先住魔法という考えがちらりとセレスタンの脳裏を掠めたが、あの男がそんな大それた存在には見えない。
「貴様何者だ! 一体何をした!?」
悟空はその問いに答えず、タバサに質問する。
「あいつ何なんだ?」
「私の決闘相手」
「あ…悪い、邪魔しちまったみてえだな」
「別にいい」
タバサがセレスタンに向き直る。
「貴方の相手は私だけのはず。彼らに危害を加える事は許さない。もっとも…」
タバサの口元に、某SOS団の団員でもなければ判別できないほど微かな笑みが浮かんだ。
「貴方が彼に危害を加えられるとは思えないけど」
「言うじゃねえか」
セレスタンが完成させた呪文を開放する。悟空とタバサとが会話している最中、ルーンを唱えていたのだ。
巨大な炎の嵐が、杖の先から舞い起こる。
回転する竜巻のような炎が、タバサと悟空を押し包もうとした。
その瞬間、閃光と共に、二人の周りに蒼い渦が巻き起こる。渦は、まさに天空を目指す竜のように空高く駆け上がって行った。
氷の粒を含んだ風の渦。タバサの青い髪が、猛り狂う風で乱れた。
タバサの気が、更に大きくなっていたのを悟空は感じた。
確か今のは、風と水の系統を組み合わせた「アイス・ストーム」という呪文だ。
組み合わせる系統が多くなればなるほど、気も上がるらしい。
襲いかかる炎の嵐を、一瞬で雪風の渦が飲み込んだ。その雪風の渦に捲かれて、二人の姿が掻き消える。
「ちッ!」
風を吹かせて雪粒を飛ばし、視界を確保しようとした瞬間……。
小柄なタバサが、いつの間に唱えたのか、フライで自分の懐まで潜り込んでいることに気付き、セレスタンは絶句した。
「は、はぇ…」
そう呟くと同じに、タバサが手のひらを突き出す。
セレスタンの腹にタバサの唱えたエア・ハンマーが炸裂し、衝撃でセレスタンの意識が遠のく。
地面に崩れ落ちたセレスタンは、タバサの実践一辺倒の戦闘スタイルから、この小娘の正体を悟った。
「あの雪風……。そうか、お前『七号』………」
最後まで言い終える事無く、セレスタンの意識が途切れる。
悟空は素直に感心していた。
魔法というものは、使い方によってはこんな戦いもできるのか。
タバサが決闘の終了を告げ、後始末を追えて自身の使い魔を呼び寄せた。
「あの炎」
「ん?」
「どうやって消したの?」
「ああ、気合いで衝撃波を飛ばしたんだ」
「気合い?」
「んーと…口で説明した方が早えかな。例えばあそこに木があるだろ」
悟空が指差した先、茂みの中に一本の太い木があった。
その木に向けて、手のひらを向ける。
「はっ!」
ドン、と空気が揺れ、悟空が指し示した木の幹が木端微塵に砕け散り、地鳴りをたてて倒れた。
「本当はいちいち手出さなくてもできるんだけどな」
「先住魔法…?」
「いや、オラ魔法は使えねえぞ」
悟空の実力の一端を垣間見たタバサは、この男が味方になってくれたらどれだけ心強いか、と考えた。
学院の誰にも頼れず、自分一人――と使い魔――で何度も死線をくぐり抜けてきたタバサにとって、悟空は一筋の光明だった。
タバサは意を決し、悟空に説明した。
「今から説明する事は、学院の皆には内緒。絶対」
「わかった。安心して喋ってくれ、オラは口の堅い方だ」
「私はたまに、こうして王国からの命を受けて仕事を行う」
「王国?」
「ガリア王国。つまりこの国」
少し迷い、言葉を続ける。
「私の本名はシャルロット・エレーヌ・オルレアン。ガリア王国とは親戚の関係にある」
「そうなんか」
「王国は私を疎んでいる。だから私に任務を課す。真の目的は私の殉死」
悟空は絶句した。
「国」がその惑星全てを束ねる権力を意味する世界からやってきた彼には、たかだか一人の人間をわざわざ国ぐるみで殺そうとする事が信じられなかった。
まして、この星にはドラゴンボールなどありはしない。
死んだらそれで終わりなのだ。
「おめえ、そんなに嫌われるようなことしたのか?」
「していない。根本的な原因は嫉妬」
「どういうことだ?」
「私に任務を課す人物は、王族でありながら魔法が使えない」
タバサの顔が微かに歪む。それは同情と嘲笑を含んでいた。
同情は、王族でありながら魔法が使えない人物、ガリア王国王女イザベラと、彼女によく似た境遇の桃色の髪をした同級生へ。
嘲笑は、他ならぬ自分自身へ。
今話した事は、唯一の友達であるキュルケにすら話した事はない。
なのに何故、この男には話せてしまうのだろう。
「なるほどなー…。そういえばよ、オラの名前も本名じゃねえんだ」
「どういう事?」
「オラはサイヤ人だっつったろ? そっちでの名前は『カカロット』って言うらしいんだ」
「カカロット…」
「でもオラは地球人として育ってきたから、あんまりそっちの名前は好きじゃねえ」
その名前で自分を呼ぶ者は全員が敵だったからだ。
唯一の例外を除いて。
「だから、今じゃオラをカカロットって呼ぶヤツはベジータしかいねえんだ」
「ベジータ?」
「地球に来たサイヤ人の一人で、惑星ベジータの王子だったんだ。最初に会った時はすっげえ強さで、オラ一人じゃ全然歯が立たなくてよ、仲間の助けがあってようやく追い返したんだ」
「それから?」
「色々あって、その後仲間になった。プライドの高いヤツで、いつもオラより強くなりたがってたな」
タバサは悟空に僅かながら親近感を覚えた。
経緯は違うものの、自分同様に偽名を名乗っている。そして、自身を本名で呼ぶ者の中には、自分と敵対している者もいる。
もうタバサは、悟空の事を怖いとは思わなくなっていた。
「貴方の事をもっと知りたい」
シルフィードの背に乗りながらタバサが言った。
昨日はギーシュとの決闘のせいで、あれから悟空の話を聞く事ができなかったので、いい機会だ。
「乗って」
自分の背後を指差す。
悟空はタバサに倣って風韻竜にまたがり、背ビレにもたれかかった。
「ははっ、ハイヤードラゴンみてえだな」
「それは何?」
「オラの息子の悟飯が友達にしてた竜の子供だ」
「子供がいるの?」
「ああ。オラより強えぞ」
タバサの顔に、珍しく驚きの表情が浮かぶ。全く、このルイズの使い魔には驚かされることばかりだ。
それからトリステイン魔法学院に着くまでの間、タバサと悟空はお互いの事を語り合った。
二人を乗せたシルフィードは、主人の普段からは想像できないほどの饒舌振りに驚いていた。
「…ひとつ、教えて欲しい」
「何だ?」
「貴方は幽霊?」
「みてえなもんかな? 死んでっから」
「幽霊にも肉体があるの?」
「いや、オラは爆発で粉微塵になって死んだんだけど、一緒に死んだ界王様がオラにあの世で修行できるように、身体をつけてくれたんだ」
[あの世? ……で、修行?」
「ああ。死んだ後も天国で修行を続けてる強えヤツが一杯いるらしくてよ、オラもそこに行くはずだったんだけどな、途中でこっちに来ちまった」
「天国……」
タバサは父親を想った。
誰に対しても優しく、いつも思いやりに溢れた、私の大好きな父様。
「私の父様も、天国に行けただろうか……」
「閻魔のオッチャンは、よっぽど悪いヤツじゃねえと地獄には落とさねえからな。おめえのとうちゃんが悪いヤツじゃねえんなら、きっと天国に行けたさ」
この時、あの世でそれはでっかいクシャミが轟いたとか。
「うん……」
タバサの胸が一杯になった。唇が震え、目元に涙が溢れるのを堪えられない。タバサはそれを背後の悟空に気付かれないようにそっと拭った。
この日、タバサに新しい友達ができた。
#navi(サイヤの使い魔)
&setpagename(北花壇騎士のタバサ)
#navi(サイヤの使い魔)
「あんた、武器は扱える?」
食堂への移動中、ルイズが悟空に尋ねた。
「ガキの頃に如意棒って武器使ってたけど、成長してからは使ってねえなあ」
「明日、街に出てあんたの武器買うから、一緒に来なさい」
「オラ別に武器なんて無くても戦えるぞ」
「そうじゃなくて、コルベール先生に頼まれたのよ。何か思うところがあるみたい」
「コルベールって…あのクリリンみてえな頭のヤツか?」
「誰それ」
「オラの友達でよ、背はこれくれえで、鼻と髪の毛が無えんだ」
悟空が手で示した身長は、大体ルイズの顎の下、タバサよりちょっと小さいくらいだった。
「どんなバケモノよそれ……」
思わずタバサの鼻と髪が無いところを創造して、ルイズは呻いた。
「あ、そうだ。オラ武器なんかよりも他に欲しいものがあるんだけど、いいか?」
「なに?」
「フトンもう一枚貰えねえか? 毛布だけだと身体痛くなっちまってよ」
「だったら、下に藁でも敷いた方がいいんじゃないの?」
「あ、そっか。おめえの世界だと床にフトン敷かねえんだ」
「だって汚いじゃない」
「じゃあおめえはオラをそんな汚えとこで寝かせてたってのか?」
思わず悟空がジト目でルイズを見る。
「う…その、ごめん」
反射的にルイズが謝る。どうもこの使い魔に対して高圧的に出られない。
「ま、オラが掃除してるから、最近はそんなに汚くはねえと思うけどな」
「どういう意味よそれ……。…まあいいわ。そんなに言うならマットかなんかも買ってあげるわよ」
「ホントか? サンキュー!」
「その『39』ってどういう意味?」
「『ありがとう』っつう意味なんだけど、おめえの星じゃあまり使わないのか?」
「初めて聞く表現ね。…でも何か気に入ったわ」
ルイズと悟空が食堂に入ると、ギーシュが待ち構えていた。
「おはよう」
「オッス」
「何の用? まさかまた喧嘩売ろうってんじゃないでしょうね」
ルイズに警戒され、ギーシュが大げさな身振りで肩をすくめる。
「まさか。彼と僕とは友人だ。争う気なんて全く無いよ。ただ挨拶に来ただけさ」
「ふーん…。あんたらいつの間に仲良くなったの」
「ギーシュ。おめえに聞きてえ事があんだけど」
「何だい?」
「おめえの魔法で作る青銅は、決まった形のものしか作れねえんか?」
「いや、材料さえあればある程度は自由に作れるよ」
「それじゃ、昼休みになったらちょっとオラの修行に付き合ってくれねえか」
「僕で役に立てる事があるのかい?」
「多分な。やってみなきゃわかんねえけど。場所は昨日と同じ所でやろうと思う」
「快く引き受けよう。ではまた、昼休みに」
ギーシュが去った後、ルイズが悟空に尋ねる。
「何を始めるつもり?」
「あいつの青銅で、ちょっと作って欲しいもんがあるんだ」
昼食後、昨日同様ヴェストリの広場にやってきたルイズは、そこにギーシュと悟空の姿を認めた。
悟空は両腕に巻いた布とブーツを脱ぎ、代わりに青銅製の巨大な枷を嵌めている。
だからギーシュが必要だったのか、とルイズは納得した。
「これくらいでいいかい?」
「今着いてるやつの3倍は要るなあ」
呆れ顔のギーシュが薔薇の造花を振るい、花びらで新たな枷を上乗せする。
それはもはや枷どころか、四肢に巻き付いた青銅製の「何か」だった。
何層にも巻かれ、寸胴鍋をくっ付けているようにも見える。
「そんなに着けてよく平気な顔してられるな君は。驚きを通り越して呆れるよ」
「いったい何をしようっての?」
「よう、ルイズ」
「来たのか。見ての通りだ。彼に頼まれて『重し』を着けてるところさ」
悟空が二、三度空中に突きを繰り出す。
「ギーシュ、両腕にあと1回分くれ」
「しょ、承知した」
満足できる重さに達したのを認め、悟空が架空の敵を相手に幾つもの突きや蹴りを繰り出し始めた。
一突き毎に鞭がしなるような風切り音が鳴り、風圧で周囲に土埃が立つ。
ルイズはギーシュを見た。引きつった顔に冷や汗を浮かべている。
「ギーシュ、あれどのくらいの重さなの?」
「両腕にそれぞれ500キロ、両足にそれぞれ700キロくらいかな」
「はあ? 何それ馬鹿じゃないの!?」
「全く、僕のワルキューレが歯が立たない訳だよ……」
二人は呆れ顔で悟空の修行を眺めた。
コツを掴んだのか、突きを繰り出すだけではなく、一定の法則の元に移動をしながら攻撃を繰り出している。
ギーシュはそれが「型」だと判った。
貴族の剣術同様、悟空の武術にも「型」があるらしい。
初めて見るが、無駄の無い流れるような動きは剣術とはまた違い、ある種芸術的ですらある。
ルイズとギーシュは、しばし時間を忘れてこの美しい「型」に見入った。
「ルイズ、使い魔って必ず授業に出てなきゃなんねえのか?」
「え? 基本的には主人に付き従う事になってるけど、どうして?」
午後の授業に向かう途中、悟空がルイズに尋ねた。
授業中、悟空は授業を聞きながら生徒と使い魔の数を数えていたのだが、どうも数が合わない。
「授業に出てるヤツと使い魔の数も合わねえんだ。いねえヤツは何処に行ってるんだ?」
「身体の大きさが合わないとか、主人に用事を言い付かってる最中とかかしらね、大体は」
中には主人ともどもどっか行っちゃってるようなのもいるけどね、とルイズは眼鏡を掛けた小柄な青髪の少女を思い出した。
「まあ、基本的にはそんな感じだけど、何処か行きたいの?」
「オラ、ここを移動する時は瞬間移動かおめえの後ついてくだけだったから、まだ何処をどう行けば何処に出るかってのがよく判んねえんだ」
「つまり、探検してみたいわけね。それくらいならいいわ、使い魔に学院内の間取りを覚えさせる生徒も結構いるし。先生には私から言っといてあげる」
「サンキュー」
「夕食までには戻ってきなさいよ。あと、宝物庫とかには近づかないように」
「何処にあるんだ?」
「本棟の最上階一つ下、ちなみにその上は学院長室よ」
「わかった」
夕方、学院内を探検していた悟空は、タバサの気が膨れ上がるのを感じた。
ギーシュとの戦いで、系統呪文を唱える際に術者の気が上がる事を知った悟空は興味を覚えた。
更に気の発生源を探る。学院内ではない。タバサの気は、学院から遠く離れた所にあった。
タバサの近くにも、もう一つ、断続的に上下している気の存在を感じる。
そこから導き出される結論はひとつ。タバサは今、誰かと戦っている。
相手は誰だろう。ギーシュより強いヤツだったら、ちょっと戦ってみたい。
悟空は瞬間移動でタバサの元へと向かった。
元ガリア王国北花壇騎士、セレスタン・オリビエ・ド・ラ・コマンジュは笑みを浮かべた。
「温室育ちの花壇騎士さまにしちゃ、やるじゃねえか」
構える杖に力を込める。
その視線の先にいるのは、やはり同じように構えた杖を彼に向けているタバサ。
「昨今の花壇騎士さまときたら、どいつもこいつも親の七光りで叙された、能無しばかりだからなあ」
そのセレスタンを光の刃が襲う。
体術とレビテーションを駆使した動きで、セレスタンはタバサの刃をかわした。
「でもな、北花壇騎士はちがうぜ? 名誉とは縁がねえ分、その実力は折り紙つきだ。それにこんな事もできる!」
セレスタンは呪文を唱えた。倒れている少年、オリヴァン・ド・ロナルに向けて炎の球が飛ぶ。
タバサはそちらにウィンディ・アイシクルを放った。
――ピシュン
タバサが呪文を放った直後、耳慣れたあの音がタバサの耳に届いた。
発生源は、オリヴァンのすぐ隣。つまり、今タバサが放ったウィンディ・アイシクルとセレスタンが放った炎の球の延長線上。
あの使い魔が、立っていた。
炎の球と氷の矢がぶつかり、ジュッと音を立てて両方とも消える。
一瞬、オリヴァンと悟空に気を取られたタバサの隙をセレスタンは見逃さない。彼はオリヴァンに呪文を放った後、ずっとタバサの動向を伺っていた。
すぐさま二撃目の炎の球を生成し、タバサに向けて放つ。
だが、完璧にタバサの隙を突いたと思ったそれは、直撃する寸前にボン、と破裂音を立てて跡形も無く消えた。
「何だとっ!?」
タバサが呪文を詠唱した様子は無い。
明らかに地面の方に気を取られ、その証拠に、炎の球が消えた音で初めて二撃目に気付いた様子だった。
セレスタンはタバサの視線の先を追った。
あのオリヴァンとかいうガキ――ではない。
その傍らに、男が立っている。奇妙な格好と髪型をして、頭の上に輪を浮かべた平民だ。
杖は持たず、開いた右手をタバサの方に向けている。
「タバサー、何だかわかんねえけど大丈夫かー?」
あの小娘の知り合いのようだ。
タバサは悟空の傍らに駆け寄った。信じられないといった顔で呟く。
「どうして、ここに」
「おめえが戦ってるみてえだったからさ、様子を見に来たんだ」
「そう…。詳しくは後で話す。貴方はその子の安全を確保」
「わかった。任せとけ」
「任せる訳にはいかねえなあ」
あの小娘の味方という事は、自分にとって敵だ。
セレスタンは二人に向けて、再び炎の球を放った。
だが、あの男が手のひらを球に向けただけで、やはり破裂音を立てて消し飛ぶ。
「またか! 何なんだあいつは?」
「おめえ、ちょっとしつけえぞ」
水系統の魔法か? だが、杖も詠唱も無しに自分の炎を消し飛ばす魔法などあっただろうか?
先住魔法という考えがちらりとセレスタンの脳裏を掠めたが、あの男がそんな大それた存在には見えない。
「貴様何者だ! 一体何をした!?」
悟空はその問いに答えず、タバサに質問する。
「あいつ何なんだ?」
「私の決闘相手」
「あ…悪い、邪魔しちまったみてえだな」
「別にいい」
タバサがセレスタンに向き直る。
「貴方の相手は私だけのはず。彼らに危害を加える事は許さない。もっとも…」
タバサの口元に、某SOS団の団員でもなければ判別できないほど微かな笑みが浮かんだ。
「貴方が彼に危害を加えられるとは思えないけど」
「言うじゃねえか」
セレスタンが完成させた呪文を開放する。悟空とタバサとが会話している最中、ルーンを唱えていたのだ。
巨大な炎の嵐が、杖の先から舞い起こる。
回転する竜巻のような炎が、タバサと悟空を押し包もうとした。
その瞬間、閃光と共に、二人の周りに蒼い渦が巻き起こる。渦は、まさに天空を目指す竜のように空高く駆け上がって行った。
氷の粒を含んだ風の渦。タバサの青い髪が、猛り狂う風で乱れた。
タバサの気が、更に大きくなっていたのを悟空は感じた。
確か今のは、風と水の系統を組み合わせた「アイス・ストーム」という呪文だ。
組み合わせる系統が多くなればなるほど、気も上がるらしい。
襲いかかる炎の嵐を、一瞬で雪風の渦が飲み込んだ。その雪風の渦に捲かれて、二人の姿が掻き消える。
「ちッ!」
風を吹かせて雪粒を飛ばし、視界を確保しようとした瞬間……。
小柄なタバサが、いつの間に唱えたのか、フライで自分の懐まで潜り込んでいることに気付き、セレスタンは絶句した。
「は、はぇ…」
そう呟くと同じに、タバサが手のひらを突き出す。
セレスタンの腹にタバサの唱えたエア・ハンマーが炸裂し、衝撃でセレスタンの意識が遠のく。
地面に崩れ落ちたセレスタンは、タバサの実践一辺倒の戦闘スタイルから、この小娘の正体を悟った。
「あの雪風……。そうか、お前『七号』………」
最後まで言い終える事無く、セレスタンの意識が途切れる。
悟空は素直に感心していた。
魔法というものは、使い方によってはこんな戦いもできるのか。
タバサが決闘の終了を告げ、後始末を追えて自身の使い魔を呼び寄せた。
「あの炎」
「ん?」
「どうやって消したの?」
「ああ、気合いで衝撃波を飛ばしたんだ」
「気合い?」
「んーと…口で説明した方が早えかな。例えばあそこに木があるだろ」
悟空が指差した先、茂みの中に一本の太い木があった。
その木に向けて、手のひらを向ける。
「はっ!」
ドン、と空気が揺れ、悟空が指し示した木の幹が木端微塵に砕け散り、地鳴りをたてて倒れた。
「本当はいちいち手出さなくてもできるんだけどな」
「先住魔法…?」
「いや、オラ魔法は使えねえぞ」
悟空の実力の一端を垣間見たタバサは、この男が味方になってくれたらどれだけ心強いか、と考えた。
学院の誰にも頼れず、自分一人――と使い魔――で何度も死線をくぐり抜けてきたタバサにとって、悟空は一筋の光明だった。
タバサは意を決し、悟空に説明した。
「今から説明する事は、学院の皆には内緒。絶対」
「わかった。安心して喋ってくれ、オラは口の堅い方だ」
「私はたまに、こうして王国からの命を受けて仕事を行う」
「王国?」
「ガリア王国。つまりこの国」
少し迷い、言葉を続ける。
「私の本名はシャルロット・エレーヌ・オルレアン。ガリア王国とは親戚の関係にある」
「そうなんか」
「王国は私を疎んでいる。だから私に任務を課す。真の目的は私の殉死」
悟空は絶句した。
「国」がその惑星全てを束ねる権力を意味する世界からやってきた彼には、たかだか一人の人間をわざわざ国ぐるみで殺そうとする事が信じられなかった。
まして、この星にはドラゴンボールなどありはしない。
死んだらそれで終わりなのだ。
「おめえ、そんなに嫌われるようなことしたのか?」
「していない。根本的な原因は嫉妬」
「どういうことだ?」
「私に任務を課す人物は、王族でありながら魔法が使えない」
タバサの顔が微かに歪む。それは同情と嘲笑を含んでいた。
同情は、王族でありながら魔法が使えない人物、ガリア王国王女イザベラと、彼女によく似た境遇の桃色の髪をした同級生へ。
嘲笑は、他ならぬ自分自身へ。
今話した事は、唯一の友達であるキュルケにすら話した事はない。
なのに何故、この男には話せてしまうのだろう。
「なるほどなー…。そういえばよ、オラの名前も本名じゃねえんだ」
「どういう事?」
「オラはサイヤ人だっつったろ? そっちでの名前は『カカロット』って言うらしいんだ」
「カカロット…」
「でもオラは地球人として育ってきたから、あんまりそっちの名前は好きじゃねえ」
その名前で自分を呼ぶ者は全員が敵だったからだ。
唯一の例外を除いて。
「だから、今じゃオラをカカロットって呼ぶヤツはベジータしかいねえんだ」
「ベジータ?」
「地球に来たサイヤ人の一人で、惑星ベジータの王子だったんだ。最初に会った時はすっげえ強さで、オラ一人じゃ全然歯が立たなくてよ、仲間の助けがあってようやく追い返したんだ」
「それから?」
「色々あって、その後仲間になった。プライドの高いヤツで、いつもオラより強くなりたがってたな」
タバサは悟空に僅かながら親近感を覚えた。
経緯は違うものの、自分同様に偽名を名乗っている。そして、自身を本名で呼ぶ者の中には、自分と敵対している者もいる。
もうタバサは、悟空の事を怖いとは思わなくなっていた。
「貴方の事をもっと知りたい」
シルフィードの背に乗りながらタバサが言った。
昨日はギーシュとの決闘のせいで、あれから悟空の話を聞く事ができなかったので、いい機会だ。
「乗って」
自分の背後を指差す。
悟空はタバサに倣って風韻竜にまたがり、背ビレにもたれかかった。
「ははっ、ハイヤードラゴンみてえだな」
「それは何?」
「オラの息子の悟飯が友達にしてた竜の子供だ」
「子供がいるの?」
「ああ。オラより強えぞ」
タバサの顔に、珍しく驚きの表情が浮かぶ。全く、このルイズの使い魔には驚かされることばかりだ。
それからトリステイン魔法学院に着くまでの間、タバサと悟空はお互いの事を語り合った。
二人を乗せたシルフィードは、主人の普段からは想像できないほどの饒舌振りに驚いていた。
「…ひとつ、教えて欲しい」
「何だ?」
「貴方は幽霊?」
「みてえなもんかな? 死んでっから」
「幽霊にも肉体があるの?」
「いや、オラは爆発で粉微塵になって死んだんだけど、一緒に死んだ界王様がオラにあの世で修行できるように、身体をつけてくれたんだ」
[あの世? ……で、修行?」
「ああ。死んだ後も天国で修行を続けてる強えヤツが一杯いるらしくてよ、オラもそこに行くはずだったんだけどな、途中でこっちに来ちまった」
「天国……」
タバサは父親を想った。
誰に対しても優しく、いつも思いやりに溢れた、私の大好きな父様。
「私の父様も、天国に行けただろうか……」
「閻魔のオッチャンは、よっぽど悪いヤツじゃねえと地獄には落とさねえからな。おめえのとうちゃんが悪いヤツじゃねえんなら、きっと天国に行けたさ」
この時、あの世でそれはでっかいクシャミが轟いたとか。
「うん……」
タバサの胸が一杯になった。唇が震え、目元に涙が溢れるのを堪えられない。タバサはそれを背後の悟空に気付かれないようにそっと拭った。
この日、タバサに新しい友達ができた。
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