「『使い魔くん千年王国』 第二十三章 二つの銅像」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「『使い魔くん千年王国』 第二十三章 二つの銅像」(2007/11/06 (火) 01:00:26) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
婚姻の式典で朗誦する、荘重な詔の案をルイズが練り始めて、二週間ほど経った頃。
松下の『休暇の願い』は唐突だった。都合一週間ほど休みを取りたいと言ってきた。
「はぁ? シエスタの故郷の村に行く? なんで?」
「戦力の増強がてらだ。フーケやワルドとの戦いで、やはり火力不足を痛感してな。
彼女の故郷、タルブ村の山奥に『火竜の巣』があるらしい。
ミスタ・コルベールも一緒だし、ちょっとルーンで操って何頭か乗騎にしたい」
この間の港町『ラ・ロシェール』にわりと近いところで、馬で三日かかるとか。ホウキならもっと早いだろう。
「その間、きみの身の回りの世話はこのメイドたちがする。モット伯が解放した人たちだ」
「…マツシタ、モット伯とかチュレンヌ徴税官とかが破産したって本当? どれだけカネを搾り取ったのよ」
「要る分だけ貰って、あとは奴らが絞り上げた領民に返した。庶民的な慎ましい暮らしができるくらいは残したよ。
それ以上の贅沢を望んで破産したなら、自業自得さ」
松下は『王侯貴族が嫌い』というわけではない。『貧乏人や平民だから好き』というわけでもない。
『己のために多くの不幸な人を作り出し、権勢の上に胡坐をかいてふんぞり返っている奴』が大嫌いという事らしい。
たまたま王侯貴族にそういう手合いが多いだけである。というか普通それを王侯貴族という。
容赦なく叩きのめし、ついでに世界征服の軍資金を供出させよう、というのがなければ、正義の味方なのかも知れないが。
そしてこいつに人のことが非難できた義理か。
「ふーん。ま、いいわよ。式典は二週間後だから、それまでには帰って来なさいね」
ルイズはあっさりOKした。先生もついてるし、火竜相手にどうこうなるような奴でもなかろう。多分。
なにやら物騒なマジックアイテムを姫様から頂戴していたし、戦力の増強というなら火急の用でもあった。
それにルイズ自身は、詔の作成で手が離せない。
「留守中何かあったら、このカードに話しかけてくれ。通信用のマジックアイテムだ」
眼を怪しく輝かせて喜ぶシエスタと、コルベールが同行する。いくつかのマジックアイテムを携えて松下たちは出発した。
「ではきみたち、この香油を体に塗り、この草を煎じて飲むのだ」
馬を出させようとしたシエスタに、松下はゴソゴソと何かを取り出して告げた。
「っきゃあ! メシア、私こんな乗り物初めてです! ど、どうやってスピードを抑えれば」
「といいますか、何なんですかこれは!?」
「『魔女のホウキ』だ。量産化がようやく始まった。まだ家内制手工業レベルだが、
スポンサーになった王女と貴族たちに感謝せねばな。試作品の試乗の心地はどうだね?」
「う、馬より早いです! まるで鳥やメイジになったみたい!」
「こ、これは『風』の先住魔法といいますか、結構操縦が難し、ぶがっ!」
平民のシエスタが、ホウキに乗ってはしゃぎながら空を飛ぶ。その後を松下が追った。
コルベールは木の枝にぶつかりながらもついて来る。
「このホウキが普及すれば、一気に交通・流通革命が起きる! 平民でも個人で飛べるとは!」
「ええ、独占して販売すれば、ゲルマニアを全部買えるほどの大金持ちになれるでしょうね。環境にも優しい」
電化製品系大企業の社長の御曹司である松下は、機械工学とオカルト魔術の融合も目指している。
無論、経営学もお手の物だ。ただ、美しい環境のハルケギニアに公害をもたらしたくはなかった。
三人は前後しながらタルブ村へ飛ぶ。この調子なら、きっと明日の昼には着くだろう。
見晴らしのいい大きな草原と、良質の葡萄畑。
タルブの村は、ラ・ロシェール近郊にある小村であった。
「うわあ、久しぶり! 見てください、あれが私の村です!」
シエスタが黒髪を風になびかせ、深呼吸する。学院では見ないようないい顔だ。
そう言えば気にも留めなかったが、学院では彼女だけが黒髪の『黄色人種』だ。
やや混血しているようだが、白人種のルイズたちやマルトーとも少し雰囲気が異なる。
貴族は皆が白人種、というわけでもなかろうが……少し探ってみるか。
「シエスタ、きみの家族はどんな人たちだ? それと、先祖に有名な人でもいないかな」
「みんないい人たちですよ、『我らのメシア』。少し貧乏していますが。
先祖ですか…そういえば私の曽祖父は、なんでもどこかの国の軍人だったらしいんです。
若いときにふらっとここにきて、何かすごい手柄を立てて、すぐいなくなったとしか。
子供の頃、亡くなった祖父に少し聞いて…でも余り覚えていません。
名前は『ムラ…』とかなんとか」
軍人と聞いて、ちょっとコルベールが反応した。何か思い当たる節があるのか。
しばらく歩くと、村のはずれに、二つの等身大の『銅像』が並んで建っていた。
しかも村の内側や道に背を向け、火竜がいるという山に体を向けて、各々片手で山頂を指差している。
一つは、杖をついた髭もじゃの老人。
もう一つは二十歳ぐらいの青年だが、奇妙な事に左腕がない。
はずれ落ちたのではなく、最初から作られていないようなのだ。服装も少し村人と違う。
「ああ、そうだわ! 確か、この若い人の方が曽祖父の像だって聞きました!」
「ほう、きみの…だが、山を向いているのはなんでだろうね?」
それにこの老人の像は、やや見覚えがある。
村内に入り、村人に聞いて回るが、若い人は知らないようだ。
家の前でぼんやりしている七十過ぎくらいの爺さんに聞いてみた。
「んん? ああ、あの銅像の人らつのことかや。年寄りどもはよーう覚えちょうよ、話しちゃろうぞ。(もぐもぐ)
おらがそう、あんたぐらいの、ほおんにこげな子供の頃の事じゃがのい…」
どうも方言が独特だが、爺さんはゆっくりと昔語りを始めた。
そう、まあ、今から六十年以上も前になあわいのう…。
若者の方は、森の奥で行き倒れちょうのを、村の娘が見つけて連れてきたんじゃが、
左腕が吹き飛んだげな酷い怪我で、そこが化膿しちょったし、疫病に罹ってか高熱が出ちょってな…。
関わり合いになあのはまずいけん、いっそ殺そうかと皆が思ったがの、
たまたま村に火竜の調査に来ちょった、『ファウスト』ちゅうメイジの老人が、物好きにも治療してやったんだわ…。
ほんで村から離れた山小屋に寝かされて、半月ぐらいは人事不省じゃったわ。
その後、村人らつが来ておずおず食事を与えただわ。そげしたら、めきめき治り出してのう。
最初言葉は通じんかったども、がいに陽気で人交わりが良うて、絵と笑い話が上手い。
だんだんと、身振り手振りを交えて、簡単な会話は出来いようになったと思わっしゃい。
名前を聞いたら『ムラシゲル』と答えて、どこの衆(し)かやと聞いても『忘れた』しか言わん。
だども、えつまでも片腕の半病人を置いてはおけんが。そのうち追い返そうと思っちょった矢先、火竜が襲ってきた…。
まだ割と小さい奴じゃが二頭もおった。火を吐いて家屋敷・田畑を焼き、家畜を攫う。とおても村人に敵いはせん。
そげしたらな、その若者は『恩義に報いる』と言い出してな、老人と協力して火竜どもを山へ追い払ったげな。
何をどげやったのかは分からんだども、以来奴らは村里に降りて来んやになり、二人は村の英雄になったと。
ほんで、村の鍛冶屋が『火竜除け』のマジナイに山に向けて置いたのが、その、あの衆らの像じゃわ。
えつぞや国に金属供出されての、今は二代目じゃがな。あんま似ちょらんわ。
「…で、その若者も老人も、えつの間にかいなくなってしまったども…村娘の一人が彼の子を孕んじょった。
そおが娘っ子、あんたの祖父さんじゃわいな、シエスタさんや(もぐもぐ)」
「そ、そうだったんですか…」
「その衆のおかげで、祖父さんの代は土地持ちになって羽振りが良かったども、親父さんが悪い奴に騙されてのう…。
ほんにまあお前さんも苦労しんさって、魔法学院の使用人などにならんでも、この村で養ってやらんでもねえだに。
おうい婆さん、お菓子でも持って来うだわ! お客さんだけん! まあずけ、気の利かん」
「有難うございます、お爺さん。とりあえず家族は養って頂いているようで、感謝いたします。
でも今日はこの方々の御用事をお手伝いに来ましたので、これで失礼いたします」
爺さんの長話は終わった。例の火竜に関連する人ではあったらしい。
「ムラシゲルとやらが何者か知らないが、『ファウスト』はぼくの師匠だ。
火竜を調べに来たといったが、他にも何か残しているかも知れない。この『占い杖』のようにね」
「はい、でもメシア、ひとまず私の家においで下さい。家族に手紙も行っているはずです」
「そうですな、そろそろ昼食にいたしましょう」
ああ、ミスタ・ガロン塚本、いたのですか。あまりに影が薄くて、まるであなたの頭のようでした。
それから三人はシエスタの小さな家に行き、大家族と団欒しながら昼食をとった。
鶏と野菜のスープに加え、赤飯と大きなボタモチが出たのは驚いたが、ムラシゲルが教えてくれたものだそうだ。
「夜中に来て頂いたら、蛙の目玉と人魂の天ぷらもお出しできたのですがね。ひひひひひひ」
シエスタの母親はそう言って奇怪に笑った。何だ人魂の天ぷらとは。
ちーん、と金属の鉢を鳴らして、父親がシエスタの祖父の命日に合わせてお祈りしていた。
今日はオヒガンとかいうらしい。お彼岸?…これも彼が伝えたのか?
四方山話や宣教をするうち、夕方になってきた。すると占い杖がぶるぶると震え、山の方にぱたりと倒れた。
「おお、反応があるようだ。明日の朝にでも、火竜の山へ行ってみよう」
「ミスタ・マツシタ! まさか、夕食は蛙の目玉が出るんじゃあないでしょうねえ!(ふはっ)」
ミスタ・コケカキイキイも、ぶるぶる震えた。
(つづく)
#center{&color(green){[[前のページへ>『使い魔くん千年王国』 第二十二章 日常非日常 ]] / [[一覧へ戻る>使い魔くん千年王国]] / [[次のページへ>『使い魔くん千年王国』 第二十四章 開戦 ]]}}
婚姻の式典で朗誦する、荘重な詔の案をルイズが練り始めて、二週間ほど経った頃。
松下の『休暇の願い』は唐突だった。都合一週間ほど休みを取りたいと言ってきた。
「はぁ? シエスタの故郷の村に行く? なんで?」
「戦力の増強がてらだ。フーケやワルドとの戦いで、やはり火力不足を痛感してな。
彼女の故郷、タルブ村の山奥に『火竜の巣』があるらしい。
ミスタ・コルベールも一緒だし、ちょっとルーンで操って何頭か乗騎にしたい」
この間の港町『ラ・ロシェール』にわりと近いところで、馬で三日かかるとか。ホウキならもっと早いだろう。
「その間、きみの身の回りの世話はこのメイドたちがする。モット伯が解放した人たちだ」
「…マツシタ、モット伯とかチュレンヌ徴税官とかが破産したって本当? どれだけカネを搾り取ったのよ」
「要る分だけ貰って、あとは奴らが絞り上げた領民に返した。庶民的な慎ましい暮らしができるくらいは残したよ。
それ以上の贅沢を望んで破産したなら、自業自得さ」
松下は『王侯貴族が嫌い』というわけではない。『貧乏人や平民だから好き』というわけでもない。
『己のために多くの不幸な人を作り出し、権勢の上に胡坐をかいてふんぞり返っている奴』が大嫌いという事らしい。
たまたま王侯貴族にそういう手合いが多いだけである。というか普通それを王侯貴族という。
容赦なく叩きのめし、ついでに世界征服の軍資金を供出させよう、というのがなければ、正義の味方なのかも知れないが。
そしてこいつに人のことが非難できた義理か。
「ふーん。ま、いいわよ。式典は二週間後だから、それまでには帰って来なさいね」
ルイズはあっさりOKした。先生もついてるし、火竜相手にどうこうなるような奴でもなかろう。多分。
なにやら物騒なマジックアイテムを姫様から頂戴していたし、戦力の増強というなら火急の用でもあった。
それにルイズ自身は、詔の作成で手が離せない。
「留守中何かあったら、このカードに話しかけてくれ。通信用のマジックアイテムだ」
眼を怪しく輝かせて喜ぶシエスタと、コルベールが同行する。いくつかのマジックアイテムを携えて松下たちは出発した。
「ではきみたち、この香油を体に塗り、この草を煎じて飲むのだ」
馬を出させようとしたシエスタに、松下はゴソゴソと何かを取り出して告げた。
「っきゃあ! メシア、私こんな乗り物初めてです! ど、どうやってスピードを抑えれば」
「といいますか、何なんですかこれは!?」
「『魔女のホウキ』だ。量産化がようやく始まった。まだ家内制手工業レベルだが、
スポンサーになった王女と貴族たちに感謝せねばな。試作品の試乗の心地はどうだね?」
「う、馬より早いです! まるで鳥やメイジになったみたい!」
「こ、これは『風』の先住魔法といいますか、結構操縦が難し、ぶがっ!」
平民のシエスタが、ホウキに乗ってはしゃぎながら空を飛ぶ。その後を松下が追った。
コルベールは木の枝にぶつかりながらもついて来る。
「このホウキが普及すれば、一気に交通・流通革命が起きる! 平民でも個人で飛べるとは!」
「ええ、独占して販売すれば、ゲルマニアを全部買えるほどの大金持ちになれるでしょうね。環境にも優しい」
電化製品系大企業の社長の御曹司である松下は、機械工学とオカルト魔術の融合も目指している。
無論、経営学もお手の物だ。ただ、美しい環境のハルケギニアに公害をもたらしたくはなかった。
三人は前後しながらタルブ村へ飛ぶ。この調子なら、きっと明日の昼には着くだろう。
見晴らしのいい大きな草原と、良質の葡萄畑。
タルブの村は、ラ・ロシェール近郊にある小村であった。
「うわあ、久しぶり! 見てください、あれが私の村です!」
シエスタが黒髪を風になびかせ、深呼吸する。学院では見ないようないい顔だ。
そう言えば気にも留めなかったが、学院では彼女だけが黒髪の『黄色人種』だ。
やや混血しているようだが、白人種のルイズたちやマルトーとも少し雰囲気が異なる。
貴族は皆が白人種、というわけでもなかろうが……少し探ってみるか。
「シエスタ、きみの家族はどんな人たちだ? それと、先祖に有名な人でもいないかな」
「みんないい人たちですよ、『我らのメシア』。少し貧乏していますが。
先祖ですか…そういえば私の曽祖父は、なんでもどこかの国の軍人だったらしいんです。
若いときにふらっとここにきて、何かすごい手柄を立てて、すぐいなくなったとしか。
子供の頃、亡くなった祖父に少し聞いて…でも余り覚えていません。
名前は『ムラ…』とかなんとか」
軍人と聞いて、ちょっとコルベールが反応した。何か思い当たる節があるのか。
しばらく歩くと、村のはずれに、二つの等身大の『銅像』が並んで建っていた。
しかも村の内側や道に背を向け、火竜がいるという山に体を向けて、各々片手で山頂を指差している。
一つは、杖をついた髭もじゃの老人。
もう一つは二十歳ぐらいの青年だが、奇妙な事に左腕がない。
はずれ落ちたのではなく、最初から作られていないようなのだ。服装も少し村人と違う。
「ああ、そうだわ! 確か、この若い人の方が曽祖父の像だって聞きました!」
「ほう、きみの…だが、山を向いているのはなんでだろうね?」
それにこの老人の像は、やや見覚えがある。
村内に入り、村人に聞いて回るが、若い人は知らないようだ。
家の前でぼんやりしている七十過ぎくらいの爺さんに聞いてみた。
「んん? ああ、あの銅像の人らつのことかや。年寄りどもはよーう覚えちょうよ、話しちゃろうぞ。(もぐもぐ)
おらがそう、あんたぐらいの、ほおんにこげな子供の頃の事じゃがのい…」
どうも方言が独特だが、爺さんはゆっくりと昔語りを始めた。
そう、まあ、今から六十年以上も前になあわいのう…。
若者の方は、森の奥で行き倒れちょうのを、村の娘が見つけて連れてきたんじゃが、
左腕が吹き飛んだげな酷い怪我で、そこが化膿しちょったし、疫病に罹ってか高熱が出ちょってな…。
関わり合いになあのはまずいけん、いっそ殺そうかと皆が思ったがの、
たまたま村に火竜の調査に来ちょった、『ファウスト』ちゅうメイジの老人が、物好きにも治療してやったんだわ…。
ほんで村から離れた山小屋に寝かされて、半月ぐらいは人事不省じゃったわ。
その後、村人らつが来ておずおず食事を与えただわ。そげしたら、めきめき治り出してのう。
最初言葉は通じんかったども、がいに陽気で人交わりが良うて、絵と笑い話が上手い。
だんだんと、身振り手振りを交えて、簡単な会話は出来いようになったと思わっしゃい。
名前を聞いたら『ムラシゲル』と答えて、どこの衆(し)かやと聞いても『忘れた』しか言わん。
だども、えつまでも片腕の半病人を置いてはおけんが。そのうち追い返そうと思っちょった矢先、火竜が襲ってきた…。
まだ割と小さい奴じゃが二頭もおった。火を吐いて家屋敷・田畑を焼き、家畜を攫う。とおても村人に敵いはせん。
そげしたらな、その若者は『恩義に報いる』と言い出してな、老人と協力して火竜どもを山へ追い払ったげな。
何をどげやったのかは分からんだども、以来奴らは村里に降りて来んやになり、二人は村の英雄になったと。
ほんで、村の鍛冶屋が『火竜除け』のマジナイに山に向けて置いたのが、その、あの衆らの像じゃわ。
えつぞや国に金属供出されての、今は二代目じゃがな。あんま似ちょらんわ。
「…で、その若者も老人も、えつの間にかいなくなってしまったども…村娘の一人が彼の子を孕んじょった。
そおが娘っ子、あんたの祖父さんじゃわいな、シエスタさんや(もぐもぐ)」
「そ、そうだったんですか…」
「その衆のおかげで、祖父さんの代は土地持ちになって羽振りが良かったども、親父さんが悪い奴に騙されてのう…。
ほんにまあお前さんも苦労しんさって、魔法学院の使用人などにならんでも、この村で養ってやらんでもねえだに。
おうい婆さん、お菓子でも持って来うだわ! お客さんだけん! まあずけ、気の利かん」
「有難うございます、お爺さん。とりあえず家族は養って頂いているようで、感謝いたします。
でも今日はこの方々の御用事をお手伝いに来ましたので、これで失礼いたします」
爺さんの長話は終わった。例の火竜に関連する人ではあったらしい。
「ムラシゲルとやらが何者か知らないが、『ファウスト』はぼくの師匠だ。
火竜を調べに来たといったが、他にも何か残しているかも知れない。この『占い杖』のようにね」
「はい、でもメシア、ひとまず私の家においで下さい。家族に手紙も行っているはずです」
「そうですな、そろそろ昼食にいたしましょう」
ああ、ミスタ・ガロン塚本、いたのですか。あまりに影が薄くて、まるであなたの頭のようでした。
それから三人はシエスタの小さな家に行き、大家族と団欒しながら昼食をとった。
鶏と野菜のスープに加え、赤飯と大きなボタモチが出たのは驚いたが、ムラシゲルが教えてくれたものだそうだ。
「夜中に来て頂いたら、蛙の目玉と人魂の天ぷらもお出しできたのですがね。ひひひひひひ」
シエスタの母親はそう言って奇怪に笑った。何だ人魂の天ぷらとは。
ちーん、と金属の鉢を鳴らして、父親がシエスタの祖父の命日に合わせてお祈りしていた。
今日はオヒガンとかいうらしい。お彼岸?…これも彼が伝えたのか?
四方山話や宣教をするうち、夕方になってきた。すると占い杖がぶるぶると震え、山の方にぱたりと倒れた。
「おお、反応があるようだ。明日の朝にでも、火竜の山へ行ってみよう」
「ミスタ・マツシタ! まさか、夕食は蛙の目玉が出るんじゃあないでしょうねえ!(ふはっ)」
ミスタ・コケカキイキイも、ぶるぶる震えた。
(つづく)
#center{&color(green){[[前のページへ>『使い魔くん千年王国』 第二十二章 日常非日常 ]] / [[一覧へ戻る>使い魔くん千年王国]] / [[次のページへ>『使い魔くん千年王国』 第二十四章 開戦 ]]}}
表示オプション
横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: