「ゼロのちグゥ-3」(2007/09/20 (木) 18:37:10) の最新版変更点
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早朝だというのにベッドに突っ伏したルイズは、特別大きな溜め息を吐いた。
とりあえず、この妙な少女“グゥ”ができることを探しつつ、今後のコミュニケーションを取っていかなければならない。
ぶっちゃけると現状では授業に連れて行くのも嫌だった。
しかしさすがに自分の使い魔、しかも小さな女の子を無視することはできない。
とりあえず、簡単なことからひとつずつよね。
「ねえ、グゥ」
「何」
「そこのクローゼットから、服と下着を取ってくれる?」
「……」
見ると、クローゼットを開けたグゥが服をまとめて掴んでいる。
ちょっと待て。
「あのね、わたしが着るんだから一枚ずつでいいのよ」
「……」
グゥは不服そうな表情をしながらも、素直に余分な服を戻した。
とりあえず第一段階クリアね。
着させるのは……今日はやめておこう。
グゥの着ている服というか布は、これでもかというぐらい単純な構造をしている。
ボタンのかけ方すら知らない可能性が高い。
そして、部屋はまた沈黙に包まれた。
朝食の時間までまだ二時間近くあるという事実も、ルイズの精神汚染に拍車をかけている。
何しようかしら?
そうだ、学院の案内でも済ませておこう。
「何しようかしら?」
ルイズははっとして突然流暢に喋り始めたグゥを見た。別に変わった様子はない。
「そうだ、学院の案内でも済ませておこう」
な、なにこの子?何言ってるの?
「な、なにこの子?何言ってるの?……か」
グゥが目を細めてこっちを向いた。
これってもしかして。
「なんでわたしの思ったことがわかったの?」
「モノローグ読んだ」
意味はわからないが、どうやら主人の心がある程度読めるようだ。
少なくとも“無能な平民の子供”ではないらしいことに安堵する。
「もしかしてわたしもグゥの考えてることがわかるってこと?」
「さあ?」
やる気のない返事をしたグゥが手をひらひら振る。
ルイズはその額を軽く小突いたのち、考え込んでしまった。
いくらなんでも使い魔に一方的に心を読まれるなんてことはないだろう。
今は無理でも練習すればこっちからも読めるはず。多分。
むりやり自分を納得させ、気分を切り替えた。
「とにかく、朝食の前にここを案内してあげるわ。ついておいで」
「……」
「ここはヴェストリの広場、んであの塔が宝物庫ね。それとここの上の階が学院長室で…それから……」
学院の施設を紹介しつつ歩き回っていると、今まで無言でルイズの後をついてきていたグゥが思い出したかのように口を開いた。
「ルイズ、昨日から気になっていたんだが、平民とは何なのだ?」
「何って言われても、平民は平民よ」
「わからない」
「ねえ、あんたもしかして“貴族”が何かも知らない?」
「さあ?」
「メイジって何かわかる?」
「明治?」
「………まあいいわ、ゆっくり説明してあげる。そろそろ朝食だから後でね」
「いぇーい」
その返事を喜んだのか否か、グゥはくるくると回りだした。
「食堂に行くわよ」
「いぇあ」
トリステイン魔法学院の食堂は、非常に大がかりかつ豪華である。
もちろん全員がそこで食事を取るからではあるが、そのメンバーが生徒・教師共にほぼ貴族であるからというのも大きい。巨大なテーブルには豪華な料理が並んでいた。
「ほほぉーーー」
ルイズの隣で、グゥがまるで中年男性のような調子で驚いている。
その様子は可愛げがないことこの上ない。
「もうちょっとかわいく驚きなさいよ」
と、グゥの顔が変わる
「うわぁ、すごいですね!」
「……やっぱいいわ」
「チッ」
予想通りの反応にげんなりしたルイズは、とりあえずここのルールを説明することにした。
「グゥ、ちょっと聞いてくれる?この食堂は貴族専用なのよ。
でね、“使い魔”は本来別に餌場があるの。でも、使い魔って普通は鳥とか蛇とかドラゴンとか、要するに動物なわけよ」
「ふーん」
「あんた一応人間でしょ?だから、わたしの横で食べなさい。
まあ貴族用の椅子に座らせるわけにいかないから、床だけどね」
そう言ってルイズはスープの入った皿と、パンを数個乗せた皿を床に置いた。
「……」
グゥは特に文句を言うでもなく、ゆっくりとスープをスプーンですくって飲みはじめた。
意外なことに音も立てず、わりと様になっている。
これなら、大丈夫そうね。
ルイズはテーブルに向き直り、朝食前の祈りを捧げてから朝食にしては随分と豪華な料理に手をつけた。
食事を終えグゥのほうを見ると、スープは空だったが、パンが丸ごと残っている。
「残さず全部食べなさい。大きくなれないわよ」
「まずい」
「不味いも何も、一口も食べてないじゃないの。いいからそれ全部食べなさい、体もたないわ!」
「…全部?」
「そうよ。って、何してんの?ねえ!」
なんと、グゥはパンの入った皿を掴み丸ごと飲み込んでしまった。
口の中から、ガチャガチャと不快な音がする。
「全部」
ルイズは震えながら訊ねた。
「そ、そうね。で、お皿はどこいったの?」
「全部」
自分のお腹をぽんぽん叩いたグゥが実に満足げな、誇らしい表情でルイズを見る。
「そ、そう……じゃあ、授業を受けに行きましょうか。あんたも来なさい」
これはあれね、きっと見なかったことにしとけばいいのよね。
ルイズは“忘れることの尊さ”を実体験により学習した。
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