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第03話 語られるもの
その日の夜、トウカは空に浮かぶ二つの月を見つめながら、深い溜め息をついた。
(聖上……某は最後の御命令を、全うする事が出来ぬやもしれません……)
トウカはどこか悲しげに、窓の外を見つめる。
その隣で、ルイズとカルラの情報交換は続いていた。
「別の世界から来た……か。俄かには信じられないわね……」
「わたくしだって信じたくありませんわ。でもこの月を見て、この世界がわたくし達の世界だ、と認識するのは難しいですもの」
「こっちだって信じられないわよ……月が一つしかなくて貴族が居ない世界なんて」
ルイズの溜め息とカルラの溜め息が重なる。
ふと、窓から月を見つめていたトウカが口を挟んだ。
「ルイズ殿……某達がトゥスクルに帰る方法はあるのか?」
トウカ達にとって、今現在もっとも重要な問題。
『トゥスクルからトリステインまで一方通行です』などと言われたら、もうどうする事も出来ないのだ。
「判らないわ……だって別の世界なんて聞いた事も無いし、それを繋ぐ魔法なんてある訳が無いわよ」
「だとしたら!何故某達がこの世界にやって来れたのだ!?」
「そんな事、私に判る訳が無いでしょう!?」
段々と部屋が険悪な雰囲気に包まれて行く。
今にも喧嘩に発展しそうな二人の間に、やれやれといった様子のカルラが割って入る。
そして、睨み合う両者の頭をわしわしと撫でた。
「二人とも落ち着きなさい。頭に血が上っていては、冷静な考えなど浮かぶ訳がありませんわ」
カルラは笑みを崩さないまま、二人を交互に見つめる。
頭を撫でられた気恥ずかしさによる物もあるのだろうか、無言の笑みには妙な迫力を感じた。
ルイズとトウカは大きく息を吸い込み、溜め息と共に頭の熱を押し出す。
「すまない、某としたことが……ついカッとなってしまった」
「べ、別に良いわよ……。ただでさえ良く判らないところに連れて来られて、混乱してたみたいだしね」
まるで手の掛かる妹みたいだ、とカルラは思った。もっとも弟こそ居るものの、自分に妹は居ないのだが。
妹達、もとい戦友とご主人の二人を見てカルラは満面の笑みを浮かべる。
そして、ふと思い出したかのようにルイズに向かって一つの事を尋ねた。
「それで、使い魔っていうのは具体的に何をすれば良いのかしら?」
カルラの思惑はこうだ。
今現在の状況で帰る方法が判らないのであれば、この国で生活していく他無い。
この世界やルイズについても興味はあるし、色々と退屈はしないだろう。
しかしいずれはトゥスクルへ帰らねばならないのだ、その為に必要な情報を集めなければならない。
その点、この国で一番の学び舎ともすれば、情報の収集に役立つものがあるだろう。
それに、ここに居れば少なくとも寝床と食事の心配をする必要が無い。
とすれば、使い魔として生活する事が帰る方法を探すのにもっとも都合が良い、という事だ。
「えーっと、そうね……」
そんなカルラの思惑など露ほども知らぬルイズは、少し頭を捻りつつ使い魔に与えられる能力について考える。
「……まず、使い魔は主人の目となり、耳となる能力を与えられるわ」
「某の見ているものが……見えるのか?」
「……何も見えないわね」
ルイズは残念そうに顔を俯かせるが、すぐに顔を上げて言葉を続ける。
「えーと、それから使い魔はね、主人の望むものを見つけてくるの。例えば秘薬の材料とか……でも無理そうね」
「んー、薬の材料ならたまーにエルルゥの手伝いなんかもしてましたし、多少は判りますわよね?」
「そうだな。もっとも、こちらにそれがあるのかは判らないが」
「本当!?エルルゥが誰かは判んないけど、そんな事も出来るんだ!」
まぁハルニレやトゥレプといった薬草類や、紫琥珀といった鉱物類が存在するのかも判らないし、仮にそれらが見つかったとしても、ルイズに調合できるのかと言えばそういった訳でもないのだが。
しかしながら予想だにしていなかったその答えに、ルイズの機嫌が上方修正されたのは言うまでも無い。
「それで最後の一つ、これが一番重要なんだけど……、使い魔は主人を守る存在でもあるの。その能力で主人を敵から守るのが一番の役目!」
「特に能力なんてありませんけど、護衛なら充分可能ですわよ」
余りにも軽いカルラのその発言に、ルイズは少し意外そうな声をあげた。
「へぇ……コルベール先生は魔力反応があるって言ってたし、てっきり何か出来るのかと思ってたわ」
「……魔力とやらは良く判らないが、某達には一人につき神が一体宿っている。恐らくその影響だろう」
神が宿っている?それは一体何なんだろう?こっちの神とは違うのよね?などと頭に疑問符を浮かべていたルイズだが、一先ず思考を中断する。
「ふーん……それについてはまた今度説明してもらうけど、魔法とかが出来る訳じゃないのね」
「……確かに某達はオンカミヤリュー一族のような術法を持ち合わせている訳では無い。だが某とて武人の端くれ、ルイズ殿に降りかかる火の粉位は払ってやれるさ」
先程までとはうって変わって、優しい表情で声を掛けてくるトウカ。
余りにも不意打ちに見せられた表情に、ルイズは少々顔を赤らめてしまった。
その恥ずかしさからだろうか、トウカに向かって思い切り怒鳴りつける。
「と、当然でしょ!私の使い魔なんだから!もう、グダグダ言ってないでさっさと寝るわよ!」
ルイズは宣言と同時に服を脱ぎ始め、大きめのネグリジェを纏ってベッドに飛び込む。
それを呆然と見ていたトウカは、申し訳無さそうにルイズに問う。
「ところで……某達の寝床は?」
あ、といった表情をベッドから覗かせるルイズ。暫くして申し訳無さそうに呟いた。
「また今度用意してあげるから、今日は床で寝てくれない?」
てへっと擬音が付かんばかりに舌を出し、トウカ達に毛布を投げる。
そしてそのまま頭から布団を被ったと思うと、すぐに寝入ったようだった。
その様子を生暖かい目で見つめていたカルラとトウカは顔を見合わせると、大きく溜め息をついた。
「大変な子に召喚されちゃいましたわねー……」
「全く……先行きが不安になるな……」
「ま、あるじ様が起きる前に帰れば良いんですから、気楽に行こうかしらねー」
「カルラ……少しは危機感というものを持ったほうが良いのではないか?」
暫くの間トウカは小言をこぼしていたが、いつの間にかカルラは寝息を立てていた。
もう全て割り切るしか無いのだろうな……などと考えながら、トウカは座ったままカルラと一緒の毛布にくるまり、ゆっくりと夢の世界に落ちていった。
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第03話 語られるもの
その日の夜、トウカは空に浮かぶ二つの月を見つめながら、深い溜め息をついた。
(聖上……某は最後の御命令を、全うする事が出来ぬやもしれません……)
トウカはどこか悲しげに、窓の外を見つめる。
その隣で、ルイズとカルラの情報交換は続いていた。
「別の世界から来た……か。俄かには信じられないわね……」
「わたくしだって信じたくありませんわ。でもこの月を見て、この世界がわたくし達の世界だ、と認識するのは難しいですもの」
「こっちだって信じられないわよ……月が一つしかなくて貴族が居ない世界なんて」
ルイズの溜め息とカルラの溜め息が重なる。
ふと、窓から月を見つめていたトウカが口を挟んだ。
「ルイズ殿……某達がトゥスクルに帰る方法はあるのか?」
トウカ達にとって、今現在もっとも重要な問題。
『トゥスクルからトリステインまで一方通行です』などと言われたら、もうどうする事も出来ないのだ。
「判らないわ……だって別の世界なんて聞いた事も無いし、それを繋ぐ魔法なんてある訳が無いわよ」
「だとしたら!何故某達がこの世界にやって来れたのだ!?」
「そんな事、私に判る訳が無いでしょう!?」
段々と部屋が険悪な雰囲気に包まれて行く。
今にも喧嘩に発展しそうな二人の間に、やれやれといった様子のカルラが割って入る。
そして、睨み合う両者の頭をわしわしと撫でた。
「二人とも落ち着きなさい。頭に血が上っていては、冷静な考えなど浮かぶ訳がありませんわ」
カルラは笑みを崩さないまま、二人を交互に見つめる。
頭を撫でられた気恥ずかしさによる物もあるのだろうか、無言の笑みには妙な迫力を感じた。
ルイズとトウカは大きく息を吸い込み、溜め息と共に頭の熱を押し出す。
「すまない、某としたことが……ついカッとなってしまった」
「べ、別に良いわよ……。ただでさえ良く判らないところに連れて来られて、混乱してたみたいだしね」
まるで手の掛かる妹みたいだ、とカルラは思った。もっとも弟こそ居るものの、自分に妹は居ないのだが。
妹達、もとい戦友とご主人の二人を見てカルラは満面の笑みを浮かべる。
そして、ふと思い出したかのようにルイズに向かって一つの事を尋ねた。
「それで、使い魔っていうのは具体的に何をすれば良いのかしら?」
カルラの思惑はこうだ。
今現在の状況で帰る方法が判らないのであれば、この国で生活していく他無い。
この世界やルイズについても興味はあるし、色々と退屈はしないだろう。
しかしいずれはトゥスクルへ帰らねばならないのだ、その為に必要な情報を集めなければならない。
その点、この国で一番の学び舎ともすれば、情報の収集に役立つものがあるだろう。
それに、ここに居れば少なくとも寝床と食事の心配をする必要が無い。
とすれば、使い魔として生活する事が帰る方法を探すのにもっとも都合が良い、という事だ。
「えーっと、そうね……」
そんなカルラの思惑など露ほども知らぬルイズは、少し頭を捻りつつ使い魔に与えられる能力について考える。
「……まず、使い魔は主人の目となり、耳となる能力を与えられるわ」
「某の見ているものが……見えるのか?」
「……何も見えないわね」
ルイズは残念そうに顔を俯かせるが、すぐに顔を上げて言葉を続ける。
「えーと、それから使い魔はね、主人の望むものを見つけてくるの。例えば秘薬の材料とか……でも無理そうね」
「んー、薬の材料ならたまーにエルルゥの手伝いなんかもしてましたし、多少は判りますわよね?」
「そうだな。もっとも、こちらにそれがあるのかは判らないが」
「本当!?エルルゥが誰かは判んないけど、そんな事も出来るんだ!」
まぁハルニレやトゥレプといった薬草類や、紫琥珀といった鉱物類が存在するのかも判らないし、仮にそれらが見つかったとしても、ルイズに調合できるのかと言えばそういった訳でもないのだが。
しかしながら予想だにしていなかったその答えに、ルイズの機嫌が上方修正されたのは言うまでも無い。
「それで最後の一つ、これが一番重要なんだけど……、使い魔は主人を守る存在でもあるの。その能力で主人を敵から守るのが一番の役目!」
「特に能力なんてありませんけど、護衛なら充分可能ですわよ」
余りにも軽いカルラのその発言に、ルイズは少し意外そうな声をあげた。
「へぇ……コルベール先生は魔力反応があるって言ってたし、てっきり何か出来るのかと思ってたわ」
「……魔力とやらは良く判らないが、某達には一人につき神が一体宿っている。恐らくその影響だろう」
神が宿っている?それは一体何なんだろう?こっちの神とは違うのよね?などと頭に疑問符を浮かべていたルイズだが、一先ず思考を中断する。
「ふーん……それについてはまた今度説明してもらうけど、魔法とかが出来る訳じゃないのね」
「……確かに某達はオンカミヤリュー一族のような術法を持ち合わせている訳では無い。だが某とて武人の端くれ、ルイズ殿に降りかかる火の粉位は払ってやれるさ」
先程までとはうって変わって、優しい表情で声を掛けてくるトウカ。
余りにも不意打ちに見せられた表情に、ルイズは少々顔を赤らめてしまった。
その恥ずかしさからだろうか、トウカに向かって思い切り怒鳴りつける。
「と、当然でしょ!私の使い魔なんだから!もう、グダグダ言ってないでさっさと寝るわよ!」
ルイズは宣言と同時に服を脱ぎ始め、大きめのネグリジェを纏ってベッドに飛び込む。
それを呆然と見ていたトウカは、申し訳無さそうにルイズに問う。
「ところで……某達の寝床は?」
あ、といった表情をベッドから覗かせるルイズ。暫くして申し訳無さそうに呟いた。
「また今度用意してあげるから、今日は床で寝てくれない?」
てへっと擬音が付かんばかりに舌を出し、トウカ達に毛布を投げる。
そしてそのまま頭から布団を被ったと思うと、すぐに寝入ったようだった。
その様子を生暖かい目で見つめていたカルラとトウカは顔を見合わせると、大きく溜め息をついた。
「大変な子に召喚されちゃいましたわねー……」
「全く……先行きが不安になるな……」
「ま、あるじ様が起きる前に帰れば良いんですから、気楽に行こうかしらねー」
「カルラ……少しは危機感というものを持ったほうが良いのではないか?」
暫くの間トウカは小言をこぼしていたが、いつの間にかカルラは寝息を立てていた。
もう全て割り切るしか無いのだろうな……などと考えながら、トウカは座ったままカルラと一緒の毛布にくるまり、ゆっくりと夢の世界に落ちていった。
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