「ゼロのしもべ13」(2007/11/05 (月) 22:54:46) の最新版変更点
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13話
バビルの名を持つものは、異郷の地で故郷へ帰る日を夢見る運命にあるのか。
バビル1世は帰るために塔を作った。
だが塔は事故から消滅し、彼は異郷の土となった。
5000年後、バビル2世も同じく異郷にあった。
すくなくともバビル2世は故郷に帰りうる情報を手に入れた。
虚無の魔法使いと始祖の祈祷書――
虚無の使い手はすぐ傍にいる。バビル2世の主となったメイジ、『ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール』である。
だが彼女はまだ未熟なメイジであった。まだ虚無の魔法を使いこなせてなどいなかった。
ゆえに、彼女を育て上げる手段が必要であった。
育て上げる手段、すなわち始祖の祈祷書である。
「始祖の祈祷書なら王室の宝物庫にも一つあったはずよ」
帰路、馬上でそれとなく尋ねると出てきたのは意外すぎる言葉であった。
「ちょっと待ってくれ。にも、というからには、まだあるのか?」
はあ、とため息をつくルイズ。
「あったり前でしょ?世界中にごろごろと『贋作』があるので有名な本じゃない。」
ルイズによると、世界中に散らばるその本は時の聖職者や魔術師が自分たちの教えに箔をつけるために作った書物であり、
自分たちに都合のよいように伝承等を解釈した内容が載っているだけのものばかりだという。口さがない連中は、この状況を
かんがみて「始祖の祈祷書などもともと存在してなかったんじゃねーのか?」とさえ言っている。
「それで、王室所蔵のものというのは白紙なのかい?」
「らしいわよ。一ページもインク汚れ一つないらしいわ。ま、逆に本物ポイって言う連中もいるけどね。」
「奇天烈斎様が発明したインクを使っていて、特殊なレンズのメガネを嵌めないと読めないということはないのかい?」
「どこのキテレツ大百科よ!」
そーんな安易な落ちがあるわけないでしょ?やれやれと肩をすくめるルイズであった。
『土くれ』の二つ名で呼ばれ、トリステイン中の貴族を恐怖に貶めているメイジの盗賊がいる。土くれのフーケだ。
いちいち説明するのも面倒だが、その手口は大胆不敵にして繊細。風のように忍び込み、音もなく盗み出したかと思えば、
巨大なゴーレムで建築物を破壊したりもする。
手口に共通しているのは『錬金』を使うこと。
錬金で扉や壁を土くれにかえる。たとえ強力な固定化の魔法をかけていてもものともせずにである。
犯行現場に「秘蔵の○○、確かに領収いたしました。 土くれのフーケ」なるふざけたサインを残していくこと。
このせいで、「愉快犯ではないのか?」という推測もある。盗みであたふたする姿を見るのが目的なのではないか?と。
ただその主張には次の反論が寄せられる。そう、
「土くれのフーケはマジックアイテムばかり盗んでいるじゃないか」と。
「協力?」
「ああ。今、君は『破壊の杖』を狙っているのだろう?だが自分の力では外壁を破壊できない。だが我々のほこるロ………いや
マジックアイテムならばあの程度の外壁、砂糖菓子のようなものだ。それを報告書のサービスにただでお貸ししようというのだ。」
白仮面の男が言う。日付はすでに虚無の曜日へ入っている。巨大な2つの月が学院を照らし出している。
「ただのサービスで、そんなものを貴方が貸すようには見えないけど?」
黒いローブを目深にかぶった女性が答える。土くれのフーケである。
「もちろん、条件がある。バビル2世をおびき寄せて、そいつでしとめて欲しいんだ。」
ピクと耳が反応する。表情一つ変えずに、
「なぜそのアイテムを使って、あなた自身で倒さないのかしら?」と問う。
もっともな疑問である。
「答えは明瞭だよ。そいつは土の魔法に反応するタイプでね。私では無理なんだ。」
もちろん、こいつに関しては別料金を払う、と続ける白仮面。じっと考えるフーケ。
「そんなに強力なアイテムだというのなら、わたしがそのまま失敬するという考えはなくて?」
「君が望むのなら、報酬とは別にそいつを譲ってもいいさ。」
好条件過ぎる。
たしかに白仮面は最初の約束どおり、あの程度の報告に対して前金あわせ金貨220という報酬を支払った。いったいあの少年は
何者だというか。
もっとも断る理由もない。話の内容に矛盾はないし、あの外壁を打ち破る手段を熨斗つきでくれるというのだ。見逃す手はない。
「………わかったわ。」
ただし、こちらの誘いにあの少年が乗らなかったときは諦めて頂戴。と続けるフーケ。かまわないよ、ということで商談は成立した。
「では、明日昼頃にお届けしよう。決行はいつでも良い。」
そう言って消える白仮面。
昼か。食後ならば、人間の本能として気が緩む。おまけに夜には警戒をしても昼は無防備になるのが人間だ。
うけとって、そのまま押し入るという手段はどうだろうか?そんなことを考えながらフーケはロングビルへと戻って、自室へと歩を進めた。
一陣の風が闇の中を疾っている。
わずかに身体は宙を浮いている。フライを使っているのだ。
ただフライ程度ではこんなスピードは出ない。大地を蹴って加速しているため、通常の3倍の速度が出ている。。
ただし、仮面は白かった。
白仮面である。黒いマントを羽織っているせいで仮面が宙に浮き、幽鬼のようである。
「む?」
前方に輝く怪しい光。
空中でぼうっと青白い光が燃えている。
急ブレーキをかける白仮面。近寄ると木の幹にたいまつが突き刺さっている。
「何者だ?」
警戒態勢をとって周囲を見回す白仮面。すると音もなく幹の上に人影が現れる。
「フッフフ」
現れたのは奇妙な格好をした男。見たこともない奇妙な服を着て、左の腰に方刃の剣を2本指している。
肩にかかるような黒い長髪。涼しげな口元に、糸目。
我々ならば、この男の身なりを見れば「まるで江戸時代の侍だ」と思うだろう。いや、間違いなくこの男の姿は侍であった。
「ジャキか。」
白仮面が警戒を解く。ジャキと呼ばれた男が地面に降りる。その間、一切物音がしない。
それは侍というよりは忍者のようであった。
「なぜ貴様がここにいる?」白仮面。
「それはわしのいう台詞だ。」ジャキ。
「トリスタニアにいるはずのお前がときおりいなくなっていれば、気にかかるのは当然だろう。つけてみれば行く先は魔法学校。
あそこにお前のいいなずけがいるとは聞いていたが、逢引とは思えぬでな。」
ジャキの目がギラリと光る。この男、躊躇なく人を殺めるタイプの人間と同じ眼光を有している。
「ふふ。別に隠していたわけではない。」と白仮面。
「実はな、あそこにはバビル2世らしき男がいるのだ。」
一瞬で凍りつく空気。「バビル2世だと?」と訝しげに聞くジャキ。
「いまだに確証が持てないので、ボスへ報告をおこなっていないがな。確証を得る手段を打ってきたところだ。」
ジャキに今までの経緯を説明しだす白仮面。
「お前も知ってのとおり、あの学院には私のいいなずけがいる。お前は知っているかどうかわからぬが、どうも虚無系統の才能を
有しているようなのだ。そのため、普段から監視を部下にさせてきた。そしてある日……」
「バビル2世らしき人間を召喚した、というのか?」
その通りだ、と頷く白仮面。
「バビル2世がこちらへやってくるかどうかは、我々の長年の懸案であった。そのため、それらしきものが現れたという報告を
受けては右往左往し、組織が振り回されてきた。なにしろボスはそのころはまだ完全に回復していなかったからな。
ゆえに召喚された男が本当にバビル2世なのかどうか確かめてから報告をする必要があると思い、いままで秘密にしていたのだ。」
なるほど、とジャキ。説明に矛盾はない。
ただ、「いかなる手段をとったというのだ?」
「フフ、ゴーリキを使うのよ。」
「ゴーリキを!?」
「ああ、ゴーリキをあの学院に偶然いたフーケに使わせる。もし男がバビル2世ならば、3つのしもべを呼び寄せるはずだ。
なぜなら、バビル2世はゴーリキの攻撃をかわせても他の生徒には無理。となればバビル2世はしもべをあやつって、ほかの人間に
被害が出ぬように戦うはずだ。3つのしもべならゴーリキに引けを取らぬ大きさだからな。」
「ふむ。」
腕組みをして考えるジャキ。そして、
「一つ聞くが、フーケにはいかように話してあるのだ?バビル2世は心を強制的に読むことができるという。万が一でも警戒される
ような情報をフーケに与えていれば、バビル2世はわれわれに気づくかもしれないのだぞ?」
はっとした表情になる白仮面。
「そういわれればそうだ。つい、フーケにはバビル2世という名前と、写真を渡してしまっている。」
「むむむ。」
脂汗を流し、見詰め合う二人。何分経ったのか。時が早く動くようにも、遅いようにも感じる。
「ならばわしが…」
と先に声を出したのはジャキであった。
「万一バビル2世であったらばフーケは捕らえられるだろう。そのときは心を読まれる前にわしがフーケを始末しよう。」
おぬしは急ぎゴーリキを運んでくるがいい。と言って消えるジャキ。炎はおろかたいまつ自体が一瞬にして消えうせた。
ジャキは現れたときから消えるまで、声以外に一切物音を立てなかった。
「不死身のジャキか。いつ私の行動に気づいたというのか。」
なんとなく虫の好かぬ男だ、と思う白仮面であった。
一撃で分厚い壁が粉々になった。
特に力を入れさせたわけではない。数発を叩き込んで破壊する気だったのだ。
「なにこれ……すごい!こんなのはじめて!」
OH!YES!と歓喜の声を上げたのはフーケである。まさかこれほどの力だとは。
最初にゴーレムのようなものを渡されたときはからかわれているのかと思った。
だが自分のゴーレムと融合させて使うといわれしぶしぶ試すと、現れたのは通常の3倍近い強さを誇るゴーレム。
おまけに拳を鉄に錬金する必要もなく、やすやすと壁を打ち抜くとは!
「ゴーリキだとかあの仮面は呼んでいたわね…。でも、この姿はあえて言うならビッグ・ゴールド!そうよ、無敵のゴーレム、
ビッグ・ゴールドよ!」
頭から飛び降り、すばやくレビテーションを唱えて、破壊した壁から宝物庫へ侵入するフーケ。
こうなっては逆に宝物庫にかけた固定化が、フーケを守る鎧となる。ゆうゆうと目的の破壊の杖を探すフーケ。
「な、なにこれ!」
「……。」
「あ、あれは!?」
「ゴーレム!?」
空中と地上でほぼ同時に叫ぶ4人。いや一人は叫んでいないけれども。
腕が魔法学院の本塔外壁を貫いている。あの場所は……
「……宝物庫。」
そうだ、宝物庫だ。賊が進入したのか。
「なんだ、あれは!?」
「わかんないけど………。巨大な土ゴーレムね。」
ルイズは思い出していた。ゴーレムを使い白昼堂々盗みを働くという、噂の盗賊「土くれのフーケ」のことを。
穴から腕をつたって、人影がゴーレムに飛び乗った。何か筒状のモノを抱えている。
ゴーレムが動き出す。ちょうど4人のほうへ向かって、防壁を破壊し、木をへし折りながら悠然と進む。
「くうっ!」
怯える馬の手綱を操って、回避するバビル。
風竜が傍に降り立ち、タバサとキュルケが降りてくる。バビル2世も降りるが、ルイズのことを忘れてしまいほったらかしだ。
「あいつ、壁を破壊したようだがいったいなにを?」
ルイズに話しかけるバビル2世。だがいないことに気づき辺りを見回すと、馬の上から般若のような形相で睨むルイズの姿が。
慌ててエスコートするが、降りた途端弁慶の泣き所を思いっきり蹴られてしまう。
「宝物庫。」
再びタバサ。
「あの黒ローブ、出てきたとき何かを抱えていたわ」
「すると盗賊か?強盗っていうべきだろうか。」
草原の真ん中を歩いていた巨大なゴーレムは、突然ぐしゃりと崩れ落ちた。
土の山と化したゴーレムの中から、岩の塊らしきものが飛び上がり、空の彼方へ消えていく。
慌てて小山の元へ駆け寄るが、ボタ山以外に何もなく、黒ローブの姿も形も、遺留品の一つも残さず消えていた。
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バビルの名を持つものは、異郷の地で故郷へ帰る日を夢見る運命にあるのか。
バビル1世は帰るために塔を作った。
だが塔は事故から消滅し、彼は異郷の土となった。
5000年後、バビル2世も同じく異郷にあった。
すくなくともバビル2世は故郷に帰りうる情報を手に入れた。
虚無の魔法使いと始祖の祈祷書――
虚無の使い手はすぐ傍にいる。バビル2世の主となったメイジ、『ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール』である。
だが彼女はまだ未熟なメイジであった。まだ虚無の魔法を使いこなせてなどいなかった。
ゆえに、彼女を育て上げる手段が必要であった。
育て上げる手段、すなわち始祖の祈祷書である。
「始祖の祈祷書なら王室の宝物庫にも一つあったはずよ」
帰路、馬上でそれとなく尋ねると出てきたのは意外すぎる言葉であった。
「ちょっと待ってくれ。にも、というからには、まだあるのか?」
はあ、とため息をつくルイズ。
「あったり前でしょ?世界中にごろごろと『贋作』があるので有名な本じゃない。」
ルイズによると、世界中に散らばるその本は時の聖職者や魔術師が自分たちの教えに箔をつけるために作った書物であり、
自分たちに都合のよいように伝承等を解釈した内容が載っているだけのものばかりだという。口さがない連中は、この状況を
かんがみて「始祖の祈祷書などもともと存在してなかったんじゃねーのか?」とさえ言っている。
「それで、王室所蔵のものというのは白紙なのかい?」
「らしいわよ。一ページもインク汚れ一つないらしいわ。ま、逆に本物ポイって言う連中もいるけどね。」
「奇天烈斎様が発明したインクを使っていて、特殊なレンズのメガネを嵌めないと読めないということはないのかい?」
「どこのキテレツ大百科よ!」
そーんな安易な落ちがあるわけないでしょ?やれやれと肩をすくめるルイズであった。
『土くれ』の二つ名で呼ばれ、トリステイン中の貴族を恐怖に貶めているメイジの盗賊がいる。土くれのフーケだ。
いちいち説明するのも面倒だが、その手口は大胆不敵にして繊細。風のように忍び込み、音もなく盗み出したかと思えば、
巨大なゴーレムで建築物を破壊したりもする。
手口に共通しているのは『錬金』を使うこと。
錬金で扉や壁を土くれにかえる。たとえ強力な固定化の魔法をかけていてもものともせずにである。
犯行現場に「秘蔵の○○、確かに領収いたしました。 土くれのフーケ」なるふざけたサインを残していくこと。
このせいで、「愉快犯ではないのか?」という推測もある。盗みであたふたする姿を見るのが目的なのではないか?と。
ただその主張には次の反論が寄せられる。そう、
「土くれのフーケはマジックアイテムばかり盗んでいるじゃないか」と。
「協力?」
「ああ。今、君は『破壊の杖』を狙っているのだろう?だが自分の力では外壁を破壊できない。だが我々のほこるロ………いや
マジックアイテムならばあの程度の外壁、砂糖菓子のようなものだ。それを報告書のサービスにただでお貸ししようというのだ。」
白仮面の男が言う。日付はすでに虚無の曜日へ入っている。巨大な2つの月が学院を照らし出している。
「ただのサービスで、そんなものを貴方が貸すようには見えないけど?」
黒いローブを目深にかぶった女性が答える。土くれのフーケである。
「もちろん、条件がある。バビル2世をおびき寄せて、そいつでしとめて欲しいんだ。」
ピクと耳が反応する。表情一つ変えずに、
「なぜそのアイテムを使って、あなた自身で倒さないのかしら?」と問う。
もっともな疑問である。
「答えは明瞭だよ。そいつは土の魔法に反応するタイプでね。私では無理なんだ。」
もちろん、こいつに関しては別料金を払う、と続ける白仮面。じっと考えるフーケ。
「そんなに強力なアイテムだというのなら、わたしがそのまま失敬するという考えはなくて?」
「君が望むのなら、報酬とは別にそいつを譲ってもいいさ。」
好条件過ぎる。
たしかに白仮面は最初の約束どおり、あの程度の報告に対して前金あわせ金貨220という報酬を支払った。いったいあの少年は
何者だというか。
もっとも断る理由もない。話の内容に矛盾はないし、あの外壁を打ち破る手段を熨斗つきでくれるというのだ。見逃す手はない。
「………わかったわ。」
ただし、こちらの誘いにあの少年が乗らなかったときは諦めて頂戴。と続けるフーケ。かまわないよ、ということで商談は成立した。
「では、明日昼頃にお届けしよう。決行はいつでも良い。」
そう言って消える白仮面。
昼か。食後ならば、人間の本能として気が緩む。おまけに夜には警戒をしても昼は無防備になるのが人間だ。
うけとって、そのまま押し入るという手段はどうだろうか?そんなことを考えながらフーケはロングビルへと戻って、自室へと歩を進めた。
一陣の風が闇の中を疾っている。
わずかに身体は宙を浮いている。フライを使っているのだ。
ただフライ程度ではこんなスピードは出ない。大地を蹴って加速しているため、通常の3倍の速度が出ている。。
ただし、仮面は白かった。
白仮面である。黒いマントを羽織っているせいで仮面が宙に浮き、幽鬼のようである。
「む?」
前方に輝く怪しい光。
空中でぼうっと青白い光が燃えている。
急ブレーキをかける白仮面。近寄ると木の幹にたいまつが突き刺さっている。
「何者だ?」
警戒態勢をとって周囲を見回す白仮面。すると音もなく幹の上に人影が現れる。
「フッフフ」
現れたのは奇妙な格好をした男。見たこともない奇妙な服を着て、左の腰に方刃の剣を2本指している。
肩にかかるような黒い長髪。涼しげな口元に、糸目。
我々ならば、この男の身なりを見れば「まるで江戸時代の侍だ」と思うだろう。いや、間違いなくこの男の姿は侍であった。
「ジャキか。」
白仮面が警戒を解く。ジャキと呼ばれた男が地面に降りる。その間、一切物音がしない。
それは侍というよりは忍者のようであった。
「なぜ貴様がここにいる?」白仮面。
「それはわしのいう台詞だ。」ジャキ。
「トリスタニアにいるはずのお前がときおりいなくなっていれば、気にかかるのは当然だろう。つけてみれば行く先は魔法学校。
あそこにお前のいいなずけがいるとは聞いていたが、逢引とは思えぬでな。」
ジャキの目がギラリと光る。この男、躊躇なく人を殺めるタイプの人間と同じ眼光を有している。
「ふふ。別に隠していたわけではない。」と白仮面。
「実はな、あそこにはバビル2世らしき男がいるのだ。」
一瞬で凍りつく空気。「バビル2世だと?」と訝しげに聞くジャキ。
「いまだに確証が持てないので、ボスへ報告をおこなっていないがな。確証を得る手段を打ってきたところだ。」
ジャキに今までの経緯を説明しだす白仮面。
「お前も知ってのとおり、あの学院には私のいいなずけがいる。お前は知っているかどうかわからぬが、どうも虚無系統の才能を
有しているようなのだ。そのため、普段から監視を部下にさせてきた。そしてある日……」
「バビル2世らしき人間を召喚した、というのか?」
その通りだ、と頷く白仮面。
「バビル2世がこちらへやってくるかどうかは、我々の長年の懸案であった。そのため、それらしきものが現れたという報告を
受けては右往左往し、組織が振り回されてきた。なにしろボスはそのころはまだ完全に回復していなかったからな。
ゆえに召喚された男が本当にバビル2世なのかどうか確かめてから報告をする必要があると思い、いままで秘密にしていたのだ。」
なるほど、とジャキ。説明に矛盾はない。
ただ、「いかなる手段をとったというのだ?」
「フフ、ゴーリキを使うのよ。」
「ゴーリキを!?」
「ああ、ゴーリキをあの学院に偶然いたフーケに使わせる。もし男がバビル2世ならば、3つのしもべを呼び寄せるはずだ。
なぜなら、バビル2世はゴーリキの攻撃をかわせても他の生徒には無理。となればバビル2世はしもべをあやつって、ほかの人間に
被害が出ぬように戦うはずだ。3つのしもべならゴーリキに引けを取らぬ大きさだからな。」
「ふむ。」
腕組みをして考えるジャキ。そして、
「一つ聞くが、フーケにはいかように話してあるのだ?バビル2世は心を強制的に読むことができるという。万が一でも警戒される
ような情報をフーケに与えていれば、バビル2世はわれわれに気づくかもしれないのだぞ?」
はっとした表情になる白仮面。
「そういわれればそうだ。つい、フーケにはバビル2世という名前と、写真を渡してしまっている。」
「むむむ。」
脂汗を流し、見詰め合う二人。何分経ったのか。時が早く動くようにも、遅いようにも感じる。
「ならばわしが…」
と先に声を出したのはジャキであった。
「万一バビル2世であったらばフーケは捕らえられるだろう。そのときは心を読まれる前にわしがフーケを始末しよう。」
おぬしは急ぎゴーリキを運んでくるがいい。と言って消えるジャキ。炎はおろかたいまつ自体が一瞬にして消えうせた。
ジャキは現れたときから消えるまで、声以外に一切物音を立てなかった。
「不死身のジャキか。いつ私の行動に気づいたというのか。」
なんとなく虫の好かぬ男だ、と思う白仮面であった。
一撃で分厚い壁が粉々になった。
特に力を入れさせたわけではない。数発を叩き込んで破壊する気だったのだ。
「なにこれ……すごい!こんなのはじめて!」
OH!YES!と歓喜の声を上げたのはフーケである。まさかこれほどの力だとは。
最初にゴーレムのようなものを渡されたときはからかわれているのかと思った。
だが自分のゴーレムと融合させて使うといわれしぶしぶ試すと、現れたのは通常の3倍近い強さを誇るゴーレム。
おまけに拳を鉄に錬金する必要もなく、やすやすと壁を打ち抜くとは!
「ゴーリキだとかあの仮面は呼んでいたわね…。でも、この姿はあえて言うならビッグ・ゴールド!そうよ、無敵のゴーレム、
ビッグ・ゴールドよ!」
頭から飛び降り、すばやくレビテーションを唱えて、破壊した壁から宝物庫へ侵入するフーケ。
こうなっては逆に宝物庫にかけた固定化が、フーケを守る鎧となる。ゆうゆうと目的の破壊の杖を探すフーケ。
「な、なにこれ!」
「……。」
「あ、あれは!?」
「ゴーレム!?」
空中と地上でほぼ同時に叫ぶ4人。いや一人は叫んでいないけれども。
腕が魔法学院の本塔外壁を貫いている。あの場所は……
「……宝物庫。」
そうだ、宝物庫だ。賊が進入したのか。
「なんだ、あれは!?」
「わかんないけど………。巨大な土ゴーレムね。」
ルイズは思い出していた。ゴーレムを使い白昼堂々盗みを働くという、噂の盗賊「土くれのフーケ」のことを。
穴から腕をつたって、人影がゴーレムに飛び乗った。何か筒状のモノを抱えている。
ゴーレムが動き出す。ちょうど4人のほうへ向かって、防壁を破壊し、木をへし折りながら悠然と進む。
「くうっ!」
怯える馬の手綱を操って、回避するバビル。
風竜が傍に降り立ち、タバサとキュルケが降りてくる。バビル2世も降りるが、ルイズのことを忘れてしまいほったらかしだ。
「あいつ、壁を破壊したようだがいったいなにを?」
ルイズに話しかけるバビル2世。だがいないことに気づき辺りを見回すと、馬の上から般若のような形相で睨むルイズの姿が。
慌ててエスコートするが、降りた途端弁慶の泣き所を思いっきり蹴られてしまう。
「宝物庫。」
再びタバサ。
「あの黒ローブ、出てきたとき何かを抱えていたわ」
「すると盗賊か?強盗っていうべきだろうか。」
草原の真ん中を歩いていた巨大なゴーレムは、突然ぐしゃりと崩れ落ちた。
土の山と化したゴーレムの中から、岩の塊らしきものが飛び上がり、空の彼方へ消えていく。
慌てて小山の元へ駆け寄るが、ボタ山以外に何もなく、黒ローブの姿も形も、遺留品の一つも残さず消えていた。
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