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「ルイズさんとハヤテくんと-3」(2007/09/15 (土) 13:37:10) の最新版変更点
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進級試験の監督をした教師、コルベールは授業を受け持っていない日は学院の離れの小屋にて、ライフワークである研究に勤しんでいた。
普段は『火』の魔法を使い、燃やして破壊する為ではなく、何かを生み出すために活用できないかと考え、時に試作品を作っていた―――このトリステインではそのような思考を持つのは珍しい―――のだが、
今回は生徒ルイズが召喚した『物』に興味を惹かれていた。
ハヤテが拾っていた放置自転車。
暴走バスに衝突したというのに幸運な事に、もしくはダメージが全てハヤテに行って不幸な事に、大きな損傷も無く、まだまだ現役で活躍出来るようである。
生徒の誰もがよく分からないまま召喚場所に放置されていた所を持ってきて、目の前で観察する。
人力で動かすという点でいつもの研究テーマからは外れるが、自転車の形や働きにコルベールは少し関心を持った。
足りない材料から推測するに、これは乗り物で、真ん中の板に座り、足で本体中央下部の二つの穴あき板(?)を蹴るか何かで車輪を回転させて進ませる。
前方上部の曲がった棒を握って左右に曲がるが、乗り方と止め方がよく分からない。
長距離は難しいが、街や学院内などの限定空間では便利だろう。
馬より低く馬要らずで、女子供にも乗れそうなのが大きい。
惜しむらくは幾つか材質不明で、トリステインでは造れそうに無い所か。
まあ、分からない所はミス・ヴァリエールの使い魔に聞いてみよう、と締める。
「そういえば、ミス・ヴァリエールは大丈夫でしょうか?」
研究者から教師の顔に戻り、呟く。
理由不明ながら魔法を使えず、ようやく出てきた使い魔もただの平民の人間。
ディテクトマジックを使ったが、正真正銘やっぱりただの人間。
ルーンの形は騒ぎでよく見ていないが、使い魔のルーンがある事だけは確認した。
学院で一番ともいえるほどに努力家だという事を知っているだけに、使い魔はメイジの質を表すというだけあって、辛いものがあるのではないだろうか。
(どのような性格かは分かりませんが、願わくばミス・ヴァリエールの支えとなる事を)
誰も聞くことの無い頭の中で、一人の生徒の行く末を祈るしかなかった。
惨劇の場所で目を覚ましたシュヴルーズは、ルイズに無茶苦茶になった教室を片付けるように命じ、後にしばらく実習を行わないというトラウマを行って足早に去っていった。
仕方なく、ルイズとハヤテは―――主にハヤテばかりだが―――教室を手早く片付け、昼食を取りに二人で食堂に向かっていた。
静かな廊下を歩きながら、ハヤテは主に意識が向く事も無いままにひたすら思考の海に沈む。
(いけない……さっきから怒らせてばかりだ。これ以上怒らせたら幾らなんでもクビにされてしまうかも……)
「……! ……たってば!」
(今度はちゃんと怒らせないようにしないと……けど、年下の女の子の気持ちなんて、分からないんだよなあ)
背の低さから、ルイズを未だ年下と思い込んでいるハヤテであった。
だが未だそれを聞かない判断は正しい。実際は同じ年であり、聞いたら爆破される事確実である。
「……あんた! 聞いてるの!?」
「はっ、はい! 何でしょうか?」
「聞いてなかったのね……わたしに、何か言いたい事でもあるんじゃないの?」
「? いえ、特には……」
ハヤテには皆目見当がつかない。
強いて言えば、昼食はもう少し多いですよね? とか服が少しボロボロなんですが、糸とか針とかありませんか? とかを聞いておきたいぐらいか。
そんな事をそれとなく聞くと、ルイズは、はぁぁぁと大げさすぎるぐらいため息をつき、心配しすぎだったかしらと聞こえるようにぼやく。
何が何だか分からないハヤテは「?」と首を傾げるしかない。
「……私、メイジだなんて言いながら、魔法は全然使えないのよ。何の魔法使っても、さっきみたいに全部爆発するの」
「あれ? 爆発って魔法じゃなかったんですか?」
「そうならよかったんだけどね。爆発の魔法なんて無いし、他の呪文は何を唱えても爆発ばかり。
魔法の成功確率ゼロだから、ゼロのルイズって言われてるぐらいだし」
それきり彼女は黙り、何も言わずスタスタと歩き出す。
空気が変わったことを感じ、ハヤテはその場で立ち止まったまま、何も言えなかった。
ルイズは今、多分心の中で泣いている。そんな彼女を、魔法使いでも何でも無い自分が、いったい何を言えば慰められるだろうか……
(……あっ!)
ハヤテの脳天に電撃が光る。もとより僕には、お嬢様に伝えられる事は一つしかないではないか、と。
急いで駆け寄る。しょぼんとした主の首元をキュ、と冷奴を箸で掴む時より慎重に、壊れないように抱きしめて、
「な、何するのよ!?」
「その……お嬢様。僕は、それでも気にはしませんよ?
気にしないというか……お嬢様は、僕を助けてくれた、人生で一番大切な人ですから。命の恩人ですから」
「な、な、なに言ってるの!? たった一日よ?
会ってたった一日で、人生で一番なんて言い切れる訳無いじゃないの!」
「そうですか?
うーん……お嬢様に喚ばれなかったら、誰か誘拐して成功したらお金、失敗しても牢屋で三食屋寝付きでしたし。
それに、何もしなかったら家もお金もなくて、冬の寒空の下、餓死か凍死で死んでいたでしょうし……あれ?」
気がつくと、ルイズはハヤテの腕の中で必死にもがいていた。何となく、逃げようとしているようにも見える。
「どうかしましたか?」
「ゆ、誘拐って……あんた、そんな危険人物だったの!?」
『普通目の前の人物が誘拐未遂犯だと聞けば、逃げようとするのも当然である』
「い、いえ! ……と言っても、信憑性無いですよね。
お願いです、信じてください! 今は食事も屋根もありますし、何より命の恩人のお嬢様に、そんな事出来るはずがありません!」
そういいながら、涙を浮かべ、頬を染めるハヤテの懇願に、何か、こう、グッと来るものを感じた―――捨てられている子犬がきゃんきゃん鳴いているのを見た時と同レベルだが―――ルイズは、
「わ、分かったわよ……信用してあげるわ。命の恩人だって言うんなら、これからも感謝しなさい!」
とだけ言っておいた。
さっきまで落ち込んでいたことが、よく分からないまますっかり吹き飛んだじゃないとぼやきながらも、その顔はどことなく嬉しそうだった。
「それにしても、お金も家も無いから凍死か餓死確実って、どんな環境だったの?」
食堂で椅子を引くハヤテに、機嫌を取り戻したルイズはふと気になって尋ねてみた。
主が座ったのを確認してから、
「大した事じゃありませんよ? ちょっと働きに出てる間に、私物ごと家を売られて、僕の稼ぎを全部持って逃げられたぐらいですから」
あははーと何でも無いように頭をかいて笑うハヤテに、それは大した事だろ! と突っ込みたくなった。
「えっと……16歳よね? 働いてるなら、こんな学校は通って無かった……って、平民なのよね」
「いえ、僕のところは平民も学校に通うんです。
ただ、両親が……その、浪費癖が強くて、学費から生活費まで全部僕が稼いでましたから。
お陰で、お嬢様の家事雑用でお役に立てますけど」
「さっき教室ですぐに片付けられたのも、その経験なの?」
「まぁそれもありますけど……どちらかと言えば、あれは夜逃げの応用です」
「よ、夜逃げ!?」
また物騒な単語が出てきて、ルイズは思わずスプーンを止めた。
「はい。両親がさっきの通りなので、借金取りから逃げる為にしょちゅうですから。部屋一つ片付けるのは朝飯前です」
同じ年の癖に波乱万丈な体験を落ち込みもせずに、今は昼飯時ですけどとかいうつまらないボケまで入れて語るハヤテに、ルイズは同情を禁じえなかった。
多分、彼はずっとその生活をしているせいで、それを笑いながら語れる程日常になってしまっているのだ。
恵まれた生活をしている貴族である自分が言えることではないが、自分のせいではないのにこんな生活をしている彼が不憫すぎる。
(こいつをちゃんと養って、そんな非常識な人生から守ってやらなきゃ!
せめて、普通の平民並みには暮らせるように!)
ルイズの心中で一つの決意が生まれ、心の中で拳を握り締める。まずは食事から何とかしてやろうと、床で薄いスープを啜っている下僕の方を見下ろし、
「ねえ、」
「―――あ、ハヤテさん」
突然割り込まれ、何をこの給仕、人が大事な話をしようとしてる時にと睨みながら観察する。
名前は知らない女、と言うか食堂の人間一人一人までそう覚えられはしない。
顔はまあまあ可愛い部類なのだろう―――が、給仕服の下に隠れた胸の大きさは、他の人間には気付かれずとも、いつもキュルケにいじられてコンプレックスのある私には隠せない―――自分で言って鬱になるが。
しかも、名前を呼んでいるから初対面じゃないみたいだし、
「あっ、シエスタさん。朝はありがとうございました」
「いえ、あれで良かったなら。
それで、その食事、普通の使い魔用のですから……よろしかったら、これからも朝みたいに賄い用の食事を出して貰うようにしましょうか?」
「よろしくお願いします。
いやあ、育ち盛りでこの量は、慣れてるとは言っても足りないですから」
こいつもデレデレして、あと朝に賄い食べたってどういう事よ! 心配して損したわ!
『とまあ、ハヤテ本人が何もせずとも、こうなる不幸が訪れる訳で』
先程まで高かったルイズのご機嫌ゲージが、野茂の全盛期フォークの様に急降下していく。
「あ、あの、どうかなさいましたか? ミス・ヴァリエール。
怒っていらっしゃるように見えるんですが……」
「別に、怒ってないわ」
誰がどう見ても気付く不機嫌オーラを放出しながら、ぶっきらぼうに返すルイズ。
それに気付かない例外も、ここに一人。
「シエスタさん、お嬢様の事、ご存じなんですか?」
「いえ、食堂でよく見かける方を、覚えているだけですから」
「そうなんですか。
あ、すいません! お仕事、お邪魔しちゃって」
「いえ、気にしないで下さい」
「よろしければ、お手伝いしましょうか? 僕に出来る事なら、何でもします!」
「あ……なら、デザートを運ぶのを手伝って下さいな」
「お任せ下さい!
……あ、お嬢様、えっと」
忘れられていた事にゲージがマイナスに反転し、
分かるまい! 主を放置して平民の給仕に鼻を伸ばしている貴様には、この私の体を通して出る力が!
と言わんばかりの増幅されたオーラに流石にハヤテが気付くも、時既に遅し。
ルイズは爆破こそしなかったものの、つんと明後日の方を向き、
「行って来れば?」
「いえ、あの……」
「勝手に行って来ればいいじゃない、バカ」
つーん。取り付く島も無い。
「うう……」
主をどうにかしないといけないと思いながらも、手伝うと言ってしまった手前、断る事も出来ず。
仕方無く、行って来ますとしょぼーんとした顔で一言残し、その場をあとにした。
「……ばか。あんな捨てられるような顔してたら、怒るに怒れないじゃない」
とまあそんなこんなで、ハヤテはシエスタのデザート運びを手伝う事に。
勿論綾崎ハヤテ、年齢一桁の頃から接客仕事も慣れており、まさに朝飯前の手際の良さでテーブルに並べて行く。
(ああ……お嬢様をまた怒らせてしまった。
明後日の方を向いて、顔も見たく無いって事なんだ……とうとうそこまで嫌われて、)
クビなのかもしれない。
異世界二日目にして、早速路頭に迷うとは思わなかった。ネガティブなときは、考えがとことん最悪の方へ向いてしまう。
はぁぁぁぁ、と溜め息をつきながらも手を動かすのは条件反射レベルで忘れないが。
ちらり、と横目でルイズを見る。
新たな料理と格闘する横顔だけでは機嫌がどうかは分からないが、怒らせてしまった手前、そこの近くには行きづらい。
「はぁぁ……」
「ミス・ヴァリエールが気になりますか?」
「シエスタさん、そんな事は……」
「何度も溜め息ついてたら説得力ありませんよ。それに、顔にこれでもかってぐらい出てますし。
多分、あれは拗ねてるだけですから」
「そう、なんですか……?」
「あちらへは、私が配っておきますから、向こうをお願いします」
「すみません……」
今日知り合った人にまで心配をかけたことに反省しつつも、話した事で幾分気が楽になり、ホッとする。すると、少しは前向きに考えられるようになった。
(食事が終わったら、謝ろう。とにかく、謝ろう)
さて、取り敢えずは頑張るかと気を少し持ち直した所で、少し向こうの人込みからガヤガヤと賑やかなざわめきが聞こえて来た。
金髪でシャツのポケットにバラを挿した少年の周りに、多くの友人らしき者達が冷やかしている。
「なあ、ギーシュ! お前、今は誰とつきあっているんだよ!」
「誰が恋人なんだ? ギーシュ!」
「付き合う? 僕にそのような特定の女性はいないのだ。薔薇は多くの人を楽しませるために咲くのだからね」
とんでもないナルシストだなあとハヤテは思う。まるで漫画から出て来たみたいだ―――今は似たようなものか。
と観察していると、ハヤテはナルシスト男のそばから、小さな瓶が落ちたように見えた。
彼のポケットからに見えたが、確証は持てない。取り敢えずは拾い、近寄ってギーシュという少年に尋ねてみた。
一方ルイズも、興味なさげに見せながら実はちらちらとハヤテの方を覗き見していた。
ハヤテはいい奴だと言うのは言われるまでも無い。
突然常識が通用しない所に呼び出され、使い魔になれと言われても、不平不満も言わず献身的に働き、守ってくれて、おまけに主として大事に扱ってくれる。
両親がアレらしいから今までのうのうと暮らして来た訳では無いだろうに、嫌な顔一つしようとしない。
それなのに私はつまらない事で拗ねて、
「馬鹿みたいじゃない……」
「ミス・ヴァリエール?」
「わっ!? ……き、急に何?」
「お願いが、あるのですが」
確かシエスタと言っていたか、給仕の少女がいつの間にか隣に遠慮がちに立っていた。
無理も無い、貴族の子弟とはいえ相手にして平民が意見するなど、下手をすれば首と胴が別れる―――極端な例だが。
「あの、ハヤテさんの事ですが、」
「……分かってるわよ。あいつは悪くないわ」
私だって、頭を冷やせば自分の勝手な言い掛かりと暴走だって分かる。
焼き餅? ……まさか、それは無い。
「一つ聞かせて、シエスタ……と言ったわね? 朝、あいつ何したの?」
「その……召喚前からずっと食事を取って無いって言ってました。
ですから、賄いを出したんです」
シエスタが私を見つめる。
召喚してからずっと食事させないなんて―――と言う意味の視線を、貴族に対する怯えで緩めながら。
何もしていないのに恨まれるのはつまらないから、
「言い訳に聞こえるかもしれないけど、あいつ、召喚されてから大怪我してたのよ。
時々意識は取り戻したんだけど、食事を取る程じゃなかったから」
流石に自分の爆破で気絶させたとは言いにくかった。
いいのよ、一日気絶させてちゃんと治ったんだから、終わり良ければ全て、ね。
「そうだったんですか」
「いいわ、何も無かったんなら―――」
と、食堂の向こうでざわめきが聞こえる。主に男子の声ばかりが響き、
「あ、あの女生徒の人が近寄って行きますけど」
「って、あそこにあいついるわね……何やったのかしら」
妙に気になる。もしかして、何かしでかしたんじゃないだろうか?
常識あるけど非常識だし。
「ちょっと見て来るわ」
「あ、ミス・ヴァリエール?」
瓶を少年の目の前にかざし、
「すみません、これ、落としませんでしたか?」
ハヤテが尋ねてみても、彼は振り向かない。しかし、何となく苦々しげな表情を見て、ハヤテの額に小さな稲妻が走った。
唐突だがハヤテは、自分ではそれなりに空気を読める男だと思っている。
小さな頃から年齢を偽って大人の世界で働いて来た賜物であり、中学生でプールバーでバイトしている際、たまに客で彼みたいな顔。
つまり、関係ない振りをしていてくれ、と言う顔をする人を相手にする時に行っていた事を、ハヤテは今回も実行した。
「すみません、もしかしたら、落とした人の見間違いだったかもしれません。
誰のか分かりませんから、しばらく―――」預かって置きましょう、とのわざとらしい言葉は、横から瓶を取り上げられた事で遮られた。
「あ」
「おっ、この香水はもしや、モンモランシーの香氷じゃないのか?」
「その鮮やかな紫色は、モンモランシーが自分のためだけに調合している香水だぞ!」
「ギーシュのポケットから落ちてきたってことは、つまりお前は今、モンモランシーとつきあっているな?」
瓶の中身を知る周囲からの無責任な騒ぎ立て。ハヤテが空気を読めた時でも、周りが読んでくれるとは限らない不幸であった。
そのまま人ごみから放置され、締め出されるハヤテ。ぽつねんと、取り残される。
「えっと……あれ?」
呆然と立ち尽くすハヤテ。周囲の貴族の興味も若者の恋の話に集中し、所詮平民でしかない一人には見向きもしない。
その隙を縫うように、ピンク髪の少女がハヤテの背後から近寄ってきた。
「ねえ、何してるのよ」
「うわあっ!? お、おじょ、お嬢様……!」
「もう怒ってないから、普通にしてなさい」
「は、はい」
と気をつけをしながらも、どことなく親に隠してた0点のテストを見つかって怒られているような悲しげな顔をしているハヤテ。
そんなショボーンとして目に涙を浮かべている様子を見ていると、
(……あ、こいつ、結構女っぽい顔してるのね。可愛いし。
それに何かこう、胸にこみ上げてくるわね、熱く激しい思いが。
もっとイジりたいわ。むしろ苛めたい!)
『自重しろ、ルイズ』
(……コホン、ちゃんと言わなきゃね)
「さ……さっきはちょっと、喋りたくなかった気分なだけなのよ。
あんたが気にする必要なんて、無いからね」
「お嬢様……。では、もう怒っていないんですか」
「初めから怒ってないわよ!」
「うわっ! ごめんなさい!」
『怒ってる! 怒ってるから!』
「……とにかく、食事が足りないとか何かが欲しいとかあるんなら遠慮せずに言いなさい!
少しぐらい使い魔のわがままを受け止めるのも、主人の役目だから」
「じゃあ、クビにならなくてもいいんですか?」
「だれがそんな事言ったのよ! 使い魔と主はどっちかが死ぬまで変わらないわよ。クビなんてありえないわ。
はい、この話は終わり!」
パンパンと両手を叩き、締めとする。これでさっきみたいに元気になっただろうとハヤテの顔を見上げると、
「うう……うええぇぇぇえうぅぅぅ……」
「ぬなっ!?」
思わず引くほど、ボロ泣きされていた。ちょっとは精神の振幅が大きいなあと思っていたのだが、ここまで不安定だとは思わなかった。
「お嬢ざまぁぁぁ……ありがどうございまずぅ……」
「あ、こら! 抱きつくな! 恥ずかしいじゃない!
お前……あん! バカ! そんなとこさわって……ん!
やぁあん! ちょっ、首にいきが……んっ、んああぁ…!」
「ギーシュさま、やはり、ミス・モンモランシーと……」
「彼らは誤解しているんだ。ケティ。いいかい、僕の心の中に住んでいるのは、君だけ……」
「その香水があなたのポケットから出てきたのが、何よりの証拠ですわ! さようなら!」
「お嬢様、これから、ぐすっ、頑張り、ますっ!」
「いい、から……離れなさーい! 落ち着けー!」
無理矢理振り払う。ああもう、いつの間にか食堂の注目が二分されてるし!
キュルケなんか、いつから見てたか知らないけど、あっちで腹抱えて笑ってるし……次に会うのが怖いわ、いろんな意味で。
「モンモランシー。誤解だ。彼女とはただいっしょに、ラ・ロシェールの森へ遠乗りをしただけで……」
「やっぱり、あの一年生に、手を出していたのね」
「お願いだよ。香水のモンモランシー。咲き誇る薔薇のような顔を、そのような怒りでゆがませないでくれよ。僕まで悲しくなるじゃないか!」
「うそつき!」
誰のせいでもないのに理不尽を感じてしまうルイズ。恥ずかしすぎて気が滅入り、
(いけない、最初に言おうと思ってた事、忘れてたわ)
「落ち着いた?」
「はい、落ち着きました。すみません、取り乱して」
「じゃあいいわ。それで言おうと思ってたんだけど、このあと服買いに行くわよ」
「お嬢様のですか?」
「あんたのよ。他に着替え無いし、それに……まあ色々よ。
一旦、部屋に戻るわよ」
「はい、分かりました!」
「じゃ、シエスタ。うちの使い魔のことで、余計な心配かけたわね」
「いえ、仲直りできて良かったですね、ミス・ヴァリエール」
「……まあ、そういう事にしておくわ」
「ありがとうございました、シエスタさん」
ルイズの分まで一礼し、ハヤテは先程とはうって変わってウキウキとスキップする。ルイズも一部の好事魔の視線を部屋に受けながら、食堂を後にした。
(やれやれ、すぐに落ち込んだり泣いたり喜んだり、へたれてると思ったらかっこよく見えたりするし、よく分かんないわね。
……けど、退屈はしないわ)
と考え、何となく私らしくないような、むしろライバルの胸のでかいアレみたいじゃないか? と思い当たり、少しへこんだ。
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