「雷撃のタバサ-3」(2007/11/05 (月) 23:26:36) の最新版変更点
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村長の家にベッドを運び終えた村人とシルフィードのところに、タバサが合流した。
タバサの姿をしたとらから、アレキサンドルが屍人鬼であったと聞いた村人たちは、マゼンダ婆さんこそが吸血鬼であると口々に主張して譲らなかった。
「静かに! それはこれから調べるのね。ひとまず、お婆さんはこの北花壇騎士シルフィードが責任持って監視しておくの!
あなたたちはそれぞれ家に戻って、しっかり戸締りをなさい。まだ吸血鬼がマゼンダお婆さんだと決まったわけではないのよ」
シルフィードの熱をこめた主張に、殺気立っていた村人たちはしぶしぶと家に帰っていく。シルフィードは村長を振り返った。
「村長さん、悪いけど一階の部屋を借りて、お婆さんを監視させてもらいます。危険だから娘さんも部屋から出さないように、きゅい!」
「は、はい。分かりました、騎士様。ほら、おいでエルザ……」
村長はおびえるエルザを連れて、二階に上がっていく。シルフィードはふうと溜息をついた。そして、傍らのタバサを振り返る。
「これでよかったの、とらさま……?」
「ああ、上出来よ」
タバサはそう言って頷く。その瞳は凶暴な光を放ち、相変わらず口元は戦いの予感にニヤリと歪んでいる。だが――
(きっと、とらさま怒ってる……きゅい)
そう思い、シルフィードはぶるりと身震いをした。そして、これからそんなとらと戦うことになる吸血鬼に同情の念が禁じえないのであった。
二つの月が高く上がり、辺りを妖しく照らし始めた。
夜……吸血鬼の時間が始まったのであった。人々はぴったりと扉や窓を占め、ベッドでは乙女たちが布団に包まって怯えていた。
村長の家の2階……エルザの部屋でも、その小さな美しい少女が一人かたかたと震えている。
さきほどまで村長が一緒についていてくれたのだが、お爺さんは一階のメイジに呼び出されて、部屋を出て行ってしまった。
一階では、メイジとその従者が、マゼンダ婆さんを監視していた。しかし、エルザは、あの枯れ枝のような婆さんよりも、メイジのほうが恐ろしく感じる。
彼女の両親はメイジに殺されているのだ。
(こわい……メイジは怖い……)
エルザは布団に包まりながら、ぎゅっと自分のひざを抱える。メイジは怖い。でも、それ以上に、あのメイジの連れている従者が怖かった。
昼間、あの騎士の連れている従者を見たとき、エルザは震え上がってしまったのだった。あの、恐ろしい殺気に満ちた青い瞳……
(こわい……)
ふいにノックの音が響く。少女はびくんと体を震わせた。
「―――エルザちゃん、入るわね……怖がらないで、ね。きゅい」
入ってきたのは、長身のメイジのほうだった。エルザは、ほっと胸をなでおろす。あの従者でなくてよかった。
本当に、よかった。
シルフィードは、怯える金髪の少女に向かって、にっこりと笑いかける。
「村長さんがね、あなたが怖がっているから、励ましてやってほしいって……大丈夫なの。杖は置いてきたわ、ほら!」
そう言って手を広げてみせる。確かにその手には長い節くれだった杖は握られていない。エルザに怖がられないようにと、一階において来たのだった。
「マ、マゼンダお婆さんはいいの……?」
「大丈夫、従者がしっかりと見張っているわ! あの従者はとっても強いんだから、きゅい!」
そうシルフィードは請け負って、少女を安心させようとする。シルフィードは、少女の金色の髪をなでながら、ベッドの横に腰掛けた。エルザはシルフィードの大きな胸に頭を寄せる。
「眠れないの……?」
コクンと頷くエルザ。心なしか、その体が小刻みに震えているのに気がつき、シルフィードはそっと手を肩に回して抱きしめてやった。
「大丈夫よ、お姉さんたちが吸血鬼をやっつけてあげるんだから……きゅい」
……安心させようとした言葉だったが、返ってきた反応は予想と違っていた。
エルザは顔を上げると、まっすぐシルフィードを見つめる。澄んだ、美しい瞳だった。
「ねえ、なんで吸血鬼を殺すの……?」
「ニンゲンを食べるからよ、きゅい」
「でも、人間だって、牛を食べるわ。魚だって、草だって食べるのに……吸血鬼が人間を食べるのと、どう違うの……?」
シルフィードは言いよどむ。
「それは、その……生きるために仕方なくなの、きゅい」
「吸血鬼は違うの? 吸血鬼だって、生きるために仕方なくやってるんじゃない?」
「でも、でも、人間を襲うのは許せないの! きゅい!」
エルザは、きょとんとした顔で聞き返した。
「なぜ? あなたは使い魔なのに?」
「――――ッ!?」
はっとするシルフィードの口を、一瞬でエルザの手がふさぐ。もう片方の手は、万力のような力でシルフィードの腰を締め付けた。
「ふふ、あんなに殺気を振りまいてたら、どちらが主人かぐらいすぐ分かるわよ……韻竜のお姉ちゃん」
「ふぐ――ッ、ふぐぅ!」
シルフィードは必死にエルザの腕を振りほどこうとするが、吸血鬼の力は、幼い竜のシルフィードのそれを上回っていた。
口をふさがれているため、『変化』の先住魔法を解除する呪文が唱えられない。しかも、『変化』を使っているときには、他の先住魔法は使えないのであった。
「あなたのご主人……一瞬でわたしの屍人鬼を殺してしまったのね。人間の姿から屍人鬼の姿に変わるヒマもなかったわ」
すさまじい『火』の使い手だった、とエルザは今思い返しても震えがきそうだった。おそらくは、『火』のスクウェア・クラスだろう。
「そこでね、あなたを屍人鬼にしてあげようと思うの……ふふ、韻竜の自分なら、屍人鬼にならないとでも思った?」
「ん――ッ! ん――ッ!! むぐゥ――ッ!!」
「暴れても、無駄……」
くわ、と開いたエルザの口の中には、吸血鬼の鋭い牙が並んでいた。恍惚とするエルザと対照的に、シルフィードの顔には恐怖が浮かぶ。
そして――
「いやああああああ――――ッ!!!!」
――夜の帳を引き裂くように、村長の屋敷から発せられた悲鳴が眠るサビエラ村に響き渡った。
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村長の家にベッドを運び終えた村人とシルフィードのところに、タバサが合流した。
タバサの姿をしたとらから、アレキサンドルが屍人鬼であったと聞いた村人たちは、マゼンダ婆さんこそが吸血鬼であると口々に主張して譲らなかった。
「静かに! それはこれから調べるのね。ひとまず、お婆さんはこの北花壇騎士シルフィードが責任持って監視しておくの!
あなたたちはそれぞれ家に戻って、しっかり戸締りをなさい。まだ吸血鬼がマゼンダお婆さんだと決まったわけではないのよ」
シルフィードの熱をこめた主張に、殺気立っていた村人たちはしぶしぶと家に帰っていく。シルフィードは村長を振り返った。
「村長さん、悪いけど一階の部屋を借りて、お婆さんを監視させてもらいます。危険だから娘さんも部屋から出さないように、きゅい!」
「は、はい。分かりました、騎士様。ほら、おいでエルザ……」
村長はおびえるエルザを連れて、二階に上がっていく。シルフィードはふうと溜息をついた。そして、傍らのタバサを振り返る。
「これでよかったの、とらさま……?」
「ああ、上出来よ」
タバサはそう言って頷く。その瞳は凶暴な光を放ち、相変わらず口元は戦いの予感にニヤリと歪んでいる。だが――
(きっと、とらさま怒ってる……きゅい)
そう思い、シルフィードはぶるりと身震いをした。そして、これからそんなとらと戦うことになる吸血鬼に同情の念が禁じえないのであった。
二つの月が高く上がり、辺りを妖しく照らし始めた。
夜……吸血鬼の時間が始まったのであった。人々はぴったりと扉や窓を占め、ベッドでは乙女たちが布団に包まって怯えていた。
村長の家の2階……エルザの部屋でも、その小さな美しい少女が一人かたかたと震えている。
さきほどまで村長が一緒についていてくれたのだが、お爺さんは一階のメイジに呼び出されて、部屋を出て行ってしまった。
一階では、メイジとその従者が、マゼンダ婆さんを監視していた。しかし、エルザは、あの枯れ枝のような婆さんよりも、メイジのほうが恐ろしく感じる。
彼女の両親はメイジに殺されているのだ。
(こわい……メイジは怖い……)
エルザは布団に包まりながら、ぎゅっと自分のひざを抱える。メイジは怖い。でも、それ以上に、あのメイジの連れている従者が怖かった。
昼間、あの騎士の連れている従者を見たとき、エルザは震え上がってしまったのだった。あの、恐ろしい殺気に満ちた青い瞳……
(こわい……)
ふいにノックの音が響く。少女はびくんと体を震わせた。
「―――エルザちゃん、入るわね……怖がらないで、ね。きゅい」
入ってきたのは、長身のメイジのほうだった。エルザは、ほっと胸をなでおろす。あの従者でなくてよかった。
本当に、よかった。
シルフィードは、怯える金髪の少女に向かって、にっこりと笑いかける。
「村長さんがね、あなたが怖がっているから、励ましてやってほしいって……大丈夫なの。杖は置いてきたわ、ほら!」
そう言って手を広げてみせる。確かにその手には長い節くれだった杖は握られていない。エルザに怖がられないようにと、一階において来たのだった。
「マ、マゼンダお婆さんはいいの……?」
「大丈夫、従者がしっかりと見張っているわ! あの従者はとっても強いんだから、きゅい!」
そうシルフィードは請け負って、少女を安心させようとする。シルフィードは、少女の金色の髪をなでながら、ベッドの横に腰掛けた。エルザはシルフィードの大きな胸に頭を寄せる。
「眠れないの……?」
コクンと頷くエルザ。心なしか、その体が小刻みに震えているのに気がつき、シルフィードはそっと手を肩に回して抱きしめてやった。
「大丈夫よ、お姉さんたちが吸血鬼をやっつけてあげるんだから……きゅい」
……安心させようとした言葉だったが、返ってきた反応は予想と違っていた。
エルザは顔を上げると、まっすぐシルフィードを見つめる。澄んだ、美しい瞳だった。
「ねえ、なんで吸血鬼を殺すの……?」
「ニンゲンを食べるからよ、きゅい」
「でも、人間だって、牛を食べるわ。魚だって、草だって食べるのに……吸血鬼が人間を食べるのと、どう違うの……?」
シルフィードは言いよどむ。
「それは、その……生きるために仕方なくなの、きゅい」
「吸血鬼は違うの? 吸血鬼だって、生きるために仕方なくやってるんじゃない?」
「でも、でも、人間を襲うのは許せないの! きゅい!」
エルザは、きょとんとした顔で聞き返した。
「なぜ? あなたは使い魔なのに?」
「――――ッ!?」
はっとするシルフィードの口を、一瞬でエルザの手がふさぐ。もう片方の手は、万力のような力でシルフィードの腰を締め付けた。
「ふふ、あんなに殺気を振りまいてたら、どちらが主人かぐらいすぐ分かるわよ……韻竜のお姉ちゃん」
「ふぐ――ッ、ふぐぅ!」
シルフィードは必死にエルザの腕を振りほどこうとするが、吸血鬼の力は、幼い竜のシルフィードのそれを上回っていた。
口をふさがれているため、『変化』の先住魔法を解除する呪文が唱えられない。しかも、『変化』を使っているときには、他の先住魔法は使えないのであった。
「あなたのご主人……一瞬でわたしの屍人鬼を殺してしまったのね。人間の姿から屍人鬼の姿に変わるヒマもなかったわ」
すさまじい『火』の使い手だった、とエルザは今思い返しても震えがきそうだった。おそらくは、『火』のスクウェア・クラスだろう。
「そこでね、あなたを屍人鬼にしてあげようと思うの……ふふ、韻竜の自分なら、屍人鬼にならないとでも思った?」
「ん――ッ! ん――ッ!! むぐゥ――ッ!!」
「暴れても、無駄……」
くわ、と開いたエルザの口の中には、吸血鬼の鋭い牙が並んでいた。恍惚とするエルザと対照的に、シルフィードの顔には恐怖が浮かぶ。
そして――
「いやああああああ――――ッ!!!!」
――夜の帳を引き裂くように、村長の屋敷から発せられた悲鳴が眠るサビエラ村に響き渡った。
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