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「ゼロのアルケミスト-2」(2008/02/28 (木) 17:20:37) の最新版変更点
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異世界の錬金術師クラリス・パラケルススと、トリステイン魔法学院の学院長であるオールドオスマンの戦いは熾烈を極めた。
最初は魔法体系に対する両者の違いを舌戦で、徐々にヒートアップしてきて実戦へ。
オールドオスマンがその隠された力を数十年ぶりに解放し、マッド・アルケミストの真の力を遺憾なく発揮したクラリスの人造人間の群れが暴れまわる。
結果的にトリステイン魔法学院は甚大な被害を受け、西と東に両者を置いた冷戦状態に突入した……
「いや~クラリス殿は真にお綺麗で」
「何を仰るウサギさん~私ったら140歳なのよ?」
「なんのなんの! ワシは軽くその倍は生きておる。若いもんじゃて」
「キャ~! 若いなんて言われたら120年ぶりかしら? ありがと、オスマン♪」
……なんてことは一切無く、酷く和やかなムードで話は進み、お茶の席はいつの間にかお酒の席になっていた。
接待用の机とソファーの周りにはワインのビンが何本も散乱している
オスマンは自分のセクハラを華麗に流しつつ、スキンシップを忘れない妙齢な美女が大層気に入ったらしい。
クラリスはある程度人当たりを計算して問答をしていたのだが、これほど気に入られるとは想定外だったらしく何時も高いテンションがさらに倍!
二人して顔を赤くして理由もなく笑いながら何度目か解らない乾杯をしている。
世界ではこういう奴らを「酔っ払い」と言う。
「ミスタ・コルベール」
「なんでしょう? ミス・ロングビル」
「貴方は私に会談が前に『大事になるかもしれません!』と仰っていませんでしたか?」
「言いましたな……」
「これが『オオゴト』ですか?」
少し離れた位置から二人の酔っ払いを観察していたコルベールと、オスマンの秘書であるロングビルは完全に気が抜けた会話を交えていた。
中身の無さでは酔っ払いどもに匹敵するが、テンションが大きく離されていた。
「じゃあ私はその離れを自由に使って良いのね? 中々広くて良い作りのようだけど」
「もちろんじゃて! 遠い異国の貴人に肩身の狭い思いをさせる訳にはいかんからな」
完全に出来上がる前に指定された自分の居住となる離れを思い出して、クラリスは改めて問う。
幾つもある中庭の一つにヒッソリと立っているソレは石造りの小屋とでも表現できる。
物置として使用されるはずだったのだが、本搭から遠いことから余り使用されずに放置されていたのだ。
現在はメイド達に中を掃除させ、クラリス唯一の持ち物である机をその上の不思議な品ごと運び込んでいる最中であろう。
「それとルイズちゃんの使い魔はホムンクルスと言う事で問題なし?」
「む~聞いたところ異国の人造生命を作る術は此方に比べて汚い術でもないしの。
良いじゃなぁい? これでヴァリエールの三女も安心して眠れるじゃろうて」
あれだけコルベールが渋った人造生命を使い魔にすることも、オスマンからすれば大したことではないらしい。
それはクラリスの『作品』がこちらに伝わるものほど外道な方法で作られたものではなかったからだ。
だが彼とて唯のバカではない。由緒あるトリステイン魔法学院を統括し、歴史に名を残す大メイジ……何時もはただのセクハラ爺だが。
「しかしな……その術は他言無用。貴方がその知識を持っていることは決して間違いではないし、問題も無い。
ですがこの国には決して無かった技術。余程の事が無ければそんなモノを受け入れる側は大混乱に陥るからの」
「解っているわ。そのために私に破格の待遇を用意してくれたんでしょ?
私の技術を否定はしない事を見せ付ける為に、簡単にホムンクルスを使い魔にする事も認めた。違うかしら、オールドオスマン?」
「「っ!?」」
オスマンの眼光がタカのように鋭くなり、クラリスの微笑から暖かいものが消える。そこでようやく二人の観客は二人の酔っ払いの真意を理解した。
無条件で何でも許そうという姿勢を見せることで油断を誘おうとしたオスマンと、その戦略に合えて乗る事で有利な条件を勝ち取ったクラリス。
自分たちはそんなことも気付かずに酔っ払いなどと……
「まっ! そんなとこじゃて! さ~もう一回乾杯と行きますかの?」
「そうね~WIZ-DOMの栄光に!」
「トリステインの輝かしい未来に~」
「「カンパ~イ」」
やはり酔っ払いだ。
異世界での楽しいお酒でつい飲みすぎて二日酔い……なんて事はクラリスには起こりえない事態だ。
『常駐実験!』を心がけるマッドがステキな朝日を逃すなんて事はありえない。
朝も早くから古いがしっかりとしたベッドから身を起こし、身だしなみを整えたクラリスが最初に行ったのは現在手元にある品の確認だ。
この世界で色々とやりたいことは有るが、それも材料や薬品、資料が無ければならない。
「む~さすがに心許ないわね」
目の前に並べられた物を見てクラリスは困ったように首を傾げる。ホムンクルスならば数体は製造可能な薬品があるが培養槽も無い。
基本的な知識は全て脳内に入っているが、難しい儀式魔法を正確に行うには専門の書物が必要になる
しかし自分の机の上にソレ等を完備しているなんて事は無く、どうでも良い本が多々ある。
例えば興味本位で手に入れたロリ精霊が宿るとか言う魔道書や、なぜあるのか解らない十年前のボ○ボンなどだ。
「とりあえず一体作ってみましょうか」
問題点は直ぐに楽しい利点に変換したクラリスは直ぐに実行可能な実験に着手する。
本来の試料・方法によって異世界で創られたホムンクルスがどのような変化を遂げるか?と言う事を知る為のモノ。
純粋に彼女を守る手駒が少ないと言うのも最初に簡単なモノを選択した理由でもある。
「一万年と二千年前から哀してた~」
どこかで聴いたアクエリアンエイジと似た響きを持つアニメの主題歌を口走りながら、クラリスが薬品を混ぜる手は澱み無い。
すでに数えられない程に繰り返してきた擬似生命体誕生儀式の序章である。
回数を重ねて慣れたとて、その興奮は決して薄れない。自分の手で命を作るのだ。
神より与えられたシステムを用いずに、自ら編み出した方法で仮初めとは言え神にしか作れないとされた命を創る。
クラリスにはそれがどうしようもなく楽しい作業だった。
「あの……ミス・パラケルスス?」
楽しい作業過ぎて時間を盛大に無視して作業をしていたクラリスはドアを叩く控えめなノックと、小さな声に意識を引き戻す。
何時もはノホホンとしている彼女も伝説の錬金術師パラケルススの子孫であり、現代一の呼び声高い最凶のマッド・アルケミストだ。
その趣味(主に実験)に費やす集中力は半端ではない。日常で周りが見えず知らず知らずに災厄の元凶になるのは一族の血のせいではない。
これはクラリスと言う個人の問題である。
「は~い、開いているわよ」
「しっ! 失礼します!!」
ゆっくりと開いたドアの向こうから覗くのは、この辺りでは珍しい黒髪のメイド。
メイド シエスタは掴みどころの無い微笑を浮かべる異国のメイジに緊張した口調を維持したまま告げた。
「朝食の準備が出来ましたので、食堂の方へとご案内するように仰せつかっております。 ご一緒して頂ければ幸いです」
「クスッ……そんなに緊張しちゃって可愛いわね」
「こっ光栄です!」
言葉をその通りに受け取って、ガチガチのまま自分を先導するメイドのバランスの取れた体を見ていたクラリスはふと違った欲求が浮かんできた。
「ねえ、アナタ」
「はっはい~!」
「改造させて」
「えっ?」
改造……クラリスの得意技の一つ。切った貼ったな魔道的外科手術。
人間に行えば当然改造人間になる。能力向上を目的に行うが、彼女は造形にも拘りたい派。
とりあえず悪友の黒魔術師にカニのハサミを付けるのが当面の目標。
「不思議ね~メイジでも無い小娘だもの。簡単に篭絡させられると思ったのに」
クラリスは盛大に首を傾げて、過去の自分の精神攻撃に問題があったかを吟味していた。
改造と言うのは冗談でも何でもない。クラリスはやる気満々であり、ソレを行う相手として選んだのは唯のメイド。
将来有望な魔女見習いすら数十秒で堕とせるクラリスの精神攻撃(巧みな話術など)を五分間も受け続けてシエスタは首を縦に振らなかった。
無理やり改造してしまうのも彼女の趣味的には問題無いのだが、契約魔術が履行できないのでその効果が半減してしまう。
故に改造を『快諾する契約』を結ばせたかったわけだが、全く動かない。陶酔した目にも成らなかったし、頬を赤く染めることも無かった。
もちろん物凄く焦ってはいたし、驚いていたがそれは普通の反応である。これはクラリスにとってある種由々しき事態だった。
「メイジではない何かがあると言う事かしら……」
そう考えてしまうとクラリスは驚きや焦りよりも興味や関心が先行する。
ちなみに現在「適当に騙してあのメイドを検査したいな~」と今日だけで何度目か解らない興味の噴出を楽しんでいる彼女が居る場所は二年生達と同じ教室。
使い魔を召喚して最初の授業は基本的に使い魔披露の意味合いが強くなるのだが、いま室内に居る者達の最大の興味はやはりクラリスである。
これは今しがた入ってきた中年の女性教師 赤土のシュヴルーズも同じらしい。
「このシュヴルーズ、春の新学期に新しい使い魔を見るのをとても楽しみにしています。
それに今年は……珍しい異国からの客人をお出迎えした生徒も居るようで」
『長距離瞬間拉致って話も有りますけど~』と言うヤジにルイズが『ヒッ!』と悲鳴を上げて小さくなったのは多分仕方がないことだ。
名前を言われた訳でも無いがそんな人物は自分しか居ないと理解しているクラリスは立ち上がり、小さく一礼。
「初めまして、ミス・シュヴルーズ。私はクラリス・パラケルスス、真理の探究を趣味とする歯牙無い錬金術師よ」
「錬金術師? それはつまり土系統の魔法と関係が!?」
「込み入った話は授業が終了してからに致しません?」
「あらっ! 私ったら大人気なく。それでは……」
そこから始まる新学期恒例とも言える基本の確認は、その場に居た誰よりもクラリスにとって有益だった。
この世界の魔術体形を理解する事はこれから生きていくのには必ず必要になる事柄だった。
そしてクラリスの関心を引いたのは『メイジの子はメイジである』という事。
これはハルケギニアの魔法が血統、人間的の肉体的要因に深く関与している事を示している。
つまり……対象者の肉体由来の物質から生産するホムンクルスは……
「その……ミス・パラケルスス?」
「はい?」
「できれば貴女様の国の魔法を見せていただきたいと……」
「えぇ、もちろん構わないわ」
クラリスは思考を中断して席を立ち、シュヴルーズの隣まで移動。
見せるという位だからこの場に居る誰にも見えなければならないという判断だが、その行動を見知らぬ異国で行なえると言う事に、まず小さな歓声が上がった。
「何を見せようかしら? 炎を出したり飛んだりするのはこちらにもあるようだし……
あっ……コレにしましょう」
最高のイタズラを思いついた子供のように輝く笑みでクラリスが懐から取り出したのはコルクで蓋をされた大き目の試験管。
ソレはあの召喚の現場に居た誰もが知っている。ルイズが貰った物と同じ人造生命 ホムンクルスが入っているのだ。
「魔法と言うほど魔法でないのだけれど……」
そこまで言ってクラリスはおっとりとした口調が凛としたものへ変じた。ザワリと空気が震える。
「汝はホムンクルス、パラケルススが仔。パラケルススの血が末席、クラリスが命じる。目覚めよ」
空中に放られた試験管が地面で砕ける瞬間、地面に描かれたのは円の中に五方星と言うスタンダートな魔法陣。
立ち上がった光の柱が消えればそこに立っているのは美女だった。
長くて美しい光沢を示す白髪に、表情を廃した顔の造形は作り物のような美しさ。
女性らしい凹凸を示しつつも、戦士としての均等を失わない体を惜しげもなく晒し、白い粉雪のような肌にはルーンが光る。
「おはよう、私のカワイイ子」
「おはようございます、クラリス様」
クラリスはまるで本当の子供にするように話しかけ、それにホムンクルスと呼ばれる美女が抑揚の無い声だが返事をした。
それに教室内は大きなどよめきに包まれた。『本当の完成には遠い』と言われていた人造生命体が喋ったのだ。
「ミス・パラケルスス! その……人?は喋れるのですか!?」
「もちろんよ。色々とお仕事を頼むのに会話が最も簡単なコミュニケーションだもの。
漫才だってできるのよ? じゃんけんだって、ポ○モンのタッグバトルだってできるわ」
「そんな訳あるかい……」
弱々しいが確かにクラリスのボケにホムンクルスがツッコミを入れた。
実はクラリスが専用精神チャンネルで命令しただけなのだが、そんな事を知らない観客たちは大盛り上がり。
一部は裸の美人が注視できる事に喜んでいる気もするが、そんな不埒なモノは極僅かだ。
「ルイズちゃん、貴女もやってみれば? 大きくしないと契約は出来ないでしょ?」
「えっと……良いですか? ミス・シュヴルーズ」
いきなり話を振られて焦りつつもルイズは興奮していた。私もいまの呪文を唱えれば小さなホムンクルスを大きくでき、契約を結ぶ事ができるのだから。
興奮を隠して一応は授業中と言う事もあり、教師である人物にお伺いを立ててみる。
「えぇ、構いませんよ。このシュヴルーズ、余りのステキな光景に涙が止まりません」
色々と感極まることがあったらしい土のメイジはハンカチで感動の涙を拭っており、あっさりと許可をくれた。
「呪文は先程の者と同じでいいでしょうか?」
「う~ん、途中を『パラケルススの弟子』とでもすれば大丈夫なはずよ」
「じゃっじゃあ! 早速!!」
「ちょっと待った!!」
ルイズの興奮とシンクロして授業とかそう言ったモノを放り出した教室のテンションがストップ高を刻みそうになった瞬間、水が差された。
誰であろうその声の主はルイズのライバル、キュルケである。その構図にカチンとキタのかルイズが怒鳴る。
「なによ、ツェルプストー! 邪魔する気なら……」
「ミス・パラケルスス、それは魔法なんですよね?」
「えぇ……簡単なモノだけどね?」
ルイズの怒りを遮り、どこか冷静にクラリスに質問していたキュルケが、再び彼女と視線を合わせる。
口から漏れたのはそこに居た誰もが知っていることなのに、見知らぬ魔法の興奮に流されていた重大な事。
「ルイズ……貴女はゼロなのよ?」
「「「「「……シマッタアァ!!……」」」」」
「「?」」
キュルケの爆弾発言にルイズを含む大部分の生徒が過ちに気がついて絶叫し、意味が解らないクラリスとシュヴルーズが首を傾げる。
皆さんにはご理解頂けただろうか? 何処のルイズを見渡してもサモン・サーヴァントとコントラクト・サーヴァントは成功する。
逆に言えばその二つだけが初期のルイズが成功した魔法なのだ。もちろん『ホムンクルスを呼び起こす魔法』は含まれて居ない。
「つまり……ルイズが唱えて失敗したら……」
「あの美人が小さな体のまま……」
「試験管ごと……」
「「「木っ端微塵!?」」」
残酷描写である。
「まさか~こんな魔法失敗するなんてありえないわ。どんな魔法使いだって起こすだけならできるもの」
「ミス・パラケルスス……貴女はゼロのルイズを甘く見ている」
「思い起こせば一年前……」
「マリコルヌが爆発豚にされたのが去年の夏」
「せっかく降った白い雪が消し飛んだ新年の始まり」
せっかくの興奮が強制冷却されてしまい陰鬱な口調で語る生徒達。
ソレを聞きながら恥ずかしさで真っ赤になったり、絶望で真っ青になったりするルイズ。
そして何故かその失敗談を心底嬉しそうに聴くクラリス。
温度とかそう言ったものが色々違う三層が教室内に作られていた。
「人生オワタ……」
「そっ、そうよ、ルイズ! 起こすのだけミス・パラケルススにやってもらえば……」
いくらホムンクルスを爆死させないためとは言え、自分の注意で『私なんて生きていてもダメだ。むしろ世界の為に死ね、ワタシ』みたいな顔をしているライバルを見かねてキュルケが出す助け舟。
『それだ!』 『名案だ!』 『あの感動を再び!』と過冷却気味だった周りの生徒達もヒートアップして……また冷まされた。
「でもね~起こすのは一種の契約なの。
それを創造者である私がやってしまうと、絆が強くなりすぎてコントラクト・サーヴァントって言うのに支障をきたすかもね?」
つまり呼び起こす呪文をルイズが完成させられれば、コントラクト・サーヴァントの成功率も上がる。
だが残念な事にルイズはゼロである。どちらの魔法も失敗する可能性は極めて高い。
「まあ、やってみれば? 実験に失敗はつきものよ」
自分の子と言い切ったホムンクルスが爆散するかもしれないと言うのに、クラリスは物騒な事を笑顔で宣言する。
だがルイズはと言うとそんな余裕など何処にも無い。
「私は……」
失敗などしないと言い切れない自分が死ぬほど恨めしい。
手の内でうっすらと開いた瞼の向こうから見つめる瞳が無くなってしまうのが怖い。
使い魔の儀式は二つの魔法が成功して完結する。つまり『呼ぶ』サモン・サーヴァントと『結ぶ』コントラクト・サーヴァント。
ルイズは呼ぶ方は何とか成った。人から貰った特殊な使い魔だが確かに呼び、手の内にある。
だが結ぶ事ができないのでは意味が無い。
「私は!!」
『オォ!』とルイズの気迫に後押しされ、教室の空気が熱くなる。
ここで行わずして何が貴族だ! 退かない者を貴族と呼ぶのではないのか!?
勇気を振り絞ってルイズは叫んだ。
「今日は止めておきます!!」
教室の空気が死んだ。
#navi(ゼロのアルケミスト)
異世界の錬金術師クラリス・パラケルススと、トリステイン魔法学院の学院長であるオールドオスマンの戦いは熾烈を極めた。
最初は魔法体系に対する両者の違いを舌戦で、徐々にヒートアップしてきて実戦へ。
オールドオスマンがその隠された力を数十年ぶりに解放し、マッド・アルケミストの真の力を遺憾なく発揮したクラリスの人造人間の群れが暴れまわる。
結果的にトリステイン魔法学院は甚大な被害を受け、西と東に両者を置いた冷戦状態に突入した……
「いや~クラリス殿は真にお綺麗で」
「何を仰るウサギさん~私ったら140歳なのよ?」
「なんのなんの! ワシは軽くその倍は生きておる。若いもんじゃて」
「キャ~! 若いなんて言われたら120年ぶりかしら? ありがと、オスマン♪」
……なんてことは一切無く、酷く和やかなムードで話は進み、お茶の席はいつの間にかお酒の席になっていた。
接待用の机とソファーの周りにはワインのビンが何本も散乱している
オスマンは自分のセクハラを華麗に流しつつ、スキンシップを忘れない妙齢な美女が大層気に入ったらしい。
クラリスはある程度人当たりを計算して問答をしていたのだが、これほど気に入られるとは想定外だったらしく何時も高いテンションがさらに倍!
二人して顔を赤くして理由もなく笑いながら何度目か解らない乾杯をしている。
世界ではこういう奴らを「酔っ払い」と言う。
「ミスタ・コルベール」
「なんでしょう? ミス・ロングビル」
「貴方は私に会談が前に『大事になるかもしれません!』と仰っていませんでしたか?」
「言いましたな……」
「これが『オオゴト』ですか?」
少し離れた位置から二人の酔っ払いを観察していたコルベールと、オスマンの秘書であるロングビルは完全に気が抜けた会話を交えていた。
中身の無さでは酔っ払いどもに匹敵するが、テンションが大きく離されていた。
「じゃあ私はその離れを自由に使って良いのね? 中々広くて良い作りのようだけど」
「もちろんじゃて! 遠い異国の貴人に肩身の狭い思いをさせる訳にはいかんからな」
完全に出来上がる前に指定された自分の居住となる離れを思い出して、クラリスは改めて問う。
幾つもある中庭の一つにヒッソリと立っているソレは石造りの小屋とでも表現できる。
物置として使用されるはずだったのだが、本搭から遠いことから余り使用されずに放置されていたのだ。
現在はメイド達に中を掃除させ、クラリス唯一の持ち物である机をその上の不思議な品ごと運び込んでいる最中であろう。
「それとルイズちゃんの使い魔はホムンクルスと言う事で問題なし?」
「む~聞いたところ異国の人造生命を作る術は此方に比べて汚い術でもないしの。
良いじゃなぁい? これでヴァリエールの三女も安心して眠れるじゃろうて」
あれだけコルベールが渋った人造生命を使い魔にすることも、オスマンからすれば大したことではないらしい。
それはクラリスの『作品』がこちらに伝わるものほど外道な方法で作られたものではなかったからだ。
だが彼とて唯のバカではない。由緒あるトリステイン魔法学院を統括し、歴史に名を残す大メイジ……何時もはただのセクハラ爺だが。
「しかしな……その術は他言無用。貴方がその知識を持っていることは決して間違いではないし、問題も無い。
ですがこの国には決して無かった技術。余程の事が無ければそんなモノを受け入れる側は大混乱に陥るからの」
「解っているわ。そのために私に破格の待遇を用意してくれたんでしょ?
私の技術を否定はしない事を見せ付ける為に、簡単にホムンクルスを使い魔にする事も認めた。違うかしら、オールドオスマン?」
「「っ!?」」
オスマンの眼光がタカのように鋭くなり、クラリスの微笑から暖かいものが消える。そこでようやく二人の観客は二人の酔っ払いの真意を理解した。
無条件で何でも許そうという姿勢を見せることで油断を誘おうとしたオスマンと、その戦略に合えて乗る事で有利な条件を勝ち取ったクラリス。
自分たちはそんなことも気付かずに酔っ払いなどと……
「まっ! そんなとこじゃて! さ~もう一回乾杯と行きますかの?」
「そうね~WIZ-DOMの栄光に!」
「トリステインの輝かしい未来に~」
「「カンパ~イ」」
やはり酔っ払いだ。
異世界での楽しいお酒でつい飲みすぎて二日酔い……なんて事はクラリスには起こりえない事態だ。
『常駐実験!』を心がけるマッドがステキな朝日を逃すなんて事はありえない。
朝も早くから古いがしっかりとしたベッドから身を起こし、身だしなみを整えたクラリスが最初に行ったのは現在手元にある品の確認だ。
この世界で色々とやりたいことは有るが、それも材料や薬品、資料が無ければならない。
「む~さすがに心許ないわね」
目の前に並べられた物を見てクラリスは困ったように首を傾げる。ホムンクルスならば数体は製造可能な薬品があるが培養槽も無い。
基本的な知識は全て脳内に入っているが、難しい儀式魔法を正確に行うには専門の書物が必要になる
しかし自分の机の上にソレ等を完備しているなんて事は無く、どうでも良い本が多々ある。
例えば興味本位で手に入れたロリ精霊が宿るとか言う魔道書や、なぜあるのか解らない十年前のボ○ボンなどだ。
「とりあえず一体作ってみましょうか」
問題点は直ぐに楽しい利点に変換したクラリスは直ぐに実行可能な実験に着手する。
本来の試料・方法によって異世界で創られたホムンクルスがどのような変化を遂げるか?と言う事を知る為のモノ。
純粋に彼女を守る手駒が少ないと言うのも最初に簡単なモノを選択した理由でもある。
「一万年と二千年前から哀してた~」
どこかで聴いたアクエリアンエイジと似た響きを持つアニメの主題歌を口走りながら、クラリスが薬品を混ぜる手は澱み無い。
すでに数えられない程に繰り返してきた擬似生命体誕生儀式の序章である。
回数を重ねて慣れたとて、その興奮は決して薄れない。自分の手で命を作るのだ。
神より与えられたシステムを用いずに、自ら編み出した方法で仮初めとは言え神にしか作れないとされた命を創る。
クラリスにはそれがどうしようもなく楽しい作業だった。
「あの……ミス・パラケルスス?」
楽しい作業過ぎて時間を盛大に無視して作業をしていたクラリスはドアを叩く控えめなノックと、小さな声に意識を引き戻す。
何時もはノホホンとしている彼女も伝説の錬金術師パラケルススの子孫であり、現代一の呼び声高い最凶のマッド・アルケミストだ。
その趣味(主に実験)に費やす集中力は半端ではない。日常で周りが見えず知らず知らずに災厄の元凶になるのは一族の血のせいではない。
これはクラリスと言う個人の問題である。
「は~い、開いているわよ」
「しっ! 失礼します!!」
ゆっくりと開いたドアの向こうから覗くのは、この辺りでは珍しい黒髪のメイド。
メイド シエスタは掴みどころの無い微笑を浮かべる異国のメイジに緊張した口調を維持したまま告げた。
「朝食の準備が出来ましたので、食堂の方へとご案内するように仰せつかっております。 ご一緒して頂ければ幸いです」
「クスッ……そんなに緊張しちゃって可愛いわね」
「こっ光栄です!」
言葉をその通りに受け取って、ガチガチのまま自分を先導するメイドのバランスの取れた体を見ていたクラリスはふと違った欲求が浮かんできた。
「ねえ、アナタ」
「はっはい~!」
「改造させて」
「えっ?」
改造……クラリスの得意技の一つ。切った貼ったな魔道的外科手術。
人間に行えば当然改造人間になる。能力向上を目的に行うが、彼女は造形にも拘りたい派。
とりあえず悪友の黒魔術師にカニのハサミを付けるのが当面の目標。
「不思議ね~メイジでも無い小娘だもの。簡単に篭絡させられると思ったのに」
クラリスは盛大に首を傾げて、過去の自分の精神攻撃に問題があったかを吟味していた。
改造と言うのは冗談でも何でもない。クラリスはやる気満々であり、ソレを行う相手として選んだのは唯のメイド。
将来有望な魔女見習いすら数十秒で堕とせるクラリスの精神攻撃(巧みな話術など)を五分間も受け続けてシエスタは首を縦に振らなかった。
無理やり改造してしまうのも彼女の趣味的には問題無いのだが、契約魔術が履行できないのでその効果が半減してしまう。
故に改造を『快諾する契約』を結ばせたかったわけだが、全く動かない。陶酔した目にも成らなかったし、頬を赤く染めることも無かった。
もちろん物凄く焦ってはいたし、驚いていたがそれは普通の反応である。これはクラリスにとってある種由々しき事態だった。
「メイジではない何かがあると言う事かしら……」
そう考えてしまうとクラリスは驚きや焦りよりも興味や関心が先行する。
ちなみに現在「適当に騙してあのメイドを検査したいな~」と今日だけで何度目か解らない興味の噴出を楽しんでいる彼女が居る場所は二年生達と同じ教室。
使い魔を召喚して最初の授業は基本的に使い魔披露の意味合いが強くなるのだが、いま室内に居る者達の最大の興味はやはりクラリスである。
これは今しがた入ってきた中年の女性教師 赤土のシュヴルーズも同じらしい。
「このシュヴルーズ、春の新学期に新しい使い魔を見るのをとても楽しみにしています。
それに今年は……珍しい異国からの客人をお出迎えした生徒も居るようで」
『長距離瞬間拉致って話も有りますけど~』と言うヤジにルイズが『ヒッ!』と悲鳴を上げて小さくなったのは多分仕方がないことだ。
名前を言われた訳でも無いがそんな人物は自分しか居ないと理解しているクラリスは立ち上がり、小さく一礼。
「初めまして、ミス・シュヴルーズ。私はクラリス・パラケルスス、真理の探究を趣味とする歯牙無い錬金術師よ」
「錬金術師? それはつまり土系統の魔法と関係が!?」
「込み入った話は授業が終了してからに致しません?」
「あらっ! 私ったら大人気なく。それでは……」
そこから始まる新学期恒例とも言える基本の確認は、その場に居た誰よりもクラリスにとって有益だった。
この世界の魔術体形を理解する事はこれから生きていくのには必ず必要になる事柄だった。
そしてクラリスの関心を引いたのは『メイジの子はメイジである』という事。
これはハルケギニアの魔法が血統、人間的の肉体的要因に深く関与している事を示している。
つまり……対象者の肉体由来の物質から生産するホムンクルスは……
「その……ミス・パラケルスス?」
「はい?」
「できれば貴女様の国の魔法を見せていただきたいと……」
「えぇ、もちろん構わないわ」
クラリスは思考を中断して席を立ち、シュヴルーズの隣まで移動。
見せるという位だからこの場に居る誰にも見えなければならないという判断だが、その行動を見知らぬ異国で行なえると言う事に、まず小さな歓声が上がった。
「何を見せようかしら? 炎を出したり飛んだりするのはこちらにもあるようだし……
あっ……コレにしましょう」
最高のイタズラを思いついた子供のように輝く笑みでクラリスが懐から取り出したのはコルクで蓋をされた大き目の試験管。
ソレはあの召喚の現場に居た誰もが知っている。ルイズが貰った物と同じ人造生命 ホムンクルスが入っているのだ。
「魔法と言うほど魔法でないのだけれど……」
そこまで言ってクラリスはおっとりとした口調が凛としたものへ変じた。ザワリと空気が震える。
「汝はホムンクルス、パラケルススが仔。パラケルススの血が末席、クラリスが命じる。目覚めよ」
空中に放られた試験管が地面で砕ける瞬間、地面に描かれたのは円の中に五方星と言うスタンダートな魔法陣。
立ち上がった光の柱が消えればそこに立っているのは美女だった。
長くて美しい光沢を示す白髪に、表情を廃した顔の造形は作り物のような美しさ。
女性らしい凹凸を示しつつも、戦士としての均等を失わない体を惜しげもなく晒し、白い粉雪のような肌にはルーンが光る。
「おはよう、私のカワイイ子」
「おはようございます、クラリス様」
クラリスはまるで本当の子供にするように話しかけ、それにホムンクルスと呼ばれる美女が抑揚の無い声だが返事をした。
それに教室内は大きなどよめきに包まれた。『本当の完成には遠い』と言われていた人造生命体が喋ったのだ。
「ミス・パラケルスス! その……人?は喋れるのですか!?」
「もちろんよ。色々とお仕事を頼むのに会話が最も簡単なコミュニケーションだもの。
漫才だってできるのよ? じゃんけんだって、ポ○モンのタッグバトルだってできるわ」
「そんな訳あるかい……」
弱々しいが確かにクラリスのボケにホムンクルスがツッコミを入れた。
実はクラリスが専用精神チャンネルで命令しただけなのだが、そんな事を知らない観客たちは大盛り上がり。
一部は裸の美人が注視できる事に喜んでいる気もするが、そんな不埒なモノは極僅かだ。
「ルイズちゃん、貴女もやってみれば? 大きくしないと契約は出来ないでしょ?」
「えっと……良いですか? ミス・シュヴルーズ」
いきなり話を振られて焦りつつもルイズは興奮していた。私もいまの呪文を唱えれば小さなホムンクルスを大きくでき、契約を結ぶ事ができるのだから。
興奮を隠して一応は授業中と言う事もあり、教師である人物にお伺いを立ててみる。
「えぇ、構いませんよ。このシュヴルーズ、余りのステキな光景に涙が止まりません」
色々と感極まることがあったらしい土のメイジはハンカチで感動の涙を拭っており、あっさりと許可をくれた。
「呪文は先程の者と同じでいいでしょうか?」
「う~ん、途中を『パラケルススの弟子』とでもすれば大丈夫なはずよ」
「じゃっじゃあ! 早速!!」
「ちょっと待った!!」
ルイズの興奮とシンクロして授業とかそう言ったモノを放り出した教室のテンションがストップ高を刻みそうになった瞬間、水が差された。
誰であろうその声の主はルイズのライバル、キュルケである。その構図にカチンとキタのかルイズが怒鳴る。
「なによ、ツェルプストー! 邪魔する気なら……」
「ミス・パラケルスス、それは魔法なんですよね?」
「えぇ……簡単なモノだけどね?」
ルイズの怒りを遮り、どこか冷静にクラリスに質問していたキュルケが、再び彼女と視線を合わせる。
口から漏れたのはそこに居た誰もが知っていることなのに、見知らぬ魔法の興奮に流されていた重大な事。
「ルイズ……貴女はゼロなのよ?」
「「「「「……シマッタアァ!!……」」」」」
「「?」」
キュルケの爆弾発言にルイズを含む大部分の生徒が過ちに気がついて絶叫し、意味が解らないクラリスとシュヴルーズが首を傾げる。
皆さんにはご理解頂けただろうか? 何処のルイズを見渡してもサモン・サーヴァントとコントラクト・サーヴァントは成功する。
逆に言えばその二つだけが初期のルイズが成功した魔法なのだ。もちろん『ホムンクルスを呼び起こす魔法』は含まれて居ない。
「つまり……ルイズが唱えて失敗したら……」
「あの美人が小さな体のまま……」
「試験管ごと……」
「「「木っ端微塵!?」」」
残酷描写である。
「まさか~こんな魔法失敗するなんてありえないわ。どんな魔法使いだって起こすだけならできるもの」
「ミス・パラケルスス……貴女はゼロのルイズを甘く見ている」
「思い起こせば一年前……」
「マリコルヌが爆発豚にされたのが去年の夏」
「せっかく降った白い雪が消し飛んだ新年の始まり」
せっかくの興奮が強制冷却されてしまい陰鬱な口調で語る生徒達。
ソレを聞きながら恥ずかしさで真っ赤になったり、絶望で真っ青になったりするルイズ。
そして何故かその失敗談を心底嬉しそうに聴くクラリス。
温度とかそう言ったものが色々違う三層が教室内に作られていた。
「人生オワタ……」
「そっ、そうよ、ルイズ! 起こすのだけミス・パラケルススにやってもらえば……」
いくらホムンクルスを爆死させないためとは言え、自分の注意で『私なんて生きていてもダメだ。むしろ世界の為に死ね、ワタシ』みたいな顔をしているライバルを見かねてキュルケが出す助け舟。
『それだ!』 『名案だ!』 『あの感動を再び!』と過冷却気味だった周りの生徒達もヒートアップして……また冷まされた。
「でもね~起こすのは一種の契約なの。
それを創造者である私がやってしまうと、絆が強くなりすぎてコントラクト・サーヴァントって言うのに支障をきたすかもね?」
つまり呼び起こす呪文をルイズが完成させられれば、コントラクト・サーヴァントの成功率も上がる。
だが残念な事にルイズはゼロである。どちらの魔法も失敗する可能性は極めて高い。
「まあ、やってみれば? 実験に失敗はつきものよ」
自分の子と言い切ったホムンクルスが爆散するかもしれないと言うのに、クラリスは物騒な事を笑顔で宣言する。
だがルイズはと言うとそんな余裕など何処にも無い。
「私は……」
失敗などしないと言い切れない自分が死ぬほど恨めしい。
手の内でうっすらと開いた瞼の向こうから見つめる瞳が無くなってしまうのが怖い。
使い魔の儀式は二つの魔法が成功して完結する。つまり『呼ぶ』サモン・サーヴァントと『結ぶ』コントラクト・サーヴァント。
ルイズは呼ぶ方は何とか成った。人から貰った特殊な使い魔だが確かに呼び、手の内にある。
だが結ぶ事ができないのでは意味が無い。
「私は!!」
『オォ!』とルイズの気迫に後押しされ、教室の空気が熱くなる。
ここで行わずして何が貴族だ! 退かない者を貴族と呼ぶのではないのか!?
勇気を振り絞ってルイズは叫んだ。
「今日は止めておきます!!」
教室の空気が死んだ。
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