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「ゼロのガンパレード 13」(2009/11/06 (金) 02:23:31) の最新版変更点
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その日は、端的に言って良い天気だった。
日差しは暖かく、風は心地よい。
広い草原に大の字に寝転がって、流れ行く雲を見ていれば時間の過ぎ去るのを忘れてしまうだろう。
今も目を上空に上げれば、空を行く竜とグリフォンの姿が目に入る。
「ねぇ、お頭」
崖の上で、空を見ながら一人の男が呟いた。
どうやら傭兵と見えて、革鎧と弓矢で武装している。
「……なんだ」
「俺たち、グリフォンに乗ってやってくる連中を襲うんですよね?」
答えた男と、その周囲にも同様の格好の男たちがたむろし、思い思いに空を見上げている。
そこにはなんらの詩的な感情はなく、ただ呆れたような、困ったような色だけがある。
「そう聞いてるな」
「空、飛んでますよね」
「飛んでるな」
「弓、届きませんよね」
「届かんな」
「どうしましょう?」
傭兵のリーダーと思しき男は腕を組み、しばし首を捻ると、
胸を張って部下に言った。
「――――お前が何を言ってるのかわからんな。
俺達は崖下の道を見張ってたんだ。
だから空なんか見なかった。
なぁ、そうだろう?」
顔を見せ合い、部下達もそれに同意する。
「そうっすね。
あぁ、まだ来ませんね」
「いつになったら来るんですかねぇ」
常に死の危険がある傭兵の仕事は基本的に前払いである。
死んでしまっては金も使えないからだ。
ならば危険はなるたけ少ない方が良い。
それが男達の共通見解だった。
/*/
「いや、それにしても驚いたな。
これなら思ってたよりも早くラ・ロシェールの街に着きそうだね」
空を行くグリフォンに跨り、ワルドは自分の前に跨ったルイズに言った。
風の音が大きいので、声を聞かせようと思ったら叫ぶか耳元で告げるかしかない。
ワルドが選んだのは後者であった。
ルイズの耳元に口を寄せ、ささやく様に声を吹き込む。
「ギーシュ君か。
グラモン元帥とその息子達とは面識があったんだが、
彼は父上とは違って知将タイプらしいね」
言いながら自らの乗騎に括り付けられた荒縄を見やる。
グリフォンの首当てにつけられたそれは10メイルほどの長さがあり、
その先はタバサの使い魔であるシルフィードに結ばれている。
「この牽引法一つ取っても、軍で正式採用したら今までの常識が覆るよ」
竜種とは違い、グリフォンは長時間の飛行には耐えられない。
それはマンティコアも同じであり、このことは一日の行軍距離に影響してくる。
横目でグリフォンの翼を見る。羽ばたいてはいない。
バランスを取るために広げられてはいるがそれだけである。
ないしろこのグリフォンは、『レビテーション』の魔法で浮いているだけなのだから。
術者の意のままに動ける『フライ』とは違い、『レビテーション』はそれこそただモノを宙に浮かせるだけの魔法である。
だからそれをかけられたモノを動かそうとすれば、手で押すかなにかしなければならない。
そんなことは言われるまでもなく常識であり、だからこそワルドはタバサがグリフォンに『レビテーション』をかけ、
ギーシュが荒縄を括り付けているのを不思議に思ったのである。
もっとも、それはシルフィードと共に宙を舞いだした瞬間に驚愕と感嘆の念に変わったのであるが。
「ところで、縄の真ん中あたりに白い布が結ばれてるのはなんだい?」
「識別のためだそうですわ」
「ほう――――」
感心したような声を上げつつ、ワルドは背中を冷たい汗が伝うのを止められなかった。
手綱から感じる感触からも自分の騎獣が殆ど疲労していないのがよく解る。
前を飛ぶ幼竜とてもそれほど疲労はしていまい。
離陸の際には重みが加わっただろうが、一度飛んでしまえばそんなこともない筈だ。
それはつまり、二騎編成の隊を作ればほぼ一日中飛んでいられるということを指している。
一騎が曳航し、もう一騎を休ませる。疲れれば交替する。
しかも使う魔法はコモンマジックである『レビテーション』であり、
魔法衛士隊であれば誰でも使える魔法である。
しかも初歩であるが故に殆ど精神力を使用しない。
なにしろ学生が教室に帰るのに使う『フライ』よりも下位の魔法なのである。
予算も訓練も殆ど要らずに一日の行軍距離を飛躍的に伸ばす方法。
そんな夢物語がワルドの眼前で展開されていたのだった。
「ギーシュ君は、これを自分で考えたのかな。
それともタバサ君か誰かに教えてもらったのかな」
「さぁ? そこまでは知りませんわ」
嘘である。
実際はこの方法はブータが語った戦場の話に出てきたモノなのだ。
第二世界で、破損して浮くことしか出来なくなった天駆ける船を鳥神族が曳航した故事に基づく方法である。
だが、たとえ婚約者とはいえブータに関しては秘密である。
とても口に出来たものではなかった。
/*/
「ギーシュよ、そんなに我が主人のことが気になるのか?」
「へぇぇ、ひょっとして、あんた、やっぱりそうなの?」
先ほどから何度も振り向いては後ろのグリフォンを確認する弟子に、
ブータは髯を震わせて声をかけた。
手持ち無沙汰なキュルケもそれに追随して面白そうな声を出す。
こちらはシルフィードの背中の上である。
乗っているのはキュルケとギーシュ、タバサとブータ、それにヴェルダンテとフレイムの使い魔たちである。
ルイズはブータと一緒にいたいと訴えたのだが、グリフォンに乗るには大きすぎるとのことでこちらに乗ることになった。
今ではタバサの背もたれになっている。
タバサの魔法によって風をさえぎられているため、普通の声でも会話するのに不自由はない。
風を止めることによって音を消す『サイレンス』の魔法の亜種とでも思えばいいだろう。
「何を言うんだいミス・ツェルプストー。ただぼくは貴族として、あのような破廉恥漢を許せないだけですよ」
言いながら青銅の薔薇で指す方をと見てみれば、背中からルイズを抱きしめながらその耳に囁くワルドの姿。
「あらま。あの殿方そういう趣味なのかしら? タバサも気をつけたほうがいいわよ」
「向こう、魔法使ってない。単に会話してるだけだと思う」
「ああ、そういえば何の魔法使うか聞いてなかったわねぇ。
衛士隊の隊長で、危険な任務を任されるんだからやっぱり『火』なのかしら」
あくまで暢気そうな女性二人の表情とは裏腹に、ギーシュは苦虫を噛み潰したような表情を崩さないまま口を開いた。
「……『風』だよ。
魔法衛士隊はぼくたちトリステイン貴族にとっては憧れだからね。
その隊長格の魔法くらいは知ってるさ。
あのワルド子爵は『風』のスクエアメイジだ」
ちなみに、ワルドが魔法を使わなかったのはギーシュが想像しているような理由ではない。
単に、初見の牽引法に驚いて注意がそこまで回っていなかっただけである。
ついでに言えば、グリフォン隊はおろか竜騎士隊の中にも会話する為だけに魔法を使う者はいない。
この魔法の使い方は、日頃から『サイレンス』を使い慣れており、
シルフィードを従えているタバサだからこそ思いついたものである。
「あら。それはそれは……でも、婚約者だからちょっとくらい、ねぇ?」
「ギーシュ、野暮」
「彼がルイズのことを本当に理解しているのならぼくも止めないがね。
あの時の彼の態度を見てるとそうは思えないな」
なるほどね、とキュルケは頬を緩めた。
やはりギーシュもワルドがルイズを小さい子のように扱うのが我慢できないらしい。
からかうネタが無くなるのは残念だが、ギーシュにとってのルイズは恋人というより友人なのだろう。
友人が馬鹿にされるのは許せないというわけだ。
暖かい目で自分を見るキュルケと猫にも気づかず、ギーシュは未だに文句を言っていたが、だんだんその矛先がおかしくなってきていた。
「まったく、マリコルヌも未だにルイズを馬鹿にするし、
ミスタ・ギトーにいたっては自分と違う属性は一段下に見る。
今度はワルド子爵か。まったく、『風』の属性のメイジは本当に……」
いつの間にか本を置いた眼鏡の少女が、小首を傾げて問いかけた。
「――――喧嘩、売ってる?」
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その日は、端的に言って良い天気だった。
日差しは暖かく、風は心地よい。
広い草原に大の字に寝転がって、流れ行く雲を見ていれば時間の過ぎ去るのを忘れてしまうだろう。
今も目を上空に上げれば、空を行く竜とグリフォンの姿が目に入る。
「ねぇ、お頭」
崖の上で、空を見ながら一人の男が呟いた。
どうやら傭兵と見えて、革鎧と弓矢で武装している。
「……なんだ」
「俺たち、グリフォンに乗ってやってくる連中を襲うんですよね?」
答えた男と、その周囲にも同様の格好の男たちがたむろし、思い思いに空を見上げている。
そこにはなんらの詩的な感情はなく、ただ呆れたような、困ったような色だけがある。
「そう聞いてるな」
「空、飛んでますよね」
「飛んでるな」
「弓、届きませんよね」
「届かんな」
「どうしましょう?」
傭兵のリーダーと思しき男は腕を組み、しばし首を捻ると、
胸を張って部下に言った。
「――――お前が何を言ってるのかわからんな。
俺達は崖下の道を見張ってたんだ。
だから空なんか見なかった。
なぁ、そうだろう?」
顔を見せ合い、部下達もそれに同意する。
「そうっすね。
あぁ、まだ来ませんね」
「いつになったら来るんですかねぇ」
常に死の危険がある傭兵の仕事は基本的に前払いである。
死んでしまっては金も使えないからだ。
ならば危険はなるたけ少ない方が良い。
それが男達の共通見解だった。
/*/
「いや、それにしても驚いたな。
これなら思ってたよりも早くラ・ロシェールの街に着きそうだね」
空を行くグリフォンに跨り、ワルドは自分の前に跨ったルイズに言った。
風の音が大きいので、声を聞かせようと思ったら叫ぶか耳元で告げるかしかない。
ワルドが選んだのは後者であった。
ルイズの耳元に口を寄せ、ささやく様に声を吹き込む。
「ギーシュ君か。
グラモン元帥とその息子達とは面識があったんだが、
彼は父上とは違って知将タイプらしいね」
言いながら自らの乗騎に括り付けられた荒縄を見やる。
グリフォンの首当てにつけられたそれは10メイルほどの長さがあり、
その先はタバサの使い魔であるシルフィードに結ばれている。
「この牽引法一つ取っても、軍で正式採用したら今までの常識が覆るよ」
竜種とは違い、グリフォンは長時間の飛行には耐えられない。
それはマンティコアも同じであり、このことは一日の行軍距離に影響してくる。
横目でグリフォンの翼を見る。羽ばたいてはいない。
バランスを取るために広げられてはいるがそれだけである。
なにしろこのグリフォンは、『レビテーション』の魔法で浮いているだけなのだから。
術者の意のままに動ける『フライ』とは違い、『レビテーション』はそれこそただモノを宙に浮かせるだけの魔法である。
だからそれをかけられたモノを動かそうとすれば、手で押すかなにかしなければならない。
そんなことは言われるまでもなく常識であり、だからこそワルドはタバサがグリフォンに『レビテーション』をかけ、
ギーシュが荒縄を括り付けているのを不思議に思ったのである。
もっとも、それはシルフィードと共に宙を舞いだした瞬間に驚愕と感嘆の念に変わったのであるが。
「ところで、縄の真ん中あたりに白い布が結ばれてるのはなんだい?」
「識別のためだそうですわ」
「ほう――――」
感心したような声を上げつつ、ワルドは背中を冷たい汗が伝うのを止められなかった。
手綱から感じる感触からも自分の騎獣が殆ど疲労していないのがよく解る。
前を飛ぶ幼竜とてもそれほど疲労はしていまい。
離陸の際には重みが加わっただろうが、一度飛んでしまえばそんなこともない筈だ。
それはつまり、二騎編成の隊を作ればほぼ一日中飛んでいられるということを指している。
一騎が曳航し、もう一騎を休ませる。疲れれば交替する。
しかも使う魔法はコモンマジックである『レビテーション』であり、
魔法衛士隊であれば誰でも使える魔法である。
しかも初歩であるが故に殆ど精神力を使用しない。
なにしろ学生が教室に帰るのに使う『フライ』よりも下位の魔法なのである。
予算も訓練も殆ど要らずに一日の行軍距離を飛躍的に伸ばす方法。
そんな夢物語がワルドの眼前で展開されていたのだった。
「ギーシュ君は、これを自分で考えたのかな。
それともタバサ君か誰かに教えてもらったのかな」
「さぁ? そこまでは知りませんわ」
嘘である。
実際はこの方法はブータが語った戦場の話に出てきたモノなのだ。
第二世界で、破損して浮くことしか出来なくなった天駆ける船を鳥神族が曳航した故事に基づく方法である。
だが、たとえ婚約者とはいえブータに関しては秘密である。
とても口に出来たものではなかった。
/*/
「ギーシュよ、そんなに我が主人のことが気になるのか?」
「へぇぇ、ひょっとして、あんた、やっぱりそうなの?」
先ほどから何度も振り向いては後ろのグリフォンを確認する弟子に、
ブータは髯を震わせて声をかけた。
手持ち無沙汰なキュルケもそれに追随して面白そうな声を出す。
こちらはシルフィードの背中の上である。
乗っているのはキュルケとギーシュ、タバサとブータ、それにヴェルダンテとフレイムの使い魔たちである。
ルイズはブータと一緒にいたいと訴えたのだが、グリフォンに乗るには大きすぎるとのことでこちらに乗ることになった。
今ではタバサの背もたれになっている。
タバサの魔法によって風をさえぎられているため、普通の声でも会話するのに不自由はない。
風を止めることによって音を消す『サイレンス』の魔法の亜種とでも思えばいいだろう。
「何を言うんだいミス・ツェルプストー。ただぼくは貴族として、あのような破廉恥漢を許せないだけですよ」
言いながら青銅の薔薇で指す方をと見てみれば、背中からルイズを抱きしめながらその耳に囁くワルドの姿。
「あらま。あの殿方そういう趣味なのかしら? タバサも気をつけたほうがいいわよ」
「向こう、魔法使ってない。単に会話してるだけだと思う」
「ああ、そういえば何の魔法使うか聞いてなかったわねぇ。
衛士隊の隊長で、危険な任務を任されるんだからやっぱり『火』なのかしら」
あくまで暢気そうな女性二人の表情とは裏腹に、ギーシュは苦虫を噛み潰したような表情を崩さないまま口を開いた。
「……『風』だよ。
魔法衛士隊はぼくたちトリステイン貴族にとっては憧れだからね。
その隊長格の魔法くらいは知ってるさ。
あのワルド子爵は『風』のスクエアメイジだ」
ちなみに、ワルドが魔法を使わなかったのはギーシュが想像しているような理由ではない。
単に、初見の牽引法に驚いて注意がそこまで回っていなかっただけである。
ついでに言えば、グリフォン隊はおろか竜騎士隊の中にも会話する為だけに魔法を使う者はいない。
この魔法の使い方は、日頃から『サイレンス』を使い慣れており、
シルフィードを従えているタバサだからこそ思いついたものである。
「あら。それはそれは……でも、婚約者だからちょっとくらい、ねぇ?」
「ギーシュ、野暮」
「彼がルイズのことを本当に理解しているのならぼくも止めないがね。
あの時の彼の態度を見てるとそうは思えないな」
なるほどね、とキュルケは頬を緩めた。
やはりギーシュもワルドがルイズを小さい子のように扱うのが我慢できないらしい。
からかうネタが無くなるのは残念だが、ギーシュにとってのルイズは恋人というより友人なのだろう。
友人が馬鹿にされるのは許せないというわけだ。
暖かい目で自分を見るキュルケと猫にも気づかず、ギーシュは未だに文句を言っていたが、だんだんその矛先がおかしくなってきていた。
「まったく、マリコルヌも未だにルイズを馬鹿にするし、
ミスタ・ギトーにいたっては自分と違う属性は一段下に見る。
今度はワルド子爵か。まったく、『風』の属性のメイジは本当に……」
いつの間にか本を置いた眼鏡の少女が、小首を傾げて問いかけた。
「――――喧嘩、売ってる?」
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