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「出来損ないの魔術師と改造人間-1」(2007/09/02 (日) 15:03:58) の最新版変更点
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トリステイン魔法学院に於いて、二年生への進級を賭けた大事な儀式である、使い魔召喚の儀。
様々な幻獣が生徒達によって呼び出される中、ルイズと言う少女の呼び出した使い魔は、他の者が呼び出したそれと、間違いなく一線を画していた。
立ったまま瞑目し、ピクリとも動かない一人の青年。それが彼女の呼び出した使い魔であった。
一緒になって現れた見たことも無い形をした、車輪の二つ付いた乗り物らしき物体には、飛蝗の様な仮面が載せられている。
「……な、何だあれ」
「平民? にしても、あれ何よ」
「ゼロのルイズは一体何を呼んだってんだ……?」
このハルケギニアに於いての貴族からすれば、どう見ても平民のナリをした男なのだが、如何せん同時に呼び出された物のおかげで、皆もどう反応していいのか分からないのだった。
当の召喚した本人であるルイズは、どうしたものかと隣にいた教員のコルベールに、救いを求める様な視線を送る。
「これは……さてはて、珍しいと言うか、どう扱ったものか……」
平民の男に対する視線もだが、それよりも熱心にコルベールが見ているのは、車輪の付いた鉄の塊の方にだった。
いくら呼びかけても、熱っぽい視線で鉄の塊を検分し始め、「あ、召喚のやり直しは認められませんよ?」と言うコルベールに対し、呆れの溜息を吐きながらルイズは男の方へとおもむろに近づく。
「おーい、あんた誰よ」
「…………」
「おいってば」
「…………」
「――――ッ!」
肝心の平民は、ルイズの呼びかけに応ずる事無く、ただ目を瞑ったまま立ち尽くしている。その手に握られている赤いマフラーが、風に靡いてルイズの顔にかかった。
「ふ、ふぇっくしょん!」
「「あはははははははははは!」」
「な、なななな! 何よもうっ!」
ようやく周りは自分を取り戻したかの如き声量で、顔にかかったマフラーのせいでくしゃみを漏らしたルイズに向かって、容赦の無い笑い声をかけた。
受けた屈辱と怒りによって紅潮した彼女の頬は、まるでリンゴの様である。それを見て更に周りは囃し立てる様にして冷やかしや罵声をルイズに浴びせた。
みっともない所を晒すのも程ほどにしたい。周りに対してぶつけるべき怒りの言葉をぐっと呑み込み、コントラクト・サーヴァントの呪文を口にする。どうせやり直しは認められないのだ。納得はしていないが、どうしようもない。
そして、思い切り背伸びをしながら男の頬を両手で掴んだ。男が長身な為、こうでもしないと届かないのだ。
「冷たい……」
手が触れた際に感じた、人のものならぬ温度。それに、ルイズは思わず声を漏らした。だがそれも一瞬の事で、すかさず気を取り直した彼女はそのまま無理な姿勢で男に口付けた。
「…………」
それでも反応が無い。そろそろ限界である。怒りに任せて目の前の男を打ち据えようとルイズが拳を振りかぶった時、男の様子に変化が見られた。
彼の左手の甲に、浮かんだ使い魔のルーンが焼き付いていくのと共に、その身体がどくんと大きく脈を打ったのだ。
そうしている内に、瞑られていた男の目がゆっくりと開かれた。この辺りではあまり見ない瞳の色だ。よくよく見ると、どこと無く愛嬌を感じさせる顔である。
完全に開かれた目を、男はまん丸にさせ、辺りを挙動不審気に見回し始めた。
「何だ、天国って訳じゃないのか? こりゃ」
「「…………」」
まるで見当違いの事を言い放った男に対し、周りの一同は何を言うでもなく押し黙ってしまった。
一体何者だと言うんだろうか? この男は。多くの人間はその考えに支配されていた。
男を伴い自身の部屋に帰ったルイズは、飛び込む様にしてベッドに身体を埋めると、そのまま足をばたつかせて「きーー!」と金切り声を上げた。
「おいおい、お嬢ちゃん。さっきから、その、何だ。カリカリしすぎだろう?」
「うるさいわね! あんたにわたしの気持ちが分かるって言うの!? それよりも馴れ馴れしいのよ!」
「やれやれ、まいったね……」
正直な所、暴れたいのはこちらの方だ。男はそう思いながら、大仰に肩を竦めて見せた。右も左も分からぬ所か、まるで得体の知れない場所に放り込まれた自分の立場を考えてくれ。そう言いたいのを、ぐっと堪えた。
色々と文句を言うにしても、あまりにも状況がおかしすぎてどう整理したものか困っているのだ。下手に口を開けば、混乱が拡大しそうでもある。
逆に、のんべんだらりと話をする平民相手に、怒りを露にしているルイズは、「外れ外れトンだ外れだわ」等とブツブツうわ言の様にしてベッドの中でつぶやいている。
しばらくして、がばっとベッドから身体を起こした彼女は、男の胸に指を突きたてて叫ぶ様にして言った。
「っていうか! あんたせめて名前くらい教えなさいよ!」
「あれ? 言ってなかったか?」
「何それ! 物覚えまで悪いって、最悪じゃない!」
「だーかーらー、そうカリカリしなさんなって」
そこで男ははたと顎に手を当てて、物思いに耽り始めた。何事かとルイズの視線が彼に刺さる。名前を教えるくらいで考え込む事なんてあるのかしら、と。
そうして、軽く三十秒程黙考した後、男はにんまりと口を開いてこう言った。
「仮面ライダー。どうだ? かっこいいだろ?」
「…………」
「何だ? 俺は結構気に入った名前なんだけどな。駄目か……」
「駄目とかそういうレベルじゃないわよ……どこまでふざけた男なの……とってつけた様なバカな名前なんて教えないで!」
どうやら、場を軽く和ませるジョークのつもりだったが、逆効果だった様だ。いや、ある意味で自分の名前には違いないのだが。わなわなと肩を震わせる彼女の姿を見るに、もう少し考えるべきだったかと、男は息を吐いた。
「はいはい。分かった分かった。俺はハヤトだ。よろしくな、ルイズお嬢ちゃん」
「何がお嬢ちゃんよ……馴れ馴れしいにも程があるっての。っていうか、もう怒る気力も無いんだけど」
「若い内からそれじゃ駄目だろう。あはははっ」
「怒らせる張本人が何言ってんのよ!」
「ま、何にせよ元気があるのはいいこった」
どうにも捉え所の無い男である。ルイズにとって、非常にやりづらいタイプの人間だった。ホント、外れにも程があるわ。そう思いながら、彼女は深い深い溜息を吐いた。
紆余曲折を経ながらも、ようやくルイズと言う少女が眠った後、落ち着いた時間を取る事が出来たハヤト。まぁ、藁葺きの布団というあまりにも貧相な寝床には、笑うしかなかったが。
窓から覗く二つの月を眺め、よもややはり、ここは天国だとかそういう場所じゃねえだろうな、と首を傾げた。
死んでいる筈なのだ。自分は、あの日、あの時、あの場所で。本郷猛に名前とマフラー、そしてサイクロンを託して。
それがどうだ。全てが現在ハヤトの手元にあるではないか。最も、バイクであるサイクロンに関しては、馬置き場に間借りをさせているが。
部屋の片隅に置いたヘルメットの、桃色の複眼が、何かを訴えかけてくる様な気がして、ハヤトは自身の胸に手を置いた。
鼓動がある。ちゃんと問題なく身体は機能――――いや、待て。ハヤトはかぶりを振った。
「ははっ、やっぱりか」
彼の口から漏れたのは、苦笑いであった。胸に走る鈍痛、そして身体の節々の軋み。確かめるまでも無く、それらは彼の身体を蝕んでいた。気付かないフリをしていただけだ。
どうやら自分の命はまたも風前の灯火とでも言うべき状態なのを、改めて思い知った。改造人間として出来損ないだった自分である。どうやら一時的に何らかの要因で蘇っただけらしい。
人が空を飛ぶ常軌を逸した世界だ。最早何が起ころうと驚きはしない。
ショッカーのいない世界を、神さまが都合よく見せてくれたってか? そんな詮無き事を考え、再び彼は苦笑いする。もしそうだとしたら、少しばかり嬉しかった。
ほんの僅かな時間とは言え、ちょっとした平和な夢を見られるんだ。それも幻想的な世界で。
憂いがあるとすれば、残してきた本郷猛の事か。
彼には戦いを押し付けてしまった。そういう負い目が、多少なりともハヤトにはあった。
ショッカーとの戦いには終わりが無い。殺し殺されと言うのに向いた男ではないのは分かっていた。だが、それでも戦える身体を得られなかった自分には、託す事しか出来なかったのだ。
「……可愛い寝顔してるもんだな、まったく」
一旦考えを胸の内に押し込み、隣のベッドに目をやった。
ベッドで寝息を立てる、自称ご主人様の少女の顔は、先ほどまで猛り狂っていたのと打って変わり、歳相応の可愛らしさがあった。
彼からすればエキセントリックな行動に出る少女だったが、性根が腐ったタイプではないだろう。
ほんの少し行動を共にしただけだが、芯がある女の子だと言うのは分かった。冷やかしや罵詈雑言を浴びせられている様子を何度か途中目にしたが、どうやらあれが常らしい。
あんな扱いをされながら、よくもまぁひねた少女にならずに済んだものだ。最も、今でも見方次第では充分ひねているのだが。そこはそれ。
着替えだの何だの、まるで幼稚園児か、とも思ったものの、明らかに文化圏の違う世界である。それに所詮は夢の様なものだ、それに乗るのもまた一興かと言う軽い気分で彼は世話焼きを楽しんだ。
そこで、彼はペルーの家族の事を思い出した。今頃元気でやっているだろうか? 考えてみれば、望郷の念が募ってくる。そうだ、未練は本郷の事だけではない。
涙は出なかった。今更流す涙などもうあるものか。
恐らくは、以前の様に自分は死ぬだろう。それはもう予定調和なのだと、彼は心を決めている。
期せずして訪れた場所で、自分に一体何が出来るのか? 何を遺せるのか? それは今のところは分からない。また根性で何とかすれば、また寿命の方も多少はもってくれるだろう。
今はただ、未練など全て置いて、延長戦の様な人生をどう楽しんでやろうか、考えるばかりであった。
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