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「ゼロの使い魔―銀眼の戦士― 5」(2007/09/01 (土) 15:06:38) の最新版変更点
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(あの怪我が妖力を使わずに治るのか。さすがに再生は無理だろうが便利なものだ)
イレーネ自身、妖力が回復し次第治療に当てるつもりだったが、水のメイジに治癒の魔法をかけられ腕が戻った事に感心していた。
「…で、さっきは何やったのよ。風の先住魔法か何か?」
ジト目で睨んでくる。上位ナンバーですら抜き身すら確認できない高速剣を見たのではそう思っても、まぁ無理も無い。
「その前にだ」
そう言いながら扉を開けると、シエスタが転がり込んできた。
「わきゃあああ!……いたた。あ……その、これは……」
ぶっちゃけビビっている。こっちもこっちで魔法か何かと思っているらしい。
そう見られている方だが、存在自体が恐れられていたりするので特に気にしていない。
「いいよ、どうせ説明するつもりだったからな。さっき出したのは『高速剣』。簡単に言えば剣を振っただけだ」
『高速剣』。この言葉に二人が固まっている。
「……え?なに?魔法じゃなくて『剣』を振っただけって事?あれで?」
「そうだとしか言いようが無い」
当人は事も無げに言ったのだが、聞かされた方はショートしかかっている。
「一つ言っておくが、私はエルフではないと言ったが、人間だと言った覚えも無いぞ」
人間ではない。そう聞いて色々な亜人を思い浮かべたが、翼人、吸血鬼、どれも違っている。
「…じゃあなに?」
「半分人間の半人半妖だ」
「…………ハーフエルフ…ってこと?」
「厳密に言えば違うだろうが、そう思うならそう思ってくれて構わんよ」
「前から聞きたかったんだけど妖魔ってなんなのよ?」
「…人、特に内臓を好んで喰らう化物だ。これだけならまだ対抗策も無い事も無いが、人に擬態している」
人と区別が付かない。そこはこっちの吸血鬼と同じだ。そういう事もあり、シエスタがかなり萎縮している。
「それで…その…イレーネさんは…」
「言ったはずだ、我々は掟で人の命は奪わんと。その妖魔を見分け、狩るのが我々だ」
さすがに、作られたという事までは言いはしないが、それでも人の側に立っている事は理解してくれたようだ。
「つまり、わたしたちの味方で凄く強いって事なんですね!」
…ちょっとベクトルは違うがまぁよしとしよう。ルイズの方は半信半疑のようだが。
そんなこんなでルイズに色々質問攻めにあったり、シエスタに懐かれたり
ギーシュに謝罪されたりで妖力を抑えつつ数日過ぎたが、妖気は感じないが何かに見られている事に気付いた。
「妖気を探知できれば分かるんだが…いや、仲間に狙われるよりマシといったところか」
少なくとも追手や妖魔、覚醒者の類よりはマシだろうとしたが、やはり気にはなる。
探知能力もまぁ並より上といったところだが、妖気を感じない相手の場合、それはほぼ人間と変わりない。
どうしたものかと思っていたが、向こうからそれは現れた。
もし、これが敵意なりを持ちイレーネが剣を持っていれば即高速剣だっただろうが、それは敵意を持っていなかったし剣も持っちゃいなかった。
「これが竜というやつか…覚醒体ですら空を飛ぶものなどそう居ないが…」
6メートル程の大きさの竜が思いっきりイレーネをガン見しているのだ。
こんなデカイモノが見ていれば、そりゃあ妖気を帯びていなくても分かる。
とりあえず近付く。一桁Noの覚醒者ならこれより大きいのはザラなので別に気圧されたりはしない。
「私に何か用でもあるのか?」
「きゅい!」
言葉が分かるのかどうかは知らないが、首を下げて乗れといっているようだとは感じた。
正直言うと結構興味はあったりする。妖力解放し脚力で飛ぶ事は多々あるが、何かに乗って飛ぶというのは初めてだからだ。
最悪敵対する気があっても特に問題は無い。回復は相変わらず遅いが抑えていたおかげで4割ぐらいまでに妖力も戻っている。
そう判断するや否や竜の背に飛び乗る。普段の移動は徒歩がメインなだけに騎乗には慣れてはいないが、そこは半人半妖。落ちるという事は無い。
乗ると同時に竜が飛び立ち、少しすると開かれている窓のとこで止まった。
「入れ、という事なのだろうな」
「きゅい!きゅい!」
その鳴声を肯定と受け取り中に入る。罠かもしれないとは思ったが、魔法といえど当たらなければどうという事はないのである。
部屋に入ると、ルイズよりさらにちみっこい青い髪の少女が杖を持って立っていた。
「…あなたに聞きたい事がある」
「答えなければ腕尽くでも…といったところのようだが」
「………………」
答えない。これで少しでも妖気を帯びていれば戦闘開始なのだが、メイジとはいえ相手は一般人。しかも子供といっても差し支えない相手だ。
戦士にもよるが、イレーネ的にはこの程度で揉め事を起こすような事でもない。
「まぁいいさ。私の答えられる事ならな」
「…エルフの中には精神を壊す毒があるのか聞きたい。知っているなら解毒剤も」
ぶっちゃけ問題外だ。毒の事なぞ詳しくも無いし何よりエルフではい。
「他を当たれ。毒物なぞ専門外だし、それに私はエルフではないよ」
「……エルフでは無いという証拠を見せて欲しい」
証拠と言われても特にどうしろという感じなのだが、見た目的に十人中十人がエルフだと答える容姿をしているので仕方ないことだ。
まぁ、一つない事もないが。
さて、こちら廊下を歩いているのはキュルケとルイズだ。
キュルケはイレーネに多少なりとも興味があった事。ルイズはイレーネがほっつき歩いているという事で両名とも同じとこに向かっていた。
「ふ~ん…で、ワルキューレを細切れにしたやつは魔法じゃないのね」
「そう言ってるんだけど…間近で見てたわたしにも何やったか見えないのに、とてもじゃないけど信じられないわよ」
「あの子なら何か知ってるかもしれないわね」
そうしてやってきたのは扉の前。キュルケがノックするが返事は無い。
「居ないんじゃないの?」
「あの子はいつもこうなのよ。『サイレント』かけて本でも読んでるんじゃないかしらね」
そう言いながら杖を取り出し『アンロック』で開錠。かなり手馴れた手付きにルイズは呆れ気味だ。
「そんなんだからゲルマニア人は野蛮だっていうのよ…」
言われた方は大して気にせず部屋の中に入るが、ちょっとアレでナニなモノを見る事になった。
「あー…えーっと…邪魔したみたいね」
キュルケが見たモノは、マントを外し上の服を着ているイレーネとそれを思いっきり凝視している青髪のちみっこい少女だ。
着ているという事は今まで脱いでいたという事で、そっち方面が経験豊かなキュルケさンは、まぁ何だ。そういう事をやった後だと判断した。
「確かに、あたしも彼女が殿方だったら惚れてたと思うわ…でも、あなたが決めたのならあたしは精一杯応援するから頑張んなさい、タバサ!」
その言を受けて気付いたのか、両手で自身より長い杖を持ちキュルケの方に近付くと一発小突く。
「勘違い」
「なにやってんのよあんたはァーーーーーー!」
そう叫びながら蹴りをかますのは、ちょっと時間が停止していたルイズだ。
もちろん、それを喰らうイレーネではないから当たらない。
「エルフではないという事を見せただけだ」
こんな時でも極めて冷静。さすがの精神力だが、それならそれでとルイズがある事に気付き叫ぶ。
「なら、『ディティクト・マジック』で調べればいいじゃない!なんで脱いでるのよ!!」
「それも魔法か?」
イレーネは当然知らないが、他二人は知っている。エルフという認識が先行しすぎて忘れていたらしい。
タバサと呼ばれた青髪の少女がてけてけと近付き詠唱を初めるが、エルフではないから結果は見てのとおりだ。
「…反応は無い」
「…あれ、ほんとに剣を振ってたって事?」
「そういう事だ。…私からも一つ聞きたい事がある。剣を持った時と今では腕の力とスピードが違うんだが…何か分かるか?」
「わたしが知るわけないじゃない…ほら!早く戻るわよ!誰かに勘違いされたらどうするのよ…!」
もうスデに一人思いっきり勘違いしてるのだが。
その勘違い継続中でタバサに色々アドバイスをしているキュルケさンを尻目に部屋を出るが、一つ聞こえるような聞こえないような声がした。
「…一つ借り」
翌日。虚無の日という事で、マジに剣を振っていたのかどうかという事を確めたくもあり、街に剣及び、衣類、雑貨系も買いに行く事になったのだが
面子はルイズ、イレーネ、キュルケ、タバサ、竜ことシルフィードだ。
ルイズとしては馬で向かう予定だったが、タバサが「昨日の借りを返しに来た」という事で風竜であるシルフィードで運ぶという事らしい。
もっとも、虚無の日は本読んで過ごす事を知っているキュルケさンからすれば、さらに勘違いを深める結果となっている。
「人が居る場所はどこも大して変わらんものだな」
「ブルドンネ街。トリステインで一番大きな通りよ」
聖都ラボナでもこのぐらいのため、出た感想はこれだ。
だが、当人はフードを被りマントで顔と姿形を隠しているため結構目立っている。(オフィーリアと対峙した時のアレ)
「城下町にエルフが居るなんて知れたらアカデミー行きよ?」
という事での処置だが、ハッキリ言えば怪しい。だが、貴族が側に三人という事もあり、護衛か何かだろうと判断されている。
そのため、人が来ても向こうから避けるような形になっていた。
「…これならスリに気をつける必要は無いわね」
んで、各々別行動する事になり、イレーネ&ルイズ。キュルケ&タバサで分かれる事になったが
例によって何かを間違えているキュルケさンが要らん一言をタバサに言って小突かれたのは割愛だ。
狭い路地に入り、汚物やゴミが散乱し悪臭が漂っているが、イレーネは特に気にした様子も無い。
返り血を浴びる事は無いが、常に血の臭いと近いとこでやってきたのだ。この程度の悪臭なぞカスみたいなものである。
「ピエモンの秘薬屋の近くだったから…この辺りなんだけど」
「あれじゃないのか?」
そういって指差すのは、剣の形をした銅の看板でこれでもかというぐらいに武器屋だと自己主張している。
薄暗い店内に入ると、所狭しと乱雑に並べられた剣や槍が目に入る。
そこに入ってきたルイズに店主が気付くが、明らかにカモである。
「貴族の旦那。うちはまっとうな商売をしてまさあ」
「客よ。使うのはわたしじゃなくて、こっちの使い魔ね」
姿形を隠してはいるが、伊達にこんなところで武器屋を営んではいない。一瞥すると女だという事に気付いた。
「忘れておりました。昨今は貴族の使い魔も剣を振るようで」
「わたしは剣の事なんて分からないから適当に選んでちょうだい」
そうすると店の主人が細身の剣…レイピアを持ってきたが、主人が説明する前にイレーネが一蹴する。
「折れるようなものでは使い物にならん」
「しかし、見たところこの程度が無難なようで…」
ルイズが大きくて太いのがいいというと次に主人が持ってきたのは1.5メイル程の装飾が付いた大剣だった。
それを見て気に入ったようで値段交渉に入るが手持ちとは到底足りない額だ。
「おいくら?」
「こいつを鍛えたのは、かの高名なシュペー卿で魔法がかかってるから鉄だって一刀両断の代物さぁ。新金貨で三千、エニュー金貨で二千ってとこですぜ」
「立派な家と森付きの庭が買えるじゃない!」
貨幣価値は分からんが、高いのだろうと予想したが一応剣は見てみねばモノは分からない。
「持たせて貰うぞ」
「落さないようにお願いしますぜ」
無論それで落すようなイレーネでもなく片手で受け取り各所を見る。
大きさ的には戦士が使う大剣と同じ程度だが、持ってみて分かった。
「話にならん。ナマクラもいいとこだ」
戦士が使う大剣は恐ろしく丈夫だ。覚醒者の攻撃を受けても折れもせず欠けず、年単位の長期間野晒しにされていても錆一つ付かない。
そういう一品を扱ってきたからこそ手応えで分かった。これなら戦士が振り、硬いものに弾かれれば一発で折れるだろう。
主人は何か言いたそうだったが、別の方向から声がした。
「見る目はあるようだが、その体で剣を振るなんてのは冗談じゃねぇ。そっちのレイピアにしときな」
「む…誰だ?」
声のする方向を向いたが、あるのは剣の山だ。誰も居ない。
「分かったら、さっさとそいつを買って家に帰んな。おめえもだよ、貴族の娘っ子!」
「失礼ね!」
イレーネが声のする方向に近付き、一本の錆びた大剣を引っ張り出す。
さっきよりは薄手だが、大きさはクレイモアと同じ程度だ。
「さっきのは…こいつか?」
「お客様に失礼な口を聞くんじゃねぇ!デル公!」
「お客様?こんな華奢な体の女がお客様だ?ふざけんじゃ…」
途中まで言って黙りこくるが、主人とルイズは話しをしているのでそれ気付いた様子は無い。
そして小声で話し始める。
「…おでれーた。てめ、人間じゃねーな」
「ほう…分かるのか」
「見た事もねーような化物を体に入れてやがんな…しかも『使い手』かよ」
人ではない、という事はまだ想定内だったが、体に入れているというところまで分かるとは思わなかったので素直に感嘆する。
妖魔の血肉を取り込み『作られた』存在だからだ。
「…まあいい、使い手なら俺を買え」
そうは言うが、思いっきり錆が浮いている剣だ。高速剣に耐えうるかどうか試さねばならない。
「その前に試させてもらうぞ」
そう言うと、さっきのシュペー卿が作った剣の前に無言で近付き、手に持った剣を片手で振った。
それと同時に、甲高い金属音が鳴り響く。シュペー卿の剣が真っ二つに折れた音だ。
「…なるほど、見てくれは悪いが丈夫さは私が使っていた大剣に匹敵するな。ルイズ、これにしておこう」
「錆びたインテリジェンスソードなんて買わなくても…しゃべらない他のにしない?」
「私が見たところ、高速剣に耐えれそうなのはこいつだけだ」
ルイズが文句をいいつつも値段を主人に尋ねたが、値段設定二千の剣をヘシ折られた店主はかなり凹んでいる。
「…あ、あれなら三百で結構でさ」
本来の売値の三倍なのだが、ヘシ折られた分を少しでも補填しようという商売人根性だ。
だが、現在のルイズの手持ちは二百。それを小声で言うと、イレーネが頭のフードを外した。
「あれを、あんな値で売ろうとしたんだからな…安くしてもらうぞ」
平民にとってメイジ相手でもヤバイのに、そのメイジですら恐れるエルフとあっては、商売人根性も何もあったもんではない。
「…エエ、エルフ!?そ、そりゃもう百で結構ですので、命だけは!」
命乞いまでされるとは、ちと想定外だったが、ともかく買える値段になり金貨を払う。
「さ、鞘に収めればそいつは、お、おとなしくなりまさあ!」
完全にビビっている店主から鞘を受け取るとルイズとイレーネが店を出た。
「今日はもう閉店だ…酒飲んで忘れちまおう…」
「まったく…あれじゃほとんど恐喝じゃない」
「気にするな、最初に騙されていたのはお前だ」
「あの業突張りにはいい薬だろうぜ!」
二人と一振りが、通りを歩く。抜き身で持っているため人が見たらちとアレだが、人は他に居ない。
「それで、あんたデル公でいいの?」
「ちがわ!デルフリンガー様だ!」
「錆びだらけの割りに名前だけは立派ね…」
「イレーネだ。どうやら色々知っているようだな…。詳しく聞かせて貰うぞ」
それを境にデルフリンガーが黙りこくったが、イレーネは気にせず鞘に収める。
完全に収まる前にデルフリンガーが小声で
「おでれーた…こんな心に変化が無いやつ初めてだ…」
と先行き不安そうに呟いた事は幸いな事に二人には聞こえていなかった。
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