「ゼロの答え-03」(2008/10/28 (火) 07:30:21) の最新版変更点
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一旦部屋に戻ってルイズは爆発でボロボロになった服を着替えた。着替え終えると昼食をとるため食堂へと向かった。
デュフォーにも一緒に来るように言っておいたので一緒に廊下を歩く。
正直気分は最悪だった。腹の立つ使い魔にご主人様らしいところを見せ付けようと張り切ったのに結果はあれだ。
これではますます嫌味を言われる材料を与えてしまったようなものだ。
なのに使い魔のほうは何も言おうとしない。ひょっとして同情されているのだろうか?
そう考えるとますます落ち込む。
(平民の使い魔にすら同情されるなんて……)
そうこうしていると食堂に着いた。
このときルイズは酷く落ち込んでいてあまり周りを良く見ていなかった。
そのせいか椅子に座ろうとしたとき、一人の男子のマントをうっかり踏んでしまった。かなり思いっきり。
「ぐえっ」
蛙を踏み潰したような声を上げて男子が仰け反る。とその時、男子のポケットからガラスの小壜が落ちた。
勢いよくポケットから飛び出たためだろう、その小壜は床に落ちるとあっさり割れてしまった。
「あ、ごめん、ギーシュ」
流石に悪いと思ったのかルイズは謝った。だがギーシュは謝罪の言葉など聞こえていないかのようにルイズを怒鳴りつけた。
「なんてことをするんだ!ゼロのルイズ!この香水はモンモランシーが僕に」
ギーシュは最後まで言うことができなかった。モンモランシーにまで言ったところで一人の少女が席から立ちあがり、ギーシュの前に立ち塞がったからだ。
「ギーシュさま……」
「ケ、ケティ。その、これはごかぶっ」
最後まで言い訳させずケティと呼ばれた少女はギーシュのほほを思いっきり張り飛ばした。
「ご自分でおっしゃったことが何よりの証拠ですわ!さようなら!」
呆然とほほを押さえるギーシュ。だがその少女と入れ替わるように、また別の少女がギーシュの前に立ちふさがった。
「ギーシュ。何か言いたいことは?」
「モ、モンモランシー、こればぁっ!?」
モンモランシーはケティと同様に言い訳させる間もなく殴り飛ばした。平手ではなく、拳で。綺麗なストレートだった。
もんどりうって倒れるギーシュ。モンモランシーはテーブルの置かれたワインの壜を掴むと、倒れているギーシュにかけた。
中身が空になるとおまけといった感じで壜をそのままギーシュの頭の上に落とした。
「この嘘つき!」
そう言い捨てると憤懣やるせないといった表情でモンモランシーは自分の席に戻る。ギーシュは目を回していた。
ルイズは自分が原因だったため、流石に少しは悪いことをしたかなと思ったものの、元はといえば二股をかけていたギーシュが悪いと思い直して気にしないことにした。
ギーシュの分の食事が余ったのでデュフォーにも多少分けてあげようかと思ったが、マリコルヌが既に陣取っていたので諦める。
そのデュフォーだがパンとスープを食べ終わるとどこかへ行ってしまった。どこに行ったのか気になったものの、こちらはまだ食事中だったので放っておく
普通はご主人様の食事が終わるまで待つものだが、もうこの使い魔にそんなことを期待するのは諦めた。
ちなみにワインまみれで目を回しているギーシュを介抱しようとする人間は誰もいなかった。まあ二股かけていた最低男を助けるほど心の広い人間はいなくて当然だからよし。
ルイズが食事を終えてデザートを待っていると、何故かどこかへ行ったはずのデュフォーと今朝見かけたメイドが配っているのが目に入った。
驚いてルイズは飲みかけた紅茶を噴いた。正面に座っていた女子が嫌な顔をする。だがそんなことよりデュフォーのほうが重要だ。
「デュフォー!あんた何やってるのよ!」
デュフォーはケーキの置かれたトレイを近くのテーブルに置いて、怒鳴り声をあげて近づいてくるルイズに向きなおった。
一緒にケーキを配っていたメイドは突然怒鳴り声をあげて貴族が走ってきたため硬直している。
とりあえずルイズは一緒にケーキを配っていたメイド(シエスタというらしい)の方から事情を聞くことにした。
デュフォーから聞こうとしないのは、こいつが説明したら平静を保てる自信がなかったからだ。
「……つまりあいつはわたしが上げたパンとスーブじゃ足りなかったから。直接厨房に行って、手伝う代わりに食事をくれって言ったのね」
「はい、そうです。デュフォーさんが突然、厨房に来たときは驚きました」
「あなたが一緒に配っているのは?」
「あ、それは私は今朝デュフォーさんと顔を合わせたので面識があったからです」
なるほど理由を聞いてみれば単純なことだった。ルイズに食事の量を増やしてくれと言わなかったのは、使い魔としての立場を理解してのことなのか。
それとも言っても聞き入れるわけがないと理解していたからなのか。―――恐らく後者だろうとルイズは思った。
「でも大丈夫?こんな奴が手伝ったらかえって邪魔じゃない?」
「そんなことありませんよ。デュフォーさんは私がケーキを掴み易いタイミングと高さでトレイを出してくれるから凄い助かってます」
そういうとシエスタは再びケーキの配り始めた。デュフォーと一緒に。
―――面白くない。とルイズは思った。
(わたしに対してはあれだけムカつくことをしてくるのに、メイドに対しては優しいなんて)
実際は別にそんなことはないのだが、ルイズはそう思い込んでいる。
ルイズがそんなことを考えていると誰かに話しかけられた。そちらを見るとそこにいたのはギーシュだった。
「何よ、何のよう?言っておくけど今機嫌が悪いから、話しかけないで」
「ゼロのルイズ。君のせいでケティとモンモランシーの名誉が傷ついたじゃないか。どうしてくれるんだい?」
「は?何言ってるのよ。あれはあんたが二股かけてたのが悪いんじゃない」
「それに昼食もとれなかった。これもどうしてくれる」
「……それもあんたの自業自得でしょ」
どうやらギーシュは今さっき目が覚めたらしい。ギーシュの分の昼食はマリコルヌが全て平らげていたから当然昼食にはありつけなかったのだろう。
ルイズは相手をするのが馬鹿らしくなってギーシュから視線を外した。するとケーキを配り終えたらしいデュフォーが目に映った。
「おい、ルイズ。一体どこを見て……ん、あれは?」
ギーシュもルイズの視線に気がついたのかデュフォーたちの方を見る。
ちょうど配り終えたらしくルイズのところへと歩いてくるところだった。
ルイズの傍にきたところでギーシュは馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
「流石はゼロのルイが呼んだ平民だ。ご主人様を放っておいて同じ平民の子とデートでもしてたのかい?」
どうやらルイズからデュフォーへと八つ当たりの対象を変えたらしい。
もちろんギーシュだって二股をかけていた自分が悪いことは理解しているが、八つ当たりをしないと収まらないのだ。
だがはっきり言って絡んだ相手が悪かった。
「お前頭が悪いな」
「なっ!」
「このトレイを見ればデザートのケーキを配っていたことはわかるだろう?それとも頭が悪いから理解できないのか」
「なななな、なっ!」
ギーシュの顔が怒りのあまり赤を通り過ぎてどす黒くなった。
これはもう喧嘩を売っているという次元ではない。今すぐギーシュがデュフォーを殺そうとしても納得できるほどだ。
現にデュフォーの隣に居るシエスタは恐怖のためか蒼白になっている。
ルイズですらあまりにもあまりな言いように硬直していた。
「きききききききききき、君はどうやら貴族に対する礼を知らないようだな。さ、流石はゼロのルイズが呼んだ平民だ」
「お前頭が悪いな。さっきも流石はゼロのルイズが呼んだ平民だ、と言ったのをもう忘れたのか?」
ギーシュが無言で薔薇の造花を振り上げたところで近くにいたギーシュの友人がギーシュを押さえ込んだ。
「よせ、ここで魔法を使うのは拙い」
「離せ、こいつは、僕が」
「気持ちはわかるが落ち着け。やるならヴィストリの広場だ」
必死でギーシュを宥める友人たち。当事者の癖に我関せずといった表情でそれを見つめるデュフォー。
傍から見れば蒼白になっているシエスタの方がギーシュの怒りを向けられた当事者にしか見えない。
しばらくして何とか落ち着いたのか荒い息を吐きながら、ギーシュはデュフォーに薔薇の造花を突きつけた。
「決闘だっ!いいか、ヴィストリの広場で待ってるから必ずきたまえ!貴族に対する礼儀を教えてやろう!」
そう告げるとギーシュは体を翻した。その後ろをさっきまで宥めていた友人たちがわくわくした表情でついていく。一人だけデュフォーの案内と逃がさないようとの監視も兼ねて残った。
「あ、ああああ、なんてこと。あ、あなた殺されちゃう。貴族をあんなに怒らせるなんて……」
血の気を失った表情でそう言うと、シエスタはだーと走って逃げてしまった。
そこでやっとルイズの硬直が解けた。
「あああああ、あんたね、平民がメイジをあんなに怒らせてどうするのよ!本当に殺されるわよ!」
「大丈夫だ」
「何が大丈夫よ!ああもう!仕方ないわね。私も一緒に頭を下げてあげるから謝りなさい!あんただけだと確実に許してもらえないだろうけど、わたしも頭を下げるなら許してもらえるかもしれないわ」
「非があるのはあいつだろ。俺やルイズが謝る理由はない」
「このわからずや!あんたは確かにムカついてムカついてムカついてムカつく奴だけど、それでもわたしが召喚した使い魔なのよ!勝手に死なせるわけにはいかないんだから!」
「なんだと?」
「そうよ!あんたは絶対に勝てないわ。その上あれだけ怒ってるのよ。手足の一本や二本くらいの重症で済んだら運がいいわよ!」
「言いたいことはそれだけか?」
「それだけかって……聞きなさいよ!メイジに平民は絶対勝てないの!あんたがアンサー・トーカーとかいう能力を持ってても意味がないの!」
「意味がないかどうかは見ていればわかる」
そういうとデュフォーは一人残っていた男を促して歩き始めた。
「――――――っ!もう知らない!あんたなんかどうなっても知らないんだから!」
そう叫ぶとルイズはデュフォーを追いかけていった。
デュフォーがヴィストリの広場についたときには、噂を聞きつけた生徒たちで広場は溢れていた。
「とりあえず逃げずにきたことだけは誉めてあげるよ。それとも謝りにきたのかい?今更謝っても手遅れだけどね」
そう告げるとギーシュは薔薇の造花を突きつけた。目は殺気だって血走っている。傍目にも、もはや謝った程度では許す気はないのがわかる。
「お前頭が悪いな。戦いに来たことくらいわかるだろう」
ギーシュの顔が歪んだ。この期に及んでもそんなことを言われると思っていなかったのだろう。
「そ、そうかい。それじゃ始めるか」
そう言うと同時にギーシュが薔薇の花を振り、花びらを青銅でできたゴーレムへと変える。
「僕はメイジだ。だから魔法で戦う。よもや文句……」
ゴーレムを出すとギーシュは長々と口上を述べようとしたが、途中で止めざるをえなかった。デュフォーが歩みを止める様子を欠片も見せず、こちらへと向かってくるからだ。
開始を告げると同時にデュフォーはギーシュへと近づいていった。走らず、歩いて。ギーシュがゴーレムを出してもまったく足を止めることはなく、ザッ、ザッと距離を詰めていく。
そのギーシュのゴーレムなど気にするまでもないというかのような態度に知らず歯を食い閉めた。ギリッと歯が軋む音が聞こえた。
ギーシュは無策に歩いて近づいてくる平民を叩きのめす―――いや叩き『殺す』ようゴーレムに指示を与える。
同時に再び薔薇の花を振り、更に六体のゴーレムを出す。新たに出たゴーレムにも同様の指示を出した。
ここまで自分を馬鹿にした態度をとる平民を生かして返す気は、もはやギーシュになかった。
合計で七体ものゴーレムが一斉にデュフォーへと殺到し―――そして全ての攻撃があっさりと避けられた。
「―――え?」
ギーシュが間の抜けた声を出した。だがそれはその場を見た人間の素直な感想だった。誰一人として今、目の前で起こったことを理解できなかった。
誰が見ても避けられるとは思えなかった七体ものゴーレムの攻撃が、デュフォーがほんの少し動いただけで全て宙を切った。
そこから先はまるで夢の中の出来事のようだった。ギーシュにとっては悪夢に等しい。
ギーシュへと近づいていくデュフォーに攻撃をしかけるゴーレムたち。だがデュフォーはまるでどこにくるのかが解っていたかのように、少し動くだけでそれを全て避ける。
目の前の男を平民だと侮る気持ちは跡形もなくなった。代わりに恐怖が芽生える。
「何でだよ、何でワルキューレの攻撃が当たらないんだよっ!」
必死でゴーレムに命令を下すギーシュ。だが攻撃を当てることはおろか、後退、いや足を止めることすら満足にできない。気がつけばデュフォーはもう間近に迫っていた。
ドン、とギーシュの背中に何かが当たる。振り向くとそこには壁があった。ギーシュは無意識のうちにデュフォーから離れようと後ずさりしていたことに気がついた。
(追い詰められた―――?)
ギーシュがそう思った瞬間、首を掴まれ、壁に押し付けられた。一瞬息が詰まる。魔法の杖である薔薇の造花が叩き落された。
「まだやるか?」
冷めた声でデュフォーが訊ねる。既にギーシュは戦意を喪失していた。
震える声でギーシュが降参を告げたのをルイズは信じられないものを見るような思いで見ていた。
#navi(ゼロの答え)
一旦部屋に戻ってルイズは爆発でボロボロになった服を着替えた。着替え終えると昼食をとるため食堂へと向かった。
デュフォーにも一緒に来るように言っておいたので一緒に廊下を歩く。
正直気分は最悪だった。腹の立つ使い魔にご主人様らしいところを見せ付けようと張り切ったのに結果はあれだ。
これではますます嫌味を言われる材料を与えてしまったようなものだ。
なのに使い魔のほうは何も言おうとしない。ひょっとして同情されているのだろうか?
そう考えるとますます落ち込む。
(平民の使い魔にすら同情されるなんて……)
そうこうしていると食堂に着いた。
このときルイズは酷く落ち込んでいてあまり周りを良く見ていなかった。
そのせいか椅子に座ろうとしたとき、一人の男子のマントをうっかり踏んでしまった。かなり思いっきり。
「ぐえっ」
蛙を踏み潰したような声を上げて男子が仰け反る。とその時、男子のポケットからガラスの小壜が落ちた。
勢いよくポケットから飛び出たためだろう、その小壜は床に落ちるとあっさり割れてしまった。
「あ、ごめん、ギーシュ」
流石に悪いと思ったのかルイズは謝った。だがギーシュは謝罪の言葉など聞こえていないかのようにルイズを怒鳴りつけた。
「なんてことをするんだ!ゼロのルイズ!この香水はモンモランシーが僕に」
ギーシュは最後まで言うことができなかった。モンモランシーにまで言ったところで一人の少女が席から立ちあがり、ギーシュの前に立ち塞がったからだ。
「ギーシュさま……」
「ケ、ケティ。その、これはごかぶっ」
最後まで言い訳させずケティと呼ばれた少女はギーシュのほほを思いっきり張り飛ばした。
「ご自分でおっしゃったことが何よりの証拠ですわ!さようなら!」
呆然とほほを押さえるギーシュ。だがその少女と入れ替わるように、また別の少女がギーシュの前に立ちふさがった。
「ギーシュ。何か言いたいことは?」
「モ、モンモランシー、こればぁっ!?」
モンモランシーはケティと同様に言い訳させる間もなく殴り飛ばした。平手ではなく、拳で。綺麗なストレートだった。
もんどりうって倒れるギーシュ。モンモランシーはテーブルの置かれたワインの壜を掴むと、倒れているギーシュにかけた。
中身が空になるとおまけといった感じで壜をそのままギーシュの頭の上に落とした。
「この嘘つき!」
そう言い捨てると憤懣やるせないといった表情でモンモランシーは自分の席に戻る。ギーシュは目を回していた。
ルイズは自分が原因だったため、流石に少しは悪いことをしたかなと思ったものの、元はといえば二股をかけていたギーシュが悪いと思い直して気にしないことにした。
ギーシュの分の食事が余ったのでデュフォーにも多少分けてあげようかと思ったが、マリコルヌが既に陣取っていたので諦める。
そのデュフォーだがパンとスープを食べ終わるとどこかへ行ってしまった。どこに行ったのか気になったものの、こちらはまだ食事中だったので放っておく
普通はご主人様の食事が終わるまで待つものだが、もうこの使い魔にそんなことを期待するのは諦めた。
ちなみにワインまみれで目を回しているギーシュを介抱しようとする人間は誰もいなかった。まあ二股かけていた最低男を助けるほど心の広い人間はいなくて当然だからよし。
ルイズが食事を終えてデザートを待っていると、何故かどこかへ行ったはずのデュフォーと今朝見かけたメイドが配っているのが目に入った。
驚いてルイズは飲みかけた紅茶を噴いた。正面に座っていた女子が嫌な顔をする。だがそんなことよりデュフォーのほうが重要だ。
「デュフォー!あんた何やってるのよ!」
デュフォーはケーキの置かれたトレイを近くのテーブルに置いて、怒鳴り声をあげて近づいてくるルイズに向きなおった。
一緒にケーキを配っていたメイドは突然怒鳴り声をあげて貴族が走ってきたため硬直している。
とりあえずルイズは一緒にケーキを配っていたメイド(シエスタというらしい)の方から事情を聞くことにした。
デュフォーから聞こうとしないのは、こいつが説明したら平静を保てる自信がなかったからだ。
「……つまりあいつはわたしが上げたパンとスープじゃ足りなかったから。直接厨房に行って、手伝う代わりに食事をくれって言ったのね」
「はい、そうです。デュフォーさんが突然、厨房に来たときは驚きました」
「あなたが一緒に配っているのは?」
「あ、それは私は今朝デュフォーさんと顔を合わせたので面識があったからです」
なるほど理由を聞いてみれば単純なことだった。ルイズに食事の量を増やしてくれと言わなかったのは、使い魔としての立場を理解してのことなのか。
それとも言っても聞き入れるわけがないと理解していたからなのか。―――恐らく後者だろうとルイズは思った。
「でも大丈夫?こんな奴が手伝ったらかえって邪魔じゃない?」
「そんなことありませんよ。デュフォーさんは私がケーキを掴み易いタイミングと高さでトレイを出してくれるから凄い助かってます」
そういうとシエスタは再びケーキの配り始めた。デュフォーと一緒に。
―――面白くない。とルイズは思った。
(わたしに対してはあれだけムカつくことをしてくるのに、メイドに対しては優しいなんて)
実際は別にそんなことはないのだが、ルイズはそう思い込んでいる。
ルイズがそんなことを考えていると誰かに話しかけられた。そちらを見るとそこにいたのはギーシュだった。
「何よ、何のよう?言っておくけど今機嫌が悪いから、話しかけないで」
「ゼロのルイズ。君のせいでケティとモンモランシーの名誉が傷ついたじゃないか。どうしてくれるんだい?」
「は?何言ってるのよ。あれはあんたが二股かけてたのが悪いんじゃない」
「それに昼食もとれなかった。これもどうしてくれる」
「……それもあんたの自業自得でしょ」
どうやらギーシュは今さっき目が覚めたらしい。ギーシュの分の昼食はマリコルヌが全て平らげていたから当然昼食にはありつけなかったのだろう。
ルイズは相手をするのが馬鹿らしくなってギーシュから視線を外した。するとケーキを配り終えたらしいデュフォーが目に映った。
「おい、ルイズ。一体どこを見て……ん、あれは?」
ギーシュもルイズの視線に気がついたのかデュフォーたちの方を見る。
ちょうど配り終えたらしくルイズのところへと歩いてくるところだった。
ルイズの傍にきたところでギーシュは馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
「流石はゼロのルイが呼んだ平民だ。ご主人様を放っておいて同じ平民の子とデートでもしてたのかい?」
どうやらルイズからデュフォーへと八つ当たりの対象を変えたらしい。
もちろんギーシュだって二股をかけていた自分が悪いことは理解しているが、八つ当たりをしないと収まらないのだ。
だがはっきり言って絡んだ相手が悪かった。
「お前頭が悪いな」
「なっ!」
「このトレイを見ればデザートのケーキを配っていたことはわかるだろう?それとも頭が悪いから理解できないのか」
「なななな、なっ!」
ギーシュの顔が怒りのあまり赤を通り過ぎてどす黒くなった。
これはもう喧嘩を売っているという次元ではない。今すぐギーシュがデュフォーを殺そうとしても納得できるほどだ。
現にデュフォーの隣に居るシエスタは恐怖のためか蒼白になっている。
ルイズですらあまりにもあまりな言いように硬直していた。
「きききききききききき、君はどうやら貴族に対する礼を知らないようだな。さ、流石はゼロのルイズが呼んだ平民だ」
「お前頭が悪いな。さっきも流石はゼロのルイズが呼んだ平民だ、と言ったのをもう忘れたのか?」
ギーシュが無言で薔薇の造花を振り上げたところで近くにいたギーシュの友人がギーシュを押さえ込んだ。
「よせ、ここで魔法を使うのは拙い」
「離せ、こいつは、僕が」
「気持ちはわかるが落ち着け。やるならヴィストリの広場だ」
必死でギーシュを宥める友人たち。当事者の癖に我関せずといった表情でそれを見つめるデュフォー。
傍から見れば蒼白になっているシエスタの方がギーシュの怒りを向けられた当事者にしか見えない。
しばらくして何とか落ち着いたのか荒い息を吐きながら、ギーシュはデュフォーに薔薇の造花を突きつけた。
「決闘だっ!いいか、ヴィストリの広場で待ってるから必ずきたまえ!貴族に対する礼儀を教えてやろう!」
そう告げるとギーシュは体を翻した。その後ろをさっきまで宥めていた友人たちがわくわくした表情でついていく。一人だけデュフォーの案内と逃がさないようとの監視も兼ねて残った。
「あ、ああああ、なんてこと。あ、あなた殺されちゃう。貴族をあんなに怒らせるなんて……」
血の気を失った表情でそう言うと、シエスタはだーと走って逃げてしまった。
そこでやっとルイズの硬直が解けた。
「あああああ、あんたね、平民がメイジをあんなに怒らせてどうするのよ!本当に殺されるわよ!」
「大丈夫だ」
「何が大丈夫よ!ああもう!仕方ないわね。私も一緒に頭を下げてあげるから謝りなさい!あんただけだと確実に許してもらえないだろうけど、わたしも頭を下げるなら許してもらえるかもしれないわ」
「非があるのはあいつだろ。俺やルイズが謝る理由はない」
「このわからずや!あんたは確かにムカついてムカついてムカついてムカつく奴だけど、それでもわたしが召喚した使い魔なのよ!勝手に死なせるわけにはいかないんだから!」
「なんだと?」
「そうよ!あんたは絶対に勝てないわ。その上あれだけ怒ってるのよ。手足の一本や二本くらいの重傷で済んだら運がいいわよ!」
「言いたいことはそれだけか?」
「それだけかって……聞きなさいよ!メイジに平民は絶対勝てないの!あんたがアンサー・トーカーとかいう能力を持ってても意味がないの!」
「意味がないかどうかは見ていればわかる」
そういうとデュフォーは一人残っていた男を促して歩き始めた。
「――――――っ!もう知らない!あんたなんかどうなっても知らないんだから!」
そう叫ぶとルイズはデュフォーを追いかけていった。
デュフォーがヴィストリの広場についたときには、噂を聞きつけた生徒たちで広場は溢れていた。
「とりあえず逃げずにきたことだけは誉めてあげるよ。それとも謝りにきたのかい?今更謝っても手遅れだけどね」
そう告げるとギーシュは薔薇の造花を突きつけた。目は殺気だって血走っている。傍目にも、もはや謝った程度では許す気はないのがわかる。
「お前頭が悪いな。戦いに来たことくらいわかるだろう」
ギーシュの顔が歪んだ。この期に及んでもそんなことを言われると思っていなかったのだろう。
「そ、そうかい。それじゃ始めるか」
そう言うと同時にギーシュが薔薇の花を振り、花びらを青銅でできたゴーレムへと変える。
「僕はメイジだ。だから魔法で戦う。よもや文句……」
ゴーレムを出すとギーシュは長々と口上を述べようとしたが、途中で止めざるをえなかった。デュフォーが歩みを止める様子を欠片も見せず、こちらへと向かってくるからだ。
開始を告げると同時にデュフォーはギーシュへと近づいていった。走らず、歩いて。ギーシュがゴーレムを出してもまったく足を止めることはなく、ザッ、ザッと距離を詰めていく。
そのギーシュのゴーレムなど気にするまでもないというかのような態度に知らず歯を食い閉めた。ギリッと歯が軋む音が聞こえた。
ギーシュは無策に歩いて近づいてくる平民を叩きのめす―――いや叩き『殺す』ようゴーレムに指示を与える。
同時に再び薔薇の花を振り、更に六体のゴーレムを出す。新たに出たゴーレムにも同様の指示を出した。
ここまで自分を馬鹿にした態度をとる平民を生かして帰す気は、もはやギーシュになかった。
合計で七体ものゴーレムが一斉にデュフォーへと殺到し―――そして全ての攻撃があっさりと避けられた。
「―――え?」
ギーシュが間の抜けた声を出した。だがそれはその場を見た人間の素直な感想だった。誰一人として今、目の前で起こったことを理解できなかった。
誰が見ても避けられるとは思えなかった七体ものゴーレムの攻撃が、デュフォーがほんの少し動いただけで全て宙を切った。
そこから先はまるで夢の中の出来事のようだった。ギーシュにとっては悪夢に等しい。
ギーシュへと近づいていくデュフォーに攻撃をしかけるゴーレムたち。だがデュフォーはまるでどこにくるのかが解っていたかのように、少し動くだけでそれを全て避ける。
目の前の男を平民だと侮る気持ちは跡形もなくなった。代わりに恐怖が芽生える。
「何でだよ、何でワルキューレの攻撃が当たらないんだよっ!」
必死でゴーレムに命令を下すギーシュ。だが攻撃を当てることはおろか、後退、いや足を止めることすら満足にできない。気がつけばデュフォーはもう間近に迫っていた。
ドン、とギーシュの背中に何かが当たる。振り向くとそこには壁があった。ギーシュは無意識のうちにデュフォーから離れようと後ずさりしていたことに気がついた。
(追い詰められた―――?)
ギーシュがそう思った瞬間、首を掴まれ、壁に押し付けられた。一瞬息が詰まる。魔法の杖である薔薇の造花が叩き落された。
「まだやるか?」
冷めた声でデュフォーが訊ねる。既にギーシュは戦意を喪失していた。
震える声でギーシュが降参を告げたのをルイズは信じられないものを見るような思いで見ていた。
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