「GTA-0_5」(2007/10/13 (土) 12:40:41) の最新版変更点
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コルベールの小屋から数時間ぶりに外に出ると、辺りには夜の帳が下りようとしていた。
空を見上げれば星光と二つの月。こんな澄んだ空を見るのは久しぶりだ。
…ここが地球だったら素直に綺麗だと思えるんだが。
「如何ですかな? ミスタ・スピード。実物の感想は」
「…まあ、悪くはないな」
悪くはないが…落ちつかない。ここが地球ではない事を再認識させられるからだ。
脳裏にコルベールの言葉が甦る。
『元の世界に帰る術は…今の所存在しません』
冗談じゃない。必ず探し出してやる。そして絶対に帰る。
…その為にも足場を固める必要がある。揺らぐ事のない足場を。
必要な物は沢山あるが、最も重要なのは…信用。まずは信用を得ねばならない。
……だが、今欲しいのは信用よりも飯だ。
「なあ、コルベール。飯はどうすればいい? 金なんか持ってないんだが」
「食事ですか……。本来なら使い魔の主人であるミス・ヴァリエールが用意すべきなんですが…。困ったものです」
「全くだ。癇癪で部屋から追い出すうえに飯は抜き。本当に酷い『 ご主人さま 』だよ」
もちろん癇癪で追い出されたなんてのは大嘘だ。コルベールは俺の話を簡単に信じてくれたので助かったが。
「おお、そうだ。あそこなら丁度良い!」
「? 何だコルベール」
「ミスタ・スピード、夕食についてですが…」
「アンタもとんだ災難に巻き込まれたなあ。はっはっは!」
「こんな上手い飯が食えるならむしろ幸運だな」
「ははっ、嬉しいこと言ってくれるじゃないの!」
コルベールの案内で通されたのは学院の厨房。
貴族の食堂で飯を食うのは色々とまずい事と、平民同士の方が落ちついて飯も食えるだろう、との理由からだ。
それにしても本当にこの飯は美味いな。こんな美味い飯を喰うのは久しぶりだ。
「マルトー、間違い無くあんたは最高の料理人だよ」
「んな事言ってくれんのはアンタぐらいだ! 貴族の馬鹿どもの舌よりアンタの舌の方がよっぽど肥えてんな!」
なるほど、マルトーは貴族が嫌いなのか。覚えておこう。
今日はどうにかなったが、明日も飯を食える保障はない。
幸い今のマルトーはかなり上機嫌だ。俺への警戒も解けている。頼むなら今しかないな。
「マルトー、いきなりで悪いんだが頼みがある」
「んん? なんだい、言ってみな」
「明日からもここで食事を分けてくれないか? もちろん代金は払う。俺の体でな」
一瞬呆気に取られたマルトーだったが、すぐに笑いながら返答してきた。
「ははっ、そんな事か! タダで良いに決まってんだろう!
貴族の使い魔なんぞにされた上に、食事を抜かれるなんて酷え目にあってるんだ。
ここで助けなかったら平民の名が廃らあっ!」
どうやら飯の心配はしなくて済みそうだ。本当にいい奴だな、マルトーは。
「マルトー、世話になってばかりだと俺の気が引ける。雑用でも良いから手伝わせてくれ」
もちろん善意からこんな事を言いはしない。
「おめえ……何て律儀な奴なんだ! 貴族の馬鹿どもに見習わせたいぜ!
クロード・スピード、何か困った事があれば遠慮なく相談してくれよ!」
「恩にきる、マルトー」
使える人間がまた一人増えたな。
薄暗い闇に漂う朝もやの中、新鮮な空気をたっぷりと吸い込み全身に行き渡らせる。…美味い。
確かこの世界には排気ガスが殆ど無いんだったか。それが関係してるのかもな。
軽く体をほぐし厨房に向かう。マルトー達は既に朝食の下準備を始めていた。
「おう、起きたか兄弟! 寝心地は良かったか?」
「ああ。やはりベッドは良いな、よく眠れる」
まさか寝床まで提供してくれるとはな…本当にこの男は気前が良い。
「そういやあ、今日は使い魔との仲を深める茶会があんだよ。あんたも出るのかい?」
「初耳だな…。出ないといけないのか?」
「さあな。面倒なら逃げちまいな! はっはっは…」
さて、どうしたものか。
賄い飯の最後の一口を飲み込みながら今日の予定を考える。…とりあえずコルベールと話してみるか。
コルベールの仲介でレ…ルイズだったか? と合流する事になった。
例の茶会が始まる頃に呼びに来るから、それまで適当に時間を潰せ、との事だ。
…マズイ事をしたもんだ。確か爆発する魔法が使えるんだったか。
知らなかったとは言え、少々乱暴に相手しすぎたな…。
まあ、どうにかなるだろう。何かあれば昨日みたいにあの棒切れを分捕ればいい。
さて、マルトーから頼まれた雑用でもやるとするか。
魔法やらドラゴンやらが実在するのだから、何が居てもおかしくは無いだろうが…。
尻尾が燃えているトカゲもどきに一つ目の化け物だと? 頭がおかしくなりそうだ。
「ミスタ・スピード?」
「あんな生き物は見た事が無い」
「ほう、そうですか。あちらがサラマンダー。そしてあちらがバグベアーですぞ」
「…襲っては来ないだろうな?」
「はは、心配要りません。彼らは契約によって絶対服従ですからな。
主人やその他の人間を襲うなんて事はまずありませんぞ」
絶対服従、ねえ…。この世に絶対なんてのは無えんだよ、コルベール。
現に俺はこんなガキに服従なんぞしてないしな。
……ちょっと待て。そう、俺はこのガキと契約…。
「コルベール。昨日のドラゴンもその…『 契約 』とやらで大人しくなってるのか?」
「ミス・タバサの風竜の事ですか? ええ、もちろんです。ドラゴンも例外ではありませんぞ」
でかい火トカゲに目玉、それにあのドラゴン…。
コルベールの言う事が正しいのなら、あの化け物どもは全部『 契約 』で『 服従 』しているというのか。
……なら俺もあんな風になるというのか?
全身に薄ら寒い物が走った。
物の価値や見方は常に変動するものだ。金が紙切れ以下になったり、仲間が殺すべき敵になったり。
そしてさっきまでは唯の五月蝿いガキだと思ってた奴が、俺の生存権を掌握する魔女に見えたり。
…そして今、俺はその魔女と向かい合っている。
「えー。それではミス・ヴァリエールにミスタ・スピード。
先日までの事は水に流して、今日はお互いに親睦を深め合って下さい」
『溝を深める』の間違いじゃないのか?
そんな事を思わせる雰囲気を目の前のガキ…ルイズは放っていた。…空気が不味い。
「それでは私はこれで…」
去って行くコルベールの背中からルイズに視線を移す。
「………」
「………」
「……座りなさいよ。」
「………」
「………」
沈黙。ルイズが茶を啜る。ティーカップを置く。沈黙。……嫌な空気だ。
例の疑念を抱く前なら何という事もなかったが、今はまるでロシアンルーレットの最中のように緊張する。
「クロード、アンタに言っておく事があるわ」
「……」
「あの程度の脅しで私が屈服するとは思わない事ね。アンタは私の使い魔、その事実は変わらないのよ」
少し前まではガキの戯言に聞こえたその台詞も、今は終身刑の宣告に等しく聞こえた。
最もそんな宣告などクソッタレだが。
「断る、と言ったら?」
「そんなの無理よ」
「断る」
「……そう」
「………」
「クロード・スピード。今からアンタに躾をしてあげる」
「…お前に出来るのか?」
ティーカップを口に近づけるルイズ。
「心配しなくても良いわよ」
次の瞬間、紅茶の波が目の前に広がった。
「うおっ!?」
いきなり紅茶をぶっかけてくるとは…!
予想外の出来事に対応できる訳もなく、無様に椅子を倒しながら地面へ転げ落ちた。
上着の左肩と左腕を中心に紅茶まみれに。なんてこった。
「このクソガ…っ!」
それを見た瞬間、怒りなど吹っ飛んだ。かわりに頭の中を占めたのは最大限の警鐘。これは、ヤバイ。
ルイズが俺に杖を向けて呪文を唱えていた。
コルベールの小屋から数時間ぶりに外に出ると、辺りには夜の帳が下りようとしていた。
空を見上げれば星光と二つの月。こんな澄んだ空を見るのは久しぶりだ。
……ここが地球だったら素直に綺麗だと思えるんだが。
「如何ですかな? ミスタ・スピード。実物の感想は」
「…まあ、悪くはないな」
悪くはないが、落ちつかない。ここが地球ではない事を再認識させられるからだ。
脳裏にコルベールの言葉が甦る。
『元の世界に帰る術は、今の所存在しません』
冗談じゃない。必ず探し出してやる。そして絶対に帰る。
…その為にも、まずは足場を固める必要がある。揺らぐ事のない足場を。
必要な物は沢山あるが、最も重要なのは…信用。まずは信用を得ねばならない。
……だが、今欲しいのは信用よりも飯だ。
「なあ、コルベール。飯はどうすればいい? 金なんか持ってないんだが」
「食事ですか……。本来なら使い魔の主人であるミス・ヴァリエールが用意すべきなんですが……。
困ったものです」
「全くだ。癇癪で部屋から追い出すうえに飯は抜き。本当に酷い『 ご主人さま 』だよ」
もちろん癇癪で追い出されたなんてのは大嘘だ。コルベールは俺の話を簡単に信じてくれたので助かったが。
「おお、そうだ。あそこなら丁度良い!」
「? 何だコルベール」
「ミスタ・スピード、夕食についてですが…」
「アンタもとんだ災難に巻き込まれたなあ。はっはっは!」
「こんな上手い飯が食えるならむしろ幸運だな」
「ははっ、嬉しいこと言ってくれるじゃないの!」
コルベールの案内で通されたのは学院の厨房。
貴族の食堂で飯を食うのは色々とまずい事と、平民同士の方が落ちついて飯も食えるだろう、との理由からだ。
それにしても本当にこの飯は美味いな。こんな美味い飯を喰うのは久しぶりだ。
「マルトー、間違い無くあんたは最高の料理人だよ」
「んな事言ってくれんのはアンタぐらいだ! 貴族の馬鹿どもの舌よりアンタの舌の方がよっぽど肥えてんな!」
なるほど、マルトーは貴族が嫌いなのか。覚えておこう。
今日はどうにかなったが、明日も飯を食える保障はない。
幸い今のマルトーはかなり上機嫌だ。俺への警戒も解けている。頼むなら今しかないな。
「マルトー、いきなりで悪いんだが頼みがある」
「んん? なんだい、言ってみな」
「明日からもここで食事を分けてくれないか? もちろん代金は払う。俺の体でな」
一瞬呆気に取られたマルトーだったが、すぐに笑いながら返答してきた。
「ははっ、そんな事か! タダで良いに決まってんだろう!
貴族の使い魔なんぞにされた上に、食事を抜かれるなんて酷え目にあってるんだ。
ここで助けなかったら平民の名が廃らあっ!」
どうやら飯の心配はしなくて済みそうだ。本当にいい奴だな、マルトーは。
「マルトー、世話になってばかりだと俺の気が引ける。雑用でも良いから手伝わせてくれ」
もちろん善意からこんな事を言いはしない。
「おめえ……何て律儀な奴なんだ! 貴族の馬鹿どもに見習わせたいぜ!
クロード・スピード、何か困った事があれば遠慮なく相談してくれよ!」
「恩にきる、マルトー」
使える人間がまた一人増えたな。
薄暗い闇に漂う朝もやの中、新鮮な空気をたっぷりと吸い込み全身に行き渡らせる。…美味い。
確かこの世界には排気ガスが殆ど無いんだったか。それが関係してるのかもな。
軽く体をほぐし厨房に向かう。マルトー達は既に朝食の下準備を始めていた。
「おう、起きたか兄弟! 寝心地は良かったか?」
「ああ。やはりベッドは良いな、よく眠れる」
まさか寝床まで提供してくれるとはな…本当にこの男は気前が良い。
「そういやあ、今日は使い魔との仲を深める茶会があんだよ。あんたも出るのかい?」
「初耳だな…。出ないといけないのか?」
「さあな。面倒なら逃げちまいな! はっはっは…」
さて、どうしたものか。
賄い飯の最後の一口を飲み込みながら今日の予定を考える。…とりあえずコルベールと話してみるか。
コルベールの仲介でレ…ルイズだったか? と合流する事になった。
例の茶会が始まる頃に呼びに来るから、それまで適当に時間を潰せ、との事だ。
…マズイ事をしたもんだ。確か爆発する魔法が使えるんだったか。
知らなかったとは言え、少々乱暴に相手しすぎたな…。
まあ、どうにかなるだろう。何かあれば昨日みたいにあの棒切れを分捕ればいい。
さて、マルトーから頼まれた雑用でもやるとするか。
魔法やらドラゴンやらが実在するのだから、何が居てもおかしくは無いだろうが…。
尻尾が燃えているトカゲもどきに一つ目の化け物だと? 頭がおかしくなりそうだ。
「ミスタ・スピード?」
「あんな生き物は見た事が無い」
「ほう、そうですか。あちらがサラマンダー。そしてあちらがバグベアーですぞ」
「…襲っては来ないだろうな?」
「はは、心配要りません。彼らは契約によって絶対服従ですからな。
主人やその他の人間を襲うなんて事はまずありませんぞ」
絶対服従、か。この世に絶対なんてのは無えんだよ、コルベール。
現に俺はこんなガキに服従なんぞしてないしな。
……ちょっと待て。そう、俺はこのガキと契約…。
「コルベール。昨日のドラゴンもその…『 契約 』とやらで大人しくなってるのか?」
「ミス・タバサの風竜の事ですか? ええ、もちろんです。ドラゴンも例外ではありませんぞ」
でかい火トカゲに目玉、それにあのドラゴン…。
コルベールの言う事が正しいのなら、あの化け物どもは全部『 契約 』で『 服従 』しているというのか。
……なら俺もあんな風になるというのか?
全身に薄ら寒い物が走った。
物の価値や見方は常に変動するものだ。金が紙切れ以下になったり、仲間が殺すべき敵になったり。
そしてさっきまでは唯の五月蝿いガキだと思ってた奴が、俺の生存権を掌握する魔女に見えたり。
…そして今、俺はその魔女と向かい合っている。
「えー。それではミス・ヴァリエールにミスタ・スピード。
先日までの事は水に流して、今日はお互いに親睦を深め合って下さい」
『溝を深める』の間違いじゃないのか?
そんな事を思わせる雰囲気を目の前のガキ…ルイズは放っていた。…空気が不味い。
「それでは私はこれで…」
去って行くコルベールの背中からルイズに視線を移す。
「………」
「………」
「……座りなさいよ。」
「………」
「………」
沈黙。ルイズが茶を啜る。ティーカップを置く。沈黙。……嫌な空気だ。
例の疑念を抱く前なら何という事もなかったが、今はまるでロシアンルーレットの最中のように緊張する。
「クロード、アンタに言っておく事があるわ」
「……」
「あの程度の脅しで私が屈服するとは思わない事ね。アンタは私の使い魔、その事実は変わらないのよ」
少し前まではガキの戯言に聞こえたその台詞も、今は終身刑の宣告に等しく聞こえた。
最もそんな宣告などクソッタレだが。
「断る、と言ったら?」
「そんなの無理よ」
「断る」
「……そう」
「………」
「クロード・スピード。今からアンタに躾をしてあげる」
「…お前に出来るのか?」
ティーカップを口に近づけるルイズ。
「心配しなくても良いわよ」
次の瞬間、紅茶の波が目の前に広がった。
「うおっ!?」
いきなり紅茶をぶっかけてくるとは…!
予想外の出来事に対応できる訳もなく、無様に椅子を倒しながら地面へ転げ落ちた。
上着の左肩と左腕を中心に紅茶まみれに。なんてこった。
「このクソガ…っ!」
それを見た瞬間、怒りなど吹っ飛んだ。かわりに頭の中を占めたのは最大限の警鐘。これは、ヤバイ。
ルイズが俺に杖を向けて呪文を唱えていた。
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