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「足の付け根がイタイ・・・・」
疲労を隠しもせず、マシロは僅かながらこの木々に覆われた野道の先を行くルイズの姿を必死になって追いかけていた。「女の子のルイズちゃんが平然と歩いているのに、男の自分がこんなにもバテバテだなんて恥ずかしい限りだ」と心から思うマシロ。
一方のルイズはと言えば、マシロより早いペースで歩いているのにも関わらず、時折後ろを振り返ったり立ち止まったりしてマシロを気遣う程の余裕を見せている。そんなルイズの健脚ぶりには頭が下がる思いだ。
しかし、ココで弱音を吐くわけにはいかない。これはいわばマシロにとってとある目的を果たすための一つのチャンスであったからだ。そもそもの事の起こりは数十分前にさかのぼる。
名門魔法学校であるトリステイン魔法学院は、大きく分けて、外界と学園の敷地を別ける外壁に覆われた外周部と、各種教室や寮といった学院施設の集まった中心部から成る。 中心部中央には、食堂や学院長室や各教員の待機室といった管理施設や数多の宝物の納められた宝物庫のある中央棟、その周囲には各種教室のある教室塔、生徒達が寝起きする学生寮といった、5つの尖塔が中央棟を取り囲むように五角形の頂点の位置に立ち並び、中央棟とそれぞれの塔を繋ぐ回廊、五角形の頂点である5つの塔を繋ぐ辺のように壁がそびえ立っている。
一時間程も中央棟や寮を一通り見て回り、二人は今、中央棟と教室塔の中程にある庭園で休憩を取っていた。
「コレが私達が学んでいるトリステイン魔法学園です。一通り見て回ったわけですが、何か質問はございますか?マシロ様」
先程、召喚の儀式の行われた広場の時とは打って変わった丁寧な言葉遣いのルイズに、マシロは正直どうしたものかと思い悩む。やはり王であるということで気を遣ってくれているのであろうかと思い、答える。
「質問は特に無いんだけど、そのマシロ様っていうのは止めてほしいかな。え~とルイズ・・・・様でいいんだっけ?」
「い、いえ。様は要りません。それに一国の王を呼び捨てだなんて。」
「でも、ボクはルイズちゃんとは友達になりたいんだから。だからマシロでいいよ。」
「うん、マシロ」
様付けでなくて良いなんて最初から解っている。だけどこの際である、それを利用させて貰おうと、マシロはあえてそう答えたのだった。思ったように会話が転がり、マシロは胸の中でガッツポーズを取る。ルイズはと言えば「そっかマシロって呼べばいいのか」と小声でつぶやいている。そして意を決し、ルイズはマシロに一つの提案をした。
「それでなんだけど、マシロ。まだまだ時間はあるみたいだから、少し門の外を見て回らない?。」
「外?」
「ええ、門を出て少し行ったところに、見晴らしの良い場所があってね、友達だったら紹介しておくべきかなって。」
まだ多少は態度に硬いところがある様なルイズではあるが、その申し出は正しく友人としての物であり、その事にマシロは喜びを感じ、「うん。一緒に行こう」と元気に答えたのだ。
そんな事情もあって、無理にでも後を追いかけ、歩き続けるマシロだったが、遂にというか、木々のすこし開けた辺りまでたどり着いたところで、ルイズの方が『見ていられない』とばかりに歩みを止め、そしてマシロの方へと駆け寄ってきた。
「ダメじゃない。疲れたなら疲れたと言わないと。
無理して歩く必要はないの。休み休みで構わないのよ?、時間はたっぷり残っているんだし。そもそももう着いたわ。」
「ええ!?あ、ああ、そうだったの?。」
森の木々の間から覗くのは、蒼天の輝きを映した澄んだ水辺。サラサラと流れる水音が聞こえてくる。そこは、砂漠化の進むエアルでは余り見かけることのない自然の恵みに抱かれた泉であった。ルイズ手を引かれてその光景を目の当たりにしたマシロは、感動と共に両の瞳を見開いた。
「キレイだ・・・・・・。」
ただ一言そう言うと、マシロは草の上に仰向けで倒れ込んだ。そよぐ風が纏う草の香りがマシロの頬をなで、一抹の爽快さをもたらす。木々の葉の間からこぼれる陽の光は、風に揺れる葉の影を大地の上に映しだし、その場の安らぎを演出していた。大地のひんやりとした感触を感じながら優しく目を閉じる。そんな愛らしい少女の仕草に、ルイズはクスリを笑みを浮かべ、そのすぐ隣に腰を下ろすのだった。
見上げれば、青々とした大空。空そのものが舞い降りてきそうなそんな広がりを感じる大空。その群青をところどころ淡く彩るのは、かすれるような白い雲。まるで空に掛かる一筋の道の様なそんなうっすらと長く流れる雲だ。どこからか聞こえてくる小鳥の囀りが、何とも心地よく響いている。
何を考えるでもなく、二人は穏やかな時に身をまかせていた。
ふと、マシロは目の前に広がる雄大な大空の中で、気になる一点を、その白魚の様な指で指し示した。
「ねえ、アレって月?」
「ええ、そうだけど。どうしたの?」
何を当たり前の事をという表情のルイズに、マシロはさらに問う。
「じゃあさ、アレは?」
先程指し示した昼の青い空の中で、一際大きく白くその姿を浮かべる月の少し脇に、そのうっすらと紅く輝く円形を指さす。
「月よ。」
「月?月はあっちの大きくて白いのじゃないの?」
「何言ってるの?月っていったら大きい月と小さい月の二つでしょうに。」
「いや、ボクの居たエアルじゃ月は一つだったんだけど・・・・・・。」
ルイズは不思議そうに二つの月を見比べるマシロの顔を覗き込む。それは到底ウソ偽りを言っているようには見えなかった。
「あなたって、随分変わったところから来たようね。そう言えば、始祖ブリミルも聖地の門からこの世界に降臨したって聞いたこと有るけど、もしかして貴女と同じ所からきたのかしら?貴女だったらそういう神秘的な背景とか似合いそうだわ。」
「ルイズちゃん。ソレ、言い過ぎ。ボクは普通の人間だよ。」
困った様な表情で照れ、ポニーテイル状に結った頭を掻くマシロ。そんな彼女の姿に好ましい物を感じ、自然ルイズはちょっとした説明を。
「変な事言ってゴメンね。
それで、少し二つの月について説明すると、月はどちらも魔法にとって重要な意味を持つのだけど、小さい月の方は『より魔法に関係が深いのでは?』っていう学者も居るようね。少なくとも確実なのは、天に浮かぶ大陸である、アルビオンは、二つの月が重なるときに、このトリステインに最も近づくと言う事かしら。」
そんなルイズの言葉にひたすら関心していた。だがソレと同時にマシロは一つの存在に思至る。即ち伝承にある二つの貴石の源、世界を作り出す力を秘めた星と伝えられる『媛星』の事を。移民歴以前の大崩壊よりさらに昔、空にもう一つの月とでも言うべき『媛星』が未だ存在した時代のエアル。それはここハルケギニアと同様に魔法や幻想的生物の存在した世界だったのかもしれないと。だとしたら、自分たちにとってルイズ達の住むこのハルケギニアと呼ばれる大陸の営みは、かつての失われた時代の写し鏡のような物なのかもしれないと、ある種のロマンをマシロに抱かせるのであった。とはいえ、そんな事はさして重要でもあるまい。そう思い、マシロは身体を起こす。
「そう言えばさ、ココってルイズちゃんの言ってた『見せたい所』なワケだよね。スゴくキレイだね。」
「ええ。そう言ってもらえると嬉しいわ。」
言葉と共に浮かんだ笑みは、やや重い。
「ココはね。私の実家ヴァリエール家の付近にある私のお気に入りの泉と、なんだか良く似ているのよ。」
「思い出の場所と同じ光景ってワケなんだね。」
「ええ、」
染み渡る様な、憂いを秘めた眼差しのルイズ。ふと気付き、その横顔をマシロは見つめ続ける。白磁の頬に朱の唇。こうしてよく見れば尚更にルイズは美しい少女だ。だからこそ、その憂愁に沈む彼女から、マシロは目が離せない。
「昔から怒られたり悲しいことがあると、泉に行ってね、そして小船の中に寝転がって、こんな感じで空を見上げたっけ。学園に来てからも、一回も魔法が成功しなくてゼロだなんて呼ばれてさ、ココを見つけてからは、結構似たようなことしてた。・・・・・・」
そう言ったルイズの語尾が微妙に震えている。目元にはうっすらとした涙が夜空を流れる星の如く、銀に輝き流れ落ちた。それを合図とするかの様に、ルイズの中で感情が荒れ狂う。「どうして、どうしてこんな風になってしまうの」と何よりその瞳が訴えている。マシロはそんなルイズをただ見ていることが出来なくなり、抱きしめた。
「ルイズちゃん?何か思うところがあるなら吐きだして良いんだよ。友達でしょ?」
マシロの呟きがルイズの耳元で優しく解き放たれた。
「わたし、使い魔を持てないから進級できないの。」
その一言を切っ掛けに決壊したルイズの心が溢れ出す。己の側、肩を寄せ合うその優しい少女に対する相反した思いが。
「生まれて初めて魔法が成功したのに、何度も失敗して繰り返したあげくとはいえ、使い魔を召喚する呪文はうまくできたのに、人間を呼び出しちゃったから、契約出来ないから、このままじゃ進級出来ない。呼び出しちゃったのが王族のマシロだから契約できないの!!。でも、なんでこんなに優しいの?なんで恨む事も出来ないのよ。私が悪いのは解ってる。でも、でもぉ」
「ごめんね」
抱きとめたルイズにただ謝るマシロ。
「せめて、この後で学院長って人に会ったときに頼んでみる。契約はきちんと結んだんだからルイズちゃんには進級する資格があるって。確かにボクは王様だからこのまま一生守ることは出来ない。でも、戻る方法が見つかるまでは、使い魔としてルイズちゃんを守り抜く。約束だよ。」
「約束?」
「うん、約束」
儚げに漏れるは震える声。それを受け止めるのは、陽のぬくもりの優しい声。少女は少女の胸へと貌を埋め、声を上げて泣き出した。水面の目映い照り返しの中、二人の影は一つに重なる。
陽は傾き、そして沈む。学院外周部の泉から戻り、ようやく校舎のある中央施設にたどり着いた二人だった。もう、オスマン学院長も戻った頃かもしれない。急いだ方がいいのは解っていても、特に明確な時間指定は無かったのだからと、ついついその足はさして速まりもせず、ごくごく普通に進むだけ。しかも、学院長室のある中央棟ではなくルイズの自室のある、寮である塔へ。
本当の気持ちを吐きだした後だからであろうか、ルイズのマシロへの親しみ様はまるで長年の親友に対する物のかのようだ。友情は時間ではない。それはただ、如何に深いところで絆が結ばれているかという事なのかもしれない。
「到着♪」
ルイズは先程の泉での出来事など無かったかの如く、いやさ、その出来事を振り切るが如くであろうか、元気よく部屋の扉を開けて、ベットへと腰掛ける。その右の手にはしっかりと繋がれたマシロの手。彼女はその親愛の情を余すことなく表現するかのように、マシロを自分のベットへと誘い座らせた。ルイズはベッド脇の水差しから水を汲むとコップを差し出し、自分もまた別のコップを取ると水を喉へと注ぎ込む。
「まあ、オスマン学院長の所に行くのは少し休んでからでもいいでしょうしね。」
「そうだね。一応髪ぐらいは梳かして落ち着いてからの方がいいのかも。」
マシロは一息にコップの水を飲み干し、ベッド脇の台に戻すと、持っていた小物入れから櫛を取り出し、ポニーテール状に結った髪を留めたバレットを外し、髪をとかし始めた。
「マシロ。私の鏡台使ったら?別に構わないわよ?」
「うんありがとう」
鏡台前の椅子に腰掛けるマシロと、その背後で一心に髪を梳くマシロの姿を眺めるルイズ。こうしてみると、マシロの紫の輝きを宿す銀の髪は、熟練職人の手による銀細工の様に、あくまで気品ある輝きと繊細さを感じさせずにはいられない様にルイズには思われたのである。ルイズはその髪を一房手に取ると、その手から髪の毛がさらりと流れ落ちる様を眺め楽しんだ。
「ホント、マシロってキレイよね。この髪もそうなら顔立ちも今はまだ歳のせいかカワイイ感じの方が強いけど、かなり凛々しい感じの美人顔だし。それに何よりこの胸よ。」
言葉と共に、ルイズの両の手がマシロの胸を抱え込む様に押し当てられる。
一瞬、その感覚にパニックを起こしかけるが、樹脂製の付け胸に体温が伝わった結果、まるで自分の身体の一部の様になっているのだろうと思い直し、息を整え気持ちを落ち着ける。マシロのそんな状態を気付いてかどうか、如何にも面白そうに乳房をその手でもてあそぶルイズと、ふと『そんなに大きな付け胸はして無かったとおもうケド』との疑問も浮かぶが素直に胸を揉まれ続けるマシロ。
「歳の割に、けしからない程大きくはなくって?」
「い、いやそれは・・・」
ニヤリと笑みを浮かべるルイズに、マシロは、「そろそろ潮時だよね流石に」と思い、ドレスの背中のチャックを降ろし、その付け胸を外し、「実は・・・・」と言いつつ手渡す。受け取ったルイズとは言えば、その愛らしい瞳で興味深そうに樹脂製の付け胸を指でつついて遊んでいる。
「へえ、良くできてるのね。」
「うん、実は・・・・。」
そう言い、ルイズの目の前に向き直るマシロ。過ちは出来うる限り早く正しておいた方が、被害は余程少ないだろうから。そう考えてその裸身をルイズへと晒すのであった。
「気にしなくても良いわよ。その歳ならそれ位が当たり前でしょ?私だって胸は小さい方だから、気持ちは解らないでもないわ。」
「そう言ってくれると助か・・・・。」
ふとルイズの言葉に違和感を感じる。
確かに自分は童顔かもしれないが、女の子として考えたら実年齢程度には見える筈。だとすれば、男でありペッタンコの胸を見れば、彼女の口からそんな台詞は出るはずが無いのだ。マシロは恐る恐るその視線を自分の胸へと移した。するとそこには、こんもりと男の子にはあり得ない、でも女の子としては小振りな純白の丘が二つ並んでいた。
急に血の気が引く様な感覚に陥るマシロ。
「あ、あのルイズちゃん。トイレまで案内してもらえる?」
「え、いいけど」
再びドレスに身を包み、寮の共同女子トイレまで案内してもらうとマシロは早速個室へと駆け込み、己の下半身、いやさ局所をその眼中に納めた。そしてその有り得ざる光景に『なんで、ボクが女の子に?』と当たり前過ぎる考えを抱きつつ、便器の上で項垂れるのであった。
つづく
#navi(真白なる使い魔)
「足の付け根がイタイ・・・・」
疲労を隠しもせず、マシロは僅かながらこの木々に覆われた野道の先を行くルイズの姿を必死になって追いかけていた。「女の子のルイズちゃんが平然と歩いているのに、男の自分がこんなにもバテバテだなんて恥ずかしい限りだ」と心から思うマシロ。
一方のルイズはと言えば、マシロより早いペースで歩いているのにも関わらず、時折後ろを振り返ったり立ち止まったりしてマシロを気遣う程の余裕を見せている。そんなルイズの健脚ぶりには頭が下がる思いだ。
しかし、ココで弱音を吐くわけにはいかない。これはいわばマシロにとってとある目的を果たすための一つのチャンスであったからだ。そもそもの事の起こりは数十分前にさかのぼる。
名門魔法学校であるトリスティン魔法学院は、大きく分けて、外界と学園の敷地を別ける外壁に覆われた外周部と、各種教室や寮といった学院施設の集まった中心部から成る。 中心部中央には、食堂や学院長室や各教員の待機室といった管理施設や数多の宝物の納められた宝物庫のある中央棟、その周囲には各種教室のある教室塔、生徒達が寝起きする学生寮といった、5つの尖塔が中央棟を取り囲むように五角形の頂点の位置に立ち並び、中央棟とそれぞれの塔を繋ぐ回廊、五角形の頂点である5つの塔を繋ぐ辺のように壁がそびえ立っている。
一時間程も中央棟や寮を一通り見て回り、二人は今、中央棟と教室塔の中程にある庭園で休憩を取っていた。
「コレが私達が学んでいるトリスティン魔法学園です。一通り見て回ったわけですが、何か質問はございますか?マシロ様」
先程、召喚の儀式の行われた広場の時とは打って変わった丁寧な言葉遣いのルイズに、マシロは正直どうしたものかと思い悩む。やはり王であるということで気を遣ってくれているのであろうかと思い、答える。
「質問は特に無いんだけど、そのマシロ様っていうのは止めてほしいかな。え~とルイズ・・・・様でいいんだっけ?」
「い、いえ。様は要りません。それに一国の王を呼び捨てだなんて。」
「でも、ボクはルイズちゃんとは友達になりたいんだから。だからマシロでいいよ。」
「うん、えっと‥‥よろしくマシロ」
様付けでなくて良いなんて最初から解っている。だけどこの際である、それを利用させて貰おうと、マシロはあえてそう答えたのだった。思ったように会話が転がり、マシロは胸の中でガッツポーズを取る。ルイズはと言えば「そっかマシロって呼べばいいのか」と小声でつぶやいている。そして意を決し、ルイズはマシロに一つの提案をした。
「それでなんだけど、マシロ。まだまだ時間はあるみたいだから、少し門の外を見て回らない?。」
「外?」
「ええ、門を出て少し行ったところに、見晴らしの良い場所があってね、友達だったら紹介しておくべきかなって。」
まだ多少は態度に硬いところがある様なルイズではあるが、その申し出は正しく友人としての物であり、その事にマシロは喜びを感じ、「うん。一緒に行こう」と元気に答えたのだ。
そんな事情もあって、無理にでも後を追いかけ、歩き続けるマシロだったが、遂にというか、木々のすこし開けた辺りまでたどり着いたところで、ルイズの方が『見ていられない』とばかりに歩みを止め、そしてマシロの方へと駆け寄ってきた。
「ダメじゃない。疲れたなら疲れたと言わないと。
無理して歩く必要はないの。休み休みで構わないのよ?、時間はたっぷり残っているんだし。そもそももう着いたわ。」
「ええ!?あ、ああ、そうだったの?。」
森の木々の間から覗くのは、蒼天の輝きを映した澄んだ水辺。サラサラと流れる水音が聞こえてくる。そこは、砂漠化の進むエアルでは余り見かけることのない自然の恵みに抱かれた泉であった。ルイズ手を引かれてその光景を目の当たりにしたマシロは、感動と共に両の瞳を見開いた。
「キレイだ・・・・・・。」
ただ一言そう言うと、マシロは草の上に仰向けで倒れ込んだ。そよぐ風が纏う草の香りがマシロの頬をなで、一抹の爽快さをもたらす。木々の葉の間からこぼれる陽の光は、風に揺れる葉の影を大地の上に映しだし、その場の安らぎを演出していた。大地のひんやりとした感触を感じながら優しく目を閉じる。そんな愛らしい少女の仕草に、ルイズはクスリを笑みを浮かべ、そのすぐ隣に腰を下ろすのだった。
見上げれば、青々とした大空。空そのものが舞い降りてきそうなそんな広がりを感じる大空。その群青をところどころ淡く彩るのは、かすれるような白い雲。まるで空に掛かる一筋の道の様なそんなうっすらと長く流れる雲だ。どこからか聞こえてくる小鳥の囀りが、何とも心地よく響いている。
何を考えるでもなく、二人は穏やかな時に身をまかせていた。
ふと、マシロは目の前に広がる雄大な大空の中で、気になる一点を、その白魚の様な指で指し示した。
「ねえ、アレって月?」
「ええ、そうだけど。どうしたの?」
何を当たり前の事をという表情のルイズに、マシロはさらに問う。
「じゃあさ、アレは?」
先程指し示した昼の青い空の中で、一際大きく白くその姿を浮かべる月の少し脇に、そのうっすらと紅く輝く円形を指さす。
「月よ。」
「月?月はあっちの大きくて白いのじゃないの?」
「何言ってるの?月っていったら大きい月と小さい月の二つでしょうに。」
「いや、ボクの居たエアルじゃ月は一つだったんだけど・・・・・・。」
ルイズは不思議そうに二つの月を見比べるマシロの顔を覗き込む。それは到底ウソ偽りを言っているようには見えなかった。
「あなたって、随分変わったところから来たようね。そう言えば、始祖ブリミルも聖地の門からこの世界に降臨したって聞いたこと有るけど、もしかして貴女と同じ所からきたのかしら?貴女だったらそういう神秘的な背景とか似合いそうだわ。」
「ルイズちゃん。ソレ、言い過ぎ。ボクは普通の人間だよ。」
困った様な表情で照れ、ポニーテイル状に結った頭を掻くマシロ。そんな彼女の姿に好ましい物を感じ、自然ルイズはちょっとした説明を。
「変な事言ってゴメンね。
それで、少し二つの月について説明すると、月はどちらも魔法にとって重要な意味を持つのだけど、小さい月の方は『より魔法に関係が深いのでは?』っていう学者も居るようね。少なくとも確実なのは、天に浮かぶ大陸である、アルビオンは、二つの月が重なるときに、このトリステインに最も近づくと言う事かしら。」
そんなルイズの言葉にひたすら関心していた。だがソレと同時にマシロは一つの存在に思至る。即ち伝承にある二つの貴石の源、世界を作り出す力を秘めた星と伝えられる『媛星』の事を。移民歴以前の大崩壊よりさらに昔、空にもう一つの月とでも言うべき『媛星』が未だ存在した時代のエアル。それはここハルケギニアと同様に魔法や幻想的生物の存在した世界だったのかもしれないと。だとしたら、自分たちにとってルイズ達の住むこのハルケギニアと呼ばれる大陸の営みは、かつての失われた時代の写し鏡のような物なのかもしれないと、ある種のロマンをマシロに抱かせるのであった。とはいえ、そんな事はさして重要でもあるまい。そう思い、マシロは身体を起こす。
「そう言えばさ、ココってルイズちゃんの言ってた『見せたい所』なワケだよね。スゴくキレイだね。」
「ええ。そう言ってもらえると嬉しいわ。」
言葉と共に浮かんだ笑みは、やや重い。
「ココはね。私の実家ヴァリエール家の付近にある私のお気に入りの湖の畔と、なんだか良く似ているのよ。」
「思い出の場所と同じ光景ってワケなんだね。」
「ええ、」
染み渡る様な、憂いを秘めた眼差しのルイズ。ふと気付き、その横顔をマシロは見つめ続ける。白磁の頬に朱の唇。こうしてよく見れば尚更にルイズは美しい少女だ。だからこそ、その憂愁に沈む彼女から、マシロは目が離せない。
「昔から怒られたり悲しいことがあると、湖の畔に行ってね、そして小船の中に寝転がって、こんな感じで空を見上げたっけ。学園に来てからも、一回も魔法が成功しなくてゼロだなんて呼ばれてさ、ココを見つけてからは、結構似たようなことしてた。・・・・・・」
そう言ったルイズの語尾が微妙に震えている。目元にはうっすらとした涙が夜空を流れる星の如く、銀に輝き流れ落ちた。それを合図とするかの様に、ルイズの中で感情が荒れ狂う。「どうして、どうしてこんな風になってしまうの」と何よりその瞳が訴えている。マシロはそんなルイズをただ見ていることが出来なくなり、抱きしめた。
「ルイズちゃん?何か思うところがあるなら吐きだして良いんだよ。友達でしょ?」
マシロの呟きがルイズの耳元で優しく解き放たれた。
「わたし、使い魔を持てないから進級できないの。」
その一言を切っ掛けに決壊したルイズの心が溢れ出す。己の側、肩を寄せ合うその優しい少女に対する相反した思いが。
「生まれて初めて魔法が成功したのに、何度も失敗して繰り返したあげくとはいえ、使い魔を召喚する呪文はうまくできたのに、人間を呼び出しちゃったから、使い魔で居続けてもらうなんて出来ないから、このままじゃ進級出来ない。呼び出しちゃったのが王族のマシロだから契約できないの!!。でも、なんでこんなに優しいの?なんで恨む事も出来ないのよ。私が悪いのは解ってる。でも、でもぉ」
「ごめんね」
抱きとめたルイズにただ謝るマシロ。
「せめて、この後で学院長って人に会ったときに頼んでみる。契約はきちんと結んだんだからルイズちゃんには進級する資格があるって。確かにボクは王様だからこのまま一生守ることは出来ない。でも、戻る方法が見つかるまでは、使い魔としてルイズちゃんを守り抜く。約束だよ。」
「約束?」
「うん、約束」
儚げに漏れるは震える声。それを受け止めるのは、陽のぬくもりの優しい声。少女は少女の胸へと貌を埋め、声を上げて泣き出した。水面の目映い照り返しの中、二人の影は一つに重なる。
陽は傾き、そして沈む。学院外周部の泉から戻り、ようやく校舎のある中央施設にたどり着いた二人だった。もう、オスマン学院長も戻った頃かもしれない。急いだ方がいいのは解っていても、特に明確な時間指定は無かったのだからと、ついついその足はさして速まりもせず、ごくごく普通に進むだけ。しかも、学院長室のある中央棟ではなくルイズの自室のある、寮である塔へ。
本当の気持ちを吐きだした後だからであろうか、ルイズのマシロへの親しみ様はまるで長年の親友に対する物のかのようだ。友情は時間ではない。それはただ、如何に深いところで絆が結ばれているかという事なのかもしれない。
「到着♪」
ルイズは先程の泉での出来事など無かったかの如く、いやさ、その出来事を振り切るが如くであろうか、元気よく部屋の扉を開けて、ベットへと腰掛ける。その右の手にはしっかりと繋がれたマシロの手。彼女はその親愛の情を余すことなく表現するかのように、マシロを自分のベットへと誘い座らせた。ルイズはベッド脇の水差しから水を汲むとコップを差し出し、自分もまた別のコップを取ると水を喉へと注ぎ込む。
「まあ、オスマン学院長の所に行くのは少し休んでからでもいいでしょうしね。」
「そうだね。一応髪ぐらいは梳かして落ち着いてからの方がいいのかも。」
マシロは一息にコップの水を飲み干し、ベッド脇の台に戻すと、持っていた小物入れから櫛を取り出し、ポニーテール状に結った髪を留めたバレットを外し、髪をとかし始めた。
「マシロ。私の鏡台使ったら?別に構わないわよ?」
「うんありがとう」
鏡台前の椅子に腰掛けるマシロと、その背後で一心に髪を梳くマシロの姿を眺めるルイズ。こうしてみると、マシロの紫の輝きを宿す銀の髪は、熟練職人の手による銀細工の様に、あくまで気品ある輝きと繊細さを感じさせずにはいられない様にルイズには思われたのである。ルイズはその髪を一房手に取ると、その手から髪の毛がさらりと流れ落ちる様を眺め楽しんだ。
「ホント、マシロってキレイよね。この髪もそうなら顔立ちも今はまだ歳のせいかカワイイ感じの方が強いけど、かなり凛々しい感じの美人顔だし。それに何よりこの胸よ。」
言葉と共に、ルイズの両の手がマシロの胸を抱え込む様に押し当てられる。
一瞬、その感覚にパニックを起こしかけるが、樹脂製の付け胸に体温が伝わった結果、まるで自分の身体の一部の様になっているのだろうと思い直し、息を整え気持ちを落ち着ける。マシロのそんな状態を気付いてかどうか、如何にも面白そうに乳房をその手でもてあそぶルイズと、ふと『そんなに大きな付け胸はして無かったとおもうケド』との疑問も浮かぶが素直に胸を揉まれ続けるマシロ。
「歳の割に、けしからない程大きくはなくって?」
「い、いやそれは・・・」
ニヤリと笑みを浮かべるルイズに、マシロは、「そろそろ潮時だよね流石に」と思い、ドレスの背中のチャックを降ろし、その付け胸を外し、「実は・・・・」と言いつつ手渡す。受け取ったルイズとは言えば、その愛らしい瞳で興味深そうに樹脂製の付け胸を指でつついて遊んでいる。
「へえ、良くできてるのね。」
「うん、実は・・・・。」
そう言い、ルイズの目の前に向き直るマシロ。過ちは出来うる限り早く正しておいた方が、被害は余程少ないだろうから。そう考えてその裸身をルイズへと晒すのであった。
「気にしなくても良いわよ。その歳ならそれ位が当たり前でしょ?私だって胸は小さい方だから、気持ちは解らないでもないわ。」
「そう言ってくれると助か・・・・。」
ふとルイズの言葉に違和感を感じる。
確かに自分は童顔かもしれないが、女の子として考えたら実年齢程度には見える筈。だとすれば、男でありペッタンコの胸を見れば、彼女の口からそんな台詞は出るはずが無いのだ。マシロは恐る恐るその視線を自分の胸へと移した。するとそこには、こんもりと男の子にはあり得ない、でも女の子としては小振りな純白の丘が二つ並んでいた。
『な、なんでなんでなんで?』
急に血の気が引く様な感覚に陥るマシロ。
「あ、あのルイズちゃん。トイレまで案内してもらえる?」
「え、いいけど」
再びドレスに身を包み、寮の共同女子トイレまで案内してもらうとマシロは早速個室へと駆け込み、己の下半身、いやさ局所をその眼中に納めた。そしてその有り得ざる光景に『なんで、ボクが女の子に?』と当たり前過ぎる考えを抱きつつ、便器の上で項垂れるのであった。
つづく
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