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「マジシャン ザ ルイズ 3章 (8)」(2008/09/04 (木) 19:34:23) の最新版変更点
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マジシャン ザ ルイズ (8)轟くときの声
サン・マリアンヌ号。
小型貨物船ながら、足の速さと様々な方面に顔の聞く船長のお陰で、ラ・ロシェールからアルビオンに行き来する船の中でも、古株の域にある船である。
その甲板に、やせ過ぎた航海師トリントと恰幅の良い船長ブルータスの姿があった。
「おい、見つかったか」
赤ら顔のブルータスが、手にある酒瓶を呷りながらトリントに聞いた。
「いえ、…まだ見つかりません」
「なんてこった、航路を間違ったんじゃねえだろうな」
トリントの手には望遠鏡があり、しきりに左右を確認している。
新月、港町ラ・ロシェールと白の国アルビオンがもっとも近づく朝出港したサン・マリアンヌ号。
その前方には白い雲が広がるのみである。
「そんなはずはありません………多分」
「多分だぁ?信じられるかそんな言葉、大方飲み過ぎて間違えたんだろうよ。
こちとら風石に余裕はねぇんだ、どうしてくれるんだよ!ああ!?」
ブルータスが酒の勢いに任せて激昂しかけた時、鐘楼の上の見張りから大声がかけられた。
「船長!左舷後方よりアレキサンメリア号が接近してきますっ!」
「ああん?」
サン・マリアンヌ号に並行する形で横に並ぶ黒塗りの小型船舶。
アレキサンメリア号、ブルータス率いるサン・マリアンヌ号と、ことあるごとに『競争』している同業者である。
その船長ドリアンは今、サン・マリアンヌ号にいた。
「よぉう、ブルータス、こんなイカ臭ぇ船に態々足を運んでやったぜ、有り難く思いな。
こっちはうちの航海師ジドーだ、臆病者なんであんまり怖い目で見てやってくれるなや」
頬に秋刀魚傷を残す精悍な顔つきのドリアン船長、その隣には伏し目がちでおどおどとした航海師ジドー。
その二人がサン・マリアンヌ号の甲板、ブルータスとトリントの向かいに立っていた。
「てめぇもこんなとこにいるってぇことは、お互い迷子かよ、くだらねぇ」
「ってことは、やっぱお前らもか。今日は一段と雲が濃かったからなぁ」
「お前らのとこのも酔っ払って進路間違えんたろうよ、今回こそは勝ったと思ったにな。畜生」
勝った負けたは、ラ・ロシェールからの貨物をどちらが早くアルビオンへと届けるかという競争についてである。
同じ雇い主から運搬を頼まれることの多い二人は、時折こうして貨物運搬の速度を競い合っていた。
「馬鹿言っちゃいけねぇ。うちのジドーはてめぇのところのボンクラとは訳が違う。
ジドーが間違ったとは俺は思っちゃいねぇ」
「はぁ?何言ってんだよ、間違ってないなら何で無いんだよ」
「知るかよ、んなことを。
兎も角、お前のとこの航海師と、うちのとこの航海師、一緒に迷っちまうなんて有りえねぇよ」
「どういうことでぇ………?
おい、お前らはどう思ってるんだよ」
ここで初めて、航海師二人にじろりと目を向けるブルータス。問われた航海師達はおずおずと自分の意見を述べた。
「航路は間違っていなかったと………ここが目的地、だと思います」
「ぼ、ぼ、ぼ僕も同じ、い、意見です」
二人の言葉を聞いて、ブルータスは天を仰いだ。
「じゃあ、どういうことだよ………アルビオンはどこへ出かけちまったてんだよ、なぁ」
トリステイン王国、王都トリスタニア。
ゲルマニアに嫁ぐ結婚式まで数日と迫った昼、花嫁となるアンリエッタは凪いだ心でウェディングドレスを着ていた。
先日の取り乱していた面影は無く、そこには美しい花嫁の姿があった。
本縫いが終わったばかりの純白の花嫁衣裳。
姿見に映る、それを着ている自分の姿を見ても、その心は騒がなかった。
来るアルビオンとの戦争に備えてのゲルマニアとの軍事同盟、その結束にとって必要不可欠な政略結婚。
国の為に捧げる我が身。
けれど、アンリエッタの心は澄み渡り、まるでいつかのラグドリアン湖のようであった。
ウェールズ皇太子と語らったラグドリアン湖。
あの日、王子は自分との愛を誓わなかった、国を、そして自分を想って。
今ならその気持ちも分かる気がする。
自分を愛する人の為、愛するが故に己が身を捧げる。そのことに何の躊躇いがあろうか。
「アンリエッタ殿下」
どれくらい時間がたっていたのだろうか。
アンリエッタが気付いた時、部屋の戸口には厳しい顔をした魔法衛視隊の騎士が一人が立っていた。
「マザリーニ枢機卿がお呼びです。ガリア王国と神聖アルビオン共和国から、特使が参られたとのことです」
「アルビオンと、ガリア、ですか?」
アルビオンは兎も角、ガリアは今回の戦争に対しては静観の姿勢を貫いている。
考えられるのは、アンリエッタとゲルマニア皇帝との婚姻に関係することくらいであった。
しかし、アルビオンとガリアという取り合わせ、この両国の特使が示し合わしたように到着したという事実にアンリエッタは違和感を覚えた。
「分かりました、すぐに向かいます」
悪い予感がした。
特使達はそれぞれアルビオン貴族議会議員サー・ジョストン、ガリア東薔薇騎士団団長バッソ・カステルモールと名乗った。
出迎えたのは慌てて着替えたアンリエッタとマザリーニ枢機卿である。
マザリーニはアンリエッタの母であるマリアンヌ大后にも同席を願ったのだが、これを拒否されてしまったらしい。
特使二人は重い沈黙の気配を纏い、まるで岩のように控えている。
張り詰めた雰囲気が漂う中、まずはマザリーニ枢機卿が口を開いた。
「それでは、御用向きをお伺いいたしましょうか」
アンリエッタは、マザリーニのその一言で、静止していた時間が動き出したように感じた。
まずはバッソ・カステルモールが立ち上がった。
「我が王からの用命をお伝えいたします。
我がガリア王国は、本日をもって神聖アルビオン共和国との軍事同盟を締結いたします」
「なっ!!」
マザリーニとアンリエッタ、両者は同時に目を見開いた。
神聖アルビオンと、軍事大国ガリア、この両者に交流があったなどとは寝耳に水である。
「何故です!一体なにが、」
「続きまして!」
アンリエッタがあげかけた声を遮って、バッソ・カステルモールは大声で続けた。
「我がガリア王国は、卑怯にも軍事同盟の締結を阻む目論見で、ガリア国王ジョゼフ一世を暗殺したトリステイン王国、及び帝政ゲルマニア両国に対し、ガリア王国女王イザベラ一世の名において、宣戦を布告いたします!」
この発言を聞き、マザリーニとアンリエッタは真の意味で言葉を失った。
トリステインがジョゼフ一世を暗殺した?
何故か?何故そのような言葉がこの特使の口から出たのか、理解が出来ないでいた。
先に我に返ったアンリエッタが大声でバッソの発言を否定する。
「誤解です!我がトリステインはガリア王ジョゼフ一世を害しようなどと考えたことは一度もございません!」
これを聞いたカステルモールが憤怒の形相で応る。
「何と!白々しいにも程がある!トリステイン王家は恥を知らぬようだ!
ガリア王国は暗殺者の身元を証明する証拠を有している!貴国の魔法衛視隊が暗殺者であった証拠を!」
バッソ・カステルモールの、嘘をついているとは到底思えない真摯な怒りを宿した瞳。
それを見たアンリエッタは、アルビオンとだけではなく、ガリア王国との戦争も避けられないことを知り、目の前が絶望に閉ざされていくのを感じた。
激昂して興奮するバッソ・カステルモール、その用向きが終わったと見たのか、今度はアルビオンのサー・ジェストンが立ち上がった。
「我が神聖アルビオン共和国は、ガリア王国との軍事同盟の締結を宣言いたします。
また、これに関わり、卑劣にもガリア王ジョゼフ一世を暗殺せしめたトリステイン王国、及び帝政ゲルマニア両国に対して、即時不可侵条約を破棄し、宣戦を布告いたします」
サー・ジェストンがにやりと笑ったように、アンリエッタの目には映った。
「報告いたしますっ!」
沈痛な空気が支配する謁見の間に、先ほどアンリエッタの部屋を訪ねた騎士とは別の、魔法衛視隊の隊員が真っ青な顔色で飛び込んできた。
「な、何用ですか!
今は重要な特使を迎えている最中です。報告なら後ほど」
ここではっとした顔のアンリエッタが、マザリーニの発言を遮った。
「いいえマザリーニ枢機卿!報告を続けさせるべきです!
一体、何が起こりましたか?」
アンリエッタ王女に促された魔法衛視隊員は、ゆっくりと深呼吸をすると興奮を抑えるようにして答えた。
「浮遊大陸アルビオンが、突如としてゲルマニア帝国領上空に出現。軍を展開し、帝都ヴィンドボナを目指し進軍を開始した模様です。
ゲルマニアはこれに対して応戦の構えを見せています」
アンリエッタはその報告を聞いて、失意のあまり崩れ落ちるようにしてうなだれることしか出来なかった。
(嵌められた………)
ガリアとアルビオンの突然の軍事同盟締結。続いてアルビオンによるゲルマニアの攻撃。
正に電撃的な手際としか言いようが無い神速の一手である。
戦争開始を九ヶ月先と見越していたトリステインとゲルマニアは準備が整っていない。
近く、確実にゲルマニアから援軍要請が来るであろう。
しかし、南にガリア王国という脅威を抱えたトリステインからゲルマニアへ援軍を送ることは容易ではない。
ゲルマニア帝国は墜ちる。
そうなれば、残るトリステイン王国だけでアルビオン=ガリアに立ち向かわなくてはならなくなるのだ。
戦いが始まる。大きな戦いだ。
どれくらい大きいかって?お前さんが数えられないくらいの人が死ぬ戦いさ。
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マジシャン ザ ルイズ (8)轟くときの声
サン・マリアンヌ号。
小型貨物船ながら、足の速さと様々な方面に顔の聞く船長のお陰で、ラ・ロシェールからアルビオンに行き来する船の中でも、古株の域にある船である。
その甲板に、やせ過ぎた航海師トリントと恰幅の良い船長ブルータスの姿があった。
「おい、見つかったか」
赤ら顔のブルータスが、手にある酒瓶を呷りながらトリントに聞いた。
「いえ、…まだ見つかりません」
「なんてこった、航路を間違ったんじゃねえだろうな」
トリントの手には望遠鏡があり、しきりに左右を確認している。
新月、港町ラ・ロシェールと白の国アルビオンがもっとも近づく朝出港したサン・マリアンヌ号。
その前方には白い雲が広がるのみである。
「そんなはずはありません………多分」
「多分だぁ?信じられるかそんな言葉、大方飲み過ぎて間違えたんだろうよ。
こちとら風石に余裕はねぇんだ、どうしてくれるんだよ!ああ!?」
ブルータスが酒の勢いに任せて激昂しかけた時、鐘楼の上の見張りから大声がかけられた。
「船長!左舷後方よりアレキサンメリア号が接近してきますっ!」
「ああん?」
サン・マリアンヌ号に並行する形で横に並ぶ黒塗りの小型船舶。
アレキサンメリア号、ブルータス率いるサン・マリアンヌ号と、ことあるごとに『競争』している同業者である。
その船長ドリアンは今、サン・マリアンヌ号にいた。
「よぉう、ブルータス、こんなイカ臭ぇ船に態々足を運んでやったぜ、有り難く思いな。
こっちはうちの航海師ジドーだ、臆病者なんであんまり怖い目で見てやってくれるなや」
頬に秋刀魚傷を残す精悍な顔つきのドリアン船長、その隣には伏し目がちでおどおどとした航海師ジドー。
その二人がサン・マリアンヌ号の甲板、ブルータスとトリントの向かいに立っていた。
「てめぇもこんなとこにいるってぇことは、お互い迷子かよ、くだらねぇ」
「ってことは、やっぱお前らもか。今日は一段と雲が濃かったからなぁ」
「お前らのとこのも酔っ払って進路間違えんたろうよ、今回こそは勝ったと思ったにな。畜生」
勝った負けたは、ラ・ロシェールからの貨物をどちらが早くアルビオンへと届けるかという競争についてである。
同じ雇い主から運搬を頼まれることの多い二人は、時折こうして貨物運搬の速度を競い合っていた。
「馬鹿言っちゃいけねぇ。うちのジドーはてめぇのところのボンクラとは訳が違う。
ジドーが間違ったとは俺は思っちゃいねぇ」
「はぁ?何言ってんだよ、間違ってないなら何で無いんだよ」
「知るかよ、んなことを。
兎も角、お前のとこの航海師と、うちのとこの航海師、一緒に迷っちまうなんて有りえねぇよ」
「どういうことでぇ………?
おい、お前らはどう思ってるんだよ」
ここで初めて、航海師二人にじろりと目を向けるブルータス。問われた航海師達はおずおずと自分の意見を述べた。
「航路は間違っていなかったと………ここが目的地、だと思います」
「ぼ、ぼ、ぼ僕も同じ、い、意見です」
二人の言葉を聞いて、ブルータスは天を仰いだ。
「じゃあ、どういうことだよ………アルビオンはどこへ出かけちまったてんだよ、なぁ」
トリステイン王国、王都トリスタニア。
ゲルマニアに嫁ぐ結婚式まで数日と迫った昼、花嫁となるアンリエッタは凪いだ心でウェディングドレスを着ていた。
先日の取り乱していた面影は無く、そこには美しい花嫁の姿があった。
本縫いが終わったばかりの純白の花嫁衣裳。
姿見に映る、それを着ている自分の姿を見ても、その心は騒がなかった。
来るアルビオンとの戦争に備えてのゲルマニアとの軍事同盟、その結束にとって必要不可欠な政略結婚。
国の為に捧げる我が身。
けれど、アンリエッタの心は澄み渡り、まるでいつかのラグドリアン湖のようであった。
ウェールズ皇太子と語らったラグドリアン湖。
あの日、王子は自分との愛を誓わなかった、国を、そして自分を想って。
今ならその気持ちも分かる気がする。
自分を愛する人の為、愛するが故に己が身を捧げる。そのことに何の躊躇いがあろうか。
「アンリエッタ殿下」
どれくらい時間がたっていたのだろうか。
アンリエッタが気付いた時、部屋の戸口には厳しい顔をした魔法衛士隊の騎士が一人が立っていた。
「マザリーニ枢機卿がお呼びです。ガリア王国と神聖アルビオン共和国から、特使が参られたとのことです」
「アルビオンと、ガリア、ですか?」
アルビオンは兎も角、ガリアは今回の戦争に対しては静観の姿勢を貫いている。
考えられるのは、アンリエッタとゲルマニア皇帝との婚姻に関係することくらいであった。
しかし、アルビオンとガリアという取り合わせ、この両国の特使が示し合わしたように到着したという事実にアンリエッタは違和感を覚えた。
「分かりました、すぐに向かいます」
悪い予感がした。
特使達はそれぞれアルビオン貴族議会議員サー・ジョストン、ガリア東薔薇騎士団団長バッソ・カステルモールと名乗った。
出迎えたのは慌てて着替えたアンリエッタとマザリーニ枢機卿である。
マザリーニはアンリエッタの母であるマリアンヌ大后にも同席を願ったのだが、これを拒否されてしまったらしい。
特使二人は重い沈黙の気配を纏い、まるで岩のように控えている。
張り詰めた雰囲気が漂う中、まずはマザリーニ枢機卿が口を開いた。
「それでは、御用向きをお伺いいたしましょうか」
アンリエッタは、マザリーニのその一言で、静止していた時間が動き出したように感じた。
まずはバッソ・カステルモールが立ち上がった。
「我が王からの用命をお伝えいたします。
我がガリア王国は、本日をもって神聖アルビオン共和国との軍事同盟を締結いたします」
「なっ!!」
マザリーニとアンリエッタ、両者は同時に目を見開いた。
神聖アルビオンと、軍事大国ガリア、この両者に交流があったなどとは寝耳に水である。
「何故です!一体なにが、」
「続きまして!」
アンリエッタがあげかけた声を遮って、バッソ・カステルモールは大声で続けた。
「我がガリア王国は、卑怯にも軍事同盟の締結を阻む目論見で、ガリア国王ジョゼフ一世を暗殺したトリステイン王国、及び帝政ゲルマニア両国に対し、ガリア王国女王イザベラ一世の名において、宣戦を布告いたします!」
この発言を聞き、マザリーニとアンリエッタは真の意味で言葉を失った。
トリステインがジョゼフ一世を暗殺した?
何故か?何故そのような言葉がこの特使の口から出たのか、理解が出来ないでいた。
先に我に返ったアンリエッタが大声でバッソの発言を否定する。
「誤解です!我がトリステインはガリア王ジョゼフ一世を害しようなどと考えたことは一度もございません!」
これを聞いたカステルモールが憤怒の形相で応る。
「何と!白々しいにも程がある!トリステイン王家は恥を知らぬようだ!
ガリア王国は暗殺者の身元を証明する証拠を有している!貴国の魔法衛士隊が暗殺者であった証拠を!」
バッソ・カステルモールの、嘘をついているとは到底思えない真摯な怒りを宿した瞳。
それを見たアンリエッタは、アルビオンとだけではなく、ガリア王国との戦争も避けられないことを知り、目の前が絶望に閉ざされていくのを感じた。
激昂して興奮するバッソ・カステルモール、その用向きが終わったと見たのか、今度はアルビオンのサー・ジェストンが立ち上がった。
「我が神聖アルビオン共和国は、ガリア王国との軍事同盟の締結を宣言いたします。
また、これに関わり、卑劣にもガリア王ジョゼフ一世を暗殺せしめたトリステイン王国、及び帝政ゲルマニア両国に対して、即時不可侵条約を破棄し、宣戦を布告いたします」
サー・ジェストンがにやりと笑ったように、アンリエッタの目には映った。
「報告いたしますっ!」
沈痛な空気が支配する謁見の間に、先ほどアンリエッタの部屋を訪ねた騎士とは別の、魔法衛士隊の隊員が真っ青な顔色で飛び込んできた。
「な、何用ですか!
今は重要な特使を迎えている最中です。報告なら後ほど」
ここではっとした顔のアンリエッタが、マザリーニの発言を遮った。
「いいえマザリーニ枢機卿!報告を続けさせるべきです!
一体、何が起こりましたか?」
アンリエッタ王女に促された魔法衛士隊員は、ゆっくりと深呼吸をすると興奮を抑えるようにして答えた。
「浮遊大陸アルビオンが、突如としてゲルマニア帝国領上空に出現。軍を展開し、帝都ヴィンドボナを目指し進軍を開始した模様です。
ゲルマニアはこれに対して応戦の構えを見せています」
アンリエッタはその報告を聞いて、失意のあまり崩れ落ちるようにしてうなだれることしか出来なかった。
(嵌められた………)
ガリアとアルビオンの突然の軍事同盟締結。続いてアルビオンによるゲルマニアの攻撃。
正に電撃的な手際としか言いようが無い神速の一手である。
戦争開始を九ヶ月先と見越していたトリステインとゲルマニアは準備が整っていない。
近く、確実にゲルマニアから援軍要請が来るであろう。
しかし、南にガリア王国という脅威を抱えたトリステインからゲルマニアへ援軍を送ることは容易ではない。
ゲルマニア帝国は墜ちる。
そうなれば、残るトリステイン王国だけでアルビオン=ガリアに立ち向かわなくてはならなくなるのだ。
戦いが始まる。大きな戦いだ。
どれくらい大きいかって?お前さんが数えられないくらいの人が死ぬ戦いさ。
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