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『ゼロのはっちゃけ』
三人目 ~秘書でも切れる髭曜日~
セクシャルハラスメントは犯罪だ。
パワーハラスメントも犯罪だ。
ミス・ロングビルは肩をいからせて廊下を歩いていた。
「あのじじいめ! いつもいつも尻を触るわ胸を触るわ下着を覗くわキィ~~~~!」
誰もいないと思ったのだろう、裏庭で壁に向かって奇声を上げるロングビル。
人目につかない場所で壁をヒールでけたぐる。
「クソックソックソッ! 何であたしがこんなに我慢を!? 没落貴族だからってなめやがってぇ~!」
「ミ、ミス・ロングビル?」
振り返るとそこには、魔法の特訓から帰るところだったルイズの姿があった。
やばい、すわ本性がばれたか? とあせるロングビルに近寄り、ルイズは涙目で手を取った。
「うわさ程度に聞いてはいましたがそんなにひどいのですか、オールド・オスマンのセクハラは」
どうやら敵ではなかったらしい。
「は、はあ、恥ずかしながら我慢の限界でした。お目汚しを申し訳ありません、ミス・ヴァリエール」
「いえ! 女同士、力にはなれずとも愚痴を聞くくらいは可能です。あまりためると体に悪いとも聞きますし遠慮されずに」
「……ミス・ヴァリエール」
何だ、貴族の癖に結構いいやつじゃないか。
なんだか妙なきっかけで女の友情が生まれていた。
キュルケが女にも目覚めたとか変なうわさが立っている。
ケラケラ笑いながらそれを聞くルイズはともかく、姉御肌のキュルケだからかその噂でキュルケに近づく女生徒が増えたのは確かだ。
「趣味が多彩ねぇ、キュルケ?」
「……お願い、もう勘弁して」
オールド・オスマンはエロ爺である。
何せ尻が d(・∀・o)イイ!!! という理由で素性もいまいちわからない女性を雇うくらいだ。
さらには立場があるからってだけなのに、触っても文句を言わないから『惚れてるんじゃね? (*´Д`)ハァハァ 』とか言っちゃってる、ちょっとかわいそうなおじいさんでもある。
まあそれでも人柄ゆえか実力ゆえかその地位は確固たるものだった。
「コールタール君、例の三人から話は聞けたかね?」
「コルベールです。誰がよわむしおばけですか。支離滅裂ですよ。共通した特徴ならわかりましたが荒唐無稽でして」
「まあとりあえず見せてみい、ベルメール君」
「だからコルベールです。誰が刈り上げモヒカンの元軍人ですか。こちらの資料ですね」
資料の内容は確かにめちゃくちゃだった。
「……いくらなんでもこれはなかろう」
「ですが共通しています。緑の顔、派手な服装、竜巻のような移動速度」
「体を紙より薄くしたりゴムのように体を変形させたりがか? 挙句無詠唱でのアイテムの引き寄せに魔法を吸って返してくる? エルフでもここまではできんぞ。ん?」
「ええ、ですから何らかの種類の亜人ではないかと」
「厄介じゃのう。……ところでミス・ロングビルはどこかの?」
「何言ってんです、セクハラでさっき出て行ったばかりですよ。少しは自重してください」
「フヒヒ、サーセンw」
何故ここでミス・ロングビルの入浴シーンなのか?
話の都合と諸氏の想像を掻き立てるためだ。
ボディブラシでごしごしと背中を洗っていると、視界の端に見覚えのあるものが見えた。
それは細くて長いネズミの尻尾。
「あんのジジイ!」
我慢ならんと杖を手に取った瞬間、何かが突風を上げて風呂場に乱入した。
「Yeah! レイディ! 湯加減いかが?」
「ああああああ! 緑の怪人!」
「Hum? そんなに有名? なんだかうれしくなっちゃう♪」
「なな何でここここここ」
「鶏みたいよ?用事はコ・レ」
手袋に包まれたその手には一匹のネズミがぶら下がっている。
オスマンの使い魔モートソグニル、使い魔と主は視界と感覚を共有するのだから、何のためにいるのかは言わずもがなである。
「それじゃあね~」
チューチューわめくモートソグニルをポケットから引っ張り出したかごに入れ、きたときと同じように、突風と共に女は去っていった。
「……報告なんていらないよねぇ。ああ、でもあの使い魔に罪は無いか」
しかたがない、とロングビルはバスローブを身にまとった。
オスマンはあせっていた。
己の使い魔にいつものように覗きの手伝いをさせていたら、突然現れた緑の亜人にさらわれてしまったからだ。
覗きの最中に見つけちゃった♪などとコルベール伝えるわけにも行かず、自分で動くため杖を取った。
視界を共有すると、モートソグニルの目の前にはなんともうまそうなチーズ、その周りには見たことにあるような何か。
「……図書館じゃと?」
そこは生徒の立ち入りが禁止された書庫だった。
図書室の中、モートソグニルはチーズを前によだれをたらしていた。
食べたことのなさそうななんともうまそうなその発酵臭にまるで人間のようにカゴにしがみつく。
ちなみにネズミの好物がチーズであるという事実は無い。
トム&○ェリーの穴あきチーズで有名になっただけで実際は野菜や種子が好物だ。
ここでは人間の使い魔だから、で納得してください、ええ。
それはともかく、チーズによだれをたらして主人の命令をすっかり忘れたモートソグニルは、カゴをがたがたと揺らしながらチーズを、チーズだけを見つめている。
オスマンが彼を見つけても、モートソグニルはチーズに釘付けだった。
「これはゲルマニア産のカマンベールかの? いいチーズをもっとるのう」
「お褒めに預かり光栄の至りね。ミス・ツェルプストーの部屋から失敬したのだけれど」
「誰じゃ!?」
背後からの声に振り返り杖を突きつける、その動きはまさに歴戦の勇士、しかしながらその杖の先には誰もいはしなかった。
「は~いネズミちゃんありがとう、おいしいチーズでちゅよ~」
確かにさっきまで誰もいなかったそこで、声とはまったく反対側のはずのそこで、まっ黄色なタイトスカートのスーツをまとった緑の亜人がカゴの中のモートソグニルにチーズを与えていた。
「……おぬしが一連の事件の犯人、ということかの?」
「さあ? その辺の答えて差し上げる必要が?」
「何が目的じゃ? 欲しいものがあるようにも見えん、この学園をからかうためかの?」
「目的? 目的?」
Humm……と女は腕を組み、理由を思い浮かべる。
「(こ、こやつ本当に考えておる! まるで理由など初めから無かったかのように!)」
「ああ、一つだけあるわね」
ポンと手を叩き、オスマンのほうにずいっと身を乗り出す。
「楽しいからよ!」
「楽しい、じゃと?」
「そう! 普段偉そぶってる貴族のお坊ちゃんお嬢ちゃんが慌てふためく様は何度見ても最! 高!」
「それだけの理由で学園を?」
「それ以外に思いつかないのよね。まるで神か何かみたいに振舞うやつらが私ごときに惨敗必至! もう最高!」
「その程度の理由でか!?」
思わず頭に血が上るオスマンに、女はごくごく普通に返した。
「それ以外に理由が必要? 選民気取りの馬鹿が醜く転げる様は愉快で愉快でたまらないもの」
杖を振るい呪文を唱えるオスマン、だがそれよりも早く、女の手が動いた。
「エア・ハンマー!」
だが唱えた魔法は実行されない。
何故だ? と手元に視線を落として、オスマンはあっけに取られた。
手の中にはいつもの杖ではなく、やたら可愛らしくて派手な大きなリボンのついた杖。
魔法少女の杖があった。
「あら変な御趣味をお持ちで」
「いつの間に!」
「今の間に、よ、ミスタ・オスマン」
「くっ!」
予備だろうかローブの中から杖を取り出し女に向けるオスマン。
だがその杖はクリスマスセットに入っていそうな、紅白ストライプのステッキだった。
「ぬああ!」
「ひゅ~ほほほほ~! ミスタ・オスマン、あなた楽しすぎるわ!」
その両手に二本の杖を持って、女は高らかに笑い上げる。
「さ~て、ミスタ・オスマン、覚悟はよろしくて?」
ポケットから取り出したそれは、小さな金属片が大量に並んだ楕円状の何か。
その根元の部分のとってらしきものを引っ張り一回、二回。
ドドドドド、と重低音と白煙を上げながら、金属片が楕円の円盤のエッジを回転し始めた。
「なななななんじゃねそれは!?」
「おーほほほほ! セクハラ爺に天誅を!」
「ととと年寄りにそれはどうかと思わんか!?」
「無・問・題!」
「いや、意味がわからんし!?」
「ダ~イ!」
「ギャーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
その様子を本棚の陰からじっと見る人影が一つ。
翌日オールド・オスマンは出勤してこなかった。
ロングビルはセクハラが無いからせいせいする、とまるで気にも留めずに書類整理をしている。
結局オスマンを探したのは、その日の授業が比較的少ないコルベールだけだった。
「結局見つからなかったなぁ……」
放課後、研究のために書庫の奥で文献をあさっていたコルベールは、本をしまいながら深くため息をついた。
結局オスマンは無断欠勤になったのだから。
「しかし本当にどこに行ったのか……」
本をしまっていると、床に見覚えのある杖が二本転がっている。。
それは確かにオールド・オスマンの杖。
一体なんだと上を見上げたコルベールは、驚きのあまり持っていた本をすべて取り落として動きを止めた。
天井には、オールド・オスマンが貼り付けになっていた。
落ちないように五体をきっちりと天井に固定し、口にはなにやらマスクのようなものでしゃべれないように閉ざされている。
さらには本当に一体どうやったのか、髪の毛やひげといった顔中の毛が一本一本蝶々結びにされていた。
翌日通常通りに出勤したオールド・オスマンは、何故か一回り顔がさっぱりしていた。
爽快な日々を笑って、ルイズは今日も床につく。
楽しい毎日を笑って、ルイズは明日も床につく。
主の幸福な寝顔の横で、仮面は今日も笑っている。
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