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「S-O2 星の使い魔-08」(2008/05/29 (木) 20:20:30) の最新版変更点
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結局、クロードが目覚めたのは決闘から3日後のことだった。
フェイズガンの行方にパニックを起こしかけ、左手に握っていたことに安堵したり。
うっかり立ち上がろうとして、右腕の痛みに失神しかけたり。
ルイズと口論になりかけ、肋骨と顎の痛みにまた失神しかけたり。
シエスタの態度が少し余所余所しいように感じたり。
ドロドロになったジャケットを洗濯したという話を聞いて、うっかり通信機の安否を尋ねかけたり。
とまあ細々とした事件は色々とあったものの、おおむね平和であった。
なお、通信機は一緒に洗濯されてしまったと言う話だったが、何の問題も無く作動していた。
冷静に考えれば、遭難する際に『着陸』でなく『着水』する可能性は決して低くない。
さらに落下した先の海、或いは河川や湖沼の成分も解ったものではないのだから、
防水対策に万全を期しているのは当然っちゃあ当然のことである。
恐るべし、宇宙歴366年のテクノロジー。
もっとも、残念ながら反応は相変わらずだったが。
(それにしても大したレベルだな、ここの治療術は)
問題なく動く左手を太陽に透かすようにかざし、クロードは思う。
骨折は右手以外はほぼくっつき、その他の外傷もほぼ完全に塞がっている。
細かい部位の痛みこそ残っているが、数日の治療とリハビリを続ければ回復するそうだ。
現在の地球の最先端技術を使っても、ここまで人としての原型を保ったまま、
これだけの早さで回復させるのは難しいだろう。
ただ、何時の時代、何処の世界でも医療とは金食い虫という一面があるわけで、
それとなくルイズに聞いてみたところ、ごっつええ笑顔でこう切り返された。
それこそ、キラキラという舞台効果でも効いていそうな勢いで。
「使い魔がそんなこと気にしなくてもいいのよ?」
ああ、そう言えば物心ついた頃に父さんの艦に乗せてもらって、
浮かれて調子に乗って目に付いたものを訳もわからず弄り倒して、
何だったかの機械をお釈迦にしたときの母さんが、あんな笑顔だったっけ。
……正直すいませんでした。
さて、何だかんだ言って入院生活───と言うのは多少語弊があるが、
兎に角クロードは暇を持て余していた。
ほぼ完治した左手と、未だ痛みが引かない右手を眺める。
結局、フェイズガンを使ってしまった。
己の不甲斐なさに思わず奥歯を噛み締め、鈍い痛みに思わず顔を顰める。
力が足りない。
ギーシュは所詮学生であり、戦闘のプロではない。
それにすら、今の自分は勝てなかったのだ。
今の自分の戦闘力では、本気のメイジを敵に回せばあっさり殺されるだろう。
無事な左手に意識を集中し、壁へ向けて開放する。
しかし、放たれた気弾は壁に当たる前に霧散して消滅していった。
これでは実戦で役に立たないな。
回復したら、本格的に修練を行った方が良いかもしれない。
我流で何処までやれるかはわからないけれど。
『コン、コン』
割と深刻に考えていたクロードだったが、ノックの音に思考を中断される。
それと前後してドアが開き、見覚えのある禿頭の教師が現れた。
「失礼するよ、クロード君」
「ええっと、コルベールさん?」
思わぬ来客に戸惑うクロード。
そう畏まる必要は無いよ、と、コルベールは破顔する。
「怪我の具合はどうかね?」
「ええ、おかげさまで。ここの治療術は凄いですね」
「そうか、それはよかった」
そう言って笑うコルベールだったが、その表情に何処か硬さがある。
何だろう、この違和感は。
貼り付けたような笑顔には痛みさえ混じっているように感じられた。
決まり悪そうに様子を伺うクロードにコルベールも何かを感じたらしく、
真顔に戻って深々と頭を下げる。
「え、何を……?」
「正直に話そう、クロード君。
私たちは君とギーシュの決闘の一部始終を見ていたんだ。
教師として、大人として、それを止めなかったことを心より詫びる」
クロードは困惑した。
個人的には中途半端に横槍を入れられるよりも、
むしろ最後まで徹底的にやらせてもらえて良かったとさえ思っている。
だがそれは、所詮は主観に基づく結果論でしかないことをクロードは理解してしまっていた。
そして、彼が教師としてどうすべきだったのかということも、
その件について責任を感じていることも。
理性ばかりが先行し、感情を持て余したままクロードは言葉を続ける。
「……それは、僕が異国の人間だからですか?」
「否定はしない。だが、それ以上に君の左手のルーンが問題なのだよ」
これが? とクロードは左手に目を落とす。
コルベールは頷き、言葉を続ける。
「そのルーンは、私たちの世界で『ガンダールヴ』という伝承で語られている」
「それって確か、この世界の創生にまつわる伝説でしたよね?」
「よく知っているね。始祖ブリミルの守り手として、あらゆる武器を使いこなしたと言われている。
又の名を『神の盾』、伝説の使い魔の一柱だ」
コルベールの話によると、このルーンにはあらゆる武器を理解し、
使いこなす能力が与えられるのだと言う。
成る程、フェイズガンが妙に手に馴染むと思ったら、そういうからくりだったのか。
何処まで行っても『借り物の力』に縁があることだ。
と、そこに思い至ったところで、新たな疑問が浮かぶ。
「でも、ちょっと待ってください。
僕が『ガンダールヴ』だとしたら、その主であるルイズは何なんですか?
確かに彼女は、普通のメイジとは違うようですけど」
「うむ、君の言うとおり。実は、私たちが最も知りたいこともそれなのだ」
コルベールは問う。
クロードの目に、ルイズはどのように映っているのか。
ルイズの力について、どのように考えているのか。
正直に答えるべきか否か。
しばしの逡巡の後、クロードはフェイズガンをかざして答えた。
その意味するところは即ち、己の心のままに。
「……きっと、貴方達がこれに対して持っている感情と同じだと思います」
それは理解し得ぬ圧倒的な存在。
世界の理さえも崩しかねない、巨大すぎる力。
「彼女は断じて『ゼロ』ではない、それは確信を持って言えます。
ですが、どこかで道を踏み外せば、最悪の虐殺者として歴史に名を残すことになるかもしれない。
或いは、このルーンで彼女を『兵器』として制御出来るとすれば、
僕はこの世界の破壊者として召喚されたという見方も出来るかもしれませんね」
やろうとは思いませんけど、と最後に一応の断りを入れてクロードは言葉を切る。
トリステインの常識を超えた解釈に、コルベールは唸る。
成る程、始祖の伝承が深く根付いたハルケギニアの人間ではこのような発想は生まれるまい。
厳格な教師ならば問答無用で叱り飛ばしているところだろう。
「……案外、君のその解釈は間違っていないのかもしれない」
「……」
何より、彼女を見る限り説得力がありすぎる。
言外にそう含まれたコルベールの呟きを最後に、部屋に沈黙が訪れる。
二人の脳裏には、一つの最悪の未来が鮮明に映し出されていた。
魔法を行使する度に爆発を起こすルイズは『ゼロ』と呼ばれ、周りから蔑まれ続けてきた。
クロードから見れば発現の方向性が違うだけなのだが、
この世界では4大系統に分類出来ない魔法を評価する術が無い。
しかも、コモン・マジックの行使すらままならないのだから尚更である。
何にせよ、ここで重要なのは彼女は周りから認められることに飢え続けてきた、ということである。
さて、ここで一つ視点を変えてみよう。
彼女の力である『爆発』、それが最大限に評価される場所は何処だろうか?
おそらく、100人に尋ねれば8、90人は『戦争』だと答えるだろう。
艦の一つや二つ沈めるくらいのポテンシャルを、彼女は十分に秘めていると見る。
いや、下手をすれば砦や城、下手をすれば島や街さえも。
何にせよ、彼女が武勲を立てれば、周囲の人間はこれまでの自分たちの言動や行動を綺麗に忘れ去り、褒め称えるだろう。
ルイズは良くも悪くも純粋な少女であり、誇り高く名誉を重んじる貴族である。
賞賛の声は何よりも彼女の胸に強く響き、渇きを満たすことだろう。
やがて、それ無しでは居られなくなるほどに。
彼女の手が振るわれる度に村は消え、城は吹き飛ぶ。
幾百の瓦礫と幾万の屍の上に立ち、微笑んで賞賛を受けるルイズ。
やがて、人々は彼女をこう呼ぶ。
『トリステインの英雄』或いは『ハルケギニアの破壊の化身』と──────
「……そのようなことは、私の眼が黒いうちは絶対に許さない」
コルベールはクロードの眼をしっかりと見据え、迷いの無い口調で言い切る。
瞳の奥に映る、過ちを繰り返させてなるものかという決意。
真一文字に結ばれた口元、握り締められた拳。
───大丈夫だ。この人は信用できる。
「……ありがとうございます」
自然と、感謝の言葉が口から零れ出た。
こんな風に素直に謝意を述べるのは、随分と久しぶりのように感じる。
何に対して感謝しているのかは、自分でも解らなかったけれど。
「おっと、そろそろお暇しなくては。授業があるのでね」
「あ……そうでしたか。お話出来て、よかったです」
「いやいや、私としても色々と興味深い話を多く聞けて良かったよ。
それと、君の処分なのだが……
君のルーンについて、本国への報告は見送られることになった。
理由は、君ならば解っているだろう」
「この力が、危険だからですね」
クロードの返答にコルベールは大きく頷いた。
「うむ。ああ、それとギーシュに伝言を頼まれていたんだった」
「ギーシュ……決闘した、彼から?」
「『あの決闘を通じて、僕は戦の本当の恐ろしさの一端を知ることが出来た。
君に感謝するとともに、ご両親を侮辱したことを心より詫びる。
君が許してくれるなら、一度ゆっくり話し合いたい』……だそうだ。
君も何か、彼に伝言はあるかね?」
しばしクロードは考え込む。
そんなに悪い奴じゃなかったんだな、あいつ。
だったら─────
「僕も売り言葉に買い言葉で、彼の家の悪口を言いましたから。
そちらが詫びるのであれば、僕も頭を下げなきゃ釣り合わないでしょう。
悪かった、と伝えておいてください。
あと、本命は一本に絞っとくように、とも」
最後に少しだけ悪戯っぽく笑うクロード。
それを聞いたコルベールは一瞬固まるが、すぐに表情を崩す。
解った、確かに伝えよう、と添えて笑顔でコルベールは部屋を後にした。
再び、クロードは部屋に一人残される。
改めて思う。いい人たちだな、と。
そして、この人たちとは、いずれ遠からず別れなければならない、ということも。
こんな感覚は地球に居たときには得られなかった。
自分を、ただ一人のクロード=C=ケニーとして受け入れてくれる世界。
ずっと求め続けてきたものが、ここにある。
きっと、地球に戻ればまた『英雄の息子』に逆戻りするのだろう。
張り付いた笑顔と、その裏に隠された悪意。
人と触れ合うことの喜びを知ってしまった自分に、耐えられるのだろうか。
(僕は、この先どうなることを望んでいるんだろう……)
その疑問に答えるものは居ない。
それはきっと、自分で答えを見つけなければならない方程式。
#navi(S-O2 星の使い魔)
結局、クロードが目覚めたのは決闘から3日後のことだった。
フェイズガンの行方にパニックを起こしかけ、左手に握っていたことに安堵したり。
うっかり立ち上がろうとして、右腕の痛みに失神しかけたり。
ルイズと口論になりかけ、肋骨と顎の痛みにまた失神しかけたり。
シエスタの態度が少し余所余所しいように感じたり。
ドロドロになったジャケットを洗濯したという話を聞いて、うっかり通信機の安否を尋ねかけたり。
とまあ細々とした事件は色々とあったものの、おおむね平和であった。
なお、通信機は一緒に洗濯されてしまったと言う話だったが、何の問題も無く作動していた。
冷静に考えれば、遭難する際に『着陸』でなく『着水』する可能性は決して低くない。
さらに落下した先の海、或いは河川や湖沼の成分も解ったものではないのだから、
防水対策に万全を期しているのは当然っちゃあ当然のことである。
恐るべし、宇宙歴366年のテクノロジー。
もっとも、残念ながら反応は相変わらずだったが。
(それにしても大したレベルだな、ここの治療術は)
問題なく動く左手を太陽に透かすようにかざし、クロードは思う。
骨折は右手以外はほぼくっつき、その他の外傷もほぼ完全に塞がっている。
細かい部位の痛みこそ残っているが、数日の治療とリハビリを続ければ回復するそうだ。
現在の地球の最先端技術を使っても、ここまで人としての原型を保ったまま、
これだけの早さで回復させるのは難しいだろう。
ただ、何時の時代、何処の世界でも医療とは金食い虫という一面があるわけで、
それとなくルイズに聞いてみたところ、ごっつええ笑顔でこう切り返された。
それこそ、キラキラという舞台効果でも効いていそうな勢いで。
「使い魔がそんなこと気にしなくてもいいのよ?」
ああ、そう言えば物心ついた頃に父さんの艦に乗せてもらって、
浮かれて調子に乗って目に付いたものを訳もわからず弄り倒して、
何だったかの機械をお釈迦にしたときの母さんが、あんな笑顔だったっけ。
……正直すいませんでした。
さて、何だかんだ言って入院生活───と言うのは多少語弊があるが、
兎に角クロードは暇を持て余していた。
ほぼ完治した左手と、未だ痛みが引かない右手を眺める。
結局、フェイズガンを使ってしまった。
己の不甲斐なさに思わず奥歯を噛み締め、鈍い痛みに思わず顔を顰める。
力が足りない。
ギーシュは所詮学生であり、戦闘のプロではない。
それにすら、今の自分は勝てなかったのだ。
今の自分の戦闘力では、本気のメイジを敵に回せばあっさり殺されるだろう。
無事な左手に意識を集中し、壁へ向けて開放する。
しかし、放たれた気弾は壁に当たる前に霧散して消滅していった。
これでは実戦で役に立たないな。
回復したら、本格的に修練を行った方が良いかもしれない。
我流で何処までやれるかはわからないけれど。
『コン、コン』
割と深刻に考えていたクロードだったが、ノックの音に思考を中断される。
それと前後してドアが開き、見覚えのある禿頭の教師が現れた。
「失礼するよ、クロード君」
「ええっと、コルベールさん?」
思わぬ来客に戸惑うクロード。
そう畏まる必要は無いよ、と、コルベールは破顔する。
「怪我の具合はどうかね?」
「ええ、おかげさまで。ここの治療術は凄いですね」
「そうか、それはよかった」
そう言って笑うコルベールだったが、その表情に何処か硬さがある。
何だろう、この違和感は。
貼り付けたような笑顔には痛みさえ混じっているように感じられた。
決まり悪そうに様子を伺うクロードにコルベールも何かを感じたらしく、
真顔に戻って深々と頭を下げる。
「え、何を……?」
「正直に話そう、クロード君。
私たちは君とギーシュの決闘の一部始終を見ていたんだ。
教師として、大人として、それを止めなかったことを心より詫びる」
クロードは困惑した。
個人的には中途半端に横槍を入れられるよりも、
むしろ最後まで徹底的にやらせてもらえて良かったとさえ思っている。
だがそれは、所詮は主観に基づく結果論でしかないことをクロードは理解してしまっていた。
そして、彼が教師としてどうすべきだったのかということも、
その件について責任を感じていることも。
理性ばかりが先行し、感情を持て余したままクロードは言葉を続ける。
「……それは、僕が異国の人間だからですか?」
「否定はしない。だが、それ以上に君の左手のルーンが問題なのだよ」
これが? とクロードは左手に目を落とす。
コルベールは頷き、言葉を続ける。
「そのルーンは、私たちの世界で『ガンダールヴ』という伝承で語られている」
「それって確か、この世界の創生にまつわる伝説でしたよね?」
「よく知っているね。始祖ブリミルの守り手として、あらゆる武器を使いこなしたと言われている。
又の名を『神の盾』、伝説の使い魔の一柱だ」
コルベールの話によると、このルーンにはあらゆる武器を理解し、
使いこなす能力が与えられるのだと言う。
成る程、フェイズガンが妙に手に馴染むと思ったら、そういうからくりだったのか。
何処まで行っても『借り物の力』に縁があることだ。
と、そこに思い至ったところで、新たな疑問が浮かぶ。
「でも、ちょっと待ってください。
僕が『ガンダールヴ』だとしたら、その主であるルイズは何なんですか?
確かに彼女は、普通のメイジとは違うようですけど」
「うむ、君の言うとおり。実は、私たちが最も知りたいこともそれなのだ」
コルベールは問う。
クロードの目に、ルイズはどのように映っているのか。
ルイズの力について、どのように考えているのか。
正直に答えるべきか否か。
しばしの逡巡の後、クロードはフェイズガンをかざして答えた。
その意味するところは即ち、己の心のままに。
「……きっと、貴方達がこれに対して持っている感情と同じだと思います」
それは理解し得ぬ圧倒的な存在。
世界の理さえも崩しかねない、巨大すぎる力。
「彼女は断じて『ゼロ』ではない、それは確信を持って言えます。
ですが、どこかで道を踏み外せば、最悪の虐殺者として歴史に名を残すことになるかもしれない。
或いは、このルーンで彼女を『兵器』として制御出来るとすれば、
僕はこの世界の破壊者として召喚されたという見方も出来るかもしれませんね」
やろうとは思いませんけど、と最後に一応の断りを入れてクロードは言葉を切る。
トリステインの常識を超えた解釈に、コルベールは唸る。
成る程、始祖の伝承が深く根付いたハルケギニアの人間ではこのような発想は生まれるまい。
厳格な教師ならば問答無用で叱り飛ばしているところだろう。
「……案外、君のその解釈は間違っていないのかもしれない」
「……」
何より、彼女を見る限り説得力がありすぎる。
言外にそう含まれたコルベールの呟きを最後に、部屋に沈黙が訪れる。
二人の脳裏には、一つの最悪の未来が鮮明に映し出されていた。
魔法を行使する度に爆発を起こすルイズは『ゼロ』と呼ばれ、周りから蔑まれ続けてきた。
クロードから見れば発現の方向性が違うだけなのだが、
この世界では4大系統に分類出来ない魔法を評価する術が無い。
しかも、コモン・マジックの行使すらままならないのだから尚更である。
何にせよ、ここで重要なのは彼女は周りから認められることに飢え続けてきた、ということである。
さて、ここで一つ視点を変えてみよう。
彼女の力である『爆発』、それが最大限に評価される場所は何処だろうか?
おそらく、100人に尋ねれば8、90人は『戦争』だと答えるだろう。
艦の一つや二つ沈めるくらいのポテンシャルを、彼女は十分に秘めていると見る。
いや、下手をすれば砦や城、下手をすれば島や街さえも。
何にせよ、彼女が武勲を立てれば、周囲の人間はこれまでの自分たちの言動や行動を綺麗に忘れ去り、褒め称えるだろう。
ルイズは良くも悪くも純粋な少女であり、誇り高く名誉を重んじる貴族である。
賞賛の声は何よりも彼女の胸に強く響き、渇きを満たすことだろう。
やがて、それ無しでは居られなくなるほどに。
彼女の手が振るわれる度に村は消え、城は吹き飛ぶ。
幾百の瓦礫と幾万の屍の上に立ち、微笑んで賞賛を受けるルイズ。
やがて、人々は彼女をこう呼ぶ。
『トリステインの英雄』或いは『ハルケギニアの破壊の化身』と──────
「……そのようなことは、私の眼が黒いうちは絶対に許さない」
コルベールはクロードの眼をしっかりと見据え、迷いの無い口調で言い切る。
瞳の奥に映る、過ちを繰り返させてなるものかという決意。
真一文字に結ばれた口元、握り締められた拳。
───大丈夫だ。この人は信用できる。
「……ありがとうございます」
自然と、感謝の言葉が口から零れ出た。
こんな風に素直に謝意を述べるのは、随分と久しぶりのように感じる。
何に対して感謝しているのかは、自分でも解らなかったけれど。
「おっと、そろそろお暇しなくては。授業があるのでね」
「あ……そうでしたか。お話出来て、よかったです」
「いやいや、私としても色々と興味深い話を多く聞けて良かったよ。
それと、君の処分なのだが……
君のルーンについて、本国への報告は見送られることになった。
理由は、君ならば解っているだろう」
「この力が、危険だからですね」
クロードの返答にコルベールは大きく頷いた。
「うむ。ああ、それとギーシュに伝言を頼まれていたんだった」
「ギーシュ……決闘した、彼から?」
「『あの決闘を通じて、僕は戦の本当の恐ろしさの一端を知ることが出来た。
君に感謝するとともに、ご両親を侮辱したことを心より詫びる。
君が許してくれるなら、一度ゆっくり話し合いたい』……だそうだ。
君も何か、彼に伝言はあるかね?」
しばしクロードは考え込む。
そんなに悪い奴じゃなかったんだな、あいつ。
だったら─────
「僕も売り言葉に買い言葉で、彼の家の悪口を言いましたから。
そちらが詫びるのであれば、僕も頭を下げなきゃ釣り合わないでしょう。
悪かった、と伝えておいてください。
あと、本命は一本に絞っとくように、とも」
最後に少しだけ悪戯っぽく笑うクロード。
それを聞いたコルベールは一瞬固まるが、すぐに表情を崩す。
解った、確かに伝えよう、と添えて笑顔でコルベールは部屋を後にした。
再び、クロードは部屋に一人残される。
改めて思う。いい人たちだな、と。
そして、この人たちとは、いずれ遠からず別れなければならない、ということも。
こんな感覚は地球に居たときには得られなかった。
自分を、ただ一人のクロード=C=ケニーとして受け入れてくれる世界。
ずっと求め続けてきたものが、ここにある。
きっと、地球に戻ればまた『英雄の息子』に逆戻りするのだろう。
張り付いた笑顔と、その裏に隠された悪意。
人と触れ合うことの喜びを知ってしまった自分に、耐えられるのだろうか。
(僕は、この先どうなることを望んでいるんだろう……)
その疑問に答えるものは居ない。
それはきっと、自分で答えを見つけなければならない方程式。
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