「T-0 06」(2008/09/16 (火) 00:26:59) の最新版変更点
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#navi(T-0)
授業前、教室内はざわざわと騒がしかった。
まだ先生が来るぼに数分ほど時間がある、年頃で落ち着きのない生徒たちにとって
この時間帯は絶好のおしゃべりタイムであった。
世間話からちょっとした自慢話、他愛のない話に花を咲かせている生徒たちは
実に楽しそうな面持ちでおのおのの時間を過ごしていた。
しかし……そんな何時も通りの風景が繰り広げられる日常が、
ある一人の少女の登場によってものの見事に打ち破られることとなった。
『ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール』通称、『ゼロのルイズ』……
彼女が親友のキュルケから数分遅れて教室に入った瞬間。
それまで友人と話し合っていた生徒たちの表情が微妙に険しくなり、
ざわざわした騒音はぼそぼそとした呟きにまでトーンダウンしてしまった。
教室内には様々な使い魔が存在した。
言わずもがな、全て生徒たちの使い魔である。
この授業はそれぞれが自分の使い魔を他人にお披露目することも暗黙的な目的としてる、
いうなれば、『使い魔の品評会』とも別名をうっていいほどだった。
ただ、そこにいる使い魔たちは皆、異様なほど殺気立っていた。
多種多様な威嚇。もしココに主人たちがいなければ総出で一人の男に襲い掛かっているだろう。
そう、一人の、黒ずくめの男に……
そんなわけあってか、教室内は嘗てないほどの重圧感に満たされていた。
(うぐぅ……なんだ、この圧し掛かってくるような空気は……?)
冷や汗をたらし授業をしていた教師、シュヴルーズは思った。
実はそれに近い事を生徒の大半が考えていたりするのだが、
生徒たちはそれ以上に「なぜ自分の使い魔がこうも息を荒げているのか」全く見当つかないことを胸中で不思議に思っていた。
それ以外のことを考えている――――何人かの例外があるとすれば、それは男の主であるルイズと、
机の上にたてた本に読みついている青髪の少女――タバサだけだった。
ルイズは男と一緒に教室に入ったとき辺りから、今朝方に見た夢をなぜか思い出して使い魔と重ねて
周りを取り囲む使い魔たちがなぜ自分の使い魔に対し、こうもしつこい威嚇を繰り返しているのか疑問を浮かべ、
タバサは本当に本を読んでいるだけのようなのだが、時折ちらちらと目線がずれ、使い魔の男へと向けられていた。
ターミネーターはルイズに言われた通り、黙って教室の後ろに立っていたのだが、
彼のセンサーと頭脳は有象無象する使い魔たちのデータを可能な限りで検索、調査していた。
しかし、まともにデータにある生物はほんの数種もおらず、殆どがノーデータという結果に対し、
彼は彼なりにこの世界について驚きを覚えていた。
……ふと、彼の熱探知機が爆発寸前のダイナマイトと似た熱反応を察知し、
次の瞬間には前方で大きな爆発が起こっていた。
爆風で前の窓から次々に割れ、カラスが床に飛び散っては砕けていく。
机は正しい配列を失い、爆心地付近に到っては焼き千切れ、吹き飛び、
もはや『机』としての機能を完全に失ったものさえ多々見られた。
コレだけの爆発にもかかわらず、生徒たちに怪我人がいなかった事は奇跡と読んでおかしくない。
だが、合金の体を持つターミネーターは全く微動だにしない。
冷静に視界を探索モードに移し、もうもうとした煙渦巻く室内で己が主の安否を確認した。
『先生』と呼んだ女に怒られているルイズは落ち込んだ様子で俯き、ため息を吐いている。
ふらふらとおぼつかない足取りで教室を出て行く見違えた格好の先生の背を見ようともしなていない。
立ち尽くすターミネーターを食い入る二つの目。
一つはタバサのもの、表情を変えないその視線から何を読み取れと言うのだろうか。
もう一つはキュルケのものだった。
彼女の目は、タバサと違って感情が濃く込められている。
探していた玩具を見つけた子供のように、彼女の視線は正直で素直な輝きがあった。
「ねぇ、あんた怪我とかないの?」
ルイズは手に持った箒を動かすのを止め、
何の愚痴も言わずに手を動かしているターミネーターに尋ねた。
「ない。あの程度の爆発では、俺は壊れない」
ターミネーターは作業しながら答えた。
「“あの程度”……って、あんた頑丈なのね」
「ああ」
集めた木屑をくずかごに突っ込むと、ターミネーターは手早く次の作業に移る。
片手に箒を机に立てかけると、しゃがみこんでガラス片を拾い始めた。
「…………」
外観に似合わない作業を黙々と続けるターミネーターは、なぜだか見ていておかしかった。
ルイズはターミネーターに後始末――掃除――を頼んだとき、絶対断られるだろうと思っていたのだが
彼は命令を下すと文句一つも言わずに箒を持ち、てきぱきと作業を進めたのだ。
兎にも角にも理由はわからないが、嫌々した様子も無く命令に従ってくれる。
ルイズは初めてターミネーターに安堵していた。
「ねぇ、じゃあさなんであんたは――」
「終わりだ」
「え?」
ルイズの質問の途中、言葉と共にターミネーターは立ち上がった。
身をずらしてみてみると、ターミネーターの背後には、木屑もガラス片が一欠けらも落ちていない。
無論爆発があったのだから教室の全てが元通り、というところまではいかけれど、
一応教室としての機能は果たせる位には綺麗になっていた。
「へぇー、意外とやるじゃない!」
ルイズもこの結果には素直に驚いていた。
一見、こういった家事的なことと縁のなさそうな男だと言うのに、
中々どうして動きに無駄がない。しかも手を抜いていない。
(この使い魔、実はけっこう優秀なのでは?)
自分の隣に立つターミネーターを見て、ルイズは上機嫌になった。
――【昼食】――
ターミネーターはルイズの計らいで食堂に入る事が許されていたが、
出された食べ物には一切手を付けていなかった。
疑問に思ったルイズが彼に聞くと、「食物は必要ない」と一言だけ返された。
始めは出された食べ物に対しての反抗かと思ったが、彼は表情を変えぬままで「違う」と言い、
ターミネーターはルイズの食事の邪魔にならないようにと食堂の隅にじっと立っていた。
ルイズは食事中もちょくちょく彼を覗いたのだが、特に体勢を変えることも無くルイズだけを見ている。
彼は本当におなかが減ったわけでも疲れているわけでも無いようだ。
あの使い魔の目は相変わらず鋭くて何を考えているのか解らないが、
合わさった視線から、ルイズはなんとなくそう思った。
「あ、あの――……」
下方からか細い声が聞こえ、それが自分を呼んでいるのだとターミネーターは気づいた。
声の発生源にくっと首を向けてやると、使用人の服を着た少女が一人、
おどおどした様子でこちらを見ている。
「…………」
「ミス・ヴァリエールの召喚された……使い魔さんですよね?」
「そうだ」
ターミネーターは視線をがっしりと使用人――『メイド』というものらしい――の視線と重ね、
逃げられないようにした上で淡々と口を開く。
メイドはターミネーターの視線におびえ気味だったが、やや震えの残る声ではっきり言った。
「何でココに立ってるんですか? もしかしてミス・ヴァリエールに……」
「俺に食性は必要ない」
「?」
ターミネーターの言葉に、間の抜けた表情になったメイドは首を傾けた。
一方でターミネーターはこのメイドの顔つきや髪の色などから、
この世界には『欧州系の人種』だけでなく、『黄色人種』とされる者たちもいる事を確認した。
「あの、それって――――」
「ターミネーター、ご飯食べた終わったから戻るわよ!」
メイドの言葉はルイズの大声に遮られ、完全に声色を失った。
さすがのターミネーターでも、上から別の音が被せられた音を聞き分ける能力はない。
第一、ココで何を言われようが、ターミネーターにとって己が主の命令は『絶対』なのだから、
メイドの意見などまともに聞く事はないだろうが。
ターミネーターは意気揚々と歩く主人の後ろを、歩幅をあわせてゆっくりと歩いていった。
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