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十一話 『だったらほら、ポ○カムやるから』
キュルケの部屋は朝から喧騒に満ち溢れていた。
喧々諤々と礼節を説かれ、眠たい頭を振りながら顔を洗い服を着る。
「主よ、その服では胸を露出しすぎる。大き目のものを頼んでおいたからこれを着るといい」
「……趣味なのよ」
「趣味!? 趣味と申されたか! おお、なんということだ! 誇り高きツェルプストー家から痴女が! こうなれば責任を取って自害するほか!」
「着るわ、着るからもう騒がないで……」
使い魔と会話ができれば言いと、メイジは常日頃思っている。
キュルケももちろんその一人であったが、最近ではその考えを後悔していた。
フレイムはまるで実家の執事長のように口うるさかったのだ。
やれもっとおとなしい服を、やれもっと慎みを、やれ不特定多数と付き合うのは止めろ。
人間形態のときは大きいだけだし普段の火トカゲの状態のときもそれほど問題はない。
だが説教をするとき両方が混ざるのか人獣形態になる。それがいただけなかった。
怖いのだ。二メイル近い巨体に全身の真っ赤なうろこ、くわえて爪の生えそろった両手足と竜人の顔。
その形態のまま窓から部屋を訪ねてきたボーイフレンドたちを撃墜したときは、翌日の洗濯物が増えてしまった。
「ああ、前のほうが良かったかも」
キュルケの気苦労は減りそうにない。
ギーシュはそれとは別の意味で困っていた。
ヴェルダンデはメスだ。だから人間形態のときも女性。
大雑把なくらいグラマラスで美人なのだから困るのかと思いきや、ギーシュはそういうことで困っていたわけではなかった。
別に相手が使い魔だから、ではない。モグラのときの感覚で抱きついてくるから、でもない。
似ているのだ、己の母親に。同じ髪の色、よく似た顔、母と同じ短めの髪型。
自分に厳しいほうだった、父の従姉妹でもあった母と同じ顔で甘えられると、妙な違和感に陥ってしまうからだ。
「御主人御主人、これ作って!」
ヴェルダンデがモンモランシーにアクセサリを作る参考にするために用意した美術書を広げてネックレスを指差している。
ああ頼む、母の顔でその中身は止めてくれないか? みょうな違和感に背中がかゆくなりそうだ。
「ああ構わないさ。ただできるなら獣形態か人獣形態になってくれないかな」
頼むよ僕のかわいいヴェルダンデ、モンモランシーが来る前に。
キュルケに特定の恋人ができたとかギーシュが親戚を呼んでいたとかそんなうわさが流れている。
そんなうわさにニヤニヤしながらルイズは朝のおやつ、鉄くずを食らっていた。
ゴリゴリと剣らしきものを先端からかじっていく。
「暇そうですね。品評会は近いんじゃありませんでした?」
小さなゴーレムを作りながら、ロングビルはその偏食を眉をしかめて見る。
「しょうがないじゃない。学園側が体面のためにカツ丼を使い魔に登録しておいてくれたけど、芸って言われてもイノシシにするくらいしかないもの」
「あれはイノシシってレベルじゃないと思いますが……まああの変化は受けはいいでしょう」
視線を小屋に向けると、明らかに増えているブタ。あのピンクのリボンやつの咥えてるキノコはご禁制のバクレツダケ?
「増えてますね、何匹か」
「細かいことは気にしちゃ駄目」
「またおいしそうな名前なんですか?」
ブタたちはブヒブヒと餌を食む。
「ああそうだ、フーケ、これ上げる」
「“あたし”にかい? 何だこれ?」
どろりとした液体の入った小瓶を、フーケは太陽にかざす。
「こっちが説明書。危なくなったら使うといいわ」
かくて切り札はその手に。
風の魔法の授業、ギトーというメイジが講義を行っている。
ギトーは嫌われ者であった。
二言目には『風は最強』、それしか言わない。
そもそも比べることがナンセンスなのだ。
火の魔法は燃やすために存在する。火力はともかくそれ以外はない。
土の魔法は作り出すことにその本質を持つ。攻撃は副次効果だ。
水の魔法にいたってはそもそも攻撃のためのものじゃない。
風の自慢しかしないくだらなさに、おそらくは同じ風のメイジのタバサこそが一番辟易していただろう。
「最強といえば火に決まっていますわ。すべてを焼き尽くす炎、そうでしょう?」
「ならば君の魔法を私にぶつけてみるといい」
ギトーは大人気なかった。
キュルケの放った魔法を己の風の魔法ごと叩き返したのだ。
吹っ飛んでほこりにまみれながら、キュルケは軽く切れた。
「良いかね諸君、風はすべてを「ミスタ・ギトー」……何かね、ミス・ツェルプストー」
「もう一手お願いしますわ」
キュルケは普段の杖をしまい、別の一本を取り出した。
それは蓄炎鉱石が先端にはめ込まれた、ルイズに頼んで作らせた特製の杖。
ギトーが返事をするよりも早く、何度も何度もフレイム・ボールをその鉱石に向かって唱える。
「ふむ、まあ無駄だとは思うが来たまえ」
「……では」
ただ一言フレイム・ボール、それに合わせて杖の魔法を開放した。
ギトーに迫る通常の数倍のフレイム・ボール。
キュルケの背後で仮面をつけたおっさんが『通常の三倍だ!』と叫んでいる。
「名前はなんにしようかしら?」
ギトーは黒煙を上げて吹き飛んだ。
プスプスと煙を上げて気絶する。
直後ガラリと戸が開いてやたらと派手な格好をしたコルベールが顔を出した。
「やや、これはミスタ・ギトー、どうされたので?」
「さあ? よくわかりませんわ」
「……ミス・ツェルプストー、後で水のメイジを呼んでおくように。それよりも皆さん、本日の授業はすべて中止になります」
ワッっと歓声に湧き上がる教室。いつの時代も子供にとって授業がなくなることはすばらしく楽しいことだ。
「静かにしなさい! いいですか、今度の使い魔品評会には姫様も御出席されるのですぞ!」
一瞬静まり返り、今度は別の意味でざわめき始めた。
さめた感覚で王女を見る。
そこにはかつて在りし友ではなく、人に愛想を振りまく王族の姿があった。
「時間って残酷ねぇ」
使用人をだましてクリーム菓子を取り合ったときを思い出し、ルイズは少し微笑む。
その横で自分に視線を送る男は、彼女の心を動かしはしなかった。
使い魔の品評会は滞りなく行われた。
途中ギーシュがヴェルダンデをバラで飾るだけというよくわからないものもあるにはあったが、大体は滞りなく行われた。
なおルイズの、布をかけたブタが一瞬で大きなイノシシになってまた元に戻る、という芸は微妙に受けた。
夜、部屋で研究レポートをまとめるルイズの戸がノックされる。
聞き覚えのあるノック、一応銃を構えルイズはそっとドアを開けた。
かくてそこにはアンリエッタの姿。
「本当に久しぶりねルイズ」
「ええ、お久しぶりですわ」
延々と続くアンリエッタの愚痴、やれ王女はしんどい、面倒だ、やりたかったわけじゃない。
その王族とも思えぬ物言いに、ルイズは苦笑するしかなかった。
マザリーニ枢機卿も苦労してるなぁ、と考える。なまじカリスマがあるだけに切り捨てることもできないだろうし。
そう、カリスマが高いため隠居させることもできない。それは始末に困る王といえた。
「姫様、それで本題は何でしょう?」
「ああルイズ、どうしましょう! 私の責任とはいえこんな「姫様」な、何?」
「私にまでその演技臭い態度をとるのは止めてください。私は誇り高きヴァリエールが三女、命令であればどのようなものでも承ります」
ルイズの凍りつくような声にアンリエッタは絶句するしかなかった。
心が安定して最も変わったことは、その心構え。
『力には責任が伴う』
ルイズは少なくとも泣き言ばかりを言うかつての幼馴染をそのまま流す気はなかった。
「姫様は王女です。ならばその責は果たすべきでは?」
「ルイズまでそのようなことを! 私は望んで今の地位にいるわけではありません!」
「誰も生まれを選ぶことなどできません。私だって普通の魔法が使える家に生まれたかった」
それは彼女が常に思い、そしてあきらめていたことであったろう。
「ドットでも構わない。魔法が使えるようにありたかった」
「ルイズ……」
「姫様は贅沢です。はっきり申し上げると不愉快です。世の中には生きることすらままならないものもたくさんいるというのに」
「……」
「私付のメイドが先日、一人の貴族の言いがかりで人生を狂わされかけました。もし放置しておけば有無を言わさず愛人にされ、飽きたら捨てられるという末路をたどったでしょう」
「……」
「この責任は誰か? 当然姫様と周りの貴族です。自分たちの懐を潤すために平民を虐げ続けた結果では?」
「ならどうすればよかったのです!?」
「そんなもの知りません。王位継承権を放棄しなかった時点で姫様の責任ですし、何よりそれは姫様の仕事です」
「私は、私は……」
落ち込むアンリエッタを痛々しく思いながら、それでもルイズは感情を殺す。
「マザリーニ卿に相談すればよかったではありませんか」
「……彼は信用できません」
「何故です? 卿と話しましたか? 会話もせずに分かり合おうなどばかばかしい話です。何か重要な話なのでしょうが私に頼ってくる時点で姫様の努力不足です」
「……」
「さあ姫様、御命令を」
自分をじっと見つめるルイズにアンリエッタは口ごもる。
そう、これは友人の命がかかる。自分の今の行動や発言はその罪悪感から逃げるため?
アンリエッタは大きく息を吐き、呼吸を整えるとルイズをまっすぐに見つめた。
「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、これより勅命を申し付けます」
「はっ」
「これからしたためます書状を持ってアルビオンのウェールズ皇太子へ接触、あるものを回収してきなさい。書状をお見せすればお分かりになるでしょう」
「拝命しました」
「……どうか生きて帰って、ルイズ」
「まだ死ぬ気はございません、姫様」
ルイズは緩やかに微笑んだ。
準備を整えて厩へ。
普段着のシエスタがそれに付き従う。
同じくメイジらしくない格好をしたルイズが馬に荷物をくくりつけていく。
「ルイズ様、ブタさんたちはどうしましょう?」
「一緒に連れて行ってちょうだい。何が起こるかわからないし」
「わかりました」
シエスタが馬車の用意をする間、ルイズは装備の確認をする。
霧の中馬車に足をかけようとしたときに響いた音、瞬間、体内で銃を生成しその人影に突きつけた。
「……ず、ずいぶんと過激な歓迎だね」
「ワルド様!?」
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十一話 『だったらほら、ポ○カムやるから』
キュルケの部屋は朝から喧騒に満ち溢れていた。
喧々諤々と礼節を説かれ、眠たい頭を振りながら顔を洗い服を着る。
「主よ、その服では胸を露出しすぎる。大き目のものを頼んでおいたからこれを着るといい」
「……趣味なのよ」
「趣味!? 趣味と申されたか! おお、なんということだ! 誇り高きツェルプストー家から痴女が! こうなれば責任を取って自害するほか!」
「着るわ、着るからもう騒がないで……」
使い魔と会話ができれば言いと、メイジは常日頃思っている。
キュルケももちろんその一人であったが、最近ではその考えを後悔していた。
フレイムはまるで実家の執事長のように口うるさかったのだ。
やれもっとおとなしい服を、やれもっと慎みを、やれ不特定多数と付き合うのは止めろ。
人間形態のときは大きいだけだし普段の火トカゲの状態のときもそれほど問題はない。
だが説教をするとき両方が混ざるのか人獣形態になる。それがいただけなかった。
怖いのだ。二メイル近い巨体に全身の真っ赤なうろこ、くわえて爪の生えそろった両手足と竜人の顔。
その形態のまま窓から部屋を訪ねてきたボーイフレンドたちを撃墜したときは、翌日の洗濯物が増えてしまった。
「ああ、前のほうが良かったかも」
キュルケの気苦労は減りそうにない。
ギーシュはそれとは別の意味で困っていた。
ヴェルダンデはメスだ。だから人間形態のときも女性。
大雑把なくらいグラマラスで美人なのだから困るのかと思いきや、ギーシュはそういうことで困っていたわけではなかった。
別に相手が使い魔だから、ではない。モグラのときの感覚で抱きついてくるから、でもない。
似ているのだ、己の母親に。同じ髪の色、よく似た顔、母と同じ短めの髪型。
自分に厳しいほうだった、父の従姉妹でもあった母と同じ顔で甘えられると、妙な違和感に陥ってしまうからだ。
「御主人御主人、これ作って!」
ヴェルダンデがモンモランシーにアクセサリを作る参考にするために用意した美術書を広げてネックレスを指差している。
ああ頼む、母の顔でその中身は止めてくれないか? みょうな違和感に背中がかゆくなりそうだ。
「ああ構わないさ。ただできるなら獣形態か人獣形態になってくれないかな」
頼むよ僕のかわいいヴェルダンデ、モンモランシーが来る前に。
キュルケに特定の恋人ができたとかギーシュが親戚を呼んでいたとかそんなうわさが流れている。
そんなうわさにニヤニヤしながらルイズは朝のおやつ、鉄くずを食らっていた。
ゴリゴリと剣らしきものを先端からかじっていく。
「暇そうですね。品評会は近いんじゃありませんでした?」
小さなゴーレムを作りながら、ロングビルはその偏食を眉をしかめて見る。
「しょうがないじゃない。学園側が体面のためにカツ丼を使い魔に登録しておいてくれたけど、芸って言われてもイノシシにするくらいしかないもの」
「あれはイノシシってレベルじゃないと思いますが……まああの変化は受けはいいでしょう」
視線を小屋に向けると、明らかに増えているブタ。あのピンクのリボンやつの咥えてるキノコはご禁制のバクレツダケ?
「増えてますね、何匹か」
「細かいことは気にしちゃ駄目」
「またおいしそうな名前なんですか?」
ブタたちはブヒブヒと餌を食む。
「ああそうだ、フーケ、これ上げる」
「“あたし”にかい? 何だこれ?」
どろりとした液体の入った小瓶を、フーケは太陽にかざす。
「こっちが説明書。危なくなったら使うといいわ」
かくて切り札はその手に。
風の魔法の授業、ギトーというメイジが講義を行っている。
ギトーは嫌われ者であった。
二言目には『風は最強』、それしか言わない。
そもそも比べることがナンセンスなのだ。
火の魔法は燃やすために存在する。火力はともかくそれ以外はない。
土の魔法は作り出すことにその本質を持つ。攻撃は副次効果だ。
水の魔法にいたってはそもそも攻撃のためのものじゃない。
風の自慢しかしないくだらなさに、おそらくは同じ風のメイジのタバサこそが一番辟易していただろう。
「最強といえば火に決まっていますわ。すべてを焼き尽くす炎、そうでしょう?」
「ならば君の魔法を私にぶつけてみるといい」
ギトーは大人気なかった。
キュルケの放った魔法を己の風の魔法ごと叩き返したのだ。
吹っ飛んでほこりにまみれながら、キュルケは軽く切れた。
「良いかね諸君、風はすべてを「ミスタ・ギトー」……何かね、ミス・ツェルプストー」
「もう一手お願いしますわ」
キュルケは普段の杖をしまい、別の一本を取り出した。
それは蓄炎鉱石が先端にはめ込まれた、ルイズに頼んで作らせた特製の杖。
ギトーが返事をするよりも早く、何度も何度もフレイム・ボールをその鉱石に向かって唱える。
「ふむ、まあ無駄だとは思うが来たまえ」
「……では」
ただ一言フレイム・ボール、それに合わせて杖の魔法を開放した。
ギトーに迫る通常の数倍のフレイム・ボール。
キュルケの背後で仮面をつけたおっさんが『通常の三倍だ!』と叫んでいる。
「名前はなんにしようかしら?」
ギトーは黒煙を上げて吹き飛んだ。
プスプスと煙を上げて気絶する。
直後ガラリと戸が開いてやたらと派手な格好をしたコルベールが顔を出した。
「やや、これはミスタ・ギトー、どうされたので?」
「さあ? よくわかりませんわ」
「……ミス・ツェルプストー、後で水のメイジを呼んでおくように。それよりも皆さん、本日の授業はすべて中止になります」
ワッっと歓声に湧き上がる教室。いつの時代も子供にとって授業がなくなることはすばらしく楽しいことだ。
「静かにしなさい! いいですか、今度の使い魔品評会には姫様も御出席されるのですぞ!」
一瞬静まり返り、今度は別の意味でざわめき始めた。
さめた感覚で王女を見る。
そこにはかつて在りし友ではなく、人に愛想を振りまく王族の姿があった。
「時間って残酷ねぇ」
使用人をだましてクリーム菓子を取り合ったときを思い出し、ルイズは少し微笑む。
その横で自分に視線を送る男は、彼女の心を動かしはしなかった。
使い魔の品評会は滞りなく行われた。
途中ギーシュがヴェルダンデをバラで飾るだけというよくわからないものもあるにはあったが、大体は滞りなく行われた。
なおルイズの、布をかけたブタが一瞬で大きなイノシシになってまた元に戻る、という芸は微妙に受けた。
夜、部屋で研究レポートをまとめるルイズの戸がノックされる。
聞き覚えのあるノック、一応銃を構えルイズはそっとドアを開けた。
かくてそこにはアンリエッタの姿。
「本当に久しぶりねルイズ」
「ええ、お久しぶりですわ」
延々と続くアンリエッタの愚痴、やれ王女はしんどい、面倒だ、やりたかったわけじゃない。
その王族とも思えぬ物言いに、ルイズは苦笑するしかなかった。
マザリーニ枢機卿も苦労してるなぁ、と考える。なまじカリスマがあるだけに切り捨てることもできないだろうし。
そう、カリスマが高いため隠居させることもできない。それは始末に困る王といえた。
「姫様、それで本題は何でしょう?」
「ああルイズ、どうしましょう! 私の責任とはいえこんな「姫様」な、何?」
「私にまでその演技臭い態度をとるのは止めてください。私は誇り高きヴァリエールが三女、命令であればどのようなものでも承ります」
ルイズの凍りつくような声にアンリエッタは絶句するしかなかった。
心が安定して最も変わったことは、その心構え。
『力には責任が伴う』
ルイズは少なくとも泣き言ばかりを言うかつての幼馴染をそのまま流す気はなかった。
「姫様は王女です。ならばその責は果たすべきでは?」
「ルイズまでそのようなことを! 私は望んで今の地位にいるわけではありません!」
「誰も生まれを選ぶことなどできません。私だって普通の魔法が使える家に生まれたかった」
それは彼女が常に思い、そしてあきらめていたことであったろう。
「ドットでも構わない。魔法が使えるようにありたかった」
「ルイズ……」
「姫様は贅沢です。はっきり申し上げると不愉快です。世の中には生きることすらままならないものもたくさんいるというのに」
「……」
「私付のメイドが先日、一人の貴族の言いがかりで人生を狂わされかけました。もし放置しておけば有無を言わさず愛人にされ、飽きたら捨てられるという末路をたどったでしょう」
「……」
「この責任は誰か? 当然姫様と周りの貴族です。自分たちの懐を潤すために平民を虐げ続けた結果では?」
「ならどうすればよかったのです!?」
「そんなもの知りません。王位継承権を放棄しなかった時点で姫様の責任ですし、何よりそれは姫様の仕事です」
「私は、私は……」
落ち込むアンリエッタを痛々しく思いながら、それでもルイズは感情を殺す。
「マザリーニ卿に相談すればよかったではありませんか」
「……彼は信用できません」
「何故です? 卿と話しましたか? 会話もせずに分かり合おうなどばかばかしい話です。何か重要な話なのでしょうが私に頼ってくる時点で姫様の努力不足です」
「……」
「さあ姫様、御命令を」
自分をじっと見つめるルイズにアンリエッタは口ごもる。
そう、これは友人の命がかかる。自分の今の行動や発言はその罪悪感から逃げるため?
アンリエッタは大きく息を吐き、呼吸を整えるとルイズをまっすぐに見つめた。
「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、これより勅命を申し付けます」
「はっ」
「これからしたためます書状を持ってアルビオンのウェールズ皇太子へ接触、あるものを回収してきなさい。書状をお見せすればお分かりになるでしょう」
「拝命しました」
「……どうか生きて帰って、ルイズ」
「まだ死ぬ気はございません、姫様」
ルイズは緩やかに微笑んだ。
準備を整えて厩へ。
普段着のシエスタがそれに付き従う。
同じくメイジらしくない格好をしたルイズが馬に荷物をくくりつけていく。
「ルイズ様、ブタさんたちはどうしましょう?」
「一緒に連れて行ってちょうだい。何が起こるかわからないし」
「わかりました」
シエスタが馬車の用意をする間、ルイズは装備の確認をする。
霧の中馬車に足をかけようとしたときに響いた音、瞬間、体内で銃を生成しその人影に突きつけた。
「……ず、ずいぶんと過激な歓迎だね」
「ワルド様!?」
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