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「宇宙の果てのどこかにいるわたしのシモベよッ。神聖で美しく、そして、強
力な使い魔よッ!
わたしは心より求め、訴えるわ……我が導きに、答えなさいッ!!」
少女の叫びにも近いサモン・サーバントの呪文が完成する。
メイジが伴侶たる使い魔を呼び出す呪文だ。
そして巻き起こる、本来ありえないはずの爆発。
爆発で舞った土ぼこりが晴れたとき、そこにいたのは少々奇妙なな風体でかが
んでいた若者であった。
『なんなのよ、一体!』
その爆発をもたらした、ピンクがかったブロンドの髪を持つ少女“ルイズ・フ
ランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール”は、同年代と比べて決し
て満足いく発育とはいえないその体に、精一杯の苛立ちと小さじ数杯分の困惑
やら羞恥をごちゃ混ぜにしてその光景を見ていた。
“使い魔を召喚したら人間が現れました”とは一体何の冗談なのかと。
不意に若者が立ち上がり、警戒した風に辺りを見回して口を開く。
「なんなんだ一体!アルター使いがいるなんて聞いてねぇぞ、君島!」
苛立ったような怒鳴り声。よくよく見てみると、ルイズよりは年上のようだが
まだ少年と言ってもよい感じだ。
って言うか『あるたー』? なんだそれは。『キミシマ』?
ともあれ言葉は通じるらしいことがわかって、ようやくルイズも外見を観察す
る余裕ができた。
その若者は、右腕だけのなにやら風変わりかつ悪趣味な色の鎧のようなものを
身につけ、同じ材質らしい三つの飾り羽がどういう理屈だかわからないが右肩
甲骨あたりから【生えて】いる。
ズボンと上着は黒。髪は思いっきり逆立っており、目つきは…、一言で言うと、
悪い。見る物すべてに殴りかかりそうな勢いの目だ。
しかも思い返してみると、現れた時には『まさにたった今地面をぶん殴りまし
た』と言わんばかりに右腕を突き出してしゃがんだ状態だったのだ。
どうやら、この、どう見てもタチの悪い(ついでに頭も悪そうな)チンピラが
自分が呼び出した使い魔らしい。
『最悪だわ』
顔に出さない努力はしたももの、正直、ルイズはそう思った。
事ここに至ってギャラリー達にも余裕が出てきた。
ぶっちゃけ
『所詮“ゼロのルイズ”だ、失敗するに決まってる』
『どうせ爆発して終わり』
などと思っていたところに、曲がりなりにも【何か】が【召喚】された驚きで
身動きできずにいたのだ。もちろん爆発はしたのだけれど。
しかし、出てきたのはどう見ても貴族でもない人間である。
そうなってみると、どこかに隠れさせておいて爆発を目くらましにして出てく
るように『仕込んで』いた、ようにも思えてくるから先入観というのは恐ろしい。
たちまち嘲笑、あざけり、皮肉のマーチが始まる。
ギャラリーの 1 人に、ルイズとはそのボディー,魔法の腕,召喚された使い魔
などもろもろの点で好対照のキュルケがいる。
この娘、普段はルイズをからかって遊んでいるくせに、こういうようによって
たかっていじめるようなまねはあまり好きではないらしく、いささか醒めた目
で見ていた。
「ねぇタバサどう思う? あの使い魔」
隣の、親友である小柄な少女に話しかける。
「人間」
…そりゃそうだろう。
冗談のつもりとも思えないがずっこけそうになる膝に力を込めながら、どうツ
ッコんでやろうかとタバサのほうを見ていると、
「でも、召喚に応じたのだから、何らかの意味があるはず」
自分と同じ意見のようだ。
とりあえずはもうしばらく成り行きを見守ることにしよう。
果たしてルイズであるが、
『…成功したのに』
泣きそうになっていた。出てきたのはアレだが、そりゃ確かに爆発はしたが、
召喚に応じたモノがいたのだ。にもかかわらずそれすら否定される。我慢して
泣きこそしなかったものの、あまりにも悔しくて、その悔しさが間違った方向
へ出てしまいそうになる。
「ミスター・コルベール、もう一度やらs
「やかましいぞてめーら!」
と思ったらその原因に途中でさえぎられてしまった。
コイツは貴族=メイジではない。
だから安全に違いないのだが、妙な迫力に辺り一面静まり返ってしまった中、
おもむろに若者がルイズをその奇妙な右手で指さし言う。
「笑われてたのはお前か?」
いきなり地雷を踏んだ。
当然ギャラリーは色めき立つ。
『ルイズが使い魔?にまでバカにされている!』
先ほどに輪をかけた喧騒が起こった。
だがしかし、今度ばかりはルイズも周りの声なんぞ聞いちゃいなかった。
「あああああ、あんた、ご主人様になんてコト言うのよ。私が呼び出した使い
魔のクセに!」
流石にお怒りなのである。
「『使い魔』ってなんだ? 食えるのか?」
“食えねーよッ!”
どこかでそんなツッコミが聞こえた気がしたが気にしない。
「アンタは、私が『サモン・サーバント』で呼び出したの。だから私の使い魔
なの!」
「こっちはそんなこと知らねーって。そもそもその『さもん』?なんだかって
のはなんだ? それがお前のアルター能力ってコトか?」
暖簾に腕押し,糠に釘。というより会話が段違い平行棒で全くかみ合っていな
いようだ。
「アルターってなによ?!」
「アルターも知らないってのはどこのお嬢ちゃんなんだ、てめーは」
「トリステイン王家にも連なるヴァリエール公爵家の三女よ! 本当はアンタ
なんか一生会話をすることなんてありえない身分なんだからね!」
「トリステインだかトリニトロトルエンだか知らないが、そんなも見たことも
ん聞いたこともねー」
「一体どこの田舎者よ!」
「こちとら生まれも育ちもロストグラウンドだ」
「こっちだってそんな場所聞いたことないわよ!」
どんどんヒートアップしてきて、互いに「やんのか、コラ」的な勢いでまさに
一触即発!という場面で割り込む者がいた。
「ミス・ヴァリエール。使い魔と親睦を深めるのは大変結構だが、まず契約を
済ましてしまいなさい」
今まで放置していてなんだが、この生徒が最後で他はみな終了している。いつ
まででも時間をかけるわけにもいかないことを思い出した引率のコルベールが
ようやく仲裁?に入った。
「ミスター・コルベール、私こんなのと契約したくありません! そもそも親
睦を深めているわけじゃありません」
「使い魔の召喚は神聖なものです。気に入らないという理由で契約をしない、
などと言うことは認められません」
「ですが・・・」
契約には口付けが必要なのだ、当然躊躇するに決まってる。ルイズはチラリと
若者を見るが、『ケンカの邪魔をした』コルベールをそれこそ殺意すら篭って
いるんじゃないかという目で睨んでいるではないか。
『ファーストキスの相手がよりによってあんなのだなんて』
心底嫌なようだ。
「ミス・ヴァリエール」
「・・・、はい」
とうとう観念した。
タダでさえ『ゼロ』と言うありがたくない【二つ名】をつけられているのだ。
放校処分などになってはたまったものではない。
諦めて若者の方へ向き直った。
「いい加減に観念して、私の使い魔になってもらうわよ?」
「ほう、どうやってだ?」
ワケのわからないことを言う小娘に何ができる、できるものならやってみろ、
ぐらいにしか思っていない声に対し、
「こうやって」
ルイズは無造作に歩を進めながら唱える。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
五つの力を司るペンタゴン、この者に祝福を与え、我の使い魔と為せ」
若者は油断していたわけではなかった。ただ、てっきりケンカだと思っていた
だけのことで、まさかそうくるとは予想できなかっただけのことだ。
結果、まずルイズの両手が若者の頬を挟み、次いで、ルイズと若者の唇が触れ
合うこととなる
「てめー、なにしやがる」
ヒネた外見のワリには焦っている。意外と純情なのだろうか? などと場違い
な感想を抱くルイズ。おかげで、相変わらず『ファーストキスの相手が【これ
】』というのにはげんなり気味ではあるが、ちょっぴり気分的に優位になった
気がした。
「あんた、感謝しなさいよね。貴族にこんなことされるなんて、普通は一生な
いんだから」
「意味がわかんねー。会話する気あんのか?」
「そのうちわかるわよ。『使い魔のルーン』が刻まれれば、ね」
「なんだと? お、おおおぉぉぉぉぉっ!」
若者の全身が薄く輝き、一瞬その右腕同様の鎧に包まれたように見えた。そし
てその光の鎧はおろか右腕の鎧すらも消え、光は左の拳に集まり文字を形作る。
「ふむ、珍しい形のルーンだな。少なくとも知られている文字ではない。早速
調べなければ、では解散」
…研究熱心は感心するが、それで良いのかコルベールさん。
「気がついた?」
若者が痛みではない感覚に意識を『持っていかれていた』のを待っている間に
クラスメートたちはすっかりいなくなってしまい、気がついたら二人きり。空
には二つの月までうかんでいるではないか。
「誰だ? お前」
目が覚めての第一声にルイズのこめかみがピクピクと痙攣する。右腕の鎧が消
えたと同時に、なぜか逆立っていた髪がおりていて、顔つきだけ見ると実はち
ょっとかわいいのかもしれない、とか思ったというのにこの台詞。
「私は! アンタの! ご主人様で! アンタは! 私の! 使い魔でしょうが!!
ルーンまで刻まれたって言うのにそんなこともわからないの!」
こうなると怒鳴ってるんだか悲鳴なんだかわからない。
「知らん。で結局誰なんだ?」
は~~~~~~。
果てしないため息が出た。この使い魔はここまで物分りが悪いのかと、呆れる
べきか情けないと嘆くべきか悩むルイズ。
「・・・ルイズよ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエー
ル。さっきも言ったように公爵家の三女で、アンタのご主人様なんだから敬意
を払いなさい。
で、そういうアンタはなんていうのよ?」
「公爵だか伯爵だか知らねーが、そんなことはどうでもいい、クソ喰らえだ。
使い魔だかなんだか言うのも興味ないし知ったこっちゃねー。
とりあえず、アンタはルイズ、オレにとっちゃそれだけだ。
オレはカズマ。“反逆者(トリーズナー)”カズマだ。
お前が何かに反逆したいなら、その反逆、オレが背負ってやる」
「と、りー…ずなー? なんだかわからないけどまぁいいわ。
ついてきて、いろいろ教えてあげなきゃいけないみたいだから」
やる気のなさそうにルイズの後ろをついて行くカズマの左手には
“s・CRY・ed”の文字が輝いていた。
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「宇宙の果てのどこかにいるわたしのシモベよッ。神聖で美しく、そして、強
力な使い魔よッ!
わたしは心より求め、訴えるわ……我が導きに、答えなさいッ!!」
少女の叫びにも近いサモン・サーヴァントの呪文が完成する。
メイジが伴侶たる使い魔を呼び出す呪文だ。
そして巻き起こる、本来ありえないはずの爆発。
爆発で舞った土ぼこりが晴れたとき、そこにいたのは少々奇妙なな風体でかが
んでいた若者であった。
『なんなのよ、一体!』
その爆発をもたらした、ピンクがかったブロンドの髪を持つ少女“ルイズ・フ
ランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール”は、同年代と比べて決し
て満足いく発育とはいえないその体に、精一杯の苛立ちと小さじ数杯分の困惑
やら羞恥をごちゃ混ぜにしてその光景を見ていた。
“使い魔を召喚したら人間が現れました”とは一体何の冗談なのかと。
不意に若者が立ち上がり、警戒した風に辺りを見回して口を開く。
「なんなんだ一体!アルター使いがいるなんて聞いてねぇぞ、君島!」
苛立ったような怒鳴り声。よくよく見てみると、ルイズよりは年上のようだが
まだ少年と言ってもよい感じだ。
って言うか『あるたー』? なんだそれは。『キミシマ』?
ともあれ言葉は通じるらしいことがわかって、ようやくルイズも外見を観察す
る余裕ができた。
その若者は、右腕だけのなにやら風変わりかつ悪趣味な色の鎧のようなものを
身につけ、同じ材質らしい三つの飾り羽がどういう理屈だかわからないが右肩
甲骨あたりから【生えて】いる。
ズボンと上着は黒。髪は思いっきり逆立っており、目つきは…、一言で言うと、
悪い。見る物すべてに殴りかかりそうな勢いの目だ。
しかも思い返してみると、現れた時には『まさにたった今地面をぶん殴りまし
た』と言わんばかりに右腕を突き出してしゃがんだ状態だったのだ。
どうやら、この、どう見てもタチの悪い(ついでに頭も悪そうな)チンピラが
自分が呼び出した使い魔らしい。
『最悪だわ』
顔に出さない努力はしたももの、正直、ルイズはそう思った。
事ここに至ってギャラリー達にも余裕が出てきた。
ぶっちゃけ
『所詮“ゼロのルイズ”だ、失敗するに決まってる』
『どうせ爆発して終わり』
などと思っていたところに、曲がりなりにも【何か】が【召喚】された驚きで
身動きできずにいたのだ。もちろん爆発はしたのだけれど。
しかし、出てきたのはどう見ても貴族でもない人間である。
そうなってみると、どこかに隠れさせておいて爆発を目くらましにして出てく
るように『仕込んで』いた、ようにも思えてくるから先入観というのは恐ろしい。
たちまち嘲笑、あざけり、皮肉のマーチが始まる。
ギャラリーの 1 人に、ルイズとはそのボディー,魔法の腕,召喚された使い魔
などもろもろの点で好対照のキュルケがいる。
この娘、普段はルイズをからかって遊んでいるくせに、こういうようによって
たかっていじめるようなまねはあまり好きではないらしく、いささか醒めた目
で見ていた。
「ねぇタバサどう思う? あの使い魔」
隣の、親友である小柄な少女に話しかける。
「人間」
…そりゃそうだろう。
冗談のつもりとも思えないがずっこけそうになる膝に力を込めながら、どうツ
ッコんでやろうかとタバサのほうを見ていると、
「でも、召喚に応じたのだから、何らかの意味があるはず」
自分と同じ意見のようだ。
とりあえずはもうしばらく成り行きを見守ることにしよう。
果たしてルイズであるが、
『…成功したのに』
泣きそうになっていた。出てきたのはアレだが、そりゃ確かに爆発はしたが、
召喚に応じたモノがいたのだ。にもかかわらずそれすら否定される。我慢して
泣きこそしなかったものの、あまりにも悔しくて、その悔しさが間違った方向
へ出てしまいそうになる。
「ミスター・コルベール、もう一度やらs
「やかましいぞてめーら!」
と思ったらその原因に途中でさえぎられてしまった。
コイツは貴族=メイジではない。
だから安全に違いないのだが、妙な迫力に辺り一面静まり返ってしまった中、
おもむろに若者がルイズをその奇妙な右手で指さし言う。
「笑われてたのはお前か?」
いきなり地雷を踏んだ。
当然ギャラリーは色めき立つ。
『ルイズが使い魔?にまでバカにされている!』
先ほどに輪をかけた喧騒が起こった。
だがしかし、今度ばかりはルイズも周りの声なんぞ聞いちゃいなかった。
「あああああ、あんた、ご主人様になんてコト言うのよ。私が呼び出した使い
魔のクセに!」
流石にお怒りなのである。
「『使い魔』ってなんだ? 食えるのか?」
“食えねーよッ!”
どこかでそんなツッコミが聞こえた気がしたが気にしない。
「アンタは、私が『サモン・サーヴァント』で呼び出したの。だから私の使い魔
なの!」
「こっちはそんなこと知らねーって。そもそもその『さもん』?なんだかって
のはなんだ? それがお前のアルター能力ってコトか?」
暖簾に腕押し,糠に釘。というより会話が段違い平行棒で全くかみ合っていな
いようだ。
「アルターってなによ?!」
「アルターも知らないってのはどこのお嬢ちゃんなんだ、てめーは」
「トリステイン王家にも連なるヴァリエール公爵家の三女よ! 本当はアンタ
なんか一生会話をすることなんてありえない身分なんだからね!」
「トリステインだかトリニトロトルエンだか知らないが、そんなも見たことも
ん聞いたこともねー」
「一体どこの田舎者よ!」
「こちとら生まれも育ちもロストグラウンドだ」
「こっちだってそんな場所聞いたことないわよ!」
どんどんヒートアップしてきて、互いに「やんのか、コラ」的な勢いでまさに
一触即発!という場面で割り込む者がいた。
「ミス・ヴァリエール。使い魔と親睦を深めるのは大変結構だが、まず契約を
済ましてしまいなさい」
今まで放置していてなんだが、この生徒が最後で他はみな終了している。いつ
まででも時間をかけるわけにもいかないことを思い出した引率のコルベールが
ようやく仲裁?に入った。
「ミスター・コルベール、私こんなのと契約したくありません! そもそも親
睦を深めているわけじゃありません」
「使い魔の召喚は神聖なものです。気に入らないという理由で契約をしない、
などと言うことは認められません」
「ですが・・・」
契約には口付けが必要なのだ、当然躊躇するに決まってる。ルイズはチラリと
若者を見るが、『ケンカの邪魔をした』コルベールをそれこそ殺意すら篭って
いるんじゃないかという目で睨んでいるではないか。
『ファーストキスの相手がよりによってあんなのだなんて』
心底嫌なようだ。
「ミス・ヴァリエール」
「・・・、はい」
とうとう観念した。
タダでさえ『ゼロ』と言うありがたくない【二つ名】をつけられているのだ。
放校処分などになってはたまったものではない。
諦めて若者の方へ向き直った。
「いい加減に観念して、私の使い魔になってもらうわよ?」
「ほう、どうやってだ?」
ワケのわからないことを言う小娘に何ができる、できるものならやってみろ、
ぐらいにしか思っていない声に対し、
「こうやって」
ルイズは無造作に歩を進めながら唱える。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
五つの力を司るペンタゴン、この者に祝福を与え、我の使い魔と為せ」
若者は油断していたわけではなかった。ただ、てっきりケンカだと思っていた
だけのことで、まさかそうくるとは予想できなかっただけのことだ。
結果、まずルイズの両手が若者の頬を挟み、次いで、ルイズと若者の唇が触れ
合うこととなる
「てめー、なにしやがる」
ヒネた外見のワリには焦っている。意外と純情なのだろうか? などと場違い
な感想を抱くルイズ。おかげで、相変わらず『ファーストキスの相手が【これ
】』というのにはげんなり気味ではあるが、ちょっぴり気分的に優位になった
気がした。
「あんた、感謝しなさいよね。貴族にこんなことされるなんて、普通は一生な
いんだから」
「意味がわかんねー。会話する気あんのか?」
「そのうちわかるわよ。『使い魔のルーン』が刻まれれば、ね」
「なんだと? お、おおおぉぉぉぉぉっ!」
若者の全身が薄く輝き、一瞬その右腕同様の鎧に包まれたように見えた。そし
てその光の鎧はおろか右腕の鎧すらも消え、光は左の拳に集まり文字を形作る。
「ふむ、珍しい形のルーンだな。少なくとも知られている文字ではない。早速
調べなければ、では解散」
…研究熱心は感心するが、それで良いのかコルベールさん。
「気がついた?」
若者が痛みではない感覚に意識を『持っていかれていた』のを待っている間に
クラスメートたちはすっかりいなくなってしまい、気がついたら二人きり。空
には二つの月までうかんでいるではないか。
「誰だ? お前」
目が覚めての第一声にルイズのこめかみがピクピクと痙攣する。右腕の鎧が消
えたと同時に、なぜか逆立っていた髪がおりていて、顔つきだけ見ると実はち
ょっとかわいいのかもしれない、とか思ったというのにこの台詞。
「私は! アンタの! ご主人様で! アンタは! 私の! 使い魔でしょうが!!
ルーンまで刻まれたって言うのにそんなこともわからないの!」
こうなると怒鳴ってるんだか悲鳴なんだかわからない。
「知らん。で結局誰なんだ?」
は~~~~~~。
果てしないため息が出た。この使い魔はここまで物分りが悪いのかと、呆れる
べきか情けないと嘆くべきか悩むルイズ。
「・・・ルイズよ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエー
ル。さっきも言ったように公爵家の三女で、アンタのご主人様なんだから敬意
を払いなさい。
で、そういうアンタはなんていうのよ?」
「公爵だか伯爵だか知らねーが、そんなことはどうでもいい、クソ喰らえだ。
使い魔だかなんだか言うのも興味ないし知ったこっちゃねー。
とりあえず、アンタはルイズ、オレにとっちゃそれだけだ。
オレはカズマ。“反逆者(トリーズナー)”カズマだ。
お前が何かに反逆したいなら、その反逆、オレが背負ってやる」
「と、りー…ずなー? なんだかわからないけどまぁいいわ。
ついてきて、いろいろ教えてあげなきゃいけないみたいだから」
やる気のなさそうにルイズの後ろをついて行くカズマの左手には
“s・CRY・ed”の文字が輝いていた。
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