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「ゼロのガンパレード 2」(2008/03/16 (日) 17:08:33) の最新版変更点
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空に穴が開いた。
/*/
視界を覆う土煙が晴れた時、彼は視界に映る情景に首を傾げた。
先ほどまでの自分は冒険艦に乗って星の海にいたはずだが、ここはどう見ても学園か修道院にしか見えない。
視線を巡らせば幾種類かの動物たちを侍らした人の子たちがこちらを窺っている。
「ゼロのルイズが成功した……なぁ、俺、夢でも見てるのかなぁ?」
「でも猫だぜ、どこかから拾ってきたんじゃないか? なんか服着てるし」
「ていうか、なんだあの大きさ」
ふむと頷き、口を開こうとして止めた。
ここがどんな世界か解らぬ以上、自分が喋れることを告げるのは得策ではない。
視界に入る動物たちの種類から第六世界群の内のどれかだとは思うが、それだけしか解らない。
悩んだ末、首輪の奥に隠された多目的結晶にインストールされたプログラムによりどの世界でも会話に不自由しない大猫は、第二世界の言葉であるバルカラル語で目の前にいる桃色の髪の少女に呼びかけることにした。
「娘よ、少々尋ねるが……」
/*/
呼びかけられた娘、すなわちルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは歓喜のあまり茫然自失していた。
生まれて初めて自分の魔法が成功したのである。
いつかその日が来ると信じてはいたが、実際にその日が来れば感慨もひとしおである。
「………………!」
無言で拳を握り締めて感動に打ち震える。
ニャオニャオと目の前の猫が鳴いていたのも気づかずに腕を振り上げては振り下ろすのを繰り返す。
「ああ、そろそろよろしいかな、ミス・ヴァリエール? さあ、『コントラクト・サーヴァント』を行いなさい」
ルイズの歓喜の踊り(?)を暖かい目で見ていたコルベールが呼びかけた。
教師らしい威厳を保とうとしているが、その顔には抑えきれぬ喜びの色がある。
手がかかる子ほど可愛いと言うが、彼にとってルイズはまさしくその典型だった。
(本当によくやりましたね、ミス・ヴァリエール)
心の内で思う。
ルイズは貴族の一員であるが魔法が使えない。
だが、それ故にこの魔法学院の誰よりも自分が貴族であることに誇りを持ち、貴族たらんと努力してきた。
民を守り、治めるに相応しい者として歩んできた。
無論それを認めない者もいる。魔法が使えぬ者の無駄な努力と嘲笑う者もいる。
けれどその度に彼女は『それがどうした』と言い続け、ついに今日この日を迎えたのだ。
ついに彼女は魔法を成功させたのだ。名実共に貴族となったのだ。
こんなに嬉しいことはなかった。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール……」
教え子の紡ぐ呪文を聞きながらその使い魔を観察する。
どこにでもいるような猫だが、しかし大きい。
成体の獅子や虎に比べても遜色のないその体躯に赤い短衣を羽織り、首輪をつけている。
(……ん?)
赤い短衣? 首輪?
つまり……野生ではない?
「五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ……」
……飼い主が、どこかにいる?
その事に思い至った時、ルイズはすでに大猫と口付けを交わしていた。
/*/
さて、バルカラル語での呼びかけを無視された大猫は途方にくれた。
この言葉が解らぬと言うことは、この少女は神族との接点を持っていないということだろう。
あるいはこの世界に神族が既にいないということも考えられる。
言葉を解する猫というものがこの世界でどんな地位にいるか解らぬ以上、自分の正体を隠すにこしたことはない。
悪魔の使いとして追いかけられるなら誤解だと言い切れるが、研究材料として追いかけられてはたまったものではないからだ。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール……」
考えているうちに桃色の髪の少女が近づいて来た。
その胸にある首飾り、蒼い石のついたそれに大猫の目がとまる。
それは大猫にとって非常に馴染み深いものだった。
目を細め、此度の件を画策したであろう古い知り合いを胸の中で罵った。
あやつめ、またしてもわしに介添え役をやらせるつもりか。
「五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ……」
むぎゅ、と押し付けられた唇に固まる。
この世界の女性は積極的なのだなと驚きはしたが、それでも若い女性に唇を許されるのは嫌いではない。
というかむしろ好きだ、大好きだ。英雄色を好む。
「契約は終わりよ。ルーンが刻まれるからじっとしていてね」
言いながら自分を抱きしめる少女に大猫は自ら顔をすり寄せた。
首飾りを近くで見たかったからで、他意はない。
すり寄せた顔が胸の部分に当たったのも偶然ならば、
少女の胸の薄さに、懐かしい誰かを思い出したのも偶然である。
「気のせいかしら。誰かに馬鹿にされた気がするわ」
気のせいだ。大猫は思った。
火の国の砦にいた電子の巫女姫を思い出したのは、この前脚に走る痛みの所為だ。
焼け付くような痛みに、キメラのレーザーを連想したからだ。
断じてお前の体型からではないぞ。いててててて。
/*/
大猫にルーンが刻まれるのを見ながらコルベールは微かに肩を竦めた。
例え飼い主が他にいても使い魔召喚の儀は神聖なもの。
ルイズだけ特例を認めるわけにもいかない。
飼い主が平民ならばその補償をしなければならないが、幸いにして主人であるルイズは貴族の誇りを重んじる。
おそらく自分からその補償を進んでするであろうし、飼い主が望むのならば召抱えて大猫の傍にいることを許すだろう。
貴族ならもっと簡単だ。この儀式の神聖さを知らぬ貴族などいない筈なのだから。
「コルベール先生!ちょっと見ていただけますか?」
ルーンを確認したルイズが言う。どうかしたのだろうか。
早速周りの生徒たちが
「やっぱり失敗かよ」
「ゼロだしな」
と言うのを尻目に大猫に近づいた。
「おや、これは珍しいルーンだね」
「ええ。わたしも見たことがなくて……先生もですか?」
うむ、と頷いて速やかにメモを取り、周囲に聞こえるように声を上げた。
「これは今後の課題としよう。ルーンが違えども君が使い魔を召喚し、契約できたことに違いはないのだからね」
不満そうな顔の生徒に内心で舌打ちする。隙あらば他人をあげつらうのが自称貴族のやることかね?
「さてと、じゃあ皆教室に戻るぞ」
杖を振って『フライ』の呪文を唱える。
性懲りもなくルイズを蔑む生徒たちの声が聞こえるが、微かに眉を顰めただけで黙殺する。
注意しても聞かぬだろうし、何よりルイズ自身がそれを望まない。
あの誇り高い少女には、憐れみこそが最高の侮辱になるのだから。
/*/
「ルイズ、お前は歩いて来いよ!」
「あいつ『フライ』はおろか『レビテーション』さえ出来ないんだぜ!」
宙から聞こえた声に、しかしルイズは怒らなかった。
ただ胸をそらして言っただけだった。
「それがどうした!」
大猫は目を細め、愉快そうに笑った。
なるほど、あいつが選んだのはこの気性ゆえか。
素晴らしい、それはいつだって「それがどうした」と言い続ける所から始まるのだから。
まさしくその通り。空を飛べなければ歩けば良い。ただそれだけのことではないか。
行くわよ、との声に足を速め、ルイズの前に回る。
きょとんとした顔の主に首を振って自らの背中を指し示した。
「乗れって言うの?」
そっとルイズがそこに腰を下ろすと走り出す。
下を見た女性徒の何人かが羨ましそうな顔をした。
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空に穴が開いた。
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視界を覆う土煙が晴れた時、彼は視界に映る情景に首を傾げた。
先ほどまでの自分は冒険艦に乗って星の海にいたはずだが、ここはどう見ても学園か修道院にしか見えない。
視線を巡らせば幾種類かの動物たちを侍らした人の子たちがこちらを窺っている。
「ゼロのルイズが成功した……なぁ、俺、夢でも見てるのかなぁ?」
「でも猫だぜ、どこかから拾ってきたんじゃないか? なんか服着てるし」
「ていうか、なんだあの大きさ」
ふむと頷き、口を開こうとして止めた。
ここがどんな世界か解らぬ以上、自分が喋れることを告げるのは得策ではない。
視界に入る動物たちの種類から第六世界群の内のどれかだとは思うが、それだけしか解らない。
悩んだ末、首輪の奥に隠された多目的結晶にインストールされたプログラムによりどの世界でも会話に不自由しない大猫は、第二世界の言葉であるバルカラル語で目の前にいる桃色の髪の少女に呼びかけることにした。
「娘よ、少々尋ねるが……」
/*/
呼びかけられた娘、すなわちルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは歓喜のあまり茫然自失していた。
生まれて初めて自分の魔法が成功したのである。
いつかその日が来ると信じてはいたが、実際にその日が来れば感慨もひとしおである。
「………………!」
無言で拳を握り締めて感動に打ち震える。
ニャオニャオと目の前の猫が鳴いていたのも気づかずに腕を振り上げては振り下ろすのを繰り返す。
「ああ、そろそろよろしいかな、ミス・ヴァリエール? さあ、『コントラクト・サーヴァント』を行いなさい」
ルイズの歓喜の踊り(?)を暖かい目で見ていたコルベールが呼びかけた。
教師らしい威厳を保とうとしているが、その顔には抑えきれぬ喜びの色がある。
手がかかる子ほど可愛いと言うが、彼にとってルイズはまさしくその典型だった。
(本当によくやりましたね、ミス・ヴァリエール)
心の内で思う。
ルイズは貴族の一員であるが魔法が使えない。
だが、それ故にこの魔法学院の誰よりも自分が貴族であることに誇りを持ち、貴族たらんと努力してきた。
民を守り、治めるに相応しい者として歩んできた。
無論それを認めない者もいる。魔法が使えぬ者の無駄な努力と嘲笑う者もいる。
けれどその度に彼女は『それがどうした』と言い続け、ついに今日この日を迎えたのだ。
ついに彼女は魔法を成功させたのだ。名実共に貴族となったのだ。
こんなに嬉しいことはなかった。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール……」
教え子の紡ぐ呪文を聞きながらその使い魔を観察する。
どこにでもいるような猫だが、しかし大きい。
成体の獅子や虎に比べても遜色のないその体躯に赤い短衣を羽織り、首輪をつけている。
(……ん?)
赤い短衣? 首輪?
つまり……野生ではない?
「五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ……」
……飼い主が、どこかにいる?
その事に思い至った時、ルイズはすでに大猫と口付けを交わしていた。
/*/
さて、バルカラル語での呼びかけを無視された大猫は途方にくれた。
この言葉が解らぬと言うことは、この少女は神族との接点を持っていないということだろう。
あるいはこの世界に神族が既にいないということも考えられる。
言葉を解する猫というものがこの世界でどんな地位にいるか解らぬ以上、自分の正体を隠すにこしたことはない。
悪魔の使いとして追いかけられるなら誤解だと言い切れるが、研究材料として追いかけられてはたまったものではないからだ。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール……」
考えているうちに桃色の髪の少女が近づいて来た。
その胸にある首飾り、蒼い石のついたそれに大猫の目がとまる。
それは大猫にとって非常に馴染み深いものだった。
目を細め、此度の件を画策したであろう古い知り合いを胸の中で罵った。
あやつめ、またしてもわしに介添え役をやらせるつもりか。
「五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ……」
むぎゅ、と押し付けられた唇に固まる。
この世界の女性は積極的なのだなと驚きはしたが、それでも若い女性に唇を許されるのは嫌いではない。
というかむしろ好きだ、大好きだ。英雄色を好む。
「契約は終わりよ。ルーンが刻まれるからじっとしていてね」
言いながら自分を抱きしめる少女に大猫は自ら顔をすり寄せた。
首飾りを近くで見たかったからで、他意はない。
すり寄せた顔が胸の部分に当たったのも偶然ならば、
少女の胸の薄さに、懐かしい誰かを思い出したのも偶然である。
「気のせいかしら。誰かに馬鹿にされた気がするわ」
気のせいだ。大猫は思った。
火の国の砦にいた電子の巫女姫を思い出したのは、この前脚に走る痛みの所為だ。
焼け付くような痛みに、キメラのレーザーを連想したからだ。
断じてお前の体型からではないぞ。いててててて。
/*/
大猫にルーンが刻まれるのを見ながらコルベールは微かに肩を竦めた。
例え飼い主が他にいても使い魔召喚の儀は神聖なもの。
ルイズだけ特例を認めるわけにもいかない。
飼い主が平民ならばその補償をしなければならないが、幸いにして主人であるルイズは貴族の誇りを重んじる。
おそらく自分からその補償を進んでするであろうし、飼い主が望むのならば召抱えて大猫の傍にいることを許すだろう。
貴族ならもっと簡単だ。この儀式の神聖さを知らぬ貴族などいない筈なのだから。
「コルベール先生!ちょっと見ていただけますか?」
ルーンを確認したルイズが言う。どうかしたのだろうか。
早速周りの生徒たちが
「やっぱり失敗かよ」
「ゼロだしな」
と言うのを尻目に大猫に近づいた。
「おや、これは珍しいルーンだね」
「ええ。わたしも見たことがなくて……先生もですか?」
うむ、と頷いて速やかにメモを取り、周囲に聞こえるように声を上げた。
「これは今後の課題としよう。ルーンが違えども君が使い魔を召喚し、契約できたことに違いはないのだからね」
不満そうな顔の生徒に内心で舌打ちする。隙あらば他人をあげつらうのが自称貴族のやることかね?
「さてと、じゃあ皆教室に戻るぞ」
杖を振って『フライ』の呪文を唱える。
性懲りもなくルイズを蔑む生徒たちの声が聞こえるが、微かに眉を顰めただけで黙殺する。
注意しても聞かぬだろうし、何よりルイズ自身がそれを望まない。
あの誇り高い少女には、憐れみこそが最高の侮辱になるのだから。
/*/
「ルイズ、お前は歩いて来いよ!」
「あいつ『フライ』はおろか『レビテーション』さえ出来ないんだぜ!」
宙から聞こえた声に、しかしルイズは怒らなかった。
ただ胸をそらして言っただけだった。
「それがどうした!」
大猫は目を細め、愉快そうに笑った。
なるほど、あいつが選んだのはこの気性ゆえか。
素晴らしい、それはいつだって「それがどうした」と言い続ける所から始まるのだから。
まさしくその通り。空を飛べなければ歩けば良い。ただそれだけのことではないか。
行くわよ、との声に足を速め、ルイズの前に回る。
きょとんとした顔の主に首を振って自らの背中を指し示した。
「乗れって言うの?」
そっとルイズがそこに腰を下ろすと走り出す。
下を見た女性徒の何人かが羨ましそうな顔をした。
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