「ゼロの戦鬼」(2007/09/24 (月) 17:42:13) の最新版変更点
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かつて、戦鬼と呼ばれた使い魔が居た。
頭頂高18.2メイルの巨体を持ち、破壊の大盾と呼ばれる攻防一体の武器を携えた強靱な
ゴーレムと、その使い手。
その最期の戦闘は、アルビオン軍7万による追撃戦に置いて、今も尚語られている。
「……ギーシュ、ルイズ様を頼んだ」
睡眠薬によってその意識を刈り取られたルイズを彼女の級友、ギーシュに託すと、ノリスは直ぐに踵を返す、その後に続くのは、くたびれきり、空色の塗装も一部朽ち始めた
巨体……MS07-B3グフカスタム。
「ノ……ノリス大佐!それではあなたが……!」
ギーシュも一応は男である、男であるが故に、彼はその肌で感じ取ってしまった。
ノリス・パッカードは、この漢はこの戦場を墓石にするつもりなのだと。
「いけません!今出れば回収はできなく……」
「……貴族に貴族の誇りがあるように、戦士には戦士の誇りがあるのだ、ギーシュ・ド
・グラモン、お前は夢を叶えた、立派なものだ」
大きな手、幾多の戦場を駆けたぼろぼろの手が、優しくギーシュの頭を撫でた
「兵達が一人でも多く脱出する事が我が主の望みなら、それを叶えて差し上げる事が軍
人として、使い魔としての自分の本懐!」
「大佐!」
声を遮るかのように、空色の巨人が動く。
ろくなメンテもできずあらゆる面に置いて本来の3割も力がだせないそれ。
彼の元居た世界でならそろそろ予備パーツ取り用にバラされていてもしかたのないそれが戦士の矜持を叶えられる事に打ち震え、喜ぶかのように力強く歩を進める。
「グフカスタム、出るぞ!!」
漢の叫びが、それだけが、響いた。
「旗艦級1、戦列艦3、空母擬き3……1つは真上だ」
モニターに写る情報をチェックし、呟く
「艦載の飛龍にはメイジ……!?足の遅い脱出艇には……脅威となる!」
空色の巨人に気付いた飛龍隊の何人かが、急降下しながらエアブレイクを、ファイアーボールを放つ。
たかがゴーレム1機に何が出来るものか、そう舐めきった温い攻撃だ。
だからこそ、彼等は着弾点に何もない事に驚き。
自分たちの母艦に絡めた「鞭」を足場に使い、自分たちよりも高く舞い上がる巨人の姿に呆然とした。
「ひとぉつっ!!」
主帆をヒート剣で切り裂き、船底に蹴りを入れて風石を叩き落とす、これでこの空母は「沈んだ」も同然だ
早くも沈降し始める空母からワイアーを外し、すぐさま近くを飛んでいた戦列艦にワイアーを巻き付ける。
そして、跳躍。
「ぬゥン!!」
着地の勢いのままに腕を振り下ろし、ヒートワイアーに絡んだままの戦列艦を主力騎歩兵隊のど真ん中に着弾させる。
ワイアーを外し、回収後すぐ射出、グフは再び跳躍した。
「なんだ!?何が起こっているんだ!!?」
レキシントンの司令室に、クロムウェルの声が響く。
しかし、現状を的確に説明出来る人間がこの場所のどこにいようか?
「18メイルはある巨大なゴーレムが鞭1つで艦隊を手玉に取っています」
要約すればそうとしか言い様はないし、事実でもあるのだが……到底そんな事は認められなかった。
散開して被害を減らせ。いや散らばるのは各個撃破されるだけだ、密集して防御しよう
倍返しだぁーーーー!、散弾を使え敵は一体だ、いや使う砲弾は対艦用の弾だ、散弾ではあの装甲は抜けない、全飛龍部隊は装備を対艦から対地に変更せよ
俺は、生きる!生きてアンと添い遂げる! どっちの弾を使うのかハッキリしろ!敵はもう目の前だぞ!
いや敵艦が近くにいる、対地に換装した飛龍は対艦に戻せ
時間がありません、対地のまま艦隊を攻撃すべきです! このパーティーは30才以下の未成年は参加できんのだよ
戦場は、混乱の様相を見せ始めていた。
また一隻、戦列艦がグフカスタムのヒート剣に叩ききられて轟沈する。
「怯えろ!竦めぇ!持てる力を発揮出来ぬまま、死んで往けぇ!」
帆を失っても風石の力で浮き続ける船体に持ち上げられたまま、75ミリガトリングガンで最後の空母を蜂の巣にする
丁度出撃準備を整えた風龍とその乗り手が真っ二つに引き裂かれると同時に、防御用に積んであった弾薬が引火
空母は真っ二つに引きちぎれながら落ちていく。
まさにその姿は鬼神、7万の軍勢が何一つ成せぬまま恐慌状態に陥っている
「あ……あ……」
燃え落ちる、引きちぎられ、叩き付けられる。
砕け散り、焼き尽くされ、さしたる抵抗も出来ぬまま地上部隊をその道連れに落ちていく。
虎の子の艦隊が、トリステインを落とした後はゲルマニアの艦隊と渡り合うべき最強の艦隊が、ただ一体のゴーレムのために混乱状態に陥っている。
一方、グフカスタムの側も決して無事には済んでいなかった。
深刻でなかろうとも、ダメージは積み重なる、そして最悪の被害は最も重要な局面で叩き込まれる。
ヒートワイアーがついに損耗と負荷に耐えきれず引きちぎれた
運悪く接続部分にファイアーボールの直撃を喰らった肩パーツが脱落した、場当たり的に練金で作り出された青銅のコクピットハッチが歪んで落ちた。
「むぅ……!」
しかしそれよりもノリスを唸らせたのは……
「……ゴーレムか、全く持ってご苦労な事だ」
グフカスタムと同程度の大きさに作られた、1体のゴーレム
「ふ……ルイズ様、合流はできそうにありません……自分は、死に場所を見付けました!」
ヒート剣に火がはいる、軽く腰を落とし、両手で剣を構える。
振り抜かれた拳を僅かなスウェーでかいくぐり、その腕を切り落とす。
「敵ゴーレム、足止めに成功しました!」
「天佑だ!全艦突撃!!トリステインのフネを全て沈めてやれ!」
それは、最悪の自乗だった。
ノリスがゴーレムに足止めされている、その僅かな間に最前線の艦隊が統率を取り戻し、紡錘陣を組んで漸く動き出したばかりの輸送艦群に突撃を敢行したのだ。
トリステインに残されたフネでは、その全てを押さえきる事はできない。
「いかんっ!!」
漸くその動きを止めたゴーレムに背を向け、跳躍しようとグフカスタムが身を屈める。
そして飛び上がるまでの刹那、極々短い、そんな言葉すら長すぎる一瞬に
「ぐぅっ!?」
吹き飛んだコクピットハッチのあった空間を裂いて、1本の矢が、ノーマルスーツ毎ノリスの胸を貫いた。
モニターの一部が拡大画像に切り替わり、その兵士を映し出す。
まだ幼い、少年兵と言って良い程度の傭兵が、がたがたと震えながら矢の無くなったボウガンを構えていた
「……見事!」
歴戦の老兵はそう口中で呟くと、愛機を、今まさに輸送艦をその射程に捉えようとしている戦列艦の前に飛び上がらせた。
目の前には、巨大な衝角。
だが避けない、もとより避けようなどとは思っていない。
「勝ったぞ!!」
ノリスの叫びをかき消すように、超巨大な質量が金属塊に激突する音が響き……
グフカスタムに残された最後の火器、35ミリ3連ガトリングガンが火を噴き……レキシントンを撃沈した。
旗艦被撃沈、首脳部全滅。
それが、全ての部隊が見ている前で起こった。
一度は収まりかけた恐慌状態が再びアルビオン=レコン・キスタ軍を包む。
「撤退だ……!」
誰かが呟いた声は、暫定司令部からの戦略指揮と誤解され、全軍に通達された
即ち、「全軍撤退セヨ!」
深刻な被害を受け、誤報によって全軍が撤退を始めたアルビオン軍にトリステイン軍を追う意志はなく。
その日、大会戦は終わりを迎える。
ルイズが眠りから覚めた時、全ては終わっていた。
使い魔の安否を気遣う彼女にギーシュが指し示した先には……
胸部やや下……コクピットを中心に真っ二つに引き裂かれた空色の巨人と、枕を並べる
巨大戦艦の残骸。
そして……千切れ落ちた装甲の一部を使って作られた墓標。
かくして、トリステイン軍は脱出に成功し、大打撃を受けたアルビオン軍との睨み合い期間はより長く
取られる事になる。
歴史から、いや、戦略という観点から見ればこの戦鬼の働きさえ、戦場の一部に過ぎない。
尚、戦鬼の操縦者、ノリス=パッカード大佐は2階級特進し、少将とする。
-トリステイン軍首脳部記録より抜粋
かつて、戦鬼と呼ばれた使い魔が居た。
頭頂高18.2メイルの巨体を持ち、破壊の大盾と呼ばれる攻防一体の武器を携えた強靱な
ゴーレムと、その使い手。
その最期の戦闘は、アルビオン軍7万による追撃戦に置いて、今も尚語られている。
「……ギーシュ、ルイズ様を頼んだ」
睡眠薬によってその意識を刈り取られたルイズを彼女の級友、ギーシュに託すと、ノリスは直ぐに踵を返す、その後に続くのは、くたびれきり、空色の塗装も一部朽ち始めた
巨体……MS07-B3グフカスタム。
「ノ……ノリス大佐!それではあなたが……!」
ギーシュも一応は男である、男であるが故に、彼はその肌で感じ取ってしまった。
ノリス・パッカードは、この漢はこの戦場を墓石にするつもりなのだと。
「いけません!今出れば回収はできなく……」
「……貴族に貴族の誇りがあるように、戦士には戦士の誇りがあるのだ、ギーシュ・ド・グラモン、お前は夢を叶えた、立派なものだ」
大きな手、幾多の戦場を駆けたぼろぼろの手が、優しくギーシュの頭を撫でた
「兵達が一人でも多く脱出する事が我が主の望みなら、それを叶えて差し上げる事が軍
人として、使い魔としての自分の本懐!」
「大佐!」
声を遮るかのように、空色の巨人が動く。
ろくなメンテもできずあらゆる面に置いて本来の3割も力がだせないそれ。
彼の元居た世界でならそろそろ予備パーツ取り用にバラされていてもしかたのないそれが戦士の矜持を叶えられる事に打ち震え、喜ぶかのように力強く歩を進める。
「グフカスタム、出るぞ!!」
漢の叫びが、それだけが、響いた。
「旗艦級1、戦列艦3、空母擬き3……1つは真上だ」
モニターに写る情報をチェックし、呟く
「艦載の飛龍にはメイジ……!?足の遅い脱出艇には……脅威となる!」
空色の巨人に気付いた飛龍隊の何人かが、急降下しながらエアブレイクを、ファイアーボールを放つ。
たかがゴーレム1機に何が出来るものか、そう舐めきった温い攻撃だ。
だからこそ、彼等は着弾点に何もない事に驚き。
自分たちの母艦に絡めた「鞭」を足場に使い、自分たちよりも高く舞い上がる巨人の姿に呆然とした。
「ひとぉつっ!!」
主帆をヒート剣で切り裂き、船底に蹴りを入れて風石を叩き落とす、これでこの空母は「沈んだ」も同然だ
早くも沈降し始める空母からワイアーを外し、すぐさま近くを飛んでいた戦列艦にワイアーを巻き付ける。
そして、跳躍。
「ぬゥン!!」
着地の勢いのままに腕を振り下ろし、ヒートワイアーに絡んだままの戦列艦を主力騎歩兵隊のど真ん中に着弾させる。
ワイアーを外し、回収後すぐ射出、グフは再び跳躍した。
「なんだ!?何が起こっているんだ!!?」
レキシントンの司令室に、クロムウェルの声が響く。
しかし、現状を的確に説明出来る人間がこの場所のどこにいようか?
「18メイルはある巨大なゴーレムが鞭1つで艦隊を手玉に取っています」
要約すればそうとしか言い様はないし、事実でもあるのだが……到底そんな事は認められなかった。
散開して被害を減らせ。いや散らばるのは各個撃破されるだけだ、密集して防御しよう
倍返しだぁーーーー!、散弾を使え敵は一体だ、いや使う砲弾は対艦用の弾だ、散弾ではあの装甲は抜けない、全飛龍部隊は装備を対艦から対地に変更せよ
俺は、生きる!生きてアンと添い遂げる! どっちの弾を使うのかハッキリしろ!敵はもう目の前だぞ!
いや敵艦が近くにいる、対地に換装した飛龍は対艦に戻せ
時間がありません、対地のまま艦隊を攻撃すべきです! このパーティーは30才以下の未成年は参加できんのだよ
戦場は、混乱の様相を見せ始めていた。
また一隻、戦列艦がグフカスタムのヒート剣に叩ききられて轟沈する。
「怯えろ!竦めぇ!持てる力を発揮出来ぬまま、死んで往けぇ!」
帆を失っても風石の力で浮き続ける船体に持ち上げられたまま、75ミリガトリングガンで最後の空母を蜂の巣にする
丁度出撃準備を整えた風龍とその乗り手が真っ二つに引き裂かれると同時に、防御用に積んであった弾薬が引火
空母は真っ二つに引きちぎれながら落ちていく。
まさにその姿は鬼神、7万の軍勢が何一つ成せぬまま恐慌状態に陥っている
「あ……あ……」
燃え落ちる、引きちぎられ、叩き付けられる。
砕け散り、焼き尽くされ、さしたる抵抗も出来ぬまま地上部隊をその道連れに落ちていく。
虎の子の艦隊が、トリステインを落とした後はゲルマニアの艦隊と渡り合うべき最強の艦隊が、ただ一体のゴーレムのために混乱状態に陥っている。
一方、グフカスタムの側も決して無事には済んでいなかった。
深刻でなかろうとも、ダメージは積み重なる、そして最悪の被害は最も重要な局面で叩き込まれる。
ヒートワイアーがついに損耗と負荷に耐えきれず引きちぎれた
運悪く接続部分にファイアーボールの直撃を喰らった肩パーツが脱落した、場当たり的に練金で作り出された青銅のコクピットハッチが歪んで落ちた。
「むぅ……!」
しかしそれよりもノリスを唸らせたのは……
「……ゴーレムか、全く持ってご苦労な事だ」
グフカスタムと同程度の大きさに作られた、1体のゴーレム
「ふ……ルイズ様、合流はできそうにありません……自分は、死に場所を見付けました!」
ヒート剣に火がはいる、軽く腰を落とし、両手で剣を構える。
振り抜かれた拳を僅かなスウェーでかいくぐり、その腕を切り落とす。
「敵ゴーレム、足止めに成功しました!」
「天佑だ!全艦突撃!!トリステインのフネを全て沈めてやれ!」
それは、最悪の自乗だった。
ノリスがゴーレムに足止めされている、その僅かな間に最前線の艦隊が統率を取り戻し、紡錘陣を組んで漸く動き出したばかりの輸送艦群に突撃を敢行したのだ。
トリステインに残されたフネでは、その全てを押さえきる事はできない。
「いかんっ!!」
漸くその動きを止めたゴーレムに背を向け、跳躍しようとグフカスタムが身を屈める。
そして飛び上がるまでの刹那、極々短い、そんな言葉すら長すぎる一瞬に
「ぐぅっ!?」
吹き飛んだコクピットハッチのあった空間を裂いて、1本の矢が、ノーマルスーツ毎ノリスの胸を貫いた。
モニターの一部が拡大画像に切り替わり、その兵士を映し出す。
まだ幼い、少年兵と言って良い程度の傭兵が、がたがたと震えながら矢の無くなったボウガンを構えていた
「……見事!」
歴戦の老兵はそう口中で呟くと、愛機を、今まさに輸送艦をその射程に捉えようとしている戦列艦の前に飛び上がらせた。
目の前には、巨大な衝角。
だが避けない、もとより避けようなどとは思っていない。
「勝ったぞ!!」
ノリスの叫びをかき消すように、超巨大な質量が金属塊に激突する音が響き……
グフカスタムに残された最後の火器、35ミリ3連ガトリングガンが火を噴き……レキシントンを撃沈した。
旗艦被撃沈、首脳部全滅。
それが、全ての部隊が見ている前で起こった。
一度は収まりかけた恐慌状態が再びアルビオン=レコン・キスタ軍を包む。
「撤退だ……!」
誰かが呟いた声は、暫定司令部からの戦略指揮と誤解され、全軍に通達された
即ち、「全軍撤退セヨ!」
深刻な被害を受け、誤報によって全軍が撤退を始めたアルビオン軍にトリステイン軍を追う意志はなく。
その日、大会戦は終わりを迎える。
ルイズが眠りから覚めた時、全ては終わっていた。
使い魔の安否を気遣う彼女にギーシュが指し示した先には……
胸部やや下……コクピットを中心に真っ二つに引き裂かれた空色の巨人と、枕を並べる
巨大戦艦の残骸。
そして……千切れ落ちた装甲の一部を使って作られた墓標。
かくして、トリステイン軍は脱出に成功し、大打撃を受けたアルビオン軍との睨み合い期間はより長く
取られる事になる。
歴史から、いや、戦略という観点から見ればこの戦鬼の働きさえ、戦場の一部に過ぎない。
尚、戦鬼の操縦者、ノリス=パッカード大佐は2階級特進し、少将とする。
-トリステイン軍首脳部記録より抜粋
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