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#navi(ゼロのガンパレード)
誰も空を見上げない時代には、空に穴が開く時がある。
古い伝説は言う。なぜならそう、空だって自分を見て欲しいと思う時があるからだ。
自分を見てもらうために、とりあえず世直しからはじめるのだと。
その男の出現は唐突だった。
迷宮のような造りになっているラ・ヴァリエール家の屋敷の中庭を全く迷わずに走りぬけ、庭の中心にある池に向かって疾駆する。
ぶっちゃけ、迷うはずなどありはしない。
なにしろ出現場所から目的地まで一直線に進んだのだから。
塀を乗り越え、屋敷を飛び越し、植え込みの上を走りぬけ、非常識なことに水の上さえ意にも介さず突き進む。
その姿に目を見張る小さなルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールに笑いかけ、軽やかに跳躍すると空中で身体をひねって彼女の乗る小船の舳先に着地した。
「やぁ、お姫さま」
しばらく黙り込んだあと、彼は懐から蒼いハンカチを取り出して彼女の頬に当てて涙を拭う。
「泣いているね。それはいけない。子供は笑っているべきだ。それが女の子ならば尚更だ」
蒼いハンカチをしまうと、同じ色の石のついたペンダントをルイズの首にかける。
「これはいずれ、君が君になる時に必要になるだろう。
それは来るかどうか解らない未来の話だ。
それは御伽噺で、夢物語で、誰もが笑うそんな話だ。
永遠に来ないかも知れない明日の話だ。
けれどそれはいつかやってくるだろう。
御伽噺はいつだって、『めでたしめでたし』で終わるのだから」
男は一息にそれだけを言うと息を大きく吸い、そして吐いた。
「君に一つの呪文を教えよう。
それは効果があるかもしれないしないかもしれない。
物理法則も曲げられず、物理力も行使できず、主観にしか影響を及ぼさない。
けれど最強にして不可能を可能にする万能の言葉だ」
目を白黒するルイズ。
幾らなんでも五歳か六歳の子供に語る言葉ではない。
しかしながら男は大真面目で、真剣で、ノリノリだった。
「“それがどうした!”」
男の一喝。
ルイズは首を左右に振って他に誰もいないのを確認すると、それが男の言う呪文であることにようやく思い至った。
「それは自分を騙すことしか出来ない嘘の言葉だ。
世界中のどこにでもあるような嘘の言葉だ。
そう、世界は嘘に満ちている。
けれど嘘は嘘によって切り裂かれる。その時、最後に残るものこそが真実だ」
男が何を言っているかは解らない。
けれどルイズはその言葉を脳裏に刻みつけた。
会ったことも見たこともなく、妖しくて、胡散臭いことこの上ないが、この男は自分の涙を拭いてくれて、首飾りをくれた。
言っていることは難しすぎて解らないが、どうやら自分を励ましてくれたらしい。
だからルイズはにこりと笑うと、彼女が尊敬してやまない自らの姉のように、
寝物語に聞いた昔話の中の母のように胸を張って言った。
「それが、どうした!」
男は満足げに笑うと、振り向いてルイズに背を向けた。
「以上、終わり。がんばれ」
世界観という世界観と、ルイズに背を向けたまま、男は前を真っ直ぐ見て優しく言った。
「……いいことを教えよう。世の中には、全ての損得を抜きで君の幸せを願う者がいる。
君だけではない。どんな子供にもだ。……世の中には、全ての子供を守る守護者がいる。
未来の護り手だ。
それはただの人間で、ただの人間の集団で、ただの人間が作った物だが、ああ、結局現実なんてそんなものだ」
そして男は前を向いたまま、小さなルイズの心に何年も残る一言を告げた。
「がんばれ、絶対に負けるな」
満面の笑みでそれに頷く小さな姫に頷き、男は爆走を開始した。
「介入終了、加速最大! 大逆転号転移開始、これより帰還する」
池の上を駆け抜け、植え込みの上を走り、屋敷を飛び越し、塀を乗り越えて疾駆する。
見る間に見えなくなった男に、ルイズはお礼の言葉を言っていなかったことを思い出した。
少し考え、小船を操作して岸に着くと屋敷に向かって歩き出す。
途中、植え込みの中を探す召使たちの声が耳に入った。
「ルイズお嬢様は難儀だねぇ」
「まったくだ。上の二人のお嬢様はあんなに魔法がおできになるって言うのに……」
今までならば悲しくて、悔しくて、歯噛みをするようなその声に、しかし小さなルイズは微笑む余裕すらあった。
胸の奥には先ほど教えて貰った呪文があった。
物理法則も曲げられず、物理力も行使できず、主観にしか影響を及ぼさない、
けれど最強にして万能なる魔法の言葉があった。
「“それがどうした!”」
――――この日、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは彼女だけの魔法を手に入れた。
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誰も空を見上げない時代には、空に穴が開く時がある。
古い伝説は言う。なぜならそう、空だって自分を見て欲しいと思う時があるからだ。
自分を見てもらうために、とりあえず世直しからはじめるのだと。
その男の出現は唐突だった。
迷宮のような造りになっているラ・ヴァリエール家の屋敷の中庭を全く迷わずに走りぬけ、庭の中心にある池に向かって疾駆する。
ぶっちゃけ、迷うはずなどありはしない。
なにしろ出現場所から目的地まで一直線に進んだのだから。
塀を乗り越え、屋敷を飛び越し、植え込みの上を走りぬけ、非常識なことに水の上さえ意にも介さず突き進む。
その姿に目を見張る小さなルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールに笑いかけ、軽やかに跳躍すると空中で身体をひねって彼女の乗る小船の舳先に着地した。
「やぁ、お姫さま」
しばらく黙り込んだあと、彼は懐から蒼いハンカチを取り出して彼女の頬に当てて涙を拭う。
「泣いているね。それはいけない。子供は笑っているべきだ。それが女の子ならば尚更だ」
蒼いハンカチをしまうと、同じ色の石のついたペンダントをルイズの首にかける。
「これはいずれ、君が君になる時に必要になるだろう。
それは来るかどうか解らない未来の話だ。
それは御伽噺で、夢物語で、誰もが笑うそんな話だ。
永遠に来ないかも知れない明日の話だ。
けれどそれはいつかやってくるだろう。
御伽噺はいつだって、『めでたしめでたし』で終わるのだから」
男は一息にそれだけを言うと息を大きく吸い、そして吐いた。
「君に一つの呪文を教えよう。
それは効果があるかもしれないしないかもしれない。
物理法則も曲げられず、物理力も行使できず、主観にしか影響を及ぼさない。
けれど最強にして不可能を可能にする万能の言葉だ」
目を白黒するルイズ。
幾らなんでも五歳か六歳の子供に語る言葉ではない。
しかしながら男は大真面目で、真剣で、ノリノリだった。
「“それがどうした!”」
男の一喝。
ルイズは首を左右に振って他に誰もいないのを確認すると、それが男の言う呪文であることにようやく思い至った。
「それは自分を騙すことしか出来ない嘘の言葉だ。
世界中のどこにでもあるような嘘の言葉だ。
そう、世界は嘘に満ちている。
けれど嘘は嘘によって切り裂かれる。その時、最後に残るものこそが真実だ」
男が何を言っているかは解らない。
けれどルイズはその言葉を脳裏に刻みつけた。
会ったことも見たこともなく、妖しくて、胡散臭いことこの上ないが、この男は自分の涙を拭いてくれて、首飾りをくれた。
言っていることは難しすぎて解らないが、どうやら自分を励ましてくれたらしい。
だからルイズはにこりと笑うと、彼女が尊敬してやまない自らの姉のように、
寝物語に聞いた昔話の中の母のように胸を張って言った。
「それが、どうした!」
男は満足げに笑うと、振り向いてルイズに背を向けた。
「以上、終わり。がんばれ」
世界観という世界観と、ルイズに背を向けたまま、男は前を真っ直ぐ見て優しく言った。
「……いいことを教えよう。世の中には、全ての損得を抜きで君の幸せを願う者がいる。
君だけではない。どんな子供にもだ。……世の中には、全ての子供を守る守護者がいる。
未来の護り手だ。
それはただの人間で、ただの人間の集団で、ただの人間が作った物だが、ああ、結局現実なんてそんなものだ」
そして男は前を向いたまま、小さなルイズの心に何年も残る一言を告げた。
「がんばれ、絶対に負けるな」
満面の笑みでそれに頷く小さな姫に頷き、男は爆走を開始した。
「介入終了、加速最大! 大逆転号転移開始、これより帰還する」
池の上を駆け抜け、植え込みの上を走り、屋敷を飛び越し、塀を乗り越えて疾駆する。
見る間に見えなくなった男に、ルイズはお礼の言葉を言っていなかったことを思い出した。
少し考え、小船を操作して岸に着くと屋敷に向かって歩き出す。
途中、植え込みの中を探す召使たちの声が耳に入った。
「ルイズお嬢様は難儀だねぇ」
「まったくだ。上の二人のお嬢様はあんなに魔法がおできになるって言うのに……」
今までならば悲しくて、悔しくて、歯噛みをするようなその声に、しかし小さなルイズは微笑む余裕すらあった。
胸の奥には先ほど教えて貰った呪文があった。
物理法則も曲げられず、物理力も行使できず、主観にしか影響を及ぼさない、
けれど最強にして万能なる魔法の言葉があった。
「“それがどうした!”」
――――この日、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは彼女だけの魔法を手に入れた。
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