「High cost of zero-4」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「High cost of zero-4」(2009/04/15 (水) 12:36:40) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
「ミス・ヴァリエールの召喚した使い魔についてはご存知ですね。」
「ヴァリエール家確か……人間の娘を召喚したんじゃろう? ひゃひゃひゃ、全くこんな事は前代未聞じゃて。」
本塔最上階の一室にオールド・オスマンのしゃがれた笑い声が響く。
入学当初から度々ルイズの引き起こす事件はオスマンの耳に入っていたが、これほどの変り種だとは思っていなかった。
「その使い魔の唯一の持ち物がこれです。」
コルベールは古めかしい本を広げてみせる。
開かれたページには十字の上部が円となった図形が描かれていた。
ディディがいつも下げているペンダントと同じものである。
本を覗き込むと、それまでおどけていたオスマンの顔から笑みが消え
代わりに誰よりも長く生きた熟達のスクエア・メイジの姿がそこにあった。
険しい顔つきのまま「ミス・ロングビル、すまんが…」と言ってお気に入りの秘書に退室を命じる。
「アンクというシンボルで生命を表すそうです。現在ではあまり目にする機会がないのですが
これの起源は恐ろしく古いものでして……また彼女の身なりも我々と大きく異なっている事から、私はディディを過去から来た」
「ミスタ・コルベール、今なんと申した?」
「ええ、信じがたい話ではありますが、私は彼女を遠い過去から来た人物であると推測」
「違う、使い魔の名じゃ!その娘の名は何と申す?」
老いてなお健在な老オスマンの迫力に若干の戸惑いつつコルベールは答えた。実はただのエロジジイじゃないかと思っていたようです。
「あっああ、本人はディディと名乗っています。」
「ふむ。おぬしの推測は恐らく外れじゃ。」
オスマンはその膨大な記憶を一つ一つ探っていく。黒髪の娘ディディ、生命を表すアンク。
やがてオスマンは一つの言葉に行き当たった。その昔、ディーという名の狂ったメイジが記したという本の一節に。
「……Dは色々なもののD、か……コルベール、あの使い魔には細心の注意を払うのじゃ。
ミス・ヴァリエールは人知を超えるものを呼んでしまったのかも知れぬ……如何な大メイジですら手に負えぬものを……。」
教室の後片付けは遅々として進まなかったが、なんとか昼食の時間には間に合った。
ルイズが席に着くと、ディディも何の躊躇もなく隣に座る。
「って、アンタは床よ! 床!」
困った顔をしながらディディが答える。
「ルイズ、あなたいつもそんなに怒ってて疲れない? それに可愛い顔が台無しよ。」
「怒らせているのは誰よ! 使い魔のクセに! いいから床に座りなさい!」
「私は平等という事に関しちゃ定評があるのよ。そうやって人が人を獣のように扱うのは間違いだと思うわ。」
「なんですって~! ごちゃごちゃ言ってると昼食抜きよ!」
「だからそうやって…あ、待って。」
ディディの視界に金髪の少年が給仕の女の子を叱責している姿が目に入る。
ディディは彼女を知っていた。今朝、ディディに朝食を分けてくれたのは今怒られている少女、シエスタだったのだ。
距離は少し離れていたが、会話は何とか聞き取れた。会話と言うより金髪が一方的にがなりたてているだけだが。
どうも話を聞いていると、シエスタは全く非はなく、金髪が権力を盾に無理やり責任転嫁しているようだ。しかし周りは見て見ぬふり。
「ちょっとこっちを向いて私の話を―」
ばんっ
ルイズが話を再開しようとした瞬間、テーブルを叩きつけてディディが立ち上がる。
「主よ、人の愚かさの限りなさよ。」
ぽつりとそう呟くと金髪を目指して歩きだした。ルイズがどこへいくの! と叫んだが耳も貸さない。
「大体、平民の分際でだねェ…ん、なんだ君は? ああミス・ヴァリエールの使い魔だったね、今取り込み中だからさっさと」
「いい加減にしなさいよ、威張り腐る事しか能がないゼウス気取りの女たらしが。
地獄の第二圏に叩き落されたくなかったなら、さっさとこの子に謝罪しなさい。」
「な、な…。」
予想外の展開に言葉を失う金髪ことギーシュ・ド・グラモンを尻目に、ディディはさらに続ける。
「聞えなかったのかい? それともそのオツムの中には私の飼ってる金魚ほどの脳味噌もないから、私の言葉が理解できない?」
「い、いくら温厚な僕だって、ここまで言われたらただじゃおかないよ。あなたに決闘を申し込む!」
ヴェストリの広場には既に決闘の話を聞きつけた生徒達が集まっていた。
ギャラリーの一人であるマリコルヌが叫ぶ。
「ギーシュ、ちゃんと手加減してやれよw」
「フフそれは相手次第さ。」
誰一人としてギーシュの勝利を疑わない中、ディディが現われた。
ルイズは決闘を何とか止めようとさせているのだが、ディディは聞く耳持たないらしい。
「ちょっと本気なの? 怪我する前に謝って! 今ならまだ…。」
「本気よ。」
「何でこんなことをするのよ!」
「言ったでしょ、私は平等主義者なの。さ、もう離れていて。危ないわ。」
ディディはルイズを振り払うと、ついにギーシュの前に立った。
「逃げずに来た事だけは褒めてあげよう!」
「あなたもね。」
「あなた? フフ違うね、僕の名はギーシュ・ド・グラモン! 人呼んで『青銅』のギーシュ!
従って君にはこの青銅のワルキューレの相手となってもらう!」
ギーシュがバラの造花を振ると、一枚の花びらがヒラヒラと宙を舞い、見る見るうちに青銅の女戦士となる。
「行け! ワルキューレ!」
ギーシュが叫ぶとワルキューレは目にも留まらぬ速さでディディの首からペンダントを削ぎ落とす。
無残に変形したアンクのペンダントを見て、思わずルイズが叫ぶ。
「ちょっと! アンタ本気なの !? 相手は丸腰の女の子よ!」
「フフ、それもそうだね。」
ギーシュがもう一度造花を振ると、再び花びらが舞い、今度は剣へと変化する。
「フッ、メイジに対抗するため平民たちが作り出した武器……まだやる気なら、その剣を取りたまえ。」
くねくねとポーズを取りながらギーシュが嫌味ったらしく喋る。
「ディディ、もう止めなさい! あなた剣なんか使えないでしょう!」
「確かに武器を握るのなんて生まれて初めて。何故かみんな私に大鎌に持たせたがるけど。」
と言い、またもや主人の言葉を無視して、ディディは剣を取った。
異変にもっとも早く気が付いたのは、興味なさげに決闘を見ていたタバサだった。
彼女はディディが剣に触れた時点でそれに気づいた。
修羅場を潜り抜けて来るたび研ぎ澄まされてきた勘が警鐘を鳴らす。
「危険。」
タバサの隣でキュルケが言う。
「ええ、このままじゃあの子、ちょっとやそっとの怪我じゃすまないかも。」
「違う。危ないのはギーシュ。」
「せ…いのッ」
ディディは渾身の力を込めて剣を地面から引き抜く。
が、所詮は女の腕力。抜いたのはいいが、剣の重さに振り回されている。
「重……。」
と言いつつ、ディディは剣を大きく上段に構える。まるで土壇場に立つ死刑執行人のように。
「ハハハ、剣を取った以上もう容赦は――」
そこまで言ってギーシュは凍りついた。
全身を寒気が駆け抜け、顔からは血の気が引き、吐き気までこみ上げてくる。
恐ろしい。
ふらつく足取りで剣を構えるこの少女が途方も無く恐ろしく感じた。
そう感じたのはギーシュだけでなく、その場にいた全てのメイジとその使い魔が震え上がった。何人かは涙を流している。
魔力を操る者の血と獣の本能が、何をしても無駄だ、この少女の剣からは誰であろうと絶対に逃れられない、そう言っていた。
不気味な沈黙の中、ただ一人、平民のシエスタだけがわけが分からずに困惑していた。
恐怖の源の主たるルイズも例外なく恐怖を感じていたが、衝撃は他の者より少ない。
なぜならルイズはこの感覚に覚えがあったからだ。今より億倍も弱いが、確かに度々ディディにこれと同じものを感じていた。
ザッとディディが一歩踏み込んだ、いやただ単によろめいただけかもしれない。
いずれにしろ、完全に戦意を喪失していたギーシュにはそれで十分だった。
「ま、参った! 僕の負けだ! かか彼女には謝る!」
「それまでっ!」
ギーシュが敗北を受け入た瞬間、いつの間にか現われていたコルベールが叫ぶ。
その声を聞いて、ディディは剣を下ろしてその場にへたり込んだ。
途端に恐怖に囚われていた生徒達はハッと我に返る。
急いでルイズはディディの前に駆け寄った。
しかし、ルイズが口を開く前に、「ああ、ルイズ……怖かったわ……。」と言ってディディはその場で気を失った。
#navi(High cost of zero)
「ミス・ヴァリエールの召喚した使い魔についてはご存知ですね。」
「ヴァリエール家確か……人間の娘を召喚したんじゃろう? ひゃひゃひゃ、全くこんな事は前代未聞じゃて。」
本塔最上階の一室にオールド・オスマンのしゃがれた笑い声が響く。
入学当初から度々ルイズの引き起こす事件はオスマンの耳に入っていたが、これほどの変り種だとは思っていなかった。
「その使い魔の唯一の持ち物がこれです。」
コルベールは古めかしい本を広げてみせる。
開かれたページには十字の上部が円となった図形が描かれていた。
ディディがいつも下げているペンダントと同じものである。
本を覗き込むと、それまでおどけていたオスマンの顔から笑みが消え
代わりに誰よりも長く生きた熟達のスクエア・メイジの姿がそこにあった。
険しい顔つきのまま「ミス・ロングビル、すまんが…」と言ってお気に入りの秘書に退室を命じる。
「アンクというシンボルで生命を表すそうです。現在ではあまり目にする機会がないのですが
これの起源は恐ろしく古いものでして……また彼女の身なりも我々と大きく異なっている事から、私はディディを過去から来た」
「ミスタ・コルベール、今なんと申した?」
「ええ、信じがたい話ではありますが、私は彼女を遠い過去から来た人物であると推測」
「違う、使い魔の名じゃ!その娘の名は何と申す?」
老いてなお健在な老オスマンの迫力に若干の戸惑いつつコルベールは答えた。実はただのエロジジイじゃないかと思っていたようです。
「あっああ、本人はディディと名乗っています。」
「ふむ。おぬしの推測は恐らく外れじゃ。」
オスマンはその膨大な記憶を一つ一つ探っていく。黒髪の娘ディディ、生命を表すアンク。
やがてオスマンは一つの言葉に行き当たった。その昔、ディーという名の狂ったメイジが記したという本の一節に。
「……Dは色々なもののD、か……コルベール、あの使い魔には細心の注意を払うのじゃ。
ミス・ヴァリエールは人知を超えるものを呼んでしまったのかも知れぬ……如何な大メイジですら手に負えぬものを……。」
教室の後片付けは遅々として進まなかったが、なんとか昼食の時間には間に合った。
ルイズが席に着くと、ディディも何の躊躇もなく隣に座る。
「って、アンタは床よ! 床!」
困った顔をしながらディディが答える。
「ルイズ、あなたいつもそんなに怒ってて疲れない? それに可愛い顔が台無しよ。」
「怒らせているのは誰よ! 使い魔のクセに! いいから床に座りなさい!」
「私は平等という事に関しちゃ定評があるのよ。そうやって人が人を獣のように扱うのは間違いだと思うわ。」
「なんですって~! ごちゃごちゃ言ってると昼食抜きよ!」
「だからそうやって…あ、待って。」
ディディの視界に金髪の少年が給仕の女の子を叱責している姿が目に入る。
ディディは彼女を知っていた。今朝、ディディに朝食を分けてくれたのは今怒られている少女、シエスタだったのだ。
距離は少し離れていたが、会話は何とか聞き取れた。会話と言うより金髪が一方的にがなりたてているだけだが。
どうも話を聞いていると、シエスタは全く非はなく、金髪が権力を盾に無理やり責任転嫁しているようだ。しかし周りは見て見ぬふり。
「ちょっとこっちを向いて私の話を―」
ばんっ
ルイズが話を再開しようとした瞬間、テーブルを叩きつけてディディが立ち上がる。
「主よ、人の愚かさの限りなさよ。」
ぽつりとそう呟くと金髪を目指して歩きだした。ルイズがどこへいくの! と叫んだが耳も貸さない。
「大体、平民の分際でだねェ…ん、なんだ君は? ああミス・ヴァリエールの使い魔だったね、今取り込み中だからさっさと」
「いい加減にしなさいよ、威張り腐る事しか能がないゼウス気取りの女たらしが。
地獄の第二圏に叩き落されたくなかったなら、さっさとこの子に謝罪しなさい。」
「な、な…。」
予想外の展開に言葉を失う金髪ことギーシュ・ド・グラモンを尻目に、ディディはさらに続ける。
「聞えなかったのかい? それともそのオツムの中には私の飼ってる金魚ほどの脳味噌もないから、私の言葉が理解できない?」
「い、いくら温厚な僕だって、ここまで言われたらただじゃおかないよ。あなたに決闘を申し込む!」
ヴェストリの広場には既に決闘の話を聞きつけた生徒達が集まっていた。
ギャラリーの一人であるマリコルヌが叫ぶ。
「ギーシュ、ちゃんと手加減してやれよw」
「フフそれは相手次第さ。」
誰一人としてギーシュの勝利を疑わない中、ディディが現われた。
ルイズは決闘を何とか止めようとさせているのだが、ディディは聞く耳持たないらしい。
「ちょっと本気なの? 怪我する前に謝って! 今ならまだ…。」
「本気よ。」
「何でこんなことをするのよ!」
「言ったでしょ、私は平等主義者なの。さ、もう離れていて。危ないわ。」
ディディはルイズを振り払うと、ついにギーシュの前に立った。
「逃げずに来た事だけは褒めてあげよう!」
「あなたもね。」
「あなた? フフ違うね、僕の名はギーシュ・ド・グラモン! 人呼んで『青銅』のギーシュ!
従って君にはこの青銅のワルキューレの相手となってもらう!」
ギーシュがバラの造花を振ると、一枚の花びらがヒラヒラと宙を舞い、見る見るうちに青銅の女戦士となる。
「行け! ワルキューレ!」
ギーシュが叫ぶとワルキューレは目にも留まらぬ速さでディディの首からペンダントを削ぎ落とす。
無残に変形したアンクのペンダントを見て、思わずルイズが叫ぶ。
「ちょっと! アンタ本気なの !? 相手は丸腰の女の子よ!」
「フフ、それもそうだね。」
ギーシュがもう一度造花を振ると、再び花びらが舞い、今度は剣へと変化する。
「フッ、メイジに対抗するため平民たちが作り出した武器……まだやる気なら、その剣を取りたまえ。」
くねくねとポーズを取りながらギーシュが嫌味ったらしく喋る。
「ディディ、もう止めなさい! あなた剣なんか使えないでしょう!」
「確かに武器を握るのなんて生まれて初めて。何故かみんな私に大鎌に持たせたがるけど。」
と言い、またもや主人の言葉を無視して、ディディは剣を取った。
異変にもっとも早く気が付いたのは、興味なさげに決闘を見ていたタバサだった。
彼女はディディが剣に触れた時点でそれに気づいた。
修羅場を潜り抜けて来るたび研ぎ澄まされてきた勘が警鐘を鳴らす。
「危険。」
タバサの隣でキュルケが言う。
「ええ、このままじゃあの子、ちょっとやそっとの怪我じゃすまないかも。」
「違う。危ないのはギーシュ。」
「せ…いのッ」
ディディは渾身の力を込めて剣を地面から引き抜く。
が、所詮は女の腕力。抜いたのはいいが、剣の重さに振り回されている。
「重……。」
と言いつつ、ディディは剣を大きく上段に構える。まるで土壇場に立つ死刑執行人のように。
「ハハハ、剣を取った以上もう容赦は――」
そこまで言ってギーシュは凍りついた。
全身を寒気が駆け抜け、顔からは血の気が引き、吐き気までこみ上げてくる。
恐ろしい。
ふらつく足取りで剣を構えるこの少女が途方も無く恐ろしく感じた。
そう感じたのはギーシュだけでなく、その場にいた全てのメイジとその使い魔が震え上がった。何人かは涙を流している。
魔力を操る者の血と獣の本能が、何をしても無駄だ、この少女の剣からは誰であろうと絶対に逃れられない、そう言っていた。
不気味な沈黙の中、ただ一人、平民のシエスタだけがわけが分からずに困惑していた。
恐怖の源の主たるルイズも例外なく恐怖を感じていたが、衝撃は他の者より少ない。
なぜならルイズはこの感覚に覚えがあったからだ。今より億倍も弱いが、確かに度々ディディにこれと同じものを感じていた。
ザッとディディが一歩踏み込んだ、いやただ単によろめいただけかもしれない。
いずれにしろ、完全に戦意を喪失していたギーシュにはそれで十分だった。
「ま、参った! 僕の負けだ! かか彼女には謝る!」
「それまでっ!」
ギーシュが敗北を受け入た瞬間、いつの間にか現われていたコルベールが叫ぶ。
その声を聞いて、ディディは剣を下ろしてその場にへたり込んだ。
途端に恐怖に囚われていた生徒達はハッと我に返る。
急いでルイズはディディの前に駆け寄った。
しかし、ルイズが口を開く前に、「ああ、ルイズ……怖かったわ……。」と言ってディディはその場で気を失った。
----
#navi(High cost of zero)
表示オプション
横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: