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マジシャン ザ ルイズ (7)天才の霊感
ベランダ、そこには夜空に浮かぶ双月を見上げるウルザの姿がある。
まるで届かぬ先にいる何者かを、視線を持って射抜こうとするかのように不動の構え。
「まー、相棒、そんな落ち込むこたぁねえぜ。ありゃあスクエアクラスかもわからんね」
ベランダの一角にデルフリンガー、隣にはシュペー卿の魔法剣が置かれている。
「…私が落ち込んでいる?デルフリンガー、お前にはそう見えるのか」
「そらあ見えるさ。付き合いは長くねえが、これでも結構長生きはしてんだ」
「そうか…では、そうなのかも知れんな」
あの決闘の後、ウルザは一日を宿の部屋で過ごした。
他の者達は町にでもくり出したのであろう、今何をしているかは分からない。
今は、ただ夜になったのでベランダに出て、二つ月を眺めている。
そこに論理的な思考などありはしない。
ただ、在る様に在る。
頭の中で常に自身を苛むグレイシャンの声、それに屈することなく、己として在り続けた4000年もの年月。
在る様にして在った時間の自分と、月を見上げている自分、何も違わないはずである。
では、部屋に篭り、一人夜空を望んでいる今の自分は、普段のままなのだろうか?
なるほど、これは確かに落ち込んでいるのかもしれない、ウルザ自身もそう思った。
もしも、そうであるならば、いつぶりのことであろうか。
失敗もあった、後悔もあった、しかし、落ち込むなどという感傷はいつ以来であろうか。
ワルド子爵。
彼を見ているとウルザの中で騒ぐものがあるのだ。
彼の中の何かが、ワルドを認めることを良しとしない。
これがここ数日の自分自身のらしく無さの原因であると分かる。
しかし、分かったからと言ってどうということは無い、嫌悪すべき人間はこれまでにも何人もいた。
彼らとワルド、変わらぬはずである。
それとも、ハルケギニアに渡ったことで、何かが変わったのだろうか。
「そんなに気にするなよ。ところでよ相棒、握られてるときにふと思い出したことがあるんだけどよ。
それがよお……ああん?なんだっけかな、何せ、随分と大昔のことだからな…って、あ、おい、待て、」
ウルザはデルフリンガーを鞘に収めた。
なぜか一人で、あの双子の月を見ていたいと思ったのだ。
「ミスタ・ウルザ」
果たしていかほどの時間がたっただろうか。
月夜を見上げるウルザに声をかけるルイズ。
いつかの夜の再現。
「落ち込んでいるの?」
「君にもそう見えるのかね。となると重症のようだ」
振り返らずにウルザ。
「記憶は、戻ったの?」
「………いいや」
「そう、そのうち、何とかしなくちゃね」
無言の闇。
いつもの二人、振り返らぬウルザ、その背に語りかけるルイズ。
決して話しかけてもらえない自分、そのことに腹が立った。
だからかも知れない、言わなくてもいいことを口に出してしまったのは。
「私、ワルド子爵にプロポーズされたわ」
「……そうかね、おめでとう」
おめでとう?よりによっておめでとう!?――理不尽な苛立ち。
「何よ!?負けたことをまだ気にしてるの!?」
「そんなことは無い」
「だったらこっちを向きなさいよ!」
「………」
返すウルザは無言、ただ、そこに在る。
「分かったわ!好きに月でもみてればいいわ!私はワルドに守ってもらうわ!彼はあなたなんかよりも強いんだから!」
「………」
「いいわ、今、決心したわ。私、ワルドと結婚するわ」
「………そうかね」
「!?もう知らない!何が導くよ!嘘つき!」
叫んで、ルイズが歩きだそうとした、その時。
「ミス・ルイズ!」
後ろからウルザがルイズを掴んで押し倒す。
同時に轟音、何かが砕け散る音。
煙る視界。それが晴れた時、ウルザとルイズの前に姿を現したのは巨大な岩のゴーレムであった。
そして、そのゴーレムの肩、そこには長い髪をたなびかせた誰かが座っている。
「フーケ!?」
そう、そこにいたのは二人が捕らえたはずの、フーケその人であった。
「覚えていてくれたなんて感激だわ」
「あんた今頃は牢獄の中なんじゃなかったの!」
ウルザの背後に庇われながら、ルイズが叫んだ。
「親切な人がね、もっと世の中のお役に立ちなさいって、出してくれたのよ」
よく見るとフーケの横に一人の貴族の姿、顔は白い仮面をつけているので分からない。
「それで、今日はお礼に来てくれたという訳かね」
「ええ、そうよ。本当に……素敵なバカンスをありがとうっ!!」
言うが早いか、ゴーレムが手にしていた巨大な岩がベランダに向かって投げつけられる。
それより早く、ウルザがルイズの手を掴み、部屋を飛び出した。
階段を駆け下りた先の一階もまた、修羅場であった。
多数の傭兵達がワルド達を襲ったらしく、ギーシュ、キュルケ、タバサ、ワルドが魔法で応戦している。
足を折り盾にしているテーブルの影から迎撃しているが、傭兵達は魔法の射程外から矢を射掛けている。
多勢に無勢。よく応戦しているが旗色は良くない。
ウルザとルイズは、矢を避けながら何とかワルド達が盾としているテーブルの影に飛び込んだ。
「参ったね」
ワルドの言葉に、キュルケが頷く。
「やっぱりこの前の連中はただの物取りじゃ無かったってことね」
「空を行く人間を襲撃したんだ、アルビオン貴族達の手配だとは思ったが、まさかここまでやるとはね」
「奴等の狙いはこっちに魔法を使わせることよ、精神力が尽きたところで一斉に突撃してくるわ」
ワルドとキュルケ、よく状況を把握している二人の会話。
ギーシュは分けもわからずおろおろとし、タバサはこんな時でも本を読んでいる。
「良いか諸君」
全員を見回してワルドが低い声で語り始める。
「このような任務は、半数が目的地に到達できれば成功とされる」
「囮か」
ウルザの言葉にワルドが頷く。
タバサが読んでいた本を閉じて、キュルケとギーシュ、自分を杖で指して「囮」と呟く。
それに対してウルザとワルドが頷き合う。
「行くぞ、ミス・ルイズ」
「急げ、裏口は向こうだ!」
「え?え!?ちょっとっ!」
状況を理解出来ていないルイズにキュルケが怒鳴る。
「今からあたし達が敵を引きつけるから、その間にあんた達が裏口から脱出して桟橋へ向かうってことよ!」
「そんなことしたらあんた達がっ!」
「うっさい、邪魔っ!さっさと行きなさいよ!」
キュルケに追い立てられるようにして、ルイズも裏口へ向かう。
ルイズが裏口から脱出するのを見届けてから、キュルケが口を開く。
「………なぁんて、言ってみたけど、どうしましょうかねぇ」
「こっちだ!」
ルイズ・ウルザ・ワルドの一行が一途桟橋に向かい走り続けている。
月明かりが照らす道、ワルドはとある建物の間の階段を見つけると上り始める。
ルイズとウルザも無言でそれに倣う。
そうして長い階段を上り終えると、一同は丘の上に出た。
ウルザの眼前にはあまりに大きな樹がそびえている。
巨大な、巨大な樹木が四方八方に枝を伸ばしている。
そして、その枝にはそれぞれ大きな何か……船がぶら下がっている。
「これが桟橋……」
ウルザが驚いたように声を出すと、ルイズが怪訝な顔で聞き返した。
「そうよ?何か変?」
樹木の内部は空洞になっており、各枝に通じる階段がある。
ワルドは目的の階段を見つけると駆け上がり始めた。
ルイズとウルザもそれを追いかける。
階段の先には一本の枝が伸びていた。
その枝に沿って一隻の船が停泊している、帆船のような形状だが、舷側には羽が突き出しているのが見える。
枝から伸びたタラップを伝い、ワルド達が船上に飛び乗ると甲板で眠っていた船員が起き上がった。
「な、なんでぇ?おまえら」
「船長はいるか?」
「船長なら寝てるぜ。用があるんなら、明日の朝、改めて来るんだな」
ワルドが杖を引き抜き船員の首に押し当てる。
「貴族に二度同じことを言わせる気か?僕は船長を呼べと言ったんだ」
「き、貴族様!?」
船員は顔を青くして立ち上がると、船長室へ走っていく。
暫くして、まだ眠そうな顔をした男を連れてくる、彼が船長らしい。
「なんの御用ですかな?」
「女王陛下の魔法衛士隊隊長、ワルド子爵だ。アルビオンへ、今すぐ出航してもらいたい」
「む、無茶だ!」
流石にこの発言には、寝ぼけ顔だった船長も飛び跳ねる。
「勅命である。王室に逆らうつもりか?」
「あなた方が何しにアルビオンへ行くのか知ったこっちゃありませんが、朝にならないと出航なんて出来ませんよ!」
「どうしてだ?」
「アルビオンがラ・ロシェールに最も近づくのは朝です!その前に出航したんじゃ風石が足りなくて落っこちてしまいます!」
「風石とは何かね?」
これまで黙っていたウルザが船長に尋ねる。
船長は風石も知らんのか?という顔をした後答えた。
「『風』の魔法力を蓄えた石のことさ。それで船は浮かぶんだ」
ウルザが得心したという顔で周囲を見回している、生来の知的好奇心が刺激されているらしかった。
「風石が足りぬ分は僕が補う。『風』のスクウェアメイジなら問題ないだろう」
船長と船員が顔を見合わせた、それからワルドの方を向いて頷く。
「なら結構です。料金ははずんでもらいますよ」
風石を使って船が浮かぶことを知ってウルザは驚いた。
彼はすぐさま頭の中で新たな船のデザインを始めた。
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マジシャン ザ ルイズ (7)天才の霊感
ベランダ、そこには夜空に浮かぶ双月を見上げるウルザの姿がある。
まるで届かぬ先にいる何者かを、視線を持って射抜こうとするかのように不動の構え。
「まー、相棒、そんな落ち込むこたぁねえぜ。ありゃあスクエアクラスかもわからんね」
ベランダの一角にデルフリンガー、隣にはシュペー卿の魔法剣が置かれている。
「…私が落ち込んでいる?デルフリンガー、お前にはそう見えるのか」
「そらあ見えるさ。付き合いは長くねえが、これでも結構長生きはしてんだ」
「そうか…では、そうなのかも知れんな」
あの決闘の後、ウルザは一日を宿の部屋で過ごした。
他の者達は町にでもくり出したのであろう、今何をしているかは分からない。
今は、ただ夜になったのでベランダに出て、二つ月を眺めている。
そこに論理的な思考などありはしない。
ただ、在る様に在る。
頭の中で常に自身を苛むグレイシャンの声、それに屈することなく、己として在り続けた4000年もの年月。
在る様にして在った時間の自分と、月を見上げている自分、何も違わないはずである。
では、部屋に篭り、一人夜空を望んでいる今の自分は、普段のままなのだろうか?
なるほど、これは確かに落ち込んでいるのかもしれない、ウルザ自身もそう思った。
もしも、そうであるならば、いつぶりのことであろうか。
失敗もあった、後悔もあった、しかし、落ち込むなどという感傷はいつ以来であろうか。
ワルド子爵。
彼を見ているとウルザの中で騒ぐものがあるのだ。
彼の中の何かが、ワルドを認めることを良しとしない。
これがここ数日の自分自身のらしく無さの原因であると分かる。
しかし、分かったからと言ってどうということは無い、嫌悪すべき人間はこれまでにも何人もいた。
彼らとワルド、変わらぬはずである。
それとも、ハルケギニアに渡ったことで、何かが変わったのだろうか。
「そんなに気にするなよ。ところでよ相棒、握られてるときにふと思い出したことがあるんだけどよ。
それがよお……ああん?なんだっけかな、何せ、随分と大昔のことだからな…って、あ、おい、待て、」
ウルザはデルフリンガーを鞘に収めた。
なぜか一人で、あの双子の月を見ていたいと思ったのだ。
「ミスタ・ウルザ」
果たしていかほどの時間がたっただろうか。
月夜を見上げるウルザに声をかけるルイズ。
いつかの夜の再現。
「落ち込んでいるの?」
「君にもそう見えるのかね。となると重症のようだ」
振り返らずにウルザ。
「記憶は、戻ったの?」
「………いいや」
「そう、そのうち、何とかしなくちゃね」
無言の闇。
いつもの二人、振り返らぬウルザ、その背に語りかけるルイズ。
決して話しかけてもらえない自分、そのことに腹が立った。
だからかも知れない、言わなくてもいいことを口に出してしまったのは。
「私、ワルド子爵にプロポーズされたわ」
「……そうかね、おめでとう」
おめでとう?よりによっておめでとう!?――理不尽な苛立ち。
「何よ!?負けたことをまだ気にしてるの!?」
「そんなことは無い」
「だったらこっちを向きなさいよ!」
「………」
返すウルザは無言、ただ、そこに在る。
「分かったわ!好きに月でもみてればいいわ!私はワルドに守ってもらうわ!彼はあなたなんかよりも強いんだから!」
「………」
「いいわ、今、決心したわ。私、ワルドと結婚するわ」
「………そうかね」
「!?もう知らない!何が導くよ!嘘つき!」
叫んで、ルイズが歩きだそうとした、その時。
「ミス・ルイズ!」
後ろからウルザがルイズを掴んで押し倒す。
同時に轟音、何かが砕け散る音。
煙る視界。それが晴れた時、ウルザとルイズの前に姿を現したのは巨大な岩のゴーレムであった。
そして、そのゴーレムの肩、そこには長い髪をたなびかせた誰かが座っている。
「フーケ!?」
そう、そこにいたのは二人が捕らえたはずの、フーケその人であった。
「覚えていてくれたなんて感激だわ」
「あんた今頃は牢獄の中なんじゃなかったの!」
ウルザの背後に庇われながら、ルイズが叫んだ。
「親切な人がね、もっと世の中のお役に立ちなさいって、出してくれたのよ」
よく見るとフーケの横に一人の貴族の姿、顔は白い仮面をつけているので分からない。
「それで、今日はお礼に来てくれたという訳かね」
「ええ、そうよ。本当に……素敵なバカンスをありがとうっ!!」
言うが早いか、ゴーレムが手にしていた巨大な岩がベランダに向かって投げつけられる。
それより早く、ウルザがルイズの手を掴み、部屋を飛び出した。
階段を駆け下りた先の一階もまた、修羅場であった。
多数の傭兵達がワルド達を襲ったらしく、ギーシュ、キュルケ、タバサ、ワルドが魔法で応戦している。
足を折り盾にしているテーブルの影から迎撃しているが、傭兵達は魔法の射程外から矢を射掛けている。
多勢に無勢。よく応戦しているが旗色は良くない。
ウルザとルイズは、矢を避けながら何とかワルド達が盾としているテーブルの影に飛び込んだ。
「参ったね」
ワルドの言葉に、キュルケが頷く。
「やっぱりこの前の連中はただの物取りじゃ無かったってことね」
「空を行く人間を襲撃したんだ、アルビオン貴族達の手配だとは思ったが、まさかここまでやるとはね」
「奴等の狙いはこっちに魔法を使わせることよ、精神力が尽きたところで一斉に突撃してくるわ」
ワルドとキュルケ、よく状況を把握している二人の会話。
ギーシュは分けもわからずおろおろとし、タバサはこんな時でも本を読んでいる。
「良いか諸君」
全員を見回してワルドが低い声で語り始める。
「このような任務は、半数が目的地に到達できれば成功とされる」
「囮か」
ウルザの言葉にワルドが頷く。
タバサが読んでいた本を閉じて、キュルケとギーシュ、自分を杖で指して「囮」と呟く。
それに対してウルザとワルドが頷き合う。
「行くぞ、ミス・ルイズ」
「急げ、裏口は向こうだ!」
「え?え!?ちょっとっ!」
状況を理解出来ていないルイズにキュルケが怒鳴る。
「今からあたし達が敵を引きつけるから、その間にあんた達が裏口から脱出して桟橋へ向かうってことよ!」
「そんなことしたらあんた達がっ!」
「うっさい、邪魔っ!さっさと行きなさいよ!」
キュルケに追い立てられるようにして、ルイズも裏口へ向かう。
ルイズが裏口から脱出するのを見届けてから、キュルケが口を開く。
「………なぁんて、言ってみたけど、どうしましょうかねぇ」
「こっちだ!」
ルイズ・ウルザ・ワルドの一行が一途桟橋に向かい走り続けている。
月明かりが照らす道、ワルドはとある建物の間の階段を見つけると上り始める。
ルイズとウルザも無言でそれに倣う。
そうして長い階段を上り終えると、一同は丘の上に出た。
ウルザの眼前にはあまりに大きな樹がそびえている。
巨大な、巨大な樹木が四方八方に枝を伸ばしている。
そして、その枝にはそれぞれ大きな何か……船がぶら下がっている。
「これが桟橋……」
ウルザが驚いたように声を出すと、ルイズが怪訝な顔で聞き返した。
「そうよ?何か変?」
樹木の内部は空洞になっており、各枝に通じる階段がある。
ワルドは目的の階段を見つけると駆け上がり始めた。
ルイズとウルザもそれを追いかける。
階段の先には一本の枝が伸びていた。
その枝に沿って一隻の船が停泊している、帆船のような形状だが、舷側には羽が突き出しているのが見える。
枝から伸びたタラップを伝い、ワルド達が船上に飛び乗ると甲板で眠っていた船員が起き上がった。
「な、なんでぇ?おまえら」
「船長はいるか?」
「船長なら寝てるぜ。用があるんなら、明日の朝、改めて来るんだな」
ワルドが杖を引き抜き船員の首に押し当てる。
「貴族に二度同じことを言わせる気か?僕は船長を呼べと言ったんだ」
「き、貴族様!?」
船員は顔を青くして立ち上がると、船長室へ走っていく。
暫くして、まだ眠そうな顔をした男を連れてくる、彼が船長らしい。
「なんの御用ですかな?」
「女王陛下の魔法衛士隊隊長、ワルド子爵だ。アルビオンへ、今すぐ出航してもらいたい」
「む、無茶だ!」
流石にこの発言には、寝ぼけ顔だった船長も飛び跳ねる。
「勅命である。王室に逆らうつもりか?」
「あなた方が何しにアルビオンへ行くのか知ったこっちゃありませんが、朝にならないと出航なんて出来ませんよ!」
「どうしてだ?」
「アルビオンがラ・ロシェールに最も近づくのは朝です!その前に出航したんじゃ風石が足りなくて落っこちてしまいます!」
「風石とは何かね?」
これまで黙っていたウルザが船長に尋ねる。
船長は風石も知らんのか?という顔をした後答えた。
「『風』の魔法力を蓄えた石のことさ。それで船は浮かぶんだ」
ウルザが得心したという顔で周囲を見回している、生来の知的好奇心が刺激されているらしかった。
「風石が足りぬ分は僕が補う。『風』のスクウェアメイジなら問題ないだろう」
船長と船員が顔を見合わせた、それからワルドの方を向いて頷く。
「なら結構です。料金ははずんでもらいますよ」
風石を使って船が浮かぶことを知ってウルザは驚いた。
彼はすぐさま頭の中で新たな船のデザインを始めた。
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