■ ミドナイトチワワ -工藤遥・譜久村聖- ■
夜だ。
目を覚ますと、もうまっくらだった。
ふと背中にぬくもりを感じ、ねがえりを打つ。
『まー?…ちゃん…?』
工藤の背中、そこに申し訳なさそうに身を寄せ、眠っている。
そっか、ハルが泣いてたからか。
佐藤のほほには、くっきりとわかるほどの涙の痕があった。
『わりい、ごめんな…。』
工藤はゆっくりと起き上がり、キッチンへ。
冷蔵庫、なにか飲み物でも探そう。
ソファーから人の気配。
譜久村聖だ。
ソファーで横にはなっていたが、今まで眠れずにいたのだろう。
『お茶、のむ?』
『……』
カーペットに座り、お茶を待つ。
譜久村の背中ごし、急須に少しお湯を入れ、くるくると回すのを目で追う。
中のお湯を捨て、茶筒から一杯二杯、そして、熱いお湯を注ぐ。
急須と湯呑を載せ、お盆を座卓まで運んでくる。
『ねぇ、どぅー?』
『…なんすか、譜久村さん』
『どぅー、がさ、聖のコト避けてるのって、やっぱり、聖に【視】られたくないから、だよね……』
『……』
こぽこぽ、熱いお茶の注がれる小気味良い音が、四方の闇に消えていく。
【残留思念感知(オブジェクトリーディング;object reading)】、譜久村聖の能力。
工藤遥は、最初から、一瞥した瞬間から、譜久村聖を避けていた。
それは、譜久村にもはっきりとわかった。
だけど……
注いだ湯呑の片方を工藤の前へ。
『矢島舞美、さん』
『!?!』
『ごめんね、お風呂に残ってたから…いけないって思ったけど、【視】ちゃったの』
みるまに工藤の顔が、耳が、真っ赤になる。
羞恥と怒り。
それをみて、譜久村は後悔する。
やっぱり、言わなきゃよかった。
でも、いま話さなきゃ、もっと後悔する。
どこまで、譜久村は【視】てしまったのだろう?
風呂場での会話だけだろうか?
それとも、もっと別の……
その夜、二人の間で何が語られたのか。
聴衆たる暗闇が、湯呑の温度を奪っていく。
投稿日:2013/12/31(火) 22:33:33.16 0
最終更新:2014年01月03日 01:39