『CRAZY DANCE』



今年の夏、この国ではある事が流行った。

コンビニや飲食店の従業員が冷蔵庫に寝そべったり。
お客さんに出す前の食べ物で遊んだり。
そうした画像をUPして炎上し、店や企業が謝罪に及ぶという流れ。
これが、いくつもいくつも出てきた。

この問題がTV等で取り上げられ、そうした行為に及んだ代償として、
ネット上で実名をばら撒かれ、学校や会社に電話で抗議されて散々な目に合うのだと警鐘を鳴らす。

しかし、警鐘が届かぬ所にいる者ほど、問題としての面が削ぎ落とされ、トレンドとしてだけ広がってゆく。
彼らは、疑うことなくそれをトレンドだと思い込み、踊らされてゆく。
やがてこの問題は沈静化したが、それはその行為の愚かさや恐ろしさを理解したからではない。
ただ単に、飽きたのである。
飽きっぽく忘れっぽい彼らは、いつも新たなトレンドを探している。


「なー!これヤバくね!?」
「すげえw最高だなwww」

夜も更けだした時分、車の中でスマホで動画を見て盛り上がる若者たち。
見ている動画は“ノックアウトゲーム”なる、海の向こうで社会問題化しているもの。
街を歩く見知らぬ他人に突然殴りかかり、一撃で気絶させれば成功だとされる、大変危険でありれっきとした犯罪行為である。

「な!?やってみたくね!?」
「いいなwやろーぜやろーぜw」

若者たちは適当な場所に車を停め、街の裏通りを闊歩し始めた。
先ほどまで雨が降っていて、路面には水溜まりが所々にある。

「お前最初やれよ」
「えーwなんで俺?w」
「お前空手やってたんだろ?」
「小学校ん時だけだってw」
「いいだろ、まずお前で勢いつけてさ」
「俺撮ってるからさw」


その時、前方を歩く人物を見つけた。
歩みを速めて近づくと、どうやら同年代かまたは年下の少女のようだ。

「あいつでいいのか?行くぞ?」
「おう、早くやれよ」

若者たちの中から、1人が少女に近寄る。
そして、思い切り振りかぶり、全力で拳を繰り出す。

スカッ

「!!??」

よろける若者。
全く自分達に気付いていない素振りだった少女が、拳を瞬時に避けた。
少女は若者たちを睨み付ける。

「ヤベえ!逃げるぞ!」

駆け出そうとする若者たち。
しかし、ある異変が起きた。


「ぅあぁっ」

殴りかかろうとした若者が、言葉にならない声を出し、顔を押さえて倒れ込んだ。

「何してんだよ!逃げねーと!」
「顔が…刺さった…」

見ると、顔中が針のようなもので刺されたように細かく出血している。
そして少女は、逃げようともせず変わらず若者たちを睨み付けている。

「てめえ何しやがった!?」
「それはこっちのセリフ」

冷静な口調で返す少女。
それに逆上した若者たちは、少女へ襲い掛かろうとする。
その時、周囲の水溜まりの水が舞い上がった。
それは無数の針状に形作られ、若者たちの顔面へ次々と突き刺さる。


倒れ込み、もがき回る若者たち。
その拍子で、スマホや財布などの持ち物が散乱する。

ああ、そういえばスマホで撮ってたっぽい人がいたな、どの人だっけ。
わかんないや、念のため全部やっとこ。

散らばったスマホに、水流が貫通して真ん中に穴が開く。

これで彼らが今後、愚かな行為をやめるかはわからない。
そしてまだ、トレンドに踊らされる者は後をたたないだろう。
狂いだした歯車はもう止まらない。
だけど、少しでもそれを食い止めたい。

恐れをなして逃げてゆく若者たちを見送って、少女はまた歩き始めた。





投稿日:2013/12/03(火) 18:15:21.39 0




















最終更新:2013年12月05日 00:04