■ ライアポロジー -飯窪春菜・石田亜佑美- ■
飯窪春菜が目覚めたとき、すでに石田亜佑美がそこにいた。
目に涙をため、起き上った飯窪を睨みつけていた。
「あ、あの…」
一瞬、目が眩み、耳が聞こえなくなる。
その頬が歪む。
間髪をいれず、
猛烈な勢いで殴られた。
再び感覚が戻った時、石田亜佑美が顔をうずめ、泣いていた。
飯窪の胸の中、飯窪を両手で痛いほど抱きしめ、肩を震わせ、泣いていた。
「一生!後悔するところだった!」
「あ…」
「あなたが死んでいたら、私は一生!」
そう言って、また泣いた。
「あの…」
「約束して!」
「え…」
「もう二度とウチを騙すようなことしないで!」
「……」
「次にまた嘘ついたら!嘘ついたら!」
「ぶつからっ!」
ぶつだけなんかーい
飯窪は心の中でそうつっこんだ。
やっぱり、いい人、だったな。
「はい…約束します。もう二度と嘘はつきませんから。」
「ほんどだよ…ほんどだからねっ……」
「はい……」
単純だけど、とってもいい人。
石田さん、二度と嘘つきません、なんて簡単に言う人が、もう二度と嘘をつかないなんて、ありえるわけ、ないじゃないですか。
きっとまた、私は、きっとまた、あなたに嘘をつく日が来る。
でも、そのとき、あなたは、また、私をぶつだけで、ゆるしちゃうんでしょうね。
石田はまだ泣いていた。
震えながら泣いていた。
でも、がんばります。石田さん。
私、がんばって、嘘をつかないように、一所懸命、がんばります。
肩をそっと抱く、背中をぽん、ぽん、と軽く、たたく。
「そんなことしたってゆるさないんだからっ!」
はい、わかってますよ……
それが、うそだって
あなたが、わたしをゆるしてくれたこと、わかっています……
大きく震える、
小さな肩を、そっと、そっと。
頬に、まだ、掌の『ぬくもり』が、残っている。
私は、もっと、反省しなきゃいけないのかもしれない。
でも……。
飯窪は不思議な幸福感に包まれていた。
ふたたび、飯窪が、石田に嘘をつく日、
きっとそれは、遥か先の、もっと先の――
投稿日:2013/10/18(金) 23:42:46.42 0
最終更新:2013年10月19日 20:18