■ アブソリュートドミネーター -和田彩花X矢口真里・保田圭・市井紗耶香- ■



 ■ アブソリュートドミネーター -和田彩花X矢口真里・保田圭・市井紗耶香- ■

「ぎゃはは!なにそれ?なにそれ~?ちょ~うけるんだけど~☆」

失敗だ!
矢口は己の作戦の失敗を悟る。

矢口の作戦、言ってみればそれは、ごく当たり前の、『戦争』だった。
【能力阻害】は対象たる能力者本人が見えてなければかけられない。ならば見えなければいい。単純なことだ。
和田の視界外で待機する市井が蟲を遠隔操作し、和田の視界を蟲で覆いつくす。
これによって同時に、至近距離からですら弾丸を『避ける』能力も封じられる。
視界が覆われていれば避けられるわけがない。
蟲に覆い尽くされたところで戦闘員による一斉攻撃。ハチの巣にする。
矢口は何もしない。己は指一本動かさずして、勝つ。
あくまで能力戦とみせかけての、物理的な、機械的な、― 金と鋼鉄と人員 ―、圧倒的暴力による殲滅。
能力者同士の戦いにおいては、時に正攻法こそ最大の奇策となる。
能力による直接の攻撃手段をもたない矢口ならではの発想。
そして、ある意味ではここまでが囮。次の一手が確実にとどめを刺すだろう。
『飛行能力』のある和田が上方に飛んで逃げたならば、その瞬間、第二段階として市井に用意させた高射砲の出番となる。
矢口の動向は筒抜けかもしれないがまさか閑職の市井に高射砲を用意できるコネがあるとは流石にわからないはずだ。
高射砲は1000メートル後方。山腹より常に和田をロックしている。和田には絶対に発見できない。
和田が飛び上がった瞬間、即座に2門の35mm対空機関砲が死の咆哮をあげるだろう。
能力など関係ない。航空機すら撃ち落とす超音速のシャワーだ、粉々に消し飛べクソガキ!


が、そのすべてが、一瞬で、ひっくり返される。

『和田彩花』という、超常の中の超常によって。


蟲が和田彩花を押し包む。
くろだかりとなった蟲の玉に伏兵による一斉射撃が叩きこまれる。
蟲の玉を破って和田彩花が上空に飛び出る。
矢口が勝利を確信する。
1000メートル後方より35mm対空機関砲が死の咆哮をあげる。
勝った。

「ぁやにわぁ全てがぁ『観ぇ』てるんさぁ☆」

和田彩花には、全てが観えていた。
『1000メートル先の高射砲が』全て観えていた―福田花音との会話の意味、鞘師の覚醒の顛末を彼女はどこから見ていたのか―そう、彼女には遠くまで見通す超望遠視力があった。
『一斉射撃されたその弾丸が蟲の壁を突きぬけ自分に向って飛来するまでの軌道が』全て観えていた―そう、彼女には超動体視力があった。
『物陰に隠れた戦闘員の位置が姿勢が動きが呼吸が体温が』全て観えていた―そう、彼女にとっての可視光線には赤外線も紫外線も含まれた。

いったいどこまで離れればよかった?。どこまで速ければよかった?。どこに隠れれば見つからずに済んだ?。

最初から、全てが間違っていた。

 自在に『空を飛び』まわり、
 至近距離からの銃弾にも『当たらない』、
 そして、矢口と後藤の能力を『妨害』する
 3つの能力

いや違う。能力の分け方が違う。能力の数が違う。


彼女には『二つの能力』しか備わっていない。

自在に『空を飛び』まわり、銃弾にも『当たらない』ほど、精密に、適切に、自分の肉体を加減速させる
すなわち、【加速度支配(アクセラレートドミネーション;accelerate domination)】

和田彩花が生まれつき持っていた能力。使い方を知らず、ただの【空中浮揚(レビテーション)】と思われていた能力。

銃弾にも『当たらない』ほど、高速で飛翔する物体の軌道が、全て、観える。
否、視覚に関する、ありとあらゆる超能力を内包する、万能の、全能の、究極の眼球。
すなわち、【支配者の瞳(アイズオブドミネーター;eyes of dominator)】

全てを支配する、超常の中の超常。

なぜ、そんな力を持っている?
だれが、彼女にその力を与えた?
なんのために?
そもそもそんなこと、『だれに』できるのだ?

だが、そんな『過程』は何の意味もない。
今、まさにその力をまのあたりにしている、当事者にとっては
何の、意味もない。

そこにあるのは、残酷な、『結果』。ただそれのみ。


今まさに、超音速で飛来する無数の対空機関砲弾を、ゆるやかにかわし、見切り、そして……
ああ、なんという事か、後藤の頭を粉砕した、あの技!
【加速度支配(アクセラレートドミネーション;accelerate domination)】の、その真価。
衝撃波すら霧散させ、毛髪や手足の爪の先で『絶妙に』触れられた砲弾は、
新たな支配者によって、新たな方向と加速度を与えられ、地上の、あらゆる敵を、打ち倒す。

その超常の中の超常を、まのあたりにしては。

市井はついぞ、それを肉眼で見ることは無かった。
偽装した指揮車両の中、モニター越しにその光景を見た。
敗北を悟る暇もなかった。
指揮車両と内部の熱源に狙いを定め跳ね返された砲弾は、市井を車両ごと、一遍の肉片も残さずに粉砕した。
和田彩花は市井の存在など知らぬ間に、『そんな虫ケラなぞ』知らぬ間に、踏みつぶした。

地上は一瞬で、暴爆の焦土と化した。

「圭ちゃん!失敗だ!何やってる!早く時間を…ひゃうっ!」

爆風と轟音。

すぐ横を砲弾がえぐり取る。
立っていられない、聴こえない、目を開けていられない。

気が済むまで地上をなぶり続けたのち、唐突に、その狂乱は終わりを告げる。

静寂。


空中に少女がたたずむ。
長い黒髪が、たなびく。
白いワンピースが、小麦色の裸足が、揺れる。
ゆっくりと目を瞑る。
地鳴りのごとく、何かが、得体のしれない恐怖そのものが、押し寄せて……来る!
和田彩花の『目』が『観』ひらかれる。

それは、この場の誰ひとりとして逆らえぬ、

『絶対者』の瞳。― gaze of absolute dominator!! ―

能力者の王、能力の支配者。絶対君主。
その瞳を前にして誰が抗えよう。
誰が剣を向けられよう。
恐れ戦き、首を垂れるほか、何が出来よう。

金色に輝く、その瞳の前に、全ての能力者は、いや『能力そのもの』は
抗う事が出来ない。

そこにいるのは『和田彩花』では無かった。
その瞳は『和田彩花』のものでは無かった。


もう、無駄だ。直感がそう告げている。わかっていながら、かすれた声でインカムに助けを請う。
「け…圭ちゃん…早く…止めて……時間を…早く…止めて……」
絶望が押し寄せる。
「だめ…矢口、私には、『出来なかった』……ごめんね、もう『出来ない』のよ」
……なに、いってんだ?圭ちゃん…止めるチャンス、いくらでもあったろ…意味が、わからねえよ……

矢口は動けない。ただ、その場に立ち尽くす。
少女は、音もなく下降する。
震える矢口の、すぐ目の前。
少女の裸足が、軽く矢口の胸に触れる。
ズバウン!
「うぐぇっ!」
吹き飛ぶ。
砲弾によってほじくりかえされつくした、
そのでこぼこの地面を何度も転がり、何度もバウンドする。
全身を、強く、打ちつけられる。
腕が折れ、足をくじき、アバラが折れる。


矢口の上に、美しい少女が降り立つ。
ズバウン!
「みぎゃっ!」
ズバウン!ズバウン!
「ぐえっ!」「ぐぼぉ!」
加速された服が装備が矢口の体までのわずかな隙間を高速で飛翔し激突する。
折れたアバラが肺に刺さり、胃と腸が破裂する。
「だ…だずげ…だず…だず…」
ズバウン!
「むぐぉえっ!」
混じり合った白い吐しゃ物と赤い血反吐とが口からあふれ、舌が飛び出す。

トントントン
少女は軽やかにステップ。
右手は不規則に動き回り、
外側に大きく肘を張った左手は、
にんまりと笑みを浮かべる、その口元へ。
真っ白な、八重歯。

ズバウン!ズバウン!ズバウン!
「むぐー」「ぶぶぶ」「じゅぶっ」
ステップのたびに衝撃が貫き、矢口の口から肛門から内臓が、目から眼球が飛び出す。

もはや、人の形をとどめていない。
先ほどまで矢口であった『それ』は、ただの痙攣する肉袋と化していた。

終焉。

和田彩花は肉袋のインカムをとりあげ、耳に当てる。


「ザーッ…なさい!…ザーッ…へと続く…じているのなら!…ガタン!ドサァッ!……ザーーーーッ!……」

どうやら、『向こうも終わった』ようだ。
満足げにインカムを外す。
インカムは超高速で地面へと衝突し、粉々に吹き飛んだ。

ひゃひゃひゃ……
笑う。少女は、嗤う。
― また、あやは、もうすぐしぬ☆ ―
うっひゃひゃひゃひゃ!うっひゃひゃひゃ!
― しぬのは、もう、なれた☆ ―

天高く舞い上がる。

和田彩花。加速度を支配し、支配者の瞳をもつ少女。

その少女の下では、全ての能力者は『無力』。

誰よりも、強く、気高く、美しい……
褐色の『天使』、天駆ける『戦士』。

天空の、『絶対君主』。

ごーりゅーだ!みんなのところに!
憂佳ちゃん!紗季ちゃん!
あと、だれだっけ?ああ、花音ちゃん!

みんな、待ってる☆
彩は、みんなを、笑顔にしてあげる、神さまなんだから!



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投稿日:2013/10/12(土) 22:27:36.96 0


















最終更新:2013年10月13日 11:54