『この地球の平和を本気で願ってるんだよ!』 1~8







ガシャーン!

──なんで!

バリーン!

──こんな!

ドーン!

──ことになってんだよ!

「逃げろ逃げろ~氷漬けにしちゃうよ~」
「ハルが、あんたに何したってんだよ!」
「別に~」
「ふざけんなよ!」
「お喋りしてる場合?」

ヒュン!

氷の塊が飛んで来る!

「くそ!」

姿勢を低くして避ける

ガシャーン!

「いい反応じゃん。運動能力も高いね。でも、いつまで避けられるかな」

ヒュン!
ガシャーン!


「夜に街灯の少ない広ーい公園で鬼ごっこ。ガキにはワクワクするシチュエーションなんじゃない?」
「命賭けてまでする事じゃねーし!」

ヒュンヒュンヒュン!!!

「危な!」

ガシャーン!!!
バラバラ……

「ちょっとやり過ぎちゃったかな……あれ、どこに行ったのかな~?」

体がちっちゃくて良かった
なんとか花壇に隠れられたけど

「今度はかくれんぼ~?」

いつかは見つかるだろうし

「10数えた方がいい~?」

あいつを倒せる様な能力は持ってないし、どうする?

「かくれんぼより鬼ごっこがいいな~」

しかも、夏なのにスッゲー寒いし……
あいつがやたらと氷を作ってるせいか?

「早く出て来ないと、公園全部氷漬けにしちゃうよ~?」

ヤバイ!
こんなところでやられる訳にはいかないのに……


「じゃあ、こっちから凍らせよっかな」

──透視──トランスペアレント

やった!
あいつ、こっちに背中を向けてる!
今のうちに……

「見~つけた」

あいつが振り返って真っ直ぐこっちを見る
気付かれた?

「上手く隠れたつもりだけど、相手が悪かったね」

物音を立ててないし、花壇に隠れたまま様子を見たのに

コツコツコツ

あいつが真っ直ぐこっちに近づいて来る
あいつも花壇越しに見えてるのか?

「隠れてても無駄なんだから、出ておいでよ」

立ち上がり姿を見せる

「あんたも〝透視〟が使えるのか?」
「違うよ」
「じゃあ、何で見つけられたんだよ?」
「美貴の能力は〝熱制御〟なの。特に〝冷却〟が得意なんだ」

……どういうことだ?


「難しいかな~? 熱を奪う能力でこの公園の気温を下げたの。今の気温はだいたい0度くらいかな。で、冷たい空気の中で温かい空気は上昇する。ヒトの体温は37度くらいでしょ?」

……さっぱりわかんねぇ

「つまり、気流の変化で居場所がわかるの。便利でしょ?」

もう目の前まで近付いてる

「かくれんぼは美貴の勝ち。さ、美貴と一緒においで?」
「嫌だね! こっちにだって都合があるんだ!」
「わがままだなあ。じゃ、氷漬けにしちゃうよ?」
「待ちなさい!」




投稿日:2013/04/20(土) 07:56:49.21 I



「久し振り、ガキさん」

美貴って奴の視線の先に、女の人が立っている

「……〝氷の魔女〟」

ガキさんって人が、スゲー目つきで睨んでる
〝氷の魔女〟って、あだ名か?

「冷たいなぁ。昔みたいにもっさんって呼ん

──精神干渉──ライン・マニピュレート

シュン!

「危なっ!」

ガキさんの手元から細い線が、氷の魔女に向かって伸びた
氷の魔女はギリギリの所で避けた
あれはワイヤー?

「いきなり攻撃なんてひどいなぁ。いつからそんなに血の気が多くなったのさ」
「黙りなさい! あんた達のせいで、カメ達が……」
「あんた達って、ガキさんも仲間だったじゃん」

カメ達?
仲間〝だった〟?


「だから! 私が止める!」
「強気だね。でも、ガキさんが美貴に勝てるかな?」
「そこのあなた!」

え、ハル?

「あなたはどこかに隠れてて!」
「人の心配してる場合?」

──熱制御──コールド

氷の魔女が手をかざすと、無数の氷の塊が現れた

よくわかんねーけど、隠れて様子を視るか

「この数、避けてみなよ」

ヒュンヒュンヒュンヒュン!!!!

氷の塊がスゲー速さでガキさんに向かって飛んでいく

「いつまでも、昔のままだと思わないで!」

──熱制御──ヒート

ジュウ……

あんだけあった氷の塊が、一瞬で消えた
蒸発したみたいだ

「ちょっと待ってよ! 美貴と逆だけど、その力って……ガキさん〝ダブル〟になったの!?」


〝ダブル〟?

「2つくらいで何を驚いてんのよ! 愛ちゃんなんて3つ使えるでしょうが!」

使える能力の数?
2つ使えるからダブル?
それに、3つも使える能力者もいるのか?
何なんだこいつら

シュン!

ワイヤーが氷の魔女を追いかける

「いや、愛ちゃんは特別だし」

カンカン!

氷の塊でワイヤーを撃ち落とす氷の魔女

「まさかガキさんがね。その力で美貴達とやり直さない?」

シュルルル!

ガキさんがワイヤーを手元に戻した

「冗談じゃないわよ! 絶対にあんた達の企みを止める! もう、悲しみは増やさせない!」
「あ、そう。じゃあ、やってみなよ」

ヒュンヒュンヒュンヒュン!!!!

氷の塊がガキさんに向かって飛んでいく


ジュウ……

いくつかは蒸発して消えたけど、残った分は避けてる

「ダブルには驚いたけど、まだまだ使いこなせてないみたいじゃん。そんなんで、美貴を止められると思ってるの?」

氷の魔女が、右手に氷の剣を作り出した

「誰かが止めなきゃ、終わらない!」

ガキさんの右手にワイヤーが巻き付き、ドリルみたいな剣になった

「だから……私が!」

ガキさんが氷の魔女に向かって走り出す

「珍しいっちゃね」
「え?」

声がした方に振り向くと、ハルの側にヤンキーみたいな雰囲気の人がいた

「あんなに熱くなるなんて」

「誰?」
「君はここにおって」

ダッ!

ヤンキーが2人に向かって猛スピードで走って行く

「ワイヤーってそうやって使う事も出来るんだね。面白ーい」
「覚悟しなさい!」


「そこまでっちゃ!」

──共鳴出力──コンプレッサー

ヤンキーが2人の間に割り込み腕を掴む

「田中っち!?」
「田中ちゃん?」

いつの間にか、ドリル状のワイヤーは解けていた

「なんで止めるのよ!」
「今のガキさんの戦い方は違うと思うと」
「だけど、こいつらは!」
「ガキさん」
「……ゴメン」

ガキさんが腕を下ろす
氷の魔女も氷の剣を消して腕を下ろした

「……美貴は、田中ちゃんにお礼を言うべき?」
「いらん」
「あ、そう」
「充分楽しんだけん、もうよかろ」
「……そうだね。決着は今度って事で」
「一生大人しくしてるっちゃ」
「フフ、楽しみにしてるよ、リゾナンター」

〝リゾナンター〟!?

「またねー」


氷の魔女が消えた
テレポート?

「あいつら、今度は何をするつもりなの!」
「わからんっちゃけど、気を付けた方がよかね」
「当然よ! 〝ダークネス〟の野望は必ず止める!」

ダークネス!?

「で、あの子が追い掛けられてた子ったい?」
「そう」

2人がハルの所に来た

「君、大丈夫と?」
「あ、はい」
「怪我はなか?」
「はい、大丈夫です」
「さっきの戦いを見てても、そんなに驚かんっちゃね。もしかして君も能力者?」

……バラして良いのか?
いや、すぐにバレるか

「……はい」
「だから襲われたと?」
「……わかりません」


「そうったい……うーん。この辺の子? 家まで送って行くけん
「待って田中っち。ダークネスの目的がわからないのに、この子を帰すのは危険だわ」

〝田中っち〟

「あなたのご両親は、あなたの能力の事を知ってるの?」
「ハルは施設にいるので親はいません」
「そっか……ゴメンね」
「いえ、大丈夫です」

ダークネスの仲間〝だった〟

「その施設には、能力が使える人はいる?」
「多分いないと思います」
「そう……だったら、しばらく私達の所に来ない?」
「え?」
「ガキさん?」

〝ガキさん〟

「私達と一緒にいれば襲われてもあなたを守れるし、施設の人も巻き込まれないし」
「良いんですか?」
「狭い所だけど、あなたくらいの子達もいるし、遠慮しなくていいから」
「4人も5人も変わらんっちゃ」

〝4人〟の同世代

「ありがとうございます。しばらく、お世話になります」
「あなたの事、私達がちゃんと守るからね。私は新垣里沙」
「れいなは田中れいな。君は?」

……そう言う事か


「工藤遥です」
「よろしくったい」
「そうだ。あなたの施設の人に断りを入れないと……」
「それならハルが連絡します。これでも信用あるんで」

携帯を取り出しながら2人から離れる

「ちょっと待っててくださいね」

まったく

「もしもし、これから外泊します」

これって全部

「優しいお姉さん達ですよ。ハルが困ってる所を助けてもらいました」

予定通りなんですか?

「社会勉強? まあ、そうですね。色んな話を聞いてきますよ。お姉さん達の事や──能力の事を」

傀儡師様





投稿日:2013/05/02(木) 21:58:35.88 I



「よっちゃんさん!」

バン!

「あー、おかえりー」

怒声がしたかと思ったら、部屋のドアが勢いよく開けられた

「ノックくらいして
「美貴聞いてないんだけど!」

勢いそのままに、氷の魔女が迫る

「何が?」
「ガキさん達の事!」
「ん?」
「ガキさん、美貴と同じ能力が使える様になってたんだけど!」
「へえ」
「田中ちゃんも、矢口さんみたいな能力を使ってたみたいだし! 諜報部から何の報告も無かったんだけど!?」
「ふーん」
「そもそも、あの子供を襲えって言ったのはよっちゃんさんでしょ!? 理由くらい教えてよ!」
「どーしよっかなー」
「……よっちゃん」

あたしをめっちゃ睨んでる

──熱制御──コールド

ヒュン!

氷の魔女が氷塊を飛ばしてきた


「おおっと。報告が無いのは当然だって。あたしが報告して無いんだからさ」

ブンッ!

今度は氷の剣で襲いかかってきた

バキンッ!

自慢の蹴りで剣を折る

「落ち着けって。ちゃんと話すから」

新しく作り始めてた氷の剣を消して、近くにあった椅子に座る氷の魔女

「……で?」
「ガキさんの新しい能力〝熱制御〟について、前回の交戦でその片鱗があった。でも、確証が無かった。だから報告はしなかった」
「田中ちゃんの能力は?」
「れいなも同じさ。前回は矢口さんもいたから、どちらの能力の影響か判断が出来なかった」
「で、あの子供は?」
「あいつは

ブーンブーンブーン

「ちょうど良かった。ちょっと待ってな」

ピッ

「もしもし。どうだ、上手くいきそうか? そっか、しっかり話を聞いて社会勉強しなよ。おう、頼んだよ」

ピッ


「と、言う訳だ」
「いや、美貴サッパリなんですけど」
「あの子供は〝エッグ〟から選出したダークネスのスパイ、あたしの部下さ」
「じゃあ、美貴に襲わせたのは?」
「リゾナンターの方から、あいつを側におく様にする為」
「へえー、美貴はまんまと騙されたんだ」
「敵を騙すにはまず味方から、ってね」
「スパイを送り込みながら、リゾナンターの能力を確認するなんて」
「効率良いだろう?」
「さすが、諜報部のリーダー〝鋼脚〟様」
「それは前の呼び名だ。今の名は──



──〝傀儡師〟さ」




投稿日:2013/05/04(土) 00:20:32.81 I



「いらっしゃいませ!」

……暇だ

「ココアお2つですね、かしこまりました」

……暇すぎる

「3名様ですね。すみません、カウンター席でも良いですか?」

……する事がない

「お会計は880円です」

いや、何もしてなくはないんだけど……

「工藤、お客さん1人相席してもいいと?」
「あ、はい!」

ハルが座っているのは、リゾナントのテーブル席
空いてた向かいの席にジッチャンが座ってきた
このジッチャン、昨日も来てなかったか?

「お邪魔するね、お嬢ちゃん。食べたらすぐ出るから」
「いえ、お構いなく……」

今は小学校の宿題をしてるけど、宿題の為に〝喫茶リゾナント〟にいるんじゃないんだって!
リゾナンターの現状を調査して報告しなきゃいけないのに……


「お待たせしました。誰かねえねえ誰かパフェです」

つーか、戦闘がなきゃ能力の調査なんて無理だろ!
日常で能力を使わないんだから調べられないっつーの!

「ハア……どうしよう」
「どうしたと? どっかわからん?」

田中れいな

リゾナンターの戦闘要員
能力を使わずに中級能力者と渡り合える程の格闘センスの持ち主
保有能力は、他の能力者の力を増幅させる〝アンプリファイア〟
ただし、対象となる能力者と精神的な同調≒共鳴しなければ発動しない
この前の氷の魔女との戦闘から〝能力阻害〟か、それに似た能力も保有している可能性があるとの事
リゾナンターでは高橋愛に次いで危険な存在

「そうなんです。この問題が解けなくて」

調査も大事だけど、今は宿題をしてるふりをしないと
怪しまれたらアウトなんだから

「どれどれ……あー、れいな中卒やけん、わからんと」
「あの……これ、小6の教科書なんですけど」
「え、あ、そうったい? えーと……あー、れいな洗い物するけん、後で見てあげるっちゃ」

そそくさと去って行く

学力は低い、っと

……って、こんな情報どーでもいーだろ!
マジで何とかしないと、傀儡師様に何て言われるか……


「田中っちー、表の看板しまってディナー用に書き直しておいてー」

新垣里沙

元ダークネスのスパイで、今はリゾナンターのサブリーダー
ダークネスで得た知識・経験を利用し、新しく入った4人の能力者の教育係を務めている、らしい
保有能力は〝マインド・コントロール〟
他人の精神に干渉し、思いのままに操る
この能力を応用して、ワイヤーを操って攻撃する事も出来る
さらに、氷の魔女と同様に〝熱制御〟も保有している
こちらは〝加熱〟が得意らしい
でも、まだ使い慣れていないみたい

「ありがとうございました! また来てくださいね」

裏切り者め……無能力者にヘラヘラ媚び売りやがって!

「お、お、お嬢ちゃん……あっちの席が空いたから、おじさん、移動するね?」
「え、あ、はい」

向かいの席のジッチャンが、苦笑いしながら移動してった
なんだ?


「ちょっと」

裏切り者が話しかけて来た

「目付きの鋭さが半端じゃなかったわよ。常連さんが怯えてるじゃない。そんなに宿題がわかんなかったの?」

ヤベー……
つい表情に出ちゃったんだな
変に目立たない様にしないと……

ハア……

こんな日がいつまで続くのやら……




投稿日:2013/05/05(日) 00:28:12.04 I



「──分数と整数のかけ算は」

……暇だ

「分子と整数でかけ算をするんだ」

……暇すぎる

「間違って分母とかけ算するなよ」

……する事がない

「では1問解いてもらおうかな」

いや、何もしてなくはないんだけど……

「工藤ー、次の問題を解いてくれ」
「え、はい!」

ハルが座っているのは、教室のど真ん中の席
ちょっと気を抜くと、すぐ先生に当てられるんだよな
この先生、昨日もハルを当ててなかったか?

「どうした工藤ー、わからないのか?」

ええ、聴いてませんでしたよ
でも、ハルならわかるんだよね

──透視──トランスペアレント

……ふーん、なるほどね


「1と3分の1でーす」

ハルの席の前には優等生がいるからね
そいつ越しにノートを視れば、わからなくても全然へっちゃら

「……正解」

ハルに恥かかそうったってそうはいかないもんね!
能力者をなめんなよ!

キーンコーンカーンコーン

よっしゃ!
授業終わり!


──


「工藤、お疲れー」

校門を出ると、田中れいながいた

「やっぱランドセルを背負ってると、小学生って感じっちゃね」

ハルが学校に行く日は、必ず送り迎えをしてくる
護衛って事なんだけど、正直ウザい

「さ、帰るったい」

リゾナントに向かって歩き出す

「工藤が襲われてからもう2週間経つっちゃけど、何も起こらんっちゃね」
「……そうですね」

そのせいで、調査が全く進まないんだって!
あんたと新垣もだけど、4人の新入りの能力なんて1回も見てないし!

「ま、れいながおるけん、手出し出来んって事っちゃろ」

ダークネスが本気出せば、リゾナンターなんてイチコロだっつーの!

「けど、何で工藤が狙われたと?」
「さあ、ハルにもサッパリ……」
「あいつらのする事もよくわからんっちゃね」

リゾナンターに潜入する為に、傀儡師様が考えた作戦なんだよ!
バカにすんな!


わかんねーのはお前らだ
能力者のくせにダークネスの邪魔をして
無能力者と仲良くして

無能力者はハル達の敵だ
あいつらと一緒にいられる訳がない

ハルを助けてくれたのはダークネスだけだった
だから、ハルはダークネスの為に何でもするんだ

辛い訓練だって耐えた
憎い敵集団にだって潜入する

全ては、ダークネスが創る能力者の理想の世界の為に──

「工藤」
「えっ、は、はい?」

田中が立ち止まった
ハルも慌てて立ち止まり、田中を見る

「──」

真剣な目でハルを視る、田中れいな

「──あ…の、田中さん?」
「守ってやるったい、絶対に」
「あ……ありがとう、ございます……」

まあ……ハルが危ない目に遭う事は、ないだろうけどさ……

「じゃあ、守って見せてよ」





投稿日:2013/05/12(日) 23:28:05.38 I



「ハッピー!」

声がした方を見ると、服の色も肌の色も黒い女が立っていた
テンション高いし、声も高いし、何なんだ

「……あんたか」
「田中さんの知り合いですか?」
「まあ……そうかな」
「こんな道端じゃ話しにくいから、場所変えない?」


──



着いた先は、近くの住宅街からスゲー離れた廃工場の中
天井や壁は穴だらけで、特撮ヒーローがよく戦ってる場所みたいな感じ

「で、何の用っちゃ?」
「用があるのはあんたじゃないわ。そっちの子」

え、ハル?

「〝粛清人R〟が子どもに用?」

〝粛清人〟!?
もしかして、ダークネスの!?

「答える必要はないわ。あなたはただ、引き渡せば良いの」

ウソでしょ!?
ハル、何も知らないんだけど!
傀儡師様、ハル任務失敗ですか!?
粛清されるんですか!?

ザッ

田中れいなが、ハルをかばう様に前に出る

「渡す訳なかろうが」
「〝守る〟って言ったんだからそう答えるわよね。むしろ、そうでなきゃつまらないわ!」

粛清人が向かって来る

「工藤、隠れとき!」
「は、はい!」

急いで工場の外へ向かって走る

なんで粛清人が!?
マジで粛清されんの⁉
確かに大した情報は報告できてないけどさ!

新垣里沙は、2つ目の能力を使いこなせてないとか
田中れいなは、究極にバカだとか
新入りの4人は、能力を一度も見てないしほとんど会話してないとか
光井愛佳は、足の負傷で戦闘に参加できないとか
道重さゆみは、自宅で喫茶店用の節約メニューを考えてるとか
高橋愛は、別行動で1度も会った事ないとか

……2週間でこれだけの内容じゃダメだよな
これでも頑張ったのに……チクショー!

ガシャーン!

後ろから派手な音がして振り返ると、さっきと同じ場所に田中れいながいて、離れた場所に大量の砂ぼこり

粛清人はどこ?

ガシャン!
ゴロゴロゴロ……

砂ぼこりからドラム缶が転がり出て、粛清人がゆっくり立ち上がる

「……やるじゃない」

鋭い目付きで田中れいなを見る粛清人

恐っ!

廃工場の壁に隠れて様子を視る

──透視──トランスペアレント

「簡単に受け流される様じゃ、れいなには勝てんと」
「言ってくれたわね……あたしを怒らせて、生きて帰れると思うな!」

──獣化──パンサー

粛清人の服が破れ、肌から毛が生える
歯も鋭くなり、牙になる

「ああ、あんたの能力って獣化やったと。忘れとった」

粛清人が、真っ黒な豹に変わった

「久々にその姿を見るっちゃん」

真っ黒な豹が走り出した

「やっぱ走るのは速いっちゃね」

真っ黒な豹が、田中れいなを中心に周りながら近づいたり離れたり不規則に走る

「いつまでも走ってて、ヒビってると?」

シュパッ!

「っ!」

真っ黒な豹が突然攻撃してきた
田中れいなの左腕に4本の傷がついた

「……あーあ、乙女を引っ掻くなんて趣味悪いとー」

真っ黒な豹が、走るのをやめた
頭だけが粛清人に戻る

「その為の爪と牙なのに、活用しないでどうするのよ。大体、乙女なんて年齢でもないでしょう?」
「あんたに言われたくないと、オバサン」
「……殺す!」

粛清人が再び真っ黒な豹になって、田中れいなに向かって走る

「ホント、単純で助かるっちゃ」

──共鳴出力──コンプレッサー

真っ黒な豹が、段々と粛清人に戻っていく

「え、何? これどういう事!?」

4本足で走っていたのが、2本の足と2本の腕になる

スザザザッ!

うまく走れなくなったのか、もつれてこけた

「いったーい! ちょっと、あんた何したのよ!?」

粛清人が砂だらけになりながら立ち上がる

……っつうかさ

「何したかは言わんっちゃけど、自分の格好は気にした方が良かよ」

確かに

「え? ……あ! ヤダ!」

自分の体を見て、慌てて体を隠す粛清人

そりゃそうだ

「真っ裸じゃないの!」
「獣化して戻るって、そういう事やろ」
「確信犯! サイテー!」
「乙女を引っ掛けるのもサイテーって言えるやろ。って言うか、早く消えてくれん? 何かムカつくけん」

確かに
何かハルもムカつく気がする

「覚えておきなさい!」

粛清人が消えた

きっと、ダークネスのテレポーターが転送してんだな

「工藤ー? もう出て来ていいとよ」

廃工場の壁から姿を現し、田中れいなに近づく
一応、礼は言わないとな

「助かりました。ありがとうございます」

っつうか、粛清人があんなんで大丈夫なのか、ダークネス……

「あいつ、何しに来たと?」
「え! さ、さ、さ、さあ? アハハハハハ……」

まさか、ホントにハルの粛清じゃないよね?
傀儡師様にちゃんと確認しなきゃ……

あっ!
さっきの田中れいなの能力って、新しい方の力だったんじゃ!?
せっかく挽回するチャンスだったのに……



投稿日:2013/05/18(土) 10:11:47.81 I



「粛清人Rに襲われた?」
「はい。工藤を渡せって言いよったけど追い返しました」
「氷の魔女といい、粛清人Rといい、工藤を狙う理由は何なのかしら?」

あれからリゾナントに帰って、さっきの事を新垣に話してる田中

氷の魔女の時は、リゾナンターに潜入する為の芝居だったけど
粛清人Rか……
やっぱりハルの粛清なのかな……

カランコロン

「「「「ただいまー!!!!」」」」

リゾナンターの新入り4人が帰って来た

ハァ……
この4人の調査が出来ればなあ……

ブーンブーンブーン

電話?

えっ!?
傀儡師様から着信!
でででで出ないとマズイよな!?

「すみません! 電話が、施設からきてるんですけど、出ても良いですか!?」
「え、うん、別に良いっちゃけど」


リゾナントの出入り口に急いで向かう

「一応こっちから見える場所に居てねー」

あーもーイチイチうるさいな!
小姑か!

カランコロン!

ピッ

「もしもし! いいいいえ、別に……あの、何で、しょうか? あ、はい。田中れいなと交戦しまし……そうなんですか? ハルの調査が遅いから……はい……はい、はい! ありがとうございます! 頑張ります!」

ピッ

なんだ
ハルの粛清じゃなかったのか
それどころか期待してるって!
この任務、ゼッテー成功させてやるからな!

カランコロン

「あ、工藤。私と田中っちで出かけてくるから、フクちゃん達と留守番しててね」

って事は、新入り4人が残るんだな
もしかして、いきなりチャンス?

「どこに行くんですか?」
「さゆみんが考えてくれた新作メニューの試食にね。ついでに田中っちの腕の傷も治してもらってくるから」

粛清人の爪にやられた傷か
確か、道重さゆみは〝治癒能力〟が使えるんだったな


「ごめんなさい、ハルのせいで怪我しちゃって」
「別に良いとよ。れいながしたくてしてるだけっちゃん。今日はもう狙われないやろうけど、この4人に守ってもらって」
「はい!」

むしろ好都合だし!

「もしダークネスが来ても聖達が守るからね」
「衣梨にドーンと任せるっちゃ!」
「ウチらじゃ心配かもしれないけどね」
「先輩に訓練してもらってるし、
少しは安心してもらえると良いな」
「私たちがいないからって、トレーニングはサボらないでよ」
「「「「はーい」」」」

トレーニングか
これは調査が進むかもしれない
傀儡師様に良い報告が出来そうだ
今日のハル、超ツイてるんじゃね?
やっぱ普段の行いが良いからかな!

「夜には帰るから、それまでよろしくね」
「「「「「いってらっしゃーい!!!!!」」」」」


──



「やあっ!」
「えいっ!」

リゾナントの地下1階にあるトレーニングルームで、リゾナンターの新入り4人が1対1の模擬戦中

「もっと腕を伸ばして! 足もしっかり踏み込まないと相手に届かないし威力が軽くなっちゃう!」
「わかったよ聖ちゃん!」



鈴木香音

保有能力は獣化でカマキリになれる
暴走の危険がある事から、普段は両腕のみの獣化に留めているらしい
リゾナンターに入った頃に比べて最も成長したメンバーで、機転をきかせて仲間を救うなど、警戒すべき要素が多い

ダンッ!

「やった当たった!」
「良くなってきたよ! 香音ちゃん、その調子!」


譜久村聖

元エッグでリゾナンターに入った裏切り者
エッグやダークネスに関する記憶は消されている
保有能力は、他の能力者の能力を読み取る〝スキャン〟
対象に直接触れる必要がある為、戦闘中に使用するのは難しい
エッグ時代に比べて、読み取りに掛かる時間が短縮されている
運動能力が高く格闘戦も出来る事から、トレーニング中は他の新入り3人をリードしている

「よし! 次は衣梨と里保の番っちゃ!」
「えりぽんには絶対負けないよ!」



生田衣梨奈

保有能力は空間を歪める空間干渉系で、飛んでくる物の軌道を変えるなど防御で多用している
ただし、自分の周りの狭い範囲に限られるらしい
運動能力は悪くないがチームワークに難があり、予想外の行動をする事から敵も味方も警戒が必要

ヒュンヒュン!

「ほれほれ、擦りもしとらんやん」
「余裕だね。油断大敵だよ!」


鞘師里保

保有能力は水のみを操る念動力で、両手で掬える程度の量なら自由に操れる
それ以上の量になると、コントロールする精度が落ちるらしい
6年前から格闘技術を身に付けていたらしい
リゾナンターの新入り4人の中では、最も戦闘向きのメンバー

バシャン!

「うわっ!」

水球が当たった生田衣梨奈が倒れ込み、その上に鞘師里保が乗っかった

「そこまで!」
「フフン。ウチの勝ちだね」
「また負けた……メッチャ悔しーい! 里保、強すぎっちゃろ!」
「毎日のトレーニングが大事なんだよ、えりぽん」

確かに強い
今のハルじゃ勝てない
少しでも早く傀儡師様に報告した方が良いな

「ハル、電話したいんですけど1階に上がっても良いですか?」
「いいよ。じゃあ休憩にしよっか」
「ほーい」
「サイダー!」
「お菓子ー!」

ガキか!

それぞれタオルで汗を拭いたり、水分補給をし始めた


いやー良かった
これなら傀儡師様も喜んでくれるだろ!

「聖も1階に行きたいから、一緒に行こっか」

何だよ、ついて来るなよ、邪魔だよ!
まあ、何か理由つけて1人で外に出れば良いか

「良いですよ」
「やった!」

譜久村がハルの隣に来て手を取る

ギュッ

うお!?
そー言えば、譜久村聖ってそうだったな
しっかり手を握ってくるのは相変わらずか
にしても……

「2人並んでこの階段を上るのは無理ですって。狭いんだから」
「良いじゃん。こうしてくっつけば~」

いや、危ないだろ
メッチャ嬉しそうだし
小さい子が好きなのも相変わらずなんだな


「……あれ?」

譜久村が急に立ち止まった

「どうかしましたか?」
「聖達って、前にもこうして歩いた事ない?」

それって1年くらい前の話……エッグの頃じゃん!
ウソでしょ!?
まさか、記憶が消えてない!?




投稿日:2013/05/24(金) 00:16:32.54 I



「粛清人のあなたが、リゾナンター達を襲ったという事ですが」
「……はい」
「それは、命令による行動ですか」
「……私の独断です」
「ハァ……だろうな」

〝粛清人Rによるリゾナンター襲撃の件〟

リゾナンター担当のあたし=傀儡師が、粛清人Rの聴取をしてる訳だが

「だって! 美貴ちゃんが工藤って子を捕まえ損ねたって聞いたから、私が代わりに捕まえて
「ハァ!? 美貴のせい? ありえないんですけどー」

記録係に氷の魔女を就けるとは
うちのリーダーも何を考えているのやら

「そっちこそ! 失敗したくせに開き直る気?」
「失敗なんかしてないし。リゾナンターが来たら少し戦って、工藤って子を置いて来いって指示だったの」
「え、そうなの?」
「「そうなの」」
「なんだ……」

本当に反省して欲しいよ

「で、これからどうするの? 梨華ちゃんの〝せ・い・で〟予定が狂っちゃったんじゃない?」
「ちょっと美貴ちゃん! そんな言い方しなくても
「あー、キンキンうるさい」

この2人が言い争いをしない日はないのか
とにかく

「工藤に連絡する」
「こっちから連絡して大丈夫なの?」
「……今回は仕方ない」
「ごめんね、よっすぃー……」

プルルルルル

『もしもし!』
「うわ、ビックリした。何かあったか?」
『いいいいえ、別に……」
「あ、そう」
『あの、何で、しょうか?』
「そっちに粛清人が行っただろ?」
『あ、はい。田中れいなと交戦しまし
「それイレギュラーだから。気にしなくていいからな」
『そうなんですか? ハルの調査が遅いから
「違う違う、お前への粛清じゃないから安心しな」
『はい……』
「リゾナンターの事も、無理に聞き出したり調べたりせずに、入ってくる情報を正確に報告すれば良いから」
『はい』
「いずれチャンスが巡ってくるから、気長に待ちな」
『はい!』
「選ばれた事に自信を持て」
『ありがとうございます!』
「じゃあな」
『頑張ります!』

ピッ


「よっすぃーカッコイイ!」
「良い上司してるじゃーん」
「それはどうも」

……氷の魔女よ
お前、記録簿に何を描いている
……犬? 猫か? 何だ?

「ところでさ、いつまでスパイ続けるの?」
「決まっていない。状況次第だ」
「ふーん。長く居させて、ガキさんみたいに裏切らなきゃ良いけどねー」
「その時はその時

ブーンブーン

なんだ、メールか?

「何か本部からメールが来たよ」
「美貴の所にも」

一斉送信?


from:D-info
──────────────────
subject:緊急連絡
──────────────────
message:

g923を発見。i914と交戦中。場所は──



「人口密集地の近くで交戦!?」
「しかもごっちんと愛ちゃんだって」
「この2人じゃ、かなり派手に戦うんじゃない?」



幹部メンバー各自、本件の対応に備えよ。



「対応って言っても、美貴達で止められる訳ないじゃん」
「能力の差があり過ぎるものね」
「それを考える為に集まるんだよ」



10分後〝運び屋〟による強制招集を行う。
以上。


「準備する時間なくない?」
「しかも強制招集だって」
「それだけ緊急事態なんだよ。いちいち文句言うなって」

と言ってみたものの、時間がないのは確かだ
今のダークネスで出来る事も、たかが知れてる

「ごっちん、どうして今になって動き出したのかしら?」
「あたしが知る訳ないだろう。本人の所へ訊きに行ったら?」
「嫌よ! ペシャンコにされたくないもん」
「だったら大人しく待つしかないさ」

あの2人が戦っているとなると
早急に対応しなければならない

間に合わせなければ

手遅れになる前に



どちらも世界を破滅させる力を持っている



潰されるか

消されるか



未来は

どちらか

どちらでもないのか




投稿日:2013/05/30(木) 22:42:21.72 I














最終更新:2013年06月12日 09:36