「なんで…!光井さんはこうなること分かってたんでしょう?なんでですか……なんで…!」
「あほやなあ…香音ちゃん…分かってた…からやん……」
「なんで私なんかのために…!」
「そやから…香音ちゃんのためやから…やろ」
「なんでっ……なんでですか…!」
「ふふ。思い出すわ……。あのとき…愛佳も…聞いた。同じこと…何回も……」
「……?」
「今度は…愛佳の…番やから。愛佳が繋ぐ…番やから…」
「光井さん……」
「香音ちゃん…託すで。未来……」
「いやだ……いやです……行かないで…光井さん……」
「香音ちゃんも……繋いでな…?愛佳が…したみたいに……」
「………さん……光井…さん…」
「そやけど……できるんやったら………」
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「……佳……愛佳……愛佳って」
名前を呼ばれ、目が覚める。
ぼんやりと開けた目に、見慣れた店内の風景と、見慣れた店主の姿が映った。
「そんなとこで寝とったら風邪ひくよ」
かけられたその言葉に合わせるように、体がぶるっと震える。
それと同時に、目の前に湯気の立つカップが置かれた。
「はい、ココア。これ飲んであったまって」
「あぁ~!ありがとうございます~」
カップを包み込むようにした掌から、そして笑顔を浮かべた愛から、温かさがじんわりと染み込んでくる。
思わず、自分の頬にも笑みが浮かぶのが分かった。
「…あの、愛ちゃん」
「ん?なに?」
ココアが載っていたトレイを胸にカウンターの中へと帰っていく愛の背中に、思わず声を掛ける。
「愛ちゃんは、例えば…例えばですよ?自分の命を犠牲にせな愛佳の命を助けられへんとしたら…どうします?」
一瞬、愛の顔に少し戸惑ったような色が浮かぶ。
だが、答えはその後すぐに返ってきた。
「もちろん愛佳を助けるよ。何に代えても」
躊躇いなく、穏やかな口調ながらはっきりとそう言い切られたその言葉に、複雑な感情の吐息が漏れる。
「だけど……」
自分で聞いたことなのに返事ができないでいると、元通りの柔らかい笑顔を浮かべ、愛は言葉を継いだ。
「できるなら、愛佳も自分も助けたい。だって愛佳の笑顔が見られなくなるの寂しいもん」
その言葉が、"未来"の中の言葉と重なる。
「そう、そうですよね。みんなで笑顔でいたいですよね。ずっと……」
背後の窓を振り返る。
そこから見える空は、今しがた見た"未来"の空と同じように青く澄み渡っていた。
【特に意味はない懐古的保全】
最終更新:2013年02月01日 22:30