狭い部屋の中心に彼女はいた。
ベッドの上に上体を起こし、ぼんやりと窓の外を見つめている。
四角く切り取られた空は温かいオレンジ色に染まっていた。
「調子、どう?」
そうして話しかけると、彼女はくるりと振り向きだらしなく笑う。
「うーん、相変わらず」
「そうやろうねぇ」
彼女は再び窓の外を見た。
狭い空間の中で唯一、外の世界とのパイプ役になっている小さな窓を見るのが彼女は好きだった。
実際はその窓の向こう側にある、広い世界を見つめていたんだろうけど。
「ねぇ、れーな」
彼女の言葉に、「れーな」と呼ばれた少女―――田中れいなは顔を上げる。
呼んだ彼女―――亀井絵里は寂しそうに、だけど優しそうに微笑んでれいなに向き直った。
その瞳は真っ直ぐにれいなを射抜いていて、どうしようもなく、胸が痛くなった。
「出来ることならさ、闘いたくないなぁ……」
唐突に話す彼女の真意が、れいなには一瞬掴みかねた。
その「闘い」という意味は分かっている。そうだけれど、なぜ急にそんな話を始めたのかが、分からなかった。
「この心臓が治るよりもね、闘わないで良い世界を見たいっていうのが、絵里の夢なんだぁ」
そうして絵里は胸元に手をやり、ぎゅうと握り締める。
いったいなぜ、こんな話を急にしたのか、れいなには理解できなかった。
だが、無下にその言葉を振り払うことはできず、ただ黙ってれいなは頷いた。
「れーなは、闘うの、好き?」
「別にそんなことは……」
「でも、闘ってるときのれーな、いきいきしてるよね」
彼女の言葉は、責めているようなわけではなかった。
れいなは、リゾナンターとして闘うことに、自分の存在意義を見出している部分もあった。
だれも信じられずに生きてきたのに、あの日から世界は一変した。
信じあえる仲間と出逢い、自分の信じる正義を貫いて闘う日々は、楽しいわけではなかったけれど、否定できる日々でもなかった。
「ごめん、言い方、悪かったね」
絵里は素直に謝るが、れいなは「いいよ」とも「別に」とも言わなかった。
ただ黙ってその言葉を受けとめ、絵里の見ていた窓の外を眺める。相変わらず空はオレンジ色。夕陽が沈みかけていた。
その色は温かいのだけれど、夜の始まり、世界の終わりを暗示しているような気がして、れいなは真っ直ぐには見られなかった。
絵里はそんなれいなを見て、やっぱり少しだけ寂しそうに笑った。
なんとなく、「笑われている」ような気がして、れいなはなにも言わずに踵を返した。
絵里もなにも言わずに、れいなの背中を黙って見送った。
オレンジ色の夕陽が沈んだ―――
最終更新:2012年06月22日 04:24