『kind memory』



「よっすぃー」
「あんたかよ。何度も言ったろ、その呼び方いい加減やめろ」
「そっか。じゃあひーちゃんがいい?」
「ぶっ飛ばすぞ」
「…」
「何の用だよ」
「…忙しいの?」
「さぁな」
「書類いっぱいだね」
「別に」
「体は大丈夫?」
「知らねえよ、んなもん」
「………変わっちゃったね」
「あんたが変わんないだけだろ」
「そうかな」
「ガキの頃と何も変わりゃしねぇ」
「そうかな」
「甘ったれで弱気でさ」
「そうかな」
「同じこと何度も言うのも」
「…そっか」
「同じこと何度も言わせるしな」
「…でも、よっ…あなたも昔と変わんないところあるよね」
「ねーよ」
「寝相最悪なのも昔からだし」
「やめろ」
「しゃべり方もぶっきらぼうで」
「やめろっつってんだろ」
「だけど」
「お前いい加減にし」
「だけど優しい目をしてる」


持っていたペンを投げつけた。
「…出てってくれよ」
壁に弾かれたペンが冷たく転がる。
「出てけよ」
押し付けるように、願うように、言った。
「…わかった。おやすみなさい」
どんな表情をしているのか、あたしは見れなかった。
粛清人Rー石川梨華は、足音も立てずに部屋から去っていく。
あたしは、しばらくその場から動くことができなかった。

ロボットのようにぎこちなく立ち上がり、転がったペンを拾う。
「何がよっすぃーだよ…バカじゃねぇの…」
悪態をついてみても、心に落ちた重りは消えそうになかった。

あたしが変わらない?そんなわけがない。いつまで昔のことを引きずるつもりだ。

だけど優しい目をしてる

もうあんなダサい奴はやめたんだ。あたしはあたしの生きたいように生きる。手段なんか選ばない。

だけど優しい目をしてる

あんただってやめた方がいいよ。今のあたしなら、あの頃のあんたとなんか絶対つるまない。あんな臆病で、脆くて、弱々しい奴となんか。

だけど優しい目をしてる

うるさい。うるさい。うるさい。
うるさい!!
変わらなければいいの?あたしが変わらなければ、あんたは喜ぶの?
あたしが、あの日のままなら、あんたは、

あんたは…


「よっすぃ~。ふふ、ねぇ、よっすぃ~ってさ…」
「え?……は!?な、何言い出すんだよいきなり!」
「だってホントにそう思ったんだもん!前からよっすぃ~に伝えたくって」

ねぇ、よっすぃ~ってさ
優しい目をしてるよね


戻れないよ
あの日には戻れないよ
あの日には戻れないんだよ
取り返しなんて、つかないんだよ
ねぇ

りかちゃん

こころのなかで、あたしは、いちどだけ、そうよんでみた。





投稿日:2015/01/20(火) 00:21:18.96 0





















最終更新:2015年01月22日 13:45