『Vanish!Ⅲ ~password is 0~』(6)



話は長くなるから、と前置きをして道重はこほんと咳をする
「・・・とはいえ、なにから話せばいいのか困るね」
「ええっちゃない?話がながくなっても、それだけ複雑なことやけん」
「そうかもしれないの」
そやろ?と笑うれいなはどこから拾ってきたのだろう、ドラム缶に腰掛けている
そして当然のように、佐藤が田中の手を握りしめ隣に座り込んでいた

「あの子、田中サンのこと大好きみたいダナ。犬みたいになついてル」
壁際にもたれかけながらジュンジュンがそれを眺める
「デモ田中サン、嫌がっていないからバッチリデスネ」
リンリンは地べたにあぐらをかき、先ほど道重に治してもらった手の感触を確認する
相変わらずスゴイ、とつぶやきながら緑炎を灯したり消したりを繰り返す

一方新垣は腕を組んだまま道重のそばで立ったまま、あれこれと考えているようだ
それに対し光井はリゾナンターの9人に慌ただしく目を移す
「・・・」
「ど、どうかしましたか?光井さん??」
見つめられていることに真っ先に気づいた譜久村が不安げな声で問いかける
「・・・なんでもないんや」
「??」

何から言うべきか迷っていた道重もようやく心を決めたようだ
「ガキさんがいるのにさゆみが全ていうっていうのも変な話だと思うんだけど」
「ん?いいよ、あたしは。だって、今のリーダーはさゆみんなんだからさ」
「そ、そうですか?じゃあ・・・リンリン」
突然呼ばれ驚くリンリンは「はい?」と疑問形になり、慌てて「どうしましたカ」と付け加える

「リンリン、その炎はいつから使えるの?」
「『緑炎』デスカ?そうデスネ・・・日本に来る頃には使えてましたが、いつからかは覚えてナイデス」
「初めからその色だった?」
「そうですね、緑色の炎が、刃千吏の炎の証ですカラ」


「じゃあ、石田、リオンを出してみて」
「え?は、はい、リオ~~~ン」
今度は石田が間抜けな声を出してしまった。咆哮を携え蒼く輝く幻獣が姿を現し、その姿をみて田中が口角を上げた
「ふーん、石田、リオン、前よりも逞しくなっとう、鍛錬積んどうやろ?」
「え、ま、まあ、それなりには」
田中に褒められ、涼しげな顔を張り付ける石田

「じゃあ、最後に小田ちゃん、こっちにおいで。額、怪我してるから治してあげるから」
「・・・はい、ありがとうございます」
小田の額に触れ、ゆっくりと傷口にそって指をなぞらせ、桃色の光が傷を覆い、完璧に傷は消えた
「はい、終わったよ。みんな、見てあげて」

「あの、道重さん、さくらちゃんを治していただくのはありがたいのですが、早く本題に入っていただけませんか?」
飯窪がいつも以上に言葉を選びながら、道重に声をかけるが、答えたのは新垣だった
「いや飯窪、すでに本題に入りかけているから」
「へ?」

「さゆみ達の家はどこかな?工藤」
「え?家ですか??リ、リゾナントです」
「正解。いつもみんなにお菓子だったり、お茶を出しているもんね」
「は、はい、いつもおいしいケーキと飲み物を」
「そう、だからみんな、9人分、さゆみも含めると10人分の個人用のマグカップを用意してあるの」

(マグカップ??)
亀井とマグカップ、それがどうつながるであろうか?どうやっても無関係に思えてしまうのだが
鞘師はあえて口に出さずにいた、しかし、そうはいかないものもいる
「え~それと亀井さんの話になんの関連性があると?エリにはわからんと」
それを咎めるように新垣が、生田!というが当の本人は、何ですか~とうすら笑いを浮かべるばかり


「まあ、そうかもね、確かに生田の言うとおりかもしれないっちゃね
 さゆ、やっぱもっと簡単にいわんとじれったいと。れーなにも少しだけ説明させてほしいと」
「う、うん、かまわないけど」
「ありがと、生田、生田のカップの色は何色と?」
気味の悪い笑顔を浮かべて答える
「今は黄緑色です!新垣さんと同じ色、前はむらさきでした!!」

なにやら頭痛を感じたのであろう眉間を抑える新垣をさておいて田中は続ける
「うん、フクちゃんはピンク、鞘師は赤、鈴木と佐藤は緑、飯窪は黄色、石田は青、工藤はオレンジ、小田は紫やったっけ?」
道重に確認しながらマグカップの色をあげた
「みんなと同じようにれーな達にもマグカップがあったと
 それは愛ちゃんが用意したものっちゃけどね。れーなは水色、愛ちゃんは黄色、さゆはピンク。
 愛佳は紫、小春は赤、リンリンは緑、ジュンジュンは青
 ここまで聞いて何か気づくことはなか?」

「・・・マグカップの色と能力発動時の発色が一緒ですね」
「御名答、小田のいうとおり。マグカップの色と能力の発動時の色が一致しとう
 まあ、れーなの場合は共鳴増幅やけん、目立たん。だからわかりにくいと
 でも愛ちゃんの光は黄色、ガキさんのサイコダイブの始まりは緑色の景色、小春の電撃も赤」

鞘師はそこでふと思い出した、家宝の水軍流の鞘も紅いことを
譜久村の複写の発動時、桃色の光がともる、生田の昔の精神破壊は紫色の光を放っていた
佐藤が跳んだ時にはエメラルドグリーンの光が輝く、小田の時間跳躍の瞬間目がラベンダー色になる

「そして、この写真をみてほしいの」
道重が取り出した一枚の写真、それは9人がリゾナントの店内で撮ったもの
それぞれが楽しそうな表情でふざけあいながらカメラに目を向けている
「奥の食器置場のマグカップを見て、9個あるでしょ?」
そうなのだ、9個ある、黄、緑、橙、桃、水色、赤、紫、青、緑の9個


「道重さん、この写真は9人がいたときの写真で間違いないんですよね?
 そうすると残ったこのオレンジ色のマグカップが、亀井さんということでしょうか?」
頷く道重と、そこで何を言わんとしているのか気が付いた鞘師と小田
「基本的にはマグカップの色にあわせたつもり『だけ』、らしいの、愛ちゃん的にはね
 まあ、私もわかりやすくていいよね~なんて言ったんだけどね」
新垣も懐かしむように笑う

「さて、ちょっとさゆみ達の昔話を聞いてほしいの
 3年前のある日のこと、あるメンバーがダークネスと思わしき組織に拉致された」
あるメンバーとはこれを語る、当事者、道重のことを指すのはいうまでもない
「そのメンバーを奪還するがために8人は声の下へ駆けつけたが、その姿はなかった
 命の危機すら感じ、その子の『親友』は精神が不安定になった」
それが亀井、ということであろうか
「しかし、数日後、助けて、という声が8人のもとに届いた
 今度こそ、救わんと駆けつけたが、そこにいたのは、道重さえみ、私の中のもう一人のわたし」
これはこの前、リゾナントで聞かされた話、そのままであった
「私を独占しようとした私の中のお姉ちゃんと8人は戦ってくれた
 結果からすれば私はみんなの元に戻れた。だけど、親友を失った」

そこでいったん区切りをつけた
「ここまでは、みんなに教えたよね?さえみお姉ちゃんという存在とえりがいなくなった理由」
「そのさえみさん、ってそんなに強かったんですか?」
「強いなんてモノじゃナイ、化け物ダ」
いつの間にかまたバナナを食べているジュンジュンが割り込む
「大陸でもさえみさんに肩を並べられるほどの能力者をジュンジュン2人しかシラナイ」

「さえみさんの力ってなんだったんですか?」
「お姉ちゃんの力とさゆみの力は根底は同じ。どちらも『生命力を増幅』させることなの
 たださゆみは傷を治す時点で止めるけど、お姉ちゃんは『過剰に生命を増幅』させる」
「そ、そうなるとどうなるんだろうね?」
「体自体が治癒に耐えきれず、崩れていくんや。それこそ、ぼろぼろに溶けていくように」


『溶ける』という表現に仲間達は反応を示した
「溶けていくってそれじゃあ、まるでさっきの詐術師みたいじゃないですか!!」
「その通りっちゃね、さえみさんが消した敵はみんなああやって雪融けのように消えたと」

「いやいやいや、でも、ですね、田中さん、亀井さんの力は風使いと傷の共有ですよ
 それがどうやって、仮にですよ、そのさえみさんの力を手に入れたとしましょう
 どうやって手に入れるんですか?だって、亀井さんは道重さんの話では消えたはずですよ!」
石田が強く答えを求めてくる
「亀井サンは消されてないデスヨ、石田ちゃん。だってリンリン達の前に現れたじゃないデスカ」
「そ、そりゃそうですけど、それでは幽霊とでもいうんですか?」
首を振る道重
「違う、えりは間違いなく生きている。それになんでえりの中にお姉ちゃんがいるのか・・・なんとなくわかる」

「わかる」と断言した道重に新垣が顔を曇らせた
「・・・さゆみん、思い当たる節があるっていうの?」
「はい、ごめんなさいガキさん、えりの姿が再び現れた時から、わかっていたんです」
そこに割り込むれいな
「それってあの日にれいなに言ったあのこと?」
「そう、あのこと」

「えりがいなくなった次の日、れいなとさゆみは、えりも含めた三人にとって大事な丘にいったの
 そこでれいなと、えりがいなくなることで・・・なんていうのかな悲しむんじゃなくて
うん、誓いをたてたの、諦めないって、世界を幸せだって気づかないくらい幸せにするって
 そしてその時にれいなにだけいったことがあるの」
お姉ちゃんがえりとともに消えるときに、お姉ちゃんがさゆみと初めて会話をしたってことを」

「さえみさんと?」
「はい、ガキさん。夢の中みたいな奇妙な出来事でした
 お姉ちゃんは、私がいなくなってもさゆみをよろしくってみんなに伝えなさいと言ってた
それから『エリちゃんのことは償わせてもらいます』とも」
「『償わせてもらう』ですか?」


「あのときカメはさゆみんの居場所を奪った最大の原因が自分だと責めていた
 だからこそ、さゆみんを救おうと自己犠牲の道を選んだ」
新垣が言葉を選びながら歩みを道重の元へ進める
「それに応えるようにさえみさんもカメを守ることを結局は選んだ、そういうことと解釈していいのかな?」
「ええ・・・たぶん、そうだと思います。さえみお姉ちゃんが守る、と言ってたので
 それはすなわちお姉ちゃんがえりの中に取り込まれ、何かあった時には身を守る、そんな意味だったと思います
 そう、だからこそえりは傷を治すことができるし、詐術師を消す力を手に入れた
 一方でさゆみはお姉ちゃんの力を失った」
さゆみの考察をきき、光井がうーんと唸った
「ありえへんことではないと思いますが・・・なんというかすんなり入ってこないですわ」
「さゆみもそれが正解とは思ってはいないけど、あのとき詐術師が桃色の光とともに消えたことを考えると・・・
 えりは自分で傷を治すこともできたのだからそう考えるしかないと思うの」

「でも、それでも説明できないあるんですが・・・」
「飯窪?遠慮なく言ってみい」
「は、はい。でも道重さんの話だと亀井さんは一旦、みなさんの前から姿を消したんですよね?
 傷の共有も風使いもその場から姿を消す、なんてことできないと思うんです」
「まさみたいにポーンって跳んだってことはあるんじゃないの?」
「仮に瞬間移動できても、皆さんが共鳴で存在を確認できるはずですよ
 だからこそ、この3年も存在が確認できないのは奇妙というか・・・」

「それについてはリンリンが説明するネ
 飯窪ちゃんの言う通りリンリン達は生きている限り、絆があれば共鳴できる
 そして、この数年間、亀井サンの存在を感じるコトはできなかった」
「ですよね?それならばなぜ」
話終えないうちにリンリンが割って入ってくる
「それは亀井サンがいなくなる事件のトキにも起きた。
道重さんがさえみさんになっていたトキ、リンリン達はさゆみさんと共鳴できなカッタ」
 そのとき道重さゆみさんは『意識がなかった』状態にアッタ」
続くはジュンジュン


「おそらく亀井サンはこの数年間眠っていたと思う。それも強制的に、ダークネスの手によって
もし亀井サンが自分の力で寝ていたとしても長すぎる、眠り姫でも長すぎる
 それに、なぜダークネスと一緒にいたのカ説明ツカナイ」

「それではいったいどうやって亀井さんの意識をダークネスは沈めたんでしょうか?」
譜久村が道重に問いかけたが、答えたのは別の人物だった
「・・・時間停止、です」
それは小田であった
「・・・永遠殺し、この前のあの人、亀井さんの横にいた女の人の能力
 ・・・亀井さんの時を止めれば、意識を戻さずに、共鳴を、生存を隠し通すことができます」

あの亀井が消えた日、現場にあらわれた永遠殺しーその目的はマルシェたちの回収ではなかった
『亀井絵里』の回収の可能性

「多分、その通りだと思ウ。本当はさえみさんの時を止めるつもりだったのカモしれませんガ
 いずれにせよ、亀井サンの時をとめて、ダークネスは亀井さんを手に入れた」
「そして、亀井さんをダークネスに染めるために洗脳教育を施した、そういうことですね?」
首を振る新垣
「違う、工藤。それなら詐術師をカメが消すはずがない」
「え?それならどうして亀井さんはダークネスの言いなりになっているんですか!!」

ジュンジュンがゆっくり立ち上がる
「亀井サンの時は永遠殺しで止められた、強制的にダ
 ただ、そこでその力を強制的に打ち消す力が現れた」
「な、なんなんですか?その力って??」
ゆっくりと腕を伸ばし、指をある人物に向けた
「小田ちゃんのちからダ―時間跳躍能力」
「!!!!」


「さくらちゃんの力がなんで亀井さんを動かすことにつながるんですか!!」
「そうですよ!小田ちゃんはただ時間を時間を飛ばし、飛ばした間の出来事を『認識できなくする』能力なんですよ」
仲間達が強く現実を認めたくないのか先輩に問い詰める形となった
「その通りダ、今は。だけど、昔はそうでなかった、ソウダナ?」
「・・・はい、そうですね、昔の力はもっと強力で能力すら消すことができました
 ・・・ただそれだとダークネスの幹部の力すら消えてしまう、そう判断され、そんな制限をかけられました」

小田さくらの『時間跳躍』により、止められた時を強制的に動かされた『亀井絵里』

「当然、ダークネスは亀井絵里が動き始めたことに気づいたのであろう
 そして、当初からの予定、ダークネスの一員としての教育を行おうとした
 ただ、問題が一つアッタ」
道重がそこから先は受けついだ
「お姉ちゃんの攻撃を受け、体と心はボロボロになってしまった
 お姉ちゃんが傷は治したが、結局、精神までは救うことができなかった
 いまのえりにはさゆみ達の声は届いていない・・・可能性が高い」

道重、れいな、新垣・・・かつての仲間にためらいなくカマイタチを放ち、無表情な亀井
それはまるで人形のように、中身のないように見えたのであった

「じゃあ、亀井さんは操られている、ではなく」
「可能性としては言われていることをただ、忠実にこなす、作業みたいに感じているかもしれへんな」
「そんな・・・」

「リンリンとジュンジュンがここに来た、最初の目的は亀井さんの復活を感じたからではナカッタ
 本当の目的は小田ちゃん、あなたがどんな力を有しているのか確認シタカッタ」
「・・・」
「私達が心配するような悪の心はないようダ。ただ、そのためにとんでもない相手が生まれてしまっタ」
「別に小田ちゃんを責めるとかそんな気はナイ。ただ、亀井サンが復活した、それは緊急事態ダ」


「・・・私たちはどうすればいいんですか?」
譜久村が不安げな声をだす
「きまっとうやろ?戦うんや、えりと」
「・・・仲間と闘うってことですか?皆さんはそれでいいんですか?」
にやりと笑うれいな
「えりと一度、本気で闘ってみたかったとよ」
「田中ッチ、冗談言ってる場面じゃないよ
 フクちゃん、そりゃ私だって本当なら戦いたくはないけど、あんなカメを救えるのは私達しかいないんだ
 カメをダークネスの操り人形にさせる?そんなこと許せない!」
「せやからこそ、愛佳達で救わなあかんのや」
「別ニ命を奪うことが戦う目的ではナイ」
「亀井サンの記憶を要は思い出させればいいだけダロ」

『先輩』達同様に、リーダーも力強い口調、覚悟を決めているようだ
「みんな、えりの心をすくいましょう。それがダークネスとの戦いになるの
 みんなもリゾナンターならできるはずなの、力を貸してください」
そして深々と頭を下げた

「や、やめてください、道重さん」
慌てる仲間達をみて、れいなが道重の肩をたたく
ゆっくりと顔を上げる道重に仲間達は、当然とでもいうように力強い光を目に宿していた
「ありがとう、みんな、えりを、助けるのに、リゾナンターとしてではなく、友達としてよろしくなの」
自然と涙がこぼれ始め、慌てて涙をぬぐい始めた

「そんじゃ、一回リゾナントに戻るとしますか、作戦会議しなきゃね」
「そうですね・・・佐藤、そろそろいけるか?」
「うーん、もう少し」


「それなら、あっしがまとめて送るよ」
次の瞬間には道重達はリゾナントに戻っていた
「こ、これって一体?」
「みんな、期待してるがし」
その声の主―高橋愛はカウンターで笑って見せた





投稿日:2014/11/16(日) 10:39:00.61 0
























最終更新:2014年11月16日 13:35