粛清人Rたんの災難

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粛清人Rこと石川梨華は、今日もご機嫌で夜道を歩いていた。

「フフフフフフフフフフフフ~、フッフッフフッフ~♪」

あまりにご機嫌過ぎて、鼻唄なんか歌っている。
 ・・・・・・鼻唄ですよ?
字面だけだと不気味に笑ってるようにしか見えないとか、
そもそもあの人の鼻唄は鼻唄に聞こえるのか、といった指摘はいっさい受け付けませんよ?

とにかく、今日この人がご機嫌の理由。
それは、近所のスーパーで1320円の日本酒を買おうとして2000円払ったら、
なんとおつりに730円もらってしまったからだ。
本来なら、おつりは680円。どうやら店員のおじさんが50円玉と100円玉を間違えたようである。

悪の組織に所属する女、石川梨華。
だけども筋は通さずにはいられない女、石川梨華。
漢字は読めないけどこれくらいの計算だったらなんとかできる女、石川梨華。
彼女はおつりの間違いに気付いてすぐに店員のもとへ駆け寄った。

「おじさん!おつり間違えてますよ!100円返すから50円ください!」

しかし、おじさんは言った。

「わざわざありがとね、お姉さん。でもさ、ここだけの話、ミスがバレると査定に響くんだよ。
 だからここは僕があとでバレないように自腹の50円切るってことにして、お姉さんは
 おつりに気付かなかったことにしてくれないかなぁ?」
「でも、それじゃあ結局損するのはおじさんじゃないですか」
「いいからいいから。僕はお姉さんの正直さと可愛さを受け取っただけで充分だよ」

      • とまあ、こんなほっこりエピソードが。
彼女がご機嫌なのは、思いもよらぬ50円と人の優しさを受け取ったからである。
この際だから、5年くらい前は「お嬢さん」だったはずの呼称が、「お姉さん」に
なってしまったことについては考えないでおくことにした。



「フフフフ~、フフフフー。フフフーフ、フフッフー♪」

人通りのない住宅街で鼻唄(仮)を続ける粛清人Rこと石川梨華。
そんな彼女の前に、一つの影が現れた。

「ええかげんにしぃや!この悪党が!」
「あ、あんたは!」

関西風のイントネーションに、ドスのきいた声。
宿敵リゾナンターの一人、光井愛佳である。
光井は親の仇でも睨むように石川を見ていた。

「今度は超音波でこの街を滅ぼす気か!そうはさせへん!」
「はぁ?超音波?」

なにを言われているのか、石川はさっぱりわからない。
こちらはただ、気分よく鼻唄(仮)を歌っていただけなのに。

「他のボンクラの耳はごまかせても、愛佳の耳はごまかされへん!あれは立派な大量破壊兵器や!
 知っとんのか?3丁目の和也君、今年受験なんやで!超音波で勉強の邪魔すんな、ヴォケ!
 だいたい、なんで鼻唄のチョイスがサザエさんやねん!今一発変換できて驚いたわ!あんた新垣さん並に昭和人間やろ!!」
「え、曲名わかってくれたんだ。嬉しい・・・!」

いわれのない中傷と毒舌にあっても、石川は笑顔を失わなかった。
それは、「弄られるのが嬉しい」などと言い切る本人の特性とは関係なく。
また、畳み掛けるような関西弁が名前を出せない同期メンバーの若かりし頃を思い起こさせるというのでもなく。
単純に、あれを鼻唄だとわかってもらえたことに感激したからである。

「ホントは歌詞付きで歌いたかったんだけどさあ、やっぱ日本音楽著作権協会が怖いじゃん?
 こんなしょうもないネタで、まとめサイトやってる人たちに迷惑かけたくないし」
「アホか。こんなもんに目くじら立てるほどジャスラックも暇やないわ。
 ほんなら、愛佳が歌ったろか?“お魚くわえたドラ猫~、おーおっかけて~♪”」
「ちょ、やめなさいよ!あんた日本音楽著作権協会が怖くないの!?」
「カスラックが怖くてリゾナンターが務まるか!」
「きゃーっ!!!」

さ、さすがリゾナンター。“覚悟”が違う・・・・・・!

なにか間違っている気がしないでもない点に感心していたら、仕切り直しなのか光井の目の色が変わった。
冷たく、あざ笑うかのような目だ。

「言い残したことはそれで終いか?冥土の土産に、もう一言くらい聞いたってもええで?」
「な、なに言ってんのよ。予知能力者ごときがこのあたしに勝てると思ってんの?バッカみたい」
「頭悪くて焦げ肌なのはそっちや。予知能力者には予知能力者なりの戦い方ってもんがあんねん」

光井は冷たく挑戦的な目を崩さない。
石川は身震いした。
全力で戦える相手を見つけた、武者震いという意味で。

「やれるもんならやってみなさいよ!この小娘がぁっ!」
「言われんでもやったるわ」

互いに、相手の懐を目指して跳躍する。
しだいに二人の間の距離は縮まり、あと一歩踏み込めば攻撃が届くというところまできた。
が。

「ちょー・・・っとぉ!」
「は?なに逃げてんの、あんた」

二人の力がぶつかることはなかった。なぜなら石川梨華が避けたから。

「そんなもん振り回したら危ないでしょ!?あんた自分がなに持ってるかわかってんの?チェーンソーよ、チェーンソー!」
「はぁ~、これやから素人さんは。これはな、我が家に代々伝わる破魔・除霊道具の『キラーソー』や。
 うちの父親、お寺の住職やってん」
「いやいや、そんな暴力的な除霊グッズあるわけないでしょ。死神の鎌より物騒じゃん」
「あぁ?うちの戦い方にケチつけるんか?予知能力者怒らしたら知らんで、ほんま」
「どこが予知能力者のたたか・・・・・・きゃーっ!!」

チェーンソー、ではなくキラーソーを振り回して戦う光井愛佳。
予知能力者ゆえの能力戦の不利を武器によって補うという頭脳的なプレイである。
石川は、念動力でぶっ飛ばせばいいじゃんという考えにも至らず、必死の形相で逃げ惑う。

「なによ、なんなのよ!あたしがなにをしたって言うのぉー!?」
「悪党はなぁ、存在するだけで罪なんや。悪党に人権はない。・・・・・・言っとくけど、久住さんと
 ジュンジュンのケンカに巻き込まれてなぜか愛佳まで怒られた分のストレス解消ってわけやないで?」
「理不尽だぁー!!」

チェーn・・・キラーソーから逃げ回るのに必死で、石川はある悲劇が自らを襲ったことに気付いていなかった。
いや気付いていたかもしれないが、気付きたくはなかった。

心優しきスーパーのおじさんから買った日本酒が、この騒動でビンが割れて台無しになってしまったことを。

「うえ~ん!保田さんに絡まれたってしばらくあける気なかったのに~!」( T▽T)
「待てやコラ!正義の鉄槌をくらわんかい!」川#`┴´)

そんなこんなで。
今日も街の夜は静かに(?)更けてゆく。
もちろん、3丁目の和也君の勉強がはかどらなかったことは言うまでもない。




最終更新:1970年01月01日 09:00