魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」1-3
323 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 18:36:03.83 ID:AIDyRnsCP
――館の廊下
勇者「よっ。お疲れ」
魔王「疲れた」
勇者「疲れた顔してるよ」
魔王「疲れた」
勇者「疲れた顔してるよ」
魔王「なぜ私は教育などと言い出したんだろう。
人間の子供の相手をするのがあんなにも疲れるとは
思わなかった。あれではまるで動物ではないか。
理非も交渉も通じない」
勇者「あー」
人間の子供の相手をするのがあんなにも疲れるとは
思わなかった。あれではまるで動物ではないか。
理非も交渉も通じない」
勇者「あー」
魔王「なぜあの者たちはあんなにもプライドが高いのだ」
勇者「貴族や軍人や富裕層だからじゃないか?」
勇者「貴族や軍人や富裕層だからじゃないか?」
魔王「いっそ蛙に変えてしまうか」
勇者「冗談に聞こえないぞ」
魔王「冗談ではない」
勇者「止めておけ」
勇者「冗談に聞こえないぞ」
魔王「冗談ではない」
勇者「止めておけ」
魔王「そうか」しょぼん
勇者「村長の家に向かうんだろう? 付き合うよ」
勇者「村長の家に向かうんだろう? 付き合うよ」
332 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 18:43:21.00 ID:AIDyRnsCP
魔王「む。寒いな」
勇者「雪が降ってないだけましだ」
勇者「雪が降ってないだけましだ」
魔王「寒いぞ、勇者」
勇者「俺はその中で一日中イノシシを追っかけてたんだぞ?
魔王は家の中にいたんだから文句言うな」
勇者「俺はその中で一日中イノシシを追っかけてたんだぞ?
魔王は家の中にいたんだから文句言うな」
魔王「ちがう。寒いのだ」
勇者「……」
勇者「……」
魔王「……だめか?」
勇者「わかった、ほら」ばふっ「これであったかいか?」
魔王「うん、あったかい」
勇者「わかった、ほら」ばふっ「これであったかいか?」
魔王「うん、あったかい」
勇者「ご機嫌か」
魔王「ふふん。悪くはない」
勇者「偉そうだな」
魔王「ふふん。悪くはない」
勇者「偉そうだな」
魔王「勇者を手に入れて本当に良かった」すりっ
勇者「あー。こほん」
魔王「?」
勇者「おたがいな」
勇者「あー。こほん」
魔王「?」
勇者「おたがいな」
334 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 18:50:56.62 ID:AIDyRnsCP
魔王「まぁ、なんとか動き出したのだから
文句を付けるのもおかしいのだろうな」
文句を付けるのもおかしいのだろうな」
勇者「まぁなぁ」
魔王「悲しいほどに権威が物を言うのだな。
貴族の子弟を受け入れて、箔がついたら農民も
学んでも良いと言い出すのか。新しい農法も
この春からそれなりの規模で実験開始だそうだ」
貴族の子弟を受け入れて、箔がついたら農民も
学んでも良いと言い出すのか。新しい農法も
この春からそれなりの規模で実験開始だそうだ」
勇者「結果が出るのに、時間はかかるだろうな」
魔王「いや、来年からにでも結果は出す」
勇者「出来るのか?」
勇者「出来るのか?」
魔王「秘密兵器を手に入れたからな」
勇者「なんだそれは」
勇者「なんだそれは」
魔王 ごそごそ 「これだ」
勇者「なんだその固まりは?」
勇者「なんだその固まりは?」
魔王「これは馬鈴薯という。作物だ」
勇者「??」
魔王「植物なんだ。こうやって掘り出しているが、
この丸い部分は土中に出来る」
勇者「??」
魔王「植物なんだ。こうやって掘り出しているが、
この丸い部分は土中に出来る」
339 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 18:54:44.77 ID:AIDyRnsCP
勇者「ふぅん……」
魔王「これはなかなか美味で栄養価の高い食物なのだ。
そのうえ、このような食用部分が地下に出来るために、
鳥害を受けにくい。また、痩せた土地や寒冷地、
固い地面でも成長できるという優れものだ。
そのうえ、土地あたりの収穫量は、ざっと計算した
ところ小麦の3倍に当たる」
そのうえ、このような食用部分が地下に出来るために、
鳥害を受けにくい。また、痩せた土地や寒冷地、
固い地面でも成長できるという優れものだ。
そのうえ、土地あたりの収穫量は、ざっと計算した
ところ小麦の3倍に当たる」
勇者「まじかよっ!?」
魔王「ああ、大まじめだ」
勇者「神の食べ物か!?」
魔王「いいや、魔界の食べ物だ」
勇者「……」
勇者「……」
魔王「異文化、異文明の接触というのは、
このように大いなる恩恵を生むことがあるんだ。
たとえ不幸な形の接触であっても、接触は接触だ」
このように大いなる恩恵を生むことがあるんだ。
たとえ不幸な形の接触であっても、接触は接触だ」
勇者「複雑だなぁ」
341 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 18:59:48.00 ID:AIDyRnsCP
魔王「もっともこの馬鈴薯にだって弱点がない訳じゃない」
勇者「なにがあるんだ?」
勇者「なにがあるんだ?」
魔王「まず、毒性がある」
勇者「ダメじゃん!」
勇者「ダメじゃん!」
魔王「いや、強い毒ではないし、毒性が発生するのは、
日光に当たって発芽しかけたものだけだ。
収穫や保存においてきちんと管理すれば問題ない。
むしろ冷暗所で保存すれば一年程度は持つはずだ」
日光に当たって発芽しかけたものだけだ。
収穫や保存においてきちんと管理すれば問題ない。
むしろ冷暗所で保存すれば一年程度は持つはずだ」
勇者「ふむ……」
魔王「また、連作障害がある。この馬鈴薯という植物は
条件さえ合えば、年に3回程度収穫できるのだが」
条件さえ合えば、年に3回程度収穫できるのだが」
勇者「聞くだにすごいな。さすが魔界の植物だ」
魔王「ああ。だが、その分土中の栄養素、つまり
いわゆる『大地の恵み』を多く消費してしまうんだ。
必要な種類の恵だけ使ってしまうから、おなじ場所で
作り続けると出来が悪くなって、病気にもかかりやすくなる」
いわゆる『大地の恵み』を多く消費してしまうんだ。
必要な種類の恵だけ使ってしまうから、おなじ場所で
作り続けると出来が悪くなって、病気にもかかりやすくなる」
勇者「ふむふむ」
344 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 19:06:00.60 ID:AIDyRnsCP
魔王「もうちょっと」
勇者「へ?」
勇者「へ?」
魔王「もうちょっとくつくのだ。隙間があると寒い」
勇者「う、うん……。あー。くっつくとこっちが
いろいろもにょもにょなんだけど」
いろいろもにょもにょなんだけど」
魔王「……わたしの身体は気持ち悪いか?」
勇者「いやいや、そうじゃないんですが」
勇者「いやいや、そうじゃないんですが」
魔王「まぁ、とにかく。この食物も、寒冷地の
飢饉対策に役立つはずなんだ。毒性の部分は
気をつけていればさほど大きな問題にはならない。
どちらかというと、連作障害の方が問題だろうな」
飢饉対策に役立つはずなんだ。毒性の部分は
気をつけていればさほど大きな問題にはならない。
どちらかというと、連作障害の方が問題だろうな」
勇者「俺の理性の方にも問題が」
魔王「大地の恵みは時間がたてば回復するが
それに対してこちら側からも働きかけを行なう方法を
確立しないと、一カ所に留まって生産量を上げることは
限界があるだろうな」
それに対してこちら側からも働きかけを行なう方法を
確立しないと、一カ所に留まって生産量を上げることは
限界があるだろうな」
勇者「大地の神に祈祷でもするのか?」
346 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 19:10:57.82 ID:AIDyRnsCP
魔王「そうだな。祈祷の一種だ」
勇者「無神論者じゃないのか? 魔王は」
勇者「無神論者じゃないのか? 魔王は」
魔王「私が無神論だろうと何だろうと、
利用できるものは隙無く隈無く躊躇無く
利用したおすのが経済屋というものだ」
勇者「ある種の悪魔だな、こいつ」
利用できるものは隙無く隈無く躊躇無く
利用したおすのが経済屋というものだ」
勇者「ある種の悪魔だな、こいつ」
魔王「大地そのものに、契約の証として捧げ物をするんだ。
この種の捧げ物は人間社会でも、経験的に行なわれている。
焼いた食物や動物の遺骸、動物の糞尿や、食べかすなどだ」
勇者「ふむ。なんか捧げ物ってイメージじゃないけど」
この種の捧げ物は人間社会でも、経験的に行なわれている。
焼いた食物や動物の遺骸、動物の糞尿や、食べかすなどだ」
勇者「ふむ。なんか捧げ物ってイメージじゃないけど」
魔王「期待しているのは南氷海の魚なんだがな」
勇者「なぜ?」
勇者「なぜ?」
魔王「捧げ物には魚が良いんだよ」
勇者「買ってきてやろうか? 転移呪文でひとっ飛びだぞ」
勇者「買ってきてやろうか? 転移呪文でひとっ飛びだぞ」
魔王「ありがたいが、持って帰れる量ではないと思う。
畑一つに月50匹。それも毎年だと云ったら驚くか?」
畑一つに月50匹。それも毎年だと云ったら驚くか?」
350 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 19:17:55.33 ID:AIDyRnsCP
勇者「うっわ、そりゃ」
魔王「無理だろう?」
勇者「うん」
魔王「無理だろう?」
勇者「うん」
魔王「だが、それも問題が大きくてな」
勇者「なんだ? 南氷海に問題でもあるのか?」
勇者「なんだ? 南氷海に問題でもあるのか?」
魔王「ああ。二つある。
一つは、勇者も知ってると思うが南氷将軍だ」
勇者「……あの親父か」
一つは、勇者も知ってると思うが南氷将軍だ」
勇者「……あの親父か」
魔王「ああ、あの男、魔族の中でも強硬派だからな。
魔王の私が伏せっているこの時期でも略奪行為を
続けていると聞いている。銀鱗族、飛魚族、鉄亀族、
巨大烏賊族、歌姫族を率いる、魔族でも指折りの
実力者だ……」
魔王の私が伏せっているこの時期でも略奪行為を
続けていると聞いている。銀鱗族、飛魚族、鉄亀族、
巨大烏賊族、歌姫族を率いる、魔族でも指折りの
実力者だ……」
勇者「何度か戦りあったことがある。
ばかでかい図体で、すげー銛さばきだった」
ばかでかい図体で、すげー銛さばきだった」
魔王「南氷海で活動するからにはどうあっても
利害が衝突するだろうな」
利害が衝突するだろうな」
355 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 19:27:04.00 ID:AIDyRnsCP
魔王「もう一つが『同盟』だ」
勇者「なんだそりゃ」
勇者「なんだそりゃ」
魔王「この話は、もうちょっと伏せておこうかと
思ってたんだがな。良い機会だから説明しておこう」
思ってたんだがな。良い機会だから説明しておこう」
勇者「うん」
魔王「正式には『南部独立都市および自由商人による
経済同盟』と呼ぶ。まぁ、いまでは『同盟』で
何処でも通じるな」
勇者「聞いた覚えはあるけど、それって有名なのか?」
経済同盟』と呼ぶ。まぁ、いまでは『同盟』で
何処でも通じるな」
勇者「聞いた覚えはあるけど、それって有名なのか?」
魔王「名前だけは有名だが、実体をする人間は
多くはないな。特に商人でない人間にとっては
意味が薄い」
多くはないな。特に商人でない人間にとっては
意味が薄い」
勇者「つまり、商人の寄り合い所帯だろう?」
魔王「まぁ、そうだ。
50年ほど前に南部諸王国中心の街にうまれた団体だ。
交易商人による団体で、団体構成員の交易特権を
守るために生まれたのが発祥の契機だな」
50年ほど前に南部諸王国中心の街にうまれた団体だ。
交易商人による団体で、団体構成員の交易特権を
守るために生まれたのが発祥の契機だな」
357 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 19:32:55.13 ID:AIDyRnsCP
勇者「交易特権?」
魔王「ああ。ある街から別の街に物資を持っていくと
当然のように、許可が下りたり、降りなかったりするだろう」
勇者「あるな」
当然のように、許可が下りたり、降りなかったりするだろう」
勇者「あるな」
魔王「商人たちはその『許可』を求めるし
手に入れれば守りたがったんだ。
当たり前だな、その免許のあるなしで、
商売が出来るかどうかが決まる。死活問題だ」
手に入れれば守りたがったんだ。
当たり前だな、その免許のあるなしで、
商売が出来るかどうかが決まる。死活問題だ」
勇者「ふむふむ」
魔王「時代が下ると、税の機構が整備されて、
おなじ許可でも税が重かったり軽かったりするようになった。
こうして王族や貴族は税を通じて経済に接触できるんだ。
しかしそれは逆に、経済の輩、つまり商人が
貴族や王族といった支配階級に接触することをも意味する」
おなじ許可でも税が重かったり軽かったりするようになった。
こうして王族や貴族は税を通じて経済に接触できるんだ。
しかしそれは逆に、経済の輩、つまり商人が
貴族や王族といった支配階級に接触することをも意味する」
勇者「うへぇ、なんだか難しい話だ」
魔王「『同盟』はそういった商人の作った組織の中でも
最大のものだよ。その規模は想像を絶する」
最大のものだよ。その規模は想像を絶する」
勇者「へー? どれくらいなんだ? 千人くらいいるのか?」
359 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 19:38:05.19 ID:AIDyRnsCP
魔王「この場合、人数は問題じゃないんだ」
勇者「そうなのか?」
勇者「そうなのか?」
魔王「経済的な組織だからな。動かせる富の量や
流通に介入する能力が彼らの武器だ。人数じゃない」
流通に介入する能力が彼らの武器だ。人数じゃない」
勇者「理屈で云えばそうなるのか。
……で、どれくらいなんだ?」
……で、どれくらいなんだ?」
魔王「その商業範囲は、南部を中心にしてではあるが
この中央大陸全土に及ぶ。
主要な都市に『同盟』の出張機関がない場所はなく、
『同盟』の支店がある場所こそがすなわち主要都市だ。
『同盟』の総資産は誰にも判らないけれど、
いくつかの歴史的な介入から私が試算する限り
その総額は天文学的な規模にあがる」
この中央大陸全土に及ぶ。
主要な都市に『同盟』の出張機関がない場所はなく、
『同盟』の支店がある場所こそがすなわち主要都市だ。
『同盟』の総資産は誰にも判らないけれど、
いくつかの歴史的な介入から私が試算する限り
その総額は天文学的な規模にあがる」
勇者「……」
魔王「少なく見積もっても、南部諸王国全部を
5回売り買いしてもおつりが来ることは確かだ」
5回売り買いしてもおつりが来ることは確かだ」
勇者「!?」
362 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 19:42:11.51 ID:AIDyRnsCP
魔王「そう言う組織なんだ」
勇者「なんだそりゃ!?」
勇者「なんだそりゃ!?」
魔王「こと、この南部地方に限って云えば、都市間の
小麦の流通のおおよそ60%に同盟の息がかかっている。
その気になれば、領主も王の首もすげ替えられる力を
『同盟』はもっていることになるな」
小麦の流通のおおよそ60%に同盟の息がかかっている。
その気になれば、領主も王の首もすげ替えられる力を
『同盟』はもっていることになるな」
勇者「化物かよ」
魔王「まごうことなき化物だ。
人間の生活は化物の背に乗って行なわれている」
魔王「まごうことなき化物だ。
人間の生活は化物の背に乗って行なわれている」
勇者「俺、そのなんとか同盟ってのに頼まれて
何回か戦意高揚演説したことがあるぞ」
何回か戦意高揚演説したことがあるぞ」
魔王「そうなのか?」
勇者「ああ。魔族を倒しに立ち上がろう、えいえいおー!
みたいなやつ。そのあとひらひらしたドレスの
姉ちゃんが出てきて、攻城塔の上でうたってたぞ。
キラッ☆とかいって」
みたいなやつ。そのあとひらひらしたドレスの
姉ちゃんが出てきて、攻城塔の上でうたってたぞ。
キラッ☆とかいって」
魔王「プロパガンダだな。数百万Gは儲けただろう」
勇者「おれには謝礼15Gだったんだぞっ!?」
勇者「おれには謝礼15Gだったんだぞっ!?」
368 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 19:47:46.85 ID:AIDyRnsCP
勇者「うううう。俺は、俺ってヤツは……」
魔王「そんなに落ち込むな、勇者」
魔王「そんなに落ち込むな、勇者」
勇者「俺はそんなヤツらに騙されて……」
魔王「経済は君の専門じゃない。無理もないさ」
魔王「経済は君の専門じゃない。無理もないさ」
勇者「俺はそのお姉ちゃんに『憧れてますっ!』
なんてキラキラ瞳で云われたせいで
それだけで胸がいっぱいになって
魔界へ飛び出しちゃうし」
なんてキラキラ瞳で云われたせいで
それだけで胸がいっぱいになって
魔界へ飛び出しちゃうし」
魔王「……」
勇者「帰ってきたら祝勝パレードで
良い感じのパーティーに招待しますからとか
依頼してきた青年に言われちゃったりして、
モテますねとか肘でつつかれて舞い上がったり……。
いま考えるとあの青年も商人だったんだなぁ」
良い感じのパーティーに招待しますからとか
依頼してきた青年に言われちゃったりして、
モテますねとか肘でつつかれて舞い上がったり……。
いま考えるとあの青年も商人だったんだなぁ」
魔王「……」
勇者「うううう。俺はダメ勇者だ」
魔王「ふんっ。きつい教育が必要だな」
魔王「ふんっ。きつい教育が必要だな」
371 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 19:55:05.85 ID:AIDyRnsCP
勇者「つまり、敵だな」
魔王「あ-。物騒なことを云うな」
魔王「あ-。物騒なことを云うな」
勇者「いいや、敵だ。最上級撃魔封殺雷撃魔法で仕留める」
魔王「都市攻略術式を個人相手に使おうと考えるな」
魔王「都市攻略術式を個人相手に使おうと考えるな」
勇者「だって騙したんだぞ」しくしく
魔王「子供か、君は。
……そもそも『同盟』には意志なんてないんだ。
金儲けをするための商人が寄り集まって、
知恵を出し合い、自分たちの身を守り成長することだけを
願った組織。もはや肥大してしまって個人の思惑なんて
欠片も差し挟めないほどに成立してしまった
『概念』に近い存在なんだ。
仮に勇者がだまされたとしても向こうに騙すつもり
なんて無かったし、逆に言えば復讐したって
痛みなんて感じる機能はない」
……そもそも『同盟』には意志なんてないんだ。
金儲けをするための商人が寄り集まって、
知恵を出し合い、自分たちの身を守り成長することだけを
願った組織。もはや肥大してしまって個人の思惑なんて
欠片も差し挟めないほどに成立してしまった
『概念』に近い存在なんだ。
仮に勇者がだまされたとしても向こうに騙すつもり
なんて無かったし、逆に言えば復讐したって
痛みなんて感じる機能はない」
勇者「くぁ、余計むかつく」
魔王「敵でも味方でもない。獣みたいなモノなんだ」
勇者「……」
勇者「……」
魔王(それでも、あるいは……)
372 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 19:59:02.75 ID:AIDyRnsCP
勇者「むー。知らないことばっかりだ」
魔王「ぼやくな」
勇者「まぁ、いいけどさ。戦ってばかりいる時よりも
前に進んでいる気がするから」
魔王「ぼやくな」
勇者「まぁ、いいけどさ。戦ってばかりいる時よりも
前に進んでいる気がするから」
魔王「……ずっと側にいる」
勇者「うん。俺もだ」
勇者「うん。俺もだ」
魔王「あー。あー」あせっ
勇者「なんだ?」
勇者「なんだ?」
魔王「ほら、もう村長の家だ。きょ、今日は
クローバーによる土中の恵みの結晶化について話すのだっ」
勇者「そ、そか」
クローバーによる土中の恵みの結晶化について話すのだっ」
勇者「そ、そか」
魔王「……その」
勇者「うん」
勇者「うん」
魔王「4時間ほどで、帰るから」
勇者「わかった」
勇者「わかった」
魔王「い、いってくるからな」ぎゅっ
勇者「おう! 行ってこい!」ぎゅっ
勇者「おう! 行ってこい!」ぎゅっ
419 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 22:46:44.67 ID:AIDyRnsCP
――湖の国、首都郊外
しゅんっ!
勇者「……いいぞ」きょろきょろ
魔王「む。便利なものだな、転移魔法というものは」
勇者「魔王だって使えるだろう?」
勇者「魔王だって使えるだろう?」
魔王「いや、個人長距離移動性能と、目的地の選択の
関係でここまでの汎用性はない」
勇者「そうなのか」
関係でここまでの汎用性はない」
勇者「そうなのか」
魔王「術式が違うのだ。機会があれば研究したいが」
勇者「まぁ、いまは目的が先か」
勇者「まぁ、いまは目的が先か」
魔王「うん。どこだ?」
勇者「あの丘の向こうだ。念のために顔は隠してな」
勇者「あの丘の向こうだ。念のために顔は隠してな」
魔王「心得た。淑女の服に比べれば、変装の方が
ずっと着心地が良いぞ」
勇者「あれはあれでよい物なんだがなぁ」
ずっと着心地が良いぞ」
勇者「あれはあれでよい物なんだがなぁ」
422 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 22:53:25.47 ID:AIDyRnsCP
ざっざっ
魔王「あれか?」
勇者「ああ、あの石造りの建物が、このあたりの
修道会を束ねる修道院だ」
勇者「ああ、あの石造りの建物が、このあたりの
修道会を束ねる修道院だ」
魔王「宗教ばかりは私たちには判りづらいな」
勇者「俺だって説明しにくいよ。専門家じゃないんだし。
まぁ、でも『同盟』が化物だとすると
『教会』だって同じくらい化物だって事だ」
勇者「俺だって説明しにくいよ。専門家じゃないんだし。
まぁ、でも『同盟』が化物だとすると
『教会』だって同じくらい化物だって事だ」
魔王「ふむ。用心するべきなのだな」
勇者「ああ、もちろんだ。お前は特に魔王なんだからな。
危険人物リストのぶっちぎりナンバー1だ。
なんせ神の敵だぞ」
勇者「ああ、もちろんだ。お前は特に魔王なんだからな。
危険人物リストのぶっちぎりナンバー1だ。
なんせ神の敵だぞ」
魔王「ははは。神など恐れたことはない」
勇者「神の名を叫ぶ人間ってのは怖いんだぞ」
魔王「うむ、それは肝に銘じる」ぶるっ
勇者「神の名を叫ぶ人間ってのは怖いんだぞ」
魔王「うむ、それは肝に銘じる」ぶるっ
勇者「さ、いくぞ。一応紹介の連絡だけは
入ってると思うが……」
入ってると思うが……」
魔王「最悪魔法で逃げ出せばいいだろう」
勇者「悪い意味で場慣れしてきたな、俺たちも」
423 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 22:59:20.74 ID:AIDyRnsCP
――湖畔修道会、内部
修道士「こちらでございます、お客様……」
魔王「静かだな」
勇者「うん」
勇者「うん」
修道士「我が修道院はただいま『沈黙の行』の
時間です。どうかお気遣い賜りますよう……」
時間です。どうかお気遣い賜りますよう……」
魔王「う、うん……」
勇者(雰囲気に飲まれてるぞ、魔王)
勇者(雰囲気に飲まれてるぞ、魔王)
かつん、かつん、かつん……
勇者(独特の雰囲気があるな、修道会ってのは)
修道士「こちらが会議のための部屋となっております。
もうしわけありませんが、我が修道院は
午後の祈りを控えております。
しばらくお待たせしてしまうのですが」
もうしわけありませんが、我が修道院は
午後の祈りを控えております。
しばらくお待たせしてしまうのですが」
勇者「かまわない。案内ありがとう」
424 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 23:04:27.16 ID:AIDyRnsCP
魔王「さて、と。潜入は成功だ」
勇者「あとは、院長に面会して交渉か」
魔王「うん」
勇者「今回は出たとこ勝負って事になるのか」
勇者「あとは、院長に面会して交渉か」
魔王「うん」
勇者「今回は出たとこ勝負って事になるのか」
魔王「まぁ、いくつか交渉材料は考えてきてあるんだが。
というか、そもそもこれは人間側のために考えた
人間にメリットの多い企画なんだがなぁ」
勇者「相手は宗教屋だからな」
というか、そもそもこれは人間側のために考えた
人間にメリットの多い企画なんだがなぁ」
勇者「相手は宗教屋だからな」
魔王「そういえば、この世界の人間は、なんと言ったっけ?
その、光の精霊とかを信じているんだろう?」
勇者「ああ、中央大陸の主だった国は全て光の精霊信仰だ」
その、光の精霊とかを信じているんだろう?」
勇者「ああ、中央大陸の主だった国は全て光の精霊信仰だ」
魔王「勇者はさっきから聞いていれば、
涜神的な言動が多いが、信仰心は薄いのか?」
涜神的な言動が多いが、信仰心は薄いのか?」
勇者「薄いというか、何というか。
戦場に身を置いて、特に魔物なんかと戦ってると、
精霊様ってのは身近に感じるんだよ」
魔王「ふむ」
戦場に身を置いて、特に魔物なんかと戦ってると、
精霊様ってのは身近に感じるんだよ」
魔王「ふむ」
勇者「信仰心が薄い訳じゃなく、友達感覚のつきあいなんだ」
魔王「そうなのか? それはまた珍しい気がするんだが」
魔王「そうなのか? それはまた珍しい気がするんだが」
429 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 23:11:19.24 ID:AIDyRnsCP
勇者「まぁ、俺は特別だよ。
夢のお告げなんかも聞いたりしちゃったしな」
魔王「神は実在するのか!?」
夢のお告げなんかも聞いたりしちゃったしな」
魔王「神は実在するのか!?」
勇者「神じゃない、光の精霊だ」
魔王「ふむ……」
魔王「ふむ……」
勇者「すごく善人なだけで、竜とか魔王とかと
似たような存在なのじゃないかな? 光の精霊も。
面倒くさいことが断れない気の弱い性格なんだと思うよ」
似たような存在なのじゃないかな? 光の精霊も。
面倒くさいことが断れない気の弱い性格なんだと思うよ」
魔王「そんな存在でも、信仰の対象なのだろう?」
勇者「まぁな。それに信仰以外の所でも、
『教会』ってのは社会の中で大きな意味を持ってるんだ。
こんだけでかい組織だからなぁ。
『同盟』なんか人数だけで云えば比べものにならない」
『教会』ってのは社会の中で大きな意味を持ってるんだ。
こんだけでかい組織だからなぁ。
『同盟』なんか人数だけで云えば比べものにならない」
魔王「研究や学術の面でも、か」
勇者「ああ。この世界のそう言った知識は、
殆ど教会の権力の下にあると云っても
良いんじゃないかな。以前にも話しただろう?
都市部の人々は、教会のミサで
お話や読み書きを教えてもらうんだ」
殆ど教会の権力の下にあると云っても
良いんじゃないかな。以前にも話しただろう?
都市部の人々は、教会のミサで
お話や読み書きを教えてもらうんだ」
432 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 23:17:41.52 ID:AIDyRnsCP
魔王「その組織に期待したいんだがな」
勇者「まぁ、今日のはとっかかりだし、
失敗しても傷口は浅くて済む。
『教会』は大所帯だから、内部ではいろんな
派閥があるんだ。いまはその派閥が『修道会』という
形で表に出てきている。様々な『修道会』が
入り乱れているのが現状だ」
失敗しても傷口は浅くて済む。
『教会』は大所帯だから、内部ではいろんな
派閥があるんだ。いまはその派閥が『修道会』という
形で表に出てきている。様々な『修道会』が
入り乱れているのが現状だ」
魔王「でも、すべて光の精霊を信仰しているのだろう?」
勇者「そうだよ。だから表向き、全ての『修道会』は
友好的、と言う建前になっている。善の勢力ってことだな。
でも実際には信仰の方法論が違ったり、過激さが違ったり
もっと露骨に云えば信者の奪い合いでライバル関係で
あることも少なくはない」
友好的、と言う建前になっている。善の勢力ってことだな。
でも実際には信仰の方法論が違ったり、過激さが違ったり
もっと露骨に云えば信者の奪い合いでライバル関係で
あることも少なくはない」
魔王「なんだか、魔界の部族の領土争いと変わらないな。
破壊神と煉獄神と暗黒神とにわかれていたほうが、
まだ判りやすいぞ」
破壊神と煉獄神と暗黒神とにわかれていたほうが、
まだ判りやすいぞ」
勇者「そう言う宗教があるのか?」
魔王「あるぞ。でも、大半はただのファッションだ」
魔王「あるぞ。でも、大半はただのファッションだ」
435 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 23:22:45.56 ID:AIDyRnsCP
勇者「で、まぁ。この湖畔修道会は修道会の中でも
実利的、かつ穏健でな」
魔王「ほう」
実利的、かつ穏健でな」
魔王「ほう」
勇者「農民の生活援護みたいな事を主な活動にしているんだ。
労働力の提供とか、ブドウ栽培の指導とか、
戸籍の補完とか、そうそう、病院もやってるよ」
労働力の提供とか、ブドウ栽培の指導とか、
戸籍の補完とか、そうそう、病院もやってるよ」
魔王「病院もか!」
勇者「つーか、病院ってのは教会の仕事だろう?
もっとも病人は受け付けない教会も少なくないけどな」
勇者「つーか、病院ってのは教会の仕事だろう?
もっとも病人は受け付けない教会も少なくないけどな」
魔王「……ふむ」
勇者「魔王?」
勇者「魔王?」
魔王「どうした?」
勇者「魔王は……。なんだかな、そのう。
時々すごく寂しそうな顔をするよな。いまみたいな時」
勇者「魔王は……。なんだかな、そのう。
時々すごく寂しそうな顔をするよな。いまみたいな時」
魔王「そうか?」
勇者「ああ」
勇者「ああ」
魔王「そんな自覚はないんだがな」
勇者「そうなのか? なぁ、魔王。魔王には
どういう風に物事が見えて」
勇者「そうなのか? なぁ、魔王。魔王には
どういう風に物事が見えて」
ガチャリ
437 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 23:30:35.05 ID:AIDyRnsCP
魔王「あー。お初にお目にかかる」
勇者「はじめまして。紹介書は届いてるかと思いますが」
勇者「はじめまして。紹介書は届いてるかと思いますが」
魔王「南部辺境で農業を中心に研究生活を送っている。
紅の学士と云います。よろしくお願いしたい」
紅の学士と云います。よろしくお願いしたい」
勇者「俺はその介添え兼護衛の白の剣士。
修道院に入るのは気後れする粗忽者なのだが ご寛恕ください」
修道院に入るのは気後れする粗忽者なのだが ご寛恕ください」
女騎士「……」
魔王「湖畔修道会に来たのは初めてですが
立派な建物ですね、びっくりしました」
立派な建物ですね、びっくりしました」
勇者「……あ」
女騎士「……白の剣士ですって?」
女騎士「……白の剣士ですって?」
魔王「へ」
勇者「あー。それはな。えっと」
勇者「あー。それはな。えっと」
女騎士「ゆ う し ゃ ! あなたねっ!!」
勇者「うぁ」
勇者「うぁ」
441 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 23:38:33.95 ID:AIDyRnsCP
女騎士「なにが『白の剣士』よっ。
いままで何処ほっつき歩いてたのよ!
もう一年よ!? 一年も音沙汰無しでっ!!」
いままで何処ほっつき歩いてたのよ!
もう一年よ!? 一年も音沙汰無しでっ!!」
魔王「どういうことなのだ?」
勇者「いや、その」
勇者「いや、その」
女騎士「あなたがあたしたちを放り出したんでしょっ。
この先に進むのは一人で良いとか何とか
適当なことほざいてっ!!
あんな辺境の街で放り出された
私たちの身にもなりなさいよっ。
どんだけ心配したことかっ。
ってか腹立たしかったか!」
この先に進むのは一人で良いとか何とか
適当なことほざいてっ!!
あんな辺境の街で放り出された
私たちの身にもなりなさいよっ。
どんだけ心配したことかっ。
ってか腹立たしかったか!」
魔王「あー」
勇者「だってさぁ」
勇者「だってさぁ」
女騎士「だってもクソもないのよっ!
あっ。す、すみません。精霊様、クソなんて
云ってしまいました。懺悔しますっ」
あっ。す、すみません。精霊様、クソなんて
云ってしまいました。懺悔しますっ」
442 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 23:42:50.89 ID:AIDyRnsCP
勇者「ううう」
女騎士「私はともかく、弓兵さんも、魔法使いちゃんも
ものすごくへこんでたんだからねっ」
女騎士「私はともかく、弓兵さんも、魔法使いちゃんも
ものすごくへこんでたんだからねっ」
魔王「攻撃力過多なパーティーだな」
勇者「回復は俺と騎士でやりくりをね」
勇者「回復は俺と騎士でやりくりをね」
女騎士「話聞いてるのっ!? 勇者っ」
勇者「すんません」
女騎士「……ふぅ。で、いままで何してたの?」
魔王「あー」
勇者「そ、それは」
勇者「そ、それは」
女騎士「ああ。済みませんでしたっ。学士様。
席も勧めませんで、今すぐお茶を持ってこさせます」
席も勧めませんで、今すぐお茶を持ってこさせます」
魔王「は、はぁ」
勇者「どうしたもんかなぁ」
勇者「どうしたもんかなぁ」
女騎士「わたしは、元聖銀冠騎士団所属の女騎士。
ゆかりあって、いまはこの湖畔修道会で
みんなの生活の向上のために勤めています」
ゆかりあって、いまはこの湖畔修道会で
みんなの生活の向上のために勤めています」
444 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 23:48:48.98 ID:AIDyRnsCP
――湖畔修道会、会議室
勇者「と、まぁ。そんな訳で。魔王にも手傷は
負わせたんだけどさ。魔物総攻撃みたいな話になっちまって
退却してきたって訳さ」
負わせたんだけどさ。魔物総攻撃みたいな話になっちまって
退却してきたって訳さ」
女騎士「そうだったの……。まさか、いままでずっと
怪我の療養を?」
怪我の療養を?」
勇者「いや、それはないな。まぁ、色々事情があって
表舞台には顔を出せなかったって云うか……」
表舞台には顔を出せなかったって云うか……」
女騎士「諸王国がそこまで手を回したのっ!?」
魔王「――」じぃっ
勇者「いや、なんだそれ?」
女騎士「ううん。いいんだけどっ。判ったわ」
勇者「いや、なんだそれ?」
女騎士「ううん。いいんだけどっ。判ったわ」
勇者「そっちは何でこんなところで修道院長やってるんだ?」
女騎士「もうっ。
私は元々の出身がこの辺なのよ。
騎士の叙勲されたのも教会でだったし教会所属の騎士なの」
私は元々の出身がこの辺なのよ。
騎士の叙勲されたのも教会でだったし教会所属の騎士なの」
勇者「そーいやそうだったなー」
446 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 23:52:05.81 ID:AIDyRnsCP
女騎士「……実は、勇者が魔王城に向かってね。
それを諸王国軍本部へと報告して、ひと月たった頃。
特使が来てね。……勇者が出かけて、その身を顧みず
魔王に一矢浴びせたって。そう言って、仲間全員に
恩賞金が出たのよ」
それを諸王国軍本部へと報告して、ひと月たった頃。
特使が来てね。……勇者が出かけて、その身を顧みず
魔王に一矢浴びせたって。そう言って、仲間全員に
恩賞金が出たのよ」
魔王「ふむ」
女騎士「勘違いしないでよねっ。
私は受け取ってないんだから。
……で、そのあとね。
私たち三人はいままで大きな活躍をしてきたから、
王国の要職に取り立てるって……」
私は受け取ってないんだから。
……で、そのあとね。
私たち三人はいままで大きな活躍をしてきたから、
王国の要職に取り立てるって……」
勇者「そうだったのか」
女騎士「……それって、体の良い引退勧告だよね。
私はイヤだった。勇者をだしにして出世するなんて
イヤだったし。だから故郷に戻って、今度はみんなの
ためになる仕事をしようと思って」
私はイヤだった。勇者をだしにして出世するなんて
イヤだったし。だから故郷に戻って、今度はみんなの
ためになる仕事をしようと思って」
勇者「立派な志じゃないか。いや、女騎士は以前から
やるときゃやってくれる男気あふれた仲間だと
思ってたんだよ」
やるときゃやってくれる男気あふれた仲間だと
思ってたんだよ」
女騎士「…………はぁ」
450 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/04(金) 23:55:54.27 ID:AIDyRnsCP
勇者「で、あとの二人は?」
女騎士「……うん」
女騎士「……うん」
勇者「?」
女騎士「……弓兵さんはね。ほら、元々兵士だったでしょ?」
勇者「ああ、そうだな」
勇者「ああ、そうだな」
女騎士「だからね、諸王国軍に帰ったの。
恩賞金ももらってた。連合参謀本部の諜報室に
行くんだって云ってたよ。……その、ごめんね」
恩賞金ももらってた。連合参謀本部の諜報室に
行くんだって云ってたよ。……その、ごめんね」
勇者「何で謝るんだ? 俺の活躍で報奨金が出たなら
それってすごく良いことじゃないか。出世もしたみたいだし」
それってすごく良いことじゃないか。出世もしたみたいだし」
女騎士「……う、うん」
勇者「で、魔法使いは? あいつも金もらってただろ?
ああ見えて守銭奴だからな。
『東方の、魔道書、買った……』とか
無表情のままぼそぼそーっとか云ってたろ?
あいつは味わいのあるヤツだからなぁ」
ああ見えて守銭奴だからな。
『東方の、魔道書、買った……』とか
無表情のままぼそぼそーっとか云ってたろ?
あいつは味わいのあるヤツだからなぁ」
女騎士「魔法使いちゃんは、1人で行っちゃった」
勇者「へ?」
勇者「へ?」
女騎士「勇者を追って、魔界へ」
453 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 00:07:26.45 ID:5kaffl9OP
魔王「……」
勇者「……」
女騎士「……ごっ、ごめんね」
勇者「……」
女騎士「……ごっ、ごめんね」
勇者「止めたんだろ?」
女騎士「もちろんだよっ! でも、次の朝。
荷物が無くなってて、多分……」
女騎士「もちろんだよっ! でも、次の朝。
荷物が無くなってて、多分……」
勇者「じゃ、仕方ない。気持ちはわからんでも無いけれど
女騎士が気に病む事じゃないさ。もとはといえば
俺が1人で突っ込んだせいなんだろうしな」
女騎士が気に病む事じゃないさ。もとはといえば
俺が1人で突っ込んだせいなんだろうしな」
女騎士「……勇者」
勇者「それより、今日は交渉だの相談だのがあってきたんだ」
女騎士「紹介状にも書いてあったけど……」
女騎士「紹介状にも書いてあったけど……」
勇者「ま……学士」
魔王「わたしだな。改めて挨拶させてもらおう。
紅の学士と呼んで欲しい。学者だ」
魔王「わたしだな。改めて挨拶させてもらおう。
紅の学士と呼んで欲しい。学者だ」
女騎士「初めまして、勇者のもと仲間の女騎士です」
458 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 00:14:23.98 ID:5kaffl9OP
魔王「今日来たのは、この修道会のお力をお借りするためだ」
女騎士「うかがいましょう」
女騎士「うかがいましょう」
魔王「まず、これを見て欲しい」
とさっ
女騎士「これは?」
魔王「馬鈴薯、と言う植物だ。くわしい情報はこちらの
羊皮紙にもまとめてあるが、要点をまとめると
寒冷地でも耕作可能な農作物で、単位面積あたりの
収穫量は小麦の三倍に達する」
羊皮紙にもまとめてあるが、要点をまとめると
寒冷地でも耕作可能な農作物で、単位面積あたりの
収穫量は小麦の三倍に達する」
女騎士「っ!?」
魔王「もちろん、いくつかの注意点もあるが
作物としては多くの優位性がある。栽培もけして
難しくはない。お解りだと思うが」
作物としては多くの優位性がある。栽培もけして
難しくはない。お解りだと思うが」
女騎士「この作物は、多くの飢餓者を救える」
魔王「そうだ」こくり
461 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 00:18:19.44 ID:5kaffl9OP
女騎士「どのような助力を当修道会にお望みですか?
金銭ですか? それでしたらどのような手段を用いても、
最大限出来うる限りの謝礼を用意させていただきます」
金銭ですか? それでしたらどのような手段を用いても、
最大限出来うる限りの謝礼を用意させていただきます」
魔王「ほら見ろ、勇者。これがこの作物に対する
智慧ある人物の対応だ」
智慧ある人物の対応だ」
勇者「わるかったなぁ、反応が鈍くて」
女騎士「……政治的介入や権力の行使をお望みなのですか?
何らかの爵位や身分を? 申し訳ありませんが、
当修道会は王族や貴族にそこまでの影響力は
保持していないのです。お金の用意できる量も……」
何らかの爵位や身分を? 申し訳ありませんが、
当修道会は王族や貴族にそこまでの影響力は
保持していないのです。お金の用意できる量も……」
勇者「いや、それはない。 女騎士がそう言うの苦手なのはよく知ってるし」
女騎士「勇者じゃなくて、学士様と話してるのっ」
魔王「金銭的な援助は、それはあればあっただけ嬉しいが
当面の目的はそうではない」
当面の目的はそうではない」
女騎士「どういったことでしょう?」
467 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 00:26:57.24 ID:5kaffl9OP
魔王「南部辺境に、冬越しの村という寂れた寒村がある」
女騎士「はい」
女騎士「はい」
魔王「その村に修道院を建てて欲しい」
女騎士「そんなことでよろしいのですか?」
女騎士「そんなことでよろしいのですか?」
魔王「私ももちろんバックアップをしよう。その修道院を
中心に、この馬鈴薯の栽培方法を農民に指導して欲しいのだ」
中心に、この馬鈴薯の栽培方法を農民に指導して欲しいのだ」
女騎士「それは願ったりというか、我が修道会の理念に
乗っ取った行動ですが……。そんなことで良いのですか?」
乗っ取った行動ですが……。そんなことで良いのですか?」
魔王「うん。もちろん、馬鈴薯の栽培が成功した場合、
付近の村や国に修道院を増やして、その栽培方法を
広めてもらえないだろうか」
付近の村や国に修道院を増やして、その栽培方法を
広めてもらえないだろうか」
女騎士「その過程でこの修道会の影響も増えますから、
それはこちらにとっては得ばかりの話ですが、
学士様にとってはどのような得があるのですか?」
それはこちらにとっては得ばかりの話ですが、
学士様にとってはどのような得があるのですか?」
魔王「実はこちらの目的も、馬鈴薯の栽培方法の伝播でね。
南方寒冷地の食糧事情の改善がされれば目的にかなう」
南方寒冷地の食糧事情の改善がされれば目的にかなう」
女騎士「そう……ですか」
468 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 00:30:44.67 ID:5kaffl9OP
魔王「それに栽培したいのは馬鈴薯だけではない。
農業の手法改革研究も進めている。
従来の三圃式農業にかわる、新しい生産性向上の
手法がある」
農業の手法改革研究も進めている。
従来の三圃式農業にかわる、新しい生産性向上の
手法がある」
女騎士「そうなんですか!?」
勇者「なかなか優れものだぜ」
魔王「そう言った手法を実験的に行なっているのが
くだんの冬越し村なのだが、成功したとしても
私達だけでは広く伝えるための組織や人材が
不足しているのだ。
そう言った点で協力しあえればと考えている」
くだんの冬越し村なのだが、成功したとしても
私達だけでは広く伝えるための組織や人材が
不足しているのだ。
そう言った点で協力しあえればと考えている」
女騎士「あなたは、光の精霊様に使わされた
御使い様に違いありませんっ」
御使い様に違いありませんっ」
勇者「それはどーかなー」
魔王「……」げしっ
勇者「痛っ!?」
魔王「……」げしっ
勇者「痛っ!?」
472 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 00:34:57.42 ID:5kaffl9OP
女騎士「そのようなことであれば、出来うる限りの。
ええ、私自らが冬越し村へと赴き、修道会の
総力を挙げて助力いたしましょう」
ええ、私自らが冬越し村へと赴き、修道会の
総力を挙げて助力いたしましょう」
魔王「ご厚情痛みいる」
勇者「いや、それは……」
勇者「いや、それは……」
女騎士「何か文句あるの? 勇者」
勇者「いや、なんてーのかなぁ。ほら、えーっと」
女騎士「じれったいわね」
女騎士「じれったいわね」
勇者「俺って昔から危険をはらんだニヒルな
勇者じゃない? だから、ほら。
近くにいると、無用の火の粉が……」
勇者じゃない? だから、ほら。
近くにいると、無用の火の粉が……」
女騎士「そんなのずっと前から体験済みよっ。
それとも私が冬越し村に行くと何かまずいわけっ?」
それとも私が冬越し村に行くと何かまずいわけっ?」
勇者「えーっと……それは、そのまおーとか……」
474 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 00:38:15.85 ID:5kaffl9OP
魔王「協力してくださる修道会の長に
失礼があってはいけないぞ、勇者」
失礼があってはいけないぞ、勇者」
勇者「ええーっ!?」
女騎士「……余裕がおありですね」めらっ
魔王「余裕など無い台所事情ゆえ、こちらの修道会に
協力を求めてきたのだ。わたしは契約至上主義者ゆえ
契約の相手には最大限の敬意を払うことにしている」
協力を求めてきたのだ。わたしは契約至上主義者ゆえ
契約の相手には最大限の敬意を払うことにしている」
勇者(た、たすけてー)
女騎士「ともあれ、二度と会えないかと思った……。
いえ、一年ぶりに会うことの出来た勇者と一緒に
このような恩恵の食物をもたらしてくれた学士様も
光の精霊のお導きというものでしょう。
わが修道会の天命かと思います」
いえ、一年ぶりに会うことの出来た勇者と一緒に
このような恩恵の食物をもたらしてくれた学士様も
光の精霊のお導きというものでしょう。
わが修道会の天命かと思います」
魔王「いいえ、魂持つものの努力です」
女騎士「……ええ、そうですね。その通りです」
478 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 00:41:19.55 ID:5kaffl9OP
――湖畔修道会、前庭
女騎士「本当い良いの? 見送りは」
勇者「ああ、かまわない。部屋でも良かったのに。
どうせ転移魔法なんだから」
女騎士「そりゃそうだけど」
どうせ転移魔法なんだから」
女騎士「そりゃそうだけど」
魔王「では、冬越し村で会えるのを楽しみにしている」
女騎士「そうですね、冬の間はさすがに移動できませんから。
この修道院の後任院長を決めて、春一番でそちらへと
向かいましょう。修道院建築に関して、当地の領主や
有力者との間に好意的な合意が出来れば良いのですが」
この修道院の後任院長を決めて、春一番でそちらへと
向かいましょう。修道院建築に関して、当地の領主や
有力者との間に好意的な合意が出来れば良いのですが」
魔王「そちらに関しては、この冬の間に
出来る限りの根回しをしておこう」
女騎士「ありがとうございます」
出来る限りの根回しをしておこう」
女騎士「ありがとうございます」
勇者「なんだか仲が良さそうに見えて怖い」
女騎士「何か言った?」
女騎士「何か言った?」
勇者「なんでもありません」
女騎士「では春に!」
魔王「ああ、春にお目にかかろう」
魔王「ああ、春にお目にかかろう」
482 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 00:49:00.34 ID:5kaffl9OP
――冬越し村の春
小さな村人「うんわぁ、やっとこお日様が顔をだしたなや」
痩せた村人「だしたなやぁ。ああ、風がぬるくなってきた」
痩せた村人「だしたなやぁ。ああ、風がぬるくなってきた」
村の狩人「ほーい。ほーい」
小さな村人「どうしたー?」
痩せた村人「今日は良い天気だなやー」
痩せた村人「今日は良い天気だなやー」
村の狩人「そうだなぁ。今年はなんだか良い事が
起きそうな気がするだなー」
起きそうな気がするだなー」
小さな村人「さっそくかい?」
村の狩人「ああ、ウサギが4匹も捕れたよ。
1匹は村長さんの所へ持っていく」
1匹は村長さんの所へ持っていく」
小さな村人「そりゃぁいいな!」
痩せた村人「今年はイノシシの塩漬けがまだたくさんあるしな」
痩せた村人「今年はイノシシの塩漬けがまだたくさんあるしな」
村の狩人「ああ、びっくりしたなや」
小さな村人「これも村はずれの剣士様のお陰だなー」
痩せた村人「うちの息子が、斧を研いでもらっただよ」
村の狩人「熊もつぶしてくれたとかで、
森の中も少し風通しが良いみたいだなや」
痩せた村人「うちの息子が、斧を研いでもらっただよ」
村の狩人「熊もつぶしてくれたとかで、
森の中も少し風通しが良いみたいだなや」
485 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 00:56:25.53 ID:5kaffl9OP
メイド妹 ~♪ ~♪
小さな村人「おんや。噂をすれば、村はずれの館の姉妹だなよ」
痩せた村人「本当だ。ほーぅい、ほーぅい!」
村の狩人「どこへいくんだーい」
痩せた村人「本当だ。ほーぅい、ほーぅい!」
村の狩人「どこへいくんだーい」
メイド姉「こんにちは、みなさん」ぺこり
メイド妹「あのねー。村長さんの所へ、木イチゴの樽漬け
を分けてもらいに行くんだよっ」
メイド妹「あのねー。村長さんの所へ、木イチゴの樽漬け
を分けてもらいに行くんだよっ」
小さな村人「そーかそーか。えらいな」
痩せた村人「お客さんでもくるんかい?」
痩せた村人「お客さんでもくるんかい?」
メイド姉「はい、そのようです」
村の狩人「そうかそうか。……ふむ。
ようし、このウサギを、当主の学者様へと
お届けしてほしいだなや」
ようし、このウサギを、当主の学者様へと
お届けしてほしいだなや」
小さな村人「おんや、太っ腹だな、狩人さん」
村の狩人「なんの。森を安全にしてくれた
大恩あるおうちじゃないか。
ウサギなんて春になったのだからまた取れるだな」
村の狩人「なんの。森を安全にしてくれた
大恩あるおうちじゃないか。
ウサギなんて春になったのだからまた取れるだな」
486 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 00:59:34.36 ID:5kaffl9OP
メイド妹「ありがとー♪」
小さな村人「それもそうだ。
これは沢で取れたクレソンだなや。
ほら、分けてやるから持っていくと良い」
これは沢で取れたクレソンだなや。
ほら、分けてやるから持っていくと良い」
メイド姉「ありがとうございます、本当に」
痩せた村人「雪解けの屋根修理には是非呼んでくれだな」
村の狩人「そうだそうだ、是非お世話してやんねと」
村の狩人「そうだそうだ、是非お世話してやんねと」
メイド姉「はい。かならず当主に伝えます」
小さな村人「ええってええって」
痩せた村人「なんだ、みんなにこにこしてからに」
村の狩人「やぁ。やっぱりお屋敷詰めともなると
本当に2人ともべっぴんさんだねぇ」
痩せた村人「なんだ、みんなにこにこしてからに」
村の狩人「やぁ。やっぱりお屋敷詰めともなると
本当に2人ともべっぴんさんだねぇ」
メイド姉「……」
小さな村人「ああ、本当だ。俺たちとは全然違うだなや。
賢くて優しくてべっぴんで、俺たちは、みんな
2人に憧れてるだなよ」
賢くて優しくてべっぴんで、俺たちは、みんな
2人に憧れてるだなよ」
メイド妹「ありがとー」にこぉっ
メイド姉「……ごめんなさい」
メイド姉「……ごめんなさい」
492 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 01:11:23.61 ID:5kaffl9OP
――村はずれの屋敷、深夜
勇者「よっ。ほっ」 ぎゅっ、かちっ
勇者「こんなもんか? 薬草もあるし、あとは
現地でどうとでも奪えばいいか」
勇者「こんなもんか? 薬草もあるし、あとは
現地でどうとでも奪えばいいか」
魔王「こんな深夜に完全武装か」
勇者「魔王……」
勇者「魔王……」
魔王「私の物のくせに」
勇者「あー。うん。……ごめん」
勇者「あー。うん。……ごめん」
魔王「なんだその情けない顔は。勇者だろうに」
勇者「後ろめたいとどうしてもこういう顔になるんだよ」
勇者「後ろめたいとどうしてもこういう顔になるんだよ」
魔王「私はお前の物なんだぞ。そしてお前は私の物だ」
勇者「ああ」
勇者「ああ」
魔王「止められるとでも思ったか?」
勇者「……」
勇者「……」
魔王「見くびらないでもらおう」
勇者「え? いいのかっ?」
勇者「え? いいのかっ?」
494 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 01:15:01.77 ID:5kaffl9OP
魔王「ほら」
勇者「これは?」ずしっ
魔王「先々代だったか? の魔王が使ってたという、
黒玉鋼の鎧兜だ。安心して良い。呪いの類は
かかっていない」
黒玉鋼の鎧兜だ。安心して良い。呪いの類は
かかっていない」
勇者「……?」
魔王「魔王の私がいなくて、魔界の統治のたがが
緩んできてるんだ。勇者はその粛正を適当にしてきてくれ」
勇者「お、おう」
緩んできてるんだ。勇者はその粛正を適当にしてきてくれ」
勇者「お、おう」
魔王「こっちの紙に信用できそうな部族の族長のリストと、
紹介状をしたためておいた。人捜しなら助力を仰ぐ
必要もあるだろう」
紹介状をしたためておいた。人捜しなら助力を仰ぐ
必要もあるだろう」
勇者「いや、あいつはああみえて、その……。
動じないヤツだから。
きっと平気でけろっとしてると思うんだ」
動じないヤツだから。
きっと平気でけろっとしてると思うんだ」
魔王「だからといって探していけない道理もあるまい」
499 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 01:18:26.71 ID:5kaffl9OP
勇者「魔王……」
魔王「私が寛大で感謝するんだぞっ」
魔王「私が寛大で感謝するんだぞっ」
勇者「もちろんだ。ありがとう」
魔王「……」じぃっ
勇者「?」
勇者「?」
魔王「それだけか?」
勇者「なにが?」
勇者「なにが?」
魔王「ほら、そのぅ。人間には、その、何だ……
親しい人と……というか親しい男女が別離をする時の
特別な風習があるそうではないか」
親しい人と……というか親しい男女が別離をする時の
特別な風習があるそうではないか」
勇者「えー。あ。ああ」
魔王「……駄肉だからダメか?」
魔王「……駄肉だからダメか?」
勇者「何でこういうタイミングで
じわぁって見上げるかなっ!?」
じわぁって見上げるかなっ!?」
魔王「所有契約の項目外なのか?」 じわぁ
501 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 01:21:29.62 ID:5kaffl9OP
勇者「えー、あー。その」
魔王「やっぱりスキンシップが足りないのか」
魔王「やっぱりスキンシップが足りないのか」
勇者「なんでそうなる」
魔王「実は毎週メイド長に説教されるんだ。
『まおー様はスキンシップが足りません。
そもそも露出もかわいげも足りてないんですから
スキンシップくらいケチってどうなります?
いいですか? 戦争の基本は物量です。
飽和攻撃で殿方の理性など崩壊させてしまえば
戦術の必要性すらないのです』
そもそも露出もかわいげも足りてないんですから
スキンシップくらいケチってどうなります?
いいですか? 戦争の基本は物量です。
飽和攻撃で殿方の理性など崩壊させてしまえば
戦術の必要性すらないのです』
そう言われるんだ」
勇者「戦術論的には正しいんだが」
魔王「ダメなのか?」
勇者「そ、その。照れくさいぞ。
そういうのはさ、ほら。
もっと落ち着いた時にさっ」
勇者「そ、その。照れくさいぞ。
そういうのはさ、ほら。
もっと落ち着いた時にさっ」
504 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 01:24:44.99 ID:5kaffl9OP
魔王「それで良く勇者が名乗れるな。
それでは臆病者ではないかっ」
それでは臆病者ではないかっ」
勇者「ば、ばか云えっ。俺は勇気にかけては
世界公認の第一人者、それゆえ勇者ですよ!?」
世界公認の第一人者、それゆえ勇者ですよ!?」
魔王「では覚悟を決めるのだっ」
勇者「何で開き直ってるんだよ、魔王っ」
勇者「何で開き直ってるんだよ、魔王っ」
魔王「半年だぞ!? 雪の中にこもって
生活してればアドバンテージが取れて当然だろうに
なんだか流されるままにずるずると
何の進展もなく半年もの時間を浪費してしまった事実が
私を責めさいなんでるのだ。
そんな状況下でそろそろ修道院の建築も始まり、
夏の間には完成してしまう上に、
私の勇者は昔の女を探しに行ってしまうわけで
精神的に追い詰められない方がおかしいではないかっ」
生活してればアドバンテージが取れて当然だろうに
なんだか流されるままにずるずると
何の進展もなく半年もの時間を浪費してしまった事実が
私を責めさいなんでるのだ。
そんな状況下でそろそろ修道院の建築も始まり、
夏の間には完成してしまう上に、
私の勇者は昔の女を探しに行ってしまうわけで
精神的に追い詰められない方がおかしいではないかっ」
勇者「あー」
508 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/05(土) 01:29:15.28 ID:5kaffl9OP
魔王「……」じぃ
勇者「まったくなぁ」
勇者「まったくなぁ」
魔王「……」
勇者「……」 ちゅ
勇者「……」 ちゅ
魔王「……むぅ」
勇者「なんだよその恨みがましい視線はっ」
勇者「なんだよその恨みがましい視線はっ」
魔王「おでこではないか」
勇者「おでこで悪いか。気に入らないなら返せ」
魔王「それはダメだ。勇者の全ては私に所有権がある。
つまりこのおでこも私の私有財産だ。議論の余地はない」
つまりこのおでこも私の私有財産だ。議論の余地はない」
勇者「むぅ……」
魔王「……」
魔王「……」
勇者「残りは帰ってからっ!」
魔王「約束だぞ、勇者。かならずだぞっ!」
魔王「約束だぞ、勇者。かならずだぞっ!」
しゅんっ!
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